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(平20.3.14、裁決事例集No.75 370頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、請求人が、繰越欠損金を損金の額に算入して法人税の確定申告書を提出したところ、原処分庁が、当該確定申告書の提出時において、欠損金が生じた事業年度後に無申告の事業年度があり、連続して確定申告書が提出されていないから繰越欠損金を損金の額に算入できないとして、法人税の更正処分等を行ったのに対し、請求人が、当該確定申告書の提出後において、無申告であった事業年度に係る確定申告書を提出したことにより連続性の要件は満たしているから繰越欠損金を損金の額に算入できるなどとして、同処分等の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 平成17年4月1日から平成18年3月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、審査請求(平成19年5月9日)に至る経緯は、別表1のとおりである(以下、本件事業年度に係る法人税の確定申告書を「本件確定申告書」といい、本件確定申告書に記載されている繰越欠損金の当期控除額○○○○円を「本件繰越欠損金控除額」という。また、本件事業年度の法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を、それぞれ「本件更正処分」及び「本件賦課決定処分」という。)。

(3) 関係法令

 関係法令は、別紙1のとおりである。

(4) 基礎事実

イ ○○○の製造及び販売業を営む法人である請求人は、平成12年4月1日から平成13年3月31日までの事業年度の法人税について、欠損金額を○○○○円、翌期へ繰り越す欠損金の額を○○○○円と記載した青色の確定申告書を平成13年5月31日に提出している。
ロ 請求人は、平成14年4月1日から平成15年3月31日までの事業年度(以下「平成15年3月期」という。)に係る法人税の確定申告書がその提出期限までに提出されていないとして、平成16年2月24日付で、平成15年3月期以後の法人税の青色申告の承認の取消処分を受けた。
ハ 請求人は、平成16年4月1日から平成17年3月31日までの事業年度(以下「平成17年3月期」という。)に係る法人税の確定申告書を、別表2のとおり、平成17年5月31日に提出している。
ニ 請求人は、平成13年4月1日から平成14年3月31日までの事業年度(以下「平成14年3月期」という。)、平成15年3月期及び平成15年4月1日から平成16年3月31日までの事業年度(以下「平成16年3月期」という。)に係る法人税の各確定申告書を、別表2のとおり、いずれも本件確定申告書を提出した後の平成18年10月20日に提出している(以下、平成14年3月期、平成15年3月期及び平成16年3月期に係る法人税の各確定申告書を併せて「本件各期限後申告書」という。)。

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2 争点

(1) 本件更正処分について

イ 本件更正処分は、通則法第24条にいう「調査」に基づかないでされた違法なものであるか否か(争点1-1)。
ロ 本件各期限後申告書の提出をもって、法人税法第57条第10項に規定する「その後において連続して確定申告書を提出している場合」に該当するか否か(争点1-2)。

(2) 本件賦課決定処分について

 法令解釈の相違は、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当するか否か(争点2)。

3 主張

 当事者の主張は、別紙2のとおりである。

4 判断

(1) 本件更正処分について

イ 争点1-1(本件更正処分は、通則法第24条にいう「調査」に基づかないでされた違法なものであるか否か。)
(イ) 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所が調査したところによれば、次の事実が認められる。
A 調査担当職員は、平成18年10月2日、4日及び5日に、C社D店において請求人から本件事業年度に係る総勘定元帳等の提示を受け、検討を行った。
B 調査担当職員は、平成14年3月期、平成15年3月期及び平成16年3月期が無申告であることから、平成18年10月4日及び5日に、請求人に対し、本件事業年度において本件繰越欠損金控除額を損金の額に算入できない旨を指摘するとともに修正申告のしょうようを行った。しかし、請求人は、これに応じることなく、平成18年10月20日に本件各期限後申告書を提出した。
(ロ) 請求人は、平成18年10月2日に調査の通知を受けたのはC社であり、同年11月30日に請求人に対しても調査を行っている旨の話を聞くまでは調査を受けている認識はなく、それ以後において調査を受けた事実はないから、本件更正処分は調査に係る通知がなく、かつ、調査に基づかないでなされた違法なものである旨主張する。
(ハ) ところで、通則法第24条にいう「調査」とは、税務署長等が課税標準等又は税額等を認定するに至る一連の判断過程の一切を意味し、課税庁の証拠資料の収集、証拠の評価、あるいは経験則を通じての課税要件事実の認定、税法その他の法令の解釈適用を経て更正処分に至るまでの思考、判断を含む極めて包括的な概念であり、この調査の方法、時期など、その具体的な手続については、何ら規定されておらず、課税庁の合理的な裁量にゆだねられているものと解される。そうすると、調査であるか否かは、調査に係る通知の有無という形式のみによって決まるとは解されない。
(ニ) そこで、本件において通則法第24条にいう「調査」がなされているか否かについてみると、上記(イ)によれば、調査担当職員は、請求人から提示を受けた総勘定元帳等の検討を行った後、平成14年3月期、平成15年3月期及び平成16年3月期が無申告であることから本件事業年度において本件繰越欠損金控除額を損金の額に算入できない旨を説明して修正申告のしょうようを行ったことが認められる。
 したがって、調査に係る通知がなされたか否かにかかわらず、通則法第24条にいう「調査」はなされていると認められるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ 争点1-2(本件各期限後申告書の提出をもって、法人税法第57条第10項に規定する「その後において連続して確定申告書を提出している場合」に該当するか否か。)
(イ) 請求人は、本件確定申告書の提出後で本件更正処分前に本件各期限後申告書を提出したことによって、法人税法第57条第10項に規定する「その後において連続して確定申告書を提出している場合」に該当することとなるとして、本件繰越欠損金控除額を損金の額に算入できる旨主張する。
(ロ) ところで、法人税の確定申告書の提出は、各事業年度の所得の金額等を確定する行為であるところ、法人税法第57条第1項の規定は、各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入すべき金額に係る別段の定めとして、一定の条件のもとに繰越欠損金を損金の額に算入することとした規定である。このことから、各事業年度の所得の金額の計算上繰越欠損金を損金の額に算入するかどうかは、遅くとも、内国法人が当該各事業年度に係る確定申告書を提出する時までに定まっていなければならない。そうすると、法人税法第57条第1項の適用要件を規定する同条第10項にいう「その後において連続して確定申告書を提出している場合」に該当するかどうかも、当該各事業年度に係る確定申告書の提出時までに定まっていなければならないことになる。
 したがって、法人税法第57条第10項に規定する「その後において連続して確定申告書を提出している場合」とは、繰越欠損金を損金の額に算入しようとする事業年度に係る確定申告書の提出時において、欠損金額が生じた事業年度後の各事業年度について確定申告書が提出済みである場合をいうものと解される。
(ハ) これを本件についてみると、請求人は本件確定申告書を平成18年5月31日に提出しており、この時点において、平成14年3月期、平成15年3月期及び平成16年3月期は無申告となっており、請求人が、本件確定申告書を提出した後に、無申告であった事業年度に係る確定申告書を提出したとしても、繰越欠損金が生じた事業年度から連続して確定申告書を提出していることにならない。
 したがって、本件の場合は法人税法第57条第10項に規定する「その後において連続して確定申告書を提出している場合」には該当せず、本件事業年度の所得の金額の計算上、本件繰越欠損金控除額を損金の額に算入することはできないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ハ 本件更正処分の適法性
 以上の結果、本件事業年度の所得金額及び納付すべき税額は、本件更正処分の額と同額となるから、本件更正処分は適法である。

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(2) 本件賦課決定処分について

 争点2(法令解釈の相違は、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当するか否か。)
イ 請求人は、仮に本件更正処分が適法であるとしても、過少申告となった原因が、法人税法第57条第10項に規定する「その後において連続して確定申告書を提出している場合」の解釈が明らかではなく、原処分庁との法令解釈の相違によるものであるから、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当する旨主張する。
ロ ところで、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」とは、例えば、申告当時に公表されていた税法解釈の公的見解がその後改変された場合などのように、過少申告となったことについて、納税者の責めに帰することができない真にやむを得ない理由があるため、納税者に過少申告加算税を課することが、不当又は酷になる場合を意味するものであって、その過少申告が納税者の税法の不知又は誤解によるなどの納税者の単なる主観的な事情に基づくような場合までを含むものではないと解される。
ハ 本件についてみると、法人税法第57条第10項に規定する「その後において連続して確定申告書を提出している場合」の解釈に関する請求人の主張には理由がないことは、上記(1)のロにおいて述べたとおりであるところ、本件事業年度の申告が過少となったのは、税法に関する請求人の独自の見解に従った結果というべきであって、請求人の責めに帰することができない真にやむを得ない理由があったとはいえず、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」には該当しないから、請求人の主張には理由がない。
 そして、他に通則法第65条第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当しないことから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてされた本件賦課決定処分は適法である。

(3) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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