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(平20.6.27、裁決事例集No.75 381頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)の法人税等について、原処分庁が、請求人は売上げの一部を除外しているとして更正処分等を行ったのに対し、請求人が、売上げを除外した事実はないとして、同処分等の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯等

イ 平成15年4月1日から平成16年3月31日まで、同年4月1日から平成17年3月31日まで及び同年4月1日から平成18年3月31日までの各事業年度(以下、順次「平成16年3月期」、「平成17年3月期」及び「平成18年3月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税について、審査請求(平成19年11月2日請求)に至る経緯及び内容は、別表1のとおりである。
 なお、以下、平成19年6月27日付でされた本件各事業年度の法人税の各更正処分及び重加算税の各賦課決定処分を、それぞれ「本件法人税各更正処分」及び「本件法人税各賦課決定処分」という。
ロ 平成17年4月1日から平成18年3月31日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について、審査請求(平成19年11月2日請求)に至る経緯及び内容は、別表2のとおりである。
 なお、以下、平成19年6月27日付でされた本件課税期間の消費税等の更正処分及び重加算税の賦課決定処分を、それぞれ「本件消費税等更正処分」及び「本件消費税等賦課決定処分」という。

(3) 基礎事実

イ 請求人の概要等
(イ) 請求人は、昭和51年4月○日に設立され、P市p町○-7に本店を置く、個室付特殊公衆浴場の経営を目的とする有限会社であり、その取締役には、平成15年5月○日からRが就任している。
(ロ) 請求人は、P市p○-17に所在する店舗(屋号を「S」といい、以下「本件店舗」という。)において、個室を設け当該個室で客の性的好奇心に応じコンパニオンが接客する役務を提供する店舗型性風俗特殊営業を営んでいる。
ロ 本件店舗の営業時間等
(イ) 本件店舗の営業時間等は、次のとおりである。
A 営業時間は午前10時から翌日午前0時までであり、接客を行う個室の数は4室である。
B 料金は、40分コースが○○○○円であり、客がコンパニオンを指名する場合の指名料が○○○○円である。
 なお、料金のうち請求人が受領する金額は、40分コースが○○○○円のうち○○○○円、指名料が○○○○円のうち○○○○円である。
C 請求人は、1,000円の割引券を発行しており、当該割引券を使用する客については1,000円の割引を行い、また、客のうち希望者に対してメンバーズカードを発行しており、メンバーズカードの発行を受けた客が5回利用し5ポイント貯めて次回利用の際にそのメンバーズカードを使用した場合には5,000円の割引を行っている。
(ロ) 上記(イ)の各事項については、本件各事業年度以後、平成19年2月までの期間(以下「本件期間」という。)において大きな変化はない
ハ その他
 請求人は、平成18年3月期の消費税等の経理処理について、税抜き経理方式を採用している。

(4) 争点

 争点1 売上金額はいくらか。
 争点2 隠ぺい又は仮装行為の有無

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2 主張

(1) 争点1(売上金額はいくらか。)

原処分庁 請求人
 本件各事業年度の売上金額は、次のことからすると、水道使用量1リットル当たりの売上金額に本件各事業年度における水道使用量を乗じて算定した金額というべきである。  本件各事業年度の売上金額は、次のことからすると、本件各申告売上金額どおりである。
イ 推計の方法により売上金額を算定する必要性
 本件各事業年度の売上金額の計算の基礎となる月計表等の原始記録が破棄されていること、また、日々の売上げを記載する売上帳や現金売上げに係る入金額を記載する現金出納帳などの帳簿を作成しないことにより、本件各事業年度の法人税の確定申告書に添付された各損益計算書の売上高の金額(以下「本件各申告売上金額」という。)の計算内容が明らかでなく、提示された帳簿書類のみでは正当な売上金額の計算ができない状態であったことが認められるから、推計の方法により売上金額を算定する必要性がある。
イ 推計の方法により売上金額を算定する必要性
 請求人は本件各事業年度において売上げを除外していないし、請求人の帳簿書類から本件各事業年度において売上金額が過少に計上された事実はうかがえないから、推計の方法により売上金額を算定する必要性はない。
 また、原処分庁のこのような課税権行使は、偏見かつ恣意的な裁量権の濫用に該当する。
ロ 売上金額の推計方法の合理性
(イ) 請求人が営む店舗型性風俗特殊営業では、客にコンパニオンを付けて施設を利用させるものであり、客及びコンパニオンは必ずシャワーを使用することから、客数に応じて使用される水道使用量も増減するものと認めることができ、料金体系や接客を行う個室数などの営業条件に大きな変化がない本件各事業年度においては、季節又は個人により客1人当たりの水道使用量に多少の増減があったとしても、1年程度の期間をとって比較すれば、客数と水道使用量とは比例関係にあるといえる。
 そして、売上金額は客数に比例することは明らかであり、そうすると、売上金額は水道使用量と比例関係にあるといえるから、売上金額を水道使用量によって推計する方法には合理性がある。
ロ 売上金額の推計方法の合理性
 仮に、推計の方法により売上金額を算定する必要性があるとしても、次のことからすると、原処分庁の売上金額の推計方法に合理性はない。
(ロ) 1浴場床等の清掃用の水道使用量は利用頻度に応じて増減すると考えられるから、請求人における水道使用量は客数と比例関係にあるということができること、2請求人の主張は、営業停止(平成○年3月○日から同年5月○日まで)前はマットプレイができる女の子を7、8人有していたという事実と営業停止後は2人の確保に留まったという事実を前提とするものであるが、当該事実を裏付ける客観的証拠を欠くことから、請求人の主張には理由がない。 (イ) 1客サービス用の使用水量は客数に応じた使用量になるのであるが、浴場床等の清掃用の使用水量は日々一定のものであること、2本件店舗の営業停止前はマットプレイができる女の子を7、8人有していたが、営業停止後は2人に減少したため、マットプレイの減少が推認できることなどの諸条件を斟酌しないまま、水道使用量を基に行った推計方法に合理性はない。
(ハ) メンバーズカードのポイント数の割増し押印をしたとしても、効果が現れるのは相当期間経過後であり、平成18年10月から同年12月までのM客数(メンバーズカードを使用して割引を行った客数をいう。以下同じ。)だけが他の月のそれと比べて7倍から9倍まで増加するのは異常というべきであって、請求人が主張の根拠とする本件店舗の店長であるT(以下「T店長」という。)の証言は到底信用することはできない。 (ロ) 平成18年10月から同年12月までのM客数が多いのは、T店長が客足大幅促進を狙って、メンバーズカードのポイント数の割増し押印を行った効果により客数が増加したためであり、ポイント割増しによりM客数が増加するのは当然の結果である。
(ニ) 請求人による推計方法は、平成19年1月の1か月の数値のみを基礎としており、原処分庁が採用した平成18年10月から平成19年1月までの4か月の数値を基礎とする推計方法に比べ、数値の平均化が図れず偏差が捨象されないことから、原処分庁の推計方法より合理的な推計方法であるということはできない。 (ハ) 平成19年1月の推計売上げに係る除外倍率は1.98倍であるにもかかわらず、本件各事業年度の推計売上げに係る除外倍率が各期とも1.98倍を大きく上回ることや、請求人が他の推計方法で試算した結果からみても、原処分庁が行った推計方法は合理性に欠けている。

(2) 争点2(隠ぺい又は仮装行為の有無)

原処分庁 請求人
 請求人は、月計表の客数を平均的に圧縮するなどして、本件各事業年度において、経常的に売上げを除外していたということができるだけでなく、売上金額の計算の基礎となる月計表等の原始記録を理由もなく破棄し、真実の売上金額の検証が不可能な状態としていたことをも考慮すれば、帳簿書類の隠匿や虚偽記載という隠ぺい又は仮装の事実が存在したというべきである。  本件各事業年度において、請求人の過少申告の事実及び隠ぺい又は仮装の事実が確認されていないにもかかわらず行われた重加算税の賦課決定処分は違法、不当である。

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3 判断

(1) 争点1(売上金額はいくらか。)

イ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件店舗における作成書類等
A 日々作成される書類
(A) 請求人は、本件期間において、「預り証 S」と題する表(以下「預り証」という。)を日々作成していた。
(B) 預り証は、コンパニオン名やその部屋割りなどをリスト表形式で記載する部分(以下「リスト表部分」という。)と、入金明細や出金明細など売上げ等を集計して記載する部分(以下「売上等集計部分」という。)からなっている。
(C) 預り証のリスト表部分は、客が入店した都度、客の受付時間、指名の有無などが記載されるものであり、その記載は本件店舗の従業員が行っていた。
(D) 預り証の売上等集計部分は、リスト表部分の内容を基に、入店金額(料金のうち請求人が受領する○○○○円又は○○○○円の金額)ごとの客数及びその合計金額、M客数、タオル代、割引券の使用金額などが記載されるものであり、その記載及び預り証の「記入者」欄のサインは本件店舗の従業員のうち営業日における現金管理の責任者が行っており、預り証は、売上金、使用済みの割引券などと一緒にRに渡されていた。
B 月々作成される書類
(A) Rは、本件期間において、預り証を基に作成したとする月計表を月々作成していた。
(B) 月計表には、日付ごとに、左から「単価X」、「売上」、「単価Y」、「売上」、「単価」、「売上」、「M」、「総数」、「タオル代」、「割引」及び「差引売上残」の各欄がそれぞれ設けられ、その記載内容は次のとおりとなっている。
a 「単価X」欄には請求人がコース料金のみ受領した客数が、その右の「売上」欄には当該客数に基づく売上金額がそれぞれ記載される。
b 「単価Y」欄には客がコンパニオンを指名することにより請求人がコース料金のほかに指名料を受領した客数が、その右の「売上」欄には当該客数に基づく売上金額がそれぞれ記載される。
c 「単価」欄には上記a及びbの各客数の合計客数が、その右の「売上」欄には上記a及びbの各売上金額の合計金額がそれぞれ記載される。
d 「M」欄にはM客数が、「総数」欄には上記cの客数とM客数の合計客数が、「タオル代」欄には請求人がコンパニオンから支払を受けたバスタオル使用料の金額(客1人当たり○○円)が、「割引」欄には1,000円の割引券を使用した客数がそれぞれ記載される。
e 「差引売上残」欄には上記cの売上合計金額に上記dのタオル代を加算した金額から割引金額(上記dの「割引」欄の客数に1,000円を乗じた金額)を差し引いた金額が記載される。
(ロ) 売上げに係る経理処理等
A 請求人の経理担当であるUは、本件期間において、本件店舗の売上げについて、上記(イ)のBの月計表を基にパソコンで管理しているところ、同人は、決算時に、「単価X」欄、「単価Y」欄等に記載された客数に各単価を乗じて日々の売上金額を計算し、当該金額を合計したものを1か月分の売上金額としてパソコンに入力していた。
B 請求人は、本件各事業年度において、上記AのとおりUがパソコンに入力した売上金額を基に総勘定元帳の売上高勘定に計上する経理処理を行っていた。
C 上記A及びBの経理処理等は、本件期間において変更されていない。
D 請求人は、日々の現金売上げに係る入金額を記載する現金出納帳及び日々の売上げを記載する売上帳を作成していない。
E 請求人は、本件各事業年度の預り証及び月計表について、預り証はRが月計表作成後に、月計表はUが上記Aの処理後にそれぞれ廃棄しているとして、保存していない。
(ハ) 請求人の提示書類等
A 原処分に係る調査(以下「本件調査」という。)の担当者(以下「本件調査担当者」という。)は、本件調査に着手した平成19年2月7日に、本件店舗において、平成18年10月から平成19年1月までの本件店舗の客数などを記載したノート(以下「本件ノート」という。)の提示を、併せて、請求人から本件店舗に係る平成19年1月の月計表(以下「本件平成19年1月月計表」という。)の提示を受けた。
 なお、本件ノートには、T店長が、Rに代わって本件店舗のマネジメントをするようになった平成18年10月以後の各月を1ページとし、カレンダー形式で各日付欄が設けられ、1T店長が目標設定した客数、2預り証の入店客数を書き写したとする各日の客数が記載されているところ、本件ノートに月ごとの目標客数と入店客数の状況(月中の累計や月計)、目標達成の状況(達成の有無や達成した日数)、1日当たりの客数の状況(客数の分布とその日数)などがメモ書されていることからすると、本件ノートは、T店長が本件店舗の管理資料として作成したものとして客観性を有しており、本件ノートに記載された各日の客数は、本件店舗の当該各日の実際の客数と認められる。
B 請求人は、平成19年3月8日、本件調査担当者に対し、平成18年5月から同年12月まで及び平成19年2月の各月計表並びに平成19年2月18日から同月28日までの各預り証(リスト表部分が切り取られたもの)を提示した(以下、請求人が提示した各月計表を「本件請求人提示各月計表」という。)。
C 請求人は、本件調査において、本件調査担当者に対し、本件各事業年度に係る帳簿書類として、平成18年3月期の総勘定元帳、平成15年4月及び平成18年3月を除く本件各事業年度の請求書綴り、本件各事業年度の領収書綴りを提示した(以下、請求人が提示したこれらの書類を「本件調査時提示書類」という。)。
(ニ) 本件平成19年1月月計表及び本件請求人提示各月計表の内容等
 本件平成19年1月月計表及び本件請求人提示各月計表の各月の合計欄の内容は、別表3のとおりであるところ、これら各月計表と本件ノートを対比すると、次のとおりである。
A 本件平成19年1月月計表には、平成19年1月2日から同月31日までの各日の客数及び月計の客数が記載されているところ、当該月計表の各日の客数は、本件ノートの平成19年1月の各日の実際の客数をおおむね半分にした数が記載されており、当該月計表の月計の客数(○○人)は、本件ノートに記載された月計の客数(○○人)の約半分である。
B 本件請求人提示各月計表のうち、本件ノートと対比ができる平成18年10月から同年12月までの各月計表に記載された各日の客数は、当該期間に対応する本件ノートの各日の実際の客数と一致するものの、当該各月計表に記載されたM客数の月平均客数(○○人)は、本件ノートと対比ができない同年6月から同年9月までの各月計表のM客数の月平均客数(○○人)に比べ、7倍以上の客数である。
 また、本件ノートと対比ができる平成18年10月から同年12月までの各月計表の有料客数(「単価X」欄及び「単価Y」欄の各客数の合計客数をいう。)の総客数に占める割合は65%前後であり、本件ノートと対比ができない同年6月から同年9月までの各月計表の当該割合(約90%)を下回っている。
C 本件ノートの平成18年10月のページには、同月の各日のほか同年9月30日の客数(○○人)が記載されているところ、本件請求人提示各月計表の同日の客数は、本件ノートに記載された客数の半分(○○人)である。
(ホ) 本件店舗の水道使用量
 原処分庁は、本件店舗の水道使用量を基に本件各事業年度の売上金額を算定しているところ、その算定の基となる水道使用量は、本件店舗の水道メーターの2か月ごとの定例検針に基づく使用水量である。
(ヘ) バスタオルの納入数等
A 本件店舗におけるバスタオルの納入業者は、本件期間において、本件店舗のバスタオルの在庫状況を日々確認し、その在庫数が一定となるように納入していたところ、本件各事業年度及び平成19年1月の本件店舗に納入されたバスタオルの組数等は、別表4の「バスタオルの納入数」欄のとおりである。
 なお、本件店舗に納入されているバスタオルは、2枚を1組としている。
B 本件各事業年度のバスタオルの納入枚数と本件各申告売上金額を基に算定した本件各事業年度のバスタオル1枚当たりの売上金額は、別表4の「D」欄のとおり、○○○○円から○○○○円までであり、いずれの額も平成19年1月のバスタオルの納入枚数と本件平成19年1月月計表に記載された売上金額○○○○円(別表3の「K」欄の金額から「I」欄の金額を差し引いた金額をいい、以下「本件平成19年1月月計表売上金額」という。)を基に算定した本件平成19年1月月計表のバスタオル1枚当たりの売上金額(○○○○円)と比べ、約1.01倍から1.25倍までの範囲である。
ロ 判断
(イ) 推計の方法により売上金額を算定する必要性
A 法人税法第131条《推計による更正又は決定》は、税務署長は、内国法人に係る法人税につき更正又は決定をする場合には、内国法人の提出した青色申告書に係る法人税の課税標準等の更正をする場合を除き、その内国法人の財産若しくは債務の増減の状況、収入若しくは支出の状況又は生産量、販売量その他の取扱量、従業員数その他事業の規模によりその内国法人に係る法人税の課税標準等を推計して、これをすることができる旨規定している。
 そして、法人税法第131条に規定する推計の方法による課税処分が許容されるのは、1納税者が収支を明らかにし得る帳簿書類を備え付けていない、2資料の提示を拒否するなど税務調査に非協力的である、3帳簿書類を備え付けていても記帳が不正確であるなどのため、実額の把握が不可能又は著しく困難であるような場合に限られていると解するのが相当である。
B これを本件についてみると、請求人は、上記イの(ロ)のAからCまでのとおり、本件各事業年度の各月計表に基づいて本件各事業年度の総勘定元帳の売上高勘定に計上する経理処理を行っているところ、1上記イの(イ)のB、(ハ)のA、(ニ)のA及びCのとおり、Rが預り証を基に作成したとする月計表の平成18年9月30日及び平成19年1月の各日の客数が当該各日の実際の客数の約半分であることからすると、Rは、本件店舗の客数及び売上金額を圧縮して月計表を作成していると認められること、2上記イの(ヘ)のBのとおり、本件平成19年1月月計表及び本件各事業年度のバスタオル1枚当たりの売上金額に大きな差異がないことからすると、当該行為は本件期間において継続的に行われていたと認められること、また、3上記1の(3)のロ、上記イの(イ)及び(ロ)のAからCまでのとおり、本件店舗の営業時間及び料金は本件期間において大きな変化はなく、請求人の作成書類や経理方法も本件期間において変更がないと認められることを総合勘案すると、請求人は、本件各事業年度の各月計表に圧縮した客数を継続的に記載することにより、本件各事業年度の総勘定元帳の売上高勘定に圧縮した売上金額を計上していたものと認められるから、請求人が総勘定元帳の売上高勘定に計上した金額は不正確である。
 そして、請求人は、上記イの(ハ)のCのとおり本件調査時提示書類は提示したものの、上記イの(ロ)のD及びEのとおり、現金出納帳等を作成せず、売上げの原始記録である本件各事業年度の預り証及び月計表を廃棄して、収支を明らかにし得る帳簿書類を備え付けていないから、本件各事業年度の売上金額の実額の把握は不可能又は著しく困難である場合といえるので、本件各事業年度の売上金額を推計の方法によって算定する必要性があったと認められる。
 なお、請求人は、当審判所に対し、本件各事業年度の売上金額について実額が把握できる資料を提出しなかったことから、当審判所においても原処分庁と同様、推計の方法によって本件各事業年度の売上金額を算定せざるを得ない。
C これに対し、請求人は、上記2の(1)の「請求人」欄のイのとおり主張する。
 しかしながら、本件においては、上記Bのとおり、推計の方法により売上金額を算定する必要性があることは明らかであり、原処分庁は本件各事業年度の売上金額を実額により把握することができないことから、やむを得ず推計の方法によって当該売上金額を算定したものであり、請求人の売上げの除外はなく、売上金額が過少に計上された事実はうかがえないとの主張は、前提とする事実を誤認するもので理由はなく、また、原処分庁が推計の方法を採用したのは、上記Bと同様の判断を基礎としたもので、何らの恣意性もなく、推計の方法を採用したことに何らの裁量権の濫用も認められないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ロ) 売上金額の推計方法の合理性
A 原処分庁が採用した推計方法は、本件ノート、本件平成19年1月月計表及び本件請求人提示各月計表を基として、平成18年10月から平成19年1月までの客数の圧縮割合及び売上金額を算定し、当該金額及び当該対応する期間の水道使用量から水道使用量1リットル当たりの売上金額を算定した上で、これに本件各事業年度の水道使用量を乗じて本件各事業年度の売上金額を算定しているところ、請求人が営む店舗型性風俗特殊営業では、特段の事情がない限り、同程度の水道使用量に対し同程度の収入を得るのが通例であることから、当該推計方法には合理性があると認められ、また、請求人の主張によっても、原処分庁が採用した推計方法自体を不合理ならしめる程度の特段の事情があるとは認められない。
 したがって、請求人の上記2の(1)の「請求人」欄のロの各主張にはいずれも理由がない。
B しかしながら、上記イの(ニ)のBのことからすると、原処分庁がその算定の基とした平成18年10月から同年12月までの各月計表は、本件ノートに記載された客数と一致させるため、請求人において売上げが生じないM客数を水増しするなど作為的に作成されたものと認められることから、本件各事業年度の売上金額の算定に当たっては、当該各月計表をその算定の基とするよりも、本件平成19年1月月計表のみを基に算定するのがより合理的であると認められる。
 そうすると、上記イの(ホ)のとおり、原処分庁が本件各事業年度の売上金額の算定の基とした水道使用量は2か月単位(平成18年12月及び平成19年1月の使用水量)であるから、上記のとおり本件平成19年1月月計表を算定の基とする場合、平成19年1月の水道使用量を合理的に算定することは困難である。
C 他方、請求人が営む店舗型性風俗特殊営業では、客にコンパニオンを付けて施設を利用させるものであり、客及びコンパニオンは必ずバスタオルを使用し、客数に応じてバスタオルの使用枚数も増減すると認められるから、相当程度の期間をとって比較すれば、客数とバスタオルの使用枚数とは密接な比例関係にあるということができ、同程度のバスタオルの使用枚数に対し同程度の売上げを得るのが通例であり、当該営業に係る売上金額をバスタオルの使用枚数によって推計する方法には合理性があると認められるところ、請求人についても、上記イの(ヘ)のAのとおり、バスタオルの納入業者においてその在庫状況を日々確認していることからすれば、バスタオルの納入枚数をもってその使用枚数とすることは相当と認められ、また、バスタオルの納入期間も1か月であり、相当程度の期間といえることから、本件各事業年度の売上金額は、バスタオルの使用枚数によって推計する方法が合理的であると認められる。
D そこで、平成19年1月の本件ノート、本件平成19年1月月計表及び別表4のバスタオルの納入枚数に基づいて、本件各事業年度の売上金額を推計の方法により算定すると、以下のとおりとなる。
(A) 客数の圧縮割合
 平成19年1月の本件ノートの月計の客数(○○人)及び本件平成19年1月月計表の月計の客数(○○人)を基に、客数の圧縮割合を算定すると、0.5024(小数点第4位未満の端数切上げ)となる。
(B) 推計の基となるバスタオル1枚当たりの売上金額
 上記(A)の客数の圧縮割合及び本件平成19年1月月計表売上金額(○○○○円)を基に、平成19年1月の売上金額を算定すると、○○○○円(1円未満の端数切捨て)となり、当該金額を同月のバスタオルの納入枚数(2,340枚)で除して推計の基となるバスタオル1枚当たりの売上金額を算定すると、○○○○円(1円未満の端数切捨て)となる。
(C) 本件各事業年度の売上金額
 上記(B)のバスタオル1枚当たりの売上金額に別表4の本件各事業年度のバスタオルの納入枚数を乗じて算定した本件各事業年度の売上金額は、別表5の「3」欄の各金額のとおりである。

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(2) 争点2(隠ぺい又は仮装行為の有無)

イ 国税通則法(以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第1項及び第2項は、同法第65条《過少申告加算税》第1項又は同法第66条《無申告加算税》第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、過少申告加算税又は無申告加算税に代え、重加算税を課する旨規定している。
 そして、通則法第68条でいう「事実を隠ぺいした」とは、課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実を隠ぺいしあるいは故意に脱漏したことをいい、また、「事実を仮装した」とは、所得、財産あるいは取引上の名義等に関し、あたかも、それが真実であるかのように装う等、故意に事実をわい曲したことをいうと解するのが相当である。
ロ これを本件についてみると、請求人は、上記(1)のロの(イ)のBのとおり、本件各事業年度の各月計表に圧縮した客数を継続的に記載することにより、本件各事業年度の総勘定元帳の売上高勘定に圧縮した売上金額を計上していたものであるから、本件各事業年度において、本件店舗の売上げの一部(別表5の「5」欄の各金額)を除外していたものであり、このことは、請求人の収益を隠ぺいし、これを法人税の益金の額及び消費税の課税標準額に算入しなかったものと認められる。
 したがって、請求人のこれらの行為は、通則法第68条でいう「事実を隠ぺいした」に該当する。
ハ これに対し、請求人は、上記2の(2)の「請求人」欄のとおり主張する。
 しかしながら、請求人は、上記ロのとおり、本件各事業年度の各月計表に圧縮した客数を継続的に記載することにより、本件各事業年度の総勘定元帳の売上高勘定に圧縮した売上金額を計上していたものであるから、請求人の主張には理由がない。

(3) 本件法人税各更正処分

イ 売上除外金額
 上記(1)のロの(ロ)のDで算定した本件各事業年度の売上金額と本件各申告売上金額との差額(別表5の「5」欄の各金額)を売上除外金額として、本件各事業年度の所得金額に加算する。
ロ 消費税等の清算差額(雑損失)
 平成18年3月期の消費税等の清算差額○○○○円を雑損失として平成18年3月期の所得金額から減算する。
ハ 未納事業税認容額
 平成16年3月期の増加する所得金額に係る事業税○○○○円及び平成17年3月期の増加する所得金額に係る事業税○○○○円を、平成17年3月期及び平成18年3月期の所得金額からそれぞれ減算する。
ニ 所得金額
 上記イからハまでを前提として、本件各事業年度の所得金額を計算すると、別表6の「7」欄のとおり、平成16年3月期が○○○○円、平成17年3月期が○○○○円、平成18年3月期が○○○○円となり、いずれも本件法人税各更正処分のその額を下回るから、本件法人税各更正処分は、いずれもその一部を取り消すべきである。

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(4) 本件法人税各賦課決定処分

 上記(2)のとおり、請求人の行為は隠ぺい行為に該当し、請求人はその隠ぺいしたところに基づき納税申告書を提出しているから、通則法第68条第1項又は第2項に規定する重加算税の賦課要件を満たしているところ、上記(3)のニのとおり、本件法人税各更正処分の一部を取り消すことにより、重加算税の基礎となる税額は、平成16年3月期が○○○○円、平成17年3月期が○○○○円、平成18年3月期が○○○○円となる。
 そうすると、これらの額を基礎として算定した各重加算税の額は、いずれも本件法人税各賦課決定処分のその額を下回るから、本件法人税各賦課決定処分は、いずれもその一部を取り消すべきである。

(5) 本件消費税等更正処分

 本件店舗の売上げは消費税法第2条《定義》第1項第9号に規定する課税資産の譲渡等に該当し、その売上金額は同法第28条《課税標準》第1項に規定する課税資産の譲渡等の対価の額に該当するところ、上記(1)のロの(イ)のBと同様に本件課税期間の本件店舗の売上げに係る課税資産の譲渡等の対価の額の実額の把握が不可能又は著しく困難であるといえ、当該額を推計の方法によって算定する必要性がある。
 そして、当審判所において、本件課税期間の本件店舗の売上げ等に係る課税資産の譲渡等の対価の額を上記(1)のロの(ロ)のDと同様の方法で算定し、これを基に本件課税期間の消費税の課税標準額を算定すると、別表7の「3」欄の金額のとおりとなる。
 そうすると、本件課税期間の納付すべき消費税額及び地方消費税額は、○○○○円及び○○○○円となり、いずれも本件消費税等更正処分のその額を下回るから、本件消費税等更正処分は、その一部を取り消すべきである。

(6) 本件消費税等賦課決定処分

 上記(2)のとおり、請求人の行為は隠ぺい行為に該当し、請求人はその隠ぺいしたところに基づき納税申告書を提出しているから、通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たしているところ、上記(5)のとおり、本件消費税等更正処分の一部を取り消すことにより、重加算税の基礎となる税額は、○○○○円となる。
 そうすると、この額を基礎として算定した重加算税の額は、本件消費税等賦課決定処分のその額を下回るから、本件消費税等賦課決定処分は、その一部を取り消すべきである。

(7) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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