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(平20.5.30、裁決事例集No.75 481頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が出資の大半を有する有限会社Y(以下「Y社」という。)が請求人の父Eから借地権の無償設定を受けたことに伴い、同社の出資の価額が増加したとして、その経済的利益を受けた請求人に対して原処分庁が平成13年分の贈与税の決定処分等を行ったのに対し、請求人は、当該経済的利益を得たのは平成12年であるなどとして、同処分の全部の取消しを求めた事案である。
 争点は、次の3点である。

 争点1  借地権の設定に伴う利益の発生時期
 争点2  経済的利益の額の算定方法の適否
 争点3  調査手続の違法性の存否

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成13年分の贈与税について申告書を提出しなかったところ、原処分庁は、平成19年2月21日付で、課税価格を○○○○円及び納付すべき税額を
○○○○円とする決定処分(以下「本件決定処分」という。)及び無申告加算税の額を○○○○円とする賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ロ 請求人は、これらの処分を不服として、平成19年3月2日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は平成19年5月24日付で棄却の異議決定をした。
ハ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成19年6月19日に審査請求をした。

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(3) 基礎事実

イ 請求人は、Y社が設立された平成6年3月○日から平成17年1月5日の間、同社の代表取締役であった。
ロ Y社の設立時に出資金額を出資した社員は、請求人、E、請求人の母であるF及び請求人の妻であるGの4名であり、その出資口数は、請求人が40口、Eが12口、Fが6口及びGが2口であり、出資総口数は60口であった。
 その後、Fが平成10年10月○日に、Eが平成15年4月○日に死亡しており、Fが有していた6口及びEが有していた12口はいずれも請求人がそれぞれの相続開始日において相続している。
ハ Eは、P市p1町p2番所在の田が仮換地されたQ土地区画整理事業q1街区q2画地(以下、当該仮換地を「仮換地A」という。)並びにP市p1町p3番所在の田が仮換地されたQ土地区画整理事業q1街区q3画地(以下、当該仮換地を「仮換地B」という。)を所有していた(以下、仮換地A及び仮換地Bを併せて「本件土地」という。)。
ニ 仮換地Aについては、次のとおり農地転用手続等がなされている。
(イ) Y社は、平成12年2月8日に都市計画法第29条《開発行為の許可》の規定による開発行為許可申請書をP市長に提出し、同年3月3日に同市長から開発行為の許可を得ている。
(ロ) 上記(イ)の申請書には、Eの開発行為施行同意書が添付されている。
(ハ) Y社はEと連名で、平成12年3月6日に、共同住宅の建築を目的とした賃貸借権を設定する旨の農地法第5条《農地又は採草放牧地の転用のための権利移動の制限》第1項第3号の規定による農地転用届出書をP市農業委員会長に提出し、同日、受理されている。
(ニ) 上記(ハ)の届出書には、Eの使用承諾書が添付されている。
ホ 仮換地Bについては、次のとおり農地転用手続等がなされている。
(イ) Y社は、平成12年9月13日に開発行為許可申請書をP市長に提出し、同月28日に同市長から開発行為の許可を得ている。
(ロ) 上記(イ)の申請書には、Eの開発行為施行同意書が添付されている。
(ハ) Y社はEと連名で、平成12年9月20日に、共同住宅の建築を目的とした賃貸借権を設定する旨の農地法第5条第1項第3号の規定による農地転用届出書をP市農業委員会長に提出し、同日、受理されている。
(ニ) 上記(ハ)の届出書には、Eの使用承諾書が添付されている。
ヘ 請求人は、原処分の調査を担当した職員(以下「原処分担当職員」という。)に対し、仮換地Bに係る農地法上の手続が仮換地Aに係る手続とは別に行われているのは、当初計画では共同住宅の入居者用の駐車場が整備できないことが判明したため、仮換地Bを加えてこれらの手続をやり直すこととしたためである旨申述している。
ト 平成12年1月12日付で、Y社は、H社との間で本件土地における共同住宅(以下「本件共同住宅」という。)の建設に係る工事請負契約を締結したが、その後、上記ヘのとおり農地法上の手続をやり直したことに伴い、平成12年9月7日付で再度、工事請負契約書を締結した。
チ 本件共同住宅の登記事項証明書によれば、本件共同住宅は、平成13年5月7日に新築され、同月○日にY社を所有者とする所有権保存登記がなされている。
リ Y社はEとの間で、平成13年5月24日付の本件土地に係る土地賃貸借契約書(以下「本件土地賃貸借契約書」という。)を締結しており、その主な内容は以下のとおりであるが、本件土地賃貸借契約書に権利金の授受に関する記載はない。
(イ) 賃貸期間は、平成13年6月1日から平成14年5月31日までであること。
(ロ) 賃貸期間は、双方からの申出がない限り、1年ごとに自動更新すること。
(ハ) 1か月の賃料は、435,000円であること。
ヌ Y社はEに対して、本件土地の賃料を平成13年6月分から支払っており、それ以前には本件土地の賃料を支払っていない。
ル 本件土地の貸借に当たり、権利金相当額の授受は行われておらず、Y社及びEの納税地の所轄税務署長である原処分庁に、無償返還の届出書は提出されていない。
ヲ J国税局長が定めた平成12年分及び平成13年分の財産評価基準書によると、本件土地に係る借地権割合はいずれの年分も50%である
ワ 請求人は、平成18年6月5日に原処分庁に対して提出した平成15年4月○日相続開始の被相続人Eに係る相続税の修正申告書において、Eから請求人に対し、平成12年10月23日に○○○○円、平成13年10月31日に○○○○円及び平成14年10月21日に○○○○円のそれぞれ現金の贈与がある旨記載して申告している。

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2 主張

 当事者の主張は、別紙のとおりである。

3 判断

(1) 争点1(借地権の設定に伴う利益の発生時期)について

イ 関係法令等
(イ) 借地借家法第2条《定義》第1号は、借地権とは建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権をいう旨規定している。
(ロ) 相続税法基本通達1の3・1の4共-10は、農地法第3条第1項若しくは第5条第1項本文の規定による許可を受けなければならない農地等の贈与又は同項第3号の規定による届出をしてする農地等の贈与に係る取得の時期は、当該許可のあった日又は当該届出の効力が生じた日後に贈与があったと認められる場合を除き、当該許可のあった日又は当該届出の効力が生じた日によるものとする旨定めている。
(ハ) 相続税法第9条は、対価を支払わないで利益を受けた場合においては、当該利益を受けた時において、当該利益を受けた者が、当該利益を受けた時における当該利益の価額に相当する金額を当該利益を受けさせた者から贈与により取得したものとみなす旨規定している。
(ニ) 相続税法基本通達9-2《株式又は出資の価額が増加した場合》は、同族会社(法人税法(平成15年法律第8号による改正前のものをいう。以下同じ。)第2条《定義》第10号に規定する同族会社をいう。以下同じ。)の出資の価額が、当該同族会社に対し無償で財産の提供があったことにより増加したときにおいては、その社員が当該出資の価額のうち増加した部分に相当する金額を、当該財産を提供した者から贈与によって取得したものとして取り扱う旨定めている。
(ホ) 法人税法第2条第10号は、同族会社とは、会社の社員の3人以下並びにこれらの者と政令で定める特殊の関係のある個人及び法人が、その会社の出資の総額の100分の50以上に相当する出資を有する場合におけるその会社をいう旨規定している。
(ヘ) 法人税基本通達2-1-14は、固定資産の譲渡による収益の額は、別に定めるものを除きその引渡しがあった日の属する事業年度の益金の額に算入する旨定めている。
(ト) 法人税基本通達13-1-7は、法人が借地権の設定等により他人に土地を使用させた場合において、これにより収受する地代の額が相当の地代の額に満たないときであっても、その借地権の設定等に係る契約書において将来借地人等がその土地を無償で返還することを定めており、かつ、その旨を借地人等との連名の書面により遅滞なく当該法人の納税地の所轄税務署長に届け出たときは、当該借地権の設定等をした日の属する事業年度以後の各事業年度において、相当地代の額から実際に収受している地代の額を控除した金額に相当する金額を借地人等に対して贈与したものとして取り扱うものとし、使用貸借契約により他人に土地を使用させた場合(法人税基本通達13-1-5《通常権利金を授受しない土地の使用》の適用がある場合を除く。)についても、同様とする旨定めている。
ロ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査によると、次の事実が認められる。
(イ) Y社は、上記1の(3)のロのとおり請求人の親族で出資のすべてを保有していることから法人税法第2条第10号に規定する同族会社に該当する。
(ロ) H社は、本件土地の造成工事をK社に外注しており、同社からH社への請求書によると、当該造成工事の工事期間は平成12年4月8日から同月17日となっている。
(ハ) H社の工事日誌によると、同社は、平成12年10月25日ころ本件共同住宅の建設工事に着工している。
ハ 本件借地権の無償設定の時期
 上記イの(ニ)の相続税法基本通達9-2の定めを本件についてみると、同族会社であるY社の出資の価額が、同社に対しEが無償で本件借地権を設定したことにより増加し、それに伴い同社の社員である請求人が保有する同社の出資の価額が増加することとなり、当該増加した部分の金額は、請求人がEから贈与により取得したものとみなされることになるが、このことについては、原処分庁、請求人間に争いはない。
 しかしながら、請求人が利益を受けた時期、すなわち、本件借地権が無償設定された時期について争いがあることから、以下判断する。
(イ) 賃貸借期間の開始の日
 賃貸借契約は、民法第601条《賃貸借》において、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うことを約することによって、その効力を生ずる契約である旨規定されており、両当事者の合意によって成立する。そして、土地の賃貸借契約が成立した場合には、特段の事情がない限り、当該契約成立の時に借主が借地権の設定を受けたとみるのが相当である。
 これを本件についてみると、Y社はEとの間で、上記1の(3)のリのとおり平成13年5月24日に本件土地賃貸借契約書を締結し、当該契約書に基づき、上記1の(3)のヌのとおり平成13年6月分からEに対して賃料の支払を開始している。
 一方、本件土地賃貸借契約書の締結前に本件土地に係る賃料の授受がなされたことはなく、Y社とEとの間で、本件土地賃貸借契約書の締結前に土地賃貸借契約に係る基本的な事項である賃料の支払の有無、支払う場合におけるその金額、賃貸借する土地の面積及び賃貸借の期間等について、具体的に合意に至っていたとの事実は認められない。
 また、建物の保有を目的とする土地の賃貸借に当たり、権利金の授受を行うか否か及び授受を行う場合におけるその金額については、通常、賃貸借契約時までに両当事者間で取り決められるところ、本件においては、上記1の(3)のリのとおり、本件土地賃貸借契約書に本件権利金授受に関する規定はなく、また、本件土地賃貸借契約書締結時までに、権利金の授受をしないとの取決めがあったと認められる証拠はない。しかしながら、権利金の授受について具体的な取決めをしないことは、本件が同族会社とその代表取締役の父との間の土地の貸借に係るものであることに照らせば、本件土地賃貸借契約書締結時までに権利金の授受を行うか否かについての取決めがなかったとしても何ら当事者に不都合はなく、特に不自然なものとも考えられない。
 そうすると、土地賃貸借契約書に権利金の授受の条項を設けていない本件土地賃貸借契約書を締結したことにより、権利金の授受を行わないこと、すなわち、Y社がEから無償で借地権の設定を受けることが明確にされたと考えるのが相当である。
 以上のことから、本件土地に係る賃貸借契約が成立したのは、Y社とEとの間において本件土地賃貸借契約書を締結した平成13年5月24日と考えるのが相当であり、本件借地権は、同契約書における賃貸借期間の開始の日である平成13年6月1日に無償で設定されたということができ、この日が、請求人がEから贈与を受けたとみなされる日となる。
(ロ) これに対し、請求人は種々主張するので、以下のとおり判断する。
A 農地法第5条の届出の日
 請求人は、相続税法基本通達1の3・1の4共-10の取扱いを根拠に、農地に賃貸借権を設定して宅地に転用する場合には、農地法第5条の規定に基づき、都道府県知事等の許可のあった日、又は農地法所定の届出の効力が生じた日が賃貸借権の設定の日となるから、仮換地Aについて農地法所定の届出書がP市農業委員会長に受理された平成12年3月6日が借地権設定の日であり、その日が請求人がEから贈与を受けたとみなされる日である旨主張する。
 ところで、上記イの(ロ)のとおり、相続税法基本通達1の3・1の4共-10において、農地の贈与に係る取得の時期は、農地法上の許可があった日又は届出の効力が生じた日後に贈与があったと認められる場合を除き、農地法上の許可があった日又は届出の効力が生じた日とする取扱いを定めている。
 この取扱いは、農地の贈与の場合、通常は、当事者間で契約を締結してから許可申請をし、許可を受けてから登記の移転、引渡しなど契約の履行がなされることとなるが、この場合の許可は、契約の停止条件又は法定条件と解され、契約の効力の発生が許可にかかっていることに根拠を有するものであると考えられる。
 本件の場合、農地の贈与ではなく、農地における賃貸借権の設定による借地権の設定に係るものであり、しかも借主が法人ではあるが、上記通達の趣旨は本件の場合にも妥当すると考えられ、みなし贈与があった時期の判定に当たっては、当該通達に基づき行うのが適当である。
 そこで本件についてみると、農業委員会への農地法第5条の届出が賃貸借権の設定を目的とするものであるが、上記(イ)のとおり、農地法所定の届出書の受理の日までにY社とEとの間で賃貸借契約に係る基本的な事項について具体的な合意に至っていたとする事実は認められず、平成13年5月24日に本件土地賃貸借契約書を締結するに至って具体的な賃貸借の内容が決まっていることが認められる。
 そうすると、本件においては、相続税法基本通達1の3・1の4共-10に定める「農地法上の許可があった日又は届出の効力が生じた日後に贈与があったと認められる場合」と同様の状態にあったと認められ、当該通達に定める原則的な取扱いは適用されないこととなり、本件土地賃貸借契約書を締結することによって具体的に賃貸借契約の内容が決まり、その契約による賃貸借期間の開始日である平成13年6月1日に借地権の設定があったと認められるのであるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
B 占有を開始した日
 請求人は、固定資産の譲渡による収益の額はその引渡しのあった日の属する事業年度に帰属すると定めた法人税基本通達2-1-14の考え方に基づき、本件土地に係る造成工事をするためにY社が本件土地の占有を開始した時に、本件借地権が設定された旨予備的に主張する。
 しかしながら、請求人が主張するように1造成工事完了前に行われた開発許可申請における申請書、2その添付書類であるEの開発行為施行同意書、3農地転用手続における届出書の記載及び4K社が作成した造成工事に係る請求書等からすると、Y社がEとの間で賃貸借契約を締結することを前提にH社に建設工事を依頼し、H社から発注を受けたK社が本件共同住宅の造成工事を始めており、この時点においてY社が本件土地の占有を開始したことは認められるものの、上記(イ)のとおり、本件土地賃貸借契約書を締結した平成13年5月24日以前に無償により本件借地権の設定があったと認定できる程度にまで、当事者の本件土地の貸借に関する基本的な内容について具体的な合意が形成されていたとは認められない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
C 使用貸借を開始した日
 請求人は、本件土地に係る開発許可及び農地転用許可には本件土地の所有者であるEの同意が必要であり、その際に本件土地の使用承諾書を同人から徴していることから、Y社とEの間には土地の使用貸借契約が成立しており、法人税基本通達13-1-7によると、使用貸借により土地の貸借を開始した場合にも無償返還の届出書の提出が無い限り権利金相当額の認定課税を行うこととしているのであるから、本件土地の使用開始時に本件借地権の無償設定があった旨主張する。
 しかしながら、仮換地A及び仮換地Bに係るE及びY社の連名による農地法上の届出書に本件共同住宅の建設を目的とした賃借権を設定する旨の記載があるなど、両当事者は賃貸借を前提とした行動をとっていたものと認められることから、賃貸借契約が締結され賃貸借が開始されるまでの間において、貸借が開始されたとしても、それはその後に締結される賃貸借契約が前提であり、本件借地権の無償設定があったのは、この一連の貸借に関する具体的な条件が成立した本件土地賃貸借契約書における賃貸借開始の日といわざるを得ない。また、本件土地の貸借が同族会社とその代表取締役の父という特殊な関係者との間で行われたものであることからみれば、同契約書締結時まで、本件土地の貸借に関して、具体的な契約内容が定まらないままの状態が継続していたとしても、そのことに当事者に不都合はなく、特に不自然なこととも認められないことは、上記(イ)のとおりである。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

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(2) 争点2(経済的利益の額の算定方法の適否)について

イ 関係法令
(イ) 評価通達9《土地の上に存する権利の評価上の区分》は、借地権は、他の土地の上に存する権利とは別に評価する旨定めている。
(ロ) 評価通達27《借地権の評価》は、借地権の価額は、その借地権の目的となっている宅地の自用地としての価額に、当該価額に対する借地権の売買実例価額、精通者意見価格及び地代の額等を基として評定した借地権の価額の割合がおおむね同一と認められる地域ごとに国税局長の定める割合を乗じて計算した金額によって評価し、借地権の設定に際しその設定の対価として通常権利金その他の一時金を支払うなど借地権の取引慣行があると認められる地域以外の地域にある借地権の価額は評価しない旨定めている。
(ハ) 評価通達194《合名会社等の出資の評価》は、有限会社に対する出資の価額は、同通達178から同通達193《配当期待権の評価》までの定めに準じて計算した価額によって評価する旨定めている。
(ニ) 評価通達178は、取引相場のない株式の価額は、評価しようとする会社を大会社、中会社及び小会社に区分して評価する旨定めており、また、当該区分の基準を定めている。
(ホ) 評価通達179《取引相場のない株式の評価の原則》は、同通達178の大会社、中会社及び小会社の株式の評価の原則を定めており、大会社の株式の価額は原則として類似業種比準価額によって評価し、中会社の株式の価額は原則として類似業種比準価額と1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額。以下同じ)との併用方式によって評価することとし、選択によって大会社、中会社とも原則的な評価方法以外に1株当たりの純資産価額によっても評価できることとしている。また、小会社の株式の価額は、1株当たりの純資産価額によって評価することとし、選択によって「L」を0.50として次の算式により計算した金額により評価することができることとしている。
 類似業種比準価額×L+1株当たりの純資産価額×(1-L)
(ヘ) 評価通達185は、同通達179の「1株当たりの純資産価額」は、課税時期における各資産を同通達に定めるところにより評価した価額の合計額から、課税時期における各負債の金額の合計額及び同通達186-2《評価差額に対する法人税額等に相当する金額》により計算した評価差額に対する法人税額等に相当する金額を控除した金額を課税時期における発行済株式数で除して計算した金額とする旨定め、同通達185のかっこ書きにおいては、その評価する会社の課税時期前3年以内に取得した土地及び土地の上に存する権利等の価額は、課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価する旨定めている。
ロ 認定事実
(イ) Y社は、従業員数、総資産価額及び取引金額から判断して評価通達178における小会社に該当する。
(ロ) Y社が営む事業の業種目は、不動産賃貸業である。
ハ 法令解釈等
(イ) 贈与税の課税上、株式等をはじめとする財産の価額は、課税時期におけるそれぞれの財産の現況に応じ不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち当該財産の客観的な交換価値をいうものと解されており、課税実務においては、財産評価の一般的基準が評価通達により定められ、これに定められた画一的な評価方法によって財産の時価、すなわち客観的な交換価値を評価することとしている。
 株式等の評価にこのような画一的な評価方法が採用されているのは、株式等の客観的交換価値は必ずしも第一義的に確定されるものではなく、的確に把握することが必ずしも容易ではないため、個別に評価する方法を採ると、その評価方式や基礎資料の選択の仕方等により異なる評価額が生じる結果となって税負担の公平を害するおそれがあり、かつ、納税者及び課税庁の双方ともに過大な負担と費用を強いることとなるから、課税庁が準拠すべき一般的で簡便な評価方法を定め、あらかじめ定められた評価方法によって画一的に評価することにより、課税の適正や納税者間の公平を図ることが合理的であるという理由によるものと解されている。
(ロ) 相続税法基本通達9-2に定める「株式又は出資の価額のうち増加した部分に相当する金額」は、無償で財産の提供等を受けた直後における同族会社の株式の価額から、無償で財産の提供等を受ける直前における当該株式の価額を控除して算出することが合理的であると認められるところ、評価通達178及び179では、上記イの(ニ)及び(ホ)のとおり、取引相場のない株式のうち同族株主の取得した株式について、適正な評価を行うため、一般の評価会社をその事業規模に応じて、大会社、中会社及び小会社に区分し、上場会社に匹敵するような大会社の株式は、上場会社の株式の評価との均衡を図ることが合理的であると考えられることから原則として類似業種比準方式により評価し、個人企業とそれほど変わるところがない小会社の株式は、個人企業者の財産評価との均衡を図ることが合理的であると考えられることから原則として純資産価額方式により評価することとし、両者の中間にある中会社の株式については、大会社と小会社の評価方式の併用方式によって評価するとしているが、小会社においても、納税義務者の選択により、純資産価額方式と類似業種比準方式の併用方式によることも認められている。これらの評価通達178及び179に定める評価方法は、会社資産の割合的持分という株式の性質に応じた純資産価額方式を基本としつつ、会社の規模に応じて類似業種比準方式による修正を行うというものであるから、当審判所においても合理的なものと認める。
ニ Y社の出資の評価
 同族会社に財産が無償で提供された場合において贈与税の課税対象となる経済的利益の価額、すなわち同族会社の株式の価額の「増加した部分に相当する金額」を算出するときの「財産の提供が行われた直後における株式の価額」及び「財産の提供が行われる直前における株式の価額」の評価は、上記ハの(ロ)の評価通達が定められている趣旨に照らせば、評価通達179の定めに従って算出することが合理的である。
 そうすると、Y社は、請求人及びその親族が出資のすべてを保有している同族会社であり、上記ロの(イ)のとおり、評価通達178における小会社に該当することから、同社の出資は、1口当たりの純資産価額によって評価することとなるが、選択により「L」を0.50として、「類似業種比準価額×L+1株当たりの純資産価額×(1-L)」の算式により計算した金額で評価することができるところ、原処分庁は、「L」を0.50とする計算方法により評価しており、この方法は請求人に不利益とは認められないことから、当審判所においても、この方法によりY社の出資1口当たりの価額を評価する。
 ところで、原処分庁は、Y社の出資1口当たりの純資産価額の算定上、同社が取得した本件借地権が、上記イの(ヘ)の評価通達185を適用するに当たり、同通達のかっこ書きにおける、評価する会社が課税時期前3年以内に取得した土地及び土地の上に存する権利等に該当するとして、課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価する旨主張する。
 しかしながら、評価通達185のかっこ書きの趣旨が、評価する会社が課税時期の直前に取得し価額が明らかになっている土地等については純資産価額の計算上、その価額で行うことが合理的であるということに照らせば、少なくとも課税の基因となった無償移転に係る土地等について同かっこ書きを適用することは予定されていないと解されること、また、同かっこ書きは、「評価会社が課税時期前3年以内に取得した土地及び土地の上に存する権利等」と限定しており、会社に対し無償で財産の提供があった時に贈与があったとみなされ当該提供のあった日が課税時期となる本件のような場合においては、課税時期が同かっこ書きにおける課税時期前に含まれないことは文理上も明らかであることから、同かっこ書きは、本件のような課税時期において無償取得された財産については適用されないと解することが相当である。
 さらに、相続税法第9条の規定の趣旨が、法律上は贈与契約による財産の取得ではなくとも、対価を支払うことなく実質的に贈与と同様の経済的効果が生じる場合に、税負担の公平の見地からその経済的利益の価額を贈与により取得したものとみなして贈与税を課税するということに照らせば、個人が直接、贈与により土地等を取得した場合には、評価通達に基づき路線価等によりその土地等の価額を計算することになるところ、法人が贈与により土地等を取得し当該法人の株主等にみなし贈与が発生する場合には、受贈益の計算において株式1株当たりの純資産価額の計算上、当該みなし贈与の基因となった土地等の価額を評価することになるが、この場合、当該土地等の価額を評価通達185のかっこ書きに基づき課税時期における通常の取引価額に相当する金額により計算することとすれば、個人が贈与により土地等を取得した場合の価額すなわち路線価等に基づく価額と異なる結果になることとなり合理的ではないと考えられる。このことからも、請求人が贈与により取得したものとみなされる経済的利益の額を算定する際のY社の純資産価額の計算をする上での本件借地権の額は、個人が直接、借地権の無償設定により贈与を受けた場合に評価通達に基づき路線価等により当該借地権の価額を評価するのと同様に評価通達185のかっこ書きの定めを適用せず、路線価等により評価することが相当であると認められ、その金額は別表1のとおり86,844,156円となる。
 そうすると、Y社がEから本件借地権の無償の設定を受け、同社の資産が増加したことに伴い、同社の社員である請求人が、同社の出資の価額が増加したことにより受けた経済的利益の価額は、本件借地権の無償設定の直後のY社の出資1口当たりの価額から本件借地権の無償設定の直前の同社の出資1口当たりの価額を控除して同社の出資1口当たりの価額の増加額を求め、これに請求人が所有する同社の出資口数を乗じて算出したところ、別表2の「出資の価額の増加額」欄の「審判所認定額」欄のとおり○○○○円となる。

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(3) 争点3(調査手続の違法性の存否)について

イ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査によると、次の事実が認められる。
(イ) 原処分担当職員は、平成18年6月26日にX税務署の庁舎1階の面接室において、請求人及び平成15年4月○日被相続人Eの相続開始に係る相続税の申告の関与税理士であるM税理士に対して、本件借地権の設定に伴い請求人に対して贈与税が発生すること並びに相続開始前3年以内の贈与加算及び相続税計算上の贈与税額控除を説明した上で、贈与税の申告のしょうようを行ったが、それに対して、請求人は、本件借地権の設定時期の認定には誤りがあるとして当該申告のしょうようには応じなかった。
 なお、M税理士は、相続税に係る税理士法第30条《税務代理の権限の明示》の規定による代理権限の届出書を原処分庁に提出しているが、贈与税に係る同届出書は提出していない。
(ロ) 原処分担当職員は、M税理士に対し、平成18年7月12日に同税理士の事務所において、また、平成19年2月1日に同税理士が入院していたN病院において、上記(イ)と同様の説明をして贈与税の申告のしょうようを行ったが、同税理士は、請求人に当該申告を行わせることに応じなかった。
ロ 調査手続の違法性
 請求人は、贈与税の代理権限のない関与税理士に期限後申告のしょうようをし、請求人に対しては何ら説明していないことから、本件決定処分は手続に暇疵があり、違法である旨主張する。
 しかしながら、上記イのとおり、原処分担当職員は、平成18年6月26日に請求人及びM税理士に対して、本件借地権の設定に伴い贈与税が発生する旨の説明及び贈与税の期限後申告のしょうようを行っており、その後の平成18年7月12日及び平成19年2月1日にもM税理士に対して再度同様の説明及び期限後申告のしょうようの依頼を行っていることが認められる。
 さらに、国税通則法第25条《決定》は、納税申告書を提出する義務があると認められる者が当該申告書を提出しなかった場合には、その調査により、当該申告書に係る課税標準等又は税額等を決定する旨規定し、同法第28条《更正又は決定の手続》第1項は、決定は税務署長が決定通知書を送達して行う旨規定しているところ、決定処分を行うに当たって税務職員が調査結果について納税者に説明しなければならない旨を定めた法令上の規定はないことから、仮に、請求人に対して調査結果の十分な説明をせずに決定処分を行ったとしても直ちに違法となるものではない。
 加えて、相続税についての調査を行う際には、一般的に、被相続人から相続人への贈与の有無について確認をする必要があることから、必然的に贈与税の調査が併せて行われることとなり、その結果、例えば被相続人から相続人に対して贈与が行われていることが確認され、その贈与が相続開始前3年以内に行われているときには、その内容を請求人及び請求人の相続税に係る関与税理士に対して説明の上、相続税の修正申告のしょうようを行うとともに、贈与税の申告が必要な場合には、併せてその指導が行われているところである。このように、相続税と贈与税の課税は密接不可分の関係にあり、同時に処理することが、原処分庁だけでなく、請求人の便宜にも資することに照らせば、本件において、原処分担当職員が関与税理士を通じて、贈与税の申告のしょうようをしたとしても、贈与税の調査手続に瑕疵があったとは認められない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

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(4) 本件決定処分について

 贈与税の課税価額の合計額は、上記(2)のニで認定したY社の出資の価額の増加額○○○○円に、上記1の(3)のワの平成13年10月31日の現金贈与○○○○円を加えた○○○○円となる。そこで、この額を基に請求人の納付すべき税額を算出すると別表3の「納付すべき税額」欄の「審判所認定額」欄のとおり、○○○○円となる。
 以上の結果、請求人の贈与税の課税価格及び納付すべき税額は、本件決定処分の額を下回るから、本件決定処分はその一部を取り消すべきである。

(5) 本件賦課決定処分について

 上記(4)における本件決定処分の一部取消しに伴い、無申告加算税の額の基礎となる税額は○○○○円となり、また、この税額の計算の基礎となった事実について、通則法第66条《無申告加算税》第1項ただし書きに規定する正当な理由があるとは認められない。
 そうすると、請求人の無申告加算税の額は、○○○○円となり、本件賦課決定処分の額を下回るから、本件賦課決定処分はその一部を取り消すべきである。

(6) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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