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(平20.4.1、裁決事例集No.75 633頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、死因贈与により土地を取得した者の滞納国税を徴収するために、贈与者の相続人である審査請求人(以下「請求人」という。)に連帯納付義務の督促処分をしたのに対し、請求人が、本来の納税義務者に対して適正な徴収手続をしていれば滞納国税は完納されていたはずであり、それを怠って行われた当該督促処分は徴収権の濫用に当たるとして同処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、平成19年1月25日付で、A(以下「本件滞納者」という。)に係る別表1の滞納国税(以下「本件滞納国税」という。)について、国税通則法(以下「通則法」という。)第43条《国税の徴収の所轄庁》第3項の規定に基づき、B税務署長から徴収の引継ぎを受けた。
ロ 原処分庁は、平成19年8月20日付で、本件滞納国税を徴収するため、請求人に対し、相続税法第34条《連帯納付の義務》第1項の規定に基づく相続税の連帯納付義務について、通則法第37条《督促》第1項の規定に基づき、連帯納付義務に係る督促状を送付した(以下「本件督促処分」という。)。
ハ 請求人は、平成19年9月3日、本件督促処分を不服として審査請求をした。

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(3) 関係法令

イ 相続税法第1条の3《相続税の納税義務者》第1号は、相続又は遺贈(贈与をした者の死亡により効力を生ずる贈与を含む。)により財産を取得した個人で当該財産を取得した時においてこの法律の施行地に住所を有するものは、この法律により、相続税を納める義務がある旨規定している。
ロ 相続税法第34条第1項は、同一の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得したすべての者は、その相続又は遺贈により取得した財産に係る相続税について、当該相続又は遺贈により受けた利益の価額に相当する金額を限度として、互いに連帯納付の責めに任ずる旨規定している。
ハ 通則法第37条第1項は、納税者がその国税を納期限までに完納しない場合には、国税局長(同法第45条《国税局長又は税関長が徴収する場合の読替規定》の規定による読み替え後のもの。以下同じ。)は、その納税者に対し、督促状によりその納付を督促しなければならない旨規定している。
ニ 通則法第41条《第三者の納付及びその代位》第2項は、国税の納付について正当な利益を有する第三者又は国税を納付すべき者の同意を得た第三者が国税を納付すべき者に代わってこれを納付した場合において、その国税を担保するため抵当権が設定されているときは、これらの者は、その納付により、その抵当権につき国に代位することができる旨規定している。
ホ 民法第500条《法定代位》は、弁済をするについて正当な利益を有する者は、弁済によって当然に債権者に代位する旨規定している。
ヘ 民法第504条《債権者による担保の喪失等》は、同法第500条の規定により代位をすることができる者がある場合において、債権者が故意又は過失によってその担保を喪失し、又は減少させたときは、その代位をすることができる者は、その喪失又は減少によって償還を受けることができなくなった限度において、その責任を免れる旨規定している。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ C(以下「本件被相続人」という。)は、平成11年5月○日に死亡し、本件被相続人の妻である請求人は、相続(以下「本件相続」という。)を開始した。
ロ 本件被相続人の弟である本件滞納者は、本件被相続人から死因贈与により別表2の土地を取得した(以下「本件死因贈与」という。)。
ハ 上記ロの土地を含む別表2の不動産(以下「本件担保不動産」という。)の登記事項証明書によると、次の登記を経ている。
(イ) 平成14年12月○日受付、登記原因を「平成11年5月○日遺贈による相続税および利子税の平成14年12月○日設定」、債権額を「金○○○○円 内訳 相続税額金○○○○円および利子税の額金○○○○円」、債務者を「A」(本件滞納者)、抵当権者を「財務省(取扱庁 B税務署)」とする抵当権(以下「本件抵当権」という。)の設定。
(ロ) 平成16年4月○日受付、登記原因を同日解約とする本件抵当権の抹消。
(ハ) 平成16年4月○日受付、登記原因を同日売買、所有者をD社とする所有権移転。

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2 主張

(1) 請求人

 本件督促処分は次のとおり不当又は違法である。
イ 相続税の連帯納付における徴収権の濫用
 本件滞納者は、本件担保不動産を売却しているが、その売却代金は時価に照らすと○億円以上と予想され、本件抵当権に優先する他の抵当権の被担保債権額の合計額を差し引いても本件抵当権で担保される延納中の相続税に相当する額の剰余は十分にあったはずである。しかし、B税務署長は、本件抵当権を解約するに当たって、当該剰余分から延納中の相続税を徴収せず、かつ差替え担保の提供も受けておらず、抵当権者であるB税務署長に極めて重大な過失があるといえる。そして、本件滞納者に対する滞納処分に重大な過失があるにもかかわらずに行われた本件督促処分は、相続税法第34条第1項が規定する連帯納付責任にいわゆる補充性が認められないことを考慮しても、徴収権の濫用に当たる(大阪地裁平成14年10月7日判決)というべきである。
ロ 民法第504条の類推適用
 民法第504条の規定により、B税務署長が重過失によってその担保を喪失したときは、代位をすることができたはずの請求人は、その喪失によって償還を受けることができなくなった限度において、その責任を免れる。
ハ 通則法第41条第2項の適用
 通則法第41条第2項の規定により、請求人は連帯納付義務に基づき納付した場合、抵当権が設定されていて初めて国に代位して本件滞納者に求償できるのであるから、国は上記抵当権を保存すべき義務を請求人に負担しているが、この義務に違反した以上、請求人は上記抵当権によって回収できたはずの相続税について連帯納付義務を免責される。

(2) 原処分庁

 本件督促処分は次のとおり適法である。
イ 本件督促処分の適法性
 本件督促処分は、相続税法第34条及び通則法第37条の規定に則り、適法に行われている。
ロ 相続税の連帯納付における徴収権の濫用
 連帯納付義務は、相続税の徴収の確保を図るために課された特別の責任であるから、本来の納税義務者が現に十分な財産を有し、同人から固有の相続税の徴収を図ることが極めて容易であるにもかかわらず、国税当局が同人又は第三者の利益を図り、あるいは連帯納付義務者に損害を与える目的をもって、恣意的に、本来の納税義務者からの徴収を行わず、連帯納付義務者に対してその義務の履行を求めたという事情の存する場合には、徴収権の濫用があると評価できる余地もあるところ(国税不服審判所平成15年7月3日裁決)、B税務署長及び原処分庁が恣意的な徴収手続を行った事実はないから、本件督促処分は徴収権の濫用に当たらない。
 また、連帯納付義務は補充性がないから、本来の納税義務者に対する徴収手続を怠った結果徴収できなくなったという事実は連帯納付義務に影響を及ぼさず(東京地裁平成10年5月28日判決)、本来の納税義務者に対する徴収手続と連帯納付義務者に対する徴収手続は別個独立の手続であるから(大阪地裁平成13年5月25日判決)、本件担保不動産の売却価額などは請求人の連帯納付義務に影響を及ぼさない。
ハ 民法第504条の類推適用
 請求人が引用する大阪地裁平成13年5月25日判決は、連帯納付義務について、本来の納税義務者に対する徴収手続と連帯納付義務者に対する徴収手続は本来的には別個独立の手続であるとした上で、民法第504条を類推適用すべきとの主張も、これを根拠づける規定は見当たらず、本来の納税義務者に対する徴収手続と連帯納付義務者に対する徴収手続の関係にかんがみればそのまま採用することはできないと判示しており、民法第504条の類推適用は消極的に解さざるを得ない。
ニ 通則法第41条第2項の適用
 同項は、国税の納付について正当な利益を有する第三者又は国税を納付すべき者の同意を得た第三者が、国税を納付すべき者に代わってこれを納付した場合において、その国税を担保するため抵当権が設定されているときは、これらの者は、国税の納付について正当な利益を有すること又は国税を納付すべき者の同意を得たことを証する書面を、その納付の日の翌日までに税務署長に提出した場合には、その抵当権につき国に代位することができる旨規定しているものであって、請求人が主張するような抵当権を維持すべき義務を税務署長に課している規定ではないから、当該義務の存在を前提とする請求人の主張には理由がない。

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3 判断

(1) 法令解釈

イ 相続税の連帯納付義務
(イ) 相続税の連帯納付義務の徴収手続
 相続税法第34条第1項にいう相続税の連帯納付義務は、相続人等が2人以上ある場合に、相続税徴収の確保を図るため、相互に各相続人等に課された特別な責任であり、その義務履行の前提となる連帯納付義務の確定は、各相続人等の固有の相続税の納税義務の確定という事実に照応して、法律上当然に生ずるものであるから、連帯納付義務につき格別の確定手続を要するものでなく、相続人等の固有の相続税の納税義務が確定すれば、国税の徴収に当たる所轄庁は、連帯納付義務者に対して、徴収手続を行うことが許されるものと解される。
 また、相続税の連帯納付義務者と本来の納税義務者との間には、相続税法第34条第1項の文言上本来の納税義務者に対し滞納処分を執行しても徴収すべき税額に不足すると認められる場合に限り、初めて連帯納付義務者がその補充としてその履行の責任を負うという関係は認められず、連帯納付義務者は本来の納税義務者に対する滞納処分の状況如何にかかわらず、連帯納付義務を負担するものと考えられる。
 すなわち、本来の納税義務者に対する徴収手続と連帯納付義務者に対する徴収手続は、本来的に別個独立の手続であるというべきである。
(ロ) 相続税の連帯納付義務者に対する徴収権の濫用の該当性
 本来の納税義務者に対する徴収手続と連帯納付義務者に対する徴収手続の関係にかんがみると、国税当局が本来の納税義務者に対する滞納処分等の徴収手続を適正に行っていれば、本来の納税義務者から滞納に係る相続税を徴収することが可能であったのに、その徴収手続を怠った結果、本来の納税義務者から相続税を徴収することができなくなったという事実があったとしても、この事実は、相続税の連帯納付義務の存否又はその範囲に影響を及ぼすものではなく、国税当局が他の相続人等に対し連帯納付義務の履行を求めて徴収手続を進めたとしても、これをもって徴収権の濫用と評価することはできないと解すべきである。
 もっとも、相続税の連帯納付義務は、法が相続税の徴収を確保するため各相続人等に課した特別の責任であることに照らすと、本来の納税義務者が現に十分な財産を有し、同人から滞納に係る相続税を徴収することが極めて容易であるにもかかわらず、国税当局が同人又は第三者の利益を図る目的をもって恣意的に同相続税の徴収を行わず、相続税法第34条第1項の規定に基づき、他の相続人等に対して滞納処分を執行したというような場合には、他の相続人等に連帯納付義務の履行を求めることが形式的には租税法規に適合するものであっても、正義公平の観点からみて徴収権の濫用に当たると評価すべき場合もあり得ると解される。
ロ 民法第504条の類推適用について
 相続税法、通則法及び徴収法のいずれにも、民法第504条の規定の準用又は類推適用による相続税の連帯納付義務の消滅を根拠づける趣旨は見当たらない。また、連帯納付義務者はその徴収手続において本来の納税義務者と別個独立した関係にある点からも、同条を連帯納付義務者に類推適用することは相当でない。
ハ 通則法第41条第2項の規定について
 同項は、納税者に代わって国税を納付した者はその取得した求償債権の限度で納付した国税の担保たる抵当権につき国に代位することができる旨を規定するだけで、国に対して本件抵当権の保存を義務付けるものと解することはできない。

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(2) 認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば次の事実が認められる。
イ 本件滞納者は、本件滞納国税に係る相続税の延納担保として、本件担保不動産のほか別表3の土地を提供している。
ロ 本件滞納国税に係る相続税の延納許可時の本税額は○○○○円、本件督促処分時の本税残額は○○○○円、平成20年1月末の本税残額は○○○○円である。

(3) 請求人の主張について

 請求人は、本件担保不動産の売却代金から本件滞納国税を回収できたはずのB税務署長が、差替え担保の設定や本件滞納国税を徴収せずに本件抵当権を解約することは極めて重大な過失があり、原処分庁が行った本件督促処分は徴収権の濫用に当たると主張する。
 しかしながら、相続税の連帯納付義務者と本来の納税者に対する徴収手続の関係は、上記(1)のイの(イ)のとおり、本来的には別個独立した手続ととらえられ、本来の納税者に対する徴収手続が徴収権の濫用に当たると評価すべき場合については、上記(1)のイの(ロ)のとおりに解するのが相当であり、また、相続税の延納における担保物件については、延納税額の減少、担保物件の価額変動等の諸事情の変化により延納継続中にその一部については引き続き担保として提供させる必要がないと認められる場合があり得るのであって、その場合には、税務署長等は、延納税額の減少や担保物件の価額の変動等の諸事情を考慮して担保解除の相当性について判断することになるものと解される。
 そして、当審判所の調査によれば、本件滞納国税の延納許可時には、本件担保不動産及び別表3の不動産が本件滞納国税の担保として提供されていたが、B税務署長は本件抵当権の解除に当たって、定められた延納担保の一部解除の手続に従って処理を進め、その結果、一部解除の要件に相当し、徴収不足は生じないものと判断して、本件抵当権の抹消手続を行ったことが認められる。さらに、B税務署長及び原処分庁は本件滞納者に対して継続して納税催告を続けており、上記(2)のロのとおり、本件滞納国税に係る相続税の本税残高は減少してきており、本件滞納者が一部納付を行っていることが推認される。また、B税務署長が当該一部解除を行うまでの過程で、本件滞納者又は第三者の利益を図る目的をもって、差替え担保の提供を受けず、本件必要担保額の支払も受けずに、恣意的に、本件抵当権の抹消手続を行ったと評価すべき事実は認められない。
 そうすると、仮にB税務署長の判断に誤りがあり、請求人が主張するとおりの事実によって、本件滞納国税の徴収が図られなくなったとしても、上記(1)のイの(ロ)のとおり、そのことをもって、本件督促処分が国税徴収権の濫用に当たるものということはできないと解すべきである。
 したがって、この点に関する請求人の主張は理由がない。

(4) 本件督促処分の適法性

 請求人は、民法第504条の類推適用又は通則法第41条第2項の適用により、連帯納付義務を免責される旨主張するが、上記(1)のロ及びハのとおり理由がない。
 そして、請求人は、本件相続により受けた利益の価額に相当する金額を限度として本件滞納国税について連帯納付義務を負い、本件滞納者は、本件督促処分時において本件滞納国税を納付していなかったことが認められる。
 したがって、原処分庁は本件滞納国税を請求人から徴収するために、通則法第37条第1項の規定に従って本件滞納国税に係る請求人の上記連帯納付義務について督促したものであるから、本件督促処分は適法に行われている。

(5) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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