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(平20.4.7、裁決事例集No.75 745頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、納税者の滞納国税を審査請求人(以下「請求人」という。)が当該納税者から担保の目的として譲り受けていた債権から徴収するため、請求人に対して行った譲渡担保権者の物的納税責任に係る告知処分、債権の差押処分及び配当処分について、請求人が、当該債権は当該告知処分時において既に請求人に完全に帰属し、譲渡担保財産として存続していなかった等として、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、平成19年6月7日付で、納税者C社(以下「本件滞納者」という。)の別表1の滞納国税(以下「本件滞納国税」という。)を徴収するに当たり、別表2の各債権(以下「本件各債権」という。)が、国税徴収法(以下「徴収法」という。)第24条《譲渡担保権者の物的納税責任》第1項に規定された譲渡担保財産に該当するとして、請求人に対し、本件滞納国税を本件各債権から徴収する旨、同条第2項の規定に基づく告知書を発して告知した(以下、この告知処分を「本件告知処分」という。)。
ロ 原処分庁は、平成19年6月18日付で、別表2の順号1の債権について差し押さえ、同日、D地方法務局供託官に債権差押通知書を送達した(以下、この差押処分を「本件差押処分A」という。)。
ハ 原処分庁は、平成19年6月19日付で、別表2の順号11の債権について差し押さえ、同日、債権差押通知書をE社に送達し、また、同月20日付で同表の順号12の債権について、○○○○円の支払請求権を差し押さえ、同日、債権差押通知書をF社に送達した(以下、これらの各差押処分を併せて「本件差押処分B」という。)。
二 原処分庁は、平成19年6月21日、別表2の順号11の債権について、E社から取り立て、同月22日付で、配当計算書を作成してその謄本を請求人あてに発送し、また、同表の順号12の債権について、同日、F社から本件差押処分Bに係る金額を取り立て、同月25日付で、配当計算書を作成してその謄本を請求人あてに発送した(以下、これらの各配当処分を併せて「本件配当処分」という。)。
ホ 請求人は、平成19年6月27日、本件告知処分、本件差押処分A、本件差押処分B及び本件配当処分を不服として異議申立てした。
ヘ 原処分庁は、平成19年9月18日付で、本件告知処分及び本件差押処分Aについて、別表1の順号1の滞納国税に係る部分を取り消した。
ト 異議審理庁は、平成19年9月20日付で、上記ホの異議申立てについて、本件差押処分Bに対する異議申立てを却下し、その他の異議申立てを棄却する異議決定をし、同月25日、その決定書謄本を請求人に送達した。
チ 請求人は、平成19年10月24日、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして審査請求した。
リ 原処分庁は、平成20年3月24日付で本件差押処分Aについて、当該差押えを解除する旨D地方法務局供託官に通知し、差押えの解除をした。

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(3) 関係法令

イ 徴収法第24条第1項は、納税者が国税を滞納した場合において、その者が譲渡した財産でその譲渡により担保の目的となっている譲渡担保財産があるときは、その者の財産につき滞納処分を執行してもなお徴収すべき国税に不足すると認められるときに限り、譲渡担保財産から納税者の国税を徴収することができる旨規定している。
ロ 徴収法第24条第2項は、国税局長(同法第184条《国税局長が徴収する場合の読替規定》の規定による読み替え後のもの。以下同じ。)は、同条第1項の規定により徴収しようとするときは、譲渡担保権者に対し、徴収しようとする金額その他必要な事項を記載した書面により告知しなければならない旨、及びこの場合においては、その者の住所又は居所(事務所及び事業所を含む。)の所在地を所轄する税務署長及び納税者に対しその旨を通知しなければならない旨規定している。
ハ 徴収法第24条第3項は、同条第2項の告知書を発した日から10日を経過した日までにその徴収しようとする金額が完納されていないときは、徴収職員は、譲渡担保権者を第二次納税義務者とみなして、その譲渡担保財産につき滞納処分を執行することができる旨規定している。
二 徴収法第24条第7項は、同条第2項の規定による告知後、納税者の財産の譲渡により担保される債権が債務不履行その他弁済以外の理由により消滅した場合においても、なお譲渡担保財産として存続するものとみなして、同条第3項の規定を適用する旨規定している。
ホ 徴収法第24条第8項は、同条第1項の規定は、国税の法定納期限等以前に、担保の目的でされた譲渡に係る権利の移転の登記がある場合又は譲渡担保権者が国税の法定納期限等以前に譲渡担保財産となっている事実を、その財産の売却決定の前日までに証明した場合には、適用しない旨規定している。
ヘ 動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律(以下「債権譲渡特例法」という。)第4条《債権の譲渡の対抗要件の特例等》第1項は、法人が債権を譲渡した場合において、当該債権の譲渡につき債権譲渡登記ファイルに譲渡の登記がされたときは、当該債権の債務者以外の第三者については、民法第467条《指名債権の譲渡の対抗要件》の規定による確定日付のある証書による通知があったものとみなし、当該登記の日付をもって確定日付とする旨規定している。
ト 債権譲渡特例法第4条第2項は、同条第1項に規定する登記がされた場合において、当該債権の譲渡及びその譲渡につき債権譲渡登記がされたことについて、譲渡人又は譲受人が当該債権の債務者に登記事項証明書を交付して通知したときは、当該債務者についても、同条第1項と同様とする旨規定している。
チ 民法第494条《供託》は、弁済者が過失なく債権者を確知することができないときは、債権者のために弁済の目的物を供託してその債務を免れることができる旨規定している。

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(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いはなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人と本件滞納者との間で作成された平成17年9月22日付「金銭消費貸借契約書」と題する書面には、要旨次のとおり記載されている。
(イ)請求人と本件滞納者は、請求人が滞納者に対し以下の約定により金員を貸し付けることに合意したので、本契約を締結する。
(ロ)第1条 請求人は、本件滞納者に対し、本日○○○○円を貸し渡し、本件滞納者はこれを借り受けた。
(ハ)第3条 本貸付金の弁済期限は、次のとおりとする。
 平成18年9月末日○○○○円、平成19年9月末日○○○○円、平成20年9月末日○○○○円を分割払でそれぞれ返済する。
(ニ)第4条 本件滞納者に、次に掲げる事項(支払の停止、破産、手形取引停止処分、強制執行等)のひとつでも該当する事由が生じたときは、何らの通知、催告がなくとも当然に、本件滞納者は一切の債務について期限の利益を喪失するものとし、直ちにその債務を弁済する。
ロ 本件滞納者と請求人との間で作成された平成17年9月30日付「債権譲渡契約書」と題する書面(以下「本件譲渡担保契約書」という。)には、要旨次のとおり記載されている。
(イ)本件滞納者と請求人とは、同者間の債権譲渡について、本日次のとおり契約を締結する。
(ロ)第1条 本件滞納者と請求人とは、請求人及び請求人が取立委任を受けているG社等が、本件滞納者に対して将来有することとなる売掛金債権並びに本日付の金銭消費貸借契約に基づく債権合計金○○○○円を担保するため、次の(ハ)以下の本件譲渡担保契約書の定めに従い譲渡担保契約を締結する。
(ハ)第2条 本件滞納者は、請求人に対し、本件滞納者が売掛先一覧表記載の売掛先(別表2の「第三債務者(供託者)」欄の取引先)に対し有する債権(本件滞納者の商品売却に関して平成17年8月1日から平成22年9月30日までの間に売掛先に対して発生した売掛金債権)を本日譲渡する。
(ニ)第3条第1項 本件滞納者は、上記(ハ)の債権譲渡について債権譲渡特例法第5条の債権譲渡登記手続に協力する。存続期間は5年とする。
(ホ)第3条第2項 本件滞納者は、請求人から請求があり次第速やかに請求人の指定する売掛先に対して配達証明付内容証明郵便にて債権譲渡の通知を行う。
ハ 上記ロの(ハ)の債権譲渡については、平成17年○月○日○時○分付で、債権譲渡特例法第4条第1項に規定する債権譲渡登記がされている。
ニ H地方裁判所は、平成18年10月○日午後5時、本件滞納者に対して破産手続開始決定をした。

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2 主張

請求人 原処分庁
(1) 本件告知処分は次のとおり違法である。
イ 本件各債権は、本件告知処分時、既に譲渡担保財産として存続していなかった。
 本件滞納者は破産手続が開始され、譲渡担保に係る被担保債権の弁済見込みはなかった。そして、請求人は、本件告知処分時までに本件各債権の第三債務者に対し債務者対抗要件を具備し、判決等による本件各債権に係る供託金の還付請求権を有することの確認も得ている。
 よって、本件告知処分までに、現実に本件各債権の回収作業に着手して、被担保債権を消滅させて清算可能な状態にあり、譲渡担保権を実行しているといえるから、本件各債権は、請求人に完全に帰属していたというべきである。
(1) 本件告知処分は次のとおり適法である。
イ 本件各債権は譲渡担保財産として存続していた。
 譲渡担保財産が債権である場合、譲渡担保権者が第三債務者から当該債権を現実に取り立て、被担保債権の弁済に充当するまでは、消滅する被担保債権の額が確定せず清算等もできないから、その時点までは担保権の実行は完了せず、譲渡担保財産として存続すると解されるところ、請求人が、本件告知処分までに、本件各債権を現実に取り立てて被担保債権の弁済に充当した事実はないから、本件各債権は譲渡担保財産として存続していた。
ロ 本件滞納者は、徴収不足の状態にはなかった。
 本件滞納者は、本件告知処分時に破産手続中で、破産管財人が本件滞納者の財産を換価、回収中であり、財団債権の額も未確定であったから、破産財団から滞納国税の全額を徴収できる可能性があった。
ロ 本件滞納者は、徴収不足の状態にあった。
 本件滞納者は、破産財団を含めても本件滞納国税を充足できる財産がなく、滞納処分を執行してもなお徴収すべき国税に不足していた。
(2) 請求人は、上記(1)のとおり、物的納税責任を負う理由はないから、本件滞納国税を本件各債権から徴収するためにされた本件配当処分は違法な処分である。 (2) 本件告知処分は適法であり、これに基づく本件配当処分も適法である。

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3 判断

 本件審査請求は、本件告知処分時において、1本件各債権が譲渡担保財産として存続していたか否か、2本件滞納者の財産は徴収不足の状態であったか否かに争いがあるので、これらについて判断する。

(1) 本件各債権が譲渡担保財産として存続していたか否かについて

イ 一般に、譲渡担保権は、弁済や担保権の実行による被担保債権の消滅に伴い消滅すると解されており、徴収法第24条第7項の規定からすると、同条も通常は被担保債権が消滅した場合に譲渡担保権が消滅し、譲渡担保財産が存在しなくなることを前提に規定されているものと解される。
 そうすると、譲渡担保権者がその意思表示により担保権の実行を開始しても、当該実行が完了するまで、すなわち譲渡担保財産の適正な評価又は換価をした上で被担保債権の清算等を行い、消滅する被担保債権の額が確定して消滅するまでは譲渡担保権は消滅せず、譲渡担保権の設定された財産は、譲渡担保財産として存続するものと解され、この理は譲渡担保財産が債権である場合にも当てはまると考えられる。そして、譲渡担保財産が債権の場合、譲渡担保権者としては担保権の実行として現実に譲渡債権から回収した金額と同額の被担保債権を消滅させるというのが通常の意思であると解されることからすると、当事者間でこれと異なる特段の合意をしない限り、譲渡担保権者が第三債務者から現実に譲渡債権を取り立てて被担保債権の弁済に充当するまでは被担保債権は消滅しないから、その時点までは担保権の実行は完了せず、徴収法第24条第1項にいう譲渡担保財産として存続すると解するのが相当である(大阪高等裁判所平成16年9月9日判決平成16年(行コ)第60号参照)。
ロ 認定事実
 請求人提出資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ)本件譲渡担保契約書に基づき、本件滞納者が被通知人に対して有する売掛債権を請求人に譲渡する旨記載された平成18年4月4日付の「債権譲渡特例法に基づく通知書」と題する書面が、同月5日、別表2の「第三債務者(供託者)」欄の者にそれぞれ送達された。
(ロ)別表2の順号1から10までの各債権の「第三債務者(供託者)」欄の者は、当該各債権について、上記(イ)の書面で通知された債権譲渡の真偽が不明であることを理由として、また、同表の順号1、2及び6の債権については、加えて、J社を譲受人とする債権譲渡通知書が送達されたことも理由とし、同表の「供託年月日」欄の各年月日に、D地方法務局に対し、民法494条の規定に基づきそれぞれ供託した。
(ハ)請求人は、平成18年9月○日、本件滞納者及びJ社に対し、上記(ロ)の各供託金の還付請求権を請求人が有することの確認を求めH地方裁判所に訴訟を提起し、同裁判所は、同年10月○日、別表2の順号1、2及び6の債権に係る供託金の還付請求権は請求人とJ社との間で請求人に帰属する旨判決し、同判決は同年11月○日に確定した。また、請求人と本件滞納者との間においては、平成19年6月○日、請求人が上記(ロ)の各供託金の還付請求権を有する旨、裁判上の和解が成立した。
(ニ)請求人は、平成19年6月14日、別表2の順号2から10までの各債権に係る供託金について、D地方法務局から還付を受けた。
ハ 本件においては、本件滞納者と請求人との間に、上記1の(4)のイ及びロのとおり、本件譲渡担保契約書に係る譲渡担保契約及び当該譲渡担保の被担保債権に係る金銭消費貸借契約が締結されたことが認められるが、当該各契約に係る書面によれば、第三債務者から現実に譲渡債権を取り立てて被担保債権の弁済に充当する以前に譲渡債権をその券面額で被担保債権の弁済に充当して被担保債権を消滅させるなど通常の意思と異なる特段の合意があったことは認められず、当審判所の調査によれば、上記契約の他に本件滞納者と請求人との間に、当該特段の合意があったという証拠も見当たらない。そして、請求人が、現実に本件各債権を回収した状況をみると、別表2の順号1、11及び12の各債権を回収した事実は見当たらず、同表の順号2から10までの各債権については、上記ロの(ニ)のとおり、当該各債権に係る供託金について平成19年6月14日にD地方法務局から還付を受けており、本件告知処分後に回収したことが認められる。
 したがって、請求人が本件告知処分以前に、本件各債権を現実に取り立てて被担保債権の弁済に充当し、被担保債権が消滅して担保権の実行が完了したということはできないから、本件各債権は、本件告知処分時において、徴収法第24条第1項の規定に係る譲渡担保財産に該当する。
ニ 請求人は、本件告知処分時において、本件滞納者が本件各債権を受け戻す余地はなく、請求人は現実に本件各債権の回収作業に着手して被担保債権の清算が可能であったから、本件各債権は譲渡担保財産として存続していない旨主張する。
 しかしながら、本件滞納者が破産手続開始決定を受け本件各債権を受け戻す余地が皆無であったとしても、当該事情をもって直ちに譲渡担保の被担保債権が消滅することはない。また、請求人が主張するところの本件各債権の回収作業、すなわち、請求人が、本件譲渡担保契約書に基づく債権譲渡について、上記ロの(イ)のとおり、第三債務者に対する債権譲渡特例法に基づく通知により第三債務者に対する請求人の対抗要件を備えたこと、及び上記ロの(ハ)のとおり供託金還付請求権について、請求人が、判決及び裁判上の和解により当該請求権が請求人に帰属する旨確認していることは、それぞれ請求人が被担保債権を清算することを目的として、債権回収の前段階として着手したものであると認められるにとどまり、当該着手があった時点において、本件各債権の回収が完了して被担保債権が消滅し、担保権の実行が完了したということはできないから、本件各債権は本件告知処分時においても、譲渡担保財産として存続していたものと認めるのが相当である。
 また、請求人は、被担保債権の清算が確実となった段階になって、告知処分を発するのは、請求人にとってあまりに酷な結果であるとして、当該経緯を考慮すべきである旨も主張しているが、被担保債権の清算による担保権実行完了の時期については、上記イの解釈のとおり、特段の合意をすることもできたのであるから、それをしなかった本件につき、あえて上記イの解釈と異なる考慮をすべき合理性はない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

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(2)  本件滞納者の財産は徴収不足の状態であったか否かについて

イ 譲渡担保権者が徴収法第24条第1項の規定により物的納税責任を負うのは、滞納者の財産について滞納処分を執行しても、なお徴収すべき国税に不足すると認められるときに限られるが、この「不足すると認められるとき」とは、同条第2項の告知書を発するときの現況において、滞納者に帰属する財産で滞納処分により徴収できるものの価額が滞納者の滞納国税の総額に満たないと認められる場合をいうものと解され、また、当該判定に当たっては、あらかじめ滞納者の財産を調査した結果に基づくことを要するものの、当該財産について滞納処分を現実に執行した結果に基づいて判定する必要はないと解するのが相当である。
ロ 認定事実
(イ) 当審判所の調査の結果によれば、本件告知処分時において、本件滞納者に帰属する財産は、当該破産財団に属する財産以外に認められない。
(ロ) 本件滞納者の破産手続(上記1の(4)のニに係る破産事件)に係る事件記録及び請求人の提出した当該破産手続に係る財産目録案によれば(いずれも、平成19年5月7日の債権者集会に係る資料である。)、当該破産財団に属する財産の評価額の合計は○○○○円であること、別除権に係る担保権によって担保される債権を除いた負債総額は○○○○円であり、そのうち財団債権の合計額は○○○○円、また、優先的破産債権の合計額は○○○○円であることがそれぞれ認められる。
ハ 本件において、本件滞納者は、平成18年10月○日に破産手続開始決定を受けており、上記ロの(イ)のとおり、本件告知処分時において、本件滞納者の財産は当該破産財団に属する財産がすべてであることが認められるから、滞納者の財産から本件滞納国税を徴収できるのは、当該破産手続上受ける弁済及び配当額のみであったと認められる。
 ところで、租税債権は、そのすべてが、破産手続における配当によらず破産財団から破産債権に先立って随時弁済を受けられる財団債権(破産法第151条《財団債権の取扱い》参照)となるわけではなく、破産手続開始前の原因に基づく租税債権の場合、1破産手続開始時、まだ納期限が到来していないもの又は納期限から1年を経過していない本税及び当該本税に係る延滞税は財団債権となるが(破産法第148条《財団債権となる請求権》第1項第3号参照)、2破産手続開始時、納期限から1年を経過している本税及び当該本税に係る延滞税のうち破産手続開始までの期間をその計算の基礎とする税額は優先的破産債権となり(破産法第98条《優先的破産債権》第1項参照)、3加算税のすべて及び上記2の本税に係る延滞税のうち破産手続開始後の期間をその計算の基礎とする税額は劣後的破産債権とされている(破産法第99条《劣後的破産債権等》第1項第1号参照)。そして、破産手続における配当では、破産債権について、優先的破産債権、一般破産債権、劣後的破産債権そして約定劣後破産債権の順位により配当される(破産法第194条《配当の順位等》第1項参照)。
 そこで、別表1の順号1を除く本件滞納国税をみると、いずれの滞納国税も本件滞納者の破産手続開始時、納期限から1年を経過している国税であるから財団債権には当たらず、本件滞納国税の各本税及び当該各本税に係る延滞税のうち平成18年10月○日までの期間に係る税額はそれぞれ優先的破産債権に区分され、本件滞納国税の各延滞税のうち同日後の期間に係る延滞税はそれぞれ劣後的破産債権に区分される。
 そうすると、破産財団に属する財産以外には本件滞納者に帰属する財産の存在は認められないところ、本件滞納者の破産事件においては、上記ロの(ロ)のとおり、当該破産財団に属する財産の評価額は、当該破産事件に係る財団債権及び優先的破産債権の合計額に満たないことが認められるから、本件滞納国税のうち少なくとも上記のとおり劣後的破産債権に区分される各滞納国税については、当該破産事件においても配当を受けられないであろう状況が認められ、本件告知処分に係る告知書を発するときの現況において、滞納者に帰属する財産で滞納処分により徴収できるものの価額が滞納者の滞納国税の総額に満たなかったということができる。
 請求人は、破産管財人が当該破産財団について換価、回収中であること、また、本件滞納者に対する従業員の退職金債権額が破産手続上未確定であった旨を指摘するが、これらの事情は、上記の認定に影響しない。
 したがって、本件告知処分時における本件滞納者の財産状況は、徴収法第24条第1項が規定する、滞納者の財産について滞納処分を執行しても、なお徴収すべき国税に不足する状態であったと認めるのが相当である。

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(3) 本件告知処分について

イ 本件告知処分に対する審査請求について
 請求人は、本件告知処分の全部の取消しを求めて審査請求している。
 しかしながら、請求人は、上記(1)のロの(ニ)のとおり、本件各債権のうち別表2の順号2から10までの各債権の弁済を受けていることが認められ、本件告知処分のうち当該各債権に係る部分は、当該弁済により物的納税責任の対象となる財産が消滅したため効力が消滅していることが認められる。
 したがって、請求人が本件告知処分のうち別表2の順号2から10までの各債権に係る部分についての取消しを求める法律上の利益はなく、本件告知処分のうち当該部分に係る審査請求は請求の利益を欠く不適法なものである。
ロ 本件告知処分の適法性について
 本件告知処分のうち、上記イに係る部分以外の部分は、原処分庁が、本件滞納者の財産につき滞納処分を執行してもなお本件滞納国税のうち別表1の順号1の国税を除く滞納国税に不足すると認められるため、徴収法第24条第1項の規定に基づき、本件譲渡担保契約書に係る譲渡担保財産として存在していた本件各債権から本件滞納国税のうち別表1の順号1の国税を除く滞納国税を徴収しようとするために同条第2項の規定に従って行ったものであると認められ、また、本件滞納国税のうち別表1の順号1の国税を除く各滞納国税の法定納期限等以前に、本件譲渡担保契約書に係る譲渡担保の登記又は設定がされていたという事実も見当たらず、同条第8項に該当することもないから、適法である。

(4) 本件差押処分Aに対する審査請求について

 請求人は、本件差押処分Aについて取消しを求め、審査請求している。
 しかしながら、原処分庁は、平成20年3月24日付で本件差押処分Aを解除しており、当該処分の取消しを求める審査請求は、その対象を欠く不適法なものである。

(5) 本件差押処分Bに対する各審査請求について

 請求人は、本件差押処分Bについて取消しを求め、それぞれ審査請求している。
 しかしながら、行政処分の取消しを求めるには、その取消しを求める処分の効力が現に存在していることが必要であるところ、当審判所の調査の結果によれば、原処分庁は、平成19年6月21日及び同月22日に徴収法第67条《差し押えた債権の取立》第1項の規定に基づいて、本件差押処分Bに係る各債権を、それぞれ第三債務者から取立てしており、本件差押処分Bは、当該各取立てによりそれぞれ目的を完了して効力が消滅していることが認められる。
 したがって、請求人が本件差押処分Bの取消しを求める法律上の利益はなく、これらの処分に対する審査請求は、いずれも請求の利益を欠く不適法なものである。

(6) 本件配当処分について

 本件配当処分は、原処分庁が、上記(3)のロのとおり、適法に本件告知処分を行い、本件告知処分に係る告知書を発した日から10日を経過した日までに当該告知額が完納されていなかったことから、徴収法第24条第3項の規定に基づいて本件各債権のうち別表2の順号11及び12の各債権からそれぞれ本件滞納国税を徴収するため、徴収法第62条の規定に従って行った本件差押処分Bにつき、当該差押えに係る各債権を上記(5)のとおり取立てし、当該各取立てに係る金銭を同法第128条の規定に基づき、同法第131条の規定に従ってそれぞれ配当したものであると認められ、当審判所の調査の結果によれば、本件差押処分B及び本件配当処分に係る各手続について違法事由はなく、適法である。

(7) その他

 原処分のその他の部分について、請求人は争わず、当審判所の調査の結果によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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