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(平20.6.30、裁決事例集No.75 760頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、原処分庁が、滞納会社の売掛債権に係る金員を審査請求人(以下「請求人」という。)が受領したことは国税徴収法(以下「徴収法」という。)第39条《無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務》に規定する滞納者がその財産につき行った無償又は著しく低い額の対価による譲渡、債務の免除その他第三者に利益を与える処分(以下「無償譲渡等の処分」という。)によるものであるとして、請求人に対して第二次納税義務の納付告知処分を行ったのに対し、請求人が、当該売掛債権は請求人に帰属するものであるから無償譲渡等の処分によるものではないなどと主張して、同処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2)審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、別表1に記載のA社(以下「本件滞納会社」という。)の滞納国税(以下「本件滞納国税」という。)を徴収するため、請求人に対し、徴収法第39条の規定に該当する事実があるとして、平成18年3月15日付の納付通知書により、同法第32条《第二次納税義務の通則》第1項の規定に基づき、納付すべき限度の額を○○○○円とする第二次納税義務の納付告知処分(以下「本件納付告知処分」という。)をした。
ロ 請求人は、本件納付告知処分を不服として、平成18年5月11日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は同年6月30日付で棄却の異議決定をした。
ハ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成18年7月24日に審査請求をした。

(3)関係法令

 徴収法第39条は、滞納者の国税につき滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合において、その不足すると認められることが、当該国税の法定納期限の1年前の日以後に、滞納者がその財産につき行った政令で定める無償又は著しく低い額の対価による譲渡、債務の免除その他第三者に利益を与える処分に基因すると認められるときは、これらの処分により権利を取得し、又は義務を免れた者は、これらの処分により受けた利益が現に存する限度において、その滞納に係る国税の第二次納税義務を負う旨規定している。

(4)基礎事実

イ 請求人は、平成10年4月○日に設立された同族会社で、本店所在地はP市p町○番であり、平成13年12月13日にBが取締役に就任(以下「請求人の代表者」という。)し、現在に至っている。
ロ 本件滞納会社は、昭和59年10月○日に繊維製品の販売並びに加工販売を主として営む目的で設立された同族会社であり、婦人服などの製造・販売を営むC社(以下「本件取引先」という。)と取引を行っていた。
 また、本件滞納会社の代表取締役には、平成7年8月29日付でD(以下「本件滞納会社の代表者」という。)が就任している。
ハ 本件取引先が、本件滞納会社にあてた平成16年1月10日締分の「支払明細書」と題する書面(以下「本件支払明細書」という。)には、平成15年12月15日から平成16年1月9日までの間の仕入金額の内訳等のほか当月の未払金額が○○○○円(以下「本件売掛債権」という。)である旨記載されている。
ニ 本件取引先は、平成16年1月23日付でE銀行F支店のG社(請求人)取締役B名義の普通預金口座(口座番号○○○○。以下「本件請求人口座」という。)へ本件売掛債権に係る金員○○○○円を振り込んでいる。

(5)争点

争点1 本件売掛債権は本件滞納会社と請求人のいずれに帰属していたものか。
争点2 本件売掛債権が本件滞納会社に帰属していたと認められる場合に、無償譲渡等の処分に該当する事実があるか否か。また、第二次納税義務による納付すべき限度の額はいくらか。

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2 主張

 当事者の主張は、別紙のとおりである。

3 判断

(1)認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ 本件滞納会社は、本件取引先に対して、平成15年12月1日付で、取引を継続したい旨の「更新取引申請書」を提出している。
ロ 本件滞納会社が作成した平成15年12月1日付の「覚書」と題する書面(以下「本件覚書」という。)には、本件滞納会社は本件取引先の主力工場として現在もそのノウハウを買われていると自負しているが、本件滞納会社の経営が切迫した状態にあり、本件滞納会社のスタッフも先行きが不安であると思うので、請求人に対し、現行の状態で全従業員と業務全般を踏まえて経営改善をお願いしたい旨記載されているが、本件滞納会社と請求人との間において本件滞納会社の営業を請求人に譲渡する旨の合意が成立した旨の記載はない。
ハ 本件滞納会社は、平成14年10月1日から平成15年9月30日までの事業年度に係る法人税について、青色の確定申告書を平成15年12月26日にH税務署長に提出しており、当該申告書に添付された貸借対照表によれば、平成15年9月30日現在の本件滞納会社の資産の合計金額は○○○○円、負債の合計金額は○○○○円となっている。           
ニ 本件滞納会社は、平成16年1月20日に、本件取引先に対し、本件売掛債権についての振込口座を本件請求人口座に変更してもらいたい旨の書面をファクシミリで送信した(以下、この書面を「本件FAX文書」という。)上で、その後、同日付の「取引口座内容変更依頼」と題する書面(以下「本件取引口座内容変更依頼書」という。)を本件取引先に提出した。
 なお、本件取引口座内容変更依頼書には、平成16年1月10日から、本件取引先との取引の相手方を本件滞納会社から請求人に変更することを依頼する旨が記載されているとともに、振込口座を「J銀行K支店 預金種類普通 口座番号   ○○○○ 口座名義A社代表取締役D」から本件請求人口座に変更することを依頼する旨記載されている。        
ホ 本件滞納会社が所有していた別表2記載の不動産(以下「本件不動産」という。)については、平成16年1月10日売買を登記原因とする請求人への所有権移転登記が経由されている。
ヘ 本件滞納会社の未払金等についての請求人の支払状況
(イ)請求人が異議審理庁の担当職員に提出した「給与明細書一覧」と題する書面には、「支給額合計○○○○円」、「控除額合計(源泉所得税預り金)○○○○円」、「差引支給額○○○○円」、「H16・1月分(12/11〜1/10)」との記載があり、また、請求人が当審判所に提出した本件請求人口座の普通預金通帳の写しには、平成16年1月29日に○○○○円が払い戻された旨の記載があり、当該金額について、「従業員加工料(1月分)」とのメモ書きが付されている。
(ロ)請求人は、本件滞納会社の未払金を支払った証拠として仮受金元帳及び領収書等の写しを当審判所に提出した。
ト 本件取引先が、原処分庁に対して送付した平成16年5月21日付の「ご通知」と題する書面(以下「本件通知書」という。)には、「本件取引先は、本件滞納会社に対して平成16年1月10日までの間、本件取引先が展開する1ブランドの約半数に相当する商品の製造最終工程について、年間製造販売計画に基づき、事前に原材料等を供給し、継続的に業務を委託していた。平成16年1月10日付にて、本件滞納会社より、同日をもって本件取引先と本件滞納会社との間の契約上の本件滞納会社の地位を請求人が承継した旨の同月20日付の本件取引口座内容変更依頼書を受領し、そこで、本件取引先は、本件滞納会社及び請求人の双方に上記の契約上の地位譲渡の事実が間違いないことを確認した」旨記載されている。
チ 本件滞納会社の元従業員であり、請求人の工場長であるL(以下「L工場長」という。)及び請求人の従業員らが連名で原処分庁に対して送付した平成16年4月5日付の「要請書」と題する書面(以下「本件要請書」という。)には、「私たちは、現在請求人の従業員として衣料品の製造を行っているが、平成16年1月9日までは本件滞納会社の従業員であり、従業員の請求人への身分異動とともに、本件滞納会社は身を引き、本件取引先とは請求人が取引することとなった。本件滞納会社が債務超過に至り経営が困難になったことにより、請求人が救済に乗り出したものであり、同月10日からの仕事は請求人の仕事である。」旨記載されている。
 また、L工場長は、当審判所に対し、「本件滞納会社の代表者からは、平成15年の11月か12月ごろに、次の会社に経営を引き継ぐから、会社を辞めなくても良いとの説明を受けていた。従業員たちからは新しい社長がだれであるのかわからないままでは不安であるという意見が出たので、私が請求人の代表者に対して、従業員に顔を見せるよう頼んだところ、平成16年1月10日ごろに、請求人の代表者が工場に来てあいさつをした。本件滞納会社から請求人に経営が引き継がれた時期は明確でないが、私の認識としては、平成16年1月9日までの本件取引先との取引は、本件滞納会社に帰属するものであり、私たちは本件滞納会社の従業員として仕事をしていたが、同月10日以降の本件取引先との取引は、請求人に帰属するものであり、私たちは請求人の従業員として仕事をしていた。」旨答述した。
リ 請求人の代表者は、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。
(イ)平成15年の秋くらいから、本件滞納会社の代表者から本件滞納会社を支援してくれないかという話になり、平成15年12月1日に、本件滞納会社の代表者と請求人の代表者との間における口頭契約による営業譲渡によって、請求人が本件滞納会社の事業を引き受けた。その目的は、請求人が本件滞納会社の工場(製造部門)と従業員を引き継いで、本件取引先との取引を継続することであり、本件滞納会社と請求人との間で、特に金銭の受渡しはなく、その他の資産や負債についての引継ぎ等はしていない。
 なお、本件滞納会社の取引先は本件取引先だけで、その取引形態は受託生産が100%であり、糸が自前であるほかは、現品支給の形態である。
 また、本件滞納会社に営業部門のようなものはなく、製造部門が本件滞納会社の事業のすべてであった。
(ロ)平成16年2月に本件取引先に対する本件滞納会社の売掛金が国税局から差し押さえられたという話を聞き、本件滞納会社が滞納していることを初めて知った。
 なお、その他の未払金があることも何も聞いていなかったが、後日未払いがあることを知った。
(ハ)本件取引先に対しては、口頭により、本件滞納会社から請求人が工場と従業員を引き継ぐことを説明し、本件滞納会社の口座に加工代金が振り込まれると給与の支払が滞るので、加工代金は従業員名義の口座に振り込むよう依頼したところ、個人では取引が認められないので法人で口座変更届を出すように言われ、取引口座内容変更届出書を提出した。
(ニ)本件要請書において、平成16年1月9日までは本件滞納会社の従業員であった旨と同月10日からの仕事は請求人の仕事である旨述べているのは、平成15年12月に請求人と本件滞納会社との間で内々に営業譲渡の話を進めていたが、従業員には年明けに話をしたので、そのような認識を持ったのではないか。しかし、請求人としては、同年12月11日から平成16年1月10日までの加工代金は、従業員が仕事をした結果として受け取るべき代金であり、給与支払に充てるのは当然の義務であると考えている。
ヌ 本件滞納会社の代表者は、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。
(イ)本件滞納会社は、本件取引先からMのブランドで特殊な洋服の縫製加工を受注していたが、資金繰りが悪化したため、事業をやめようかとも思ったが、仕事をやめると本件取引先も困ること及び従業員も30ないし40名いたので、何とかして会社を残したいと思い、請求人の代表者に面倒を見てほしいと相談した。
(ロ)本件覚書は、請求人から、請求人が本件滞納会社から事業を引き継いだ後に、従業員がいなくなると困ると言われたので、本件滞納会社の元取締役総務部長であり、現在請求人の従業員であるNが請求人に引き継ぐ内容をまとめて作成し、請求人に渡したものであり、引継ぎに関する書類はこれしかない。
(ハ)本件滞納会社と請求人との間では、従業員の雇用確保及び本件取引先との取引継続が目的であったから、債権・債務の引継ぎ・引受け及び金銭などの受渡しは一切ない。
(ニ)平成15年12月半ばに請求人の経理担当者が本件滞納会社に来て、2日くらいで経理関係の引継ぎをし、同月20日以降は、請求人が実質的な経理の権限を持ち、経理の支払は、同月末から請求人になったと聞いている。
(ホ)平成15年12月20日ごろに振込口座を従業員名義の口座としてもらうよう本件取引先の社長に電話連絡したところ、了解してくれた。その際に同社長は初めて請求人の名を知ったと思う。ただし、振込口座の変更はFAXではだめなので、平成16年2月に取引口座内容変更申請書を提出したと思う。
(ヘ)請求人に事業を引き継いだのは平成15年12月20日であると認識している。その理由は、同月10日に名義を変えようと思ったが、本件滞納会社名で本件取引先からの加工伝票がきており、それが完成するのに同月18日までかかり、本件取引先から同月20日以降に送付された加工伝票の名称欄に請求人が請求人名を加筆して区分しているはずであるからである。
ル 本件取引先の経理担当者であるTは、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。
(イ) 当社は、製造をすべて外部の業者に委託しており、本件滞納会社との契約は、縫製加工の委託契約であり、取引開始以降現在に至るまで、本件滞納会社及び請求人のいずれとも契約書の作成はしていない。
 なお、当社は、毎月10日を締切日として、前月11日から当月10日までの期間中の納品数量、金額を確認し、各外注先に支払通知書を送付し、毎月25日に指定の口座に加工代金を振り込んでいる。
(ロ) 平成16年1月20日に、本件滞納会社から本件FAX文書が送付されるまで請求人の名前は知らなかった。なお、FAX文書だけでは口座の変更手続として不十分なので、取引口座内容変更依頼の用紙を本件滞納会社あてに送付し、提出されてきたのが本件取引口座内容変更依頼書である。そして、当該依頼書の「上記の内容を平成16年1月10日から変更を依頼します。」との部分から、本件滞納会社から請求人に契約上の地位が承継されたと解釈しており、同日から振込口座を変更するという意味は、本件売掛債権を含むということなので、本件売掛債権は請求人のものであると認識している。
(ハ) 本件売掛債権については、既に平成16年1月20日に振込手続を終了していたので、取引銀行に組戻しを依頼し、本件取引口座内容変更依頼書のとおり、同月23日に本件請求人口座に○○○○円を振り込んだ。
(ニ) 請求人と本件滞納会社との間に営業の譲渡又は債権譲渡等があったかどうかは知らないし、通知も受け取っていない。
(ホ) 本件売掛債権に係る加工は、本件滞納会社に発注するとともに原材料を支給し、加工後、本件滞納会社から納品があったものであるが、平成15年12月10日までが本件滞納会社との委託契約であり、同月11日からが請求人との委託契約であると認識している。なお、当社としては、本件滞納会社が請求人に丸投げしても、製品をきちんと仕上げて、納期を守ってくれれば取引先についてはこだわらないという考えであった。
ヲ Nは、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。
(イ) 私は、本件滞納会社の元経理責任者であり、給与は前月11日から当月10日までの分を計算して、毎月28日に従業員の預金口座に振込みをしていた。
(ロ) 平成15年7月から8月に本件滞納会社の資金繰りが悪化し、平成15年11月から12月ごろに従業員の何人かの給与が未払いになったので、本件滞納会社の代表者と会社を存続させるためにはどうすればよいかを相談していたところ、本件滞納会社の代表者から会社の経営が代わることを聞かされた。ただし、本件滞納会社の代表者からは、具体的にいつ経営を引き継ぐというような話はなかった。
(ハ) 平成16年1月10日前後に、請求人名の看板が工場に設置され、請求人の代表者が、工場に来て、班長クラスの従業員に対して「今日から会社の経営が代わるが、本件取引先との取引を継続すれば給与を支払うことができるので、仕事を続けてほしい。」旨の説明をしたので、同日前後に本件滞納会社から請求人に経営が引き継がれたと認識した。
(ニ) 請求人の代表者からは、本件取引先との取引と従業員を引き受けて事業を継続すること、以前からの本件滞納会社の債務は関係がないので引き受けないこと等の説明があったが、結果として、電気代とか仕入代金の一部は、相手方から今までの分を支払わないと取引しないと言われ支払ったものもある。
(ホ) 平成16年1月10日ごろに本件滞納会社から請求人に経営が引き継がれたと認識しているので、平成15年12月分給与は本件滞納会社が平成15年12月末に支給したものと認識している。なお、私は、本件滞納会社の預金通帳と印鑑を預かっていたので、同月分の給与の振込手続を行った。
(ヘ)平成16年1月分の給与明細書は、私がパソコンから出力して作成したものを使用したが、給与の支給は請求人が行った。
(ト)平成16年1月末から2月初めに本件滞納会社が不渡りを出すことを認識していたので、従業員の給与を確保するため、本件取引先からの売上代金の振込口座を他の銀行に変更したという記憶がある。また、本件取引先に対する取引口座変更申請を行ったのは、平成16年1月末である。
(チ)本件滞納会社から、請求人に経営を引き継いだ後も、仕事を中断することなく引き続いて取引を行ったので、特に工程等の変更はなかった。

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(2)法令解釈

 イ 徴収法第39条に規定する第二次納税義務の制度は、本来の納税者が、納付すべき国税の法定納期限の1年前の日以後に、その財産について無償譲渡等の処分を行ったため、本来の納税者の財産に対して滞納処分を執行してもなお徴収すべき額に不足すると認められる場合に、これらの処分により権利を取得し、又は義務を免れた当該第三者に対して、当該国税の納付義務を補充的に負わせることによって、国税の徴収確保を図ろうとする制度であると解される。
 ロ そして、このような第二次納税義務の制度の趣旨にかんがみれば、無償譲渡等の処分とは、広く第三者に利益を与える行為をいい、第三者に利益を与える行為である限り、その態様に制限はないと解するのが相当である。  

(3)これを本件についてみると次のとおりである。

イ 争点1について
(イ)上記(1)のイのとおり、本件滞納会社は、本件取引先に対して、平成15年12月1日付の更新取引申請書を提出していることから、その時点においては取引を継続する意思があったと認められる。また、上記(1)のリの(ニ)のとおり、請求人の代表者は、同月に請求人と本件滞納会社との間で内々に営業譲渡の話を進めていたと答述しており、さらに、同ロのとおり、本件覚書には、本件滞納会社の経営が切迫した状態にあるので、請求人に対し、現行の状態で全従業員と業務全般を踏まえて経営改善をお願いしたい旨記載されているが、本件滞納会社と請求人との間において本件滞納会社の営業を請求人に譲渡する旨の合意が成立した旨の記載はない。
 以上のことからすれば、平成15年12月1日に営業譲渡契約が成立したとは認めることはできない。
(ロ)本件取引先は、1上記(1)のルの(ホ)のとおり、平成15年12月15日から平成16年1月9日までの縫製加工について、本件滞納会社に発注するとともに、原材料を支給し、加工後、本件滞納会社から納品を受け、前記1の(4)のハのとおり、本件滞納会社に対して、平成16年1月10日締分の本件支払明細書を発行している。また、本件取引先は、2上記(1)のルの(ニ)のとおり、本件滞納会社と請求人との間で営業譲渡があったかどうか、本件売掛債権についての債権譲渡があったかどうかについては知らず、その旨の通知も受け取っていない。さらに、本件取引先は、3同(ロ)のとおり、本件FAX文書が送付されるまで請求人の名前を知らなかったと認められる。これらの事実に加えて、4本件取引口座内容変更依頼書には、上記(1)のニのとおり、「平成16年1月10日から、本件取引先との継続的取引の相手方を本件滞納会社から請求人に変更することを依頼する」と記載され、さらに、5本件通知書には、同トのとおり、「本件取引先は本件滞納会社に対して平成16年1月10日までの間、継続的に業務を委託していた」と記載されていることなどからすれば、本件取引先は、少なくとも平成16年1月9日までは、縫製加工の委託先が本件滞納会社であると認識していたと認められる。
(ハ)上記(1)のチのとおり、本件要請書には、「L工場長及び従業員は、平成16年1月9日までは本件滞納会社の従業員である」と記載され、また、L工場長は、「平成16年1月9日までの本件取引先との取引は本件滞納会社に帰属する」と答述していることから、L工場長及び従業員は、平成16年1月9日までの本件取引先との取引は、本件滞納会社が行っていたものと認識していたと認められる。
(ニ)上記(1)のリ及びヌの請求人の代表者及び本件滞納会社の代表者の当審判所に対する答述からすると、請求人と本件滞納会社との間では、本件滞納会社の経営が悪化していたところ、本件滞納会社が事業を廃止すると本件取引先が困るとともに従業員にも迷惑を掛けることになることから、本件滞納会社の工場と従業員を請求人に引き継ぎ、本件取引先との取引を継続することについての合意が成立したと認められる。そして、上記(1)のホのとおり、本件滞納会社の工場であった本件不動産については、平成16年1月10日売買を登記原因として、同年2月○日付で請求人名義に所有権移転登記が経由されている。
(ホ)以上のことからすれば、上記(ニ)のとおり、請求人と本件滞納会社との間では、本件滞納会社の工場と従業員を請求人に引き継ぎ、本件取引先との取引を継続することについての合意が成立していたと認められるものの、上記(イ)のとおり、平成15年12月1日の時点では、請求人と本件滞納会社との間で営業譲渡契約が成立したとは認められない。もっとも、営業譲渡契約が成立したと認められない場合であっても、本件滞納会社と本件取引先との間における本件滞納会社の契約上の地位を請求人が譲り受けたのであれば、その後に発生した本件取引先に対する債権は請求人に帰属することになるが、この点についても請求人と本件滞納会社との間で営業譲渡契約が成立したと認めることができないのと同様に、同日時点で請求人と本件滞納会社との間でその旨の合意が成立したと認めることはできない。そして、営業譲渡による場合であっても単なる契約上の地位の譲渡による場合であっても、継続的取引における取引当事者が変更されるときは、当事者間でその旨の合意が成立する前か合意が成立した後速やかに取引先や従業員等関係者に対してその旨を通知し、関係者の承諾を得るための行動が採られることが通常であると考えられるところ、1上記(ロ)のとおり、本件取引先は、本件FAX文書が送付されるまで請求人の名前を知らず、平成16年1月9日までは縫製加工の委託先が本件滞納会社であると認識していたと認められること、2上記(1)のトのとおり、本件取引先は、本件取引口座内容変更依頼書を受領し、平成16年1月10日をもって契約上の地位の譲渡の事実があったことを本件滞納会社及び請求人の双方に確認していること、3上記(ハ)のとおり、L工場長及び本件滞納会社の従業員は、平成16年1月9日までの本件取引先との取引は、本件滞納会社に帰属するものと認識していることからすれば、請求人が本件滞納会社から本件取引先との継続的取引についての契約上の地位を譲り受けたのは、同月10日であると認めるのが相当であり、契約上の地位の譲渡があったからといって直ちにそれまでの債権債務関係が当然に譲受人に継承されるものではないから、同日前の縫製加工に係る本件売掛債権は、本件滞納会社に帰属していたものと認めるのが相当である。
(ヘ)なお、本件滞納会社の代表者は、上記(1)のヌの(ヘ)のとおり、当審判所に対し、請求人に事業を引き継いだのは平成15年12月20日であると認識している旨答述しているが、当該答述の同(ニ)からすれば、これは経理関係の引継ぎを終了し、請求人が実質的に経理の権限を取得した日をもって事業が引き継がれたものと認識しているに過ぎないとも考えられるとともに、当該答述の同(ホ)において、本件取引先に対する振込口座の変更手続を行ったとする日が本件FAX文書の送付年月日と異なることなどに照らし、本件滞納会社の代表者の上記認識をもって平成15年12月20日に請求人に対して事業が引き継がれたものと判断することはできない。また、上記(1)のルの(ホ)のとおり、本件取引先のTは、当審判所に対し、平成15年12月10日までが本件滞納会社との委託契約であって、同月11日からが請求人との委託契約であると認識している旨答述しているが、同トの本件通知書の内容に照らすと、同人の認識を採用することはできない。
(ト)これに対し、請求人は、平成15年12月1日に本件滞納会社の工場と従業員を引き継いだのであるから、その後に発生した本件売掛債権はもともと請求人に帰属していたものであると主張する。
 しかしながら、上記(イ)のとおり、本件滞納会社は、平成15年12月1日付で、本件取引先に対して取引を継続したい旨の更新取引申請書を提出しており、請求人の代表者が同月に内々で営業譲渡の話を進めていたと答述していること、及び本件覚書には同日付で本件滞納会社の工場と従業員を請求人が引き継いだ旨の記載がないこと、また、工場や従業員の引継ぎという重要な事項について、合意が成立したのであれば、その効力が発生する前に、あるいは、その効力が発生した後、速やかに従業員や取引先等の関係者に対してその旨を通知し、承諾を得るための行動が採られることが通常であると考えられるところ、本件滞納会社の従業員に対する通知は、上記(1)のチ及びリの(ニ)のとおり、平成16年1月10日ごろであり、本件取引先に対する通知は、同ニのとおり、平成16年1月20日以降であることからすれば、平成15年12月1日に本件滞納会社の工場と従業員を請求人が引き継いだと認めることはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ 争点2について
(イ)上記イの(ニ)及び(ホ)のとおり、経営が悪化していた本件滞納会社と請求人の間では、本件取引先との取引の継続を目的として、平成16年1月10日に、請求人に本件滞納会社の工場(製造部門)及び従業員を引き継ぎ、本件取引先との取引を継続することについての合意が成立したと認められる。
 そして、上記(1)のリのとおり、請求人の代表者が、本件取引先に対し、本件滞納会社から請求人が工場と従業員を引き継ぐことを説明した上で、本件売掛債権が本件滞納会社に振り込まれると給与の支払が滞るので、従業員名義の口座に振り込むよう依頼したこと、同ヲの(ハ)のとおり、平成16年1月10日前後に請求人の代表者が工場に来て、班長クラスの従業員に対して「今日から会社の経営が代わるが、本件取引先との取引を継続すれば給与を支払うことができる」旨説明したこと、同(ト)のとおり、Nは、従業員の給与を確保するため、本件取引先からの振込口座を他の銀行に変更したと記憶していることからすれば、請求人は、本件取引先との取引の継続を目的として、本件滞納会社とその従業員との間における雇用関係を包括的に承継し、これに伴い、本件滞納会社が支払うべきであった平成16年1月分の給与支払債務も承継したものと解され、この債務の支払原資を確保するため、本件売掛債権を譲り受けたものと認められる。
 そうすると、本件請求人口座に振り込まれた本件売掛債権の額○○○○円のうち、上記(1)のヘの(イ)の平成16年1月分の給与支払債務相当額○○○○円については、本来、本件滞納会社が支払うべきであった債務の弁済資金を確保するために請求人が譲り受けたものというべきであるから、徴収法第39条の無償譲渡等の処分により請求人が利益を受けたということはできない。
 しかし、その余の部分については、その相当額を請求人が本件滞納会社に返還した形跡を認めることができず、本件滞納会社も請求人に請求した事実が認められないことからすれば、同条の無償譲渡等の処分により請求人が利益を受けたものと認めるのが相当である。
(ロ)これに対し、請求人は、仮に本件売掛債権が請求人に帰属していなかったとしても、本件滞納会社から口頭契約による営業譲渡を受け、本件滞納会社の工場(製造部門)及び従業員を引き継いでおり、本件売掛債権に係る金員を受領した後に、本件滞納会社の各支払義務を履行しているので、徴収法第39条に規定する無償譲渡等の処分による利益などは存在せず、請求人において第二次納税義務者とされる理由はない旨主張する。
 しかしながら、上記(イ)のとおり、請求人は、本件滞納会社との間で、本件取引先との取引の継続を目的として、本件売掛債権を譲り受けたと認められるところ、上記(1)のリの(イ)及び同ヌの(ハ)の請求人の代表者及び本件滞納会社の代表者の当審判所に対する答述からすれば、本件滞納会社と請求人との間において、本件滞納会社の債権債務を請求人が引き継ぐことは予定されていなかったのであり、また、上記(1)のヲの(ニ)のとおり、請求人の代表者が、Nに対して、以前からの本件滞納会社の債務は関係がないので支払いはしない旨説明したとNが答述していることからすると、本件滞納会社が支払うべきであった平成16年1月分の給与支払債務相当額を除く本件滞納会社の未払金を請求人が承継する旨の合意があったと認めることもできず、他にこのことを認めるべき証拠もなく、まして、当該未払金の弁済原資として本件売掛債権が請求人に譲渡された事実を認めるべき証拠もないから、同未払金については、請求人が、立替払いをしたに過ぎないと認めるのが相当である。
 したがって、この点に関する請求人の主張には、理由がない。
(ハ)また、原処分庁は、請求人が本件売掛債権を譲り受ける前に、本件滞納会社の未払金等を支払う旨の契約等が行われておらず、請求人の主張する支払は、請求人が任意に支払ったものであるから、本件売掛債権の譲受けに伴う対価はなく、請求人は本件売掛債権の全額について本件滞納会社から無償譲渡を受けたものである旨主張する。
 しかしながら、上記(イ)のとおり、本件売掛債権の譲渡は、本件滞納会社が支払うべきであった平成16年1月分の給与の支払原資を確保するために行われたものであるというべきであるから、同月分の給与の支払に充てられた部分について、請求人が徴収法第39条の無償譲渡等の処分により利益を受けたということはできない。
 したがって、この点に関する原処分庁の主張は、理由がない。
(ニ)以上のとおりであるから、請求人が、本件売掛債権に係る無償譲渡等の処分により、受けた利益の額は、本件売掛債権に係る金員から平成16年1月分の給与支払債務を控除した残額○○○○円ということになる。

(4)本件納付告知処分について

 本件滞納国税に係る徴収不足が本件売掛債権に係る無償譲渡等の処分に基因することについては、当審判所の調査によっても、原処分庁の認定が相当であると認められる。
 そして、請求人は、上記(ニ)のとおり、本件売掛債権の額○○○○円から振込費用○○○○円及び給与支払債務の額○○○○円を控除した残額○○○○円を限度として第二次納税義務を負うものであるから、本件納付告知処分は、同金額を超える部分について取り消すことが相当である。

(5)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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