ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.76 >> (平20.8.4、裁決事例集No.76 15頁)

(平20.8.4、裁決事例集No.76 15頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)がA(請求人の祖母)から譲り受けた出資口に係る売買は低額な譲受けに当たるとして、原処分庁が贈与税の決定処分を行った後、請求人が当該売買契約に錯誤があったことを理由にAを被告として売買契約無効確認を求めて提訴し、この判決において売買契約の無効が確認されたとして、当該判決は国税通則法(以下「通則法」という。)第23条《更正の請求》第2項第1号にいう判決に該当するとして更正の請求を行ったところ、原処分庁が更正をすべき理由がない旨の通知処分を行ったことから、請求人がその取消しを求めた事案である。
 争点は、当該判決が通則法第23条第2項第1号に規定する判決に該当するか否かである。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、請求人が平成9年分の贈与税について申告書を提出しなかったところ、平成14年2月15日付で、取得した財産の価格の合計額○○○○円及び納付すべき税額○○○○円とする決定処分並びに無申告加算税の額を○○○○円とする賦課決定処分(以下、これらの処分を併せて「本件決定処分等」という。)をした。
ロ Aは、平成9年分の所得税について、平成13年12月25日に後記(3)のイの本件売買契約は錯誤により無効だから、後記(3)のロの株式等に係る譲渡所得の金額を零円にすべき旨の更正の請求をしたところ、原処分庁は、これに対して、平成14年2月15日付で更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「別件通知処分」という。)をした。
ハ 請求人及びA(以下「請求人ら」という。)は、本件決定処分等及び別件通知処分の取消しを求めてP地方裁判所に提訴(平成○年(○)第○○号○○○○事件)したところ、同裁判所は、平成17年○月○日に請求人らの請求を棄却する旨の判決を言い渡した。
ニ 請求人らは、上記ハの判決に不服があるとしてQ高等裁判所に控訴(平成○年(○)第○号○○○○控訴事件)したところ、同裁判所は、平成18年○月○日に控訴棄却の判決(以下「別件判決」という。)を行った(当該判決は、同年○月○日の最高裁判所の上告棄却及び上告不受理の決定により確定している。)。
ホ 請求人は、別件判決が通則法第23条第2項第1号に規定する判決に該当するとして、平成9年分の贈与税について、平成18年○月○日に取得した財産の価格を零円にすべき旨の更正の請求をしたところ、原処分庁は、これに対して、平成19年2月7日付で更正すべき理由がない旨の通知処分をした。
ヘ 請求人は、上記ホの通知処分に不服があるとして、平成19年4月5日付で異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年5月29日付で棄却の異議決定をした。
ト 請求人は、Aを被告としてP地方裁判所に本件売買契約の無効確認を求めて平成18年○月○日に提訴(以下「本件訴訟」という。)したところ、同裁判所は平成19年○月○日に本件売買契約が無効であることを確認する判決(以下「本件判決」という。)を行った。
チ 請求人は、本件判決が通則法第23条第2項第1号に規定する判決に該当するとして、平成9年分の贈与税について、平成19年○月○日に取得した財産の価格を零円にすべき旨の更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をしたところ、原処分庁は、これに対して、同年9月20日付で更正すべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
リ 請求人は、本件通知処分に不服があるとして、平成19年10月26日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は同年12月20日付で棄却の異議決定をした。
ヌ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成20年1月22日に審査請求をした。

トップに戻る

(3) 基礎事実

イ 請求人らは、平成9年2月21日にAが所有する有限会社B(以下「B社」という。)の出資口○○○○口(以下「本件出資口」という。)を1口当たり15,000円、売買代金額合計○○○○円で請求人が譲り受ける旨の売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結した。
ロ Aは、本件出資口に係る分離課税の株式等に係る譲渡所得の金額が○○○○円であるとする平成9年分の所得税の確定申告書を法定申告期限までに原処分庁に提出した。
ハ 請求人は、平成13年8月28日ころから税務調査を受け、調査担当職員から本件出資口に係る1口当たりの適正評価額は102,590円である旨の指摘を受けた。
ニ 請求人らは、本件売買契約は、その売買代金を実際の評価額の7分の1にしたという重大な要素の錯誤があったので無効であること、本件出資口に係るB社の出資者名簿の名義を請求人からAに戻すこと及びAが売買代金○○○○円を請求人に返還することを確認する平成13年10月21日付確認書を作成した。
ホ B社は、平成13年10月23日に臨時社員総会を開催し、本件出資口に係る出資者名簿の名義を請求人からAに変更する旨の議案の承認決議をした。
ヘ Aは、平成13年11月1日に請求人名義のC銀行D支店の普通預金口座に○○○○円を振り込んだ。
ト 原処分庁は、本件出資口の1口当たりの評価額は102,590円、総額○○○○円と売買代金○○○○円との差額○○○○円がAから請求人に対して贈与があったものとみなして、平成14年2月15日付で本件決定処分等をした。
チ 別件判決は、1請求人らの誤信は本件売買契約の意思表示についての錯誤に当たる旨、2請求人らが錯誤に陥ったことについて重大な過失があるとは認められない旨、3本件売買契約が錯誤により無効であることを法定申告期間を経過した時点で課税庁に対して主張することを許さず、既に確定している納税義務の負担を免れないとする旨及び4前記3における主張が許されないのだから通則法第23条第2項第1号及び同項第3号に該当する事由があることを主張して更正の請求をすることができない旨判示している。
リ 請求人は、本件訴訟において被告知者を国とする訴訟告知申立書を平成19年○月○日にP地方裁判所に提出し、同裁判所は国に対して訴訟告知を行ったが、国は本件訴訟には参加しなかった。
ヌ 本件訴訟において、請求人らは、本件売買契約が錯誤無効であるとの事実関係の外形自体は争っていない。

トップに戻る

2 主張及び判断

(1) 主張

請求人 原処分庁
 本件判決は、以下のとおり、通則法第23条第2項第1号に規定する判決に該当するから、本件更正の請求は認められる。
 通則法第23条第2項第1号に規定する判決について判例が要求する要件は、同条第1項に規定している期間内に更正の請求をしなかったことについて「やむを得ない理由」があったこと及び当該判決が納税を免れる目的で馴れ合いによる訴訟によって得たなど実質において「客観的・合理的根拠」を欠いていないことであり、これを本件に当てはめてみると、次のとおりとなる。
イ 「やむを得ない理由」の存否
 請求人の場合、本件出資口の売却価格が著しく低いことを知ったのは平成13年秋の原処分庁の調査の際であり、また、別件判決において錯誤無効の主張が是認されたのは平成18年○月○日であることから、通則法第23条第1項所定の期間内に更正の請求をしなかったことについての「やむを得ない理由」はあったといえる。
ロ 「客観的・合理的根拠」の存否
 本件訴訟が租税回避目的の馴れ合い訴訟であったとすれば、訴訟告知された原処分庁には本件訴訟に独立当事者参加するなどいくらでも争う機会が与えられており、本件訴訟に参加するはずである。それにもかかわらず、原処分庁は参加しなかったのだから、本件訴訟は租税回避目的の馴れ合い訴訟とはいえず、本件判決は客観的・合理的根拠を欠いていない。
 なお、通則法第23条第2項第1号でいう判決に必要とされているのは、課税標準等の事実関係が変動したことを裁判の場において、客観的に確定させることであり、判決によって請求人らの法律関係に異動が必要であるとの原処分庁の主張は誤りである。
 さらに、別件判決において通則法第23条第2項第1号の形式的要件に該当しない判断を受けたことから、後発的理由に基づく判決の要件を充足するために本件訴訟を提訴したものであり、本件判決は別件判決と一体的に考えてその内容を判断すべきである。
 本件判決は、以下のとおり、通則法第23条第2項第1号に規定する判決には該当しないから、本件更正の請求は認められない。
 通則法第23条第2項第1号に規定する判決とは、当事者間に争いがあり、その後、判決により申告等があった当時の権利関係と異なる事実関係が生じた場合の判決をいうものであると解されている。そして、本件売買契約は別件判決において錯誤により無効である旨を判示され、本件訴訟においても請求人らは本件売買契約が錯誤無効であることを争っていない。そうすると、本件判決を請求人らが得ても本件売買契約が錯誤無効であるという請求人らの法律関係は別件判決以後何ら異動していないのだから、本件判決は申告等があった当時の権利関係と異なる事実関係が生じた場合の判決には該当しない。

トップに戻る

(2) 判断

イ 通則法第23条第2項の趣旨及び解釈
 通則法第23条第2項は、同条第1項の例外規定として、同項に規定する期間経過後であっても、後発的に課税要件事実に変動が生じた場合には、その後発的事由が生じた日の翌日から2か月以内に限って更正の請求を認めることとした規定である。この規定の趣旨は、納税者において、申告時には予想し得なかった事態が後発的に生じたため、課税標準等又は税額等の計算の基礎に変更を来し、税額の減額をすべき場合に、法定申告期限から1年を経過していることを理由に更正の請求を認めないとすると、帰責事由のない納税者に酷な結果となることから、例外的に更正の請求を認めて納税者の保護を拡充しようとしたものであると考えられる(東京高等裁判所平成10年7月5日判決・平成9年(行コ)第193号)。
 したがって、同条第1項による更正の請求が可能であった場合には、同条第2項の請求をすることは許されず、同項が規定する後発的事由とは、申告時には予想し得ず、同条第1項の期間内においても適切な権利主張ができなかったような後発的事由に限られると解されている。
ロ 通則法第23条第2項第1号の規定が適用できるか否か
 請求人らは、上記(1)のイのとおり、平成18年○月○日の別件判決において錯誤無効の主張が是認されたことから、通則法第23条第1項所定の期間内に更正の請求をしなかったことにつき「やむを得ない理由」があり、また、本件判決により本件売買契約が錯誤により無効であったことが確認されたのであるから、「更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとき。」に該当すると主張する。
 しかしながら、請求人らは、上記1の(2)のハのとおり、当該錯誤無効を理由に本件決定処分等及び別件通知処分に係る争訟手続を行い、上記1の(3)のニないしへのとおり、外形的にも錯誤無効の主張にそうようにB社の本件出資口をAに戻すなどの原状回復を行っていることからすると、請求人らの間では平成13年当時においてすでに本件売買契約が無効であるという事実関係は形成されていたと認められ、また、上記1の(3)のヌのとおり、本件訴訟においても請求人らの間に本件売買契約が錯誤無効であるとの事実関係の外形自体に争いはないことから、本件判決によって初めて本件売買契約が無効と確認され更正の請求の要件を満たすこととなったわけではないのだから、本件判決をもって、通則法第23条第2項第1号に規定する「課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとき。」に該当するとは認められない。
 したがって、本件更正の請求には理由がないとして行った本件通知処分は、適法であると認められ、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ハ 請求人は、本件判決はいわゆる馴れ合い訴訟に係る判決とはいえず、また、課税標準等の事実関係が変動したことを裁判の場において確定させているのだから、通則法第23条第2項第1号に規定する判決に該当すると主張している。
 確かに、上記1の(2)のトのとおり、本件判決において本件売買契約の無効が確認されているが、上記ロのとおり、請求人らの間において本件売買契約を無効とした事実関係は平成13年当時において既に形成されており、本件更正の請求は、本件判決をもって同号に規定している「その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとき。」には該当しないのだから、請求人の主張には理由がない。
 加えて、上記1の(2)のイ及びロの課税関係については、上記ロのとおり、請求人らの本件売買契約を無効とした事実関係が本件決定処分等以前に形成されていることから、本件決定処分等に係る不服申立ての手続によりその是正が図られるべきである。そして、事実、上記1の(2)のハ及びニのとおり、本件決定処分等は、不服申立て及び訴訟手続を経て、別件判決において請求人らに対する課税処分等は適法であるとの判断が既になされているのであるから、本件更正の請求が通則法第23条第2項第1号に該当しないと判断したとしても、請求人の権利を不当に制約するものとは認められない。
ニ 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された資料によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る