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(平20.7.24、裁決事例集No.76 29頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、民法上の組合を通じて取得した新株予約権の取得に係る利益を、益金の額に算入することなく確定申告し、その後に、原処分庁から当該利益は益金の額に算入すべきものである旨の指摘を受けて修正申告をしたところ、原処分庁が当該修正申告に係る過少申告加算税の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、当該新株予約権の取得に係る利益を申告しなかったことについては、国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとして、同処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成17年1月1日から平成17年12月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、別表の「確定申告」欄のとおり記載した確定申告書を法定申告期限までに原処分庁に提出した。
ロ 請求人は、平成19年2月5日、本件事業年度の法人税について、別表の「修正申告」欄のとおり記載した修正申告書を原処分庁に提出した。
ハ 原処分庁は、これに対し、平成19年2月26日付で別表の「賦課決定処分」欄のとおり過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ニ 請求人は、平成19年4月6日、本件賦課決定処分を不服として異議申立てをしたところ、異議審理庁が同年7月2日付で棄却の異議決定をしたので、異議決定を経た後の本件賦課決定処分に不服があるとして、同月26日に審査請求をした。

(3) 関係法令等の定め

 関係法令等は、別紙のとおりである。

(4) 基礎事実

イ 「H投資事業組合」(以下「本件組合」という。)は、P市p町○−○に所在するE社が発行する株式及び新株予約権等に投資することを目的として、平成17年4月○日に成立した、民法第667条以下で規定されている民法上の組合であり、請求人は、出資○○口を保有する本件組合の非業務執行組合員である。
ロ E社は、平成17年○月○日の定時株主総会における商法(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律第64条(商法の一部改正)の規定による改正前のもの。)第280条ノ21《特に有利な条件による新株予約権の発行》第1項の規定に基づく新株予約権の有利発行の決議を経て、同年8月○日に当該新株予約権(総数○○個、発行価額1個につき○○○○円、1個の行使により発行する株式数○○株)を発行し、本件組合にそのすべてを割り当てた。
ハ 請求人は、本件組合の組合契約(以下「本件組合契約」という。)第○条(出資金)第○項の定めに従い、請求人の出資口数に係る出資金に充てるため、○○○○円を平成18年3月○日、同月○日及び同月○日の3回に分けて本件組合に払い込んだ。
ニ 本件組合は、請求人が、上記ハのとおり出資金を払い込んだことから、本件組合契約第○条(組合財産の分配)第○項の定めに基づき、平成18年3月○日に請求人の出資口数に相当する新株予約権○○個(以下「本件新株予約権」という。)をE社に対して行使し、請求人は、E社の○○株の株券の現物分配を受けた。
ホ 本件組合の事業年度は、4月1日から翌年3月31日までの期間であり、第1期の事業年度は平成17年4月○日から平成18年3月31日までの期間である。
ヘ 請求人は、本件新株予約権の取得に係る利益○○○○円(以下「本件利益」という。)を益金の額に算入することなく、別表の「確定申告」欄のとおり本件事業年度の法人税の確定申告をした。
ト 請求人は、原処分に係る調査を担当した職員から、本件利益は本件事業年度の益金の額に算入すべきものである旨の指摘を受け、別表の「修正申告」欄のとおり本件事業年度の法人税の修正申告をした。

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2 争点

 請求人が本件利益を本件事業年度の益金の額に算入しなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があるか否か。

3 主張及び判断

(1) 主張

 以下においては、法人税基本通達14−1−1の2を「本件通達」と略称する。

請求人 原処分庁
 請求人が、本件利益を本件事業年度の益金の額に算入しなかったことには、次のとおり、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があるから、本件賦課決定処分は違法である。
イ 本件組合は任意組合であり、請求人はその組合員である。
ロ 請求人は、本件利益は任意組合において営まれる事業(組合事業)から生ずる利益の分配であると理解し、本件通達のただし書の適用があるとして、本件組合の当該計算期間の終了する平成18年3月31日の属する事業年度(請求人の平成18年1月1日から同年12月31日までの事業年度)の益金の額として申告すればよいと理解したものであって、請求人の理解を単に納税者が税法等の解釈を誤ったものとみるのは酷である。
ハ 上記の請求人の理解は、社会通念に照らして相当といえる理解である。
 請求人が、本件利益を本件事業年度の益金の額に算入しなかったことには、次のとおり、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」はないから、本件賦課決定処分は適法である。
 本件利益は、本件組合の収益ではなく、直接各組合員に帰属する収益であり、請求人が、本件通達のただし書の適用がないにもかかわらず、本件通達のただし書の適用があると判断したのは請求人の誤認に基づくものである。

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(2) 判断

イ 請求人は、本件利益は組合事業から生ずる利益の分配であると理解し、本件通達のただし書の適用があるとして、本件利益を、本件組合の当該計算期間の終了する平成18年3月31日の属する事業年度の益金の額として申告すればよいと理解したもので、請求人の理解を単に納税者が税法等の解釈を誤ったものとみるのは酷であり、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」がある旨主張する。
ロ 申告納税制度の下で、法人税の確定申告は、申告納税方式により、本来納税者自身が自己の判断と責任において、課税標準及び税額等を法令の規定に従って計算し適正な申告をすることによって行われるべきものである。
 そして、通則法第65条第1項に規定する過少申告加算税は、申告納税方式による国税に関して、申告納税制度の秩序を維持し適正な申告の実現を確保することを目的として、適正な申告をしなかった納税者に対して、一定率の加算税を課すことによって、当初から適正に申告した者とこれを怠った者との間に生ずる不公平を是正するとともに、過少申告による納税義務違反の発生を防止するという行政上の措置であり、過少申告という客観的事実があれば、同条第4項に規定する「正当な理由」がある場合を除いて一律に課されるものである。
 ここにいう「正当な理由」がある場合とは、過少申告加算税を課すことが納税者にとって不当又は酷となるような特別な事情、例えば、申告当時適法とみられていた申告がその後の事情の変更により、納税者の故意過失に基づかずして過少申告となった場合のように、法定申告期限内に正しい申告をしなかったことが真に納税者の責めに帰することのできないやむを得ない理由によるものが該当し、過少申告となった事情が単に納税者の税法の不知又は法令解釈の誤解など納税者自身の事情に基づくものであるときは、「正当な理由」がある場合には当たらないと解される。
ハ 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 平成17年4月○日に、本件組合の業務執行組合員と非業務執行組合員である請求人とが締結した本件組合契約には、要旨次の記載がある。
A 第○条(定義)
(A) 第○項 本契約中では下記の用語は、前後関係により他の意味を必要とする場合を除き、以下の意味を有する。
1 「投資会社」
 E社(他の投資事業組合へ出資し間接的に投資する場合を含む。)
2 「投資証券等」
 投資会社が発行した又は発行する株式、転換社債型新株予約権付社債、新株予約権付社債(又は、その分離後の社債、新株予約権)、新株予約権又はそれらに類似する証券若しくは証書で本組合が投資の見返りに取得したもの(当組合が他の投資事業組合へ出資し取得した持分を含む。)。
3 「実現売買損益等」
 略
4「組合財産」
 出資金並びにこれを運用して取得した投資証券等、権利その他の財産及び現金で本組合に帰属すべきもの。
5 「組合口座」
 略
(B) 第○項及び第○項 略
B 第○条(目的及び存続期間)
(A) 第○項 本件組合は、組合財産又は投資証券等を取得して投資することを目的とする。
(B) 第○項 本件組合の組合契約の効力は、平成17年4月○日をもって発生し、存続期間は効力発生の日より○年間とする。
C 第○条(出資金)
(A) 第○項 各組合員の出資金は、1口につき○○○○円とし、別紙記載の口数を出資するものとする。なお、第○条に定める費用に充当するため、出資金額の2%の諸手数料、及びそれに賦課される消費税相当額を含め、1口につき○○○○円を払込金とする。
(B) 第○項 組合員は、各自の出資金を、平成17年○月○日までに1口につき○○○○円、平成17年○月○日以降1口につき○○○○円を新株予約権の行使を希望する都度組合口座に入金して払い込むものとする。
(C) 本契約別紙記載の請求人の出資口数 ○○口(個)
D 第○条(組合財産の分配)
(A) 第○項 決算期において、実現売買損益等を含むすべての期間損益の決算がなされ、組合員は各自の組合持分に応じて割り当てられる。純損が発生した場合は、翌期に繰り越される。
(B) 第○項 業務執行組合員は、各決算期ごとに、組合員に割り当てられた組合財産を取得原価相当分の全部又は一部も含め、その裁量により分配することができる。
(C) 第○項 上記の規定にかかわらず、本契約第○条第○項に従い、組合員が出資金の全額を払い込んだ場合には、当該組合員と業務執行者が別途定める場合を除き、新株予約権を直ちに行使し、発行された株式を当該組合員に現物分配するものとする。
(ロ) 平成17年○月○日付でE社が作成した「第三者割当による新株予約権発行に関するお知らせ」(以下「お知らせ」という。)には、次のような記載がある。
A 柱書き
 平成17年○月○日開催の当社取締役会において、第三者割当によるE社第○回新株予約権の発行について決議し、平成17年○月○日開催予定の当社定時株主総会に付議することを、下記のとおり決議いたしましたのでお知らせいたします。
B 新株予約権発行の要領(○項)
(1) 新株予約権の名称 E社第○回新株予約権
(2) 新株予約権の目的たる株式の種類及び数
1 株式の種類及び数 当社普通株式○○株
2 株式の数の調整 略
(3) 発行する新株予約権の総数 ○○個
(4) 新株予約権の発行価額 1個につき○○○○円
(5) 新株予約権の発行価額の総額 ○○○○円
(6) 新株予約権の申込期日 平成17年8月○日
(7) 新株予約権の発行日  平成17年8月○日
(8) 新株予約権の行使に際し払込みをなすべき額(以下「行使価額」という。)
1 行使価額 1個につき○○○○円
2 行使価額の調整 略
(9) 行使価額の総額 ○○○○円
(10) 新株予約権の行使により発行する株式の発行価額
 1個につき ○○○○円(1株につき○○○○円)
(11) 新株予約権の行使により発行する株式の発行価額の総額
 ○○○○円
(12)ないし(19) 略
(20) 募集の方法 第三者割当の方法による
(21) 割当先及び割当数 本件組合に対し○○個を割り当てる。
(22)以降 略
C 割当先の概要(○項)
 割当先予定の名称 本件組合

 業務執行組合員

Q市q町○−○
F社
代表取締役 G
事業の内容:経営コンサルタント業

 当社との関係 当該事項はありません。
(ハ) 本件組合は新株予約権について、請求人及び他の組合員を含め、上記(イ)のDの(C)の組合契約の規定に従い、各組合員が本件組合契約により確定している各出資口数に相当する新株予約権を任意に行使する都度、本件組合は当該組合員に対してE社の株式を現物分配している。
(ニ) 本件組合の業務執行組合員が作成した本件組合の平成17年4月○日から平成18年3月31日までの「第1期事業報告書」の「H投資事業組合第1期収支決算書」と題する収支決算書には、本件組合の組合事業に係る利益としてE社の新株予約権の付与(取得)及びその行使に係る経済的利益は計上されていない。
ニ 以上に基づき、検討すれば次のとおりである。
 上記ハの(ロ)のとおり、本件組合契約締結の○日後にE社が作成したお知らせにおいては、新株予約権の発行価額は1個につき○○○○円と、新株予約権の行使により発行する株式の発行価額は1個につき○○○○円と記載されており、上記ハの(イ)のCのとおり、本件組合契約における出資金1口当たりの単価○○○○円は、本件組合が新株予約権の発行に際して支払うべき額1個につき○○○○円とその行使に際し払い込みをなすべき額1個につき○○○○円の合計額と同額であり、一方、請求人を含む各組合員は、本件組合に払い込むべき出資金は当初1口につき○○○○円であり、その後各組合員が個々に新株予約権の行使を希望する都度に残額の1口につき○○○○円を払い込むことが求められている。また、上記ハの(イ)のDの(C)のとおり、本件組合は、出資金の全額が払い込まれた場合には、組合財産の運用、組合財産の分配についての業務執行組合員の判断にかかわらず、新株予約権を直ちに行使し、発行された株式を当該組合員に現物分配することとされている。そして、上記ハの(ハ)のとおり、実際にも、請求人も含め各組合員が本件組合契約により確定している各出資口数に相当する新株予約権を任意に行使する都度、本件組合は当該組合員に対してE社の株式を現物分配している。これらのことからすれば、本件組合への新株予約権の割当て時点において、事実上その出資口数に応じた新株予約権に係る権利義務が請求人に帰属したものと認められるから、その権利義務に係る経済的利益も、その時点で請求人に生じたものと認められる。このことは、上記ハの(ニ)のとおり、本件組合の業務執行組合員が作成した本件組合に係る「第1期事業報告書」の「H投資事業組合第1期収支決算書」においても、E社の新株予約権の付与(取得)に係る収益等が計上されていないことからも裏付けられる。
 すなわち、本件利益は、既に確定している請求人の出資口数に相当する新株予約権と一体となった利益で、請求人に帰属する固有の利益であり、本件組合からの分配を経由しない利益として、法人税法第22条第2項に基づき、益金の額に算入すべきであり、本件通達が定める組合事業に係る利益金額又は損失金額のうち分配割合に応じて利益の分配を受けるべき金額又は損失の負担をすべき金額(帰属損益額)に該当するものではないと認められる。
 したがって、本件利益については、組合事業に係る利益金額(損失金額)のうち分配割合に応じて利益の分配を受けるものについて規定する本件通達は適用されず、当然に、本件通達のただし書の適用される余地はないというべきであり、請求人が本件通達のただし書の適用があると理解し、本件利益を本件事業年度の益金の額に算入せず確定申告をしたことは、税法の不知や法令解釈の誤解など請求人自身の事情に基づくものであるから、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があるとは認められない。
 以上のとおり、請求人の主張には理由がなく、通則法第65条第1項及び第2項の規定に基づき行われた本件賦課決定処分は適法である。
ホ 原処分のその他の部分については、当審判所の調査によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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