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(平20.12.9、裁決事例集No.76 161頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、課税処分の取消訴訟に要した費用等は、判決の確定に伴い受領した還付加算金を得るために直接要した費用であるから、雑所得の金額の計算上、必要経費に該当するなどとして更正の請求をしたところ、原処分庁が、当該費用等は必要経費に該当しないとして更正処分を行ったことから、請求人が、その一部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯等

イ 平成17年分の所得税について、審査請求(平成20年2月4日請求)に至る経緯及び内容は別表1のとおりである。
 なお、以下、平成17年分の所得税の更正の請求を「本件更正の請求」といい、本件更正の請求に対して平成19年12月21日付でされた更正処分(平成20年3月14日付でされた減額更正処分後のもの)を「本件更正処分」という。
ロ 原処分庁は、本件更正の請求に対して平成19年12月21日付でした更正処分において、請求人に対し、同処分に不服があるときは異議申立て又は審査請求をすることができる旨の教示をした。
 請求人は、その教示に従い審査請求をし、当該審査請求は、国税通則法(以下「通則法」という。)第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第4項第2号の規定により、適法な審査請求とされた。

(3) 基礎事実

イ 取消訴訟の状況
(イ) 請求人は、原処分庁が平成9年3月12日付でした平成5年分から平成7年分までの所得税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「別件各更正処分等」という。)の取消しを求めて、平成○年○月○日、A地方裁判所に訴えを提起した(平成○年(○)第○号)ところ、同裁判所は、平成○年○月○日、請求人の請求を棄却する旨の判決を言い渡した。
(ロ) 請求人は、当該判決を不服としてB高等裁判所に控訴した(平成○年(○)第○号)ところ、同裁判所は、平成○年○月○日、別件各更正処分等をいずれも取り消す旨の判決を言い渡した。
(ハ) 原処分庁は、当該控訴審判決を不服として上告した(平成○年(○)第○号)ところ、最高裁判所は、平成○年○月○日、原判決のうち一部を破棄し、B高等裁判所へ差し戻し、その余の上告を棄却する旨の判決を言い渡した。
(ニ) B高等裁判所は、差戻控訴審において、平成○年○月○日、別件各更正処分等の一部を取り消し、その余の請求を棄却する旨の判決を言い渡し、同判決は確定した(以下、これら一連の裁判を「本件訴訟」という。)。
ロ 請求人に還付された過納金等の状況
 別件各更正処分等の一部が取り消されたことに伴い、請求人に還付された過納金及び還付加算金の状況は、次のとおりである。
(イ) C国税局長は、平成17年2月24日、請求人に対し、別件各更正処分等に係る所得税、過少申告加算税及び延滞税の各過納金の合計額○○○○円並びに当該各過納金に係る還付加算金の合計額○○○○円を還付した。
(ロ) D市長は、平成17年3月24日、請求人に対し、別件各更正処分等に基づく市県民税の過納金○○○○円及び当該過納金に係る還付加算金○○○○円を還付した。
(ハ) E県F地域事務所長は、平成17年6月30日、請求人に対し、別件各更正処分等に基づく個人事業税の過納金○○○○円及び当該過納金に係る還付加算金○○○○円を、平成17年7月8日、当該過納金に係る追加の還付加算金○○○○円をそれぞれ還付した。
 なお、以下、上記(イ)から(ハ)までの各過納金を併せて「本件各過納金」といい、上記(イ)から(ハ)までの各還付加算金を併せて「本件各還付加算金」という。
ハ 本件更正の請求における雑所得に係る必要経費の内訳
 請求人が、本件更正の請求において、雑所得の金額の計算上算入すべきとした必要経費の内訳は、別表2の「請求人主張額」欄の「必要経費」欄のとおりであり、その内容は次のとおりである。
(イ) 別表2の「支払利息等2」欄は、別件各更正処分等に係る所得税等を納付するための借入金に係る利息及び借入れに付随する費用(以下「本件借入金利息等」という。)の額である。
(ロ) 別表2の「租税公課3」欄、「事務費4」欄、「旅費交通費5」欄、「鑑定書費用6」欄及び「弁護団報酬7」欄は、請求人が本件訴訟の追行上支払った費用(以下「本件訴訟費用等」という。)の額である。
ニ 本件更正処分における雑所得に係る必要経費の内訳
 原処分庁が、本件更正処分において、雑所得の金額の計算上算入すべきとした必要経費の内訳は、別表2の「原処分庁主張額」欄の「必要経費」欄のとおりである。

(4) 争点

 本件訴訟費用等は、雑所得の金額の計算上必要経費に算入できるか否か。

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2 主張

請求人 原処分庁
 請求人が侵害された権利利益の救済を求めて本件訴訟を提起し、その判決により原処分庁の誤った別件各更正処分等が取り消されたからこそ本件各過納金が不当利得として還付され、当該各過納金に、不当利得に対する損害賠償金的性格を有する本件各還付加算金が損害を補てんするために支払われているのであるから、本件各過納金と本件各還付加算金とは一体不可分のものである。したがって、本件訴訟費用等は、本件各還付加算金を得るために直接要した費用として必要経費に算入できる。
 また、納税者が取得した経済的価値のうち、原資の維持に必要な部分は、所得を構成しないとする所得概念において、所得税法に必要経費が規定されているところ、本件訴訟費用等及び本件借入金利息等は、投下資本に該当することは明らかであり、原資の維持に必要な部分として、所得を構成しないから、本件各還付加算金を得るために直接要した費用として必要経費に算入できる。
 本件訴訟費用等は、本件訴訟のために支出されたものであり、本件各還付加算金はその結果として得たものであるから、本件各還付加算金を得るために直接要した費用ということはできず、必要経費に算入できない。
 なお、還付加算金は、その発生原因を問わず損害賠償の性格は有しておらず、国税の納付遅延に対して延滞税が課されることとの権衡を考慮して、還付金等に対しても一種の利子として、これを付すこととされているものである旨解されていることから、本件訴訟費用等は、本件各還付加算金を得るために直接要した費用ということはできないので、必要経費に算入できない。

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3 判断

(1) 本件訴訟費用等の必要経費への算入の可否等

イ 法令解釈等
(イ) 所得税法第37条《必要経費》第1項は、その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額とする旨規定している。
(ロ) 通則法第58条《還付加算金》第1項は、国税局長、税務署長又は税関長は、還付金等を還付し、又は充当する場合には、更正又は賦課決定により納付すべき税額が確定した国税に係る過納金については、当該過納金に係る国税の納付があった日の翌日からその還付のための支払決定の日又はその充当の日までの期間の日数に応じ、その金額に年7.3パーセントの割合を乗じて計算した金額をその還付し、又は充当すべき金額に加算しなければならない旨規定している。
 そして、過納金に付される還付加算金は、損害賠償の性格を有しておらず、租税を滞納した場合に延滞税等が課されることとのバランスなどを考慮したところの一種の利子と解されている。
ロ 判断
(イ) 本件訴訟は、別件各更正処分等で原処分庁が認定した所得税額の多寡を争うものであり、本件訴訟費用等は、本件訴訟を追行するために支払われたものであるところ、本件訴訟の結果により別件各更正処分等に係る所得税等の一部が本件各過納金として還付され、その際に本件各還付加算金が付されたとしても、本件訴訟は本件各還付加算金を得るために提起されたものではなく、本件訴訟の結果として本件各還付加算金が発生したにすぎない。
 そして、過納金に付される還付加算金は、上記イの(ロ)のとおり一種の利子と解され、過納金の発生の原因にかかわらず支払われること及び過納金に係る国税等の納付がなければ発生しないものであることを考え合わせれば、本件訴訟費用等と本件各還付加算金との関係は直接的なものとまではいえない。
 そうすると、本件訴訟費用等は、本件各還付加算金を得るために直接要した費用ということはできない。
 また、本件において、還付加算金を得るための行為は、請求人にとって業務とはいえず、所得を生ずべき業務について生じた費用ともいえないから、本件訴訟費用等は雑所得の金額の計算上必要経費に算入することはできない。
(ロ) これに対し、請求人は、本件各還付加算金は不当利得に対する損害賠償金的性格を有し、本件各過納金と一体不可分のものであること、本件訴訟費用等及び本件借入金利息等は投下資本に該当することは明らかであり、原資の維持に必要な部分として、所得を構成しないことから、本件訴訟費用等は、本件各還付加算金を得るために直接要した費用として必要経費に算入できる旨それぞれ主張する。
 しかしながら、上記(イ)のとおり、本件訴訟は本件各還付加算金を得るために提起されたものではなく、本件訴訟の結果として本件各還付加算金が発生したにすぎないことから、本件各還付加算金が本件各過納金と一体不可分のものとはいえず、また、還付加算金は、過納金の発生の原因にかかわらず支払われるものであって、過納金に付される一種の利子であることから、損害賠償の性格を有していない。
 また、上記(イ)のとおり、本件訴訟費用等は、本件各還付加算金を得るために直接要した費用ということはできないから、必要経費に算入することはできない。
 したがって、これらの点に関する請求人の主張には、いずれも理由がない。

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(2) 本件更正処分

 上記(1)のロの(イ)のとおり、本件訴訟費用等は、雑所得の金額の計算上必要経費に算入することはできないが、別件各更正処分等に係る所得税等を納付するための借入金に係る利息及び借入れに付随する費用は本件各還付加算金を得るために直接要した費用と認められるから、その金額3,958,393円(借入金に係る利息3,470,458円及び当該借入れに付随する費用(保証料等)487,935円の合計額)は必要経費と認めるのが相当である。
 これを前提に、請求人の平成17年分の雑所得の金額を算定すると、本件各還付加算金の金額○○○○円から、必要経費の金額3,958,393円を控除した、○○○○円となる。
 そうすると、請求人の平成17年分の総所得金額は、上記雑所得の金額○○○○円に請求人及び原処分庁の双方に争いがない事業所得の金額○○○○円を加算した金額○○○○円となり、原処分のその額と同額となるから、本件更正処分は適法である。

(3) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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