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(平20.10.29、裁決事例集No.76 196頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、子を同人の扶養親族とする扶養控除の適用を受けるものとして所得税の確定申告をしたところ、原処分庁が、請求人の夫が子を同人に所属する扶養親族としていることを理由に請求人については扶養控除の適用は認められないとして、更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をしたことに対し、違法及び不当を理由にその全部の取消しを求めた事案であり、争点は、次の2点である。

争点1 請求人は、子を扶養親族とする扶養控除の適用を受けることができるか否か。

争点2 過少申告加算税の賦課決定処分は不当か否か。

(2) 審査請求に至る経緯等

 審査請求(平成19年11月29日請求)に至る経緯及び内容は、別表のとおりである。

(3) 関係法令

 別紙1のとおりである。

(4) 基礎事実

 次の事実は、請求人と原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人の夫のAは、事業としてギフト商品小売及び不動産賃貸業を営んでおり、請求人はその青色事業専従者である。請求人の平成15年分ないし平成17年分(以下「本件各年分」という。)における収入は、上記青色事業専従者としての給与収入だけであった。
ロ 請求人及びA(以下「請求人ら」という。)の間には、長女及び長男(以下「子ら」という。)がいる。子らの本件各年分の所得は零円であり、本件各年分の各年末日時点で請求人らと子らは生計を一にしていて、いずれも請求人らそれぞれにとっての所得税法第2条第1項第34号の扶養親族に該当していた。
ハ Aは、平成15年分につき平成16年3月12日、平成16年分につき平成17年3月14日、平成17年分につき平成18年3月14日にそれぞれ原処分庁に対し、所得税の確定申告書を提出した。
 なお、上記各年分の確定申告書の第二表の「所得から差し引かれる金額に関する事項」の「配偶者(特別)控除・扶養控除」欄には、子らの氏名、続柄、生年月日及び控除額が記載されているものの、第一表の「所得金額」の「合計」欄はいずれも零円以下であり、「所得から差し引かれる金額」については、平成15年分及び平成16年分の確定申告書には、「社会保険料控除」欄、「扶養控除」欄、「基礎控除」欄及び「合計」欄に金額の記載がある一方、平成17年分の確定申告書には、「基礎控除」欄以外の金額の記載はない。
 また、上記各確定申告書には、第四表(損失申告用)が添付されている。
ニ 請求人がAに対して提出した本件各年分の給与所得者の扶養控除等申告書の「主たる給与から控除を受ける扶養親族」欄は空欄となっている。
ホ 請求人は、平成19年3月13日に原処分庁に対し、子らを請求人の扶養親族とする扶養控除の適用を受けるものとして、本件各年分の所得税の還付等を受けるための確定申告書(以下、これらの確定申告書を併せて「本件各確定申告書」という。)を提出した。
ヘ 原処分庁は、平成19年6月11日付で、上記ホの扶養控除の適用は認められないとして、別表の「更正処分等」欄のとおり、本件各年分の所得税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。

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2 主張

 別紙2のとおりである。

3 判断

(1) 争点1 請求人は、子を扶養親族とする扶養控除の適用を受けることができるか否か。

イ 上記1の(4)のハの事実及びその他Aが提出した本件各年分の確定申告書の記載内容によれば、同各申告書はいずれも所得税法第123条に規定する確定申告書(以下、同条に規定する確定申告書を「損失申告書」という。)であると認められ、上記1の(4)のロの事実によれば、子らは、いずれも本件各年分において、同法第84条第2項に規定する二以上の居住者の扶養親族に該当する者であったことが認められる。そして、Aが提出した本件各年分の損失申告書及び請求人がAに提出した本件各年分の給与所得者の扶養控除等申告書は、所得税法施行令第219条第1項本文の規定により、扶養親族の所属判定の基準とすべき同施行令第218条第1項に規定する申告書等(以下「基準申告書等」という。)に該当するところ、上記1の(4)のハのとおり、Aは、同人が提出した本件各年分の損失申告書の第二表において、所得税法第123条第2項第9号の規定を受けた所得税法施行規則第48条第1項第4号に規定する扶養控除に関する事項として、「所得から差し引かれる金額に関する事項」の「配偶者(特別)控除・扶養控除」欄に子らの氏名、続柄、生年月日及び控除額を記載し、一方、同ニのとおり、請求人は、Aに提出した本件各年分の給与所得者の扶養控除等申告書の「主たる給与から控除を受ける扶養親族」欄に子らに関する記載をしていなかったことからすれば、請求人らは、本件各年分において子らをAに所属する扶養親族として選択したと認めるのが相当である。
 ところで、所得税法施行令第219条第1項ただし書によれば、二以上の居住者の扶養親族に該当する者がある場合において、同項本文の規定により一の居住者に扶養親族の所属が決定された後でも、扶養親族の所属を更に変更することはできることになっているが、このような場合には、扶養親族を増加させようとする者及び減少させようとする者の全員がその所属の変更を記載した基準申告書等を提出しなければならない。そして、上記1の(4)のホのとおり、請求人は、平成19年3月13日に本件各確定申告書を提出することにより、子らを自らの扶養親族としようとするものであるが、同ハによれば、Aは、既に基準申告書等に該当する本件各年分の損失申告書を提出していることから、同人は扶養親族を減少させる旨の基準申告書等を提出する余地はない。そうすると、請求人は、本件各確定申告書を提出することにより、子らについて、所得税法施行令第219条第1項ただし書に基づく扶養親族の所属を変更することはできない。
 したがって、請求人は、本件各年分において、子らを扶養親族とする扶養控除の適用を受けることはできないというべきである。
ロ 請求人は、所得税法第84条の規定は、所得を有する居住者を対象とする規定であり、Aについては、本件各年分において所得を有していなかったから、同条の適用はなく、同条の適用を前提とする所得税法施行令第219条を適用する余地もなく、同人が提出した本件各年分の確定申告書の所得控除の記載は何らの記載もされていないとみるべきであり、少なくとも、平成15年分及び平成16年分について、Aは請求人の控除対象配偶者であって、請求人に養われているものが子らを扶養していると解することはできないから、Aの平成15年分及び平成16年分の所得税の申告については、所得税法第84条の規定の適用はないなどとして、本件各確定申告書の提出により、請求人が子らを扶養親族とすることを選択したことになる旨主張する。
 しかしながら、所得税法第84条第1項は、「居住者が扶養親族を有する場合には」扶養控除の適用を受けることができる旨規定しており、居住者の所得金額の多寡や一方が他方の控除対象配偶者であるか否かによって同条の適用を受けることができなくなるものでないことは文理上明らかである。確かに所得控除前の所得金額の合計額が零円であれば、扶養控除の適用を受ける必要は直ちには生じないものであるが、その後に増額更正や修正申告により所得金額が増加し、それによって扶養控除の適用を受けることもあり得るのであり、そのような場合に備えて、あらかじめ扶養親族の所属を確定させることには意味があるから、損失申告書において、その第二表の「所得から差し引かれる金額に関する事項」の「配偶者(特別)控除・扶養控除」欄に子らの氏名、続柄、生年月日及び控除額を記載したことが無意味であるとして何らの記載がないものとみることはできない。したがって、請求人の主張は、独自の解釈に基づくものであって採用できない。
ハ また、請求人は、Aが提出した平成17年分の確定申告書の第一表には所得控除の金額を各欄に記載しておらず、同人は、所得税法第120条第1項各号に規定する申告書の記載事項に関する記載をしていないことから、同申告書の第二表の「所得から差し引かれる金額に関する事項」の各欄の記載は何らの意味もなく、同人が、子らを同人の扶養親族とすることを選択したことにはならない旨主張する。
 しかしながら、上記イの判断で示したとおり、Aが提出した平成17年分の確定申告書は所得税法第123条に規定する損失申告書であるところ、同条第2項各号及び同項第9号の規定を受けた所得税法施行規則第48条各号には扶養控除の額をその記載事項とする旨の規定はなく、同条第4号が扶養控除に関する事項を記載事項とする旨規定していることからすると、上記1の(4)のハのとおり、同申告書の第一表の「所得から差し引かれる金額」の扶養控除欄に金額を記載しないまま、その第二表の「所得から差し引かれる金額に関する事項」の「配偶者(特別)控除・扶養控除」欄に子らの氏名、続柄等の扶養控除に関する事項を記載したことは、所得税法第123条の規定に従って記載したことになるというべきである。そして、損失申告書において、その第二表の「所得から差し引かれる金額に関する事項」の「配偶者(特別)控除・扶養控除」欄に子らの氏名、続柄、生年月日及び控除額を記載したことが意味のないものということができないことは、上記ロで述べたとおりであるから、平成17年分の損失申告書の第一表の「所得から差し引かれる金額」の扶養控除欄に金額の記載がないことは、Aが平成17年分において子らを同人に所属する扶養親族として選択したとの上記イの認定・判断を左右するものではない。したがって、請求人の主張は採用できない。

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(2) 争点2 本件各賦課決定処分は不当か否か。

イ 請求人は、確定申告をした者が税額の還付を求める更正の請求と給与所得者で確定申告を要しない者が還付等を受けるための申告とは、還付を求める点においては実質的に同じ性質のものであるので、その内容の誤りにより一部還付が認められなかった場合において、前者において過少申告加算税が賦課されないにもかかわらず、後者において賦課されるのは不当である旨主張する。
 しかしながら、更正の請求は、納税者から税務署長に対し減額更正という行政処分の発動を求めるものであり、更正の請求をしたことのみをもって、課税標準等又は税額等を確定させる法的効果を有するものではないのに対し、還付等を受けるための申告を含む納税申告は、申告納税方式による国税につき、課税標準等及び税額等の内容を具体的に確定するという法的効果が付与されているものであって、両者は、別個の性質を有するもので、納税者の責任はおのずから異なり、還付等を受けるための申告により過少申告をした場合に過少申告加算税を賦課したことが不当であるとはいえない。したがって、請求人の主張は採用できない。
ロ 請求人は、事務運営指針によれば、国が減額更正した後の再更正により税額が増えた場合に、申告税額に達するまでの税額に対しては、通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由がある場合に該当するとして、過少申告加算税を賦課しないこととしており、本件のように給与所得者の還付等を受けるための申告に対する更正の場合にも同様に取り扱うべきであるにもかかわらず、過少申告加算税を賦課したことは不当である旨主張する。
 ところで、上記事務運営指針の定めは、納税者が確定申告書を提出した後に、通則法第24条の規定による納付すべき税額を減少させる旨の減額更正があった場合において、その後に修正申告や通則法第26条の規定による再更正により納付すべき税額が生じた場合に、確定申告書に記載された税額に達するまでの税額に対しては、形式上通則法第65条第1項の賦課要件に該当するものの、そのことにつき、納税者の責めに帰すべき事由はないとして過少申告加算税を賦課しないこととする取扱いであると解され、当該取扱いは、同条第4項の趣旨に照らし、当審判所においても相当と認める。しかしながら、本件のように納税者が提出した確定申告書に内容の誤りがあり、後日増額更正を受けた場合は、過少申告をしたことにつき、納税者に帰責事由があることが明らかであり、事務運営指針が定める場合と同視することはできないから、事務運営指針の定めがあることをもって、本件各賦課決定処分が不当ということはできない。したがって、請求人の主張は採用できない。

4 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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