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(平20.10.3、裁決事例集No.76 212頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、アメリカ合衆国(「米国」という。)のグループ企業に、○○等の製造ノウハウ等の実施権許諾の対価として支払う使用料について、所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の条約(平成16年3月30日条約第2号。以下「新日米租税条約」という。)を適用して、その支払の際に所得税の源泉徴収を行わなかったことについて、原処分庁が、当該使用料の契約上の支払期日は、同条約適用開始前に到来しているとして、源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分を行ったことに対し、請求人が、使用料の実際の支払が行われた日を基準として、新日米租税条約の適用の有無を判断すべきであるとして、当該処分の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、請求人の実施権許諾の使用料の支払については、新日米租税条約の適用はなく、所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の条約(昭和47年6月23日条約第6号。以下「旧日米租税条約」という。)が適用されるとして、平成19年6月27日付で、納付すべき税額を○○○○円とする納税告知処分(以下「本件納税告知処分」という。)及び不納付加算税の額を○○○○円とする賦課決定処分(以下、平成16年7月分の賦課決定処分を「本件賦課決定処分」といい、本件納税告知処分と併せて「本件納税告知処分等」という。)をし、その処分の通知書を請求人に対し平成19年6月28日に送達した。
ロ 請求人は、これらの処分を不服として、平成19年8月28日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は同年11月27日付で、棄却の異議決定をした。
ハ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、本件納税告知処分の全部及び本件賦課決定処分の一部の取消しを求めて、平成19年12月27日に審査請求をした。

(3) 関係法令等

 別紙のとおり。

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(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、米国に本店を置くB社が○○%出資する株式会社である。
ロ 請求人は、B社との間で、ロイヤルティ契約(表題「Royalty Agreement」、以下「本件契約」という。)を締結しており、本件契約に係る契約書には、要旨次のとおり記載されている。
(イ) 前文
 本件契約は、平成9年1月1日に、B社と請求人との間で締結された。
(ロ) 実施権の許諾(第2条)
 B社は、1日本国内での製品の開発、製造、加工、販売及び流通に関する専有権並びに2日本国内での商品の販売及び流通に係るマーケティングについての知的財産権の独占的な実施権を請求人に許諾する(以下、これらの許諾された権利を「本件実施許諾権」という。)。
(ハ) 対価と支払(第7条)
 本件契約の第2条に定める本件実施許諾権の対価として、請求人は、B社に対して、(1)「売上高−製品」の○○%、また、(2)「売上高−商品」の○○%の使用料を日本円で支払うものとする(以下、本件契約に基づいて請求人からB社へ支払う使用料を「本件使用料」という。)。
 本件使用料は、B社から書面により支払時期及び支払先について別段の指図がない限り、毎暦月末から30日以内に支払日となり、P市内の住所にあるB社総合事務所で支払うものとする。
(ニ) 発効(第9条)
 本件契約は、平成9年1月1日に発効し、その日から5年間有効となる。契約当事者が、契約終了日の6か月以上前に契約終了の通知を他方に対して行わない限り、本件契約は、2年間自動延長される。
ハ 新日米租税条約は、米国時間の平成15年11月6日にワシントンにおいて、日本と米国との間で署名が行われ、日本時間の同年11月7日に財務省ホームページに、同条約の署名が行われた旨及び使用料について一律源泉地国免税となる旨掲載された。
 そして、平成16年3月30日に東京において、日本と米国との間で同条約の批准書の交換が行われ、同日財務省ホームページに、同条約が同日発効する旨及び源泉所得税に関して同年7月1日以後に租税を課される額について同条約が適用される旨掲載された。
ニ 請求人は、C社の当時の財務補佐Dから当時の請求人の経理部の課長Eに送られた平成16年1月23日の電子メール並びにC社の当時の財務部長Fから請求人の当時の代表取締役Gにあてられた平成16年4月2日付及び同年6月7日付レター(以下、これらを併せて「本件レター等」という。)により、B社に対する使用料の支払を延期し、その支払を同年7月中に行うことを要請された。
ホ 請求人は、平成16年1月分ないし5月分の本件使用料(以下「本件各使用料」という。)について、別表の「使用料の額」の各欄のとおり金額を算出し、同表の「未払金計上年月日」の各欄の日付で未払金として経理処理を行った。
ヘ 請求人は、平成16年6月分の本件使用料を、平成16年7月2日に○○○○円と算出した。
ト B社は、平成16年7月16日に、請求人を経由して、本件使用料に関する租税条約実施特例省令第2条第1項に規定する届出書(以下「租税条約に関する届出書」という。)を原処分庁に提出した。
チ 請求人は、本件各使用料の合計金額○○○○円に平成16年6月分の本件使用料○○○○円を加算した○○○○円を平成16年7月23日にB社に対して支払った。
リ 請求人は、平成16年7月分の本件使用料を、平成16年8月3日に○○○○円と算出し、同月25日にB社に対して支払った。
ヌ 請求人は、上記チ及びリの支払の際に、源泉所得税の徴収及び納付は行っていない。

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2 主張

(1) 原処分庁

 本件納税告知処分等は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 新日米租税条約に規定する「租税を課される額」の解釈について
 新日米租税条約第30条第2項(a)(i)(aa)に規定する「租税を課される額」とは、使用料においては、租税を課される者(新日米租税条約の適用を受ける者)である使用料の受領者が、その収入金額を課税標準として所得税が課されることとなる額であるから、支払を受けるべきことが確定した使用料として租税が課される額、すなわち「支払を受けるべき額」を規定したものと解される。そして、この「支払を受けるべき額」について、逆に租税を徴収する者(源泉徴収義務者)側からみると、支払うべきことが確定した使用料の額、すなわち「支払うべきことが確定した額」を規定したものと解される。
 本件契約上、本件使用料は、毎暦月末起算の30日以内に請求人がB杜に対し支払う定めとなっており、本件各使用料は、いずれも平成16年6月30日までに支払期日が到来しているものであって、それぞれが同日までに請求人がB社に支払うべきことが確定した使用料、すなわち平成16年6月30日までに「租税を課される額」であるものと認められるから、新日米租税条約は適用されず、旧日米租税条約が適用されることとなる。
 したがって、請求人が平成16年7月23日に支払った本件各使用料については、所得税法第212条第1項の規定により、その支払の際、所得税を徴収し、同日の属する月の翌月10日である同年8月10日までに、これを国に納付しなければならないこととなる。
 なお、B社は、本件使用料に関し、請求人を通じて原処分庁に、租税条約に関する届出書を提出していることから、本件各使用料について適用される税率は10%となる。
ロ 本件契約の支払期日の変更の有無について
 請求人は、仮に、本件各使用料が平成16年7月1日以後に「支払を受けるべき」所得か否かを検討した場合でも、本件レター等をもって本件各使用料の支払期日は変更されたものであり、同日以後に「支払を受けるべき」所得であって、旧日米租税条約が適用される余地はない旨主張する。
 しかしながら、本件レター等によって、本件各使用料の支払の中止又は支払期限の延期等の通知がなされたものであるところ、請求人は、これにより本件各使用料の支払を延期しているものの、一方では、本件契約に基づいて毎暦月末において本件各使用料の計算を従来どおり行い、本件各使用料の算出をし、かつ、当該算出された本件各使用料をいずれも未払金として経理処理していることからすれば、請求人は、本件各使用料の支払債務を認識していたものと認められる。
 このことからすれば、本件各使用料は、本件レター等により、単に支払期限を延長して支払われたものにすぎず、平成16年7月分の本件使用料の金額が、本件契約に基づき、30日以内に支払われていることを併せて考えると、本件契約の支払期日について、変更があったものとは認められない。
 以上のとおり、本件納税告知処分は適法であり、また、請求人が源泉所得税を納付しなかったことについて、国税通則法第67条《不納付加算税》第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められないから、本件賦課決定処分は適法である。

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(2) 請求人

 原処分は、事実認定並びに日米租税条約及び所得税法の解釈、適用を誤ったものであり、違法であるから、本件納税告知処分等の一部の取消しを求める。
イ 新日米租税条約に規定する「租税を課される額」の解釈について
 新日米租税条約第30条第2項(a)(i)(aa)の規定は、平成16年7月1日以後に「租税を課される額」について同条約が適用されると規定しているのであって、平成16年7月1日以後に「支払を受けるべき」所得に同条約を適用すると規定しているのではない。所得税法上、使用料等について「租税を課される」のは、「その支払の際(所得税法第212条《源泉徴収義務》第1項)」、すなわち、現実の支払の時点と定められているのであって、それ以外の解釈の余地はなく、新日米租税条約第30条第2項(a)(i)(aa)に規定する平成16年7月1日以後に「租税を課される額」についても、所得税法と整合的に平成16年7月1日以後に「支払われる額」と解釈されなくては、法律違反である。
 なお、所得税法上、配当等及び役員に対する賞与については、「支払の確定した日から1年を経過した日までにその支払がされない場合には、その1年を経過した日においてその支払があったものとみなして」課税するとの規定がある(所得税法第181条《源泉徴収義務》第2項及び同法第183条《源泉徴収義務》第2項)。これは、支払が確定しているにもかかわらず、いつまでも現実に支払われない場合に課税するために設けられた規定であるが、使用料等については、同様の規定すらなく、現実に支払われない限り課税しないというのが法の趣旨であることは明らかである。
 原処分庁は、新日米租税条約第30条第2項(a)(i)(aa)に規定する平成16年7月1日以後に「租税を課される額」について、「租税を徴収する者(源泉徴収義務者)側からみれば」という独自の視点を設定し、平成16年7月1日以後に「支払うべきことが確定した額」を規定したものと解されると主張して、あたかもそれが原処分庁の解釈の根拠となるかのようにいい、同条約の適用の有無を契約上の「支払期日」で決しようとするが、納税義務者の所得に租税を課されるのが「支払の際」であることは、法の定めるところであって、源泉徴収義務者からみても、納税義務者側からみても、このことは変わらない。
 請求人の主張するように、現実の「支払」の時期によって条約の適用の有無を決することは、「支払」が源泉徴収義務者の行為であるがゆえに、納税義務者の単独のし意により条約の適用を防ぐことにもなり、法的安定性においても優れた解釈である。
 また、仮に、当初の契約で平成16年7月1日以前の日が「支払期日」として定められた場合には、両当事者が後にどのような合意をしようとも、新日米租税条約の適用を一切認めないとするのであれば、「日米新租税条約の適用開始日について」と題する国税庁のガイダンスにおいて、支払日の定めがない場合について、実際の支払の日を基準に同条約の適用の有無を決すると解されていることとの均衡を完全に失しているというほかない。このような解釈によれば、支払期日の定めがない場合には、支払者の意思により条約の適用を左右し得るからである。
 したがって、B社に対し平成16年7月23日に支払われた本件各使用料については、新日米租税条約が適用され、同条約第12条第1項の規定により、請求人には、源泉所得税の徴収及び納付義務が生じず、不納付による責任も生じない。
ロ 本件契約の支払期日の変更の有無について
 原処分庁は、本件契約上、本件使用料は、毎暦月末起算の30日以内に請求人がB社に対し支払う定めになっており、本件各使用料は、本件レター等により、単に支払期限を延長して支払われたものにすぎず、本件契約の支払期日について、変更があったものとは認められないと主張する。
 しかしながら、本件契約に関するこのような解釈は、私法上の事実認定ないし法的評価とかけ離れており、このような解釈に基づき租税法規を適用することは、法令違反であって許されない。
 本件契約によれば、本件使用料の支払期日は「別途B社より書面による指図を受けない限り、毎暦月末から30日以内」と定められており、本件レター等により、C社は支払期日を平成16年7月に延期する旨の指図をしている。したがって、本件各使用料の本件契約上の支払期日は平成16年7月である。
 なお、B社は請求人の親会社であり、C社は、B社の100%親会社である会社の100%親会社である。したがって、C社の方針については、特段の理由がない限り、請求人及びB社は合意しているといってよく、請求人とB社は、本件レター等により指図された支払期日の延期について合意しているといえる。
 したがって、本件各使用料について、仮に、契約上の支払期日がいつであるかが問題となるとしても、本件各使用料の支払期日は平成16年7月1日以後となるから、本件各使用料は、平成16年7月1日以後に「支払うべきことが確定した額」であり、旧日米租税条約が適用される余地はなく、請求人には、源泉所得税の徴収及び納付義務は生じないし、不納付による責任も生じない。
 原処分庁は、このような支払期日の延期が当事者の合意とは異なるものであるかのように主張するが、私法上の法律関係の解釈としてそのような解釈はありえない。
 以上のとおり、請求人には、本件各使用料に係る源泉所得税を徴収し、納付する義務はなく、不納付による責任も生じないから、本件納税告知処分等は違法である。

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3 判断

(1) 新日米租税条約の適用開始時期等について

イ 法令解釈
(イ) 所得税法第212条第1項は、外国法人に対し国内において同法第161条第7号イに規定する使用料の支払をする者は、その支払の際、所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月10日までに、これを国に納付しなければならない旨規定している。また、同法第213条《徴収税額》第1項第1号は、その支払金額に100分の20の税率を乗じて計算した金額を徴収すべき旨規定している。ただし、租税条約に限度税率又は免税の規定がある場合には、租税条約実施特例法第3条の2の該当条項の規定に従い、租税条約に規定する限度税率で源泉徴収が行われ、又は源泉徴収義務が免除されることになる。
(ロ) 旧日米租税条約第14条第1項及び第2項は、使用料について、使用料の源泉地国及び使用料の受領者の居住地国の双方で課税できる旨、また、使用料の源泉地国では、10%を超えない限度税率によって課税される旨規定している。一方、新日米租税条約第12条第1項は、使用料についての課税は、使用料の受領者の居住地国においてのみ行うこととし、源泉地国での課税を一律に免税する旨規定している。
(ハ) 新日米租税条約第12条第1項の規定は、新日米租税条約の批准書の交換が平成16年3月30日に行われたため、同条約第30条第2項(a)(i)(aa)の規定により、平成16年7月1日以後に租税を課される額について適用されることとなる。そして、同項(a)(i)(aa)に規定する「租税を課される額」とは、文理上、課税の対象となる額を意味し、納税義務者の所得税の算定基準となる課税標準について規定したものであると解される。
(ニ) 我が国の国内法をみると、所得税法は、外国法人が、同法第161条第7号イに規定する使用料の支払を受ける場合の課税標準は、その外国法人が支払を受けるべき国内源泉所得の金額とする旨規定しており、新日米租税条約の締結の際に改正された租税条約実施特例法の改正に伴う経過措置を規定した、所得税法等の一部を改正する法律(平成16年法律第14号)の附則第18条第1項は、施行日以後に支払を受けるべき使用料について適用し、施行日前に支払を受けるべき同項に規定する使用料については、なお従前の例による旨規定している。
 これらの所得税法の規定及び租税条約実施特例法の改正に係る経過措置の規定内容からして、新日米租税条約第30条第2項(a)(i)(aa)の「租税を課される額」とは、租税を課される者にとっての課税標準である「支払を受けるべき額」を意味するものと解される。
(ホ) また、源泉徴収は、所得の支払を受けるべき本来の納税義務者から納付される所得税の一部について、その所得の支払を行う者をして、その支払の際に税金相当分を徴収して納付する制度であるため、その支払の際には、本来の納税義務者に対して納税義務が発生するのではなく、所得の支払者(源泉徴収義務者)に源泉徴収の義務が発生することになる。
(ヘ) そうすると、上記(ニ)の租税を課される者にとっての課税標準である「支払を受けるべき額」は、所得の支払者(源泉徴収義務者)側からみれば、源泉所得税の算出の基礎となる「支払うべきことが確定した額」と解されるため、新日米租税条約における「租税を課される額」とは、すなわち「支払うべきことが確定した額」を規定したものと解される。
(ト) したがって、使用料について、新日米租税条約が適用されるかどうかは、その使用料が平成16年7月1日以後に「支払うべきことが確定した額」か否かで判断することとなる。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人は、本件レター等によるC社からの要請に従って、平成16年2月ないし同年6月の間、本件使用料の支払を行っていない。
(ロ) 請求人は、平成13年1月分から平成15年12月分まで及び平成16年6月分から12月分までの本件使用料については、毎暦月末から30日以内にB社に支払っている。
ハ 本件における新日米租税条約の適用の有無について
 本件各使用料は、上記1の(4)のロの(ロ)及び(ハ)のとおり、B社が請求人に許諾した本件実施許諾権の使用の対価であるため、所得税法第161条第7号イに規定する使用料に該当し、国内源泉所得に該当する。したがって、本件各使用料についての源泉徴収義務の有無は、新日米租税条約が適用されるか否か、すなわち、上記イの(ト)のとおり、本件各使用料が、平成16年7月1日以後に「支払うべきことが確定した額」であるか否かによって決せられることになる。
 これを本件についてみると、本件使用料は、上記1の(4)のロの(ハ)のとおり、本件契約において毎暦月末日から30日以内にB社に支払われることになっている。そして、請求人は、上記1の(4)のホのとおり、請求人自ら、実際に本件各使用料の金額を毎月算出し、未払金として経理処理を行っている。これらのことから、本件各使用料に関する請求人の支払債務は、平成16年1月ないし5月の各月末日(以下「本件各月末日」という。)を経過した時点で確定しているというべきであり、本件各使用料を支払うべき期限は、本件契約に従って、本件各月末日から30日以内に到来することになるから、平成16年1月分ないし5月分の本件使用料である本件各使用料の支払期日は、いずれも平成16年6月30日までに到来していることは明らかである。したがって、本件各使用料は平成16年6月30日以前に「支払うべきことが確定した額」となるから、本件各使用料について、新日米租税条約は適用されない。
 そうすると、本件各使用料は、旧日米租税条約の適用を受けることになるところ、B社は、本件使用料について請求人を通じて租税条約に関する届出書を提出しているため、請求人は、平成16年7月23日の本件各使用料の支払の際に、10%の割合で所得税○○○○円を徴収し、所得税法第212条第1項の規定に従って、平成16年8月10日までに原処分庁に対して納付する義務があったことになる。
ニ 請求人の主張について
(イ) 請求人は、源泉所得税について「租税を課される」のは、その支払の際、すなわち現実の支払の時点であるから、新日米租税条約は、平成16年7月1日以後に「支払われる額」について適用され、同月23日に支払われた本件各使用料には、同条約が適用される旨主張する。
 しかしながら、上記イの(ハ)のとおり、新日米租税条約第30条第2項(a)(i)(aa)に規定する「租税を課される額」とは、納税義務者の課税標準について規定したものであって、「支払われる額」を規定したものではない。また、上記イの(ト)のとおり、新日米租税条約の適用可否は、その使用料が平成16年7月1日以後に「支払うべきことが確定した額」か否かで判断されるものであって、源泉所得税を徴収し、納付する義務が発生する時で決せられるものではない。そうすると、上記ハのとおり、本件各使用料は平成16年6月30日以前に「支払うべきことが確定した額」となるから、請求人の主張には理由がない。
(ロ) さらに、請求人は、仮に、平成16年7月1日以後に「支払うべきことが確定した額」か否かによって、新日米租税条約の適用可否を判断するのだとしても、本件各使用料の支払期日は、本件レター等により変更されているので、本件契約上の支払期日は平成16年7月1日以後であり、本件各使用料は平成16年7月1日以後に「支払うべきことが確定した額」であって、同条約が適用されるから、請求人の源泉徴収義務は生じない旨主張する。
 確かに、上記ロの(イ)のとおり、請求人が平成16年2月から6月の間、B社に対して本件使用料の支払を行っていないことは事実として認められる。
 しかしながら、1上記ハのとおり、本件各月末日を経過した時点で請求人の本件各使用料に関する支払債務は確定していること、2上記1の(4)のホのとおり、請求人は、本件各使用料の金額を毎月算出し、当該債務の確定を裏付ける未払金としての経理処理を行っていること、3本件契約第7条によれば、本件使用料の支払期日を変更する場合の指図はB社から請求人に対して行うものとされているが、上記1の(4)のニのとおり、本件レター等による請求人に対する支払延期などの指図は本件契約の当事者ではないC社からされており、B社からの指図ではないこと、4上記ロの(ロ)のとおり、平成15年12月分以前及び平成16年6月分以後の本件使用料の支払は、本件契約に従って通常どおり毎暦月末から30日以内に行われていることからすると、本件各使用料は、支払債務が確定したその支払を、本件レター等により、一時的、例外的に延期しただけであると認められる。
 すなわち、本件レター等は、単にグループの基幹法人であるC社からの経営戦略の一環としての支払延期の指示にすぎず、本件契約の支払期日を変更したものとは認められない。したがって、本来の契約上の支払期日は依然として存在するとみるのが相当であるから、請求人の主張には理由がない。

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(2) 本件納税告知処分について

 上記(1)のとおり、平成16年7月分の源泉所得税の額は、○○○○円となるから、それと同額で行った本件納税告知処分は適法である。

(3) 本件賦課決定処分について

 本件納税告知処分は上記(2)のとおり適法であり、また、同告知処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が告知処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第67条第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定により行った本件賦課決定処分は適法である。

(4) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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