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(平20.12.25、裁決事例集No.76 228頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、請求人の代表者に対して支払った給与等について、同人が、所得税法第2条第1項第5号に規定する「非居住者」に当たるとして、所得税を源泉徴収し納付していたところ、原処分庁が、同人は同項第3号に規定する「居住者」に当たるとして行った原処分に対し、請求人がその全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 請求人は、平成19年6月8日に、平成14年1月から平成14年12月まで及び平成16年1月から平成18年3月までの各月分(以下「本件各月分」という。)の源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)の各納税告知処分(以下、この各納税告知処分に係る源泉所得税の額の合計額○○○○円を「本件源泉所得税」という。)及び不納付加算税の各賦課決定処分について、審査請求をした。
 この審査請求に至る経緯は、別表1記載のとおりである。

(3) 関係法令等

 別紙1記載のとおりである。

(4) 当事者間に争いがなく、証拠により容易に認定できる事実等

イ 請求人は、請求人の代表取締役Aに支払った本件各月分の給与並びに平成16年2月分及び平成17年2月分の配当について、Aを非居住者として源泉所得税を徴収しており、平成15年1月から同年12月までの各月分の給与及び同年2月分の配当については、Aを居住者として源泉所得税を徴収していた。
ロ Aの住民登録の状況は、別表2記載のとおりであった。
ハ Aの出入国の状況は、別表3記載のとおりであった。
ニ Aの国内外の滞在日数の状況は、別表4記載のとおりであった。
ホ 本件に係る調査(以下「原処分調査」という。)は、B税務署所属の職員(以下「本件署職員」という。)及びC国税局課税総括課所属の職員(以下「本件国税局職員」という。)によって行われた。

(5) 争点

イ 原処分調査における質問検査権の行使に違法があったか否か。
ロ Aは、所得税法第2条第1項第3号に規定する「居住者」に当たるか否か。
ハ 本件源泉所得税を法定納期限までに納付しなかったことについて、通則法第67条第1項ただし書にいう「正当な理由」があるか否か。

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2 主張

 各争点に対する当事者双方の主張は、別紙2記載のとおりである。

3 判断

(1) 争点イについて

 原処分調査における質問検査権の行使に違法があったか否かに争いがあるので、審理したところ、次のとおりである。
イ 財務省組織規則第468条第4号は、課税総括課は、所得税等の課税標準の調査及びこれらの国税に関する検査に関する事務で、国税局長が必要があると認めた特定事項に係る事務の指導及び監督並びにこれに必要な調査及び検査に関する事務をつかさどる旨規定している。
 そして、所得税法第234条第1項は、国税局の当該職員は、所得税に関する調査について必要があるときは、同項第1号から第3号までに掲げる者に質問し、又はその者の事業に関する帳簿書類その他の物件を検査することができる旨規定している。
ロ これを本件についてみると、本件国税局職員は、本件署職員の調査に同行していたが、これは、財務省組織規則第468条第4号によって、本件署職員の調査の指導及び監督並びにこれに必要な調査及び検査に関する事務に従事していたのであり、当該事務を行うに当たっては、所得税法第234条第1項の規定に基づき質問検査権を行使することができるのであるから、原処分調査において、本件国税局職員が質問検査権を行使したことに何ら違法な点はない。
 なお、上記のとおり、本件国税局職員は、本件署職員の調査の指導等の事務に従事していたのであって、原処分は、あくまで本件署職員の調査に基づくものであったことから、原処分に係る納税告知書に国税局の当該職員の調査に基づき行われた処分であることを附記しなかったものと認められる。
 したがって、この点に関する請求人の主張を採用することはできない。

(2) 争点ロについて

 Aが居住者に当たるか否かに争いがあるので、審理したところ、次のとおりである。
イ 所得税法第2条第1項第3号は、居住者とは、国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人をいう旨規定しているところ、同法上、住所についての定義規定はないことから、同法における住所とは、民法第22条に定める住所の意義と同様に、各人の生活の本拠をいうものと解される。そして、生活の本拠とは、その者の生活に最も関係の深い一般的生活関係の中心となる場所を指すところ、その判定については、その者の住居、職業、生計を一にする配偶者その他の親族の居住地、資産の所在及び国内外の滞在日数等の客観的事実を総合的に勘案して判定するのが相当である。
ロ 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の各事実が認められる。
(イ) 請求人は、昭和○年○月に設立され、○○機器等の設計、開発、製造及び販売等を目的とし、○○機等の開発・製造・販売を主たる事業内容とする法人であり、本店をP市に置き、Q市、R市及びS市に事業所等を、D国及びE国に100%子会社を有し、国内にも複数の関連企業があり、平成18年6月時点において、資本金は○○○○円に達し、従業員は○名を超えている。
(ロ) Aは、請求人の代表取締役で、D国T市に所在する請求人の子会社F社、関連企業であるQ市に所在するG社及びR市に所在するH社の代表取締役を兼務している。
(ハ) Aは、本籍であるQ市U町○−○に住宅(以下「U住宅」という。)を所有して、別表2の順号1及び3の期間は、同所に住民登録し、また、同表の順号4、6及び8の期間には、同順号の住所に所在するG社所有の住宅(以下「W住宅」という。)の所在地に住民登録していた。
(ニ) Aは、商業登記、金融機関に提出する本人確認書類及び外国送金依頼書等の各種届出関係書類並びに土地売買契約書等の住所として、住民登録上の住所を用いていた。
(ホ) Aは、別表3のとおり出入国を繰り返し、その滞在日数の状況は、別表4のとおり、平成14年は国内が297日間、国外が68日間、平成15年は国内が297日間、国外が68日間、平成16年は国内が330日間、国外が36日間及び平成17年は国内が269日間、国外が96日間の滞在となっており、いずれの年においても国内滞在日数の方が多い。
(ヘ) Aは、請求人の代表取締役として、請求人のQ事業所において原則として毎月1回以上開催されている請求人の取締役会に出席するとともに、日常的な物品購入等についても、これに係る請求人の稟議書に自署することにより承認している。
ハ 上記1(4)イからニまでの各事実及び上記ロの各認定事実によれば、Aは、請求人の代表取締役として、枢要な職務を遂行し、平成14年から平成17年の間は、1年のうち269日から330日は国内に滞在しており、国内滞在日数の方が国外滞在日数よりも多い上、Aは、1年のうちのほとんどの期間、U住宅あるいはW住宅の所在地に住民登録をし、日本に住民登録をしていない平成16年12月○日から平成17年3月○日までの間、同年12月○日から平成18年1月○日までの間についてみても、後の期間は年末年始の18日間のみであり、前の期間も同様に年末年始を含む上、平成17年1月○日から同年2月○日までの間は国内に滞在している。
 以上のとおり、Aは、出入国を繰り返しているものの、U住宅あるいはW住宅以外に生活の本拠としての実態がある場所もなく、上記ロ(ヘ)のとおり、Aが、請求人の代表取締役として、請求人のQ事業所において原則として毎月1回以上開催されている請求人の取締役会に出席するとともに、日常的な物品購入等に係る請求人の稟議書に自署していることからも、Aが、P市に本店を置く請求人を中心とするグループ企業の実権を掌握し、その地位に照らしても相当期間長期にわたり国内に居住することを必要としていたものと認められる。
 そうすると、Aは、U住宅又はW住宅を生活の本拠にしていたと認めるのが相当であるから、同人はQ市U町○−○又はQ市W町○−○に住所を有していたものというべきである。
 したがって、Aの住所は国内にあるから、同人は所得税法第2条第1項第3号に規定する「居住者」に当たる。
ニ この点について、請求人は、D国Z市に、Aと生計を一にする配偶者等の家族が居住しているから、Aの住所はD国Z市である旨主張するものの、その主張の前提となる、Aの配偶者等の家族が同人と生計を一にしているとの事実について、請求人は、これを認めるに足る証拠を提出せず、また、当審判所の調査その他による本件全資料によっても認めることができない。
ホ また、請求人は、本件先例事件において、住民票の記載事項を否定し実態で判断すべきと課税庁が主張しながら、本件において住民票の記載事項を課税の根拠とすることは違法であり、所得税基本通達3−1に定める船舶又は航空機の乗組員の住所の判定と同様に、Aの住所は、「その者の配偶者その他生計を一にする親族の居住している地」であり、日本における勤務以外の通常滞在する地であるD国Z市と判定すべきである旨主張する。
 しかしながら、本件においても、生活の本拠がいずれであるかは単に住民票の記載事項により判断するのではなく、住居、職業、国内において生計を一にする配偶者その他の親族の居住地及び資産の所在等の客観的事実を総合的に判断しているのであるから、この点に関する請求人の主張は採用できない。
 なお、所得税基本通達3−1は、船舶又は航空機の乗組員などその職業柄自らが日本国内に生活することが困難な場合における居住地の判定について示したものであり、Aの場合には該当しないことも明らかである。
 したがって、請求人の主張は採用できない。

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(3) 争点ハについて

 本件源泉所得税を法定納期限までに納付しなかったことについて、正当な理由があるか否かに争いがあるので、審理したところ、次のとおりである。
イ 通則法第67条第1項は、その本文において、源泉徴収による国税がその法定納期限までに完納されなかった場合には、不納付加算税を徴収する旨規定し、そのただし書において、法定納期限までに納付しなかったことについて正当な理由があると認められる場合にはこの限りでない旨規定している。
 これは、源泉徴収制度が、源泉徴収義務者において、納税義務者の納税額を徴収して国に納付する制度であり、国においては源泉徴収義務者のみを相手として強制徴収手続を進める建前を採り、源泉徴収義務者のこれらの義務の適正な履行が強く望まれることから、源泉徴収による国税を国に適正に納付しない場合の行政上の措置としての不納付加算税を規定しているもので、過少申告加算税と同様、適正に納付した者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに、不納付による納税義務違反の発生を防止し、適正な源泉徴収の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行政上の措置である。
 したがって、不納付加算税が課されないこととなるための「正当な理由」とは、過少申告加算税におけるそれと同様、真に源泉徴収義務者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、不納付加算税の趣旨に照らしても、なお、源泉徴収義務者に不納付加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である。
ロ これを本件についてみると、AがD国Z市を住所とする非居住者であるとの申告をしていたとしても、請求人は、その代表取締役であるAの国内外の滞在状況、勤務状況並びにU住宅及びW住宅の存在等について認識していたのであるから、源泉所得税を徴収するに当たって、Aを居住者として徴収することが可能であったというべきである。
 そうすると、Aが居住者か非居住者かは、源泉徴収義務者である請求人において判断すべきもので、非居住者であるとのAの申告が有力な参考資料となるとしても、これに従っていたことのみをもって、不納付につき真に請求人の責めに帰することのできない客観的な事情があった場合に当たるとはいえず、また、他に請求人の責めに帰することのできない客観的な事情もないことから、本件源泉所得税を法定納期限までに納付しなかったことについて、通則法第67条第1項ただし書にいう「正当な理由」があったとは認められない。

(4) 結論

 以上のとおり、原処分には、いずれの争点についても、これを取り消すべき理由はない。
 また、原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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