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(平20.11.14、裁決事例集No.76 285頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、請求人が損金の額に算入した役員報酬の額について、原処分庁が法人税法第34条《過大な役員報酬等の損金不算入》に規定する「不相当に高額な部分の金額」があるとして、法人税の更正処分等を行ったのに対し、請求人が当該役員報酬の額には、「不相当に高額な部分の金額」はないとして、同処分等の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人の平成16年2月1日から平成16年5月31日まで、平成16年6月1日から平成17年5月31日まで及び平成17年6月1日から平成18年5月31日までの各事業年度(以下、順次「平成16年5月期」、「平成17年5月期」及び「平成18年5月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書に、別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までにそれぞれ申告した。
ロ 原処分庁は、これに対し、本件各事業年度の法人税について、別表1の「更正処分及び賦課決定処分」欄のとおりの各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい、本件各更正処分と併せて「本件各更正処分等」という。)をした。
ハ 請求人は、これらの処分を不服として、平成19年11月21日に審査請求をした。

(3) 関係法令

イ 法人税法第34条第1項は、内国法人がその役員に対して支給する報酬の額のうち不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない旨規定している。
ロ 法人税法施行令(平成18年政令第125号による改正前のもの。以下同じ。)第69条《過大な役員報酬の額》は、法人税法第34条第1項に規定する政令で定める金額は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額(次の各号のいずれにも該当する場合には、当該各号に定める金額のうちいずれか多い金額)とする旨規定している。
(イ) 第1号は、内国法人が各事業年度においてその役員に対して支給した報酬の額が、当該役員の職務の内容、その内国法人の収益及びその使用人に対する給料の支給の状況、その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するもの(以下「類似法人」という。)の役員に対する報酬の支給の状況等に照らし、当該役員の職務に対する対価として相当であると認められる金額を超える場合、その超える部分の金額(以下、この規定を「実質基準」という。)
(ロ) 第2号は、定款の規定又は株主総会、社員総会若しくはこれらに準ずるものの決議により報酬として支給することができる金額の限度額を定めている内国法人が、各事業年度においてその役員に対して支給した報酬の額の合計額が当該事業年度に係る当該限度額を超える場合、その超える部分の金額(以下、この規定を「形式基準」という。)

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(4) 基礎事実

イ 請求人は、○○の製造及び販売等を事業目的として、昭和27年4月○日に設立された法人であり、法人税法第2条《定義》第10号に規定する同族会社である。
ロ 請求人の登記事項証明書によれば、請求人の役員の状況は、次のとおりである。
(イ) Gは、平成12年7月○日に請求人の代表取締役に就任し、現在に至っている。
(ロ) Gの妻であるHは、平成7年11月○日に請求人の取締役に就任し、現在に至っている。
(ハ) Gの父であるJは、昭和54年11月○日に請求人の代表取締役に就任し、平成14年2月○日に代表取締役及び取締役を退任した後、平成15年1月○日に取締役に就任し、現在に至っている。
 なお、3の(1)で後述する「K社:組織管理図」並びにH及びGの申述によると、Jは、請求人において、会長として位置付けられ、会長と称されている。
(ニ) 請求人の使用人であるL、M、N(以下、これら3名を併せて「Lら」という。)は、平成18年4月○日に請求人の取締役に就任し、現在に至っている。
ハ 請求人は、Hに対する役員報酬として、平成16年5月期に○○○○円(月額○○○○円で4か月分)、平成17年5月期及び平成18年5月期にそれぞれ○○○○円(以下、これらを「本件役員報酬額」という。)を支給し、本件各事業年度の損金の額に算入した。
ニ 請求人の本件各事業年度における役員報酬の総額については、請求人の定款第19条の規定に基づき、社員総会において、別表2のとおり決議されており、Hに対する本件各事業年度における役員報酬の月額については、取締役会において、別表3のとおり決議されている。
ホ 原処分庁は、Hは、請求人に常時勤務している実態が認められず、請求人における職務内容から、常勤役員としての実態を備えていない非常勤役員であるとし、請求人のHに対する役員報酬の額として相当と認められる金額(以下「本件適正報酬額」という。)を別表4の「本件適正報酬額」欄のとおり算定し、これを超えて支給された同表の「過大役員報酬額」欄の金額は、法人税法第34条第1項に規定する「不相当に高額な部分の金額」に当たり、所得の金額の計算上、損金の額に算入することはできないとして、本件各更正処分等をした。

(5) 争点

 本件役員報酬額に法人税法第34条第1項に規定する「不相当に高額な部分の金額」があるか否か。

2 主張

 当事者の主張は、別紙のとおりである。

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3 判断

(1) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ Hの住民票には、平成17年8月○日にp市q町○−○からp市r町○−○に転居し、平成17年8月○日に届出した旨記載されており、現在の住所も同所になっている。
 また、請求人の登記事項証明書には、平成7年11月○日の登記事項としてHの平成7年11月○日の取締役就任時の住所がp市s町○−○である旨、平成14年2月○日の登記事項としてHが平成13年3月○日付でp市q町○−○に住所移転した旨、平成17年8月○日の登記事項としてHが平成17年8月○日付でp市r町○−○に住所移転した旨記載されている。
ロ 平成20年8月20日に当審判所に提出された「H勤務実態一覧表」(以下「本件勤務実態一覧表」という。)は、請求人が、本件各事業年度においてHが従事したとする職務内容等を記載したものであり、Hの従事事務ごとの日数は、別表5の「本件勤務実態一覧表(事務項目別従事日数)」のとおりになる。
ハ 「K社:組織管理図(平成18年9月1日現在)」(以下「本件組織管理図」という。)には、別表6のとおり、代表取締役G及び会長Jの下に、総務課長L、製造課長Mと記載されており、その下には、事務業務は責任者L、出荷・製品管理は責任者R、製造・○○管理は責任者S、○○・製品管理は責任者Nと記載されており、GとJの下で、事務部門はLが、製造部門はMが統括責任者として業務を分担・所掌していること、また、その下に各業務の責任者が配置されていると認められる。
 なお、本件組織管理図には、Hの名前は記載されていない。
 また、本件組織管理図は、平成18年9月1日現在と記載されているが、後述のニの委託業務の状況等並びにトのG及びチのJの申述から、本件各事業年度を通じて、請求人の組織体制及び人員配置は、本件組織管理図とほぼ同様の状況にあったものと認められる。
ニ 請求人は、次のとおり、○○の製造業務を除き、請求人の事業運営上必要な業務のほとんどを関連法人に対し業務委託している。
 なお、業務を委託している関連法人の設立年月日及び本件各事業年度の期間における代表取締役は、W社は、平成17年5月○日設立でJ、X社は、平成9年7月○日設立でL、Y社は、平成16年1月○日設立でM、Z社は、平成16年1月○日設立で平成16年1月から同年7月まではG、同年7月から平成18年12月まではNであり、G、J及びLらは、請求人の取締役と兼務している。
(イ) 請求人及びW社の名義で作成された平成17年11月1日付の「資金管理委託契約書」には、平成17年11月1日から平成18年4月30日までの期間において、請求人の所有する資金管理業務を委託し、W社はこれを承諾した旨記載されている。
 なお、同契約書第1条の(3)には、委託期間の満了時に、いずれか一方から異議がないときは、自動的に更新されたものとし、更新後の契約期間は1年間とする旨記載されている。
(ロ) 請求人及びW社の名義で作成された平成17年5月19日付の「業務委託契約書」には、平成17年5月19日から平成18年4月30日までの期間において、請求人の社員の1健康相談及び健康管理、2健康診断の斡旋業務を委託し、W社はこれを承諾した旨記載されている。
 なお、同契約書第2条には、委託期間の満了前3か月以内にいずれか一方から異議がないときは、自動的に更新されたものとし、更新後の契約期間は1年間とすること、また、以後も同様とする旨記載されている。
(ハ) 請求人及びX社の名義で作成された平成15年12月28日付の「業務委託契約書」には、平成16年1月1日から平成16年12月31日までの期間において、請求人の倉庫内商品の管理・保管業務を委託し、X社はこれを承諾した旨記載されている。
 なお、同契約書第1条の(3)には、委託期間の満了前3か月以内にいずれか一方から異議がないときは、自動的に更新されたものとし、更新後の契約期間は1年間とすること、また、以後も同様とする旨記載されている。
(ニ) 請求人及びY社の名義で作成された平成16年2月1日付の「業務委託契約書」には、平成16年2月1日から平成17年1月31日までの期間において、○○製造設備機器保守管理業務を委託し、Y社はこれを承諾した旨記載されている。
 なお、同契約は、請求人及びY社の名義で作成された平成16年5月1日付の「業務委託変更契約書」において、契約期間を「平成16年2月1日から平成17年1月31日までの1年間」から「平成16年5月1日から平成17年4月30日までの1年間」に変更されている。
 また、請求人及びY社の名義で作成された平成17年4月25日付の「業務委託契約書」には、平成17年5月1日から平成18年4月30日までの期間において、1製造設備、機械及び装置、2本社建物、付属設備、構築物、什器備品、3倉庫建物、付属設備、構築物、什器備品、4車両の設備等に関する点検、保守、管理業務を委託し、Y社はこれを承諾した旨記載されている。
 なお、同契約書第2条には、委託期間の満了前3か月以内にいずれか一方から異議がないときは、自動的に更新されたものとし、更新後の委託期間は1年間とする旨記載されている。
(ホ) 請求人及びZ社の名義で作成された平成16年1月10日付の「業務委託契約書」には、平成16年1月10日から平成16年12月31日までの期間において、請求人の、1インターネットのホームページの管理、更新、2使用するパソコン・OA機器の保守、管理、3広告に関するアドバイス、コンサルティング、4販売管理、仕入管理、総務等事務全般、5経理会計業務、61から5に附帯する一切の業務を委託し、Z社はこれを承諾した旨記載されている。
 なお、同契約書第2条には、委託期間の満了前3か月以内にいずれか一方から異議がないときは、自動的に更新されたものとし、更新後の契約期間は1年間とすること、また、以後も同様とする旨記載されている。
 また、同契約は、請求人及びZ社の名義で作成された平成16年5月1日付の「業務委託変更契約書」において、委託業務に電話機・FAX複合機の保守、管理業務を追記し、再締結されている。
ホ 請求人の収益及び使用人に対する給与の支給状況等は、別表7のとおりである。
ヘ Hは、原処分庁所属の法人税等の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)に対し、要旨次のとおり申述している。
(イ) 取締役としての具体的な業務は、会社の経営方針に係る役員との相談、取引先等との会合、接待等であり、社員総会及び取締役会の議事録については、内容を確認して押印している。
 また、会社の経営方針の重要な事項については、最終決定は社長がするものの、会長とともにいつも相談を受けている。
(ロ) 請求人の本社事務所には、6年から7年前までは毎日出社し、発送、受注及び現金管理(資金繰りはない。)を行っていたが、請求人の使用人が充実してからは、月に1回から2回程度である。
 また、請求人の事務所に出社したときは、社長に対して経営に関するアドバイスやサポートを行ったり、使用人から人間関係の相談を受けているが、それらの内容についての資料は、作成していない。
 なお、請求人の事務所には、私専用の机はないが、出社したとき使用できる机は用意してある。
(ハ) 請求人の仕事をしていないときは、家事や子供の世話をしている。
 なお、家族は、主人と私と子供2人の4人家族で、長男は15歳で中学3年生であり、長女は13歳で中学1年生である。また、会長からもよく言われているが、後継者の育成というのも私の大事な仕事である。
ト Gは、調査担当職員に対し、要旨次のとおり申述している。
(イ) 私の請求人における業務は、○○の製造販売、従業員に対する指揮命令あるいは資金繰り等経営全般についてであり、Jの請求人における業務は、請求人の経営方針の決定、給与計算、社会保険料の計算、資金繰り、融資の保証人及び対外的な行事への出席であり、Hの請求人における業務は、取締役としての経営への参画、私の会社経営に関するアドバイス及び従業員からの相談事への対応である。
(ロ) 平成15年の役員報酬の増額については、平成15年4月4日の取締役会において、Jから提案があり決定された。
 また、給与の査定については、役員は私とJで、使用人は私とLらで行うが、最終判断は私が行っている。
 さらに、査定後は、Jが一人で年末調整も含めて給与計算を行い、給与の振込みは、私がインターネットバンキング等を利用して行っている。
 なお、使用人の残業時間、欠勤、遅刻、早退及び休暇などの勤務管理については、Mが行っている。
チ Jは、調査担当職員に対し、要旨次のとおり申述している。
(イ) 私の請求人における業務は、経営方針の決定、年末調整を含めた給与計算、社会保険料の計算、資金繰り、融資の保証人及び対外的な行事への出席などである。
(ロ) 請求人の役員に対する報酬は、基本的に固定給であるところ、その査定等について必要があれば私とGが話し合いの上決定しており、使用人の給与については、支給する賞与の大枠をGと私で決め、個別の支給額は、G及びLらで決定している。
リ 本件適正報酬額の算出状況は、次のとおりである。
(イ) 類似法人の選定について
 原処分庁は、類似法人として、P県下及びQ県下で○○製造業を営む青色申告の法人で、請求人の本件各事業年度の売上金額の0.5倍以上2倍以内の売上金額を有する法人について、平成16年5月期は5社、平成17年5月期は6社、平成18年5月期は6社(以下、これらの法人を「本件類似法人」という。)を選定している。
(ロ) 本件適正報酬額の算出について
 原処分庁は、本件類似法人の非常勤役員(平成16年5月期は5社11人、平成17年5月期は6社12人、平成18年5月期は6社12人)の年間報酬額の平均額をもって、本件適正報酬額としている。

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(2) ところで、法人税法第34条第1項は、法人がその役員に対して支給する報酬の額のうち「不相当に高額な部分の金額」として政令で定める金額は、その法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない旨規定しているが、この規定の趣旨は、役員報酬は労務の対価として企業会計上は損金に算入されるべきであるところ、法人によっては、実際は賞与に当たるものを報酬の名目で役員に給付する傾向があるため、そのような隠れた利益処分に対処し、課税の公平を確保しようとするところにある。
 そして、法人税法施行令第69条は、この規定を受けて、「不相当に高額な部分の金額」を、支給した報酬の金額のうち、定款の規定、株主総会の決議等により定められている役員報酬の限度額を基準とするもの、又は、法人が各事業年度においてその役員に対して支給した報酬の額が、1当該役員の職務の内容、2その法人の収益及びその使用人に対する給料の支給の状況、3その法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する報酬の支給の状況等に照らし、当該役員の職務に対する対価として相当であると認められる金額を基準とするものに区分し、支給した報酬の額のうち、形式基準又は実質基準に係る金額を超える部分の金額のいずれか多い金額とする旨規定している。

(3) これを本件についてみると、次のとおりである。

イ 形式基準について
 請求人は、Hに対して前記1の(4)のハのとおり役員報酬を支給しているところ、当該金額は、同(4)のニのとおり、社員総会及び取締役会の決議により報酬として支給することができる金額の限度額を超えていないことから、形式基準においては、本件役員報酬額のうち、損金の額に算入されない金額はない。
ロ 実質基準について
(イ) Hの職務の内容
A 請求人は、Hは請求人の経営には常に深く関わり、使用人の相談役としての職務や取引先の接待などの重要な役員業務を行い、請求人の売上や収益という業績に多大な貢献をしていることから、常勤役員に該当する旨主張する。
B しかしながら、上記(1)のトのGの申述及び同チのJの申述によると、1Gは、代表取締役として、○○の製造販売、従業員に対する指揮命令、あるいは資金繰り等経営全般について従事していること、2Jは、経営方針の決定、年末調整を含めた給与計算、社会保険料の計算、資金繰り、融資の保証人及び対外的な行事への出席など財務管理を中心に多くの職務に従事していること、3Hは、経営への参画、Gに対する経営に関するアドバイス及び従業員からの相談事への対応に従事していること、4役員報酬額の査定については、GとJで行っていること、5使用人給与の査定については、GとLらで行っていること、6使用人の賞与については、支給額の大枠はGとJで決定し、個別の支給額については、GとLらで決定していること、7使用人の勤務時間管理はMが行っていること、8給与の振込事務はインターネットバンキング等を利用してGが行っていることが認められ、これらの事実から判断すると、請求人の経営方針の決定、○○の製造販売及び資金繰り等の重要事項に係る業務については、それらのほとんどが代表取締役であるG及び会長であるJの二人により判断、決定及び業務遂行が行われているものと認められる。
C また、請求人は、上記(1)のニのとおり、○○の製造業務を除き、請求人の主要な業務であると認められる1資金管理業務、2製造設備、工場建物及び本社建物等の点検、保守及び管理業務、3倉庫内商品の管理・保管業務、4広告、販売管理、仕入管理、経理会計業務及び総務事務を外部(関連法人)に業務委託している。
 そして、上記(1)のハ及びニのとおり、外部委託した業務は、J及び平成18年4月に請求人の取締役に就任したLらが統括責任者等として業務を担当していること、J及びLらは、業務委託先の法人の代表取締役も兼務していることからすると、外部委託したこれらの業務について、Hが請求人の取締役としての立場で担当することはないと認められる。
 なお、資金管理業務は、平成17年11月1日からW社に業務委託されているが、上記Bのとおり、財務管理はJが主に担当していること、資金管理業務の委託先であるW社の代表取締役は同人が兼務していることからすると、資金管理業務は、同日以前においては、同人が担当していたものと認められる。
D さらに、上記(1)のイ及びヘの(ロ)のHの申述によれば、Hは、p市に居住しており、6年から7年前までは、請求人の本社事務所に毎日出社し、発送、受注及び現金の管理(資金繰りはない。)を行っていたが、請求人の使用人が充実した6年から7年前以降は、請求人も自認しているとおり月1回から2回程度しか出社しておらず、請求人の仕事をしていないときは、家事や中学生の子供の世話をしていると認められること、また、請求人の使用人から受ける相談については、Hの出社回数からすると、頻度は低いことが認められる。
 なお、Hがその他の職務に従事していることに関しては、本件勤務実態一覧表並びにH及びGの申述があるだけで、従事している事実を裏付けるに足る証拠はない。
E 加えて、別表5の「本件勤務実態一覧表(事務項目別従事日数)」によれば、Hが平成16年5月期、平成17年5月期及び平成18年5月期において、取引先の接待などに従事した1か月の平均日数は、それぞれ3.5日、2.5日、2.8日と認められる。
F そうすると、上記BないしEの事実を総合的に判断すれば、Hは、請求人の経営方針の決定、○○の製造販売、資金繰り等の重要事項には従事せず、請求人が外部に委託した業務を担当することもなく、月のうち、接待等の従事日数は僅少であり、請求人の事務所への出社日数もわずかで、その多くの日数は家事や子供の世話に費やされていると認められることから、請求人の日常的な役員としての職務に従事しない、いわゆる非常勤役員に当たるものと認めるのが相当である。
 したがって、これらの点に関する請求人の主張には、理由がない。
(ロ) 請求人の収益の状況及び使用人に対する給料の支給の状況
 請求人の売上金額及び売上総利益の状況は、別表7のとおりであり、平成15年2月1日から平成16年1月31日までの事業年度(以下「平成16年1月期」という。)を100とすると、平成16年5月期はそれぞれ128.0及び131.9、平成17年5月期は143.7及び156.6、平成18年5月期は172.3及び188.4になる。
 また、請求人の使用人一人当たりの平均給与支給額は、別表7のとおりであり、平成16年1月期を100とすると、平成16年5月期は102.3、平成17年5月期は116.4、平成18年5月期は128.7になる。
 これに対して、本件役員報酬額は、前記1の(4)のハのとおりであり、平成16年1月期を100とすると、本件各事業年度のすべてが218.2となることから、本件役員報酬額の伸び率は、請求人の売上金額、売上総利益及び使用人一人当たりの平均給与支給額の伸び率と比較して、相当高い伸び率であると認められる。
(ハ) 類似法人における役員報酬の支給状況等
A 類似法人の選定及び本件適正報酬額の算出については、原処分庁は、上記(1)のリの(イ)のとおり、請求人と業種、事業規模などが類似するP県下及びQ県下の法人を本件類似法人としており、当審判所の調査によっても、その選定過程及び選定法人に合理性に欠ける点はなく、また、上記(1)のリの(ロ)のとおり、本件類似法人に存する非常勤役員に支給された年間報酬額の平均値を本件適正報酬額とした算出方法についても、それぞれの類似法人の特殊性を捨象するという点で合理性があると認められる。
B そうすると、本件類似法人でHと職務内容が類似すると認められる非常勤の取締役に対する役員報酬の平均額は、平成16年5月期は619,152円、平成17年5月期は1,877,167円、平成18年5月期は1,968,833円であることから、これらと比較すると本件役員報酬額は極めて高額であると認められる。
C なお、請求人は、類似法人の選定について、主力商品の販売価格(単価)の近い会社を類似法人として選定すべきである旨、また、比較対象とする役員についてはHの職務内容や職務に従事する程度と類似性を持っていることが当然である旨、さらに、類似法人の平均値を超える金額が常に不相当な額であるとすることはできない旨主張する。
D しかしながら、適正報酬額の算定方法は、請求人と同種の事業を営み事業規模も同程度の類似法人から職務内容の類似する役員報酬の額の支給事例を抽出した上、その役員報酬の額と本件役員報酬額を比較検討して、本件役員報酬額の相当性を判断するものであるところ、適正報酬額の算定において、抽出された類似法人の役員報酬の額の平均値を算出することによって類似法人間に通常存在する諸要素の差やその個々の特殊性が捨象され、より平準化された数値が得られるのであるから、類似法人の役員報酬の額の支給事例の抽出が合理的に行われる限り、法人税法第34条第1項及び法人税法施行令第69条の規定の趣旨に合致するものであるということができ、本件においても、原処分庁が本件類似法人の選定に当たって採用した要素、基準自体には上記Aのとおり、合理性に問題はなく、これらの点に関する請求人の主張は採用できない。
ハ 以上により、法人税法施行令第69条第1号に規定する実質基準に照らし、Hの職務の内容、請求人の収益の状況、使用人に対する給料の支給状況及び類似法人の非常勤役員に対する報酬の支給状況等を総合すると、本件役員報酬額は、その職務に対する対価として相当と認められず、本件適正報酬額をもって、Hの職務の対価としての適正報酬額とすることが相当である。
 そうすると、Hの適正報酬額は、平成16年5月期が619,152円、平成17年5月期が1,877,167円、平成18年5月期が1,968,833円となり、これを超える金額は、「不相当に高額な部分の金額」として、平成16年5月期は○○○○円、平成17年5月期は○○○○円、平成18年5月期は○○○○円となり、損金の額に算入されない金額は原処分庁の額と同額となる。
ニ したがって、本件役員報酬額に法人税法第34条第1項に規定する「不相当に高額な部分の金額」があるとした本件各更正処分は、いずれも適法である。

(4) 本件各更正処分は、上記(3)のとおりいずれも適法であり、また、本件各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてされた本件各賦課決定処分はいずれも適法である。

(5) 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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