ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.76 >> (平20.10.23、裁決事例集No.76 336頁)

(平20.10.23、裁決事例集No.76 336頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人らが贈与により取得した株式の価額について、財産評価基本通達の定めに基づき算出した1株当たりの純資産価額を選択し、贈与税の申告をしていたが、1株当たりの純資産価額を計算する際に、資産の部に計上した営業権の価額に誤りがあるため株式の価額が過大になっているとして更正の請求を行ったところ、原処分庁が営業権の評価額を減額する理由がないとして更正をすべき理由がない旨の各通知処分を行ったことから、審査請求人らがその全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 審査請求人E(以下「請求人E」という。)及び同F(以下「請求人F」といい、これら2名を併せて「請求人ら」という。)は、平成17年3月25日、請求人らの父であるGから株式会社H(以下「本件会社」という。)の株式(以下「本件株式」という。)を贈与により取得したとして、平成17年分の贈与税について、別表1の「当初申告」欄のとおり記載した申告書(以下「本件各申告書」という。)を、それぞれ法定申告期限までに原処分庁へ提出した。
ロ 請求人らは、平成19年3月13日、別表1の「更正の請求」欄のとおりとする更正の請求をした。
ハ 原処分庁は、これに対し、平成19年5月29日付で更正をすべき理由がない旨の各通知処分をした。
ニ 請求人らは、上記ハの各処分を不服として、平成19年7月10日、異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成19年10月3日付で別表1の「異議決定」欄のとおり各通知処分の一部を取り消す異議決定をした(以下、異議決定により一部が取り消された後の処分を「本件各通知処分」という。)。
ホ 請求人らは、平成19年10月31日、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして審査請求をした。
 なお、請求人らは、平成20年1月4日、請求人Eを総代として選任し、その旨を届け出た。

(3) 関係法令等の要旨

 別紙のとおりである。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人らと原処分庁の間で争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人らは、平成17年3月25日付の贈与契約に基づき、Gから、本件株式を請求人Eが○○○○株、請求人Fが○○○○株をそれぞれ贈与により取得した(以下、これらの贈与を「本件贈与」という。)。
ロ 本件会社は○○○を主たる事業とする法人であり、発行済株式の総数は○○○○株(本件贈与時)、資本金額は○○○○円である。同社は、評価基本通達178に定める大会社であり、本件株式は、同通達168《評価単位》の(3)に定める取引相場のない株式である。
ハ 請求人らは、本件贈与に係る本件株式の価額について、評価基本通達180《類似業種比準価額》の定めにより算出した1株当たりの類似業種比準価額5,150円と同通達185《純資産価額》の定めにより算出した1株当たりの純資産価額2,506円の低い方の金額である1株当たり2,506円を選択し、本件各申告書のとおり財産の価額を請求人E○○○○円、請求人F○○○○円として申告した。
 なお、請求人らが1株当たりの純資産価額の算出に当たり、資産の部に計上した本件会社に係る営業権(以下「本件営業権」という。)の価額は、相続税評価額○○○○千円、帳簿価額○○○○千円である。
ニ 請求人らは、本件贈与に係る本件株式の価額について、本件会社の1株当たりの類似業種比準価額5,150円と本件会社の1株当たりの純資産価額1,817円の低い方の金額である1株当たり1,817円を選択し、財産の価額を請求人E○○○○円、請求人F○○○○円としてそれぞれ更正の請求をした。
 なお、請求人らが1株当たりの純資産価額の算出に当たり、資産の部に計上した本件営業権の価額は、相続税評価額零円、帳簿価額○○○○千円である。
ホ 原処分庁が算定した本件営業権の価額は別表2のとおり○○○○円で、本件株式の価額は別表3の表1のとおり1株当たり2,500円である。

トップに戻る

2 主張

(1) 請求人ら

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部を取り消すべきである。
イ 本件株式の価額の算出に当たり、営業権の評価について、評価基本通達に定める超過収益力を資本還元して算定する方法は、一応の合理性がある。
 しかし、評価基本通達165に定める営業権の評価方法は、計算要素である1営業権の持続年数が異常に長いこと、2平均利益金額を求める期間が3年と短いこと、3総資産価額に乗ずる率を基準年利率としているがその利率が低いこと、4基準年利率を基とした複利年金現価率は妥当ではないことから、評価基本通達に基づいて算定した営業権の価額には合理性がない。
 また、原処分庁が本件営業権の評価において算定した経常損益以外の損益等に誤りがある。
ロ 上記イの事項をそれぞれ補正し営業権の価額を算定すると零円となり、そうすると、本件株式の1株当たりの時価は1,817円となる。
 したがって、原処分庁が評価基本通達により算出した1株当たりの価額2,500円は、本件株式の時価を超えるから違法であり、本件株式の価額の算定には評価基本通達により難い特別な事情がある。

(2) 原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求は棄却されるべきである。
イ 評価基本通達に定める営業権の評価方法は、将来におけるその超過収益力を資本化した価値として算出する方法として合理性があるものと解されているから、この評価方法により評価会社の将来における超過収益力を資本化した価値の価額が算出される場合には、その価額は営業権として適正な価額であると解するのが相当である。
ロ 請求人らの営業権の持続期間、平均利益金額を求める期間、基準年利率及び複利年金現価率に係る主張は、その根拠が示されていないことから、独自の見解であるといわざるを得ない。
ハ 評価基本通達の定めに基づき本件営業権の価額及び本件株式の価額を算出すると、本件営業権の価額は○○○○円、本件株式の1株当たりの価額は2,500円である。
ニ 経常損益以外の損益に係る請求人らの主張は、更正の請求において主張されなかったものであり、更正の請求において主張されなかった事由を新たに主張して本件各通知処分の取消しを求めることはできない。

トップに戻る

3 判断

(1) 認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 本件会社は、昭和○○年に設立された法人である。同社の平成15年4月1日から平成16年3月31日までの事業年度(以下「平成16年3月期」という。)の決算書等によれば、売上高は○○○○円超、従業員数○○○人で、全国に営業所、工場を展開している。
 また、本件会社は、平成17年3月現在、特許権、意匠権及び商標権(これらを併せて、以下「特許権等」という。)を約○○○件所有しており、これらの特許権等は同社自らがその特許発明等を実施しているものである。
ロ 本件会社は特許権等の使用料収入として、平成13年4月1日から平成14年3月31日までの事業年度(以下「平成14年3月期」という。)に約○○○○円、平成14年4月1日から平成15年3月31日までの事業年度(以下「平成15年3月期」という。)に約○○○○円、平成16年3月期に約○○○○円をそれぞれ決算書に計上している。
ハ 本件会社は平成14年3月期の決算書において、損益計算書の特別損失の部に「その他の特別損失」として11,270,000円を計上しており、同期の法人税の確定申告書に同額を所得金額として加算している。また、平成15年3月期の決算書において、損益計算書の特別損失の部にゴルフ会員権評価損1,500,000円を計上しており、同期の法人税の確定申告書に同額を所得金額として加算している。
ニ Gは、平成16年11月○日付で○○証券取引所上場のJ社に対し、本件株式○○○○株を代金○○○○円(1株当たり5,500円)で譲渡した。また、同人は、同年12月○日付で本件会社の発行済株式総数の約27%を保有するK社に対し、本件株式○○○○株を代金○○○○円(1株当たり5,500円)で譲渡した。
ホ J社は、平成○年○月○日を株式交換の日として、交換比率を、ファイナンシャル・アドバイザーによる複数の評価方法等を総合的に勘案して算定し、本件会社の普通株式○○株に対して、同社の普通株式○○株を割当交付する株式交換を行い、その旨の半期報告書を、平成○年○月○日に○○財務局長に提出している。
 株式交換の日である平成○年○月○日のJ社の株式の終値は○○○○円であり、本件株式○○株がJ社の株式○○株と交換されていることから、終値○○○○円で本件株式1株当たりの価額を算出すると5,680円となる。

トップに戻る

(2) 法令解釈

イ 相続税法第22条は、贈与により取得した財産の価額は、特別の定めのあるものを除き、当該財産の取得の時における時価による旨規定しているところ、この時価とは、当該財産を取得した時において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち、当該財産の客観的な交換価値をいうものと解される。
 しかしながら、贈与税の課税の対象となる財産は多種多様であることから、国税庁長官は、課税の公平、公正の観点から、財産評価の一般的基準である各種財産の時価の評価に関する原則及びその具体的評価方法等を評価基本通達等に定め、その取扱いを統一するとともに、これを公開し、納税者の申告、納税の便に供している。
 このような画一的な評価方法が採られているのは、各種の財産の客観的な交換価値を適正に把握することは必ずしも容易なことではなく、これを個別に評価する方法を採ると、その評価方法、基礎資料の選択の仕方等により評価額に格差が生じることを避け難く、また、課税庁の事務負担が重くなり、課税事務の迅速な処理が困難となるおそれがあることなどから、あらかじめ定められた評価方法により画一的に評価する方が、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地からみて合理的であるという理由によるものであり、一般的には、これを形式的にすべての納税者に適用して財産の評価を行うことは、租税負担の実質的公平をも実現することができることから、租税平等主義にかなうものであると解される。
 したがって、評価基本通達に定める評価方法を画一的に適用したのでは、適正な時価が求められず、著しく課税の公平を欠くことが明らかであるなど、評価基本通達の定めによらないことが正当と認められるような特別な事情がある場合を除き、評価基本通達の定めに基づき評価した価額をもって時価とすることが相当である。
ロ 取引相場のない株式の評価における営業権の評価方法について
(イ) 取引相場のない株式の評価に当たって、純資産価額方式を適用して1株当たりの純資産価額を評価する場合には、評価基本通達185によって、課税時期において評価会社が所有する各資産(以下「総資産」という。)を評価基本通達に定める評価方法により評価した価額の合計額を算出し、これを基に純資産価額を計算することとなる。その際、評価会社の株式の客観的な財産価値を評価するためには、評価会社のすべての財産を総資産に含める必要があるから、評価会社の貸借対照表上に資産として計上されているか否かにかかわらず、また、取得の態様や経緯等の如何を問わず、経済価値を有する有形無形の財産はすべて総資産に含まれると解するのが相当である。
 そして、一般に営業権とは、企業が持つ好評、愛顧、信認、顧客関係その他の諸要因によって期待される将来の超過収益力を資本化した価値であり、企業が支配している無形の経済的価値であって、現実に取引の対象にもなるから、財産といえるものである。
 したがって、純資産価額方式を適用して1株当たりの純資産価額を評価する場合には、営業権も総資産に含めて評価するのが相当である。
(ロ) 営業権の評価については、その企業の超過収益力に着目し、将来におけるその超過収益力を資本化した価値としてこれを評価するため、評価基本通達165及び166に具体的な評価方法が定められている。
 その方法は、課税時期の属する年の前年以前3年間の所得の金額を基に平均利益金額を算定し、これに50%のしんしゃくを行い、さらに、これから企業者報酬の額及び総資産価額に基準年利率を乗じた額を控除して算出される超過利益金額を営業権の持続年数に応ずる基準年利率による複利年金現価率で資本還元して計算した価額と課税時期を含む年の前年の所得の金額とのうちいずれか低い金額に相当する金額により評価するものである。
 この評価方法の合理性について検討すると、まず、平均利益金額の算定に当たって、所得税法及び法人税法の定めに従って算出した「所得の金額」を基としているのは、各企業の主観に基づく会計処理基準によって算出された利益によることなく、各企業について統一的に所得金額の計算基準を定めている所得税法及び法人税法によって計算された所得によることとし、算定方法の客観性を確保するためと解される。次に、平均利益金額から一律50%減じることは、過去の収益に基づく平均利益金額から将来の収益を推算する方法を採用していることから、将来における競争相手の出現、需給の変化等の企業がもつ将来における危険率を見込んだ評価の安全性に対する配慮であると認められる。さらに、企業者報酬を減ずることは、企業の規模に応じて適当と認められる企業者報酬を控除することで、客観的に見て企業者の労力によってもたらされる収益を除外するものと解され、総資産価額に基準年利率を乗じた金額を控除することは、投下資本の働きによる収益を除外するためのものであるから、これによって算出された超過利益金額は、将来の超過収益力を示すものと認められる。したがって、この超過利益金額を、財産評価一般に採用される一般的な利回りである基準年利率を基に資本還元した価額は、営業権の価額を示すものと認められる。更に、課税時期を含む年の前年の所得の金額が低い場合には営業権の価額をこの金額により評価することとされており、評価の安全性に配慮していることが認められ、当審判所も評価基本通達に定める方法を相当と認める。
 なお、同通達は、平均利益金額の算定に当たって、企業の所得の金額の計算上、企業本来の収益力を捉えるために、「経常損益以外の損益の額」はなかったものとみなし、企業の内部留保に繰り入れる前の収益力を捉えるために、「準備金勘定又は引当金勘定に繰り入れた金額」もなかったものとみなして計算することとされている。これらの方法も、超過収益力を算定するための合理的な措置であると認められ、当審判所においても相当と認められる。

トップに戻る

(3) 特別な事情の検討

 請求人らは、評価基本通達において定められた営業権の評価方法は、計算要素について補正が必要であるから、所要の補正をした上で本件株式の時価を評価すると1株当たりの純資産価額は1,817円となり、したがって、原処分庁算定の価額は時価を超えるとして、評価基本通達により難い特別な事情がある旨主張する。
 そこで、請求人らの主張する計算要素の補正の要否を審理したところ、次のとおりである。
イ 営業権の持続年数について
 請求人らは、社会全体の変動が激しく、超過収益力が10年も継続することは想定し難いので、営業権の持続年数は、評価基本通達165が定める原則10年ではなく、5年とすべきであると主張する。
 しかしながら、評価基本通達165は、将来における競争相手の出現、需給の変化等により、超過収益力が減少する危険があることを見込んで、評価の安全性に配慮して、過去の収益を基として推算される平均利益金額に、一律50%のしんしゃくをすることとしている。したがって、請求人らの主張する危険性について評価基本通達上、一定の配慮がされていることから、本件について、営業権の持続年数を原則どおり10年とすることは不合理とはいえない。
 また、評価基本通達145は権利者自らが特許発明を実施している場合の特許権等の価額は、その者の営業権の価額に含めて評価し、評価基本通達146及び147は、意匠権及び商標権等の価額についても同通達145の定めを準用する旨定めている。本件会社は、多数の特許権等を有し、自ら実施する他、使用料収入もある(上記(1)のイ、ロ)ところ、特許権が出願の日から20年の存続期間が認められるなど、特許権等の存続期間は法令上いずれも10年以上とされているから、これら特許権等を含む本件会社の営業権の持続年数を原則どおり10年とすることは不合理であるとはいえない。
 したがって、本件会社の営業権の持続年数を5年とするべきであるとの請求人らの主張は採用できない。
ロ 平均利益金額の算定期間について
 請求人らは、平均利益金額の算定期間について、営業権の持続年数と平仄を合わせるべきであり、仮に営業権の持続年数を10年とする場合には、平均利益金額は過去10年間の所得を基に算定すべきであると主張する。
 しかし、評価基本通達上、企業本来の収益力を捉えるために、非経常的な損益は平均利益金額の算定に当たって考慮されないこと、実務上可能な容易かつ的確な計算をするために一定期間の所得を基準とする必要があることからすると、過去3年の所得を基準とすることが不合理とはいえない。かえって、相続税法第22条が、財産の価額は当該財産の取得の時における時価による旨規定していることからすれば、財産の取得時点から過去10年にもさかのぼった期間の所得を基礎として平均利益金額を算定することは、同条の規定の趣旨からしても相当でない。
 したがって、営業権の算定の基礎となる平均利益金額の算定期間を10年とすべきであるとする請求人らの主張は採用できない。
ハ 総資産価額に乗じる率について
 請求人らは、評価基本通達188−2《同族株主以外の株主等が取得した株式の評価》が、資本還元率10%を採用し、また、相当の地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱いについて(昭和60年6月5日付直資2−58ほか国税庁長官通達)ないし法人税基本通達(昭和44年5月1日付直審(法)25国税庁長官通達。ただし、平成19年3月13日付課法2−3ほかによる改正前のものをいう。)13−1−2《使用の対価としての相当の地代》において、6%又は8%という収益率が採用されていることから、総資産価額に乗ずべき率は6%とすべきであり、少なくとも、平成20年1月1日から適用される新通達における営業権の評価において総資産価額に乗ずべき率である5%にすべきである旨主張する。
 しかし、超過利益金額の算定において、総資産価額に基準年利率を乗じた金額を控除するのは、平均利益金額から投下資本の働きによる部分を控除することによって、超過収益を算出するためのものであるところ、基準年利率を総資産価額に乗じることとしたのは、企業の種類や内容によって投下資本に基づく企業の利益金額が異なることから、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用節減の観点から標準的な利率を定める必要があるので、財産評価一般に採用される一般利回りを適用したものと解される。したがって、この方法を採用したことには相応の理由があると認めることができる。
 そして、基準年利率は、年数又は期間に応じ、日本証券業協会において売買参考統計値が公表される利付国債に係る複利利回りを基に計算した年利率であるところ、代表的な長期金利の指標である長期国債の応募者利回り等を参考とし、これに評価の安全性にも配慮して定められるものであること、期間の長短に応じたリスクを反映するために短期、中期及び長期の期間ごとに、課税時期と利率の乖離を生じないように各月ごとに定められるものであることからすると、一般利回りとして合理性を有するものである。
 したがって、一般利回りとして合理性を有する基準年利率を基に投下資本の働きによる部分を算出することは、合理的であるといえる。
 この点、請求人らは、配当還元価額の資本還元率又は相当の地代算定のための利率を参照して、利率を6%とすべきと主張する。しかし、配当還元価額の資本還元率は単に配当を期待する地位のみを有する少数株主が取得した株式について、評価手続の簡便性に考慮して特例的に採用された配当還元価額による評価に当たり、株式を所有することにより受ける利益の配当金額を元本の価額に還元して株式の価額を算出する際の利率であり、相当の地代算定のための利率は借地権者に借地権の設定による利益がないものとして取り扱うための相当な地代の算定のための利率であって、いずれも投下資本の働きによる部分を明らかにするための利率とは性質が異なるから、これらを総資産価額に乗ずる利率として採用できない。
 また、請求人らは、新通達において総資産価額に乗ずべき率が5%に改正されたことからすると、国税庁自らが基準年利率の不当性を認めており、少なくとも5%を採用すべきとも主張する。
 確かに、新通達は、投下資本の働きの部分をより正確に計算するために、企業の有する資産の運用利回りに関する平成18年度法人企業統計(財務省)を参照して総資産価額に乗ずべき利率を5%に改訂したものと認められる。
 しかし、上記のとおり、総資産価額に乗ずる利率を一律に基準年利率とすることにも相応の理由が認められることからすれば、平成17年の課税年分の財産の評価について、新通達に定められている総資産価額に乗ずべき利率を遡及適用することは、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用節減等の観点から、かえって弊害がある。一方、本件について、総資産価額に乗ずべき利率を遡及適用しなければ、租税負担の公平を著しく害する特段の事情があるとはいえない。
 しかも、新通達は総資産価額に乗ずべき利率のみならず、企業者報酬額の算出方法など、営業権の評価に関連する複数の事項を同時に改正することにより計算方法の合理化を図ったものであるから、本件について、総資産価額に乗ずべき利率のみを新通達に準じて計算することを主張する請求人らの主張には合理性がない。
 したがって、総資産価額に乗ずる率に関する請求人らの主張は採用できない。
ニ 複利年金現価率について
 請求人らは、超過利益金額に乗ずべき複利年金現価率も、総資産価額に乗ずる率と同様に6%又は5%を基準とした複利年金現価率によるべきである旨主張する。
 しかし、本件の場合、複利年金現価率は、将来の一定期間の推定超過利益金額から、その権利の価額を算定するための率であるところ、超過利益金額算定に当たって評価の安全性を考慮するために50%のしんしゃくがされているから、評価の安全性のために、複利年金現価率の算定に当たって、財産評価一般に採用される一般利回りよりも高い利率を採用する必要はない。
 したがって、この点に関する請求人らの主張も採用できない。
ホ 以上によると、本件営業権の評価に当たって、評価基本通達165及び166において定められた各計算要素について請求人らが主張する補正をすべき理由はないこととなるから、請求人らの主張する補正をして算出した価額が本件株式の時価であるとはいえない。
 したがって、評価基本通達の定めによらないことが正当と認められるような特別な事情がある場合とはいえず、請求人らの主張には理由がない。

トップに戻る

(4) 本件株式の価額

 上記(3)のとおり、評価基本通達の定めによらないことが正当と認められるような特別な事情は認められないから、本件株式の価額は、評価基本通達の定めに基づき算定することが相当と認められ、当審判所において本件株式の価額を算出すると次のとおりである。
イ 経常損益以外の損益の額の算定について
 当審判所の調査の結果によれば、原処分庁は、上記(1)のハのとおり本件会社の所得金額に加算済みとなっている平成14年3月期のその他の特別損失及び平成15年3月期のゴルフ会員権評価損を、所得金額の計算の基礎に含まれていないとして営業権の価額の算定において、平均利益金額の計算における所得金額に加算減算する経常損益以外の損益の額に含めている。
 これは、本件会社の所得金額の計算において既に加算されているものであることから、再度、経常損益以外の損益の額として加算すると二重に算定することとなり、超過収益力が、過大に算定されることとなる。したがって、請求人らの経常損益以外の損益、引当金及び準備金の繰入額に誤りがある旨の主張には理由がある。
 そこで、本件営業権の評価において、平均利益金額の計算における所得金額に加算減算すべき特別損益の額及び引当金等の繰入額を算定すると別表4の表1−1ないし表1−3のとおりとなる。
ロ 以上により、本件営業権の価額を算出すると、別表4の表2のとおり○○○○円となり、これを基に本件株式の1株当たりの価額を算出すると、別表5の表1のとおり2,500円となる。
ハ 請求人らは、評価基本通達により算出した本件株式の価額は時価を超えるから違法であるとも主張するので、審理したところ、次のとおりである。
 上記(1)のニのとおり、Gは、本件贈与の約4か月前の平成16年11月○日、J社に対し本件株式○○○○株を代金○○○○円で、翌月○日には、K社に対し本件株式○○○○株を代金○○○○円でそれぞれ譲渡しているが、いずれの取引も1株当たりの取引金額は5,500円である。
 J社が多額の資金を要する本件株式を取得することは、商法(平成17年法律第86号会社法施行前のもの。以下同じ。)第260条第2項第1号に規定する重要な財産の譲受に該当するから、取締役会の決議が必要であったところ、J社は○○証券取引所に上場する会社であり、法令遵守が要請されていたから、その価額は取締役会等の承認決議を経て決定されたものと認められる。そして、商法第254条の3により忠実義務を課されている取締役からなる取締役会で決議されたことからすれば、J社とGとの取引に係る本件株式の価額は、当時の本件株式の価値を慎重に考慮して決定したものであると推認でき、1株当たり5,500円の取引価額は当時の本件株式の客観的な交換価値を示している可能性が高いといえる。
 また、J社は、上記(1)のホのとおり、本件贈与後の平成○年○月○日に株式交換により本件株式を取得している。株式交換に当たって、J社は、ファイナンシャル・アドバイザーによる複数の評価方法等を総合的に勘案して当該株式交換における交換比率を決定しており、株式交換当時のJ社株式の時価から算出できる本件株式の1株当たりの時価(約5,600円)は、その当時の本件株式の客観的な交換価値を示している可能性が高いといえる。
 そして、J社への株式譲渡とJ社との株式交換の間に、本件株式の価値に著しい影響を与える事情があったとはうかがえない。
 そうすると、本件贈与の時点における本件株式の時価は、1株当たり5,500円を大きく下回ることはなかったと推認することができるから、当審判所が評価基本通達の定めに基づき算出した本件株式の1株当たりの価額2,500円を下回ることはないと認められる。したがって、この点からも、評価基本通達の定めに基づいて算出した本件株式の価額が時価を上回っているとは認められず、本件株式の価額の算定について、評価基本通達の定めによらないことが正当と認められるような特別な事情は認められない。

(5) 本件各通知処分

 本件株式の1株当たりの価額は、上記(4)のロのとおり2,500円となり、本件贈与により、請求人Eが取得した株式の価額は○○○○円、請求人Fが取得した株式の価額は○○○○円となるので、これらの価額に基づき、請求人らの贈与税の課税価格及び納付すべき税額を計算すると、いずれも原処分の額と同額となるから、本件各通知処分は適法である。

(6) その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によってもこれを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る