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(平20.7.16、裁決事例集No.76 393頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人らが相続により取得した取引相場のない株式のうち、株式を相互に持ち合う会社の株式の評価について、原処分庁が、いずれも財産評価基本通達が定める株式保有特定会社に該当することから、その価額は同通達に定める株式保有特定会社の株式の評価方法に基づき算定するのが相当であるとして、相続税の各更正処分等を行ったのに対し、審査請求人らが、これらの会社の株式の評価額が過大であるとして同処分等の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 審査請求人K(以下「請求人K」という。)、同M(以下「請求人M」という。)、同N(以下「請求人N」という。)、同P(以下「請求人P」という。)、同Q(以下「請求人Q」といい、これら5名を併せて「請求人ら」という。)、R及びTは、平成16年2月○日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡したU(以下「本件被相続人」という。)の共同相続人であり、この相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について、請求人らは、別表1の「当初申告」欄のとおり記載した申告書(以下「本件申告書」という。)を法定申告期限までに所轄a税務署長へ提出した。
ロ a税務署長は、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき、平成19年2月13日付で請求人らに対し別表1の「更正処分等」欄のとおりとする各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分を行った。
ハ 請求人らは、平成19年4月12日、上記ロの各処分を不服として異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年6月27日付で別表1の「異議決定」欄のとおり、当該各処分の一部を取り消す異議決定をし(以下、異議決定後の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分を、それぞれ「本件各更正処分」及び「本件各賦課決定処分」という。)、その決定書謄本を、請求人K、請求人M及び請求人Nに対しては同年7月7日に、請求人P及び請求人Qに対しては同月8日にそれぞれ送達した。
ニ 請求人らは、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして平成19年8月1日に審査請求をした。
ホ 請求人らは、平成20年2月26日、請求人Kを総代に選任し、同日その旨を当審判所に届け出た。

(3) 関係法令等の要旨

 別紙1のとおり。

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(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人らと原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 本件被相続人は、本件相続開始日において、株式会社W(以下「W社」という。)の株式○○○○株及びZ株式会社(以下「Z社」といい、W社と併せて「本件各会社」という。)の株式○○○○株を所有していた。
ロ 本件相続における共同相続人の間では、本件被相続人の遺産に係る分割協議は成立していない。
ハ 本件各会社の株式(以下「本件各株式」という。)は、いずれも証券取引所に上場されていない株式で、気配相場もないものである。
ニ W社は、○○○○を主な事業とする法人で、本件相続開始日現在、Z社の株式を○○○○株所有していた。
ホ Z社は、有価証券取得、保全を主な事業とする法人で、本件相続開始日現在、W社の株式を○○○○株所有していた。
ヘ 請求人らが本件申告書に添付した本件各会社に係る取引相場のない株式(出資)の評価明細書には、要旨以下のとおり記載がある。
(イ) W社
A 株式の評価方式は原則的評価方式等による。
B 会社規模は、評価基本通達178に定める大会社である。
C 評価基本通達180に定める類似業種比準価額は5,034円である。
D W社の株式保有割合は、下表のとおり算定した。
 なお、W社の所有するZ社の株式は、Z社の所有するW社の株式を1株当たり5,034円として、S1+S2方式により1株当たり34,093円として評価した。

1総資産価額 2株式等の価額の合計額 3株式保有割合(2/1
○○○○円 ○○○○円 27%

E W社は、上記Dのとおり株式保有割合が27%であることから株式保有特定会社に該当する。
F 評価基本通達185に定める1株当たりの純資産価額は、Z社の株式を1株当たり34,093円と評価して下表1及び2のとおり算定した。
表1 評価差額に対する法人税額等相当額の計算

  資産の価額の合計額 負債の価額の合計額 純資産価額
相続税評価額 ○○○○円 ○○○○円 1 ○○○○円
帳簿価額 ○○○○円 ○○○○円 2 ○○○○円
3評価差額に相当する金額 ○○○○円
4評価差額に対する法人税額等相当額(3×42%) ○○○○円

表2 1株当たりの純資産価額の計算

  法人所有の場合 個人所有の場合
1課税時期の純資産価額
法人所有の場合(表1の1
個人所有の場合(表1の1−表1の4
○○○○円 ○○○○円
2課税時期の発行済株式数 ○○○○株
3課税時期現在の1株当たりの純資産価額(1/2 21,654円 16,703円

G 評価基本通達189−3に定める「S1の金額」は、下表のとおり算定した。

  法人所有の場合 個人所有の場合
1配当に係る修正後の類似業種比準価額 5,034円 5,034円
2相続税評価額による純資産価額から課税時期現在の株式及び出資の価額の合計額を控除した修正後の1株当たりの純資産価額 11,805円 10,551円
31株当たりのS1の金額
12のいずれか低い方の金額)
5,034円 5,034円

H 評価基本通達189−3に定める「S2の金額」は、下表のとおり算定した。

1課税時期現在の株式及び出資の価額の合計額 2株式及び出資の帳簿価額の合計額 3株式及び出資に係る評価差額に相当する金額(12
○○○○円 ○○○○円 ○○○○円
43の評価差額に対する法人税額等相当額
3×42%)
○○○○円
5S2の純資産価額相当額 ○○○○円
6課税時期の発行済株式数 ○○○○株
7S2の金額 法人所有の場合(16 9,848円
個人所有の場合(56 6,151円

I 「S1の金額」と「S2の金額」の合計額は、下表のとおり算定した。

  1S1の金額 2S2の金額 S1の金額とS2の金額の合計額(12
法人所有の場合 5,034円 9,848円 14,882円
個人所有の場合 5,034円 6,151円 11,185円

J 株式保有特定会社の株式の価額は、下表のとおり決定した。

  法人所有の場合 個人所有の場合
11株当たりの純資産価額 21,654円 16,703円
2「S1の金額」と「S2の金額」の合計額 14,882円 11,185円
3株式保有特定会社の株式の価額
12のいずれか低い方の金額)
14,882円 11,185円

(ロ) Z社
A 株式の評価方式は原則的評価方式等による。
B 会社規模は、評価基本通達178に定める中会社で同通達179に定めるLの割合は0.6である。
C 評価基本通達180に定める類似業種比準価額は657円である。
D Z社の株式保有割合は、W社の株式を類似業種比準価額により1株当たり5,034円で評価して算定すると下表のとおりである。

1総資産価額 2株式等の価額の合計額 3株式保有割合(2/1
○○○○円 ○○○○円 91%

E Z社は、上記Dのとおり株式保有割合が91%であるから株式保有特定会社に該当する。
F 評価基本通達185に定める1株当たりの純資産価額は、下表1及び2のとおり算定した。
表1 評価差額に対する法人税額等相当額の計算

  資産の価額の合計額 負債の価額の合計額 純資産価額
相続税評価額 ○○○○円 ○○○○円 1 ○○○○円
帳簿価額 ○○○○円 ○○○○円 2 ○○○○円
3評価差額に相当する金額(12 ○○○○円
4評価差額に対する法人税額等相当額(3×42%) ○○○○円

表2 1株当たりの純資産価額の計算

  法人所有の場合 個人所有の場合
1課税時期の純資産価額
法人所有の場合(表1の1)
個人所有の場合(表1の1−表1の4)
○○○○円 ○○○○円
2課税時期の発行済株式数 ○○○○株
3課税時期現在の1株当たりの純資産価額(1/2 34,800円 21,693円

G 評価基本通達189−3に定める「S1の金額」は、下表のとおり算定した。

1配当金に係る修正後の類似業種比準価額 657円
2相続税評価額による純資産価額から課税時期現在の株式及び出資の価額の合計額を控除した修正後の1株当たりの純資産価額 1,794円
312のいずれか低い金額)×0.6(Lの割合) 394円
42の金額×(1−0.6(Lの割合)) 717円
5S1の金額(34 1,111円

H 評価基本通達189−3に定める「S2の金額」は、次のとおり算定した。

1課税時期現在の株式及び出資の価額の合計額 2株式及び出資の帳簿価額の合計額 3株式及び出資に係る評価差額に相当する金額(12
○○○○円 ○○○○円 ○○○○円
43の評価差額に対する法人税額等相当額
3×42%)
○○○○円
5S2の純資産価額相当額 法人所有の場合(1 ○○○○円
個人所有の場合(14 ○○○○円
6課税時期の発行済株式数 ○○○○株
7S2の金額 法人所有の場合(16 32,982円
個人所有の場合(56 19,898円

I 「S1の金額」と「S2の金額」の合計額は、下表のとおり算定した。

  1S1の金額 2S2の金額 S1の金額とS2の金額の合計額(12
法人所有の場合 1,111円 32,982円 34,093円
個人所有の場合 1,111円 19,898円 21,009円

J 株式保有特定会社の株式の価額は、下表のとおり決定した。

  法人所有の場合 個人所有の場合
11株当たりの純資産価額 34,800円 21,693円
2「S1の金額」と「S2の金額」の合計額 34,093円 21,009円
3株式保有特定会社の株式の価額
12のいずれか低い方の金額)
34,093円 21,009円

ト 請求人らは、本件各株式について、W社の株式○○○○株の価額を○○○○円(1株当たり11,185円)、Z社の株式○○○○株の価額を○○○○円(1株当たり21,009円)とそれぞれ評価して、本件相続税に係る課税価格に算入した。
チ 上記(2)のハの異議決定における本件各株式の評価の内容は、要旨以下のとおりである。
(イ) W社
A 評価方式は原則的評価方式等による。
B 会社規模は、評価基本通達178に定める大会社である。
C 評価基本通達180に定める類似業種比準価額は4,653円である。
D W社の株式保有割合は、下表のとおり算定した。
 なお、W社が所有するZ社の株式は、Z社が所有するW社の株式を1株当たり4,653円として、S1+S2方式により1株当たり32,005円として評価した。

1総資産価額 2株式等の価額の合計額 3株式保有割合(2/1
○○○○円 ○○○○円 26%

E W社は、上記Dのとおり株式保有割合が26%であることから株式保有特定会社である。
F W社及びZ社は、いずれも株式保有特定会社に該当し、相互に株式を持ち合っていることから、別紙2の2の(1)及び(2)の計算式による株式の価額の調整計算を行い、W社の所有するZ社の株式を1株当たり112,294円と評価した。
G W社の株式の価額は、別表2の表4(省略)のとおり、1株当たり19,244円と算定した。
(ロ) Z社
A 評価方式は原則的評価方式等による。
B 会社規模は、評価基本通達178に定める中会社で同通達197に定めるLの割合は0.6である。
C 評価基本通達180に定める類似業種比準価額は606円である。
D Z社の株式保有割合は、W社の株式を類似業種比準価額により1株当たり4,653円で評価して算定すると下表のとおりである。

1総資産価額 2株式等の価額の合計額 3株式保有割合(2/1
○○○○円 ○○○○円 91%

E Z社は、上記Dのとおり株式保有割合が91%であることから株式保有特定会社である。
F W社及びZ社は、いずれも株式保有特定会社に該当し、相互に株式を持ち合っていることから、別紙2の2の(1)及び(2)の計算式よる株式の価額の調整計算を行い、Z社の所有するW社の株式を1株当たり29,286円と評価した。
G Z社の株式の価額は、別表3の表4(省略)のとおり、1株当たり66,173円と算定した。
リ 異議審理庁は、本件各株式について、W社の株式○○○○株の価額を○○○○円(1株当たり19,244円)、Z社の株式○○○○株の価額を○○○○円(1株当たり66,173円)とそれぞれ評価して、本件相続税に係る課税価格に算入した。

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2 主張

(1) 原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 取引相場のない株式の発行会社が相互に株式を持ち合っている場合の株式保有特定会社に該当するか否かの判定において、何らかの形でそれぞれが所有する株式の評価方式を仮に決定しなければならないという循環に陥ってしまうときには、所有する株式を原則的評価方式で算定した価額をもって株式保有割合を算定し判定せざるを得ない。しかしながら、相互に株式を持ち合っている会社のうち、一方の会社が明らかに株式保有特定会社に該当するときは、もう一方の会社の株式保有割合は、一方の会社の株式を株式保有特定会社の株式の評価方法(純資産価額方式又はS1+S2方式)で評価した価額をもって算定し判定すべきである。
ロ Z社の株式保有割合は、所有するW社の株式を除いて計算しても50%以上となることからZ社は株式保有特定会社に該当するため、上記イのとおり、W社の株式保有割合は、株式保有特定会社に該当するZ社の株式を純資産価額方式又はS1+S2方式で評価した価額をもって算定することとなり、その割合は26%となるので、W社は株式保有特定会社に該当する。
ハ 本件各会社は、それぞれ株式保有特定会社に該当することから、純資産価額方式又はS1+S2方式により株式の評価額を算定するが、それぞれ株式を持ち合っていることから、相互に所有する株式の評価額が連鎖するため、別紙2の2のとおり、評価額の調整計算を行って評価する必要があり、調整後の本件各株式の評価額は上記1の(4)のリのとおりとなる。
 また、請求人らは、W社の株式を1株当たり14,882円と評価する一方、Z社の株式の評価においては、W社の株式を1株当たり5,034円としていることからすれば、本件各株式の評価において調整計算が必要なことは明白である。
ニ 請求人らの本件相続税の申告において、本件各株式が評価誤りとなったのは、請求人らが単に株式の相互持合いをしていた場合の調整計算を行っていなかったことに基因するものであり、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由がある場合には該当しない。

(2) 請求人ら

 原処分は、次の理由により違法であるからその全部の取消しを求める。
イ 原処分庁では、取引相場のない株式を発行する会社が、相互に株式を持ち合っている場合の株式保有特定会社に該当するか否かの判定は、所有する取引相場のない株式を原則的評価方式で算定した価額をもって株式保有割合を判定する旨取り扱われている。そうすると、中会社の原則的評価方式である併用方式で評価したZ社の株式の価額をもって算定したW社の株式保有割合は25%未満となることから、W社は株式保有特定会社に該当しない。
 したがって、W社の株式は、大会社の原則的評価方式である類似業種比準方式で評価すべきである。
ロ 仮に、W社の株式保有割合が26%であったとしても、上場会社に匹敵する事業規模と広範囲な事業を展開しているW社の株式について、小会社の評価に適用される純資産価額方式をもって評価することは、評価基本通達を画一的に適用し形式的な平等を貫くことによって、実質的な租税負担の公平を著しく害することが明らかであると認められ、評価基本通達6の趣旨にかんがみれば、相続税法第22条が規定する「時価」を算定するために他の合理的な方式によることが許されるものと判断され、その合理的な方式とは類似業種比準方式である。
ハ 原処分庁は、2以上の取引相場のない株式の発行会社(類似業種比準方式により評価するものを除く。)が相互に株式を持ち合っている場合には、評価基本通達に定めのない調整計算が必要であるとするが、評価基本通達に定めのない事項を自ら解釈して課税処分することは許されない。
ニ 本件各賦課決定処分は、本件各更正処分が違法であるから、その取消しにより当然取り消されるべきである。仮に、本件各更正処分が適法であったとしても、株式を持ち合う場合の計算に関しては、評価基本通達に明確な評価方法の定めがないのであるから、相続税の申告に当たり株式を持ち合う場合の計算をしていないことについては、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があると認められる場合に該当する。

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3 判断

(1) 法令解釈

イ 取引相場のない株式の評価方法
(イ) 相続税法第22条は、相続により取得した財産の価額は、特別の定めのあるものを除き、当該財産の取得の時における時価による旨規定し、この時価とは、当該財産を取得した時において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち、当該財産の客観的交換価値を意味するものと解される。
 しかしながら、相続財産の客観的交換価値は、必ずしも一義的に確定されるものでないことから、課税実務においては、相続財産の評価の一般的基準が評価基本通達により定められ、これに定められた画一的な評価方式によって相続財産の時価、すなわち客観的交換価値を評価するものとしている。これは、相続財産の客観的交換価値を個別に評価する方法をとると、その評価方式、基礎資料の選択の仕方等により異なった価額が生じることが避け難く、また、課税庁における課税事務の迅速な処理が困難となるおそれがあることなどから、あらかじめ定められた評価方式によりこれを画一的に評価する方が、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減といった見地からみて合理的であるという理由に基づくものであると解される。
 したがって、相続財産の価額は、評価基本通達によって評価することが著しく不適当と認められる特段の事情がない限り、同通達に定められた評価方法により画一的に評価するのが相当である。
(ロ) 評価基本通達は、上場会社及び気配相場等のある株式以外の取引相場のない株式の評価方法を評価会社の規模、性格、株主の実態等に応じて、会社規模を大会社、中会社及び小会社に区分し、1大会社においては類似業種比準方式、2小会社においては純資産価額方式及び3中会社においては類似業種比準方式と純資産価額方式の併用方式を、それぞれの会社の原則的評価方式と定める一方、同族株主以外の少数株主が取得した株式については、配当還元方式を定めている。
 原則的評価方式については、上場会社に匹敵するような大会社の株式は、上場会社の株式の評価と均衡を図る必要があることから類似業種比準方式で評価し、個人企業とそれほど変わることがない小会社の株式は、個人企業と変わらない経営の実態のものが多く、個人企業者の財産評価と均衡を図る必要があり、株式を通じて会社資産を間接的に保有しているものと認められるなど会社財産に対する持分的な性格が強いことから、会社の正味財産に着目して純資産価額で評価し、そして、大会社と小会社の中間に位置する会社である中会社の株式は、大会社と小会社のそれぞれの要素を持つものであるため、類似業種比準方式と純資産価額方式の二つの方式の要素を加味して評価することとしているものであり、これらの評価方法は、それぞれの会社の実態に即した合理的な方式と認められる。
(ハ) また、評価会社の資産の保有状況や営業の状況等が一般の評価会社と異なる1株式保有特定会社、2比準要素数1の会社、3土地保有特定会社、4開業後3年未満の会社等、5開業前又は休業中の会社及び6清算中の会社(以下、これらの会社を併せて「特定の評価会社」という。)の株式については、その会社の実態に即して会社の資産内容を的確に反映させるべく、上記1から5までの会社は原則として純資産価額方式、上記6の会社は清算の結果分配を受ける見込みの金額に基づき評価する旨定めている。
 これを大会社における株式評価に関してみると、大会社の株式の評価において適用される類似業種比準方式は、上場会社のうち評価会社に類似する業種に属する複数の標本会社を選定し、その業種の株価を基に、評価会社と配当金額、利益金額及び純資産価額を比較対照して株価を計算する方式であるところ、会社総資産のうちに占める各資産の保有状況が、標本会社である上場会社に比べ、著しく特定の資産に偏った会社あるいは標本会社が行う正常な営業活動を行い得ていない会社については、同方式を適用すべき前提条件を欠くこととなるため、評価の適正化の観点から、類似業種比準方式の適用範囲を明確にしたものと考えられ、その評価方法には合理性が認められる。
(ニ) さらに、特定の評価会社のうち株式保有特定会社の株式の評価方法については、評価基本通達189−3において、納税者の選択によりS1+S2方式により評価する旨定めている。
 このS1+S2方式は、「S1の金額」において株式保有特定会社が所有する株式等とその株式等に係る受取配当がなかったとした場合の当該会社の株式の原則的評価方法に基づく評価額を算定し、「S2の金額」において当該会社の所有している株式を評価基本通達の定めにより評価して株式保有特定会社の評価額を算定するものであり、株式保有特定会社の総資産から所有する株式等を分離し、当該会社の実際の事業活動部分としての株式の価額について類似業種比準方式を部分的に取り入れて評価する一方、当該会社の所有する株式等について同通達の定めにより評価し、その価額を加算することで、株式保有特定会社の株式の評価額に当該会社の事業活動の実態と所有する株式等の時価を適切に反映させたものと解される。
ロ 過少申告加算税を免除する「正当な理由」について
 国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があると認められる場合とは、過少に税額を申告したことが納税者の責めに帰すことができない客観的な障害に起因する場合など当該申告が真にやむを得ない理由によるものであり、納税者に過少申告加算税を課すことが不当又は酷になる場合を意味するものであって、その過少申告が納税者の税法の不知又は誤解であるとか、納税者の単なる主観的な事情に基づくような場合までを含むものではないと解される。

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(2) 認定事実

イ W社の本件相続開始日直前の事業年度である平成14年6月1日から平成15年5月31日までの事業年度の法人税の申告書及び決算書等によれば、期末の総資産価額は○○○○円、1年間の取引金額は○○○○円であり、従業員数は○○○○名以上である。
ロ Z社の本件相続開始日直前の事業年度である平成14年3月1日から平成15年2月28日までの事業年度の法人税の申告書及び決算書等によれば、期末の総資産価額は○○○○円、1年間の取引金額は○○○○円であり、従業員数は○○○○名以下である。
ハ 評価基本通達178に定める会社の規模区分によれば、W社は、上記イから大会社に、Z社は、上記ロから中会社に該当する。
ニ W社の所有する土地及び借地権のうち別表4の1(省略)の順号1ないし15に記載の土地及び借地権の価額は、別表4の2(省略)のとおり算定され、他の不動産の価額と併せて別表2の表3(省略)の資産の部に記載されている「土地」及び「借地権」の相続税評価額とされている。
ホ Z社の所有する土地及び建物のうち別表5の1(省略)に掲げる土地及び建物の価額は、別表5の2(省略)のとおり算定され、他の不動産の価額と併せて別表3の表3(省略)の資産の部に記載されている「土地」及び「建物」の相続税評価額とされている。
ヘ 請求人らのZ社の株式の評価(上記1の(4)のヘの(ロ))及び原処分庁の行った本件更正処分における同株式の評価(上記1の(4)のチの(ロ))では、評価基本通達185に定める1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の算定に当たって、平成16年2月期(平成15年3月1日から平成16年2月29日までの事業年度)の末日における各資産及び各負債の金額を基として計算している。
ト 平成15年5月31日から本件相続開始日までの間、W社の資産及び負債について、著しい増減があったとは認められない。
 また、本件相続開始日から平成16年2月29日までの間、Z社の資産及び負債について、著しい増減があったとは認められない。

(3) 本件各会社の所有する不動産の相続税評価額について

イ W社
 別表4の1(省略)に記載の土地及び借地権の相続税評価額は、同表の3(省略)のとおり算定するのが相当と認められる。
ロ Z社
 別表5の1(省略)に記載の土地及び建物の相続税評価額は、同表の3(省略)のとおり算定するのが相当と認められる。

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(4) 本件各株式の評価

イ 株式保有特定会社の判定
 評価基本通達189の(2)は、株式保有特定会社の判定方法は、評価会社の有する各資産を同通達の定めるところにより評価した価額の合計額のうちに占める株式等の価額の合計額である株式保有割合で判定する旨定めていることから、評価会社の所有する株式の評価額を決定しないと、評価会社の株式保有割合を算定することができない。
 そこで、相互に株式を持ち合っている本件各会社の株式保有割合の算定について、請求人らは、W社が所有するZ社の株式とZ社が所有するW社の株式をそれぞれ原則的評価方法で評価した価額をもって算定すべきである旨主張するので、以下、検討する。
(イ) 本件各会社について
 株式保有割合が算定できなければ、それぞれの会社が一般の評価会社か株式保有特定会社のいずれに当たるかを判定することもできないところ、W社とZ社についても、上記1の(4)のニ及びホのとおり、株式を相互に持ち合っているため、それぞれの会社の株式保有割合は、W社の所有するZ社の株式の価額及びZ社の所有するW社の株式の価額を決定しなければ算定することができない。
 ところで、上記1の(4)のホのとおり有価証券の保全等を主な事業とし、その所有資産の構成が有価証券に偏重したZ社を株式の相互持合会社の一方とする本件においては、以下のとおり、まず、Z社の株式保有特定会社の判定を行ってその評価方法を決定させた後に、これを前提としてZ社の株式を評価した価額をもってW社の株式保有特定会社の判定を行うことにより、本件各株式の評価方法が判明することとなる。
(ロ) Z社について
 上記(イ)のとおり、まず、所有資産の構成が有価証券に偏重するZ社から株式保有特定会社の判定を行うべきところ、その株式保有割合の算定について、原処分庁は、W社の株式の類似業種比準価額を上記1の(4)のチの(イ)のCのとおり1株当たり4,653円(以下「本件類似業種比準価額」という。)と算出し、同チの(ロ)のD及びEのとおり、本件類似業種比準価額をもってZ社の株式保有割合を91%と算定し、Z社が株式保有特定会社に該当すると判定している。
 この判定は、W社の株式を類似業種比準方式で評価した価額をもってZ社の株式保有割合を算定しているもので、W社の株式を過大に評価しているものとは認められないことから、当審判所においても、Z社の株式保有特定会社の判定方法として相当と認められ、また、本件類似業種比準価額も、W社の株式の類似業種比準価額として正当と認められる。
 ただし、上記(3)のロのとおり、Z社の所有不動産の価額について評価誤りが認められるため、当該評価誤りの認められた不動産について、審判所認定額に基づきZ社の株式保有割合を算定したところ、別表6の表1の2の3のとおり91%となり、当審判所の判定においても、Z社は株式保有特定会社に該当することとなる。
 また、Z社の所有するW社の株式の評価額が零円であると仮定し、Z社の株式保有割合を算定した場合に、別表6の表3の相続税評価額による株式及び出資の価額の合計額○○○○円からW社の株式の評価額○○○○円(4,653円×○○○○株)を控除した価額○○○○円を、相続税評価額による総資産価額○○○○円からW社の株式の評価額○○○○円を控除した価額○○○○円で除して算定すると83.9%となることからも、Z社が株式保有特定会社に該当することは明らかである。
 なお、Z社の純資産価額方式の計算に当たっては、上記(2)のヘのとおり、請求人ら及び原処分庁において、平成16年2月期の末日における各資産及び各負債の金額を基として計算しているところ、上記(2)のトのとおり、本件相続開始日から平成16年2月期の末日までの間において、Z社の資産及び負債に著しい増減があったとは認められないことから、当審判所においても、平成16年2月期の末日における各資産及び各負債の金額に基づき計算することが相当と認められるため、上記におけるZ社の純資産価額方式の計算及び以下のZ社の株式の評価額の計算において、平成16年2月期の末日における各資産及び各負債の金額を基として計算した。
(ハ) W社について
 株式保有割合は、評価会社が株式を相互に持ち合っている場合は、それぞれの所有する株式の評価方式が決まらなければ、その株式の価額が算定できないことから当該割合を算定することもできないと認められるが、Z社の株式は、上記(ロ)のとおり、株式保有特定会社に該当すると認められることから、W社の所有するZ社の株式は、株式保有特定会社として純資産価額方式又はS1+S2方式で評価するのが相当であり、その価額は、上記(ロ)におけるZ社の資産価額等に基づき算定すると別表6の表6の27欄のとおり32,005円(S1+S2方式による価額を選択)となる。
 原処分庁においても、上記1の(4)のチの(イ)のDのとおり、W社の所有するZ社の株式を株式保有特定会社の株式として評価し、W社の株式保有割合を算定して株式保有特定会社の判定をしているところであり、当審判所においても、この判定方法は相当と認められる。
 ただし、上記(3)のイのとおり、W社の所有不動産の価額について評価誤りが認められるため、当該評価誤りの認められた不動産について、審判所認定額に基づき、W社の株式保有割合を算定したところ、別表7の表1の2の3欄のとおり26%となり、当審判所の判定においても、W社は株式保有特定会社に該当すると認められる。
(ニ) 請求人らの主張
 請求人らは、本件各会社の株式保有割合は、W社が所有するZ社の株式とZ社が所有するW社の株式をそれぞれ原則的評価方法で評価した価額をもって算定すべきである旨主張するが、本件各会社の株式保有割合は、本件各会社固有の事情を考慮して算定すると、上記(イ)ないし(ハ)のとおり算定するのが相当であるから、請求人らの主張には理由がない。
 また、請求人らは、W社は上場会社に匹敵する事業規模を有する会社であるから、小会社の評価に適した純資産価額方式で評価することは、実質的な租税負担の公平を著しく害するのが明らかであるので、評価基本通達6の趣旨にかんがみて、より合理的な評価方法である類似業種比準方式で評価すべきである旨主張する。
 しかしながら、規模区分において大会社に該当するような会社であっても、株式保有特定会社に該当する場合には、評価基本通達189−3に定める方式により評価すべきことについては上記(1)のイの(ハ)のとおりであり、また、上記(1)のイの(ニ)のとおり、その評価方式に合理性が認められることからすると、W社の事業規模が大きいことのみをもって、その株式が同通達の定めにより評価することが著しく不適当と認められる財産に該当すると認めることはできないから、請求人らの主張は採用できない。
ロ 株式を相互に持ち合っている場合の評価方法
 請求人らは、2以上の取引相場のない株式の発行会社が相互に株式を持ち合っている場合の株価の調整計算は評価基本通達に定めのない事項であり、それを原処分庁が自ら解釈して課税処分を行うことは違法である旨主張するので、以下検討する。
(イ) 2以上の取引相場のない株式の発行会社が相互に株式を持ち合っている場合、それぞれの会社の株式を純資産価額方式で評価しようとすると、それぞれの会社は別紙2の1の図のような関係にあることから、それぞれの株式の評価額が相互に連鎖することとなるため、その調整を図る必要があると認められる。
 その調整の方法としては、同図のようにA社とB社が相互に株式を持ち合っている場合、これらの会社の純資産及び資本の関係を数式化すると別紙2の1の1及び2の数式に置き換えることができ、この数式に基づきそれぞれの株式の評価額を算定することが可能となる。
 確かに、2以上の取引相場のない株式の発行会社が株式を相互に持ち合っている場合、純資産価額方式等によりそれぞれの株式の評価額を計算する方法は、評価基本通達に定められていないところであるが、上記のとおり、株式を相互に持ち合っている場合の会社の純資産価額の関係を矛盾なく合理的に分析することで、評価額の調整を行う必要があることは容易に判断することができる。
(ロ) 上記(イ)のとおり、取引相場のない株式の発行会社が株式を相互に持ち合っている場合には調整計算を行う必要が認められるところ、原処分庁の採用する別紙2の2の(1)及び(2)の計算式は、2以上の取引相場のない株式の発行会社が株式を相互に持ち合っている場合の株式の評価額が相互に連鎖することに係る調整を算術的に図っているものであり、評価基本通達を独自に解釈したものとも解されず、当審判所においても相当と認められる。
 したがって、調整計算の違法性に関する請求人らの主張には理由がない。
(ハ) 本件の場合も、上記イのとおり、本件各会社はいずれも株式保有特定会社に該当し、それぞれの株式の評価方式は、純資産価額方式又はS1+S2方式のいずれかにより評価することとなるが、本件各会社の純資産価額及びS2の金額の算出において、W社が所有するZ社の株式とZ社が所有するW社の株式の評価額が相互に連鎖することから、別紙2の2の(1)又は(2)の数式による株式の評価額の調整計算を行わなければ、本件各株式の評価額を矛盾なく合理的に算定することはできないこととなる。
ハ Z社の株式の評価額
 株式保有特定会社に該当するZ社の株式について、上記イの(ロ)と同様、評価誤りの認められた所有不動産の価額を審判所認定額に修正した上で評価すると、以下のとおりとなる。
(イ) Z社が所有するW社の株式の評価額は、株式を相互に持ち合っているための調整を行って算定すると、別表8のとおり算出され、この場合、価額の低い双方S1+S2方式による算出額○○○○円を選択すべきである。
(ロ) この評価額に基づき、Z社の1株当たりの純資産価額及びS1+S2方式による価額を算定すると、1株当たりの純資産価額は、別表9の表1の11欄のとおり67,251円となり、S1+S2方式による価額は同表の表4の26欄のとおり66,173円となる。
(ハ) 株式保有特定会社の株式の評価額は、純資産価額とS1+S2方式による価額のいずれか低い方の金額が選択されるから、Z社の1株当たりの評価額は別表9の表4の27欄のとおり66,173円となる。
 なお、別表9の表4において、S2の金額の計算における評価差額に対する法人税相当額を控除せずにS1+S2方式の価額を算定すると、別表8で算出したW社所有のZ社の株式の価額と同額になることから、法人所有と個人所有の差異を除き、Z社の株式の価額は、本件各株式の価額の算定において矛盾なく評価されていることが確認できる。
ニ W社の株式の評価額
 株式保有特定会社に該当するW社の株式について、上記イの(ハ)と同様、評価誤りの認められた所有不動産の価額を審判所認定額に修正した上で評価すると、以下のとおりとなる。
(イ) W社が所有するZ社の株式の評価額は、株式を相互に持ち合っているための調整を行って算定すると、別表8のとおり算出され、この場合、価額の低い双方S1+S2方式による算出額○○○○円を選択すべきである。
(ロ) この評価額に基づき、W社の1株当たりの純資産価額とS1+S2方式による価額を算定すると、1株当たりの純資産価額は、別表10の表1の11欄のとおり25,425円となり、S1+S2方式による価額は、同表の表4の26欄のとおり19,244円となる。
(ハ) 株式保有特定会社の株式の評価額は、純資産価額とS1+S2方式による価額のいずれか低い方の金額が選択されるから、W社の1株当たりの評価額は別表10の表4の27欄のとおり19,244円となる。
 なお、別表10の表4において、S2の金額の計算における評価差額に対する法人税相当額を控除せずにS1+S2方式の価額を算定すると、別表8で算出したZ社所有のW社の株式の価額と同額になることから、法人所有と個人所有の差異を除き、W社の株式の価額は、本件各株式の価額の算定において矛盾なく評価されていることが確認できる。

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(5) 本件更正処分について

 本件各株式の評価額は、上記(4)のハ及びニのとおりであり、この評価額に基づき請求人らの課税価格及び納付すべき税額を算定すると、本件各更正処分に係る課税価格及び納付すべき税額と同額となることから、本件各更正処分は適法である。

(6) 本件各賦課決定処分について

 請求人らは、本件各更正処分は違法であるので本件各賦課決定処分は取り消されるべきであり、仮に、本件各更正処分が適法であったとしても、株式を持ち合う場合の計算に関しては、評価基本通達に明確な評価方法の定めがないのであるから、相続税の申告に当たり株式を持ち合う場合の計算をしていないことについては、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があると認められる場合に該当する旨主張する。
 上記(1)のロのとおり、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があると認められる場合には、過少申告が納税者の単なる主観的な事情に基づくような場合までを含むものでないと解される。
 本件各更正処分は、上記(5)のとおり適法であり、株式を相互に持ち合う場合の評価額の調整計算も上記(4)のロのとおり株式を持ち合う会社の関係を数学的に分析することで矛盾なく合理的に把握されることからすると、請求人らが株式を相互に持ち合う場合の評価額の調整計算を行わなかったことは、請求人らの計算誤りによるものと認められることから、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 したがって、請求人らの主張には理由がなく、国税通則法第65条第1項の規定に基づきなされた本件各賦課決定処分は適法である。

(7) その他

 原処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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