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(平20.10.29、裁決事例集No.76 440頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が遺産分割の審判が確定したから相続税法第32条《更正の請求の特則》の規定に該当するとして行った更正の請求について、原処分庁が、更正をすべき理由がない旨の通知処分を行ったのに対し、請求人が、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成4年3月○日に死亡したA(以下「被相続人」という。)の相続(以下「本件相続」という。)の開始に係る相続税について、申告書に課税価格及び納付すべき税額を別表の「申告」欄のとおり記載して、法定申告期限内に申告(以下「本件申告」という。)した。
ロ その後、請求人は、平成19年2月9日に別表の「更正の請求」欄のとおり更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をした。
ハ 原処分庁は、これに対し、平成19年6月7日付で更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
ニ 請求人は、この処分を不服として平成19年8月7日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年10月18日付で棄却の異議決定をし、同月23日にその決定書謄本を請求人に対し送達した。
ホ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成19年11月22日に審査請求をした。

(3) 関係法令

 関係法令は、別紙のとおりである。

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(4) 基礎事実

イ 本件相続に係る共同相続人は、被相続人の養子である請求人、長男B、長女C、二女D及び三女E(以下、長女C、二女D及び三女Eを併せて「Cら」という。)の5名である。
ロ 遺言者を被相続人とするF地方法務局所属公証人G作成の平成3年7月○日付遺言公正証書(平成3年第○号)には、被相続人の遺産の全部を請求人に相続させる旨の記載がある(以下、この公正証書による遺言を「本件遺言」という。)。
ハ 請求人は、被相続人の財産の全部を請求人が取得し、また、被相続人の債務及び被相続人に係る葬式費用の全部を請求人が負担するものとして課税価格を計算し、上記ロの遺言公正証書の写しを添付して本件申告を行った。
ニ 本件遺言に関する訴訟について
(イ) Cらは、請求人を被告として、平成4年○月○日に本件遺言が無効であることの確認を求める訴え(以下「本件無効確認請求事件」という。)をH地方裁判所に提起したところ、同裁判所は、平成7年○月○日、本件遺言が無効である旨の判決をした。
(ロ) 請求人は、これを不服としてJ高等裁判所に控訴したところ、同裁判所は、平成9年○月○日、控訴を棄却する旨の判決をした。
(ハ) 請求人は、上記(ロ)の判決を不服として最高裁判所に上告したところ、同裁判所は、平成9年○月○日、上告を棄却する旨の判決(以下「本件最高裁判決」という。)をしたため、本件遺言が無効である旨の判決が確定した。
ホ 本件相続に係る遺産の分割に関する審判について
(イ) Cらは、K家庭裁判所に対し、請求人及び長男Bを相手方として、平成10年2月○日に被相続人の遺産の分割を求める調停を申し立てたが、同年6月○日に調停が不成立となり、同日、審判に移行し、同裁判所は、平成18年2月○日付審判で、被相続人の遺産を分割した。
(ロ) 請求人は、これを不服としてJ高等裁判所に即時抗告を行ったところ、同裁判所は、平成18年○月○日、抗告を棄却する旨の決定をした。
(ハ) 請求人は、上記(ロ)の決定に対して、J高等裁判所に許可抗告の申立て及び特別抗告の書類提出を行ったところ、同裁判所は、許可抗告の申立てについて、平成18年○月○日、許可抗告を許可しない旨の決定をした。
 また、最高裁判所は、平成18年○月○日、上記特別抗告を棄却する旨の決定をした。

2 争点

 本件更正の請求は、相続税法第32条第1号に規定する事由に該当する適法なものか否か。

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3 主張

請求人 原処分庁
 本件申告時においては、本件無効確認請求事件が係属中であり、正式に遺産の分割が完了していた事実はないから、本件申告は、相続税法第55条の規定により、まだ分割されていない遺産について、本件遺言による包括遺贈の割合に従って取得したものとして課税価格を計算し行ったものである。
 その後、平成18年○月○日、遺産の分割が確定し、本件申告に係る課税価格が過大となることを知ったため、更正の請求を行ったものである。
 本件申告時においては、本件無効確認請求事件が係属中であった事実は認められるものの、本件申告は、本件遺言に基づき遺産の全部を請求人が取得したとしてなされており、まだ分割されていない遺産について相続税法第55条の規定により計算されたものとは認められない。
 したがって、本件更正の請求は、相続税法第32条第1号に規定する要件を備えた適法なものである。
 なお、平成9年○月○日の本件最高裁判決は、遺産の分割に何ら効力が及ぶものではないから、同判決により通則法第23条第2項第1号に規定する更正の請求の事由が生じたものではない。
 したがって、本件更正の請求は、相続税法第32条第1号の事由に該当しない不適法なものである。
 なお、本件においては、平成9年○月○日、本件最高裁判決により本件遺言が無効となった結果、遺産が未分割の状態になり、通則法第23条第2項第1号に規定する事由が生じたものと認められる。

4 判断

(1) 相続税法第32条第1号について

 相続税法第32条は、相続税について申告書を提出した者は、同条各号に定める一定の事由により、その申告に係る課税価格及び相続税額が過大となったときは、当該事由が生じたことを知った日の翌日から4月以内に限り、税務署長に対し、その課税価格及び相続税額につき通則法第23条第1項の規定による更正の請求をすることができる旨規定している。そして、その事由として、相続税法第32条第1号は、同法第55条の規定により分割されていない財産について民法(第904条の2を除く。)の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従って課税価格が計算されていた場合において、その後当該財産の分割が行われ、共同相続人又は包括受遺者が当該分割により取得した財産に係る課税価格が当該相続分又は包括遺贈の割合に従って計算された課税価格と異なることとなったことを規定している。
 このように相続税法第32条第1号は、同法第55条の規定により分割されていない財産について、民法(第904条の2を除く。)の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従って課税価格が計算されていたこと及びその後当該財産の分割が行われたことを、その要件としていることから、同号の規定に基づく更正の請求は、単に相続財産の分割が行われ、相続財産の分属が決まり、その結果に従って相続税の課税価格を計算すると申告又は更正若しくは決定に係る課税価格と異なることとなるというだけでは足りず、1当該分割が行われる前には遺産共有の状態にあった分割の対象とされた財産について、民法(第904条の2を除く。)の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従って課税価格が計算された申告又は更正若しくは決定が行われていること、及び2当該申告又は更正若しくは決定において未分割財産とされていた財産が分割されたことが必要であり、1の申告又は更正若しくは決定がなされていない場合には、同条第1号の更正の請求の要件を満たさないこととなる。

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(2) 本件更正の請求について

イ 本件は、遺産分割の審判が確定し、その遺産分割の審判に基づいて相続税の課税価格を計算すると、その額が請求人の申告に係る課税価格を下回ることとなるとして請求人が更正の請求に及んだものである。
 本件について審判による遺産の分割までの経緯をみると、請求人が本件申告を行った後、上記1の(4)のニ及びホのとおり、本件遺言は、その効力を争った訴訟において、無効であることが確認され、その確定した判決を踏まえて、共同相続人間で遺産分割の手続が行われ、審判による分割がなされたものである。
 そうすると、本件遺言が無効である旨の判決が確定した本件最高裁判決により、すべての相続財産は遺産共有の状態、すなわち未分割の状態にあることが明らかにされたものと認められ、その後、審判によりその未分割の状態にあった財産の分割が行われたのであるから、本件最高裁判決により未分割の状態にあることが明らかになった相続財産について、相続税法第55条の規定に基づく申告又は更正若しくは決定がなされていたかどうかで、本件更正の請求が同法第32条第1号の更正の請求の要件である「相続税法第55条の規定により分割されていない財産について民法(第904条の2を除く。)の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従って課税価格が計算されていたこと」を満たすか否かを判断すべきこととなる。
 この点、本件申告は、本件最高裁判決の前になされているものであって、本件更正の請求の直前における請求人の相続税の課税価格は、本件最高裁判決により未分割の状態にあった相続財産について相続税法第55条の規定に基づき民法の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従って計算されていたものでないことは明らかである。
 したがって、本件更正の請求は、相続税法第32条第1号に規定する要件を欠くものである。
ロ 請求人は、本件申告時においては、本件無効確認請求事件が係属中であり、正式に遺産の分割が完了していた事実はないから、本件申告は、まだ分割されていない遺産について相続税法第55条の規定により計算したものであり、本件更正の請求は、同法第32条第1号に規定する要件を備えた適法なものである旨主張する。
 しかしながら、上記イで述べたとおり、本件更正の請求が相続税法第32条第1号の更正の請求の要件を満たすか否かの判断は、本件最高裁判決の前にどのような申告又は更正若しくは決定がなされていたかにかかわらず、本件最高裁判決により未分割であることが明らかにされた相続財産について相続税法第55条の規定に基づく申告又は更正若しくは決定がなされていたかどうかによるのであるから、請求人の主張には理由がない。

(3) 本件通知処分について

 上記(2)で述べたとおり、請求人の主張には理由がなく、また、他に本件更正の請求を認める事由はないから、本件更正の請求に対して更正をすべき理由がないとしてなされた本件通知処分は適法である。

(4) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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