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(平20.9.19、裁決事例集No.76 497頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)が納税者A社(以下「本件滞納会社」という。)の清算人として国税徴収法(平成19年法律第6号による改正前のもの。以下「徴収法」という。)第34条《清算人等の第二次納税義務》に規定する残余財産の分配又は引渡し(以下「残余財産の分配等」という。)を行ったとして、第二次納税義務の納付通知書による納付告知処分をしたのに対し、請求人が残余財産の分配等の事実はないとして、同処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、請求人が本件滞納会社の清算人として徴収法第34条に規定する残余財産の分配等を行ったとして、請求人に対して、平成19年4月2日付の納付通知書により、本件滞納会社の別表1記載の滞納国税につき、その限度額を○○○○円とする第二次納税義務の納付告知処分(以下「本件納付告知処分」という。)をした。
ロ 原処分庁は、後述するBが本件納付告知処分後の平成19年4月3日に○○○○円納付したことから、請求人に対して第二次納税義務に係る限度額を○○○○円として平成19年4月18日付の第二次納税義務額の一部消滅通知書を送付した。
 なお、原処分庁は、請求人が第二次納税義務者として納付すべき滞納金額は ○○○○円を限度とする旨記載し、本件納付告知処分に係る納付催告書を平成19年5月7日付で発付している。
ハ 請求人は、本件納付告知処分を不服として平成19年5月31日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年8月27日付で棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成19年9月25日に審査請求をした。

(3) 関係法令

 徴収法第34条第1項は、法人が解散した場合において、その法人に課されるべき又はその法人が納付すべき国税を納付しないで残余財産の分配又は引渡しをしたときは、その法人に対し滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合に限り、同法第33条《無限責任社員の第二次納税義務》の規定の適用を受けない清算人及び残余財産の分配又は引渡しを受けた者は、その滞納に係る国税につき第二次納税義務を負う旨規定している。なお、徴収法第34条の規定により清算人が負う第二次納税義務の限度は、分配又は引渡しをした財産の価額とされている。

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(4) 基礎事実

イ 本件滞納会社は、平成5年1月○日に設立された○○機械類の製造、販売、整備等を業とする同族会社で、平成15年4月○日以降の本店所在地はP市p町○番である。また、その役員には、平成10年7月○日までは前代表取締役Cのみが就任していたが、同日にBが取締役に就任し、Cが平成15年7月○日に死亡した後、同月○日に請求人が代表取締役に就任している。
ロ 本件滞納会社の平成14年7月21日から平成15年7月20日までの事業年度の法人税の確定申告書の別表二及び平成15年7月21日から同年9月○日までの事業年度の法人税の解散確定申告書の別表二には、本件滞納会社の出資口数の総数及び資本の総額がそれぞれ30口及び3,000,000円(1口の金額100,000円)であり、Cが10口を、同人の妻Dが20口を保有している旨記載されている。
ハ 本件滞納会社は、Cの死亡に係る生命保険金として、平成15年8月4日にE生命から○○○○円を、平成15年9月30日にF生命から○○○○円を、G銀行H支店の本件滞納会社名義の普通預金口座(口座番号○○○○)への振込みにより受領した(以下、これらの生命保険金に係る金員の合計額○○○○円を「本件生命保険金」といい、この預金口座を「本件滞納会社口座」という。)。
ニ 本件滞納会社は、平成15年9月○日の社員総会の決議を経て解散し、同年10月○日付で解散登記を了している。
ホ 請求人は、平成15年9月○日に滞納会社の清算人に就任し、平成16年3月○日に清算人を辞任した。
 その後、Jが平成16年3月○日に清算人に就任したが、Jは平成17年3月○日に辞任し、Kが同月○日に清算人に就任し、現在に至っている。

(5) 争点

 請求人は、徴収法第34条に規定する残余財産の分配等を行ったか否か。

2 主張

 当事者の主張は、別紙のとおりである。

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3 判断

(1) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 請求人は、別表2の「支払先明細」(以下「本件支払明細」という。)に記載のとおり、本件滞納会社の債務の弁済等として、平成15年7月から平成16年4月までの間に総額○○○○円(○件)を支払い、そのことを証する書類として、本件支払明細及び領収証書等を当審判所に提出した。
ロ 本件生命保険金を受領した後の各預金の異動状況は別表3−1ないし3−3のとおりであるが、別表3−2及び3−3の預金のうち、「使途等」欄に「不明」と記載されているものについては、出金後、その使途が明らかでない。
 なお、主な入出金状況は次のとおりである。
(イ) 本件滞納会社口座から、平成15年8月5日に○○○○円が現金で出金され、そのうち○○○○円が、同日、請求人の知人のL名義のM銀行N支店の普通預金口座(口座番号○○○○。以下「L口座」という。)に現金で入金され、残額の○○○○円が、翌8月6日にU銀行V支店のW名義の普通預金口座(口座番号 ○○○○)に振込入金されている。
(ロ) 本件滞納会社口座から、平成15年9月30日に○○○○円が現金で出金され、同日、請求人の子であるX名義のg銀行h支店の普通預金口座(口座番号○○○○。以下「X口座」という。)に振込入金されており、その後、当該口座から、同年10月7日に○○○○円が現金で出金されている。
 なお、出金後の使途等は明らかでない。
(ハ) 本件滞納会社口座から、平成15年9月30日に○○○○円が現金で出金され、同日、L口座に振込入金されており、その後、別表3−3のとおり出金されている。
ハ 本件支払明細のうち、次のものについては、以下に述べる理由から、真実その支払先に支払われたと認めることは困難である。
(イ) Q市q町○番 dビル Y ○○○○円
 上記所在地には、昭和53年建築の「Tビル」が現存しており、dビルは実在しないばかりか、「Tビル」の入居者にはYも見当たらない。
(ロ) R市r町○番 Z ○○○○円
 上記所在地は実存しない。
ニ e銀行f支店が、Dに対して交付した平成15年10月16日付の「代位弁済証書」と証する書面には、e銀行が本件滞納会社に対して有する○○○○円の債権(元金○○○○円、利息額○○○○円)について、Dから代位弁済を受け、同額を受領したこと及び当該代位弁済に基づき、Dに対し「金銭消費貸借公正証書」1通を交付する旨記載されている。
ホ 請求人が当審判所に提出したWの陳述書には、要旨次のとおり記載されている。
 本件滞納会社は、以前から資金繰りに困っていたが、本件滞納会社やC個人では消費者金融等からの借入れもできない状態であったため、Cから頼まれて、私は、知人や消費者金融から借入れを行い、本件滞納会社の資金繰りのためにCに貸し渡していた。
 Cが亡くなり、本件滞納会社に同人の死亡保険金が入るとのことであったので、本件滞納会社の清算人であった請求人に対し、私が本件滞納会社のために借り入れていた当時の借入残高(合計○○○○円)を書いたメモを渡したところ、平成15年8月に○○○○円、同年10月に○○○○円、合計○○○○円を請求人から受け取った。
ヘ 原処分庁は、別表4記載のX口座から出金された○○○○円及びL口座から出金された○○○○円から平成16年4月30日に本件滞納会社の源泉所得税等の納付のために支出された○○○○円を控除した○○○○円については、残余財産の分配として請求人に、○○○○円、Wに○○○○円及びBに○○○○円が交付されたと認定し、原処分を行った。
ト 請求人は、平成16年9月7日にj税務署の法人税の調査担当職員に対し、要旨次のとおり申述している。
(イ) 私は、Cの死亡後、その妻D及び長男kに代表者に就任するよう打診したところ、Dは代表者への就任をかたくなに固辞し、また、kは大学を卒業したばかりでとても会社を継げるような状況になかったことなどから、仕方なく本件滞納会社の代表者に就任した。
(ロ) 私は、Dから本件生命保険金についてはすべて任せるので、会社をきれいにして欲しいと頼まれたため、本件生命保険金をすべて借金と買掛金の支払に使った。
 なお、本件生命保険金の受取については、Cの息子であるkと生命保険金の請求に詳しいJと請求人との3人で手続を行い、これを請求人が開設した本件滞納会社口座に振り込んでもらった。
(ハ) 本件滞納会社口座に振り込まれた本件生命保険金については、本件滞納会社の実名口座に預金を残しておくと国税や地方税等の差押えを受け、一般の債権者に支払う分がなくなると知人に言われたため、X口座に○○○○円を、L口座に約○○○○円をそれぞれ移した。
チ Wは、平成16年8月17日にj税務署の法人税の調査担当職員に対し、要旨次のとおり申述している。
 本件滞納会社が設立されてからまもなくして本件滞納会社に勤め始め、経理を担当していたが、書類を税理士に届けるなどの簡単な事務だけを行っていた。平成15年3月ころに従業員が退職し、残っていた○○さんも同年4月か5月ころに退職したので、私も退職しようかと考えていた時にCが亡くなった。
 Cに対する貸金総額は、母名義で借りた金も合わせると、○○○○円を超えていた。また、Cに頼まれて消費者金融数社から借金をしてCに貸し付けていたが、Cが亡くなってから、利息の支払も滞り、毎月請求が届くようになってしまった。
 そこで、請求人に相談したところ、保険金が入るから少しの間待つようにと言われ、最初の保険金○○○○円を本件滞納会社が受け取った時、○○○○円を振り込んでもらい、消費者金融などの返済に充てた。
 また、請求人から色々と大変だろうと言われ、あと○○○○円を平成15年10月3日に現金で受け取った。
リ Wは、平成19年2月16日に原処分庁の徴収担当職員に対し、要旨次のとおり申述している。
 私は、Cと内縁関係にあったので、Cから本件滞納会社の支払関係でお金を用立ててくれと頼まれ、私や母などの名義で消費者金融などから借金をし、その額は○○○○円から○○○○円くらいあった。
 Cの死亡後、請求人、B、k及び私による本件滞納会社の代表取締役選任の話合いの場において、請求人に対して「本件滞納会社の関係で借金があるので何とかならないか」と相談したところ、その明細を書き出すよう言われ、書いて渡した。
 しばらくたって、請求人から本件生命保険金が一部入ったという連絡があり、消費者金融の分だけでも先に返済するようにということで○○○○円を振り込みにより受領した。
 また、平成15年10月3日に請求人からP市内のホテルのロビーに呼び出され、現金で○○○○円を受領し、先に振り込んでもらった分と合わせて○○○○円の領収証書を書いて渡した。
ヌ Bは、平成19年4月2日に原処分庁の徴収担当職員に対し、要旨次のとおり申述している。
(イ) 私は、Cからのたっての願いで「名前だけでもいいから」と頼まれたため、本件滞納会社の名目上の役員になった。
(ロ) 平成14年夏ころからだったと思うが、Cから「取引先に対して支払ができないので金を貸して欲しい。」などと電話が再三かかってくるようになった。
 私としては、Cがそのとき大きな取引を進めているから、成功すれば返してもらえるという気持ちもあったため、工面して数回に分けて合計○○○○円の現金を手渡しにより貸し付けた。
 当該金員を貸した事実を証明するものは残っておらず、貸付先が本件滞納会社なのか、Cなのかは正直いってわからない。
(ハ) Cの墓参りに行った際に請求人に会い、請求人から「個人的にCにお金を貸したのがあるか」と聞かれ、○○○○円を貸したことを話したところ、後日、請求人から○○○○円を振り込むと連絡があり、2、3日後にm銀行n支店の普通預金口座(口座番号○○○○)に振り込まれた。
ル 平成20年8月27日にDは当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。
(イ) 本件滞納会社に対する私の出資持分は、Cが本件滞納会社の設立に当たり私の名前で出資を行ったものであり、出資者であるということはCから聞いていたが、会社経営に全く関与していなかったことから、出資額等詳細については知らなかった。
(ロ) Cとの間には、3人の子をもうけたが、Cの死亡に係る相続等の手続は行っていない。
(ハ) Cの死亡後、悲壮感の中にあるとき、突然、取締役であったBと請求人が自宅に来て、「社長になって会社を片付けてやる」と言われ、具体的な話もせず、社長就任を依頼した。
 しかし、滞納会社に対する出資持分を請求人に譲渡するとかの話は一切していない。
(ニ) Cの生命保険金については、請求人から当初○○○○円しか支払はないと聞いていたが、生命保険会社から○○○○円の支払通知書が自宅に送付されてきたため、当該生命保険金の支払の事実を知った。長男のkがその件で請求人に電話したが、請求人から具体的な答えはなかった。
(ホ) 当該生命保険金の支払の事実を知った後、請求人から○○○○円の振込みを受けた。この金員については、私の父の畑を担保に本件滞納会社の借入れを行っていたことから、すぐにその返済に充てた。
 なお、この金員以外に請求人からもらった金員はない。
(ヘ) 上記ハの(イ)及び(ロ)の名前については知らないし催促を受けたこともなく、また、本件滞納会社の社員からもその名前を聞いたことはない。

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(2) 法令解釈

イ 徴収法第34条の第二次納税義務は、法人が解散した場合、その清算人は当該法人の債務を完済した後でなければその財産を株主や社員(以下「株主等」という。)に分配することができず(会社法第502条、平成17年度法律第87号による改正前の商法(以下「旧商法」という。なお、原処分庁の主張における「商法」とは、旧商法をいうものと解される。)第131条、平成17年度法律第87号による廃止前の有限会社法(以下「旧有限会社法」という。)第75条第1項等)、清算人が悪意又は重大な過失によりこれに反する行為をしたことによって当該会社の債権者に損害が生じたときは、当該債権者は清算人に対する損害賠償請求(会社法第653条、旧商法第134条の2第2項、旧有限会社法第75条第2項等参照)等により保護されるところ、国税債権の迅速かつ適切な確保の上では、これらの方法によることが適当とはいえないことを考慮し、解散した法人が国税を納付せずに残余財産の分配等をしたときは、その法人に対して滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合に限り、その悪意等を要件とせず、清算人及び残余財産の分配又は引渡しを受けた者に対してその滞納に係る国税についての第二次納税義務を負わせることにより、国税債権の迅速かつ適切な確保を図ることとしたものと解される。
ロ 以上のことからすれば、徴収法第34条に規定する「残余財産」とは、一般的用法のように、法人解散の場合の現務の結了、債権の取立て及び債務の弁済をした後に残った積極財産をいうものではなく、法人が納付すべき国税を完納することなくその有する財産の分配等をした場合における当該積極財産をいうものと解される。
ハ また、徴収法第34条に規定する「分配」とは、法人が清算する場合において、残余財産を株主等に対し、原則として、その出資額に応じて分配することをいうものと解され(会社法第504条第3項、旧商法第425条、旧有限会社法第73条等参照)、「引渡し」とは法人が清算する場合において、残余財産を定款又は寄附行為により定められた者に移転の手続をとることその他公益のために処分することをいうものと解される(平成18年法律第50号による改正前の民法第72条、宗教法人法第50条、医療法人法第56条等参照)。

(3) 本件納付告知処分の適法性

イ これを本件についてみると、次のとおりである。
(イ) 前記1の(4)のロのとおり、本件滞納会社の平成14年7月21日から平成15年7月20日までの事業年度の法人税の確定申告書の別表二及び平成15年7月21日から同年9月○日までの事業年度の法人税の解散確定申告書の別表二には、本件滞納会社の出資者はCとDの2名のみであり、それぞれの出資口数は、Cが10口、Dが20口である旨記載されているが、上記(1)のルのとおり、Dは、当審判所に対し、CがDの名前で出資を行い、Dは本件滞納会社の経営に全く関与せず、出資額等の詳細については知らなかった旨答述しており、その答述態度や答述内容に不自然な点が見当たらないこと、我が国の同族会社においては、代表取締役が全額出資しているにもかかわらず、出資者を家族や知人の名義としている場合も少なくないこと、Cが死亡するまでに増資や出資持分の譲渡が行われた形跡もないことからすれば、Cが死亡する直前の本件滞納会社の出資者は、Cのみであったと認めるのが相当である。
 また、Cが死亡した後、本件滞納会社が解散した平成15年9月○日までの間に、増資又はCの出資持分が譲渡された形跡も窺われない。
 さらに、Dは、Cに係る相続等の手続を行っていないと答述しており、Cの出資持分について、遺贈や遺産分割が行われた形跡も窺われない。
 そうすると、本件滞納会社の解散時における出資者は、Cの相続人であるDと3人の子であり、それぞれが法定相続分の割合による本件滞納会社の出資持分を有していたものと認めるのが相当である。
(ロ) 前記1の(4)のハ並びに上記(1)のイ、同ロの(イ)、同ホ、同チ及び同リのとおり、本件滞納会社は、本件生命保険金を受領し、このうち、○○○○円はWに交付されたと認められるが、上記(1)のホの陳述書、上記(1)のチ及びリのWの申述からすれば、そのほとんどは、Wに対する本件滞納会社の債務の弁済並びに本件滞納会社のためのW及びWの母名義での借入金返済のために交付されたものと認めるのが相当であって、差額分についても、Wに対する贈与と評価する余地もあることからすれば、それがCの相続人に対する本件滞納会社の残余財産の分配に代えてWに交付されたものと直ちに評価することは困難である。
(ハ) 上記(1)のヌのとおり、Bは、Cからの本件滞納会社が取引先に対する支払に充てるための資金の借入れの申込みに応じ、貸付先は本件滞納会社又はCのいずれかは不明のまま、数回にわたって金員を貸し付け、請求人から○○○○円の交付を受けたことは認められるが、以上の認定事実によっては原処分庁主張の事実を推認するに足りず、他に原処分庁主張の事実を認めるに足りる証拠もない。
(ニ) 別表4のL口座及びX口座から出金された金額のうち使途不明となっているものについては、これらが本件滞納会社の出資者であるCの相続人に交付されたと認定できる事実はなく、C個人の債務の弁済に充てられたと認定できる事実もない。
(ホ) また、本件支払明細の中には、Dに対して平成15年10月6日に○○○○円を支払った旨の記載があるところ、上記(1)のニのとおり、同月16日付でe銀行f支店がDに対し発行した代位弁済証書に記載されている金額が○○○○円であり、同証書中に本件滞納会社に対する債権について代位弁済を受けた旨記載されていること、及び上記(1)のルの答述からすると、Dは、本件滞納会社から交付を受けた○○○○円を本件滞納会社の債務○○○○円の弁済に充てたものと認められ、その差額についても、滞納会社の債務の弁済のために要する交通費等を支弁するためのものであると評価することも可能であることからすれば、Dが本件滞納会社の残余財産から○○○○円の分配を受けたと認めることはできない。
 さらに、上記(イ)のとおり、Cの死亡後、Cの本件滞納会社に対する出資について、遺贈や遺産分割が行われた形跡は窺われないことからすると、Cの死亡によりCの本件滞納会社に対する出資は、法定相続分によりD及び3人の子が相続したものと認められるところ、上記(1)のルのDの答述からも、本件支払明細に記載されている平成15年10月6日のDに対する○○○○円の支払以外に、Cの相続人が本件滞納会社から何らかの財産を取得した事実も窺われない。
(ヘ) そうすると、請求人が本件滞納会社の社員に対して本件滞納会社の残余財産の分配等を行ったと認めることはできないのであるから、本件納付告知処分は、その全部を取り消すべきである。
ロ これに対し、原処分庁は、Wに対する○○○○円の支払、Bに対する○○○○円の支払、Yに対する○○○○円の支払及びZに対する○○○○円の支払は、滞納会社の債務の弁済ではなく、Cの死亡によりCの出資持分を承継した相続人のために、C個人の債務を弁済したことにほかならず、また、使途が明らかでないものを含めた○○○○円が残余財産の分配等に当たると主張する。
 しかしながら、原処分庁の主張する各支払がC個人の債務の弁済として行われたものであることを裏付ける証拠はなく、当審判所の調査によってもこれを認めることはできない。
 したがって、原処分庁の主張には理由がない。

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