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(平20.10.27、裁決事例集No.76 521頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、納税者H社(以下「本件滞納法人」という。)が審査請求人(以下「請求人」という。)に対して国税徴収法(以下「徴収法」という。)第39条《無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務》に規定する無償又は著しく低い額の対価による譲渡、債務の免除その他第三者に利益を与える処分(以下「無償譲渡等の処分」という。)をしたとして、原処分を行ったのに対し、請求人が、その手続の違法及び無償譲渡等の処分に該当する事実の不存在を理由として、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、本件滞納法人が納付すべき別表記載の滞納国税(以下「本件滞納国税」という。)を徴収するため、本件滞納法人が請求人に対して徴収法第39条に規定する無償譲渡等の処分をしたとして、請求人に対し、同法第32条《第二次納税義務の通則》第1項の規定に基づき、平成18年11月6日付の納付通知書(以下「本件納付通知書」という。)により、その限度の額を○○○○円とする第二次納税義務の納付告知処分(以下「本件納付告知処分」という。)をした。
ロ 請求人は、本件納付告知処分を不服として、平成18年12月28日に審査請求をした。

(3) 基礎事実

イ 請求人は、貸金業を主たる業とする法人であり、本件滞納法人は、請求人との間の契約(以下「本件契約」という。)及び請求人の顧客との間の保証委託契約(以下「本件保証委託契約」という。)に基づき、請求人の顧客の請求人に対する借入金債務について、保証していた。
 なお、請求人は、平成18年11月○日に株主総会の決議により解散し、請求人の商業登記簿には、同日付で解散登記がされている。
ロ 本件滞納法人は、平成14年4月○日に解散したことにより、本件滞納法人が業務を廃止した場合においては、廃止日現在における累計保証料はすべて請求人が収受するものとする旨の本件契約第9条の定めに基づき、請求人に対し、信用保証料の累計保証料相当額である○○○○円(以下「本件累計保証料相当額」という。)の支払債務(以下「本件債務」という。)を負担した。
ハ 本件滞納法人と請求人は、平成14年5月1日、本件債務と本件滞納法人の請求人に対する貸付金○○○○円(以下「本件貸付金」という。)を相殺する旨の債務和解契約を締結した(以下、この債務和解契約に基づく本件債務と本件貸付金との相殺を「本件相殺」という。)。
ニ 原処分庁は、請求人に対して平成14年10月7日付の債権差押通知書を送付し、本件貸付金の返還請求権についての差押処分(以下「本件差押処分」という。)を行った。
ホ 原処分庁は、本件相殺により、請求人は本件滞納法人から本件債務の履行を受けたといえるところ、そこに対価性が認められないから、請求人が本件累計保証料相当額を受け入れたことは徴収法第39条に規定する無償譲渡等の処分に該当するとして、請求人に対し、平成18年11月6日付で本件納付告知処分を行った。

(4) 関係法令の要旨

 関係法令の要旨は、別紙1のとおりである。

(5) 争点

争点1 本件納付告知処分の手続に違法があるか否か。

争点2 請求人が本件累計保証料相当額を受け入れたことが、徴収法第39条に規定する無償譲渡等の処分に該当するか否か。

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2 主張

 当事者の主張は、別紙2のとおりである。

3 判断

(1) 争点1について

イ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、原処分庁は、1本件滞納国税の納税者である本件滞納法人の名称及び住所、2本件滞納国税の年度、税目、納期限及び金額、3本件滞納国税の金額のうち請求人から徴収しようとする金額並びにその納付の期限及び場所、4請求人につき適用すべき第二次納税義務に関する規定を記載した本件納付通知書を請求人に送付して、本件納付告知処分を行った事実が認められる。
ロ 法令解釈
 徴収法第32条第1項は、「税務署長は、納税者の国税を第二次納税義務者から徴収しようとするときは、その者に対し、政令で定めるところにより、徴収しようとする金額、納付の期限その他必要な事項を記載した納付通知書により告知しなければならない。」と規定し、国税徴収法施行令第11条《第二次納税義務者に対する納付通知書等の記載事項》第1項は、「徴収法第32条第1項に規定する納付通知書には、1納税者の氏名及び住所又は居所、2滞納に係る国税の年度、税目、納期限及び金額、3滞納に係る国税の金額のうち第二次納税義務者から徴収しようとする金額並びにその納付の期限及び場所、4その者につき適用すべき第二次納税義務に関する規定を記載しなければならない。」と規定するにとどまるのであって、第二次納税義務の納付告知処分の理由を記載すべきことを定めた明文の規定は存在しない。なお、納税者が法人である場合の納税者の氏名とは、当該法人の名称をいうものと解される(国税徴収法施行令第6条《担保権付財産が譲渡された場合の国税の徴収手続等》第1項第1号かっこ書参照)。
 また、徴収法の定める第二次納税義務は、納付すべき税額が確定した主たる納税義務につき、本来の納税者の財産に対して滞納処分を執行してもなお徴収すべき額に不足すると認められる場合に、本来の納税者と同一の納税上の責任を負わせても公平を失しないような特別の関係にある第三者に対し、主たる納税義務についての履行責任を補充的に負わせるものであり、同法第33条《無限責任社員の第二次納税義務》ないし第41条《人格のない社団等に係る第二次納税義務》において、それぞれの第二次納税義務の要件を規定していることからすれば、国税徴収法施行令第11条に規定する事項が納付通知書に記載されていれば、第二次納税義務者は第二次納税義務の納付告知処分の理由を理解できるものと考えられる。
 したがって、国税徴収法施行令第11条が規定する事項以外に、第二次納税義務の納付告知処分の理由が納付通知書に記載されていないとしても、そのことをもって理由不備の違法があるということはできないと解される。
ハ これを本件についてみると、次のとおりである。
 上記ロのとおり、国税徴収法施行令第11条第1項は、「徴収法第32条第1項に規定する納付通知書には、1納税者の氏名及び住所又は居所、2滞納に係る国税の年度、税目、納期限及び金額、3滞納に係る国税の金額のうち第二次納税義務者から徴収しようとする金額並びにその納付の期限及び場所、4その者につき適用すべき第二次納税義務に関する規定を記載しなければならない。」と規定するにとどまり、第二次納税義務の納付告知処分の理由を納付通知書に記載すべきことを定めた明文の規定は存在しないところ、原処分庁が請求人に対して送付した本件納付通知書には上記イのとおり、同項に規定する事項がすべて記載されているのであるから、本件納付告知処分の手続は適法に行われている。
ニ これに対し、請求人は、本件納付通知書には、どの事実が徴収法第39条に該当するのか記載がないため不服申立てができず、教示したことにはならないので、本件納付通知書には瑕疵があり違法である旨主張する。
 しかしながら、上記ロのとおり、第二次納税義務の納付通知書に記載すべき事項を定める国税徴収法施行令第11条第1項は、1納税者の氏名及び住所又は居所、2滞納に係る国税の年度、税目、納期限及び金額、3滞納に係る国税の金額のうち第二次納税義務者から徴収しようとする金額並びにその納付の期限及び場所、4その者につき適用すべき第二次納税義務に関する規定を記載すべきことを規定するにとどまり、どの事実が徴収法第39条に該当するかなどの第二次納税義務の納付告知処分の理由を納付通知書に記載すべきことを定めた明文の規定は存在せず、第二次納税義務者が本来の納税者と同一の納税上の責任を負わせても公平を失しないような特別の関係にある者であることからすれば、納付通知書に適用すべき第二次納税義務に関する規定の記載があればどの事実が徴収法第39条の無償譲渡等の処分に該当するかを理解することができると考えられるのであるから、その点についての記載がないとしても、そのことをもって本件納付告知処分が違法であるということはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ホ また、請求人は、本件納付通知書の送付に当たり、原処分庁が請求人に対して本件滞納法人との取引等について資料提出を求め、その後何の連絡及び説明もなく、一方的に本件納付通知書を送付しているのは、信義誠実の原則に反すると主張する。
 しかしながら、第二次納税義務の納付告知処分を行うに際し、事前に被告知者に対してその旨の連絡や説明をすべきことを定めた法令上の規定はない上、租税法律関係における信義誠実の原則の法理の適用については、少なくとも、1原処分庁が請求人に対し信頼の対象となる公的見解を表示したこと、2請求人がその公的見解の表示を信頼しその信頼に基づいて行動したこと、3公的見解の表示後にこれに反する処分等が行われ、請求人が経済的不利益を受けたこと、4請求人が公的見解の表示を信頼して行動したことについて請求人の責めに帰すべき理由がないことの考慮が不可欠であると解されるところ、本件においては、原処分庁が請求人に対して本件納付告知処分をしない旨の見解を表示した事実を認めることができないなど、上記1ないし4の事実をいずれも認めることができないから、本件納付告知処分が信義誠実の原則に反するということはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

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(2) 争点2について

イ 認定事実
 原処分関係資料、請求人提出資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件契約の内容を証するために請求人と本件滞納法人の名義で作成された平成11年7月1日付、平成13年8月28日付及び同年11月28日付の「信用保証契約書」のうち、平成11年7月1日付及び平成13年8月28日付の「信用保証契約書」には、要旨次の事項が記載されている。
A 第1条(信用保証の範囲)
(A) 本件滞納法人は、請求人の債権内容について承認した債権に限り、信用保証を履行する。
(B) 本件滞納法人は、請求人の債権の中で期間分の保証料及び登録事務手数料を受領している債権に限り、信用保証を履行する。
B 第3条(信用保証料)
(A) 本件保証委託契約に関し、債務者が支払うべき保証料の割合は、債務額の○%以内とし、本契約の際、本件滞納法人と請求人が協議の上決定する。
(B) 保証料は、本件滞納法人の委託により請求人が債務者より収受し、本件滞納法人の指定する口座に振り込むものとする。
(C) 保証料のうち、○%については、本件滞納法人の事務経費として滞納法人が収受するものとし、○%を保証債務履行等のための原資として銀行に預け入れ保管する。
C 第9条(業務の廃止)
 請求人が業務を廃止した場合においては、廃止日現在における累計保証料を本件滞納法人と請求人がそれぞれ50%ずつ収受するものとし、本件滞納法人が業務を廃止した場合においては、廃止日現在における累計保証料は、すべて請求人が収受するものとする。
(ロ) 請求人と本件滞納法人の名義で作成された平成13年11月28日付の「信用保証契約書」には、第3条(信用保証料)として、要旨次のとおり記載されている。
A 本件保証委託契約に関し、債務者が支払うべき保証料の割合は、債務額の○%以内とし、本契約の際、本件滞納法人と請求人が協議の上決定する。
B 保証料は、債務者が本件滞納法人の指定する口座に振り込むものとする。
C 保証料のうち、○%については、本件滞納法人の事務経費として本件滞納法人が収受するものとし、○%を保証債務履行等のための原資として本件滞納法人は善良なる管理者の注意義務をもって保管・管理する。
 なお、同契約書第1条及び第9条には、請求人と本件滞納法人の名義で作成された平成11年7月1日付及び平成13年8月28日付の「信用保証契約書」の第1条及び第9条と同様の記載がある。
(ハ) 本件保証委託契約においては、信用保証は、本件滞納法人と請求人との間の約定に基づいて行われ、請求人の顧客は本件保証委託契約の締結時に保証料と登録事務手数料を本件滞納法人に支払うこととされている。
(ニ) 請求人が提出した、請求人及び本件滞納法人の名義で作成された平成14年5月1日付の「債務和解契約書」には、本件貸付金及びその支払方法について、要旨次の内容により和解が成立した旨記載されている。
 なお、同契約書における「累積保証料」及び「預り保証金」とは、本件契約第9条の「累計保証料」のことをいうものと解される。
 平成14年4月現在、本件滞納法人には請求人の預り保証金残高が○○○○円ある。平成14年4月、本件滞納法人の事業廃止に伴い本件契約(第9条業務の廃止)に基づき累積保証料はすべて請求人が収受するところ、現金がないため請求人に対する本件貸付金と相殺する。
(ホ) 請求人が提出した、平成19年11月26日付の「平成19年11月7日付○審第○号に対する回答」と題する文書には、要旨次のとおり、当審判所の質問に対する請求人の回答が記載されている。
A 請求人及び本件滞納法人の名義で作成された平成13年8月28日付の「信用保証契約書」における信用保証料等の割合と同年11月28日付の「信用保証契約書」における信用保証料等の割合が異なっている理由について
 信用保証料は、当初、貸付金額の○%で運用していたが、代位弁済が増えたため、信用保証料を貸付金額の○%に増加したことにより本件滞納法人の事務経費は○%で賄えると判断した。
 そのため、保証債務履行のための原資として、保証料のうち、その○%の金額を本件滞納法人が保管することとした。
B 本件滞納法人が信用保証すべきであった融資額に対して、請求人に発生した損害の状況について
 本件滞納法人と契約していた融資先の保証については、本件滞納法人が解散した後は請求人が引き受けなければならなくなった。
 しかし、当方は、融資先に対して請求する事務量を確保できず、貸倒れ状態のまま放置された状態であった。
C 本件滞納法人が保証すべきであった請求人の融資額についての新たな信用保証の有無について
 新たに契約した信用保証会社による信用保証の引受けはない。
(ヘ) 請求人が提出した、平成20年3月31日付の「平成20年2月7日付○審第○号に対する回答」と題する文書には、平成11年4月1日から平成12年3月31日までの事業年度(以下、請求人の各事業年度について、順次「平成12年3月期」のようにいう。)、平成13年3月期、平成14年3月期及び平成15年3月期において、請求人の貸付金が貸倒れとなった場合の経理処理、並びに、当該各期において、貸倒金について信用保証会社から債務保証を受けた場合の経理処理についての当審判所からの質問に対し、要旨次のとおり、請求人の回答が記載されている。
 貸付金が貸倒れとなった場合の経理処理については、平成14年3月期までは、いったん貸倒損失とした上で、信用保証会社から保証債務の履行として入金があったときに雑収入として処理していた。

(仕訳)
 貸倒れ発生時
 信用保証会社からの入金時

(借方)
 貸倒損失 /
 普通預金 /

(貸方)
 貸付金
 雑収入

 平成14年4月以降は、信用保証会社から入金があったときに貸付金を減算処理していた。

(仕訳)
 信用保証会社からの入金時

(借方)
 普通預金 /

(貸方)
 貸付金

(ト) 請求人がJ税務署長に提出した、平成15年3月期の法人税の確定申告書に添付された損益計算書には、貸倒損失の額が○○○○円である旨記載されている。
(チ) 請求人の代表清算人であるMは、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。
A 請求人は、本件滞納法人から借入れを行っていた。平成14年10月7日現在の元帳の借入金残高は○○○○円であった。
B 請求人は、請求人の顧客が本件滞納法人の信用保証を受けることを条件として融資を行うため、本件滞納法人を保証委託先とし、当該顧客は、融資額の○%又は○%を保証料として本件滞納法人に支払うこととする本件保証委託契約を本件滞納法人との間で交わしていた。
C 本件保証委託契約に係る期間は、当該顧客の請求人への返済期間が100日から120日間であったので、保証期間もそれと同じである。
D 本件滞納法人の業務廃止に伴い請求人が収受すべき累計保証料の額は、平成14年4月末現在の本件滞納法人の試算表における貸借対照表により確認し、○○○○円を累計保証料の額として経理したと記憶している。
E 本件相殺が行われた時期は、債務和解契約の時であるが、会計処理は、事業年度末の平成15年3月末の決算修正により行っている。
F 本件滞納法人が解散した後は、K社及びL社が請求人の貸金債権の信用保証をしていた。
G 本件契約第9条で、本件滞納法人が廃業した場合に累計保証料の全額を請求人が収受することとしたのは、本件滞納法人の都合によって廃業した場合には、請求人には貸金残高の保証がないことになり、損失が生じるおそれがあるため、それを防ぐために設けたものである。
(リ) 請求人は、平成15年3月31日に次の経理処理を行い、本件累計保証料相当額を雑収入(益金)として受け入れ、本件滞納法人からの長期借入金と相殺した。

(仕訳)

(借方)
 長期借入金
 未収金


○○○○円 /
○○○○円

(貸方)
 雑収入 ○○○○円

ロ 法令解釈
 徴収法第39条の第二次納税義務の制度は、租税負担の公平及び租税徴収確保の観点から、納税者の国税につき滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合において、その不足すると認められることが、当該国税の法定納期限の1年前の日以後に、納税者がその財産につき行った無償譲渡等の処分に基因すると認められるときに、当該無償譲渡等の処分によって形式的には第三者に財産が帰属している場合であっても、実質的には納税者にその財産が帰属していると認めて、その無償譲渡等の処分により利益を受けた者に対し、その無償譲渡等の処分により受けた利益の限度で補充的に当該国税についての履行責任を負わせる制度であると解される。
 そして、このような第二次納税義務の制度の趣旨にかんがみれば、徴収法第39条にいう無償譲渡等の処分とは、広く第三者に利益を与える行為をいい、第三者に利益を与える行為である限り、その態様に制限はないと解するのが相当である。
ハ これを本件についてみると、次のとおりである。
(イ) 本件契約第9条の定めについて
 上記イの(イ)、同(ロ)、同(ホ)のA及び同(チ)のGのとおり、請求人と本件滞納法人との間では、本件滞納法人は、請求人の顧客の請求人に対する借入金債務について保証し、請求人の顧客から保証料として貸付金額の○%又は○%を収受した上で、その保証料の○%又は○%を保証債務履行等のために保管することとされ、本件滞納法人が業務を廃止した場合には、請求人の顧客に対する貸金債権についての保証がなくなり、請求人に損失が生じるおそれがあることから、本件滞納法人の業務廃止日現在における累計保証料相当額の金員を請求人が収受することとされていた。
 これは、本件滞納法人が業務を廃止したときは、本件滞納法人による保証債務が履行されないこととなり、請求人に損失が生じることとなる一方、本件滞納法人としては、保証していた請求人の貸金債権の履行期限が到来するまで業務を廃止できないのであれば、円滑に業務廃止の手続を進めることができなくなることから、本件滞納法人の業務廃止後における損害賠償債務又は保証債務の履行に代えて、本件滞納法人が累計保証料相当額の金員を請求人に交付することとし、その後の清算を要しないこととしたものと認められる。
 したがって、本件債務は、本件滞納法人の業務廃止後における損害賠償債務又は保証債務の履行に代えて、本件滞納法人が請求人に対して負う累計保証料相当額の金銭債務であると解される。
(ロ) 本件債務の履行が無償譲渡等の処分に該当するか否かについて
 上記(イ)のとおり、本件債務は、本件滞納法人の業務廃止後における損害賠償債務又は保証債務の履行に代えて、本件滞納法人が請求人に対して負う金銭債務であると解されるのであるから、本件債務の履行により本件滞納法人の業務廃止後における損害賠償債務又は保証債務が消滅することになる。
 したがって、本件債務が履行されたことによって、直ちに徴収法第39条にいう無償譲渡等の処分があったということはできない。
 しかしながら、上記ロのとおり、徴収法第39条にいう無償譲渡等の処分が広く第三者に利益を与える行為をいうものと解されることからすれば、本件滞納法人の業務廃止後における損害賠償債務又は保証債務の履行に代えて、本件滞納法人が請求人に対して支払うべきものとして必要な範囲を超えて本件債務が履行された場合には、同条の無償譲渡等の処分があったと解するのが相当である。
 そして、その必要な範囲は、本件滞納法人の業務廃止時における請求人の貸金残高に予想される貸倒率を乗じて算出される額とするのが相当である。もっとも、本件滞納法人の業務廃止に伴って請求人に生じた貸倒れの額が具体的に明らかである場合は、その額までの部分がその必要な範囲と認めることが相当である。
 したがって、本件滞納法人の業務廃止時における請求人の貸金残高に予想される貸倒率を乗じて算出される額、あるいは、本件滞納法人の業務廃止に伴って請求人に生じた貸倒れの額を超えて本件債務が履行されたときは、その超える部分が無償譲渡等の処分に該当すると認めることが相当である。
(ハ) 本件における無償譲渡等の処分の有無について
 これを本件についてみると、1上記イの(ヘ)のとおり、請求人は、平成14年4月以降は、貸倒れとなった貸金債権については、信用保証会社からの保証債務の履行として入金があったときに貸付金を減算処理していること、2同(チ)のCのとおり、本件滞納法人が信用保証していた請求人の貸金債権の返済期間が100日から120日間であり、本件滞納法人の保証期間もそれと同じであること、3同(チ)のFのとおり、本件滞納法人が解散した後は、K社とL社が請求人の新たな貸金債権の信用保証をしていたが、同(ホ)のCのとおり、本件滞納法人が保証すべきであった請求人の貸金債権についての保証債務の引受けはされていないこと、4同(ト)のとおり、請求人の平成15年3月期における貸倒損失の額が○○○○円であることからすれば、請求人の平成15年3月期における貸倒損失の額として計上されている○○○○円が、本件滞納法人の業務廃止によって本件滞納法人から保証債務の履行を受けることができなかったことによる損害又は損失の金額と認められる。
 そうすると、本件債務のうち、この金額を超えて履行された部分は、徴収法第39条の無償譲渡等の処分によるものであるというべきである。
 そして、請求人は本件累計保証料相当額について本件滞納法人から現実に金員の交付を受けたわけではないが、本件相殺により本件滞納法人に対する請求人の借入金債務○○○○円が消滅しているのであるから、同額について請求人が本件債務の履行を受けたのと同視でき、請求人は、本件債務のうち、本件相殺によって本件債務の履行を受けたのと同視できる○○○○円から請求人の平成15年3月期における貸倒損失の額○○○○円を控除した額○○○○円の部分について、本件滞納法人から無償譲渡等の処分により利益を受けたというべきである。
 したがって、この額を超える部分についての本件納付告知処分は、取り消されるべきである。
(ニ) これに対し、原処分庁は、本件滞納法人が本件債務を負担したことには対価性がない旨主張する。
 しかしながら、上記(イ)のとおり、本件契約第9条の定めは、本件滞納法人の業務廃止後における損害賠償債務又は保証債務の履行に代えて、本件滞納法人が本件累計保証料相当額の金員を請求人に交付することを定めたものと解されるのであって、当該金員の交付により本件滞納法人の損害賠償債務又は保証債務が消滅するのであるから、その消滅する損害賠償債務又は保証債務が本件債務の履行の対価であるというべきである。
 したがって、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。
(ホ) また、請求人は、本件契約第9条の定めは、本件滞納法人が業務を廃止した場合に、本件滞納法人が保証していた請求人の貸金債権についての信用保証業務を引き継ぐ旨の規定であるから、請求人が本件累計保証料相当額を受け入れたことは徴収法第39条の無償譲渡等の処分に当たらない旨主張し、上記イの(ホ)のBのとおり、請求人が当審判所に提出した平成19年11月26日付の「平成19年11月7日付○審第○号に対する回答」と題する文書にも、本件滞納法人と契約していた融資先の保証については、本件滞納法人が解散した後は請求人が引き受けなければならなくなった旨の回答が記載されている。
 しかしながら、上記イの(イ)ないし(ハ)において認定した事実からすれば、請求人の顧客が支払う保証料は本件滞納法人に帰属するものであり、また、請求人の主張が、本件滞納法人が業務を廃止した後は、請求人が自己の債権について自らが保証するというのであれば、民法第520条に規定する混同によって保証債務は消滅するのであるから、そのように解することはできず、本件契約第9条の定めは、上記(イ)のとおり、本件滞納法人の業務廃止後における損害賠償債務又は保証債務の履行に代えて、本件滞納法人が本件累計保証料相当額の金員を請求人に交付することを定めたものと解するのが相当であって、上記(ロ)のとおり、損害賠償債務又は保証債務の履行に代えて、請求人に対して支払われるべき必要な範囲を超える部分は徴収法第39条の無償譲渡等の処分に該当するというべきであるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
 さらに、請求人は、本件相殺により消滅した本件貸付金について、本件差押処分を解除しないまま本件納付告知処分をしたことが違法である旨主張するが、差押えの解除とは、法定の要件が備わったときに、滞納処分庁が適法・有効であった差押えを解除時点から将来に向けてその効力を失わせるものであるところ、本件貸付金は本件相殺により本件差押処分が行われる前に消滅していたのであり、結局、本件差押処分は効力を生じなかったのであるから、原処分庁が差押えの解除を行う必要はない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

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(3) 上記(1)のとおり、本件納付告知処分の手続は適法と認められ、本件納付通知書にどの事実が徴収法第39条の無償譲渡等の処分に該当するかが記載されていないとしても、そのことをもって本件納付告知処分が違法であるということはできず、原処分庁が請求人に対して本件納付告知処分前に連絡や説明をすることなく本件納付告知処分を行ったとしても、そのことをもって本件納付告知処分が違法であるということもできない。
 そして、上記(2)のとおり、本件滞納国税の法定納期限の1年前の日以後に本件滞納法人が負担した本件債務のうち、必要な範囲を超えて履行されたと同視できる部分は徴収法第39条の無償譲渡等の処分によるものであり、その範囲は○○○○円と認めるのが相当である。
 そうすると、本件納付告知処分は、請求人が納付すべき金額の限度を○○○○円とする範囲で適法であるが、これを超える部分については、取り消されるべきである。

(4) 原処分のその他の部分について

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所の調査によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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