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(平20.12.3、裁決事例集No.76 555頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、不動産賃貸業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、国税を滞納している賃借人から敷金及び建設協力金の返還義務の免除を受けたとして、原処分庁が、請求人に対し、国税徴収法第39条《無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務》に基づく第二次納税義務の納付告知処分をしたところ、請求人が、原処分庁の認定に誤りがあるとして、同処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、P市p町所在の納税者G社(以下「本件滞納法人」という。)の別表記載の滞納国税を徴収するため、平成19年11月1日付で請求人に対し、納付すべき金額の限度を○○○○円とする第二次納税義務の納付告知処分(以下「本件告知処分」という。)をした。
ロ 請求人は、平成19年12月18日、本件告知処分を不服として異議申立てをしたところ、異議審理庁が平成20年3月13日付で棄却の異議決定をしたため、異議決定を経た後の同処分に不服があるとして、同月26日に審査請求をした。

(3) 関係法令

 国税徴収法(以下「徴収法」という。)第39条は、滞納者の国税につき滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合において、その不足すると認められることが、当該国税の法定納期限の1年前の日以後に、滞納者がその財産につき行った政令で定める無償又は著しく低い額の対価による譲渡、債務の免除その他第三者に利益を与える処分(以下「無償譲渡等の処分」という。)に基因すると認められるときは、これらの処分により権利を取得し、又は義務を免れた者は、これらの処分により受けた利益が現に存する限度において、その滞納に係る国税の第二次納税義務を負う旨規定しており、国税徴収法施行令第14条《無償又は著しい低額の譲渡の範囲》は、徴収法第39条に規定する政令で定める処分は、国及び法人税法第2条《定義》第5号(公共法人の定義)に規定する法人以外の者に対する処分で無償又は著しく低い額の対価によるものとする旨規定している。

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(4) 基礎事実

イ 請求人と本件滞納法人との間の建物賃貸借契約について
 請求人は、H社を立会人として、平成12年12月20日に本件滞納法人との間で、要旨別紙1記載の内容の賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」といい、本件賃貸借契約に係る契約書を「本件賃貸借契約書」という。)を締結するとともに、同契約第4条の(1)及び(2)の定めに基づき、本件滞納法人から本件敷金○○○○円及び本件建設協力金○○○○円を受領した。
ロ 本件建物等の工事代金等について
 請求人は、平成13年1月25日にH社の関連会社であるJ社との間で締結した本件建物等の建築工事代金を○○○○円とする工事請負契約に基づき本件建物等を建築し、同年4月27日に本件滞納法人に対する賃貸を開始した。
ハ 請求人の本件滞納法人に対する建物明渡し訴訟等の経緯について
(イ) 請求人は、平成14年12月○日、本件滞納法人が平成14年10月分以降の賃料を支払わないことから、本件建物等の明渡しと未払賃料及び賃料相当損害金(以下、未払賃料と併せて「未払賃料等」という。)の支払等を求めて、K地方裁判所に提訴し、同裁判所は、平成15年2月○日、請求人の請求をすべて認容する旨の判決をしたが、本件滞納法人が同判決を不服として控訴した。
(ロ) 上記(イ)の控訴審において、平成15年8月○日、請求人と本件滞納法人との間で、要旨以下の内容の裁判上の和解が成立した。
A 本件賃貸借契約は継続する。
B 本件滞納法人は、未払賃料を請求人に支払う。
C 平成15年9月分以降の賃料の支払が2か月以上滞った場合は、請求人は、催告なしに本件賃貸借契約を解除できる。
D 解除の意思表示があった場合は、本件滞納法人は本件建物等を明け渡す。
(ハ) 本件滞納法人は、請求人に対し、平成15年12月12日付の「解約(明渡し)通知書」と題する書面を送付した。なお、当該書面には、店舗閉鎖に伴い本件賃貸借契約を解除し、本件建物等を明け渡す旨記載されている。
(ニ) 請求人は、本件滞納法人が平成15年9月分以降の賃料を支払わないことから、平成16年3月○日、未払賃料等の支払及び本件建設協力金等の残額の返還義務がないことの確認などを求めて、K地方裁判所に提訴したところ、同裁判所は、平成17年1月○日、平成15年9月1日から本件建物等を明け渡した平成16年7月初めころまでの未払賃料等が○○○○円あるとして、本件滞納法人に対し、請求人に対する同額の支払を命じるとともに、請求人に本件建設協力金等の残額の返還義務がないことを確認する旨の判決(以下「本件判決」という。)を言い渡した。
ニ 請求人における本件建設協力金等の経理処理について
 請求人は、平成16年4月1日から平成17年3月31日までの事業年度(以下「平成17年3月期」という。)において、本件敷金○○○○円と未収賃料○○○○円との差額○○○○円及び本件建設協力金の残額○○○○円の合計○○○○円を、雑収入に計上した。

(5) 争点

イ 争点1 本件建設協力金等の返還義務の消滅により請求人が徴収法第39条に規定する第二次納税義務を負うか否か。
ロ 争点2 本件告知処分の手続に違法があるか否か。

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2 主張及び判断

(1) 争点1について

イ 双方の主張
 別紙2のとおりである。
ロ 判断
(イ) 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
A 未払賃料
 前記1の(4)のハの(ニ)のとおり、本件判決が、未払賃料等が○○○○円あると認定していること、本件滞納法人が本件判決の裁判における口頭弁論終結後に未払賃料を支払った事実がうかがわれないこと、同ニのとおり、請求人は、平成17年3月期において、本件敷金○○○○円と未収賃料○○○○円の差額 ○○○○円を雑収入として計上していることからすれば、少なくとも○○○○円の未払賃料が本件敷金から控除されたと認めるのが相当である。
B 本件建物等の明渡し費用
 請求人は、本件建物等の明渡し費用として、平成16年6月29日にかぎの取替費用○○○○円、同年7月5日に残材処分費○○○○円、合計○○○○円を支払っている。
C 請求人の代表取締役であるL(以下「請求人代表者」という。)は、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。
(A) 本件賃貸借契約の話があった際、当初は何度も断ったが、H社から、1賃借人である本件滞納法人からの本件建設協力金を基に、請求人名義で、本件建物等を建築することから借地権が生じないこと、また、2本件建設協力金も、賃貸借期間で本件滞納法人から支払われる賃料と相殺し、実質的に負担が生じないとの説明を聞き、当該契約を締結する気になった。契約締結の際にもその内容に間違いないことを確認してから署名・押印をした。
 なお、本件条項については、請求人から提案したものではない。
(B) 本件建設協力金の額は、本件滞納法人とJ社との間で決定した本件建物等の建築工事代金の額により自動的に決まるものであり、請求人は、本件建設協力金の額の決定に一切かかわっていない。
(C) 本件賃貸借契約解約後の平成16年7月22日に、M社の仲介でN社と本件新賃貸借契約を締結したが、当該契約に本件滞納法人は一切かかわっていない。
D H社の代表取締役Rは、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。
(A) 本件滞納法人から本社兼店舗の建設用地がないかとの相談を受け、本件土地を候補用地として提案し、本件賃貸借契約を仲介することとなった。
(B) 本件土地の所有者である請求人代表者と交渉したところ、当初、請求人代表者は難色を示したが、当社から、本件建物等の建築資金を本件建設協力金として提供するとともに、請求人名義で本件建物等を建築するという条件を説明したところ、ようやく承諾を得ることができたので、双方に本件賃貸借契約書の内容を示し、本件賃貸借契約が締結された。
(C) 本件建物等は、本件滞納法人の希望する仕様で建築するため、その設計や建築工事代金に係る検討については、本件滞納法人とJ社で行われており、請求人はかかわっていない。また、本件建物等の建築資金を本件建設協力金として提供し、その返済も本件賃貸借契約の期間内で賃料の一部と相殺するため、請求人には実害はないことから、請求人は本件建物等の建築にもかかわっていない。
(D) 本件条項は、賃借人である本件滞納法人の事情で本件賃貸借契約が中途解約されると、賃貸人である請求人に、本件建設協力金等の残額の返還義務が生ずるとともに、残りの賃貸借契約期間中の賃料収入が見込めなくなるほか、本件建物等の仕様が、本件滞納法人向けの特殊な仕様であり、そのまま利用できるようなものではないことなど、請求人に大きな損害が発生すると考えられたため、それらを回避するために設けられたものである。
(E) 本件新賃貸借契約の締結には、一切かかわっていない。
E N社が経営するS店に勤務するTは、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。
(A) 本件建物等を中古車販売店舗用に利用するため、M社に仲介を依頼した。
(B) 本件滞納法人のことは知らない。
F M社の元従業員のUは、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。
(A) 請求人代表者から本件建物等の入居者を募集してほしい旨の依頼を受けたので、請求人代表者にN社を紹介し、本件新賃貸借契約の締結の仲介をした。
(B) 本件滞納法人と営業上の取引はない。
(ロ) 法令等解釈
A 建物賃貸借における敷金とは、賃貸借存続中の賃料債権のみならず、賃貸借終了後建物明渡義務履行までに生ずる賃料相当損害金債権その他賃貸借契約により賃貸人が賃借人に対して取得する一切の債権を担保し、賃貸借終了後、建物明渡しがなされたときにおいて、それまでに生じた上記の一切の被担保債権を控除しなお残額があることを条件として、その残額につき敷金の返還請求権が発生するものと解されている。
B 徴収法第39条の第二次納税義務は、納税者が納付すべき国税の法定納期限の1年前の日以後に、その財産について無償譲渡等の処分を行ったため、その納税者の財産に対して滞納処分を執行してもなお徴収すべき額に不足すると認められる場合に、当該無償譲渡等の処分により権利を取得し、又は義務を免れた者に対して、当該国税の納税義務を補充的に負わせることによって、当該国税の徴収確保を図ろうとする制度である。
 そして、このような第二次納税義務の制度の趣旨にかんがみれば、徴収法第39条にいう無償譲渡等の処分とは、経済的合理性を欠き広く第三者に不相当な利益を与える処分をいい、その態様に制限はないと解するのが相当である一方、その行為が経済的合理性を欠き第三者に対して一方的に不相当な利益を与えるものでない限り、同条にいう無償譲渡等の処分に該当しないと解するのが相当である。
(ハ) 本件敷金について
 本件賃貸借契約においては、本件条項で、本件滞納法人の都合により本件賃貸借契約を中途解約する場合は、本件滞納法人が本件敷金の残額の返還請求権を放棄する旨定められているが、建物賃貸借における敷金については上記(ロ)のAのとおりであるところ、上記(イ)のAのとおり、本件敷金から未払賃料○○○○円が控除されたと認められ、同Bのとおり、請求人は明渡し費用として合計○○○○円を支払っているのであるから、本件敷金から上記未払賃料を控除した残額から更に明渡し費用を控除すると、本件敷金の残額の返還請求権は発生しなかったと認められる。
 したがって、本件敷金の残額の返還請求権について、徴収法第39条にいう無償譲渡等の処分があったと認めることはできない。
(ニ) 本件建設協力金について
 本件賃貸借契約は、本件建設協力金を本件建物等の建築資金として、請求人が本件滞納法人の仕様に従って建築した本件建物等を本件滞納法人に15年間賃貸する契約であり、本件建設協力金は、本件建物等の賃貸借期間と同じ15年間にわたり、毎月の賃料のうちの一定額と相殺される方法により返済されることとなっている。このように、本件建物等が本件滞納法人の仕様に従って建築されたものであることからすれば、本件建物等がはん用性を有するとはいえないから、仮に、本件滞納法人の都合によって本件賃貸借契約が中途解約された場合、直ちに新たな賃借人との間で本件賃貸借契約と同一条件以上の条件で賃貸借契約を締結することは通常困難であると考えられ、場合によっては、本件建物等の取壊しも余儀なくされることも考えられる。そうすると、本件滞納法人の都合によって本件賃貸借契約が中途解約された場合には、請求人に、中途解約後の賃貸借期間の賃料収入と同額の損失が生じるとともに、本件建物等の取壊し費用相当額の損失が生じることも想定され、この場合に本件建設協力金の残額を返還しなければならないとすると、実質的に、請求人がその残額と同額の建築資金を負担して本件建物等を建築したものの、その投資に見合う収入を確保できないまま利用価値のない本件建物等が残るだけとなり、請求人に多額の損失が生じることとなる。
 本件条項は、このようなことを考慮し、本件滞納法人の都合によって本件賃貸借契約が中途解約された場合、本件滞納法人が本件賃貸借契約と同一条件以上の条件で本件建物等を賃借する次の賃借人をあっせんし、新たな賃貸借契約が締結された場合でない限り、本件滞納法人が本件建設協力金の残額の返還請求権を放棄し、その後請求人に生じた損害の多寡を問わず精算しないこととしたものと解される。
 したがって、本件賃貸借契約の中途解約時における本件建設協力金の残額の返還請求権の放棄は、本件賃貸借契約の中途解約によって請求人に生じることが予想される損害の賠償に代えて行われる違約金債務の弁済と同視することができる。
 そして、本件建設協力金の金額は、前記1の(4)のロのとおり、消費税等相当額を除いた本件建物等の建築工事代金以下であり、不相当に高額であるとはいえないこと、また、本件建設協力金の返済期間は、本件建物等の賃貸借期間と同期間であるから、不相当に長期間であるともいえないことからすれば、本件賃貸借契約の中途解約時における本件建設協力金の残額の返還請求権の放棄が、請求人に対して一方的に不相当な利益を与えるものであるということはできない。
 以上のとおり、本件滞納法人の都合による本件賃貸借契約の中途解約に伴う本件建設協力金の残額の返還請求権の放棄は、本件滞納法人の請求人に対する違約金債務の弁済と同視することができ、請求人に対して一方的に不相当な利益を与えるものであるということができないのであるから、徴収法第39条にいう無償譲渡等の処分に当たるということはできない。
(ホ) これに対し、原処分庁は、別紙2の「原処分庁」欄のとおり、本件条項は請求人に極めて有利な内容であり、本件賃貸借契約の中途解約に伴う請求人の損害は本件敷金で足り、本件条項どおり本件賃貸借契約の中途解約時における本件建設協力金の残額の返還請求権の放棄が許されるならば、請求人は本件建設協力金の残額の返還義務を免れ、かつ、本件建物等の完全な所有権を取得し、かつ、新たな賃借人から賃料を収受することができるから、本件条項は不合理であるなどと主張する。
 しかしながら、上記(ニ)のとおり、本件条項は、本件賃貸借契約の中途解約により請求人に生ずると予想される損害の賠償に代えて、そのときにおける本件建設協力金の残額の返還請求権を本件滞納法人が放棄することとしたものと解され、それが請求人に対して一方的に不相当な利益を与えるものであるということはできないから、本件条項が不合理であるということはできない。
 したがって、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。
 また、本件滞納法人の都合による本件賃貸借契約の中途解約後に、請求人がN社との間で本件新賃貸借契約を締結しているとしても、本件滞納法人の都合による本件賃貸借契約の中途解約という事実が発生したことによって本件条項の効力が生じ、その後の事情によって本件条項の有効性や合理性が左右されることはないと解するのが相当であるとともに、本件新賃貸借契約の締結は、請求人の努力によるもので、N社の支払う賃料相当額について本件滞納法人が請求人に利益を与えたものということもできないから、この点をもって徴収法第39条にいう無償譲渡等の処分があったということもできない。

(2) したがって、本件建設協力金等の返還義務の消滅により請求人が徴収法第39条に規定する第二次納税義務を負うことはないので、その他の争点について判断をするまでもなく、本件告知処分は法令の適用を誤った違法な処分であるから、その全部を取り消すべきである。

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