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(平21.2.19、裁決事例集No.77 13頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、国税通則法第46条第2項に基づき、納税の猶予の申請をしたところ、原処分庁が、請求人には納税の猶予の要件に該当する事実がないとして納税の猶予不許可処分をしたことから、これを不服とする請求人が、原処分は違法又は不当であるとして、その処分の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成18年5月17日に原処分庁に対し、国税通則法(以下「通則法」という。)第46条《納税の猶予の要件等》第2項に基づき、納税の猶予の申請(以下「本件猶予申請」という。)をした。
ロ 原処分庁は、これに対して、平成19年2月8日付で納税の猶予不許可処分(以下「本件不許可処分」という。)をした。
ハ 請求人は、この処分を不服として平成19年4月5日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成20年4月25日付で棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成20年5月25日に審査請求をした。

(3) 関係法令等

 別紙記載のとおりである。

(4) 基礎事実

 次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、証拠により容易に認定できる。
イ 本件猶予申請に係る申請書(以下「本件猶予申請書」という。)には、要旨次の記載がある。
(イ) 「納税の猶予を受けようとする理由」欄
A 経営、生活状況について
(A) 平成11年から請負受注の減少及び請負金額の大幅低下により経営状態が悪化した。
(B) 上記(A)の経営悪化の状況下で、原処分庁が請求人の売掛債権を差し押さえたことにより請求人の仕事上の信用や個人的信用をも失い、請求人らは生きていく糧を失った。
B 財産状況について
(A) 原処分庁による請求人の不動産差押えにより金融機関等からの借入れが困難になり、請求人の親族等のほか、消費者金融からの借入れをした結果、資金繰りがつかない状況にある。
(B) 請求人の負債総額は、上記(A)の借入金総額○○○○円に地方税の滞納額○○○○円を加えた○○○○円である。
(ロ) 「猶予期間」欄
 平成18年6月1日から平成19年5月31日まで12月間
(ハ) 「猶予申請税額」欄
 消費税及び地方消費税の本税○○○○円と延滞税(平成18年5月12日現在○○○○円)並びに源泉所得税の不納付加算税○○○○円
(ニ) 「納付計画」欄
 平成17年6月○○○○円、同年7月○○○○円、同年8月○○○○円、同年9月ないし11月各○○○○円、同年12月○○○○円、平成18年1月ないし5月各○○○○円 合計○○○○円
ロ 本件不許可処分に係る通知書(以下「本件不許可通知書」という。)には、請求人から申請のあった納税の猶予を不許可とする旨が記載され、不許可の理由として同通知書の「不許可理由」欄には、「通則法第46条第2項に該当する事実がない」と記載されている。
ハ 原処分庁は、平成13年11月16日付で、請求人が所有するP市p町○番○所在の宅地204.70平方メートル及び同宅地上の2階建家屋の差押えを行い、さらに、原処分庁は、請求人に新たな滞納国税等が発生したことから、平成17年4月11日付で、上記の物件に対し参加差押えを行っている。また、平成18年4月26日付で、請求人が取引先のF社に対して有する債権○○○○円の差押えを行い、当該債権については同年5月10日に取立てをした上、消費税及び地方消費税の滞納本税額に充当している。

(5) 争点

争点1 原処分に係る手続が違法又は不当であるか。

争点2 請求人には、通則法第46条第2項第1号ないし第5号に規定される納税の猶予に該当する事実(以下「猶予該当事実」という。)があるか。

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2 主張及び判断

(1) 原処分に係る手続が違法又は不当であるか(争点1)。

イ 主張

請求人 原処分庁
(イ) 権利侵害の存否について
 原処分庁所属の徴収担当職員(以下「本件徴収担当職員」という。)が本件猶予申請の適否の確認のために請求人宅を訪問したものの、当該猶予の適否の判断に必要な質問検査を行わず、また、請求人の用意した納税の猶予申請に関する資料を見ないで帰ってしまい、請求人に説明の機会を与えなかったことは、請求人の納税の猶予を受ける権利を侵害するものであるから、原処分に係る手続は不当である。
 本件徴収担当職員は、第三者の立会いがあることを理由に質問検査を行わなかったが、立会人を置くかどうかは納税者が判断する事項であり、納税者の求めに同意して立ち会った第三者を原処分庁は排除することはできない。
(イ) 権利侵害の存否について
 本件徴収担当職員が、平成18年7月13日と平成18年10月27日の2度にわたり、本件猶予申請について、通則法第46条第2項に規定される猶予該当事実の存否等を確認する目的で請求人宅を訪問した。その際、請求人以外の第三者の立会いがあったため、国家公務員法により課せられている守秘義務を保持できないことから、本件徴収担当職員は第三者の立会いがない状況にて確認作業を実施したい旨を請求人に伝えたが、請求人がこれに応じないため、止むなく確認作業の実施を断念した。その後、平成18年10月30日に本件徴収担当職員は請求人に電話連絡し、守秘義務保持の必要性を説明の上で、請求人が帳簿等を原処分庁に持参し、本件徴収担当職員がその内容を検討することで猶予該当事実の有無について確認する方法を提案したが、請求人がこれを拒否したため、猶予該当事実の存否等の確認を実施することができなかったのであり、原処分庁が請求人に本件猶予申請の理由を説明する機会を与えなかったという事実はない。
(ロ) 理由付記について
 本件不許可通知書には、「不許可理由」欄に、不許可とした判断・理由が付記されておらず不備がある。
 請求人にとって不利益な処分には詳細な理由の付記が必要であるにもかかわらず、理由の付記がないことは行政手続法第14条《不利益処分の理由の提示》に照らして違法である。
(ロ) 理由付記について
 本件不許可通知書の「不許可理由」欄には納税の猶予を不許可とする理由を記載すれば足りるのであり、それ以外の事項を理由として付記していないからといって、記載に不備があるわけではなく違法とはいえない。

ロ 判断
(イ) 権利侵害の存否について
A 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(A) 平成18年7月13日、本件徴収担当職員は、本件猶予申請に基づき、猶予該当事実の存否等を確認するため、請求人と予め面談日の日程調整をした上、請求人宅に臨場したところ、同玄関先において、請求人から、「立会人が同席するが、準備ができているので何でも聞いてほしい。」旨の申立てがあった。そこで、本件徴収担当職員は、請求人に対し、「第三者の立会いがあると守秘義務が保持できないので、立会人の同席の下では、請求人に関する話はできない。」旨を請求人に告げると、請求人が依頼した立会人及び請求人の妻が中から出てきて、玄関先にいる本件徴収担当職員に対して「請求人は立会いは構わないと言っているのに、なぜ調査はできないのか。」旨を申し立てた。このため、本件徴収担当職員は、請求人に対し、上記と同様、「請求人と直接関係のない第三者の同席の下では、本件猶予申請に係る事実確認はできない。」旨を告げ、本件猶予申請に係る事実確認を断念し帰署した。
 なお、この際、本件徴収担当職員は、請求人が当日用意していた「平成18年6月から同年12月までの見込収支状況及び平成18年5月から同年6月までの生活費の状況を記載した書面(2葉)」を預かった。
(B) 平成18年7月25日、本件徴収担当職員は、本件猶予申請に係る猶予該当事実の存否等の確認をする必要から請求人に電話したところ、応対した同人の妻は、「平成18年7月13日に請求人は書類を準備し調査を受ける状態にあったのになぜ調査をしなかったのか。」旨を申し立て、併せて「上記(A)で、請求人はすでに納付能力の調査を受けているなどとして、本件猶予申請に係る結論を早急に出してほしい。」旨を申し立てた。
 これに対して、本件徴収担当職員は、「第三者の立会いがある場合には、本件猶予申請に係る事実確認はできない。」旨を告げた。
(C) 平成18年8月23日、請求人は本件徴収担当職員に電話し、「立会人の同席の下で、本件猶予申請に係る事実確認をしてほしい。」旨を申し立てた。
 これに対して、本件徴収担当職員は、「第三者の立会いがある場合には、本件猶予申請に係る事実確認はできない。」旨を告げた。
(D) 平成18年8月25日、請求人は、本件徴収担当職員に電話し、同人に対し本件猶予申請に係る照会をした。
 これに対して、本件徴収担当職員は、「本件猶予申請に係る事実確認をしたいので、とりあえず直近2年分の帳簿書類と、請求人及び同人の妻名義の預金通帳を準備してもらいたい。」旨を告げ、併せて請求人宅へ臨場する日時を調整したい旨を伝えた。
(E) 平成18年10月13日、請求人は本件徴収担当職員に電話し、日程調整の結果、本件徴収担当職員は、本件猶予申請に係る事実確認を平成18年10月27日に請求人宅で行うことになった。
 この際、本件徴収担当職員は、請求人に対し、「直近2年分の帳簿書類」、「進行年分の帳簿書類」及び「記帳済の請求人及び同人の妻名義の預金通帳」を準備してもらいたい旨を依頼した。
(F) 平成18年10月27日、本件徴収担当職員は、請求人宅に臨場し、居間へ通されたが、居間には請求人が依頼した第三者の立会人4名(後に1名入室し5名となる。)がいたため、上記(A)と同様、守秘義務が保持できないので、請求人に対し、これら立会人の退席を求めたところ、請求人は、「テーブルの上に用意していた帳簿書類を見ていってほしい。」旨を申し立てたものの、「請求人1人で調査を受けるつもりはない。立会人の同席の下で、調査を受ける。」旨を申し立て、本件徴収担当職員による立会人の退席の求めに応じなかった。このため、本件徴収担当職員は、請求人に対し、「守秘義務が保持できないので、立会人のいるところでは請求人に関する話はできない。」旨と、「このままでは、現時点で把握できる範囲の事実関係を基に本件猶予申請に係る納税猶予の許否を判断せざるを得ないことになる。」旨を告げたが、請求人は、上記と同様、当該立会人の退席の求めに応じなかったので、本件徴収担当職員は、本件猶予申請に係る事実確認を断念し帰署した。
(G) 平成18年10月30日、本件徴収担当職員は、請求人に電話し、請求人に対し、第三者の立会いの下では本件猶予申請に係る事実確認ができないので、税務署へ帳簿書類等を持参するよう依頼し、これを基に本件猶予申請に係る事実確認をしたい旨を告げた。
(H) 平成18年11月8日、請求人は、本件徴収担当職員に電話し、上記(G)の本件徴収担当職員の依頼事項について、立会人と相談したが、前例がないので、税務署に書類を持参して貸すことはできない旨を申し立てた。
B 納税の猶予について
 通則法第46条第2項に規定する納税の猶予は、1納税者に猶予該当事実があること、2猶予該当事実に基づき、納税者がその納付すべき国税を一時に納付することができないと認められること、3納税者から国税通則法施行令第15条《納税の猶予の申請手続等》第2項に規定する納税の猶予の申請書が提出されていること、4通則法第46条第1項の規定による納税の猶予の適用を受ける場合でないこと、5原則として、通則法第46条第5項に規定する担保の提供があることのすべての要件を充足する場合に限り、税務署長等がその申請を許可することができるとする規定であるから、いずれか一の要件を充足していない場合には、税務署長等はこれを許可することができないこととなる。
 また、国税は、本来、国税に関する法律が定める納期限までに納付されなければならず、その納期限までに完納されないときは、督促が行われた上、滞納処分によって強制的に徴収されることになるところ、納税の猶予は、このような国税の納付及び徴収の例外として、その許可を受けた納税者に対して、納税の猶予期間内は納税の猶予に係る国税に関する督促及び滞納処分(交付要求を除く。)を受けることがないという利益を与えるほか、猶予期間内に発生した延滞税については、一定額が免除されるという利益を与えるものである。
C ところで、納税の猶予は、税務署長等が職権で行うものではなく、上記Bのとおり、納税者から国税通則法施行令第15条第2項に規定する納税の猶予の申請書が提出されていることを要し、また、税務署長等に納税の猶予の要件充足性を認定判断するための質問検査権が付与されていないことからすれば、その要件充足性を認定判断するために行う税務署長等の調査の範囲は一定の範囲に制限されているといわざるを得ず、税務署長等は、納税の猶予の申請書に記載された納税の猶予を受けようとする理由の範囲内において、納税者から提出された資料等を基に、納税の猶予の要件が充足されているか否かを認定判断すれば足り、それ以上に、自らその要件充足性を判断するための調査を行う必要はないものと解される。
 したがって、納税の猶予の要件を充足することについての立証責任は納税の猶予の申請をした納税者にあり、その納税者が進んで税務署長等に納税の猶予の要件が充足されていることを明らかにしなかったため、当該税務署長等において納税の猶予の要件が充足されていることを認定判断できなかったとして納税の猶予不許可処分を行った場合、当該税務署長等の判断に誤りはないというべきであるとともに、その調査手続が違法又は不当であるということもできないと解するのが相当である。
D これを本件についてみると、次のとおりである。
 上記Aのとおり、本件徴収担当職員は、請求人に対し、再三にわたり第三者の立会いの下では本件猶予申請に係る事実確認はできない旨を告げた上、当該立会人を退席させ請求人の帳簿書類等の提示を求めていることが認められる。しかしながら、請求人はこれに応じず、この間、請求人から平成18年の下期の見込収支状況及び平成18年5月と6月の生活費の状況を記載した書面の資料提示はあったものの、その後も本件徴収担当職員からの本件猶予申請に係る事実確認の求めに応じなかったことから、原処分庁は、納税の猶予の申請書に記載された内容の範囲内で、原処分時点で把握できた範囲の事実関係を基に本件猶予申請に係る納税猶予の許否を判断し本件不許可処分に至ったものと認められる。
 そうすると、本件徴収担当職員が本件猶予申請に係る事実確認を行おうと努めたにもかかわらず、請求人は第三者の立会いの下での調査に固執し、自らが進んで納税猶予の要件が充足されていることを明らかにしていく姿勢がうかがわれなかった本件においては、請求人が主張するような納税の猶予を受ける権利を侵害した事実はないと認められ、この点において、本件不許可処分が違法又は不当であるということはできない。
E この点に関して、請求人は、本件徴収担当職員が第三者の立会いを理由に質問検査を行わなかったことについて、納税者の求めに応じて立ち会った第三者の立会いを原処分庁は排除することはできない旨を主張する。
 しかしながら、上記Aのとおり、本件徴収担当職員は、請求人からの猶予申請に基づき猶予該当事実の存否等を確認するため、請求人宅に臨場したところ、請求人のほか第三者の立会いがあったことから、請求人に対し当該第三者を退席させた上、本件猶予申請に係る確認をしたい旨を告げたものの、請求人は、これに応じなかったので、本件徴収担当職員は、請求人宅での当該確認作業を断念せざるを得ないと判断したことが認められ、これは、本件徴収担当職員が請求人及び取引先等の営業等に関する事項の秘密を守るためなどの配慮から、法律上守秘義務を負わない第三者の立会いを認めなかったものであり、国家公務員法で課せられている守秘義務を考慮した結果の判断であると認められ、この判断は合理的なものと認められる。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ロ) 理由付記について
 請求人は、本件不許可処分の違法理由として、本件不許可通知書には本件猶予申請を不許可とした判断・理由の記載の不備がある旨を主張する。
 しかしながら、通則法第47条《納税猶予の通知等》第2項は、税務署長等が納税の猶予を認めないときは、その旨を納税者に通知しなければならない旨規定しているが、当該通知において納税の猶予を認めないとした判断・理由を納税者に通知すべき旨の規定はないのであるから、納税の猶予不許可通知書の不許可理由欄の理由の記載の程度が直ちに不許可処分の違法事由となるものではないと解するのが相当である。
 もっとも、「納税の猶予等の取扱要領」(昭和51年6月3日付徴徴3−2ほか1課共同「納税の猶予等の取扱要領について」(国税庁長官通達)の別冊。以下「猶予通達」という。)第4章第1節3の(2)では、納税の猶予に該当しないときは、納税の猶予をしない旨を書面により納税者に通知することとし、その書面として納税の猶予不許可通知書を定め、同通知書の不許可理由欄に納税の猶予を認めない理由を具体的に記載することとしているが、その趣旨・目的は、税務署長等の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を納税者に知らせて不服申立ての便宜を与えることにあると解される。そうすると、税務署長等が、当該不許可通知書に、上記(イ)のBの納税の猶予の要件のうち、どの要件が充足されていないかを記載していれば、その趣旨・目的は達せられていると評価できるところ、上記1の(4)のロのとおり、原処分庁は、本件不許可通知書の「不許可理由」欄に「通則法第46条第2項に該当する事実がない」と記載し、本件猶予申請に対し猶予該当事実がないことを理由に納税の猶予を認めない旨を請求人に通知していることが認められるから、本件不許可処分を直ちに違法であるということはできない。
 なお、請求人が主張する行政手続法第14条の規定は、通則法第74条の2《行政手続法の適用除外》により、国税に関する法律に基づき行われる処分その他公権力の行使に当たる行為については適用されない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(2) 請求人には、猶予該当事実はあるか(争点2)。

イ 主張

請求人 原処分庁
 請求人には、次のとおり猶予該当事実がある。
(イ) 原処分庁は、請求人の滞納国税について換価の猶予、滞納処分の執行停止を行うべきところを行わずに、請求人の居住用の不動産及び売掛金の差押えを行った。
 居住用の不動産は生存権的財産であり売却を前提とする財産ではないので評価は零であり、更に請求人の居住用の不動産はローン等の負債に担保提供され、換価しても配当はないことから、請求人の居住用の不動産の差押えは国税徴収法第48条《超過差押及び無益な差押の禁止》に違反する無益な差押えであり、請求人は当該差押えにより銀行から新規の融資を受けられないという不利益を受けた。また、売掛金の差押えにより取引先の信用を損ねるという不利益を受けた。
 また、請求人が国税を納付する際に、原処分庁は本税を優先して納付すべきとの教示を怠り古い年分の延滞税の納付を優先させる誤指導をした。請求人は本税の滞納があるにもかかわらず他の年分の延滞税を納めたため、過大な税金を納めるという不利益を受けた。
 これらの不利益は原処分庁による「人為による異常な災害」であり、通則法第46条第2項第1号の「その他の災害を受けたこと」に該当する。
(ロ) 請求人の平成17年1月1日から平成17年5月31日までの期間と平成18年1月1日から平成18年5月31日までの期間の売上げ及び経常利益を比較すると、売上げは○○○○円から○○○○円に減少し、また、経常利益は○○○○円から○○○○円に減少していることから、通則法第46条第2項第4号の「その事業につき著しい損失を受けたこと」に該当する。
(ハ) 請求人が消費者金融や信販会社(以下「貸金業者」という。)に対して高利な借入利息を過払していたことは、貸金業者による詐欺であることから、当該利息の過払は「詐欺、横領等があったことにより財産を喪失したこと」になるので通則法第46条第2項第5号(1号又は2号類似)に該当する。
 本件猶予申請書に記載された納税の猶予を受けようとする理由、請求人の提出した資料及び原処分庁が把握した事実等に基づき、猶予該当事実の存否を検討したが、その事実は認められなかった。
 なお、国税徴収法の規定に基づく滞納処分を受けたことは、通則法第46条第2項第1号に規定される「納税者がその財産につき、震災、風水害、落雷、火災その他の災害を受け、又は盗難にかかったこと。」の要件事実には該当しない。また、高金利の商工ローンから事業資金を借り入れた結果、高い利率による利息の支払を行うこととなったとしても、これは同項第5号に規定される要件事実には該当しない。

ロ 判断
(イ) 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
A 請求人が当審判所に提出した請求人の事業に係る平成18年の月別の収入金額や経費の金額等とともにその前年の月別の売上金額や経費合計金額等が記載されている「損益計算書」(以下「平成18年損益計算書」という。)の写し及び原処分関係資料によれば、平成16年6月1日から平成17年5月31日までの期間の経常利益(青色申告による特典控除前の金額をいう。以下同じ。)は、○○○○円であり、また、平成17年6月1日から平成18年5月31日までの期間の経常利益は、○○○○円である。
B 請求人が原処分時の平成18年7月13日に原処分庁に提出した「平成18年6月から同年12月までの見込収支状況及び平成18年5月から同年6月までの生活費の状況を記載した書面(2葉)」によれば、平成18年1月から同年5月までの売上金額は、○○○○円である。
(ロ) 猶予該当事実について
A 通則法第46条第2項は、納税者が、次のとおりの猶予該当事実に基づき、国税を一時に納付できない場合には、その納税者の申請に基づき、その国税の全部又は一部につき、その納税を猶予することができる旨規定している。
(A) 納税者がその財産につき、震災、風水害、落雷、火災その他の災害を受け、又は盗難にかかったこと(通則法第46条第2項第1号)。
(B) 納税者又はその者と生計を一にする親族が病気にかかり、又は負傷したこと(同項第2号)。
(C) 納税者がその事業を廃止し、又は休止したこと(同項第3号)。
(D) 納税者がその事業につき著しい損失を受けたこと(同項第4号)。
(E) 前各号の一に該当する事実に類する事実があったこと(同項第5号)。
B また、猶予通達は、通則法第46条第2項第1号、同4号及び同5号に係る猶予該当事実について、概略、次のとおり定めている。
(A) 第2章第1節1の(3)のイ
 通則法第46条第2項第1号にいう「その他の災害」とは、おおむね1地すべり、噴火、干害、冷害、海流の激変その他の自然現象の異変による災害、2火薬類の爆発、ガス爆発、鉱害、交通事故、天然ガスの採取等による地盤沈下その他の人為による異常な災害、3病虫害、鳥獣害その他の生物による異常な災害である。
(B) 第2章第1節1の(3)のニの(イ)
 通則法第46条第2項第4号にいう「その事業につき著しい損失を受けたこと」とは、調査日(納税の猶予の始期の前日をいう。)前1年間(以下「調査期間」という。)の損益計算において、調査期間の直前の1年間(以下「基準期間」という。)の利益金額の2分の1を超えて損失が生じていると認められる場合(基準期間において損失が生じている場合には、調査期間の損失金額が基準期間の損失金額を超えているとき。)をいう。
(C) 第2章第1節1の(3)のホ
 通則法第46条第2項第5号に規定する同項第1号又は第2号に類するものとは、1詐欺、横領等があったことにより財産を喪失したこと、2交通事故の損害賠償(使用者責任による場合を含む。)又は公害の損害賠償をしたこと等である。
(ハ) これを本件についてみると、次のとおりである。
A 請求人は、原処分庁の職員が行った滞納処分や滞納本税の納付を優先すべきとの教示をしなかったこと等により請求人が受けた不利益は「人為による異常な災害」であり、通則法第46条第2項第1号に該当する事実がある旨を主張する。
 しかしながら、原処分庁を含む国税局及び税務署の職員が行う滞納処分は、国税徴収法に基づき、滞納となっている国税を強制的に徴収する手続であって、これを人為による異常な災害ということはできず、また、請求人の滞納本税の納付に関し、原処分庁の職員に誤指導があった事実も認められない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
B 請求人は、平成17年1月1日から平成17年5月31日までの期間と平成18年1月1日から平成18年5月31日までの期間の売上げ及び経常利益を比較すると、売上げは○○○○円から○○○○円に減少し、また、経常利益は○○○○円から○○○○円に減少していることから、通則法第46条第2項第4号の「その事業につき著しい損失を受けたこと」に該当する旨を主張する。
 ところで、本件猶予申請書における納税の猶予を受けようとする期間は、上記1の(4)のイの(ロ)のとおり、平成18年6月1日から平成19年5月31日までの期間であるところ、上記(ロ)のBの(B)によれば、本件猶予申請書に基づく請求人の調査期間は、請求人が主張する平成18年1月1日から平成18年5月31日までの5か月ではなく、平成17年6月1日から平成18年5月31日までの1年となり、また、基準期間も同様、平成17年1月1日から平成17年5月31日までの5か月ではなく、平成16年6月1日から平成17年5月31日までの1年となる。
 そうすると、請求人の調査期間の経常利益は、上記(イ)のAのとおり○○○○円となり、請求人の調査期間においてはそもそも損失が生じていないのであるから、上記(ロ)のBの(B)に照らせば、この点に関する請求人のその余の主張について判断するまでもなく、請求人は、「その事業につき著しい損失を受けた」とはいえず、また、請求人には、調査期間を上記の5か月にすべき特段の事情があるとは認められないことからすれば、通則法第46条第2項第4号にいう「その事業につき著しい損失を受けたこと」に該当しないことは明らかである。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
C 請求人は、貸金業者に対して高利な利息を過払していたことは貸金業者の詐欺によるものなので、利息の過払は「詐欺、横領等があったことにより財産を喪失したこと」であり、通則法第46条第2項第5号(1号又は2号に類似)に該当する事実がある旨を主張する。
 しかしながら、仮に、請求人が貸金業者に対して利息制限法の制限額を超えるような利息を支払っていたとしても、そのことをもって直ちに貸金業者による詐欺が成立するということはできず、この点に関する主張は、請求人の独自な見解といわざるを得ないから、貸金業者に対する高利な利息の過払をもって、上記(ロ)のBの(C)の「詐欺、横領等があったことにより財産を喪失したこと」に該当するということはできない。
 したがって、通則法第46条第2項第5号に規定する同項第1号又は第2号に類するものには該当しないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(3) 原処分について

 以上のとおり、原処分には、いずれの争点についても、これを取り消すべき理由はない。
 また、原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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