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(平21.2.13、裁決事例集No.77 59頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)の亡母が、相続により取得した土地を売却したことによる分離長期譲渡所得の金額の計算上、当該相続に係る遺産分割の際に支出した弁護士費用の一部を取得費に算入して所得税の確定申告をしたところ、原処分庁が、亡母の相続人である請求人に対して、当該費用は、相続の際、資産を取得するために通常必要と認められる支出ではないので、取得費に算入できないとする更正処分等をしたことから、請求人がその全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人の母であるAは、平成17年分の所得税について、別表1の「確定申告」欄のとおり記載した青色の確定申告書(以下、この確定申告書を「本件確定申告書」という。)を、法定申告期限までに提出した。
ロ その後、Aは、平成18年8月○日に死亡したので、同人の相続人である請求人は、Aの国税の納付義務を承継した(以下、Aを「被相続人」という。)。
ハ 原処分庁は、被相続人の平成17年分の所得税について、平成20年2月29日付で別表1の「更正処分等」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下、「本件賦課決定処分」といい、本件更正処分と併せて「本件更正処分等」という。)をした。
ニ 請求人は、本件更正処分等を不服として、平成20年4月16日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年6月12日付で棄却の異議決定をした。
ホ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成20年7月11日に審査請求をした。

(3) 関係法令等

 別紙のとおりである。

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(4) 基礎事実

イ 被相続人の父であるBは、昭和41年11月○日死亡し、被相続人を含む6名の法定相続人が同人の共同相続人となった(以下、Bを「亡B」といい、亡Bの死亡により開始した相続を「本件相続」、本件相続に係る共同相続人を「本件共同相続人」という。)。
ロ 本件相続に係る遺産分割については、本件共同相続人間の遺産分割協議が調わなかったため、昭和47年から昭和62年までの間、C家庭裁判所に別表2のとおり各遺産分割調停事件が申し立てられ、同表のとおり各遺産分割審判事件に移行した(以下、別表2の各遺産分割調停事件及び各遺産分割審判事件を併せて、「本件各遺産分割事件」という。)。
ハ 被相続人は、昭和48年11月13日、D法律事務所に所属するE弁護士と委任契約を締結し、同人を本件各遺産分割事件の代理人弁護士とした。
ニ 被相続人は、別表2の順号6の審判により、下記(イ)及び(ロ)の遺産を取得するとともに、下記(ハ)の代償金請求権を取得し、その後、その支払を受けた。
(イ) P市Q町○○番の宅地(628.09平方メートル)の一部○○○○平方メートル(以下「本件土地」という。)
(ロ) 現金○○○○円
(ハ) 被相続人を除く本件共同相続人からの代償金合計○○○○円
ホ 被相続人は、平成16年7月12日、D法律事務所より本件各遺産分割事件の報酬として13,125,000円の請求を受け、同年12月24日、当該報酬の支払を完了した。
ヘ 被相続人は、平成17年3月○日、本件土地を105,000,000円で譲渡する旨の不動産売買契約を締結し、同年7月○日、同売買契約に基づき同土地を買主に引き渡した。
ト 被相続人は、上記ホの報酬の総額のうち、本件土地に対応する金額である9,890,181円を、本件土地の取得費に算入し、別表1の付表のとおり譲渡所得の金額の計算をして本件確定申告書を提出した(以下、被相続人が取得費に算入した当該報酬を「本件弁護士費用」という。)。
チ 亡Bは、本件土地を大正15年4月○日に取得した。

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2 主張

(1) 原処分庁

 本件弁護士費用は、次の理由により本件土地の取得に要した金額に当たらないため取得費には該当しない。したがって、譲渡所得の金額の計算上、実額取得費が概算取得費を下回るので、取得費の金額として概算取得費を譲渡収入金額から控除することとする本件更正処分は適法である。
イ 譲渡所得の金額の計算において控除する資産の取得に要した金額には、当該資産の客観的価格を構成すべき取得代金のほか、登録免許税、仲介手数料等の当該資産を取得するための付随費用の額も含まれると解される。
ロ 本件弁護士費用は、亡Bの遺産分割に際して支払った費用であると認められるところ、遺産分割は共有に係る相続財産の分配に過ぎず、これにより相続財産に含まれている個々の資産の財産価値そのものに変動を及ぼすものではないから、遺産分割に要する費用は一般的に当該資産の客観的価値を構成するものとは認められない。したがって、本件弁護士費用は本件土地の取得に要した金額に当たらない。
ハ 相続により取得した資産について、当該資産を取得するための付随費用は、基本通達60−2の定めのとおり、当該資産を取得するために通常必要と認められる費用、例えば、不動産登記費用、不動産取得税又は株券の名義書換手数料などをいうところ、遺産分割の際に訴訟費用又は弁護士費用などを支出したとしても、これらは相続人間の紛争を解決するための費用であって、資産を取得するための付随費用には該当しない。したがって、本件弁護士費用は本件土地の取得に要した金額に当たらない。

(2) 請求人

 本件弁護士費用は、次の理由により本件土地の取得に要した金額に当たるため、取得費に該当する。したがって、譲渡所得の金額の計算上、本件弁護士費用を本件土地の取得費に算入して計算した実額取得費が概算取得費を上回るので、取得費として実額取得費を譲渡収入金額から控除することが相当であるから、本件更正処分は違法でありその全部が取り消されるべきである。
イ 譲渡所得の金額の計算において控除する資産の取得に要した金額には、当該資産の取得対価のほか、当該資産の取得のために実質的に欠かせない費用の額も含まれると解される。
ロ 遺産分割は、分割の仕方により各相続人が相続する財産の価値そのものに変動を生じ得る行為である。そして、遺産分割に要する費用は、相続により各相続人が有することとなる抽象的持分権を各相続人に具体的に帰属させるために要する費用である。つまり、本件弁護士費用は、被相続人が亡Bの相続財産を取得し確実に同人の所有とするために生じた費用であるといえる。また、亡Bの遺産分割には約40年という長い歳月を要し、被相続人は弁護士に依頼をしなければ本件土地を取得することができなかった。したがって、本件弁護士費用は、相続財産を分割して相続行為を終結するための費用であり、資産の取得のために実質的に欠かせない費用であるといえるから、当該費用は、資産の取得に要した金額に当たる。
ハ 原処分庁は、基本通達60−2の定めにより、本件弁護士費用が資産を取得するために通常必要と認められる費用に当たらないため取得費に該当しないとして本件更正処分をした。しかしながら、所得税法第38条第1項に規定する資産の取得に要した金額を、原処分庁が主張するように限定的に解釈することは相当でない。基本通達38−2は、一定の訴訟費用等については取得費に算入できる旨定めている。また、基本通達38−9の2は、一定の違約金について取得費に算入できる旨定めている。上記の各通達に定めのある費用は、いずれも資産を取得するために通常必要と認められる費用とはいえない性質の費用である。それにもかかわらず、これらの費用が取得費に含まれるのは、取得費が資産を取得するために通常必要と認められる費用に限られず、資産を取得するために実質的に欠かせない費用も含むためであると解される。したがって、本件弁護士費用が、上記ロのとおり資産の取得のために実質的に欠かせない費用であると認められる以上、当該費用は資産の取得に要した金額に当たる。

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3 判断

(1) 法令解釈

イ 譲渡所得の金額について、所得税法は、総収入金額から資産の取得費及び譲渡に要した費用の額を控除する旨規定し(所得税法第33条第3項)、この資産の取得費は、別段の定めがあるものを除き、その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額とする旨規定している(同法第38条第1項)。
 譲渡所得に対する課税は、資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会にこれを清算して課税する趣旨のものであるところ、所得税法第33条第3項が総収入金額から控除し得るものを、当該資産の客観的価格を構成すべき金額のみに限定せず、取得費と並んで譲渡に要した費用をも掲げていることからすると、同法第38条第1項に規定する「資産の取得に要した金額」には、当該資産の客観的価格を構成すべき取得代金の額のほか、登録免許税、仲介手数料等の当該資産を取得するために通常必要と認められる付随費用の額も含まれると解するのが相当であり、当該資産の維持管理に要する費用その他日常的な生活費ないし家事費に属するものはこれに含まれないと解するのが相当である。
ロ そして、居住者が相続により取得した資産を譲渡したことにより、所得税法第60条第1項を適用して譲渡所得の金額を計算する場合において、相続人が当該資産を取得するために通常必要と認められる費用、例えば、相続の場合の被相続人から相続人への名義変更に係る不動産登記費用も、同法第38条第1項に規定する「資産の取得に要した金額」に該当すると解される。
 もっとも、遺産分割の際に支出した訴訟費用、弁護士費用等は、一般には相続人間の紛争を解決するための費用であることから、相続人が当該資産を取得するために通常必要と認められる費用とはいえない。したがって、遺産分割の際に支出した訴訟費用、弁護士費用等は、所得税法第38条第1項に規定する「資産の取得に要した金額」に含まれる付随費用には該当しない。

(2) 本件弁護士費用について

 本件弁護士費用は、上記1の(4)のイないしトのとおり、本件共同相続人が本件相続に係る遺産分割を求めて申し立てた本件各遺産分割事件において、被相続人の代理人を務めた弁護士に対し、委任契約の報酬として支払われたものの一部である。
 そうすると、本件弁護士費用は、遺産分割の際に支出した弁護士費用であるから、被相続人が本件土地を取得するために通常必要と認められる費用とはいえず、所得税法第38条第1項に規定する「資産の取得に要した金額」には該当しない。

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(3) 請求人の主張について

イ 請求人は、遺産分割に要する費用は、相続により各相続人が有することとなる抽象的持分権を各相続人に具体的に帰属させるために要する費用であるから、本件弁護士費用が亡Bの財産を取得し確実に被相続人の所有とするために生じた費用である以上、当該費用は資産の取得に要した金額に当たる旨主張する。
 しかしながら、上記(1)のロのとおり、所得税法第38条第1項に規定する「資産の取得に要した金額」に含まれる付随費用に該当するためには、相続人が当該資産を取得するために通常必要と認められる費用であることが必要であるところ、遺産分割のための弁護士費用は、相続人間で遺産分割方法等を巡って紛争が生じ、これを法律専門家である弁護士に依頼して早期に有利に解決しようとするために支出されるものであるから、一般的には当該相続人間の個人的事情に関連して生じる支出というべきである。
 したがって、遺産分割の際に支出する弁護士費用は、相続人が相続により資産を取得するために通常必要な費用とはいえないから、請求人の主張には理由がない。
ロ また、請求人は、基本通達38−2及び同38−9の2の定めにより取得費に算入できる費用は、通常必要と認められる費用というべき性質の費用でないにもかかわらず取得費に算入できるのだから、遺産分割に際して支出した費用についても上記各通達と同様に取得費に算入できる旨主張する。
 ところで、基本通達38−2は、所有権等の帰属に関して争いのある資産につきその所有権等を確保するために直接要した訴訟費用、和解費用等のうち、各種所得の金額の計算上必要経費に算入されたものを除き資産の取得に要した金額とする旨定めたものである。この通達は、例えば、所有権の帰属に関して紛争が生じている土地等を格安に購入し、その紛争を解決してその所有権を完全に自己に帰属させたような場合の紛争解決のために要した訴訟費用等は、その土地等の取得に要した金額と考えられることから定められたものである。
 また、基本通達38−9の2は、いったん締結した固定資産の取得に関する契約を解除して他の固定資産を取得することとした場合に支出する違約金のうち、各種所得の金額の計算上必要経費に算入されたものを除き資産の取得に要した金額とする旨定めたものである。このような違約金は、固定資産の取得との間に実質的な関連があり、かつ、資産の取得のために必要な支出であると認められることからこの通達が定められたものである。
 そうすると、これらの通達は、資産を取得するために通常必要とは認められない支出を取得費に算入することを認めたものではないから、資産を取得するために通常必要とは認められない支出を取得費とすることを認める通達がある旨の請求人の主張は前提を欠いているといわざるを得ない。
 また、遺産分割の際に支出する弁護士費用は、上記イのとおり、相続人間の個人的な紛争を解決するための費用であり、相続人が当該資産を取得するために通常必要とは認められない支出である。したがって、遺産分割の際に支出する弁護士費用は、これらの通達が予定する支出とは性質を異にするから、これらの通達を根拠に本件弁護士費用を取得費とすることはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用することができない。

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(4) 本件更正処分について

 本件土地は、大正15年4月○日、亡Bが取得し(上記1の(4)のチ)、その後被相続人が昭和41年11月○日、相続により同土地を取得したものと認められるところ(上記1の(4)のイ及びニ)、相続により取得した資産を譲渡した場合における譲渡所得の金額の計算については、別紙の3のとおり、相続人が引き続きこれを所有していたとみなされるから、被相続人は、本件土地を譲渡したことによる譲渡所得の金額の計算において同土地を大正15年4月○日に取得したとみなされることとなる。
 ところで、措置法第31条の4第1項は、別紙の5のとおり、昭和27年12月31日以前から引き続き所有していた土地等を譲渡した場合における長期譲渡所得の金額の計算上収入金額から控除する取得費は、概算取得費とし、概算取得費が実額取得費に満たないことが証明された場合には、実額取得費とされるところ、上記(2)のとおり、本件弁護士費用は、被相続人の平成17年分の譲渡所得の金額の計算上、取得費に算入することはできず、本件においては概算取得費が実額取得費に満たない事実は認められない。したがって、取得費の金額として概算取得費を譲渡収入金額から控除することとした本件更正処分は適法である。

(5) 本件賦課決定処分について

 本件更正処分は、上記(4)のとおり適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法(平成18年法律第10号による改正前のもの。)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいてされた本件賦課決定処分は適法である。

(6) その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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