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(平21.3.3、裁決事例集No.77 194頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、同族会社である審査請求人(以下「請求人」という。)が自己株式を取得した際に支払った対価のうち請求人の資本等の金額に対応する部分の金額を超える部分がみなし配当に該当するとして、源泉徴収に係る所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、みなし配当に該当するとされた金額は売主に対する寄附金であり、みなし配当に該当しないから、当該納税告知処分等は違法であるなどとしてその全部の取消しを求めた事案であり、争点は次の2点である。
争点1 原処分は信義誠実の原則に反するか否か。
争点2 自己株式の取得対価の一部がみなし配当の額に該当するか否か。

(2) 審査請求に至る経緯及び基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 審査請求に至る経緯等
(イ) 請求人は、平成17年7月23日にGとの間で同人が保有する請求人の発行済株式○○○○株(以下「本件株式」という。)を1株当たり15,800円、合計○○○○円でGから買い受ける旨の有価証券売買契約(以下「本件契約」という。)を締結し、同月26日にGに対し本件契約金額○○○○円を支払うことにより本件株式を取得した(以下、この取引を「本件取引」という。)。
(ロ) 原処分庁は、請求人に対し、所得税法(平成18年法律第10号による改正前のもの。)第25条《配当等の額とみなす金額》第1項第5号により、上記(イ)の本件取引で支払った金員○○○○円のうち、請求人の資本等の金額に対応する部分の金額○○○○円を超える○○○○円については、みなし配当に該当するとして、平成20年4月30日付で平成17年7月分の源泉徴収に係る所得税の額を○○○○円とする納税告知処分及び不納付加算税の額を○○○○円とする賦課決定処分をした。
(ハ) 請求人は、上記(ロ)の各処分を不服として平成20年6月27日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が同年8月27日付で棄却の異議決定をしたことから、同年9月26日に審査請求をした。
ロ 請求人の株主等
(イ) 請求人が原処分庁に提出した平成15年8月1日から平成16年7月31日まで及び平成16年8月1日から平成17年7月31日までの各事業年度末時点の貸借対照表の資本の部には、資本金として○○○○円が計上されているが、資本積立金は計上されていない。また、上記各事業年度末における発行済株式の総数はいずれも○○○○株であり、各事業年度内における変動はなかった。
(ロ) 請求人の株主は、本件取引が行われるまでは、H(持株数○○○○株)、J(同○○○○株)、K(同○○○○株)、L(同○○○○株)及びG(同○○○○株)であり、その他に請求人が自己株式○○○○株を保有していた。
 なお、H、J、K及びLは、法人税法施行令第4条《同族関係者の範囲》第1項に規定する特殊の関係のある個人に該当するが、Gは、他の株主とは当該特殊の関係のある個人に該当しない。
(ハ) 上記(ロ)の自己株式は、請求人が平成17年6月9日にHが当時代表取締役を務めていたM社から○○○○円(1株当たり13,025円)で取得したものである。
(ニ) 請求人は、平成19年6月○日に会社分割を行った。

(3) 関係法令

 別紙のとおりである。

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2 主張

(1) 争点1 原処分は信義誠実の原則に反するか否か。

請求人 原処分庁
 請求人は、○○税務署の職員の次のイ及びロの指導に基づき、本件取引において、みなし配当の額は生じないと判断して源泉徴収をしなかったものであり、当該指導と異なる原処分は、信義誠実の原則に反し違法である。  みなし配当の額について、次のとおり、請求人が主張するような指導の事実はなかったと認められることから、本件告知処分は適法である。
イ 請求人の顧問税理士であるNの会計事務所の事務職員P(以下「本件事務職員」という。)は、平成17年4月25日ころの午後2時ころに○○税務署の1階の個人課税第1部門の受付カウンターにおいて、同署の個人課税部門の職員であるQ(以下「本件個人担当職員」という。)に対し、国税庁長官の発遣した平成15年6月25日付課評2−17ほか2課共同「相続税及び贈与税における取引相場のない株式等の評価明細書の様式及び記載方法等についての一部改正について(法令解釈通達)」による取引相場のない株式(出資)の評価明細書(以下「取引相場のない株式の評価明細書」という。)の様式を示し、みなし配当の額について質問をしたところ、本件個人担当職員は、みなし配当課税は、交付金銭等の価額が純資産価額(純資産価額方式で評価した資産の部から負債の部を差し引いた純資産価額)を超える部分がみなし配当の額に該当し、純資産価額以下の取引ではみなし配当の額は生じない旨の回答をした。
ロ 本件事務職員は、上記回答を受けたのと同じ日に○○税務署の3階の法人課税第1部門の受付横の相談コーナーにおいて、同署の法人課税部門の職員であるR(以下「本件法人担当職員」という。)に対してみなし配当課税について質問したところ、本件法人担当職員は、みなし配当課税は、交付金銭等の価額が資本等の金額を超える部分の金額である旨の回答をした。また、本件事務職員は、市販の参考書を示し資本等の金額の範囲について質問したところ、本件法人担当職員は、資本等の金額の範囲は、資本金、資本積立金及び利益積立金の合計額である旨回答した。
イ 平成17年4月下旬に本件個人担当職員及び本件法人担当職員が請求人主張の指導を行った事実を確認することはできず、請求人からも請求人主張の指導の事実を証する資料の提出はない。
ロ 本件個人担当職員は、みなし配当に関する具体的な質問があった場合には法人課税部門に案内する旨、また、本件法人担当職員は、みなし配当に関する質問があった場合には、交付金銭等の額のうち、資本等の金額に対応する部分の金額を超える金額がみなし配当の額になると回答する旨それぞれ申述していることに加え、みなし配当の額の計算方法等は、所得税法第25条第1項及び所得税法施行令第61条第2項第5号の規定のとおり、法令上明らかであることからしても、本件個人担当職員及び本件法人担当職員が請求人の主張するような回答をすることは通常考えられない。

(2) 争点2 自己株式の取得対価の一部がみなし配当の額に該当するか否か。

原処分庁 請求人
 次のとおり、本件取引で支払った金額のうち資本等の金額に対応する部分の金額を超える金額○○○○円がみなし配当の額になる。  本件取引における自己株式の取得対価には、次のとおり、みなし配当の額はない。
イ 請求人は、本件取引に係るGとの売買価額交渉において、純資産価額で評価した価額などを複数回提示した結果、1株当たり15,800円で買い取ることで合意した上で本件契約を締結し、本件取引の対価としてGに対し、○○○○円を支払ったものであり、請求人が支払った金額には、Gに対する寄附金に該当するものが含まれているとは認められない。 イ 本件取引で支払った金員のうち、税法上の適正価額(時価)を超える部分は、請求人においては法人税法第37条第7項に規定する寄附金に該当し、Gにおいては一時所得に該当する。
 税法上の適正価額とは、原則として純資産価額であるが、本件取引のように同族株主のいる会社が同族株主以外の株主(少数株主)から自己株式を取得した場合、当該株式は、会社の支配権を伴うものではなく、配当期待権程度の価値しかないことから、その適正価額は、いわゆる配当還元方式による評価額によるべきである。そこで、本件取引時における請求人の株式を配当還元方式で評価すると、1株当たり250円となり、この金額に本件取引の株式数○○○○株を乗じた金額と本件取引において支払った金員○○○○円との差額○○○○円が税法上の適正価額(時価)を超える額となる。
ロ そうすると、Gが請求人から本件取引で金員を受領したことは、所得税法第25条第1項に規定する法人の株主等が当該法人の自己株式の取得により金銭その他の資産の交付を受けた場合に該当し、交付金銭等の額のうち、資本等の金額に対応する部分の金額を超える金額がみなし配当の額になる。 ロ 上記イのとおり、請求人の株式の税法上の適正価額は1株当たり250円であり、請求人の株式1株当たりの資本等の額である500円を下回るから、交付金銭等の額のうち、資本等の金額に対応する部分の金額を超える金額はなく、みなし配当の額は生じない。

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3 判断

(1) 争点1(原処分は信義誠実の原則に反するか否か)について

イ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件事務職員は、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。
A 指導を受けた日は、平成17年4月25日とは確定できないが、同年4月下旬で午後であった。
B 指導を行った本件個人担当職員及び本件法人担当職員の氏名は、各職員のIDカードで確認した。
C 本件個人担当職員及び本件法人担当職員に質問し、指導を受ける際に自身の氏名は名乗っていない。
D 本件個人担当職員に対しては、取引相場のない株式の評価明細書のうち第五表(1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書)の様式を示し、本件法人担当職員に対しては、市販の参考書のみなし配当の部分のコピーを示し、いずれもみなし配当について一般論として質問を行った。
E 本件個人担当職員からは、みなし配当課税は、交付金銭等の価額が純資産価額を超える部分がみなし配当に該当し、純資産価額以下での取引はみなし配当の額には該当せず、株式の譲渡である旨、本件法人担当職員からは、資本等の金額は、資本金、資本積立金及び利益積立金の合計額である旨の回答を得た。
F 指導を受けた際の質問及び回答内容についてメモを取っていなかったことから、相談した事実、内容を裏付ける資料はない。
(ロ) 本件個人担当職員は、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。
A 本件事務職員から、取引相場のない株式の評価明細書のうち第五表(1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書)の様式を見せられて質問を受けた記憶はない。
B 一般的にみなし配当の額について質問を受けた場合には、国税庁作成の源泉徴収のあらましを見せながらみなし配当の概念についてのみ説明する。
C 株式の発行会社側の者からみなし配当の額についての質問を受けた場合には、回答せずに法人課税部門へ案内し、法人課税部門の職員が回答する旨法人課税部門から指示されている。
D 特に、自己株式の取得の場合の所得金額の算定については、平成15年ころから、個人課税部門において回答しないよう、法人課税部門から指示されていた。
E 相談者から資料の提出があるなど、個別具体的な事案については、記録を残すようにしているが、請求人が主張する内容の指導をした旨の記録はない。
(ハ) 本件法人担当職員は、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。
A 電話及び窓口等で面接し相談を受けた場合には、その都度、相談を受けた内容等を大学ノートに記録しており、相談者が名前を名乗った場合は必ず併せて氏名を記載している。
B 上記Aのノートに請求人が主張する内容の指導をした旨の記載がないことからすれば、そのような指導を行った事実がないはずである。
C 仮に、法人税法第2条第16号に規定する資本等の金額の範囲について質問を受けた場合には、資本金の額と資本積立金の額の合計額である旨回答することとしている。
(ニ) 本件法人担当職員は、日付、相談者の氏名、相談内容及び回答した事項等を記載した大学ノートを所持しているところ、当該ノートの平成17年4月1日から同年5月9日までの間において本件事務職員から何らかの相談を受けてこれに回答した旨の記載はない。
(ホ) 請求人が提示したとする市販の参考書の平成11年版から平成16年版は、いずれもその年の6月中旬から7月上旬にかけて初版が発行されているが、その中のみなし配当について記載されている箇所には、いずれも、資本等の金額とは資本の金額又は出資金額と資本積立金額との合計額をいう旨が記載されている。
(ヘ) 平成17年当時の請求人の専務取締役であったSが作成した「G氏との交渉記録」と題する書面(以下「本件交渉記録」という。)には、本件取引に係る交渉における請求人がGに提示した株価等について、平成17年3月15日の交渉開始から同年7月26日の売買代金の振込みに至るまで詳細に記載されている。
ロ 判断
 請求人は、本件事務職員が平成17年4月25日ころに本件個人担当職員から、交付金銭等の価額のうち純資産価額を超える部分がみなし配当の額に該当し、純資産価額以下の取引ではみなし配当の額は生じない旨、本件法人担当職員から、交付金銭等の価額のうち資本等の金額を超える部分がみなし配当の額に該当し、資本等の金額は、資本金、資本積立金及び利益積立金の合計額である旨それぞれ説明を受けたことから、本件取引についてみなし配当の額は生じないと判断し、源泉徴収をしなかったにもかかわらず、これに反する原処分をしたことは、信義誠実の原則に反し違法である旨主張し、本件事務職員は、上記イの(イ)のEのとおり、上記主張に沿う答述をする。
 確かに○○税務署には、本件事務職員が答述する本件個人担当職員及び本件法人担当職員が勤務していることから、本件事務職員が本件個人担当職員及び本件法人担当職員に何らかの相談をし、回答を得た事実がうかがえないではない。しかしながら、本件事務職員が請求人主張の内容の指導を受けた旨の答述を裏付けるに足りる証拠はない上、税理士事務所の職員が本件のような指導を受ける場合に、自身の氏名を名乗らず、しかも、質問及び回答内容のメモも取らない(上記イの(イ)のC及びF)というのは不自然であるし、また、上記イの(ヘ)の本件交渉記録の記載によれば、請求人はその当時Gと本件株式の買取りにつき交渉中であったと認められるにもかかわらず、本件事務職員がそれを告げずに一般論として質問した(上記イの(イ)のD)というのも不自然である。さらに、上記イの(イ)のD及びEのとおり、本件事務職員は、本件法人担当職員に質問した際に市販の参考書を示した旨答述するところ、上記イの(ホ)のとおり、本件事務職員が提示した可能性がある年版の市販の参考書には、資本等の金額とは資本の金額又は出資金額と資本積立金額との合計額をいう旨記載されていたのであるから、それにもかかわらず、本件法人担当職員が資本等の金額は資本金、資本積立金及び利益積立金の合計額であるとの回答をするとは考え難い。以上によれば、本件事務職員の上記イの(イ)のEの答述を採用することはできず、ほかに請求人主張の事実を認めるに足りる証拠はない。
 かえって、みなし配当の額は、交付金銭等の合計額がその法人の資本等の金額のうち取得株式に対応する部分の金額を超えるときのその超える部分の金額であること、資本等の金額は、資本の金額又は出資金額と資本積立金額との合計額をいう旨法人税法に明確に規定されていることに加え、上記イの(ロ)のA及び同(ハ)のBのとおり、本件個人担当職員及び本件法人担当職員は、いずれも請求人の主張する内容の指導を行ったことを否定する旨の答述をするところ、本件個人担当職員の答述は、相談を受けた場合の対応要領について具体的なものであること、本件法人担当職員の答述も、本件法人担当職員が所持する大学ノートの記載(上記イの(ニ))によって裏付けられていることを併せ考えると、本件個人担当職員及び本件法人担当職員の答述は信用することができ、これらの答述によれば、両職員が本件事務職員に対し、請求人主張の内容の指導を行った事実はなかったものと認められる。
 したがって、信義誠実の原則に反する旨の請求人の主張は、請求人が信頼したとする指導の事実がなかったと認められる以上、前提を欠き、採用することはできない。

(2) 争点2(自己株式の取得対価の一部がみなし配当の額に該当するか否か)について

イ 法令解釈
 所得税法第25条第1項第5号は、法人の株主等が当該法人の自己株式の取得により金銭等の交付を受けた場合において、その金銭等の額がその法人の資本等の金額に対応する部分の金額を超えるときは、その超える部分の金額は、利益の配当又は剰余金の分配の額とみなす旨規定しているところ、このみなし配当の課税は、法人がその利益を留保していた場合に、その留保利益(利益積立金額)に相当する資産が、自己株式の取得等の一定の事由により株主等に帰属したときには、それは各期に生じた利益をその都度、利益の分配として配当した場合と同じ性質を有すると考えられるので、これについて通常の利益配当の場合と同様の課税をしようとするものであると解される。
ロ 判断
(イ) 請求人は、時価に比して高額な自己株式の買取りが行われた場合には、当該高額な部分については法人税法上寄附金とみなされ、当該株式の譲渡人にとっては、法人からの贈与等として一時所得等に該当することになるから、みなし配当として源泉徴収の対象となるような配当所得とはならないと主張するものと解される。
 そこで、本件取引の対価が時価に比して高額であるか否かについて検討する。
 法人税法第37条第8項は、資産の低廉譲渡があったときの取扱いについて、その低廉となる部分のうちで実質的に贈与をしたと認められる金額は、同条第7項の寄附金の額に含まれることを確認的に示した条項とみるべきであり、また、同条第7項及び第8項の規定からすると、資産の高価買入れについても、寄附金の額に係る判断をするに当たって、低廉譲渡と区別すべき理由は認められず、資産の取得対価がその資産を取得した時における価額(時価)と比べて高額である場合、その高価となる部分のうちで実質的に贈与をしたと認められる金額は、同条第7項の寄附金の額に含まれると解される。
 そして、取引の対象資産が上場有価証券等以外の株式である場合、ここでいう時価は、一般的には売買実例、純資産価額又は財産評価基本通達に基づいた評価額等を参考として決定した価額であると解される。ただし、これら評価額等の額はあくまで同種又は類似の取引における参考価額であり、当該取引における株式の価額が上記評価額等の額とは異なったとしても、当該取引における様々な条件を前提として、その価額に経済的合理性があると客観的に判断される限り、税法上その価額は、正常な取引に基づいたものであるとして容認されるものと解される。
 当審判所の調査によれば、Sは、異議審理庁に対し、本件株式を取得した理由、経緯等について、1会社分割を検討していたことから同族支配をすることが望ましいと判断した、2本件株式の1株当たりの買取価額は、Gから20,000円をほのめかされたものの、再三にわたる交渉の結果15,800円となった、3平成16年当時の純資産価額では12,000円から13,000円程度であったため、15,800円は少し高額であると思ったが、2、3年後には株価が上がっていると見込まれたほか、売手市場ではやむを得ないと判断した旨詳細に申述するとともに、これを裏付ける資料として、本件交渉記録を提出しているところ、上記(1)のイの(ヘ)のとおり、本件交渉記録の記載が詳細であり不自然な点は見当たらないこと、当審判所の調査によれば、上記申述に沿う記載があること及び上記1の(2)のロの(ニ)のとおり、請求人は平成19年6月○日に実際に会社分割を行っていることによって裏付けられていることからすれば、同人の申述は十分信用できる。
 そして、Sの上記申述に加え、上記1の(2)のイの(イ)並びに同ロの(ロ)及び (ハ)の各事実によれば、1本件取引は、同族関係者でない第三者であるGとの間で行われたものであること、2その買取価額は、請求人とGとの再三にわたる交渉の末に決定されていること、3本件取引における1株当たりの金額15,800円は、本件取引の約1か月前の平成17年6月9日に、請求人がM社から自社の株式を買い取った際の1株当たりの金額13,025円に比べて若干高いものの、これに近い金額である上、本件株式を取得するに至ったのは、請求人が、平成16年当時に会社分割を検討し、同族支配が望ましいと判断したことによるものであり、このような場合に、株式をある程度売主にとって有利な条件で買い入れることも通常の経済取引としての合理性を有するといえることを総合考慮すると、本件取引における1株当たりの金額15,800円には、経済的合理性があると認めるのが相当である。
 そうすると、本件取引における1株当たりの金額15,800円は、正常な取引に基づく時価、すなわち適正価額と認められ、時価に比して高額な自己株式の買取りは行われていないというべきであるから、請求人の主張は採用できない。
(ロ) 上記1の(2)のイの(イ)のとおり、請求人は、Gと本件契約を締結し、本件株式の譲受対価として○○○○円を支払ったのであるから、当該金員は、上記イに掲げる所得税法第25条第1項第5号に規定する法人の株主等が当該法人の自己株式の取得により金銭等の交付を受けた場合に該当し、請求人がGに支払った金銭の額のうち、請求人の資本等の金額に対応する部分○○○○円を超える部分の金額○○○○円は、みなし配当の額に該当する。
 したがって、原処分のうち納税告知処分に違法はない。

(3) 不納付加算税の賦課決定処分を含め、原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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