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(平21.3.19、裁決事例集No.77 222頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、その設置する救急病院等に勤務する医師、看護師、介護士及び事務員に支給した宿直料について、所得税基本通達28−1《宿日直料》(以下「本件通達」という。)に定める宿直料又は日直料の一部を非課税とする取扱い(以下「本件取扱い」という。)の適用があるとして、夜間の勤務1回につき4,000円までの金額を課税の対象としていなかったところ、原処分庁が、当該夜間の勤務も通常の勤務であるから本件取扱いの適用がないとして行った原処分に対し、請求人が、本件取扱いは、夜間の勤務により生ずる追加的費用の弁償については課税しない趣旨で定められたものであるから、夜間の勤務である宿直については一律に適用されるとして、原処分の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、平成19年9月26日付で、別紙1及び別紙2の「納税告知処分」欄及び「賦課決定処分」欄記載のとおり、給与所得の源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)の各納税告知処分及び不納付加算税の各賦課決定処分をした。
ロ 請求人は、これらの処分を不服として平成19年11月22日及び同月27日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成20年2月19日付で別紙1及び別紙2の「異議決定」欄記載のとおり、原処分の一部を取り消す異議決定をした。
ハ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成20年3月18日に審査請求をした。

(3) 関係法令

イ 所得税法第28条《給与所得》第1項は、給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下「給与等」という。)に係る所得をいう旨規定している。
ロ 本件通達は、宿直料又は日直料(以下「宿日直料」という。)は給与等に該当する旨、ただし、次のいずれかに該当する宿日直料を除き、その支給の基因となった勤務1回につき支給される金額(宿直又は日直の勤務(以下「宿日直勤務」という。)をすることにより支給される食事の価額を除く。)のうち、4,000円(宿日直勤務をすることにより支給される食事がある場合には、4,000円からその食事の価額を控除した残額)までの部分については、課税しないものとする旨定めている。
(イ) 休日又は夜間の留守番だけを行うために雇用された者及びその場所に居住し、休日又は夜間の留守番をも含めた勤務を行うものとして雇用された者に当該留守番に相当する勤務について支給される宿日直料
(ロ) 宿日直勤務をその者の通常の勤務時間内の勤務として行った者及びこれらの勤務をしたことにより代日休暇が与えられる者に支給される宿日直料
(ハ) 宿日直勤務をする者の通常の給与等の額に比例した金額又は当該給与等の額に比例した金額に近似するように当該給与等の額の階級区分等に応じて定められた金額(以下「給与比例額」という。)により支給される宿日直料(当該宿日直料が給与比例額とそれ以外の金額との合計額により支給されるものである場合には、給与比例額の部分に限る。)

(4) 当事者間に争いがなく、証拠により容易に認定できる事実等

イ A病院は、請求人が設置する病院であり、B施設は、請求人が設置する介護老人保健施設である。
ロ A病院関係
(イ) A病院は、内科、外科等を診療科目とする入院設備○床を有し、救急病院等を定める省令第1条《医療機関》に規定する救急病院である。
 なお、救急病院等を定める省令第1条が規定する救急病院とは、救急医療について相当の知識及び経験を有する医師が常時診療に従事している等の基準に該当するものとして、都道府県知事が、救急隊により搬送される傷病者に関する医療を担当する医療機関として認定した病院をいうとされている。
(ロ) A病院は、救急病院として救急患者に対処するため、また、入院患者の容態の急変等に対処するため、夜間においても必要な勤務者を確保していた。具体的には、1A病院に勤務する医師並びに看護師及び介護士(以下「看護師等」という。)が、午後5時から翌日午前9時までの勤務、2C、D及びEの3名(以下、この3名を「本件各事務員」という。)が午後5時30分から翌日午前8時30分までの勤務をしていた(以下、これら夜間の勤務を「本件夜間勤務」という。)。
(ハ) A病院は、夜間に救急隊(消防)から傷病者の発生等の連絡を受けた場合、対応できる状態であれば傷病者を受け入れ、本件夜間勤務の医師及び看護師等が対応していた。
 本件各事務員は、輪番制で本件夜間勤務をし、救急隊(消防)との連絡対応や救急来院者の対応等の業務を行っていた。
(ニ) 看護師等及び本件各事務員は、あらかじめ作成された勤務の予定表に基づき、本件夜間勤務のほか昼間の勤務(以下「日勤」という。)をしていた。
ハ B施設関係
(イ) B施設は、入所定員○名の介護老人保健施設で、入所者等に療養・看護・介護のケアサービスを提供している。
(ロ) B施設では、夜間における入所者の体調の急変等に対処するため、B施設に勤務する看護師等が、本件夜間勤務をしていた。
(ハ) 看護師等は、あらかじめ作成された勤務の予定表に基づき、本件夜間勤務のほか日勤をしていた。
ニ 請求人は、1A病院に勤務する医師及び看護師等、2本件各事務員並びに3B施設に勤務する看護師等の本件夜間勤務に対し、職種、給与態様(月給、日給、時給の別)及び習熟度等による単価に基づき、「日宿手当」名目で手当を支給していた(以下、この支給された「日宿手当」名目の手当を「本件日宿手当」という。)。
ホ 請求人は、本件日宿手当に本件取扱いが適用されるとして、本件夜間勤務1回につき4,000円までの部分について、源泉所得税を徴収していなかった。

(5) 争点

 本件日宿手当に本件取扱いが適用されるか否か。

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2 主張

(1) 原処分庁

 本件通達は、「宿日直勤務をその者の通常の勤務時間内の勤務として行った者」に対し支給される宿日直料には、本件取扱いを適用しない旨定めているところ、請求人に勤務する医師、看護師等及び本件各事務員の本件夜間勤務は、通常の勤務時間内の勤務が単に夜間という時間帯に行われたものであると認められる。
 したがって、本件日宿手当は、「宿日直勤務をその者の通常の勤務時間内の勤務として行った者」に対し支給される宿日直料に該当することから、本件日宿手当に本件取扱いの適用はない。

(2) 請求人

 事業所得の金額は、総収入金額から必要経費を控除して算出されるが、給与所得の金額は、事務の簡素化、徴収の容易さ等により、一律にみなし必要経費を控除して算出される。このみなし必要経費とは、給与所得控除額、通勤手当などであるが、これらは、給与所得者の実費支弁を一律に規定したもので、給与所得者の仕事の内容及びその責任の軽重などを考慮したものではない。
 宿直料についても、宿直をすることにより増加する費用(例えば、食事代や寝間着、洗面具等の消耗品、通信費の費用等)の弁償として、通勤手当等と同様に実費支弁の性格を有している。
 そして、本件取扱いは、宿日直勤務について、給与所得者の仕事の内容及び労働の密度によって、本件通達の適用、不適用を判断することが適当でないことから、給与所得者の仕事の内容及びその責任の軽重などにかかわらず、実費支弁の性格を有する宿日直料について、一律4,000円までを給与所得の必要経費とみなし、非課税とする旨定めたものと解される。
 原処分庁は、夜間の留守番程度の業務を宿直と解しているが、宿直とは、夜間の勤務であり、夜間の勤務でない宿直はない。本件通達でいう「通常の勤務」とは、昼間の勤務であり、昼間の勤務と比べて、「通常の勤務」でない夜間の勤務をすることにより費用が増加するかどうかで判断すべきである。
 したがって、請求人に勤務する医師、看護師等及び本件各事務員が、本件通達でいう「通常の勤務」でない夜間の勤務、すなわち宿直をした際の追加的費用の弁償のために支給された本件日宿手当については、本件取扱いを適用して、本件日宿手当のうち勤務1回につき4,000円までの部分を非課税とすべきである。

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3 判断

(1) 争点について

イ 本件通達の解釈について
(イ) 本件通達は、宿日直料が所得税法第28条第1項に規定する給与等に該当することを明らかにした上で、上記1(3)ロ(イ)から(ハ)までに該当する宿日直料を除き、宿日直勤務1回につき4,000円までの部分については所得税を課税しない旨定めているところ、本件通達が、ただし書において、課税しない宿日直料の対象となる宿日直勤務から1本来の職務として行ったもの、2通常の勤務時間に行ったもの、3代日休暇が与えられるもの及び4給与比例額により支給されるものを除いていることからすると、本件取扱いの適用対象とされる宿日直勤務とは、所定労働時間外又は休日において、本来の業務に従事しないで行う構内巡視、文書等の収受又は非常事態に備えての待機などをいうものと解される。
 そして、本件通達の定めにより課税の対象とされない宿日直料は、上記のとおり、所得税法に対する例外的取扱いであるから、当該宿日直料の適用に当たっては、本件通達が明示している範囲に限定して解するのが相当である。
(ロ) この点に関して、請求人は、本件通達は、宿直料が実費支弁の性格を有するので、宿直における仕事の内容及びその責任の軽重などにかかわらず一律4,000円までを非課税とすることを定めたものであり、本件通達でいう宿直とは夜間の勤務をいう旨主張する。
 しかしながら、本件通達は、本件取扱いの適用対象とされる宿日直勤務から、上記1(3)ロ(イ)から(ハ)までに該当する宿日直料を除いているのであるから、宿日直料に実費弁償としての性格があるとしても、夜間行われる勤務であるからといって直ちに本件取扱いの適用対象とされる宿日直勤務に該当するということはできず、本件通達が夜間の勤務1回について一律4,000円までを非課税とする旨を定めていると解することはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用できない。
ロ 本件日宿手当に本件取扱いが適用されるか否かについて
 上記イに基づき、本件日宿手当について審理したところ、以下のとおりである。
(イ) A病院の医師の本件日宿手当について
 A病院は、上記1(4)ロ(イ)から(ハ)までのとおり、救急病院として、救急隊(消防)から傷病者の発生等の連絡を受けた場合、対応できる状態であれば傷病者を受け入れ、本件夜間勤務の医師がその治療又は応急的な処置等をし、入院患者の病状の急変等に対しても、本件夜間勤務の医師が対処していたことが認められる。
 したがって、本件夜間勤務の医師は、本件夜間勤務においても、本来の職務である医療行為に従事していたと認められるから、当該医師に対して支給された本件日宿手当には、本件取扱いの適用はなく、そのすべてが課税の対象となる。
(ロ) A病院の看護師等の本件日宿手当について
 A病院の看護師等の勤務は、上記1(4)ロ(ニ)のとおり、日勤と本件夜間勤務を組み合わせた勤務ローテーションによっているところ、当該看護師等は、上記1(4)ロ(ロ)及び(ハ)のとおり、本件夜間勤務においても、救急隊(消防)からの連絡等により受け入れた傷病者への対応等の業務に従事していたことが認められる。
 したがって、看護師等は、本件夜間勤務においても、本来の職務に従事していたと認められるから、看護師等に対して支給された本件日宿手当には、本件取扱いの適用はなく、そのすべてが課税の対象となる。
(ハ) A病院の本件各事務員の本件日宿手当について
 A病院の本件各事務員の勤務は、上記1(4)ロ(ニ)のとおり、日勤と本件夜間勤務を組み合わせた勤務ローテーションによっているところ、本件各事務員は、上記1(4)ロ(ロ)及び(ハ)のとおり、救急隊(消防)との連絡対応や救急来院者の対応等の業務を行っていたことが認められ、その業務は、上記(イ)の本件夜間勤務の医師の業務と相当程度関連するものであることが認められる。
 したがって、本件各事務員は、本件夜間勤務においても、本来の職務に従事していたと認められるから、本件各事務員に対して支給された本件日宿手当には、本件取扱いの適用はなく、そのすべてが課税の対象となる。
(ニ) B施設の看護師等の本件日宿手当について
 介護老人保健施設としてのB施設は、入所者等に対して療養・看護・介護のケアサービスを提供していることが認められるところ、その看護師等の勤務は、上記1(4)ハ(ロ)及び(ハ)のとおり、日勤と本件夜間勤務を組み合わせた勤務ローテーションによっており、看護師等は、本件夜間勤務においても、本来の職務である上記ケアサービスに従事していたと認められる。
 したがって、看護師等に対して支給された本件日宿手当には、本件取扱いの適用はなく、そのすべてが課税の対象となる。

(2) 結論

 以上のとおり、原処分には、争点について、これを取り消すべき理由はない。
 また、原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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