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(平21.6.17、裁決事例集No.77 469頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が審査請求人(以下「請求人」という。)に対して行った消費税及び地方消費税の更正処分並びに過少申告加算税の賦課決定処分について、請求人がこれらの処分の違法を理由としてその全部の取消しを求めた事案であり、争点は次の2点である。

争点1 調査の手続に違法があるか否か。

争点2 後記本件公演は、請求人が行った課税資産の譲渡等であるか否か。

(2) 審査請求に至る経緯

 審査請求(平成20年8月8日)に至る経緯は、別表のとおりである。

(3) 関係法令

 関係法令は、別紙のとおりである。

(4) 基礎事実

イ 平成17年12月○日に、K公演会場において伝統芸能の催しが行われた(以下、この催しを「第11回公演」という。)。
ロ 平成18年12月○日に、K公演会場において伝統芸能の催しが行われた(以下、この催しを「第12回公演」といい、第11回公演と併せて「本件公演」という。)。

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2 主張及び判断

(1) 争点1(調査の手続に違法があるか否か。)について

イ 主張

原処分庁 請求人
 原処分に係る調査(以下「本件調査」という。)の担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)は、次のとおり消費税法及び国税通則法の規定に基づき本件調査を適法に行っている。  本件調査担当職員は、次のとおり違法な調査を行っている。
(イ) 税務調査に当たり、納税者に対して調査理由を開示しなければならない旨を定めた法令上の規定はないので、具体的な調査理由を開示することなく調査を行っても違法ではない。 (イ) 本件調査担当職員は、具体的な調査理由について開示することなく調査を行った。
 なお、本件調査担当職員は、請求人に対して調査対象税目及び調査対象年分等の告知を行っている。  なお、本件調査担当職員は、請求人に対して消費税の調査を行うこと及び調査対象年分についての説明を行っていない。
(ロ) 質問検査権の行使に当たって、本件調査担当職員の判断に合理性を欠いた点は認められず、また、請求人が主張するような事実はない。 (ロ) 本件調査担当職員は、次のとおり質問検査権を濫用して調査を行った。
A 請求人の取引先等に対する調査は、消費税法の規定による質問検査権に基づいて行ったものである。 A 本件調査担当職員は、請求人に対する調査を行うことなく、請求人の取引先等であるK公演会場を運営、管理するM社に対して調査を行った。
B 本件調査担当職員が、請求人に対して、請求人の税務代理人であるL税理士の解任を迫った事実はない。 B 本件調査担当職員は、請求人に「あなたは、L税理士を税務代理人とされていますが、本当にそれでよろしいですか。」と電話し、L税理士の解任を迫った。

ロ 判断
(イ) 認定事実
A 本件調査担当職員は、平成17年1月1日から平成17年12月31日までの課税期間(以下「平成17年課税期間」という。)及び平成18年1月1日から平成18年12月31日までの課税期間(以下「平成18年課税期間」という。)の消費税について調査をする旨を請求人に対して告知した(当審判所の調査)。
B 本件調査担当職員は、調査理由について、申告内容の確認である旨を請求人に対して告げた(原処分関係資料)。
C 本件調査担当職員は、平成19年8月17日に、本件公演が請求人の行った課税資産の譲渡等であるか否かを確認するためにM社に対する調査(以下「本件取引先調査」という。)を行った(当審判所の調査)。
(ロ) 税務調査における質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益の衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、調査権限ある税務職員の合理的な選択にゆだねられていると解される。
(ハ) 請求人は、本件調査担当職員が具体的な調査理由について開示することなく調査を行ったこと、また、請求人に対して消費税の調査を行うこと及び調査対象年分についての説明を行わなかったことをもって、調査手続に違法がある旨主張する。
 しかしながら、質問検査権に基づいて行われる税務調査は、適正な租税負担の実現のために行うものであるから、申告がない場合又は過少申告の疑いが存在する場合だけでなくそのような疑いが明らかでない場合でも、申告の真実性、正確性を確保するために行い得ると解されており、その際に、納税者に対して個別具体的な調査理由を開示することは法律上の要件とされていない。
 これを本件についてみると、本件調査担当職員は、請求人に対し、前記(イ)のAのとおり、平成17年課税期間及び平成18年課税期間の消費税について調査をする旨の告知をしていること、また、前記(イ)のBのとおり、調査理由について申告内容の確認である旨を告げていることからすると、それ以上の具体的な調査理由を開示しなかったとしても、そのことをもって、本件調査の手続に違法な点があったということはできない。
(ニ) 請求人は、本件調査担当職員が行った本件取引先調査をもって、調査手続に違法がある旨主張する。
 しかしながら、質問検査権に基づく調査において、その調査をどのように進めていくかについて定めた法令上の規定はないから、前記(ロ)のとおり、当該調査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、調査担当職員の合理的な選択にゆだねられていると解されるところ、取引先に対する調査については、納税者本人に対する調査と同様に適正な租税負担を実現するために必要な資料を的確に収集することを目的に行われるものであって、これを行うかどうかは、納税者の事業内容、申告内容、調査に対する協力度等その納税者の個別事情からみて、調査権限を有する税務職員の合理的な選択にゆだねられていると解するのが相当である。
 これを本件についてみると、本件取引先調査は、前記(イ)のCのとおり、本件公演が請求人の行った課税資産の譲渡等であるか否かを確認するために行われたものであることからすれば、本件調査の手続に違法な点があったということはできない。
(ホ) 請求人は、本件調査担当職員がL税理士の解任を迫ったことをもって、質問検査権の濫用があった旨主張するが、請求人からはその事実を認めるに足る証拠の提出がなく、また、当審判所の調査によっても、そのような言動等があった事実は確認できなかった。
(ヘ) 以上のとおり、調査の手続に違法が存在するとの請求人の主張には、いずれも理由がない。

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(2) 争点2(本件公演は、請求人が行った課税資産の譲渡等であるか否か。)について

イ 主張

原処分庁 請求人
 本件公演は、次のことから請求人が行った課税資産の譲渡等である。
(イ) 請求人は、本件公演の日程の決定、スケジュールの作成、会場の手配、出演者の交渉・手配、金銭の支払を行っている。
(ロ) 請求人は、平成17年分及び平成18年分の所得税の確定申告において、本件公演に係る損失額を広告宣伝費として必要経費に算入している。
 本件公演は、人格なき社団である本件団体が行ったものであり、請求人が行った課税資産の譲渡等ではない。
(ハ) 請求人は、請求人が代表を務める団体(以下「本件団体」という。)を人格なき社団と主張するが、以下のことから本件団体は人格なき社団とは認められない。  なお、本件団体は、次のとおり人格なき社団の要件を満たしている。
A 本件団体の規約には、業務執行機関、当該機関及び役員の選任方法、当該機関の業務内容、財産の管理、決算報告についての記載がなく、団体としての主要な点が確定していない。 (イ) 団体としての主要な点は、本件団体の規約と慣習によって確定している。
B 組織によって財産の管理が行われていない。 (ロ) 本件団体の事務局長であるNは、本件団体の財産として、本件団体名義の預金を管理しており、請求人の預金とは区別されている。
C 本件団体の会員が、請求人がいなくなれば本件団体がなくなる旨申述していることから、構成員の変更にかかわらず、団体そのものが存続するとは認められない。 (ハ) 本件団体は、構成員の変更にかかわらず、団体として存続する。

ロ 判断
(イ) 認定事実
A 「Rの会」の名称をもって行われた伝統芸能の催し(本件公演を含む。以下「本件催し」という。)は、平成7年から毎年12月に開催されており、請求人は、平成15年に行われた本件催しの収入として○○○○円、平成16年に行われた本件催しの収入として○○○○円を、それぞれ平成15年分及び平成16年分の収支内訳書の「売上(収入)金額の明細」欄に記載して、所得税の確定申告書とともに原処分庁へ提出している(当審判所の調査、原処分関係資料)。
B 本件公演に係るK公演会場の使用申込書には、「住所」欄にP市Q町○−○、「氏名」欄にS(請求人)と記載され、本件団体の名称の記載はなく、当該申込みは請求人自身が行っている(当審判所の調査、本件団体の事務局長であると自認するNの当審判所に対する答述(以下「Nの答述」という。)、Nから原処分庁に提出された回答文書(平成19年8月7日付の調査依頼に対する回答として提出されたもの。))。
C 本件催しに係る入場券の販売代金は、入場券の購入者が、1後記本件預金に振り込む、2請求人に現金を手渡す、あるいは、3請求人あてに現金書留で郵送するという方法により受領する(当審判所の調査、Nの答述)。
 なお、N自らが、入場券の購入者から本件催しに係る入場券の販売代金を現金で受領することはほとんどなく、また、Nが同代金を受領したとしてもすぐに請求人に渡している(当審判所の調査、Nの答述)。
D T銀行U支店のRの会代表S(請求人)名義の普通預金(口座番号○○○○)(平成17年○月○日に同行V支店の普通預金(口座番号○○○○)が移管されたもので、以下「本件預金」という。)は、平成7年8月28日に開設され、本件催しに係る入場券の購入者の一部からその販売代金が振り込まれている(当審判所の調査)。
 なお、請求人には、第11回公演に係る入場券の購入者からその購入代金が初めて本件預金に振り込まれる直前に有していた同預金の残高相当額(以下「本件預金残高相当額」という。)を受領した形跡がない(当審判所の調査)。
E 請求人は、平成15年12月18日に2,800,000円、平成16年12月10日に3,620,000円、平成17年12月15日に2,000,000円、平成18年12月8日に2,600,000円、平成19年12月7日に1,300,000円、平成20年12月12日に3,300,000円及び同月18日に3,200,000円を、本件預金からそれぞれ現金で払い出した(当審判所の調査)。
F 本件預金の届出住所及び届出印鑑は、口座開設から平成21年2月9日に請求人がこれらを変更するまでの間、請求人の住所地であり、また、請求人自らが使用している印章であった(当審判所の調査)。
G 本件催しの出演者に対する出演料等の支払に当たっては、出演者に対し明細書を交付しているが、同明細書に記載された支払者は、「S(請求人)」となっており、本件団体の名称の記載はない(当審判所の調査、Nの答述)。
 なお、請求人も本件公演の出演者であるが、請求人への本件公演に係る出演料等の支払はない(当審判所の調査、Nの答述)。
H 本件公演により発生した損失の額は、請求人の平成17年分又は平成18年分の事業所得の金額の計算上、広告宣伝費として、それぞれ必要経費の額に算入されている(当審判所の調査、原処分関係資料、L税理士の本件調査における申述)。
I 本件公演の際に来場者に配付されたパンフレット(第11回Rの会・第12回Rの会)のあいさつ文の末尾には、いずれも「S(請求人)」と記載され、「Rの会 代表 S(請求人)」とは記載されていない(当審判所の調査)。
(ロ) 所得税法第12条《実質所得者課税の原則》は、資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であって、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受するものに帰属するものとして、この法律を適用する旨規定し、消費税法第13条も同旨の規定をしている。
 そして、消費税法第13条に規定する資産の譲渡等に係る対価を享受する者とは、その対価を受けるべき正当な権利者をいうものと解されるから、資産の譲渡等に係る対価を実質的に享受している者がだれであるかにより判定すべきである。
(ハ) これを本件についてみると、本件催しは、前記(イ)のAのとおり、平成7年から毎年12月に行われ、本件公演前の平成15年及び平成16年に行われた本件催しは請求人が主催したとして平成15年分及び平成16年分の所得税の確定申告を行っているところ、本件公演は、1本件公演に係る会場の手配、出演料の支払といった主要な事項については、前記(イ)のB及びGのとおり、請求人の個人名により行っており、平成16年までに行われた本件催しと何ら異なることがないこと、2本件公演に係る入場券の販売代金の取扱いは、前記(イ)のCのとおり、平成16年までに行われた本件催しと同様の取扱いがなされていること、3一般に公演が行われる際に交付されるパンフレットの「あいさつ文」には、主催が団体による場合には、団体の代表者のあいさつとしての明示があるところ、前記(イ)のIのとおり、本件公演の際に来場者に配付されたパンフレットの「あいさつ文」には、「S(請求人)」と請求人の個人名のみの記載があること、4請求人は、本件公演の出演者であるところ、前記(イ)のGのとおり、本件公演が請求人以外により主催されたとした場合に、通常支払われることとなる出演料を受領していないこと及び5本件公演により発生した損失の額を、前記(イ)のHのとおり、請求人の事業所得の金額の計算上、必要経費の額に算入していることからすれば、本件公演の主催者と平成15年及び平成16年に行われた本件催しの主催者は同一であると推認される。
 また、本件預金は、本件公演に係る金銭管理を行っていたとするNが、本件団体の財産は本件預金のみであり、本件団体の収入及び費用の支払はすべて本件預金を通じて、同人が行っている旨の答述を行うものの、前記(イ)のEのとおり、本件預金からのすべての出金を請求人自らが行っていることに加えて、出金に必要な印鑑についても前記(イ)のFのとおり請求人のものであることからすると、本件預金の管理はNではなく請求人が行っていたと認めるのが相当であり、さらに、請求人には、前記(イ)のDのとおり、本件預金の帰属が請求人から本件団体に移転したとすれば請求人に交付されるべき本件預金残高相当額を受領した形跡がないことからすると、本件預金は請求人に帰属していたと推認することができる。
 そうすると、本件公演の主催者が平成15年及び平成16年に行われた本件催しの主催者である請求人から本件団体に変更されたと認めることはできず、本件公演は、請求人が行っていたというべきであり、請求人が本件公演に係る資産の譲渡等に係る対価を享受していると認められるから、請求人が行った課税資産の譲渡等であるとするのが相当である。
(ニ) 請求人は、人格なき社団である本件団体が本件公演を行った旨主張するが、人格なき社団に当たるというためには、団体としての組織を備え、そこには多数決の原則が行われ、構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し、そして、その組織によって代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確立しているものでなければならないと解されるところ、当審判所の調査において、本件団体の事務局長であると自認するNが、本件団体の規約、本件団体の総会の議事録及び本件団体の活動を証する資料について、その存在を明確に示すことができないこと並びに前記(ハ)のとおり本件団体の唯一の財産であるとする本件預金をNが管理していたとは認められないことからすると、本件団体が人格なき社団であるとは到底認めることはできず、請求人の主張は採用することができない。

(3) 過少申告加算税の賦課決定処分を含め、原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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