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(平21.4.21、裁決事例集No.77 495頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、不動産貸付業を営んでいる審査請求人(以下「請求人」という。)が、建物の賃貸借契約の終了に伴い賃借人から原状回復費用として受領した合意金を仮受金とし、また、当該合意金は、課税資産の譲渡等の対価に該当しないとして、所得税並びに消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の各申告をしたところ、原処分庁が、当該合意金は当該賃貸借契約が終了した年分の不動産所得の総収入金額及び課税期間の課税資産の譲渡等の対価の額に算入すべきであるとして、所得税並びに消費税等の更正処分等を行ったのに対し、請求人がこれらの処分の違法を理由にその全部の取消しを求めた事案であり、争点は次の3点である。

争点1 後記本件合意金は、消費税の課税資産の譲渡等の対価に該当するか否か。

争点2 本件合意金は、平成17年分の不動産所得の総収入金額に算入すべきか否か。

争点3 本件合意金は、後記平成17年課税期間の課税資産の譲渡等の対価の額に算入すべきか否か。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 所得税
(イ) 請求人は、平成17年分の青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
(ロ) 原処分庁は、平成20年3月4日付で別表1の「更正処分等」欄のとおり更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
(ハ) 請求人は、これらの処分を不服として、平成20年4月28日に審査請求をした。
ロ 消費税等
(イ) 請求人は、平成17年1月1日から平成17年12月31日までの課税期間(以下「平成17年課税期間」という。)の確定申告書に別表2の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
(ロ) 原処分庁は、平成20年3月4日付で別表2の「更正処分等」欄のとおり更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件消費税更正処分等」という。)をした。
(ハ) 請求人は、これらの処分を不服として、平成20年4月30日に異議申立てをした。
(ニ) 異議審理庁は、本件消費税更正処分等に対する異議申立てについて、国税通則法(以下「通則法」という。)第89条《合意によるみなす審査請求》第1項の規定により審査請求として取り扱うことが適当であると認め、平成20年5月14日付で請求人に同意を求めたところ、請求人は同月20日に同意したので、同日審査請求がされたものとみなされた。
ハ そこで、前記イの(ハ)の審査請求と前記ロの(ニ)の審査請求について併合審理をする。

(3) 関係法令

 関係法令は、別紙1のとおりである。

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(4) 基礎事実

イ 請求人の父であるA(以下「本件賃貸人」という。)は、平成元年2月1日付で、B(以下「本件賃借人」という。)と、本件賃貸人が所有するP市Q町○○番地○(現:P市R町○−○)所在の鉄筋コンクリート造陸屋根5階建の建物(以下「本件建物」という。)の2階部分(以下「本件物件」という。)に係る建物賃貸借契約(以下「本件契約」という。)を締結し、その契約書(以下「本件契約書」という。)には、1本件賃借人は敷金として○○○○円を支払うこと、2敷金は、本件賃借人が本件契約の終了に伴う本件物件の明渡しを完了した場合において、未納の賃貸借料、延滞損害金、違約金及び本件物件の明渡しにおける本件賃借人の負担すべき費用その他本件賃貸人の受領すべき金銭を控除したのち返還すること、3本件賃借人は本件物件の明渡しを行う場合には原状回復の義務を負うことなどが定められている。
ロ 請求人は、平成3年10月○日に本件建物を本件賃貸人から相続により取得した。
ハ 請求人と本件賃借人との間で取り交わした本件契約に関する合意(以下「本件合意」という。)に係る平成17年6月27日付の「合意書」(以下「本件合意書」という。)には、要旨次のとおり記載されている。
(イ) 本件契約が平成17年7月17日をもって終了することを確認する(第2項)。
(ロ) 本件賃借人は、本件契約の締結時に支払った敷金○○○○円(以下「本件敷金」という。)について、本件物件の原状回復費用として充当されることを認める(第3項)。
(ハ) 本件賃借人は、本件物件の原状回復費用として、本件敷金とは別に○○○○円(以下、「本件追加金」といい、本件敷金と併せて「本件合意金」という。)を支払う義務があることを認める(第4項)。
(ニ) 本件賃借人は、請求人に対し、平成17年6月末日限り、本件追加金及び平成17年7月分の日割家賃(管理費を含む。)○○○○円(以下「本件日割家賃」という。)を請求人の指定する口座に振込送金の上支払う(第5項及び第6項)。
(ホ) 請求人は、前記(イ)ないし(ニ)に定める事項を除き、本件賃借人に対する債権をすべて放棄する(第7項)。
(ヘ) 請求人及び本件賃借人は、本件合意書に定めた事項を除き、一切の債権債務関係がないことを相互に確認する(第8項)。
ニ 請求人の平成17年分所得税青色申告決算書(不動産所得用)の貸借対照表(資産負債調)の「仮受金」欄の「12月31日(期末)」欄には、○○○○円と記載されている。

2 主張

 当事者の主張は、別紙2のとおりである。

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3 判断

(1) 争点1(本件合意金は、消費税の課税資産の譲渡等の対価に該当するか否か。)について

イ 法令解釈
(イ) 消費税法第4条第1項は、消費税の課税の対象を「国内において事業者が行った資産の譲渡等」と規定し、同法第2条第1項第8号は、「資産の譲渡等」について「事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供」と規定している。
(ロ) そして、消費税は、消費行為そのものに担税力を見いだすものであり、「対価を得て行われる」消費行為が課税の対象となり得るものであり、ここにいう「役務の提供」の範囲は、「対価を得て行われる」と認められる「便益」の提供等、消費の対象となる「サービスの提供」を広く包含すると解される。
ロ これを本件についてみると、次のとおりである。
(イ) 本件合意書は、その内容からすると、本件契約が平成17年7月17日をもって終了することを前提とし、敷金返還請求権と原状回復費用との関係を整理するための合意を表したものであることは明らかであり、本件賃借人が、第3項において、敷金が原状回復の費用に充当されることを認め、第4項において、原状回復費用としてさらに○○○○円を支払うことを認め、その余の債務関係が存在しないことを確認(第7項及び第8項)している。
(ロ) このことからすると、本件合意は、請求人と本件賃借人の間において、本件賃借人の原状回復義務を消滅させる一方で、本件賃借人に一定の経済的負担を負わせること、すなわち、本件賃借人が本件敷金を本件物件の原状回復費用に充当することを認め、さらに本件追加金を支払うことにより、原状回復義務に関わる法律関係を整理したものである。
(ハ) そうすると、請求人は、本件合意により、本来であれば本件賃借人において負担すべきであった「原状回復義務」を消滅させることを「便益」の提供として消費税法上の「役務の提供」を行ったことになり、また、そのために原状回復費用に充当されることとなる本件敷金(○○○○円)と本件追加金(○○○○円)の合計額○○○○円が、本件賃借人の「原状回復義務を消滅させる」という「便益」を提供するための反対給付、すなわち「対価」に該当することから、本件合意金は、消費税の課税資産の譲渡等の対価に該当する。
(ニ) なお、請求人は、本件賃借人は原状回復費用に充当するために本件合意金を請求人に預託したもので、原状回復工事をしなくてよいという「便益」は享受していないし、仮にそれを便益の享受とみても、本件合意金の大部分は原状回復工事業者に支払われるべき性質のものでその対価ではなく、本件合意金は預り金である旨主張する。
 しかしながら、上記(イ)で述べたとおり、本件合意金の支払により、本件賃借人、請求人間にその余の債務関係が存在しないことが確認されており、実際に原状回復工事を行っても、その費用を本件賃借人との間で清算することは予定されていないのであるから、本件賃借人は、本件合意により原状回復義務の消滅という「便益」を受けているというべきであり、本件合意金の大部分が原状回復工事業者に支払われるとしても、それは、当該支払に対する消費税が課税仕入れとして仕入税額控除の対象になり得るものであることを意味するに過ぎない。
 したがって、本件合意金を預り金とする請求人の上記主張には理由がない。

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(2) 争点2(本件合意金は、平成17年分の不動産所得の総収入金額に算入すべきか否か。)について

イ 法令解釈
 所得税法は、一暦年を単位としてその期間ごとに課税所得を計算し、課税を行うこととしており、同法第36条第1項が、この期間中の総収入金額又は収入金額の計算については、「収入すべき金額とする」と定め、「収入した金額とする」としていないことからすると、同法は、現実の収入がなくても、その収入の原因たる権利が確定的に発生した場合には、その時点で所得の実現があったものとして、同権利発生の時期の属する年分の課税所得を計算するという建前(いわゆる権利確定主義)を採用しているものと解される。これは、所得税が、経済的な利得を対象とするものであるから、究極的には実現された収支によってもたらされる所得について課税するのが基本原則であり、ただ、その課税に当たって常に現実収入の時まで課税できないとしたのでは、納税者の恣意を許し、課税の公平を期し難いので、徴税政策上の技術的見地から、収入すべき権利の確定したときをとらえて課税することとしたものであり、ここにいう収入の原因となる権利が確定する時期はそれぞれの権利の特質を考慮し決定されるべきものである。
ロ これを本件についてみると、次のとおりである。
(イ) 不動産所得とは、所得税法第26条第1項において、不動産、不動産の上に存する権利、船舶又は航空機の貸付けによる所得とされているところ、本件合意は、前記(1)のロの(イ)及び(ロ)のとおり、本件契約の終了に伴い、本件賃借人の原状回復義務を消滅させる一方で、請求人の敷金返還義務を消滅させ、それ以外に本件追加金を支払うと合意したものであるが、本件合意は本件契約に密接に関連し、その終了時の法律関係を整理することを内容とするものであり、また、本件敷金及び本件追加金は、いずれも本件物件を次の賃貸借に供するためにその原状回復に費消されるべきものであり、本件物件の賃貸借に関連して収入されるものであることからすれば、当該収入は、不動産の貸付けに関連して得た所得として不動産所得に該当することとなる。
(ロ) そして、本件敷金は、到来確実な明渡し時点において返還すべき性質の金銭で、会計上は「条件付債務」として記帳されている預り金であるが、本件合意により将来の明渡し時点においてその返還請求権を発生させないことを確定させたものであり、また、本件追加金は、本件合意によりその収入すべき時点が到来することは確実になっていることからすると、本件合意金の収入すべき時期は、本件合意書を取り交わした平成17年6月27日とするのが相当である。
 したがって、本件合意金は、平成17年分の不動産所得の総収入金額に算入すべきと認められ、請求人の原状回復工事が完了するまで本件合意金は本件賃借人からの預り金である旨の主張は採用することができない。

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(3) 争点3(本件合意金は、平成17年課税期間の課税資産の譲渡等の対価の額に算入すべきか否か。)について

イ 法令解釈
 通則法第15条《納税義務の成立及びその納付すべき税額の確定》第2項第7号は、消費税は、課税資産の譲渡等をした時に納税義務が成立する旨定めており、消費税法第2条第1項第9号によれば、事業として対価を得て行われる役務の提供もここにいう課税資産の譲渡等に含まれるところ、この課税資産の譲渡等が行われた具体的な時期の判断についても、資産の譲渡等が、「対価を得て行われる」ものであることからすれば、その時期は、課税資産の譲渡による対価や役務の提供による報酬を収受する権利が確定した時点、すなわち、役務の提供については目的物の全部を完成して引渡した日又は役務の全部を完了した日と解されている。
ロ これを本件についてみると、次のとおりである。
 請求人が、前記(1)のロの(ハ)のとおり、本件合意により、本来であれば本件賃借人において負担すべきであった「原状回復義務」を消滅させることにより「役務の提供」を行い、課税資産の譲渡等を行っていることからすると、本件合意による課税資産の譲渡等の時期は、本件合意書を取り交わした平成17年6月27日とするのが相当である。
 したがって、本件合意金は、平成17年課税期間の課税資産の譲渡等の対価の額に算入すべきと認められる。

(4) 過少申告加算税の賦課決定処分を含め、原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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