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(平21.7.6、裁決事例集No.78 15頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、土木工事業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、納税の猶予の申請をしたところ、原処分庁が、納税の猶予の要件に該当しないとして行った原処分に対し、請求人が、その取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成18年11月2日に原処分庁に対し、国税通則法(以下「通則法」という。)第46条《納税の猶予の要件等》第2項に基づき、別表1記載の国税について納税の猶予の申請をした(以下、この申請を「本件猶予申請」という。)。
ロ 原処分庁は、本件猶予申請に対して、平成19年4月24日付で納税の猶予を不許可とする原処分をした。
ハ 請求人は、平成19年6月22日に原処分を不服として異議申立てをしたところ、異議審理庁が同年10月3日付で棄却の異議決定をしたので、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、同月30日に審査請求をした。

(3) 関係法令等

 別紙記載のとおりである。

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(4) 当事者間に争いがなく、証拠により容易に認定できる事実等

イ 本件猶予申請に係る申請書の「納税の猶予を受けようとする理由」欄には、「各月の収支が大幅な赤字の為」と、また、「猶予期間」欄に「18年11月2日から19年11月1日まで」(以下、この本件猶予申請に係る猶予期間を「本件猶予期間」という。)とそれぞれ記載されている。
ロ 請求人は、平成19年4月3日付で上記イの「納税の猶予を受けようとする理由」欄の記載についての補正書を提出したが、この補正書には、「平成12年の○月、C社の倒産によるあおり倒産を生じました。仕事を継続させ、従業員の生活を守る為にも、手形の事故により、発生した保証や関係会社への負債分の支払を、現在も続行中です。銀行の取引きが停止され、仕事を続ける為の資金繰りも、困難を来す状況です。身内からの借入れも、これ以上は望めません。消費税を支払う為の、まとまったお金を用意する手段が有りませんので、納税の猶予を申請致します。」と記載されている。
ハ 本件猶予申請の前提となる事実について
(イ) 請求人は、C社の依頼を受けて、同社に対して額面金額合計○○○○円の約束手形5通(以下「本件各手形」という。)を振り出した。
(ロ) 本件各手形は、C社からD社に対して裏書譲渡されており、手形所持人となったD社が、取引銀行を通じて本件各手形について各満期日に支払呈示をしたが、支払を拒絶された。
(ハ) 平成13年1月22日、E社(D社の100%出資の子会社で、平成18年4月にD社に吸収合併された。)は、C社との間の平成8年12月2日付の信用保証委託契約に基づき、C社の負う本件各手形債務○○○○円をD社に対して代位弁済し、本件各手形を譲り受けた。
(ニ) 平成15年12月18日、E社は、本件各手形の所持人として振出人である請求人に対して、本件各手形の額面金額合計○○○○円及び年6%の割合による金員の支払を求め、F簡易裁判所に対して手形債務金履行請求の調停を申し立てた。
(ホ) 平成16年1月○日、請求人とE社との間で、請求人に手形債務として○○○○円の支払債務が存在し、請求人はE社に対し、同債務のうち360,000円を平成16年2月から平成19年1月まで毎月1万円ずつ分割して弁済すること、同債務から360,000円を控除した残額等の支払方法は平成19年1月以降当事者双方が協議して定める旨の調停が成立した。
(ヘ) 請求人は、上記(ホ)の調停に基づき平成16年9月から平成19年1月まで、及び、平成19年2月以降現在まで、E社に対して、毎月1万円の返済を行っている。

(5) 争点

 請求人は、通則法第46条第2項に規定する納税の猶予の要件を充足しているか否か。

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2 主張

(1) 請求人

 請求人は、平成12年に、取引先であるC社に対し、本件各手形を振り出したが、C社が倒産し、そのあおりを受けて、本件各手形が決済できず、請求人は、手形交換所による取引停止処分を受けた。それ以降、請求人は、取引先が 現金取引のみに限定された上、その手形債務の支払を現在も続行していること、また、その後、請求人の主要な取引先の倒産、廃業又は経営不振により仕事が減少したことから、請求人の年間の売上金額が激減し、平成18年においても回復していないことから消費税を支払うためのまとまった資金を用意できず、国税を一時に納付できない状況にある。そして、このような納付困難な状況は、平成12年の手形不渡事故や請求人の主要な取引先の倒産等に直接基因している。
 したがって、請求人には、通則法第46条第2項の猶予該当事実があり、これに基づき国税を一時に納付できないのであるから、納税の猶予の要件を充足している。
 なお、請求人がC社に対して本件各手形を振り出したのは、請求人がC社に対して売掛金約○○○○円を有していたところ、C社が経営困難に陥り、このまま放置してC社が倒産すれば売掛金が回収できなくなるため、売掛債権を保全するために必要があったことなどの理由によるものであって、本件各手形の振出しについて、請求人に帰責性はない。

(2) 原処分庁

 請求人の主張するC社の倒産という事実をもって、請求人について納付が困難となっていると認定することができない。
 また、請求人が主張する損失発生の原因はC社の依頼を受けて、C社に対し融通手形として本件各手形を振り出したことが原因である。そうすると、不渡事故を起こし手形債務を負うこととなったこと及び取引先が限定されることとなった原因は請求人自身にある。
 したがって、請求人の責めに帰すことができないやむを得ない事由によって売上げの減少が生じたものではないから、請求人は納税の猶予の要件を充足していない。

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3 判断

(1) 納税の猶予の要件について

 通則法第46条第2項に規定する納税の猶予は、1納税者に猶予該当事実があること、2猶予該当事実に基づき、納税者がその国税を一時に納付することができないと認められること、3納税者から国税通則法施行令第15条《納税の猶予の申請手続等》第2項に規定する納税の猶予の申請書が提出されていること、4通則法第46条第1項の規定による納税の猶予の適用を受ける場合でないこと、5原則として、通則法第46条第5項に規定する担保の提供があることのすべての要件を充足する場合に限り、税務署長等がその申請を許可することができるものである。

(2) 「納税者に猶予該当事実があること」について

 上記(1)の納税の猶予の要件の1については、上記1(4)イ及びロからすれば、本件猶予申請に係る申請理由は、通則法第46条第2項第4号又は同項第5号(第4号類似)の猶予該当事実に基づくものではなく、同項第5号(第1号類似)の猶予該当事実に基づくものと認められるので、当該猶予該当事実があるか否かについて審理したところ次のとおりである。
イ 法令解釈等
 通則法第46条第2項は、災害や盗難、病気、事業の休止、事業上の著しい損失等があったために納付すべき国税を一時に納付することができないと認められるときに、その納付することができない金額を限度として、納税者の申請に基づいて納税の猶予をすることができる旨定めているところ、これは、同項に掲げる事実が生じた場合には、不測の出費、あるいは、予定していた入金の不能又は遅延により国税を一時に納付することが困難となる場合が多いと考えられることから、納付することができない金額を限度として、納税を猶予することができることとして、そのような事実が生じた納税者の救済を図ろうとしたものと解される。もっとも、同項の掲げる事実をみれば、いずれも納税者の責に帰すことのできない事実ということができ、また、納付困難となっている納税者の救済という観点だけでなく、滞納となっている国税の早期かつ確実な徴収及び他の納税者との公平という観点からすれば、納付困難の基因となった事実が第三者に対する金銭の贈与等納税者の責に帰すべき事由によるものである場合には、猶予該当事実に当たらないと解するのが相当である。
 したがって、通則法第46条第2項の猶予該当事実とは、納税者の責に帰すことのできない金銭納付を困難ならしめる事実をいうものと解するのが相当である。
ロ これを本件についてみると、請求人がC社に対して振り出した本件各手形は、経営困難に陥ったC社の資金調達のため、請求人とC社との間で手形の原因行為なくして振り出された、いわゆる融通手形であると認められる。
 そして、本件各手形の振出しの経緯をみると、請求人は、主要な取引先の一つであるC社に対して約○○○○円の売掛債権を有していたところ、C社が経営困難に陥り、このままC社が倒産すれば、当該売掛債権が全額回収できなくなることなどから、やむを得ず、本件各手形を振り出したものと認められ、本件各手形の振出しがC社に対する金銭の贈与等と同視できるような特段の事情は窺われない。
 また、請求人とC社との間では、C社が本件各手形の割引によって借入れをし、当該手形の満期日までに借入金を返済することによって、請求人に手形債務を負担させないこととしたものの、その後、C社が倒産したため、請求人が手形債務を弁済しなければならなくなったのであり、このことは、債務保証と類似の関係と認められる。
 そうすると、本件各手形の振出し及びC社の倒産による手形債務の負担について、請求人に帰責性があるということはできない。
ハ 次に、猶予通達第2章第1節1(3)ホは、通則法第46条第2項第1号に類する事実を具体的に例示しているところ、本件のように取引先に対して融通手形を振り出した場合は、例示されている事実のいずれにも当たらない。しかしながら、上記イで述べたとおり、納税の猶予が、災害や盗難、病気、事業の休止、事業上の著しい損失等の事実が生じた場合には、不測の出費、あるいは、予定していた入金の不能又は遅延により国税を一時に納付することが困難となる場合が多いと考えられることから、納付することができない金額を限度として、納税を猶予することができることとして、そのような納税者の救済を図ろうとしたものと解されることからすると、振出人である請求人と受取人であるC社との人的関係や取引上の要請から、やむを得ず融通手形を振り出し、融通手形の受取人であるC社の倒産による手形債務を負うという、不測の事態により資金繰りが困難になったという点で、売掛金等の回収が不能になった場合と同視できるので、本件の場合は、通則法第46条第2項第1号に類する事実として、猶予該当事実に当たると解するのが相当である。

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(3) 「国税を一時に納付することができない」ことについて

イ 上記(1)の納税の猶予の要件の2のうち、「国税を一時に納付することができない」(納付困難)について、猶予通達第2章第1節1(4)ロは、「国税を一時に納付することができない」、すなわち納付困難か否かの判定は、現在納付能力調査に基づいて行う旨定めている。
 具体的には、猶予通達第7章第1節2及び第2節において、現在納付能力調査は、納税の猶予申請に係る猶予期間の始期の前日である調査日において納税の猶予の申請等に係る国税を幾ら納付できるか、納付困難な金額が幾らであるかを判定するための調査であって、納税者の調査日現在における現金、当座預金その他の引出し可能の預貯金等直ちに納税に充てることができる資金の合計額(当座資金)と、当面の事業の継続又は生活の維持に、真に必要と認められるつなぎ資金として、調査日後比較的短期間において、資金の最も窮屈になる日のために留保を必要とする資金を調査し、当座資金からつなぎ資金を差し引いて現在納付可能資金を把握するものとされている。このことは、通則法第46条第2項が、一定の事由により納付困難になった納税者に対する国税の徴収手続を緩和し、納税を猶予することによって当該納税者の救済を図る制度である一方、それは、他の一般の納税者との租税負担の公平の実現の上において認められる納税者救済制度であることを考えれば、調査日現在の当座資金の全額を納税に充てるべきとすることは相当でなく、当座資金から当面の事業の継続又は生活の維持に必要な資金を控除した金額を納税に充てるべき資金とすることが相当であって、また、当面の事業の継続又は生活の維持に必要な資金以外の金額についてまで納税を猶予することは相当でないというべきであるから、当審判所も、上記通達の取扱いは相当であると評価できる。
ロ 調査日について
 本件猶予申請については、同申請の納税の猶予の始期が平成18年11月2日であることから、その前日の同月1日を調査日(以下「本件調査日」という。)として判定することになる。
ハ 当座資金について
 当座資金は、調査日現在における現金、当座預金その他の引き出し可能の預貯金等直ちに支払に充てることのできる資金の合計額とされている。
(イ) 請求人は、当審判所からの、現金、預貯金及びその他有価証券等の容易に換価可能な資産の平成18年11月1日現在における残高の確認の求めに対して、平成21年5月22日、当該残高について、現金(家計分)○○○○円、現金(事業分)○○○○円、普通預金○○○○円の合計○○○○円であった旨回答している。
(ロ) 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、請求人が、上記(イ)以外に引き出し可能な預貯金等を有していたとは認められないことからすると、請求人の本件調査日における当座資金は、別表2の「4当座資金計(23)」欄記載のとおり、○○○○円とみるのが相当である。
ニ つなぎ資金について
 つなぎ資金は、本件調査日である平成18年11月1日から、おおむね1か月以内において資金繰りが最も窮屈になると見込まれる日のために留保を必要とする資金を日を追って計算するものとされている。
(イ) 資金繰りが最も窮屈になると見込まれる日
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、請求人は、毎月5日ころ、経費のうち、材料費、外注費、リース料及び給料の支払をしていることが認められる。このことからすると、資金繰りが最も窮屈になると見込まれる日は、本件調査日後、平成18年11月5日が日曜日であるから、同月6日とみるのが相当である。
(ロ) つなぎ資金の算定
 本件において、つなぎ資金の算定は、本件調査日である平成18年11月1日後、資金繰りが最も窮屈になる日である同月6日のために留保を必要とする資金を計算することになるところ、請求人提出資料によれば、総支出見込額○○○○円及び総収入見込額○○○○円となることから、本件調査日現在におけるつなぎ資金は、別表2の「5差引つなぎ資金(A−B)」欄記載のとおり、○○○○円と認められる。
ホ 現在納付可能資金について
 上記ハの当座資金○○○○円から上記ニのつなぎ資金○○○○円を差し引いた○○○○円が、別表2の「6現在納付可能資金額(45)」欄記載のとおり、現在納付可能資金となる。
ヘ 納付困難について
 以上のとおり、請求人が当審判所に提出した資料を基に算定した現在納付可能資金は、上記ホの○○○○円となるのであるから、請求人は、本件猶予申請に係る国税を一時に納付することができなかったと認められ、別表2の「1税額」欄記載の本件猶予申請に係る国税の額○○○○円から上記ホの現在納付可能資金○○○○円を差し引いた別表2の「7納付困難な税額(16)」欄記載の○○○○円について、請求人は納付困難であったというべきである。
 なお、本件猶予申請に係る国税の額○○○○円は、別表1の順号1の延滞税の額○○○○円、同表順号2の本税の額○○○○円及び延滞税の額○○○○円(計算期間は平成18年4月1日から本件調査日までである。)並びに同表順号3の本税の額○○○○円及び延滞税の額○○○○円(計算期間は平成18年9月1日から本件調査日までである。)の合計額である。

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(4) 「猶予該当事実に基づき納付することができない」ことについて

 上記(1)の納税の猶予の要件の2のうち、「猶予該当事実に基づき納付することができない」(基因関係)について、猶予通達第2章第1節2(2)イ(ホ)は、猶予該当事実に基づく支出又は損失、すなわち猶予該当資金がある場合には、その資金の額が納付困難の原因となっているものとして取り扱う旨定めているところ、猶予該当事実に基づく支出又は損失がなければ、その額と同額の国税を納付できたと考えられるのであるから、その取扱いは相当である。
 そこで、当審判所は、請求人において猶予該当資金が存在するか否かを検討したところ、以下のとおりである。
イ 猶予該当資金について
 猶予該当事実が生じても、それに伴う不測の出費がなければ納付困難との基因関係が認められないのであるから、出費を余儀なくされる部分を猶予該当資金とすべきである。
ロ そうすると、調停によって毎月1万円ずつ手形債務を履行することが決まった本件の場合、本件調査日前1年以内に支出した12万円を支出していなければそれだけ納付できたのであり、また、本件猶予期間中に支払わなければならない12万円を支払わなくて済むのであれば、それだけ本件猶予期間内に納付することのできる金額が増えるのであるから、その合計額240,000円が猶予該当資金となる。
 そして、この額は上記(3)ヘの納付困難な税額を下回るから、納付困難と認められる金額が猶予該当資金を上回る場合の納税の猶予をする金額は猶予該当資金とする旨定めている猶予通達第2章第1節2の定めに従い、当審判所へ提出された資料によって計算した限りにおいては、納税の猶予をする金額は猶予該当資金である240,000円となる。

(5) その他の要件について

 上記(1)の3から5までの納税の猶予の要件については、請求人から本件猶予申請に係る申請書が提出されており、また、本件が、通則法第46条第1項の規定による納税の猶予を受ける場合でないことは明らかである。さらに、通則法第46条第5項は、税務署長等は、納税の猶予をする場合には、その猶予に係る金額に相当する担保を徴さなければならない旨規定しているが、本件における猶予該当資金は500,000円以下であるから、同項ただし書によりこの限りでないこととなる。
 したがって、本件はこれらの要件をすべて充足している。

(6) 結論

 以上によれば、請求人には猶予該当事実があり、猶予該当事実に基づき本件税額を一時に納付することができなかったと認められる。また、請求人は、上記(5)のとおり、通則法第46条第2項に規定する納税の猶予の他の要件もすべて充足していたと認められるのであるから、納税の猶予の要件を充足しているとは認められないとした原処分は違法というべきである

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