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(平21.12.17、裁決事例集No.78 43頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、衣料品販売業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、納税の猶予の申請をしたところ、原処分庁が、請求人には納税の猶予の要件に該当する事実がないとして、納税の猶予不許可処分をしたため、請求人がその全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成19年10月4日に原処分庁に対し、国税通則法(以下「通則法」という。)第46条《納税の猶予の要件等》第2項の規定に基づき、別表1記載の国税について納税の猶予の申請(以下「本件猶予申請」という。)をした。
ロ 原処分庁は、これに対して、平成20年7月3日付で納税の猶予不許可処分(原処分)をした。
ハ 請求人は、平成20年9月1日に原処分を不服として異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年11月27日付で棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成20年12月25日に審査請求をした。

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(3) 関係法令等

 別紙記載のとおりである。

(4) 基礎事実

イ 本件猶予申請に係る申請書(以下「本件猶予申請書」という。)の「納税の猶予を受けようとする理由」欄には、「取引先からの発注の減少と、○○○○などの商業施設の新設による市場の悪化などによる大幅な売上の減少」と、「猶予期間」欄には、「19年10月4日から20年10月3日まで12月間」と、「担保」欄には、「無」と、それぞれ記載されている。
ロ 原処分庁は、平成19年12月21日付及び平成20年2月25日付の「補正通知書」をもって、平成18年10月1日から平成19年9月30日まで(以下「本件調査期間」という。)及び平成17年10月1日から平成18年9月30日まで(以下「本件基準期間」という。)の各期間の請求人の売上金額、収支内訳及び利益(損失)金額についての資料の提出と、担保の提供が必要である旨を、それぞれ請求人に求めた。
ハ 請求人は、平成20年4月14日に、平成17年10月から平成19年9月までの売上金額等を記載した「財務諸表」と題する書面(以下「本件財務諸表」という。)を原処分庁に提出した。
 本件財務諸表によれば、請求人の本件基準期間及び本件調査期間における売上金額、売上総利益及び経常損益は別表2記載のとおりである。
ニ 請求人は、平成21年3月18日に、当審判所に対して、原処分庁の平成21年1月27日付答弁書に対する反論書を提出し、その中の売上金額を説明する資料として、平成17年6月から平成20年12月までの入出金の実績とその後平成21年5月までの支払予定金額を記載した「資金繰り表1」(以下「本件資金繰り表」という。)と題する書面を提出した。
ホ 請求人は、平成21年6月8日及び同年10月21日に、当審判所に対して、平成17年6月1日から平成18年5月31日まで、平成18年6月1日から平成19年5月31日まで及び平成19年6月1日から平成20年5月31日までの各事業年度の総勘定元帳(以下、これらを併せて「本件各総勘定元帳」という。)を提出した。
ヘ 請求人は、平成21年11月24日に、当審判所に対して、平成17年6月から平成20年5月までの月別の合計残高試算表(以下「本件試算表」という。)を提出した。
ト 原処分に係る通知書には、不許可理由として、通則法第46条第2項第4号及び第5号に係る納税の猶予該当事実があるとは認められない旨記載されている。

(5) 争点

 請求人には、納税の猶予該当事実があるか否か。

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2 主張

(1) 請求人

 猶予通達によれば、調査期間以内において損失発生の原因となる事実があり、当該事実の発生した日の特定ができる場合には、その日以降調査日までの間に生じたと認められる損失金額と、基準期間の利益金額のうち損失原因の生じた日以降調査日までの期間に対応する期間の利益金額とを比較して判定を行っても差し支えない旨定められている。
 請求人においては、平成18年11月30日に、主たる取引先の都合で一方的に取引が止められ、売上げが激減したので、同日を損失原因の発生した日と特定できる。そして、この損失原因が売上金額に反映されるのは、請求人の経理処理上1か月遅れることから、上記猶予通達で認められる調査期間は、本件資金繰り表では平成19年1月から同年10月までに相当し、この調査期間に対応する基準期間は、平成18年1月から同年10月までとなる。この基準期間の売上金額は○○○○円、この調査期間の売上金額は○○○○円となることから、2分の1を超えた損失が生じている事実が認められ、通則法46条第2項第4号の「著しい損失を受けた」ことになる。

(2) 原処分庁

 本件猶予申請書に記載された納税の猶予を受けようとする理由の記載内容から、請求人は、通則法第46条第2項第4号又は第5号に係る猶予該当事実があることを理由に、納税の猶予を求めたものと判断した。
イ 原処分時に請求人から提出された本件財務諸表によれば、本件基準期間の経常損益は△○○○○円、売上高は○○○○円となり、本件調査期間の経常損益は○○○○円、売上高は○○○○円となる。
 4号該当事実の有無について、経常損益の比較をすると、「著しい損失」は認められない。また、5号該当(4号類似)事実の有無の判断に当たり、猶予通達に例示されている事業上の著しい損失に類する売上げの減少等とは、通則法第46条第2項第4号の「著しい損失」に類する事実であることから、売上高の2分の1程度の大幅な減少と解されるところ、同様に5号該当(4号類似)事実も認められない。
ロ 請求人の主張によれば、損失原因の発生日を、平成18年11月30日と特定することができる。そして、特定の調査期間を平成18年12月1日から平成19年9月30日までの10か月(以下「本件特定調査期間」という。)とし、この期間に対応する特定の基準期間を平成17年12月1日から平成18年9月30日までの10か月(以下「本件特定基準期間」という。)として判定を行う場合、本件特定基準期間で採用される経常損益と売上高は、本件基準期間の経常損益と売上高をそれぞれ12で除し、これに10を乗じて計算して得られた金額とすることが相当である。
 これにより算出した本件特定基準期間の経常損益は△○○○○円、売上高は○○○○円となり、本件特定調査期間の経常損益は△○○○○円、売上高は○○○○円となる。
 4号該当事実の有無について、経常損益の比較をすると、赤字の額が減少していることから、4号該当事実は認められず、また、売上高を比較すると、売上高の2分の1程度の大幅な減少は認められないことから、5号該当(4号類似)事実も認められない。
 よって、請求人には猶予該当事実があるとは認められない。

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3 判断

(1) 納税の猶予の要件について

 通則法第46条第2項に規定する納税の猶予は、まる1納税者に猶予該当事実があること、まる2猶予該当事実に基づき、納税者がその国税を一時に納付することができないと認められること、まる3納税者から国税通則法施行令第15条《納税の猶予の申請手続等》第2項に規定する納税の猶予の申請書が提出されていること、まる4通則法第46条第1項の規定による納税の猶予の適用を受ける場合でないこと、まる5原則として、通則法第46条第5項に規定する担保の提供があることのすべての要件を充足する場合に限り、税務署長等がその申請を許可することができるものである。
 そこで、本件が上記まる1からまる5までの要件を充足しているか否かについて、当審判所が判断した結果は次のとおりである。

(2) 上記(1)の要件まる1(猶予該当事実の存在)について

イ 法令等解釈
(イ) 4号該当事実
 通則法第46条第2項に基づく納税の猶予は、国税の期限内納付及び国税が期限内に完納されなかった場合の強制徴収の例外として、一定の事由により納付困難になった納税者を救済するものであるが、租税徴収手続における他の納税者との公平という観点をも考慮すると、4号該当事実とは、納税の猶予を申請した納税者の責めに帰すことができないやむを得ない事由によって生じた国税の納付を困難ならしめる事業についての著しい損失をいうものと解される。
(ロ) 5号該当(4号類似)事実
 通則法第46条第2項第5号は、同項第1号から第4号に掲げる事実に類する事実に基づき、納税者がその国税を一時に納付することができないと認められるときは、その納付することができないと認められる金額を限度として、その納税を猶予することができる旨定めているところ、これは、同項第1号から第4号に掲げる事実とはいえない場合であっても、当該事実に類する事実が生じた場合には、国税の納付が困難となる場合もあることから、納税の猶予をすることができる旨規定したものと解される。そして、上記(イ)のとおり、4号該当事実とは、納税の猶予を申請した納税者の責めに帰すことができないやむを得ない事由によって生じた国税の納付を困難ならしめる事業についての著しい損失をいうものと解されることからすれば、5号該当(4号類似)事実とは、事業についての著しい損失と同視できるような著しい売上金額の減少等であって、納税の猶予を申請した納税者の責めに帰すことができないやむを得ない事由によって生じた国税の納付を困難ならしめるものをいうものと解される。
(ハ) 猶予通達における5号該当(4号類似)事実の相当性
 猶予通達第2章第1節1(3)ヘ(ハ)で定める5号該当(4号類似)事実は、納税の猶予を申請した納税者の責めに帰すことができないやむを得ない事由によって、国税の納付が困難となる場合が多いと考えられることからすれば、当該定めは合理的な定めというべきであり、当審判所においても相当と認められる。
(ニ) 猶予通達における4号該当事実の判定方法の相当性
 上記(イ)のとおり、4号該当事実とは、納税の猶予を申請した納税者の責めに帰すことができないやむを得ない事由によって生じた国税の納付を困難ならしめる事業についての著しい損失をいうものと解されるところ、事業についての損失の存否は、一定の期間における損益計算を行うことによって判定することが相当であり、損益計算の期間が通常1年間であることからすれば、原則として、それぞれその期間を1年とする調査期間と基準期間における損益を比較して、また、調査期間以内において損失原因があり、当該事実の発生した日が特定できる場合には、その日以降調査日までの間に生じたと認められる損失金額と基準期間の利益金額のうち損失原因の生じた日以降調査日までの期間に対応する期間の利益金額(又は損失金額)とを比較して、4号該当事実の存否を判定することとしている猶予通達第2章第1節1(3)ニの定めは、相当と認められる。
(ホ) 5号該当(4号類似)事実の判定方法等
 5号該当(4号類似)事実が上記(ロ)のとおり解され、猶予通達における4号該当事実の判定方法の定めが合理的であることからすれば、5号該当(4号類似)事実の存否を判定するに当たっても、上記(ニ)の4号該当事実の存否の判定基準に準じて判定することが相当である。
 なお、上記(イ)のとおり、4号該当事実が、納税の猶予を申請した納税者の責めに帰すことができないやむを得ない事由によって生じた国税の納付を困難ならしめる事業についての著しい損失をいうものと解されることからすれば、5号該当(4号類似)事実があるというためには、事業上の著しい損失に類する状態、すなわち、著しい赤字の状態が生じたとまではいえないが、それに近い赤字の状態が生じていることが必要であると解される。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係書類及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件財務諸表には、売上金額が入金された月に計上されている(現金主義会計)ほか、従業員給料の支払額がその売上金額に対応する形で計上されている。
(ロ) また、本件財務諸表では、決算期末における平成18年5月及び平成19年5月において、月次決算のほか決算修正、整理事項の調整を行っている。
(ハ) 本件各総勘定元帳及び本件試算表によれば、請求人の売上金額は、平成18年11月までは○○○○円弱で推移し、特に同年10月が○○○○円、同年11月が○○○○円と、この2か月は○○○○円を超える金額であったが、同年12月以降は、大幅に減少している事実が認められる。
(ニ) 請求人は、当審判所に対して、主たる取引先から平成18年11月30日に販売委託契約を解除された旨答述し、この答述と異なる事実はうかがわれないところ、上記(ハ)の事実からすれば、このことが損失原因となったと認められる。
(ホ) 請求人は、青色申告法人であり、月次決算を実施し、合計残高試算表等を作成の上、各事業年度の法人税の確定申告書を提出している。
 なお、本件各総勘定元帳及び本件試算表に記載された金額は、請求人が原処分庁に提出した各事業年度の法人税の確定申告書の各金額と一致する。
(ヘ) 本件猶予申請書には、納税の猶予を受けようとする期間として、「19年10月4日から20年10月3日まで12月間」と記載されていることから、納税の猶予の各要件を調査する上で基準日となる日は、請求人の申請に係る猶予期間の始期である平成19年10月4日の前日である同年10月3日(以下「本件調査日」という。)となる。
ハ これを本件についてみると、上記ロ(ハ)及び(ニ)のとおり、請求人に取引先の都合による販売委託契約の解除という損失原因が認められ、当該損失原因が発生した日が平成18年11月30日と特定できることから、請求人の猶予該当事実の有無を判断するために用いる調査期間及び基準期間は、本件特定調査期間及び本件特定基準期間とすることが相当である。
 そこで、上記ロ(イ)及び(ロ)の事実を考慮し、本件試算表の各計数を1か月繰り上げ(発生主義)、決算期末における決算修正等の異常数値等を除いて経常損益等の金額を算出すると、その金額は、別表3記載のとおりとなる。これによれば、本件特定基準期間の経常損益は○○○○円、売上金額は○○○○円となり、本件特定調査期間の経常損益は△○○○○円、売上金額は○○○○円となる。
 この両期間の経常損益の金額を比較すると、請求人には、4号該当事実である「著しい損失」は認められないものの、売上金額は、著しく減少しており、赤字の状態に陥っていることが認められる。よって、請求人には、5号該当(4号類似)事実があると認められる。

(3) 上記(1)の要件まる2のうち、「納税者がその国税を一時に納付することができないこと(納付困難)」について

イ 納付困難について、猶予通達第2章第1節1(4)ロは、納付困難か否かの判定は、現在納付能力調査に基づいて行う旨定めている。
 具体的には、猶予通達第7章第2節において、現在納付能力調査は、納税の猶予申請に係る猶予期間の始期の前日である調査日において、納税の猶予の申請等に係る国税をいくら納付できるか、納付困難な金額がいくらであるかを判定するための調査であって、納税者の調査日現在における現金、当座預金その他の引き出し可能な預貯金等直ちに納税に充てることができる資金の合計額(当座資金)と、当面の事業の継続又は生活の維持に、真に必要と認められる資金として、調査日後、比較的短期間において、資金の最も窮屈になる日のために留保を必要とする資金(つなぎ資金)を調査し、当座資金からつなぎ資金を差し引いて現在納付可能資金を把握するものとされている。
 ところで、通則法第46条第2項が、一定の事由により納付困難になった納税者に対する国税の徴収手続を緩和し、納税を猶予することによって納付困難となった当該納税者の救済を図る制度である一方、それは、他の一般の納税者との租税負担の公平の実現の上において認められる納税者救済制度であることを考えれば、当該制度の趣旨は、調査日現在の当座資金の全額を納税に充てるべきとするものではなく、また、当面の事業の継続又は生活の維持に必要な資金以外の金額についてまで納税を猶予するものでもなく、当座資金から当面の事業の継続又は生活の維持に必要な資金を差し引いた金額を納税に充てるべき資金とするものであるから、猶予通達の上記取扱いは、当該制度の趣旨に沿うものとして、当審判所においても相当と認められる。
ロ 調査日
 上記(2)ロ(ヘ)のとおり、本件調査日は、平成19年10月3日である。
ハ 当座資金
 当座資金は、調査日現在における現金、当座預金その他の引出し可能な預貯金等直ちに支払に充てることのできる資金の合計額とされている。  請求人が当審判所に提出した資料によれば、本件調査日における現金残高は○○○○円であるが、このうち○○○○店、○○○○店、○○○○店、○○○○店、○○○○店及び○○○○店の6店舗におけるつり銭用に600,000円(各店舗100,000円)を充てているため、このつり銭用600,000円を控除した○○○○円を現金残高とみるのが相当である。また、預金残高は○○○○円であるため、当座資金は、合計○○○○円とみるのが相当である。
ニ つなぎ資金
 つなぎ資金は、本件調査日から、おおむね1か月以内において資金繰りが最も窮屈になると見込まれる日のために留保を必要とする資金を日を追って計算するものとされている。
(イ) 資金繰りが最も窮屈になると見込まれる日
 請求人が当審判所に提出した資料によれば、売上金額は振込入金であり、月末に売上金額の一部の入金があり、給与、一般管理費、借入返済等の支払も月末に集中していることから、本件調査日以降、資金繰りが最も窮屈になると見込まれる日は、月末である平成19年10月31日の前日である同月30日とするのが相当である。
(ロ) つなぎ資金の算定
 つなぎ資金の計算は、本件調査日から資金繰りが最も窮屈になる同月30日までの期間における総支出見込金額から総収入見込金額を控除して行うところ、請求人が当審判所に提出した資料によれば、総支出見込金額が○○○○円及び総収入見込金額が○○○○円となることから、本件調査日現在におけるつなぎ資金は、別表4記載のとおり○○○○円と認められる。
ホ 現在納付可能資金
 上記ハの当座資金○○○○円から上記ニ(ロ)のつなぎ資金○○○○円を差し引いた○○○○円が、別表4記載のとおり、現在納付可能資金となる。
ヘ 納付困難な税額
 以上のとおり、請求人が当審判所に提出した資料を基に算定した現在納付可能資金は、上記ホの○○○○円であるから、請求人は、本件猶予申請に係る国税を一時に納付することができなかったと認められ、別表4記載のとおり、本件猶予申請に係る国税の額○○○○円から上記ホの現在納付可能資金○○○○円を差し引いた○○○○円について、請求人は納付困難であったというべきである。

(4) 上記(1)の要件まる2のうち、「猶予該当事実に基づき納付することができないこと(基因関係)」について

イ 基因関係について、猶予通達第2章第1節2(2)イ(ホ)は、猶予該当事実に基づく支出又は損失、すなわち猶予該当資金がある場合には、その資金の額が納付困難の原因となっているものとして取り扱う旨定めている。そして、猶予該当資金の範囲について、猶予通達第2章第1節2(2)ロ(ヘ)は、親会社からの発注の減少があったこと等の特別の事情により、従前に比べて売上金額等の減少があったと認められる場合には、当該減少した売上金額等に見合う売上総利益に相当する金額を猶予該当資金として取り扱って差し支えない旨定めている。
 この取扱いは、猶予該当事実に基づく支出又は損失がなければ、その額と同額の国税を納付できたと考えられることからすれば、相当と認められる。
ロ これを本件についてみると、別表3記載のとおり、本件特定基準期間における売上総利益は○○○○円であり、本件特定調査期間における売上総利益は○○○○円であり、この差額である○○○○円が猶予該当資金となる。
 そして、この額は、上記(3)への納付困難な税額○○○○円を上回るところ、納付困難と認められる金額が猶予該当資金を下回る場合には、納税の猶予をする金額は、当該納付困難と認められる金額とする旨定めている猶予通達第2章第1節2(1)に従い、当審判所に提出された資料によって計算した限りにおいては、納税の猶予をする金額は、上記(3)への納付困難な税額○○○○円となる。

(5) 上記(1)の要件まる5 (担保の提供)について

イ 通則法第46条第5項は、税務署長等は、同条第2項の規定による納税の猶予をする場合には、その猶予に係る金額に相当する担保を徴さなければならない旨、また、同項ただし書において、その猶予に係る税額が50万円以下である場合又は担保を徴することができない特別な事情がある場合は、この限りではない旨規定している。
ロ これを本件についてみると、請求人が原処分庁へ提出した法人税の確定申告書添付の貸借対照表によれば、本件猶予申請に係る国税の額に相当する資産を有していない事実が認められる。また、本件猶予申請に係る国税について、確実と認められる保証人の保証を請求人が容易に提供できる事情もうかがわれない。

(6) 上記(1)のその他の要件について

 上記(1)の要件まる3及びまる4については、請求人から本件猶予申請書が提出されており、本件が、通則法第46条第1項の規定による納税の猶予を受ける場合でないことは明らかである。

(7) 結論

 以上によれば、請求人には、5号該当(4号類似)事実が認められ、当該猶予該当事実に基づき本件猶予申請に係る税額を一時に納付することができなかったと認められる。また、請求人は、上記(5)及び(6)のとおり、通則法第46条第2項に規定する納税の猶予の他の要件もすべて充足していたと認められる。
 そうすると、原処分時に請求人から提出された本件財務諸表により請求人に猶予該当事実がないとした原処分庁の判断に誤りがないとしても、原処分時において請求人に納税の猶予の要件が充足されていた以上、原処分を取り消すのが相当である。

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