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(平21.9.10、裁決事例集No.78 63頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、日本国籍を有しない審査請求人(以下「請求人」という。)が、a国に在留中に得た報酬について、原処分庁が、請求人はa国在留中も日本に生活の本拠を有していたから、日本の居住者であり、同報酬も請求人の課税所得に当たるとして所得税の決定処分等を行ったのに対し、請求人が、a国在留中は日本に生活の本拠を有していなかったので納税義務を負う居住者ではないと主張して、その一部の取消しを求めた事案であり、争点は、請求人がa国在留中も日本に住所又は居所を有していたか否かである。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成18年分の所得税について、確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、平成19年10月12日に申告した。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成19年10月31日付で、別表1の「賦課決定処分」欄のとおりの無申告加算税の賦課決定処分をした。
ハ 請求人が平成16年分及び平成17年分の所得税について、いずれも確定申告書を提出しなかったところ、原処分庁は、平成20年3月28日付で、別表1の「決定処分等」欄のとおりの平成16年分及び平成17年分の所得税の各決定処分及び無申告加算税の各賦課決定処分並びに平成18年分の所得税の更正処分及び無申告加算税の賦課決定処分(以下、平成16年分、平成17年分及び平成18年分を併せて「本件各年分」という。)をした。
ニ 請求人は、上記ハの各処分を不服として、平成20年5月23日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年8月22日付でいずれも棄却の異議決定をした。
ホ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成20年9月19日に審査請求をした。
ヘ なお、請求人は、平成20年○月○日出国のため、同年○月○日に外国人登録原票を閉鎖し肩書地へ移動した。

(3) 関係法令

 別紙のとおり。

(4) 基礎事実

イ 請求人は、b国の国籍を有し、日本国籍は有しない者である。
ロ 請求人は、以前は、在留資格を人文知識・国際業務、在留期間を1年等として日本に入国し、平成13年11月30日に、在留資格を日本人の配偶者等、在留期間を3年、在留期限を平成16年11月30日とする在留資格変更許可を受けて、日本に在留していた。
ハ 請求人の妻c(以下「妻c」という。)は、平成10年7月1日から(平成12年7月8日から平成13年9月30日まで出国のため退社)、P市Q町○−○に所在するd社に勤務していたが、長女の出産に伴い、平成16年5月24日から同年6月18日まで有給休暇を、同月19日から平成17年11月6日まで産後及び育児休暇(いずれも無給)を取得した。
ニ d社は、平成13年10月12日、妻c用の社宅としてP市R町○−○所在の家屋を、平成15年7月19日に、P市S町○−○(以下「本件S町住所」という。)に所在する社宅(以下「本件S町家屋」という。)を賃借し、請求人は、そのころから同社宅において家族と共に起居していた。
ホ 本件各コンサルティング契約について
(イ) 請求人は、平成16年9月13日付で、e社のa国支店(以下「e社」という。)との間で、要旨以下の内容のコンサルティング契約を締結し、同日から平成17年7月29日まで、当該契約に基づき業務を提供していた。
A 請求人は、e社に対し、f国株式取引デスクのための取引設備・事業の構築の監視、f国株式のa国での取引を可能にするために必要な基盤の構築及びe社の要請による他のコンサルタント業務を、常勤で提供することに同意する。
B 契約期間は、平成16年9月13日に開始し、それ以後は月単位で継続するが、いずれか一方の当事者は少なくとも30日前に通知して契約を終了させることができる。
C e社は、業務遂行の報酬として、請求人に対し毎月○○○○ドルを支払う。
D e社は、請求人が業務遂行時に負担した相応の経費を、証拠となる書面を提供することを条件に請求人に払い戻すが、当該経費はe社が定める経費に関する方針の範囲内とする。
E 請求人は、独立した請負業者であり、会社の代理人、パートナー又は従業員ではない。
F 請求人に対する通知、要求その他の連絡事項はすべて書面にて、宅配便、ファクシミリ又は郵便により行うが、いずれの場合も、「P市S町○−○、△△△△気付、○○○○(請求人)」あてとする。
(ロ) 請求人は、平成17年10月3日付で、g社a国支店(以下「g社」といい、e社と併せて「本件各取引先」という。)との間で、要旨以下の内容のコンサルティング契約(以下、上記(イ)のコンサルティング契約と併せて「本件各コンサルティング契約」という。)を締結し、同日から平成18年6月7日まで、当該契約に基づき業務を提供していた。
A 請求人は、○○地域におけるグローバル・プライム・サービス事業に関してのビジネス・イニシアチブ構築の監視及びg社の要請による他のコンサルタント業務を、a国に所在するg社の事務所内で、常勤で提供することに同意する。
B 契約期間は、平成17年10月3日に開始し、それ以後は月単位で継続するが、いずれか一方の当事者は少なくとも7日前に通知して契約を終了させることができる。
C g社は、業務遂行の報酬として、請求人に対し毎月○○○○ドルを支払う。
D g社は、請求人が業務遂行時に負担した相応の経費を、証拠となる書面を提供することを条件に請求人に払い戻すが、当該経費は払戻しを請求できる経費としてg社が同意していることを条件とする。
E 請求人は、独立した請負業者であり、会社の代理人、パートナー又は従業員ではない。
F 請求人に対する通知、要求その他の連絡事項はすべて書面にて、宅配便、ファクシミリ又は郵便により行うが、いずれの場合も、「P市S町○−○、△△△△気付、○○○○(請求人)、ファックス番号○○○○」あてとする。
(ハ) 請求人が、本件各取引先から受ける報酬は、h銀行j支店の請求人名義のマルチマネー口座(以下「本件口座」という。)に入金されている。
(ニ) 請求人は、a国滞在中、以下の場所で起居していた。
A 平成16年9月13日から同月14日
 kホテル
B 平成16年9月14日から同月21日
 mホテル
C 平成16年9月24日から同年10月8日
 mホテル
D 平成16年10月10日から同月11日
 mホテル
E 平成16年10月11日から同月16日
 nホテル
F 平成16年10月16日から同月21日
 mホテル
G 平成16年10月31日から同年11月11日
 mホテル
H 平成16年11月14日から同年12月10日
 mホテル
I 平成16年12月12日から同月17日
 mホテル
J 平成17年1月8日から同年7月14日
 pアパート○○号室
K 平成17年7月17日から同月27日
 qホテル
L 平成17年10月2日から同月20日
 qホテル
M 平成17年10月23日から同月27日
 qホテル
N 平成17年10月27日から同年12月26日
 rアパート○○号室
O 平成18年1月4日から同年6月10日
 rアパート○○号室
 なお、pアパート、rアパートはいずれも家具、電気製品付のアパートであり、契約は1か月更新であった。
(ホ) 請求人は、観光ビザでa国に上陸しており、就労ビザの取得をしたことはなかった。
ヘ 請求人は、平成16年10月22日付で○○入国管理局長に対し在留期間更新許可申請書を提出し、同年11月12日、3年間の在留期間の更新を許可された。
 なお、請求人が提出した上記申請書には、日本における居住地欄に本件S町住所と、更新の理由欄に「RESIDENT」と、在日親族及び同居者欄には妻cの名が、請求人の勤務先等の名称欄に「△△△△」と、所在地欄に本件S町住所と、電話番号欄に「○○○○」及び年収欄に「○○○○円」と、各記載されている。
ト 請求人の外国人登録は、平成13年11月19日、理由を入国と、居住地をP市R町○−○と、在留資格を日本人の配偶者等として登録されてから、平成20年○月○日まで閉鎖されなかった。この間、請求人は、平成13年12月10日、在留期間を同年11月30日から平成16年11月30日までとする変更登録を、平成15年8月1日、同年7月19日付で居住地を本件S町住所とする変更登録を、平成16年11月12日、在留期間を同年12月1日から平成19年11月30日までとする変更登録を、さらに、平成18年1月31日、職業をコンサルタントとし、勤務所又は事務所の名称及び所在地を本件S町住所とする変更登録を行っている。
チ 請求人がe社への業務提供を開始するために平成16年9月13日に日本を出て(以下、この出国を「本件出国」という。)から、g社への業務提供を終了して平成18年6月8日に入国するまでの間(以下「本件期間」という。)における、請求人の出入国の状況並びに在日及び在外日数は、別表2−1から別表2−3までのとおりであった。
リ 請求人は、別表2−1から別表2−3までの本邦滞在期間中は、本件S町家屋で家族と共に起居しており、本件期間においても水道、電気及びガスの使用契約は解約されることなく使用料金が支払われていた。
ヌ 請求人は、平成16年中、平成17年中及び平成18年1月1日から平成18年6月8日までの間(以下「本件18年前期」という。)において、本件各コンサルティング契約に基づく報酬以外に収入を有していなかったが、同月9日から同年12月31日までの間(以下「本件18年後期」という。)において居住者に該当し、当該期間に係る各種所得の金額の合計額は○○○○円である。

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2 当事者の主張

(1) 原処分庁

イ 日本国内に住所を有する個人に該当することについて
 次のとおり、請求人の本件出国は一時的なものであり、本件期間における請求人の住所は本件S町住所であった。
(イ) 住居
 請求人は、平成13年から平成15年まではP市R町に、その後平成16年9月の本件出国までは本件S町家屋に居住していたところ、上記1の(4)のトのとおり、本件期間においても居住地を本件S町家屋とする外国人登録原票は閉鎖されておらず、平成18年1月31日に職業をコンサルタントとし、勤務所又は事務所の所在地を本件S町住所とする外国人登録の変更を行っている。
 また、本件期間においても、本件S町家屋の水道、電気及びガスの使用契約は解約されることなく使用料金が支払われ、請求人は日本に帰国した際は本件S町家屋に起居し、本件S町住所に妻cの自家用車を置き、請求人が当該自家用車を使用していた。
 さらに、本件各コンサルティング契約における契約期間は月単位であり、別表2−1から別表2−3までのとおり、請求人は本件期間においてほぼ毎月日本に帰国していること、a国への入国は観光ビザで行い、a国での滞在先はホテルやサービス・アパートメントといった短期的に滞在するための施設であって、サービス・アパートメントの契約も1月単位の契約であることから、請求人の住居は本件期間中も引き続き本件S町家屋であったと認められる。
(ロ) 職業
 本件各コンサルティング契約のとおり、請求人は独立した請負業者であり、代理人、パートナー又は従業員ではなく、その契約期間は月単位であり、本件各取引先が請求人に対して通知等を行う連絡先は、いずれも本件S町住所とされている。
 また、まる1e社との契約書においてファックス番号が空欄だったものをg社との契約書においてファックス番号を明示し、まる2いずれの契約書にも、他に請求人の所在を示す内容が記載されておらず、まる3本件各取引先は、請求人が日本とa国とを往復する航空運賃及びa国での滞在費用を経費と認め、当該経費を負担していることからすると、当該各契約書は、単に標準フォームをそのまま利用したものではなく、契約内容を詳細に確認して作成されたものと認められ、本件各取引先は請求人が日本在住のコンサルタントであるとの認識の下に契約を履行し、日本とa国との間の航空運賃及びa国での滞在費用の負担まで行っていたものと認められる。
 請求人は、e社とのコンサルティング契約が発効してから1月しか経過していない時期である平成16年10月22日付で○○入国管理局長に在留期間更新許可申請書を提出し、勤務先等として名称欄に「△△△△」、所在地欄に本件S町住所を記載し、平成18年1月31日には、職業をコンサルタント、勤務所又は事務所の名称及び所在地を本件S町住所とする外国人登録の変更を行い、そのうえ、b国の確定申告において1年を通じ本件S町家屋の62%を事業に使用していた旨申告していたことからすれば、請求人自身も本件S町家屋を生活の本拠と認識していたものとみるのが相当である。
(ハ) 生計を一にする配偶者その他の親族の所在
 妻cを世帯主とする住民票の写しには、妻c及び長男t(以下、妻cと併せて「妻cら」という。)の出国による住所変更の記載はなく、本件期間を通じて本件S町住所が住所とされていること、妻cらのa国での在留資格は観光ビザであったことを請求人が申述していること、さらに、d社のw管理部長が妻cの休暇等の期間が平成16年5月24日から平成17年11月6日であり、住所の変更届の提出もない旨申述していることからすると、妻cとd社との雇用は継続していたものであって、妻cらのa国への出国は一時的なものと認められるから、妻cらの住所は本件期間を通じて本件S町住所にあったものとみるのが相当である。
(ニ) 資産の所在
 請求人が本件各取引先から受ける報酬の受取口座は、上記1の(4)のホの(ハ)のとおり、h銀行j支店の請求人名義のマルチマネー口座である。そして、請求人が日本国内外に所有している資産は現金及びh銀行の預金のみであると請求人が申述していること、また、本件S町家屋に置いてある妻cの自家用車1台を請求人は日本滞在中に使用していた旨請求人が申述していること、さらに、請求人は本件出国後も生活用動産を本件S町家屋に残していることからすれば、請求人の資産はすべて日本国内に所在しているものと認められる。
(ホ) その他
 上記(イ)から(ニ)までにとどまらず、請求人はa国滞在中、a国の住民票を取得しないばかりか日本の外国人登録を閉鎖せず、a国において所得税申告等の手続を行っていなかった旨申述している。また、請求人は、別表3のとおり、妻cの預金口座に送金をしており、請求人から妻cの預金口座への定期的な送金が、妻cのa国滞在中においても続けられていたことからすると、当該送金は本件S町家屋の月○○○○円という多額の家賃の負担を主な目的としてのものと認められる。
(ヘ) 以上のとおり、請求人は、本件期間において居住者に該当する。
ロ 所得税法施行令第15条第1項第1号の適用がないことについて
 請求人は、本件期間において、国外において継続して1年以上居住することを通常必要とする職業を有していたとはいえないから、所得税法施行令第15条第1項第1号の適用はない。
ハ 国内に引き続いて1年以上居所を有することについて
 仮に、請求人がa国に住所を有するものだとしても、上記イのとおり、請求人は本件出国前において国内に住所を有していたものであり、かつ、本件出国は一時的なものであるから、本件S町家屋は本件出国後も居所に該当し、請求人は国内に引き続いて1年以上居所を有する。

(2) 請求人

イ 日本国内に住所を有する個人に該当しないことについて
 次のとおり、請求人は、本件期間において、日本国内に住所を有する個人に該当しない。
(イ) 住居
 本件期間における請求人の日本以外の国における滞在日数は、年末年始のクリスマス休暇期間及び平成17年7月末から8月末にかけてのx国滞在期間を除き、すべて本件各取引先に対する役務提供としての関連国への出張を含むa国滞在の日数である。このように、本件期間において、請求人のa国滞在の日数は、日本滞在日数と比較して多い。
 請求人がa国において起居した場所は、居間、キッチンを備える等、日常生活を送るのに十分な設備及び環境を有しており、この住居において職業上の生活を送り、かつ、生活を一にする妻子とともに過ごし親戚及び友人を招いて私的生活を送った。
(ロ) 職業
 請求人は、本件各取引先の常勤(終日勤務ベース)労働者として、a国のみに職業上の生活の本拠を有していた。
(ハ) 生活を一にする配偶者その他の親族の所在
 請求人の妻子は、平成16年11月14日から平成17年7月14日までの期間において生活の本拠をa国に有し、請求人とともに生活した。
(ニ) 資産の所在
 請求人が日本において保有する財産は現金及び預金○○○○円だけであって、資産管理のために日本に居住する理由はなかった。
ロ 所得税法施行令第15条第1項第1号の適用について
 本件各コンサルティング契約に基づく役務提供については、その内容から1年以上の長期間にわたって継続することが見込まれたことが認められるから、本件出国時において継続して1年以上居住することを通常必要とする職業を有したものと認めるのが相当である。
 したがって、所得税法施行令第15条第1項第1号の規定により、請求人は、本件期間において日本国内に住所を有さないものと推定される。
ハ 日本国内に引き続いて1年以上居所を有する個人に該当しないことについて
 請求人は、本件期間において日本に居所を有していなかった。
 また、本件出国が一時的なものであることが明らかであった場合には、所得税基本通達2−2により、a国滞在中においても日本に居所を有するものとされるが、本件出国は一時的なものではなかったことが明らかである。
 したがって、請求人は、日本国内に引き続いて1年以上居所を有する個人には該当しない。
ニ 以上のとおり、本件期間において、請求人は日本国内に住所を有する個人にも、現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人にも該当しないから、非居住者に該当する。

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3 判断

(1) 法令解釈

イ 所得税法第7条第1項第1号は、居住者(非永住者を除く)にかかるすべての所得について所得税を課する旨規定し、同法第2条第1項第3号は「居住者」を「国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人をいう」ものと定義する。
 そして、所得税法第2条第1項第3号の「居住者」の定義規定として、「住所」が使用されているが、「住所」の意義については定義規定がおかれていないところ、一般に、租税法規が一般私法において使用されているのと同一の用語を使用している場合には、特に租税法規が明文をもって他の法規と異なる意義をもって使用することを明らかにしている場合又は租税法規の体系上他の法規と異なる意義をもって使用されていると解すべき実質的理由がない限り、私法上使用されているのと同一の意義を有する概念として使用されているものと解するのが相当である。
ロ 民法上の「住所」は、各人の生活の本拠をいい、生活の本拠であるかどうかは客観的事実によって判定すべきであり、住居、職業、生計を一にする配偶者その他の親族の存否、資産の所在等の客観的事実に基づいて判断されるべきである。

(2) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、以下の事実が認められる。
イ 本件期間における請求人の日本及び日本以外の国における滞在状況は別表2−1から別表2−3までのとおりであり、請求人は、本件期間中、月に1回程度の頻度で日本に入国し、平成17年8月31日から10月2日までの33日間を除いては、いずれも週末を含む1日間から5日間、妻cらとともに、本件S町家屋に滞在した。
ロ rアパートは、g社が同じ建物の異なる部屋を借り上げ、請求人に提供していたものである。
ハ 請求人は、平成7年11月9日に本件口座を開設した際、開設申込書に自宅住所として「P市T町○−○」と記載しているが、本件口座の各残高及び取引明細は、平成11年12月6日から平成12年1月5日まで分以降平成12年7月6日から同年8月5日まで分はいずれも「P市U町○−○」に、同年8月6日から同年9月5日まで分以降平成15年12月6日から平成16年1月5日まで分はいずれも「P市V町○−○」に、同年1月6日から同年2月5日まで分以降平成19年9月6日から同年10月5日まで分についてはいずれも本件S町住所に送付されていた。
ニ 請求人は、本件各取引先に対して業務遂行時に負担した経費の払戻しを求める際、請求人が上記1の(4)のホの(ニ)のとおり本件期間中にa国において宿泊したホテルが発行した請求書を添付しているところ、mホテルが請求人にあてて発行した11枚の請求書、nホテルが請求人にあてて発行した1枚の請求書、qホテルが請求人にあてて発行した3枚の請求書のうち2枚には、いずれも宿泊客の住所として本件S町住所が記載されていた。なお、これらのほか、住所の記載のないqホテル発行の請求書、本件S町住所とは異なるP市内の住所の記載があるkホテル発行の請求書が各1枚ある。
ホ 請求人は、本件各取引先に対して、業務遂行時に負担した相応の経費として、a国と日本間の航空運賃等を含む交通費、a国及び出張先のホテル宿泊料に加え、a国滞在中及び出張時の食費及びクリーニング代などの滞在費用を請求し、払戻しを受けているが、日本滞在中の食費などの滞在費用は、請求をしていない。
 なお、上記請求に係る請求書は、いずれも△△△△名で作成され、当該名称の下には本件S町住所が記載されている。
ヘ 請求人は、2006年分(平成18年分)b国の所得税申告において、1年を通じて本件S町家屋の62%を事業で使用していたとして、本件S町家屋に係る家賃及び水道光熱費の62%を報酬から控除している。
ト 請求人と生計を一にする妻cらは、平成16年11月14日から同年12月10日まで及び平成17年1月8日から同年7月14日までの各期間のうち、a国に滞在していた時は、請求人と共に上記1の(4)のホの(ニ)のホテル又はサービス・アパートメントに起居していた。
 本件期間における、妻cらの出入国の状況並びに日本及び日本以外の国に滞在していた日数は、別表4−1から別表4−3までのとおりである。
チ 妻cらは、在外期間を除いては、本件S町家屋に居住を続けていた。
 なお、妻cは、a国に滞在するに当たり、本件S町家屋からa国に生活用動産を運搬しなかった。
リ 請求人は、現金及び本件口座の預金を除き、日本国内に資産を保有していない。
 なお、請求人は、本件期間のa国滞在期間中、本件口座から、毎月a国通貨を出金している。

(3) 本件期間において請求人は国内に住所又は居所を有していたか

イ 住居
 請求人は、本件期間中の全日数のうち、18.1%に相当する日数は日本に滞在し、その間は本件期間前と同様、本件S町家屋において起居していたところ、本件S町家屋からa国に生活用動産が運搬されていないことからすると、本件S町家屋は従前同様、請求人の住居として使用することができる状態にあったと考えられる。
 また、請求人は、本件期間中、滞日日数をはるかに上回る日数をa国で過ごしているものの、平成16年中はホテルに、平成17年中及び平成18年中は主としてサービス・アパートメントに各滞在していたこと、請求人は、平成16年10月22日付で○○入国管理局長に対し提出した在留期間更新許可申請書の日本における居住地欄に本件S町住所と、更新の理由欄に「RESIDENT」と、在日親族及び同居者欄に妻cと同居の旨記載したこと、本件出国後も、居住地を本件S町住所とする外国人登録を変更せず、むしろ、在留期間を延長する旨の変更登録を行っていること、請求人は、h銀行j支店に対し、平成16年1月ころまでは、住所の変更の届出を行っていたにもかかわらず、住所がa国に異動した旨の届出をしなかったこと、請求人は、本件期間においてa国のホテルに宿泊した際に、手続上請求人の住所を本件S町住所としたことからすると、請求人がa国における長期の滞在を予定していたものと直ちに認めることはできない。
 しかしながら、日本における滞在は、月に1回程度の頻度、主として週末を含む1日間から5日間にすぎないものであり、本件S町家屋はd社の社員である妻cが、同社から社宅として賃借していたものであって、生活用動産が運搬されていなかったのも、妻cらが同所での生活に必要であったためと推認されること、請求人は、滞日日数をはるかに上回る日数をa国で過ごし、上記1の(4)のホの(ニ)のとおり、請求人が起居していたpアパート及びrアパートの契約は1か月更新ではあるものの、前者は7か月、後者は合計8か月居住を続けていたことなどを考慮すると、本件S町住所が請求人の日本滞在中の生活拠点であったことは認められるものの、請求人の生活の本拠が本件S町住所にあったものと直ちに判断することまではできない。
ロ 職業
 本件各コンサルティング契約は、請求人が、e社に対し、f国株式のa国での取引を可能にするために必要な基盤の構築等に係るコンサルティング業務を常勤で提供すること、及び、g社に対し、所定のコンサルタント業務を、a国に所在するg社の事務所内で、常勤で提供することを内容とするものであったこと、g社が、請求人のためにa国にサービス・アパートメントを賃借し、請求人は、それ以外の期間においても、a国に所在するホテル又はサービス・アパートメントに一定期間滞在していたことに加え、本件各コンサルティング契約の契約期間は、本件期間のうち平成17年7月30日から同年10月2日までの期間を除く全期間であり、請求人は、当該期間の大部分をa国で過ごしていることからすると、請求人は、主としてa国において、本件各コンサルティング契約に係る業務を提供していたものと認めるのが相当である。
 また、本件各取引先においてa国と日本間の航空運賃を負担していたこと、本件各コンサルティング契約において、請求人の連絡先が「P市S町○−○、△△△△気付、○○○○(請求人)」とされていたこと、請求人は、本件各取引先に対する立替払費用の支払請求書を△△△△名で作成し、本件S町住所も併せて記載していたこと、請求人は、平成16年10月22日付で○○入国管理局長に提出した在留期間更新許可申請書において、請求人の勤務先等の名称欄に「△△△△」と、所在地欄に本件S町住所と記載し、平成18年1月31日には、職業をコンサルタントと、勤務所等の所在地を本件S町住所とする外国人登録の変更登録を行っていたこと、平成18年において、請求人が通年本件S町家屋の62%を事業の用に供した旨の所得税申告をb国において行ったことの各事実からは、請求人が、一貫して、対外的には、本件S町家屋内に事業所を置く△△△△に所属するコンサルタントであり、事業主である、としていたことが認められるが、このことをもって直ちに、請求人の職業的基盤が日本にあったとまで認めることはできない。
ハ 生計を一にする親族の所在
 請求人と生計を一にする妻cは、平成16年5月24日から平成17年11月6日までd社を休業し、このうち一定期間は、子らと共にa国に滞在し、請求人と起居を共にしたが、当該休業期間中も同社との雇用関係にあり、妻cらは、在外期間を除いては、本件S町家屋に居住を続け、a国に滞在するに当たり、本件S町家屋からa国に生活用動産を運搬することもなかったのである。
 そうすると、妻cらのa国滞在は一時的なものであったと認めるのが相当であるから、請求人は、国内に生計を一にする親族を有していたというべきである。
 しかしながら、妻cは、日本国内に職業を持つ会社員であり、育児休業中においても本件S町家屋の貸与を受けそこに居住を続けたのは、飽くまで妻cのd社の従業員としての選択・判断であると認められ、その選択・判断が、本件期間における請求人の生活の本拠を確保することを目的としてなされたものと認められないから、妻cらが日本国内に居住していたことが、請求人の生活の本拠が本件S町住所にあったことを裏付ける重要な事実であるとまでは認め難い。
ニ 資産の所在
 請求人は、現金及び本件口座の預金を除き、日本国内に資産を保有していなかったところ、通常、預金口座を管理するために、日本国内に生活の本拠を置く必要性はなく、本件口座は日本以外の国においても利用することが可能で、実際に、請求人はa国において現金を引き出すなど、本件口座を日本以外の国においても使用している。
 他に、請求人が、自ら日本国内に居住して、使用・管理することが必要な資産を日本国内に所有していたとは認められないから、日本国内の資産の所在をもって、直ちに請求人の生活の本拠が本件S町住所にあったとまでは認められない。
ホ 結論
 上記イないしニの各点を総合勘案すれば、本件期間において、請求人の生活の本拠が本件S町住所にあった、あるいは、本件S町家屋に相当期間継続して居住していたと認定するのは困難である。
 したがって、請求人は、所得税法第2条第1項第5号に規定する非居住者といわざるを得ない。
 なお、請求人は、本件各コンサルティング契約に基づく役務提供は、その内容から1年以上の長期間にわたって継続することが見込まれたから、請求人の場合、所得税法施行令第15条第1項第1号の規定の適用があるとも主張するが、本件各取引先との間で締結した契約上の期間が、1月を単位として継続するものであり、かつ、一方の当事者から、e社との契約の場合30日前に、g社との契約の場合7日前に、他方の当事者に通知することによって、本件各コンサルティング契約を終了させられるものである以上、請求人が国外において継続して1年以上居住することを通常必要とする職業を有していたと認めることはできないから、請求人について、当該規定を適用することはできない。

(4) 本件各年分の各決定処分等について

イ 平成16年分及び平成17年分の各決定処分について
 請求人は、上記(3)のホのとおり、本件期間において、日本の非居住者に該当するところ、本件各コンサルティング契約に基づく報酬は、所得税法第161条《国内源泉所得》各号に規定する国内源泉所得に該当せず、平成16年中及び平成17年中において、請求人は、他に収入を有していないから、所得税法第7条第1項第3号の規定により、当該各年分において、課税される所得はないこととなる。
 したがって、平成16年分及び平成17年分の所得税の各決定処分は、いずれもその全部を取り消すべきである。
ロ 平成18年分の更正処分について
(イ) 本件18年前期について
 上記イ同様、請求人は、本件期間において、日本の非居住者に該当し、本件各コンサルティング契約に基づく報酬は、国内源泉所得に該当せず、他に収入を有していないから、本件18年前期において、請求人が課税される所得はないこととなる。
(ロ) 本件18年後期について
 請求人の本件18年後期の各種所得の金額の合計額は、上記1の(4)のヌのとおり、○○○○円である。
(ハ) 平成18年分の総所得金額及び納付すべき税額
 以上の結果、平成18年分の総所得金額及び納付すべき税額は、それぞれ別表5及び別表6のとおりとなり、当該納付すべき税額は同年分の所得税の更正処分の額を下回るので、当該更正処分はその一部を取り消すべきである。

(5) 本件各年分の各賦課決定処分について

イ 平成16年分及び平成17年分について
 上記(4)のイのとおり、当該各年分の所得税の各決定処分は、いずれもその全部を取り消すべきであるから、当該各年分の無申告加算税の各賦課決定処分についても、いずれもその全部を取り消すべきである。
ロ 平成18年分について
 上記(4)のロの(ハ)のとおり、平成18年分の所得税の更正処分は、その一部を取り消すべきであり、請求人の場合、期限内申告書の提出がなかったことについて、国税通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められないから、請求人の同年分の無申告加算税の額は、○○○○円となる。この金額は、平成18年分の賦課決定処分の額を下回るから、同賦課決定処分は、その一部を取り消すべきである。

(6) その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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