ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.78 >> (平21.12.16、裁決事例集No.78 131頁)

(平21.12.16、裁決事例集No.78 131頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、会社役員であって貸金業及び不動産賃貸業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)の所得税について、原処分庁が、まる1請求人が受けた債務免除益が不動産所得の金額の計算上総収入金額に算入されていない、まる2不当利得返還請求事件の敗訴により請求人に支払が命じられた過払金相当額について、事業所得の金額の計算上必要経費に算入できるのは事業を廃止した年分の事業所得の金額が限度となるなどとして更正処分等を行ったのに対し、請求人が、その認定に誤りがあるなどとして、同処分等の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 平成17年分(以下「本件年分」という。)の所得税について、審査請求(平成20年12月25日請求)に至る経緯及び内容は、別表1のとおりである。
 なお、以下、平成20年6月27日付でされた本件年分の所得税の更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分を、それぞれ「本件更正処分」、「本件過少申告加算税賦課決定処分」及び「本件重加算税賦課決定処分」という。

(3) 関係法令

イ 所得税法第51条《資産損失の必要経費算入》第2項は、居住者の営む事業所得を生ずべき事業について、その事業の遂行上生じた売掛金、貸付金、前渡金その他これらに準ずる債権の貸倒れその他政令で定める事由により生じた損失の金額は、その者のその損失の生じた日の属する年分の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入する旨規定している。
ロ 所得税法施行令第141条《必要経費に算入される損失の生ずる事由》第3号は、所得税法第51条第2項に規定する政令で定める事由は、事業所得の金額の計算の基礎となった事実のうちに含まれていた無効な行為により生じた経済的成果がその行為の無効であることに基因して失われたことで、事業所得を生ずべき事業の遂行上生じたものとする旨規定している。

(4) 基礎事実

 M地方裁判所は、平成17年○月○日、原告をN社、被告を請求人とする損害賠償及び約束手形返還請求事件(平成○年(○)第○号)について、N社と請求人間の金銭の貸借・返済に関し、利息制限法に従い充当計算すると、平成15年○月○日時点で、過払いが○○○○円あると認定して、請求人に対し、その過払額及びこれに対する同日から支払済まで年5分の割合による金員の支払を命ずる判決(以下「本件判決」という。)を言い渡した。

(5) 争点

争点1 R社が遅延損害金に係る債務を免除したことにより、請求人が経済的利益を受け、当該経済的利益が不動産所得の金額の計算上総収入金額に算入されるか否か。
争点2 本件判決により支払が命じられた過払金相当額を本件年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入し、その損失の金額について他の所得と損益通算することができるか否か。
争点3 S社に対する貸倒損失の金額を本件年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することができるか否か。

トップに戻る

2 主張

(1) 争点1(R社が遅延損害金に係る債務を免除したことにより、請求人が経済的利益を受け、当該経済的利益が不動産所得の金額の計算上総収入金額に算入されるか否か。)

原処分庁 請求人
 以下のとおり、R社が遅延損害金に係る債務を免除したことにより、請求人は経済的利益を受けているから、当該経済的利益は不動産所得の金額の計算上総収入金額に算入される。  以下のとおり、R社が遅延損害金に係る債務を免除したことにより、請求人は経済的利益を受けていないから、当該経済的利益が不動産所得の金額の計算上総収入金額に算入されることもない。
イ 請求人は債務承認弁済契約上の実質的な債務者であるところ、請求人が債務承認弁済契約を約定どおり平成7年12月末日までに履行しなかったことにより、遅延損害金が発生し、元金が完済された平成16年12月15日時点において、請求人はR社に約定利率(年14%)で算定した遅延損害金に係る債務77,288,490円を負っていた。
 そして、R社は、請求人からの遅延損害金に係る債務免除の申立てを受け、平成17年2月28日に請求人から遅延損害金として1,000,000円の支払を受けて、残りの遅延損害金に係る債務76,288,490円を免除しているから、当該免除に係る利益は実質的な債務者である請求人に帰属する。
イ 債務承認弁済契約は、約定どおりに履行されなかった平成7年12月末日において、約定利率の年14%について契約変更があったと解すべきであり、このことは、その後の交渉において、R社から年5.7%、年1%の遅延損害金の利率が提示されていることからも明らかである。
 そして、請求人とR社との交渉の結果、遅延損害金の額は最終的に1,000,000円で確定し、請求人はこれを支払っているから、債務免除による経済的利益は生じていない。
ロ 債務承認弁済契約に係る債務は、賃貸用不動産の取得資金に係るものであり、請求人は、当該債務から生じた遅延損害金に係る債務76,288,490円の債務免除を受けているから、これは不動産賃貸業務の付随収入である。 ロ 仮に、R社の債務免除による経済的利益が請求人に生じているとしても、法人から受けた債務免除であるから、当該経済的利益は一時所得の金額の計算上総収入金額に算入されるべきものである。

(2) 争点2(本件判決により支払が命じられた過払金相当額を本件年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入し、その損失の金額について他の所得と損益通算することができるか否か。)

原処分庁 請求人
 本件判決は平成18年○月○日に確定しているから、N社に係る過払金相当額○○○○円は、平成18年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することとなる。
 請求人は平成17年に事業を廃止しているから、上記過払金相当額は、所得税法第63条《事業を廃止した場合の必要経費の特例》及び所得税法施行令第179条《事業を廃止した場合の必要経費の特例》第2号により、所得税法第63条を適用する前の事業所得の金額○○○○円を限度として、本件年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することとなるから、他の所得と通算すべき損失の金額は生じない。
 本件判決は言渡日である平成17年○月○日に確定するから、本件判決により支払が命じられたN社に係る過払金相当額○○○○円は、その全額を本件年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入し、その損失の金額について他の所得と損益通算することができる。

(3) 争点3(S社に対する貸倒損失の金額を本件年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することができるか否か。)

原処分庁 請求人
 以下のとおり、貸倒損失の存在を合理的に推認させるに足りる事実が存在しないので、S社に対する貸倒損失の金額は、本件年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することはできない。  以下のとおり、S社に対する貸倒損失の金額を本件年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することができる。
イ 請求人は、請求人の平成11年分から平成16年分までの所得税の調査(以下「前回調査」という。)において、S社の債権確認書及びS社に対する債権放棄通知書以外に債権債務に係る帳簿書類を提示せず、また、具体的な説明をしなかった。 イ 請求人は、平成9年11月20日及び同月25日にS社に対して合計金額16,400,000円を貸し付け、平成16年12月20日現在においても同額の貸付債権を有していた。
ロ 前回調査において、調査担当者が、S社の代表者であったeにS社と請求人の取引内容を確認したが、取引内容は明らかではなかった。 ロ 請求人は、平成16年12月25日、S社が貸付債権の弁済に応じないこと、S社に弁済能力がないものと判断されることから、16,400,000円の貸付債権を放棄し、平成17年3月○日付の書留内容証明郵便でその旨S社に通知した。

トップに戻る

3 判断

(1) 争点1について

イ 法律
 所得税法第36条《収入金額》第1項は、その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもって収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする旨規定している。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、以下の事実が認められる。
(イ) 不動産所得の申告
 請求人は、平成11年に、平成6年分から平成10年分までの所得税について、原処分庁の調査を受け、調査担当者から下記(ロ)のAの建物の賃貸料収入に係る不動産所得が申告されていないなどの指摘を受けた。
 請求人は、上記調査担当者からの指摘に基づき、下記(ロ)のAの土地及び建物は登記簿上は請求人の妻Yの名義となっているが、請求人が取得したものであるので、当該建物に係る賃貸料収入は請求人に帰属するとして、平成11年12月3日、上記各年分の所得税について期限後申告書を提出した。
 また、請求人は、平成11年分から平成16年分までの所得税について、上記建物の賃貸料収入を不動産所得の金額の計算上総収入金額に算入して、それぞれ確定申告した。
(ロ) 債務承認弁済契約の締結に至る経緯
A 請求人は、平成5年6月ころ、Tとの間で、同人が所有するP市p町q番1の宅地○○○平方メートル、同q番2の宅地○○○平方メートル、同q番3の宅地○○○平方メートル及び同q番4の宅地○○○平方メートルの各土地(以下、これらの各土地を併せて「本件土地」という。)並びに本件土地の上に存する鉄骨造陸屋根3階建の店舗・共同住宅(以下「本件建物」といい、本件土地と併せて「本件土地建物」という。)を総額150,000,000円で売買する旨の契約(以下「本件土地建物売買契約」という。)を締結した。
B 本件土地建物売買契約の締結に際して、請求人は、本件土地建物の売買代金の支払に関して、その一部の支払に代えて、Tが本件建物の建設資金として平成元年1月25日にV銀行○○支店から借り入れた個人ローン120,000,000円の残債務118,919,485円の履行を引き受けた。
 なお、以下、上記個人ローンに係る金銭消費貸借契約を「本件個人ローン契約」といい、請求人が引き受けた上記残債務を「本件引受債務」という。
C 本件建物については平成5年○月○日、本件土地については同年○月○日、いずれも同年○月○日譲渡担保を原因として、Tから請求人の妻Yへの所有権移転登記が経由されたが、同年○月○日、いずれも錯誤を原因として、当初の登記原因を同年○月○日売買に変更する登記が経由された。
D 請求人は、平成5年8月から平成7年2月までの期間、本件個人ローン契約に係る弁済金引落口座であるV銀行○○支店のT名義○○口座(口座番号○○○○)に、月々の元利金弁済額に相当する金員を入金する方法で本件引受債務を履行した。
E V銀行○○支店は、平成7年○月○日、Tが同支店に対して有する債権について、X地方裁判所から同月○日付の差押命令の正本の送達を受けた。
F V銀行○○支店は、本件個人ローン契約に関して、W社と保証委託契約を締結していたことから、本件個人ローン契約の残額について、当該保証委託契約に基づき、W社に代位弁済を求める手続を開始した。
 そして、V銀行○○支店の担当者は、平成7年2月27日、T及び請求人にその旨連絡した。
G 請求人は、平成7年3月6日、W社による代位弁済が行われた後、本件土地建物が競売されること(上記Fの保証委託契約に基づく求償債権を担保するため、W社は、本件土地建物に債権額120,000,000円の抵当権を第1順位で設定していた。)を危惧し、W社の担当者に対し、「本件土地建物の所有権移転時より、請求人が本件個人ローン契約の弁済をしてきた経緯があり、今後も、請求人がTの保証人となって債務を弁済するので、W社でローンを継続してほしい。請求人が他の金融機関で資金を調達して一括弁済するまで毎月1,000,000円を弁済するので、6か月以上の期間、競売を留保してほしい。」旨申し入れた。
H W社は、平成7年4月7日、上記Fの保証委託契約に基づく保証債務を履行し、未払利息を含めた本件個人ローン契約の残額115,316,440円を弁済し、本件個人ローン契約の債権者に代位した。
I W社は、平成7年4月7日、債務者をT、連帯保証人を請求人及びYとして、要旨以下の内容の債務承認弁済契約(以下「本件債務承認弁済契約」という。)を締結した。
(A) W社の保証履行による求償債務残元金は、115,316,440円である。
(B) 平成7年4月30日を第1回として、同年12月30日まで、毎月月末までに1,000,000円を分割弁済し、同年12月末日に残額を一括弁済する。
(C) 利息、損害金については、年14%とし、年365日とする日割計算により上記期限に一括弁済する。
(ハ) 債務承認弁済契約締結後の履行状況
A 請求人は、本件債務承認弁済契約の締結以降、平成7年11月30日までの期間、別表2−1の「弁済額」欄のとおり本件引受債務を履行し、W社は、毎月の弁済金を求償債務残元金に充当した。
B 請求人は、平成7年12月13日、W社を訪れ、担当者に対し、本件債務承認弁済契約で定められた一括弁済期限が平成7年12月末日となっているが、他の金融機関からの借入れが遅れているため、しばらくの間、毎月1,000,000円を弁済するという現状の弁済方法を継続してほしい旨申し入れた。
C 平成7年12月31日、本件債務承認弁済契約に定められた一括弁済期限が経過したが、請求人は求償債務残元金及び利息を一括弁済しなかった。
 W社は、請求人が毎月1,000,000円の弁済を履行していることを踏まえ、直ちに一括弁済を求めることはしないこととし、6か月、求償債務残元金及び遅延損害金の一括弁済を猶予し、毎月1,000,000円の元金弁済を容認することとした。
D 請求人は、平成8年7月15日、W社を訪れ、担当者に対し、再度、現状の弁済方法を継続してほしい旨申し入れた。
 W社は、請求人の上記申入れについて協議した結果、請求人による毎月の元金弁済が滞りなく行われていることを考慮し、1年間は現状の弁済方法を容認し、その後再交渉することとした。
E W社は、平成10年3月31日、本件債務承認弁済契約の履行状況について検討し、請求人が毎月1,000,000円の元金弁済を滞りなく継続していることから、当面、現状の分割回収を容認することとした。
F W社は、平成11年4月7日、本件債務承認弁済契約の履行状況について検討し、請求人が毎月1,000,000円の元金弁済を滞りなく継続していることから、引き続き、現状の分割回収を容認することとした。
G Tは、平成12年3月25日、W社に対して、本件個人ローン契約に基づく求償債務残額が55,702,211円存すること、平成7年4月7日から完済日までの期間、当該求償債務残額に対して年14%の割合による損害金を負担していることを内容とする「債務承認書」を差し入れた。
H W社は、平成○年○月○日、Z社に吸収合併された後、同年○月○日に同社の○○部門が分割されて、R社がこれを引き継いで、同社が本件個人ローン契約に係る債権を承継した。
I 別表2−3のとおり、平成16年12月15日に請求人が702,211円を弁済したことにより、求償債務残元金は完済された。
J R社は、平成17年2月16日、請求人に対して、平成16年12月15日付で本件個人ローン契約に係る元金(求償債務残元金)は全額弁済されたものの、遅延利息金(遅延損害金)が残存しており、担保権が設定されたままになっているので、今後の請求人の弁済計画等について検討を依頼することを内容とする連絡文書を送付した。
K 請求人は、平成17年2月23日、R社の担当者に電話し、平成7年以降、債務者Tに代わって弁済を継続し、弁済総額が115,000,000円を上回っていることから利息(遅延損害金)については免除してもらいたい旨申し入れた。
 これに対し、R社の担当者は、全額免除することはできない旨回答した。
L 請求人は、平成17年2月28日、R社を訪れ、未払の遅延損害金について、担当者と交渉した。
 その結果、R社と請求人は、請求人が遅延損害金1,000,000円をR社に支払い、R社が残りの遅延損害金に係る債務を免除することで合意した。
 そして、同日、請求人はR社に遅延損害金1,000,000円を支払い、R社は本件債務承認弁済契約上の債務者であるTに対する遅延損害金を免除した。
ハ 判断
(イ) 上記ロの(ロ)のIの(B)、(C)及び(ハ)のCのとおり、平成7年12月末日において請求人が求償債務残元金及び利息を一括弁済しなかったことから、年14%の遅延損害金が生じたこと、上記ロの(ハ)のGのとおり、TがW社に対し、同年4月7日から完済日までの期間、求償債務残元金に対して年14%の遅延損害金を負担していることを内容とする債務承認書を差し入れたことからすれば、同年4月7日から平成12年3月25日までの期間において、遅延損害金の利率は年14%であったことが認められる。
 また、当審判所の調査によれば、R社の担当者が、平成16年10月22日、請求人に対して、本件債務承認弁済契約のとおり分割弁済金はすべて元金返済に充当したので「遅延利息」(遅延損害金)(「当初約定レート5.7%」で算出した場合の遅延利息は31,461,386円となる。)が残存することなどを内容とする「貴保証に係わるアパートローンのご返済について」と題する文書を送付したことが認められるところ、同担当者の当審判所に対する答述によれば、同担当者は、請求人と遅延損害金の交渉を始めるに際し、バブル崩壊後は元本の回収ができればいいというような環境下にあり、本件債務承認弁済契約で定められた遅延損害金の利率である年14%を記載するより、本件個人ローン契約の約定利率である年5.7%を記載した方が交渉がしやすいと考え、請求人に送付した文書には「当初約定レート5.7%」と記載したものであったことが認められ、上記文書により、遅延損害金の利率を年14%から年5.7%に変更したものではなく、遅延損害金の利率は年14%であったことが認められる。
 以上の事実に加え、平成16年10月22日から請求人が求償債務残元金を完済した同年12月15日までの期間において、証拠上、遅延損害金の利率が年14%から変更された事実はないことを併せ考えると、遅延損害金の利率は、本件債務承認弁済契約が締結されてから求償債務残元金が完済されるまでの期間、一貫して年14%であったものと認められ、遅延損害金の合計額は、別表2−3のとおり77,288,490円となる。
 そして、上記ロの(ハ)のLのとおり、平成17年2月28日、請求人がR社に1,000,000円を支払い、R社がTに対して有する遅延損害金の残額76,288,490円を免除したことにより、本件債務承認弁済契約上の債務者であるTの債務が消滅したものと認められる。
(ロ) 遅延損害金の債務免除によりTの債務が消滅すると、請求人が本件引受債務の履行を引き受けたことにより、Tに対して負っていた債務者の債務を履行するという債務も消滅することになり、この債務者の債務を履行するという請求人の債務は、請求人の金銭的負担を必要とする債務であるから、この債務の消滅は請求人において経済的利益を受けたものと認められ、この請求人が受けた経済的利益の額は、Tが免除された遅延損害金の額と同額であるから、上述したとおり76,288,490円となる。
(ハ) そして、上記ロの(ロ)のBのとおり、請求人が本件土地建物の売買代金の一部の支払に代えて本件引受債務の履行を引き受け、その結果、76,288,490円の経済的利益を受けたこと、上記ロの(イ)のとおり、請求人が本件建物を継続して賃貸の用に供していたことからすれば、請求人は、不動産の貸付けに関連して当該経済的利益の額76,288,490円を享受したものと認められるから、当該経済的利益の額は、不動産所得の付随収入として、不動産所得の金額の計算上総収入金額に算入されることとなる。
(ニ) これに対し、請求人は、上記2の(1)の「請求人」欄のイのとおり、R社が遅延損害金に係る債務を免除したことにより、請求人に経済的利益は生じていない旨主張する。
 しかしながら、上記(イ)及び(ロ)で述べたとおり、本件債務承認弁済契約に係る遅延損害金の約定利率は、求償債務残元金が完済されるまで一貫して年14%であったこと、また、平成17年2月28日、請求人がR社に1,000,000円を支払ったことにより、R社がTに対して有する遅延損害金の残額76,288,490円を免除し、これにより請求人に同額の経済的利益が生じたことは明らかであるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ホ) また、請求人は、上記2の(1)の「請求人」欄のロのとおり、R社の債務免除による経済的利益が請求人に生じているとしても、法人から受けた債務免除であるから、一時所得の金額の計算上総収入金額に算入されるべきものである旨主張する。
 しかしながら、上記(ハ)で述べたとおり、請求人は不動産の貸付けに関連して経済的利益を享受したものであり、当該経済的利益は不動産所得の付随収入と認められるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(2) 争点2について

イ 法令解釈
 上記1の(3)のイ及びロのとおり、事業所得の金額の計算の基礎となった事実のうちに含まれていた無効な行為により生じた経済的成果がその行為の無効であることに基因して失われた場合には、その者のその損失の生じた日の属する年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することができるものであるが、これは、事業所得に対する課税は納税者の担税力に着目してなされるものであり、当該所得が無効な行為により得られた利得であっても、少なくともそれが現実に返還されるまでは利得者は担税力を有するものであるが、その担税力が失われれば損失が生じたということができるから、その者の損失の生じた日の属する年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することができるという趣旨であると解される。
 このような趣旨からすれば、所得税法施行令第141条第3号に規定する「経済的成果がその行為の無効であることに基因して失われたこと」とは、無効な行為によって得られた利得が現実に返還されたことをいうと解される。
ロ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、以下の事実が認められる。
(イ) M地方裁判所○○部の平成○年(○)第○号に係る送達報告書によれば、本件判決の正本は、平成18年○月○日に請求人の訴訟代理人弁護士であるfに送達され、請求人が控訴を提起しなかったため、本件判決は同月○日に確定した。
(ロ) 請求人は、審査請求書を提出した時点において、本件判決でN社に対して支払が命じられた過払金○○○○円をN社に支払っていない。
ハ 判断
 上記1の(4)のとおり、本件判決は、請求人が利息制限法の制限利率を超えて違法に受領していた利息相当額を過払金相当額として支払を命じたものであり、当該過払金相当額は事業所得の金額の計算の基礎となった事実のうちに含まれていた無効な行為により生じた経済的成果といえる。
 しかしながら、上記ロの(イ)のとおり、本件判決は平成18年○月○日に確定しているものの、上記ロの(ロ)のとおり、請求人が上記過払金相当額をN社に支払っていないことからすれば、無効な行為によって得られた利得が現実に返還されたということはできず、経済的成果がその行為の無効であることに基因して失われたということはできないから、上記過払金相当額を本件年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することはできない。
 なお、原処分庁は、上記2の(2)の「原処分庁」欄に記載したとおり、上記過払金相当額について、本件年分の事業所得の金額○○○○円を限度として、本件年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入される旨、請求人は、上記2の(2)の「請求人」欄に記載したとおり、上記過払金相当額を本件年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入した後の損失の金額を他の所得と損益通算すべきである旨各主張するが、上述したとおり、請求人が上記過払金相当額をN社に支払っていない以上、上記各主張はその前提において理由がない。

(3) 争点3について

イ 法令解釈
 貸倒損失は、通常の事業活動によって必然的に発生する必要経費とは異なり、事業者が取引の相手方の資産状況について十分に注意を払う等合理的な経済活動を遂行している限り、必然的に発生するものではなく、取引の相手方の破産等の特別の事情がない限り生ずることのない、いわば特別の経費というべき性質のものである上、貸倒損失の不存在という消極的事実の立証には相当の困難を伴うものである反面、事業者においては、貸倒損失の内容を熟知し、これに関する証拠も事業者が保持しているのが一般であるから、事業者において貸倒損失となる債権の発生原因、内容及び帰属並びに回収不能の事実及び時期等について具体的に特定して主張し、貸倒損失の存在をある程度合理的に推認させるに足りる立証を行わない限り、事実上その不存在が推定されるものと解するのが相当である。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、以下の事実が認められる。
(イ) 請求人は、平成9年分から平成16年分までの所得税の確定申告において、S社に対する貸付金に係る利息収入を事業所得の金額の計算上総収入金額に算入していない。
(ロ) 請求人は、平成18年9月26日、原処分庁が同年4月11日付で行った平成11年分から平成16年分までの所得税の更正処分等の取消しを求めて審査請求(以下「前回審査請求」という。)をした。
 請求人は、前回審査請求において、上記2の(3)の「請求人」欄に記載したS社に対する貸倒損失を平成16年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することができる旨主張し、以下の書類を提出した。
A 平成14年5月10日付の金銭借用証書の写し(以下「S社借用証書」という。)
 借用金額を16,500,000円、借主をS社、連帯保証人をdとする借用証書であるが、利率及び弁済方法については記載されておらず、借主欄に「Q県q市○○町○○番地○ S社 代表取締役e」のゴム印が押され、S社の代表者印が押されている。
B 平成16年12月20日付の債権確認書と題する書類の写し(以下「S社債権確認書」という。)
 S社が、連帯保証人をe及びdとして、平成9年11月20日及び同月25日に請求人から借入れをし、平成16年12月20日現在で16,400,000円の借入残があることを確認する旨記載されている。
C 平成16年12月25日付の債権放棄通知書と題する書類の写し(以下「S社債権放棄通知書」という。)
 請求人はS社に対して16,400,000円の債権を有しているが、S社が弁済に応じないため、調査の結果、弁済の能力がないものと判断し、平成16年12月25日をもって当該債権を放棄する旨記載されており、U郵便局の平成17年3月○日付第○○○号の書留内容証明郵便物の印章が押されている。
(ハ) 請求人は、当審判所に対し、S社債権確認書及びS社債権放棄通知書のほかに、以下の書類を提出した。
A 領収金額を16,500,000円、発行者を「q市○○町○○−○ S社 e(「e」の個人印が押されている。)」、あて先をg(請求人が営んでいた貸金業に係る屋号)とする、平成14年5月10日付の領収証の写し(以下「S社領収証」という。)
B 振出人欄にS社と表記された手形6枚及び小切手3枚の各写し(以下「本件手形等」という。)
ハ 判断
(イ) 請求人は、当審判所に対し、上記ロの(ハ)のとおり、S社債権確認書、S社債権放棄通知書、S社領収証及び本件手形等を提出した。
 しかしながら、まる1上記ロの(イ)のとおり、S社債権確認書に記載された年月日又はS社借用証書の作成時点でS社に対する金銭の貸付けが存在すれば、貸金業を営む請求人において、S社からの利息収入が全くないことは考えられないが、請求人は、平成9年分から平成16年分までの所得税の申告において、利息収入を事業所得の金額の計算上総収入金額に算入していないこと、まる2上記ロの(ロ)のAのとおり、貸金業を営む者が第三者に金銭を貸し付けるに当たり、通常、利息や弁済方法を約定しないことは考えられないが、S社借用証書には利息や弁済方法の記載がないこと、まる3上記ロの(ロ)のA及びBのとおり、請求人はS社に対して16,400,000円を貸し付けた旨主張しているにもかかわらず、S社借用証書とS社債権確認書の債権の発生年月日が4年以上相違し、金額も相違していること、まる4S社領収証の発行者は「q市○○町○○−○  S社 e」と手書きされ、「e」の個人印が押されているところ、同日作成されたS社借用証書に、S社のゴム印及び代表者印が押されており、同一日に作成された各書類としては不自然であることからすれば、請求人が提出したこれらの書類等の信用性には疑いが残るといわざるを得ない。
 また、請求人は、本件手形等により、いかなる事実を証明しようとするのか明らかにしない。
(ロ) 以上のことから、請求人は、貸倒損失となる債権の発生原因、内容及び帰属並びに回収不能の事実及び時期等について、具体的に特定して主張し、貸倒損失の存在をある程度合理的に推認させるに足りる立証を行っているとはいえない。
 したがって、請求人が主張するS社に対する貸倒損失は、事実上その不存在が推定されるから、当該貸倒損失の金額を本件年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することはできない。

(4) 本件更正処分

 上記(1)から(3)までで述べたとおり、R社が遅延損害金に係る債務を免除したことにより請求人が受けた経済的利益の額は、本件年分の不動産所得の金額の計算上総収入金額に算入され、本件判決により支払を命じられた過払金相当額及びS社に対する貸倒損失の金額は、いずれも本件年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することはできない。
 また、原処分庁は、本件更正処分において、本件判決により支払を命じられた過払金相当額に係る損失を控除する前の本件年分の事業所得の金額を○○○○円と認定しているところ、当該認定は当審判所においても相当と認められる。
 以上を前提として、当審判所が本件年分の総所得金額を算定すると、事業所得の金額○○○○円、不動産所得の金額○○○○円及び給与所得の金額○○○○円を合計した金額○○○○円となり、この金額は本件更正処分のそれを上回るから、本件更正処分は適法である。

(5) 本件重加算税賦課決定処分

 請求人が、取引先に内容虚偽の請求書を作成させるなどの方法により、修繕費○○○○円を本件年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入して確定申告書を提出したことは、重加算税の賦課要件を満たしている。
 上記(4)のとおり、本件更正処分は適法であるところ、当審判所が重加算税の額を算定すると○○○○円となり、この金額は本件重加算税賦課決定処分のそれと同額であるから、本件重加算税賦課決定処分は適法である。

(6) 本件過少申告加算税賦課決定処分

 上記(4)のとおり、本件更正処分は適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、本件過少申告加算税賦課決定処分は適法である。

(7) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によってもこれを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る

トップに戻る