ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.78 >> (平21.10.9、裁決事例集No.78 172頁)

(平21.10.9、裁決事例集No.78 172頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)の子が、勤務先で職務発明を行い、同職務発明に係る特許を受ける権利を同勤務先に承継させた後に死亡し、相続人である請求人が、上記特許を受ける権利の対価について、同勤務先に対しその支払を求める訴訟を提起し、同訴訟において、訴訟上の和解が成立したことから、請求人が、その和解によって得た金員を請求人の一時所得として申告したところ、1原処分庁が、これを雑所得に該当するとして更正処分等を行ったため、同処分等の全部の取消しを求め、さらに、その後、2請求人が、当該金員は、請求人ではなく、被相続人に帰属すべき所得であるとして更正の請求をしたことに対し、原処分庁が更正をすべき理由がない旨の通知処分をしたことから、請求人が、当該金員の帰属を争って、同処分の全部の取消しを求めた事案であり、争点は、次の2点である。

争点1 請求人が受領した上記金員は、請求人に帰属する所得か否か。

争点2 上記金員が請求人に帰属する所得である場合、その所得区分は、一時所得か雑所得か。

トップに戻る

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成19年分の所得税について確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに原処分庁に申告した。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成20年5月30日付で別表1の「更正処分等」欄のとおりの平成19年分の所得税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、上記ロの各処分を不服として、平成20年7月24日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年9月18日付で棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の上記ロの各処分に不服があるとして、平成20年10月16日に審査請求(以下「本件第一次審査請求」という。)をした。
ホ その後、請求人は、平成21年2月24日、平成19年分の所得税について総所得金額及び納付すべき税額を別表1の「更正の請求」欄のとおりとすべき旨の更正の請求をした。
ヘ 原処分庁は、これに対し、平成21年3月18日付で更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
ト 請求人は、平成21年4月9日、本件通知処分を不服として国税通則法(以下「通則法」という。)第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第4項第3号に基づき審査請求(以下「本件第二次審査請求」という。)をした。
チ そこで、本件第一次審査請求及び本件第二次審査請求について併合審理する。

トップに戻る

(3) 関係法令等

 別紙1のとおりである。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人の子であるD(以下「亡D」という。)は、昭和44年4月からP市Q町○−○を本店所在地とするE社に勤務し、同社在職中に共同で別表2の「発明の名称」欄記載のとおりの職務発明(以下、亡Dがなした職務発明を総称して「本件職務発明」という。)をした。
ロ E社は、従業員の発明に関して別紙2のとおりの各規定を設けているところ、同社は昭和○年○月○日付○○○○規則(以下「本件規則」という。)第4条に基づき、本件職務発明により亡Dが取得した特許を受ける権利(以下「本件権利」という。)を同人より承継した。
ハ E社は、本件職務発明について、上記ロ記載の各規定に基づき、亡Dあるいはその相続人に対し、下記のとおり、金員を支払った。
(イ) 出願補償
A 国内・外国における出願補償○○○○円×4件 合計○○○○円
B 特許権の優先権主張の根拠となった出願3件についての出願補償
○○○○円×3件 合計○○○○円 (ロ) 登録補償(国内のみ)
一件の特許登録につき○○○○円
平成8年1月に、別表2の1の発明につき、同年10月に、同表の2の発明につき、平成9年7月に、同表の3の発明につき、それぞれ○○○○円の登録補償、合計○○○○円が支払われた。
(ハ) 報賞
 平成元年に、本件職務発明の創製と製品化に関わった者23名の研究者等を対象に合計○○○○円が支払われた。
(ニ) 追賞
 平成3年に、本件職務発明の開発に関わった者17名の研究者等を対象に合計○○○○円が支払われた。
なお、上記(ハ)及び(ニ)について、亡Dに支払われた額は不明である。
ニ 亡Dは、平成6年3月○日に死亡し、亡Dの妻であるF、亡Dの父であるG、亡Dの母である請求人が、亡Dの相続財産を相続した。
ホ Gは平成7年11月○日に死亡し、Gの妻である請求人、Gの子であるHがGの相続財産を相続した(以下、請求人、F及びHを併せて「請求人ら」という。)。
へ 請求人及びHは、平成16年○月○日、E社に対し、亡Dが同社在職中になした本件権利をE社に承継させたことによる相当の対価の支払を求めて、J地方裁判所に訴訟を提起した(以下「本件訴訟」という。)。また、Fは、平成17年○月○日、J地方裁判所に本件訴訟と同様の訴訟を提起した(以下、本件訴訟と併せて「本件各訴訟」という。)。
ト 本件各訴訟については、平成19年○月○日、要旨以下のとおりの訴訟上の和解(以下「本件和解」という。)が成立した。
(イ) E社は、亡DがE社在職中になしたすべての職務発明(外国特許及びノウハウ等もすべて含む。)について特許を受ける権利の承継の相当の対価(E社の○○○○規則上、支払期限未到来のものも含む。)として、請求人に対し○○○○円、Hに対し○○○○円、Fに対し○○○○円を支払う義務があることを認め、上記各金員を、平成19年○月末日限り、請求人ら指定の銀行口座に振込送金して支払う。
(ロ) 請求人らは、その余の請求をいずれも放棄する。
チ E社は、平成19年○月○日、本件和解の和解条項に従い、○○○○円の金員(上記トの(イ)のE社が請求人らに支払うべき金額の合計額)を、請求人ら指定の銀行口座に振込送金により支払い、請求人らは、当該金員を受領した(以下、請求人が受領した当該金員を「本件金員」という。)。

トップに戻る

2 争点1(本件金員は、請求人に帰属する所得か否か。)について

(1) 主張

原処分庁 請求人
 E社に対する本件職務発明に係る対価請求権(以下「本件対価請求権」という。)は、亡Dの死亡時点において、E社にとっていまだ具体的債務であったとは認められず、その後、請求人が同請求権を行使したことにより、同社が具体的債務を負うこととなったものと認められる。
 そして、本件金員は、本件対価請求権を請求人が相続により承継し、同請求権を請求人が行使することによって平成19年○月に得られたものである。
 したがって、本件金員に係る所得の帰属者は亡Dではなく請求人であり、請求人に平成19年分の所得税が課税されることとなる。
 本件金員は、亡Dが本件権利をE社に承継したことに対する相当の対価として受領したものであり、本件権利の承継に際し一時に受けるべき対価の修正追加支払額と考えられる。そして、所得税法上、権利の譲渡に際し一時に受けるべきものは譲渡所得に該当することから、同金員は、亡Dによる当該譲渡が行われた年分の譲渡所得として亡Dにのみ課税されるべきものである。
 他方、請求人は本件職務発明に寄与した事実もなく、本件金員の受領は、亡Dが所有していた未収の債権を相続し、これを回収したにすぎないものであるから請求人に所得税は課税されない。

トップに戻る

(2) 判断

イ 所得税法第36条第1項は、所得税の課税対象となる所得の金額の計算においては、現実の収入がなくても、その収入の原因となる権利が確定した時点で所得の実現があったものとする権利確定主義を採用している。
 そして、権利の実現が客観的に可能な状態に至らなければ、その権利者に所得の実現があったものとして所得を負担させるべき経済的な利益が備わったということはできないし、後に現実の収入があることを前提とする適正な申告を期待することもできないのであるから、「収入の原因となる権利が確定した」というためには、単に権利の発生要件が満たされたというだけでは足りず、客観的にみて、権利の実現が可能な状態になったことを要すると解するのが相当である。
ロ ところで、特許法第35条第2項は、職務発明に関しては、特許を受ける権利又は特許権の承継、専用実施権の設定をあらかじめ契約、勤務規則等で定めることができる旨、同条第3項は、従業者等が、勤務規則等の定めにより、職務発明について特許を受ける権利を使用者等に承継させる等した場合には、従業者等は相当の対価の支払を受ける権利を有する旨規定し、同条第4項は、相当の対価の算定上考慮すべき要素として、「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」と規定している。
 この「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」は、特許を受ける権利が、将来特許を受けることができるか否かも不確実な権利であり、その発明により使用者等が将来得ることができる独占的実施による利益あるいは第三者からの実施料収入による利益の額をその承継時に算定することが極めて困難であることからすると、当該発明の独占的実施による利益を得た後、あるいは、第三者に当該発明の実施を許諾し実施料収入を得た後の時点において、これらの独占的実施による利益あるいは実施料収入額をみてその法的独占権に由来する利益の額を認定することも、同条項の解釈として許容されるものである。
 そして、勤務規則等に定められ、特許を受ける権利が使用者等に承継された際に一時に支払われた金員は、これが、特許法第35条第3項、第4項所定の相当の対価の一部に当たるときに、その余の請求が許されないとすることはできず、これによる対価の額が同条第4項に規定する要素を考慮した結果、定められる対価の額に満たないときは、特許を受ける権利を使用者等に承継した後であっても、同条第3項の規定に「相当の対価の支払を受ける権利」として、その不足する額(以下「承継後支払金」という。)の支払を求めることができると解するのが相当である。
 そして、承継後支払金の支払に際し、相当の対価の額を判断するためには、当該職務発明の客観的価値等の判断が必要不可欠であるところ、職務発明の客観的価値は、当該発明の技術的価値に対する評価、それにより会社の得た利益等種々の要素により形成され、権利の発生後上記諸要素を踏まえ発見されていく性質のものであり、当事者間において当該対価の額が問題となった場合には、判決や和解等によりその支払われるべき対価の額が確定した時点において、初めて相当の対価の額が確定し、当該確定額についてその権利の実現が可能な状態になったものというべきである。
ハ これを本件についてみると、本件金員は、請求人が本件対価請求権を相続後の平成16年○月に本件訴訟を提起し、当該訴訟において特許を受ける権利の相当の対価の額を○○○○円と定めた本件和解が成立したことにより当事者間において当該対価が確定したものと認められ、この本件和解成立時に権利の実現が可能な状態になったと解するのが相当である。したがって、本件和解成立時に収入の原因となる権利が確定したと認められるから、本件金員は、請求人の平成19年分の所得とみるのが相当である。
ニ この点、請求人は、本件金員は、本件権利のE社への承継に際し一時に受けるべき対価の修正追加支払額であることから、亡Dに帰属し、亡Dの本件権利の承継が行われた年分の譲渡所得であるから請求人には課税されない旨主張する。
 しかしながら、請求人の主張は、債権発生時期と、税法において当該権利の発生を請求人の収益として計上すべき、あるいは計上し得る時期を混同しているものである。なるほど、本件対価請求権は、本件権利の承継時に発生しているものであるが、このうち、承継後支払金部分については、承継時には、対価の額は未実現(未確定)であるため、直ちにその全部について権利行使(権利の実現)することは困難であり、このような段階では、本件対価請求権は法的には発生していても、いまだ権利実現の可能性を客観的に認識することができるとはいえないから、当該年分の収入に計上することはできないというべきである。
 したがって、請求人の主張は、これを採用することはできない。

トップに戻る

3 争点2(本件金員の所得区分は、一時所得か雑所得か。)について

(1) 主張

原処分庁 請求人
 本件金員は、以下の理由により雑所得に該当するから、本件更正処分は適法である。
イ 雑所得とは、利子所得等及び一時所得に該当しない所得をいうところ、本件金員は、以下のとおり雑所得に該当する。
(イ) 本件金員が、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得及び山林所得に該当しないことは明らかである。
(ロ) 本件金員は、会社が職務発明に係る特許を独占的に利用して得た利益の実績に基づいて算定されたものであり、権利の移転により一時に実現した所得ではないから、譲渡所得にも該当しない。
(ハ) 本件金員は、請求人が、相続によって取得した対価請求権を、本件訴訟において行使することによって得たものであり、したがって、E社に特許を受ける権利を承継させたことの代償として支払われたものであるから、対価性を有することは明らかであり、一時所得にも該当しない。
ロ 以下の点からも本件金員が雑所得であることは明らかである。
(イ) 対価請求権は、特許を受ける権利を会社に承継させた時点で特許登録等を契機に支払われるものと、当該権利を会社に承継させた後においてその利用実績等に応じて支払われるものとの両方を含めた概念である。
   所得税基本通達23〜35共−1(1)(以下「本件通達」という。)は、業務上有益な発明をした者が特許を受ける権利を使用者に承継させたことにより支払を受けるものについて、これらの権利の承継に際し一時に支払を受けるものは譲渡所得、これらの権利を承継させた後において支払を受けるものは雑所得と定めているところ、本件金員は、特許を受ける権利を会社に承継させた時点で支払われたものではなく、承継後にE社が特許を独占的に利用して得た利益の実績によって算定されたものであるから、上記通達からも、譲渡所得には該当せず、雑所得に該当する。
(ロ) 請求人は、本件通達は発明者本人に適用が限定され、請求人には適用されない旨主張するが、通常、雇用契約があれば使用者から受ける金銭等は給与所得又は退職所得となるところ、上記通達は、職務発明等にかかる報償金等について、譲渡所得又は雑所得という別の所得区分を示したものであるから、会社と雇用契約がなく、また、発明等をしていない請求人が受ける本件金員であれば、なおさら本件通達に定める所得区分に該当することになる。
 請求人に所得税が課税されるとしても、本件金員は、以下の理由により一時所得に該当する。
イ 一時所得とは、利子所得等以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいうところ、本件金員は、以下のとおり一時所得に該当する。
(イ) 対価性を有する所得ではない。
A 本件金員は、請求人がE社に対して何らかの役務を提供したことや資産を譲渡したことにより受領したものではないから、本件金員は、亡Dにとって対価性を有する所得であっても、請求人にとって対価性を有する所得ではない。
B 亡Dに対する相当の対価の支払は本件規則に基づく支払で完了しており、その後支払われた本件金員は、同人が、生前に権利として認識することのなかった本件対価請求権の価値が社会情勢の変化により上昇したことで、本件訴訟を提起し、請求人がたまたま受領できたものにすぎないから、請求人にとって対価性を有する所得ではない。
(ロ) 継続性がない。
 本件金員は、本件職務発明を種にして、請求人が相当の対価を受領できるか否かをすべて弁護士にゆだねた本件訴訟が成功した結果、たまたま獲得できた1回限りの所得であり、反復、継続して生じるものではない。
ロ 原処分庁の主張について
(イ) 原処分庁は、本件通達により、本件金員は雑所得であると主張するが、本件通達は、業務上有益な発明をした者(発明者本人)に適用を限定しているところ、請求人自身は、発明に類する行為を一切していないことから、請求人には適用されない。
(ロ) 本件金員は、飽くまでも本件権利を帰属させた承継の相当の対価であり、本件権利を帰属させた後、本件職務発明が貢献した利益を基に算定する使用料としての性質を有するものではないから、本件金員が利益の実績により算定されたものであるとする原処分庁の主張は誤りであり、本件通達は適用されない。

トップに戻る

(2) 判断

イ 法令解釈
(イ) 所得税法第35条第1項は、雑所得とは、利子所得等及び一時所得に該当しない所得をいう旨規定し、同法第34条第1項は、一時所得について、利子所得等以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう旨規定している。
(ロ) 役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有する所得が一時所得から除外されているのは、対価性を有する所得はたとえ一時的なものであっても偶発的に発生した所得ではなく、その担税力は対価性のない偶発的な所得のそれよりは類型的に大きいとみなし得ることに基づくものであることにかんがみれば、ここでいう対価性とは、専ら、当該給付が役務行為又は資産と対価性があるか否かによって定められるべきであり、権利が相続された場合においても当該役務行為又は資産の譲渡の主体が相続人たる納税者であるか被相続人であるかはその判断に影響を与えないものというべきである。
ロ 本件への当てはめ
 本件金員の所得区分について審理したところ、以下のとおりである。
(イ) 「相当の対価の支払を受ける権利」の内実について
 上記2の(2)のロで明らかにしたとおり、従業者等が特許を受ける権利を使用者等に承継したことに対して使用者等から支払を受ける対価には、「特許を受ける権利」が使用者等に承継された際に対価として一時に支給される金員と、「特許を受ける権利」が使用者等に承継された後に対価として支払を受ける金員の両方があり、特許法第35条第3項にいう従業者等が「相当の対価の支払を受ける権利」に基づいて使用者等から支払を受ける対価には、この両者が含まれると解するのが相当である。
(ロ) 本件金員について
A 本件金員は、本件対価請求権に基づいて使用者から支払われるものであるが、「特許を受ける権利」といった譲渡所得の基因となる資産に該当する権利の譲渡の際に支払われたものではなく、当該権利が譲渡された時点において、本件金員部分がいまだ実現してはいなかったものであるから、その後に支払われ実現した本件金員は譲渡所得には該当しない。
B また、本件金員が、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得に該当しないことは、論をまたない。
C 本件金員は、特許法第35条第3項の相当の対価の不足額を求めた本件各訴訟により金額が確定した金員であり、特許を受ける権利を使用者に承継したことに伴い、使用者が当該権利を独占的に利用する権利を取得し、その金額は承継後に使用者が獲得した利益の実績に基づいて算定されるべきものであり、その実質は使用者に承継した特許を受ける権利の対価であることに疑いはないから、対価性があると認められ、これを一時所得と解することは相当でない。
 そうすると、本件金員は、利子所得等及び一時所得のいずれにも該当しない所得であるから、雑所得に該当する。
 なお、本件通達は、業務上有益な発明をした者が当該発明に係る特許を受ける権利を使用者に承継させたことにより支払を受けるもののうち、これらの権利の承継に際し一時に受けるものは譲渡所得、これらの権利を承継させた後において支払を受けるものは雑所得とする旨定めているところ、これは、特許を受ける権利を使用者に承継させたことに対する対価として、「相当の対価の支払を受ける権利」には、上記(イ)に示した二つの場合があることに着目して、その支払の時期、対価性の有無からその所得区分についての判定基準を示したものであり、本件の事案に即して所得税法を当てはめても同様の結論となり、本件通達が示した解釈適用の指針は当審判所においても相当と認められる。
(ハ) この点、請求人は、上記(1)の請求人欄イの(イ)及び(ロ)のとおり、発明者の相続人である請求人にとっては対価性がなく、本件訴訟により請求人が獲得したもので継続性がないから、本件金員は一時所得に該当する旨主張する。
A しかしながら、上記イの(ロ)のとおり、対価性とは、専ら、当該給付が役務行為又は資産と対価性があるか否かによって定められるべきであり、当該役務行為又は資産の譲渡の主体が相続人たる請求人であるか被相続人であるかはその判断に影響を与えるものではない。
 そして、請求人が本件金員の支払を請求し、その支払を受け得る根源的理由は、請求人の子による発明に係る「特許を受ける権利」がその使用者に承継されたことに伴い、請求人の子が「相当の対価を受ける権利」(本件対価請求権)を取得し、請求人がその権利を相続により承継したことにあり、本件金員の支払が「特許を受ける権利」を承継したことに対して「相当の対価を受ける権利」に基づくものであることは明らかである。本件金員が本件対価請求権に基づくものである以上、本件金員に特許を受ける権利の承継との対価性が認められることは明らかであり、請求人の主張には理由がない。
 そして、本件金員が、本件訴訟によって獲得できたものであることは請求人の主張のとおりであるとしても、その金員の法的性格は、上記のとおり、特許法第35条第3項に基づく「相当の対価を受ける権利」であり、「特許を受ける権利」を使用者に承継させ、その独占的使用を許容させていることに対する対価であることに疑いはなく、対価性がないとする請求人の主張にも理由はない。
B また、請求人は、本件通達は、発明者に適用を限定しているから、発明者でない請求人には適用されず、本件金員は本件権利を帰属させた承継の相当の対価であるから、利益の実績により算定されたものであるとする原処分庁の主張は誤りであるとも主張する。
 しかしながら、特許法第35条第3項を根拠として受領した「相当の対価」の所得としての性格は、「特許を受ける権利」を承継させたことに対する対価として支払われるものという当該権利の性質に着目し、税法上それをどのように評価するかによって決せられるのであり、本件通達の解釈に際しても、その権利の性質に変動がない以上、特許等の承継の対価を受ける者が、発明者であるか否かによってこれを区別して解釈する根拠はなく、この点における請求人の主張もまた採用できない。

トップに戻る

4 本件更正処分及び本件通知処分について

 上記2及び3のとおり、本件金員は請求人の平成19年分の雑所得に該当し、その金額は○○○○円になるところ、この金額は本件更正処分の額と同額であるから、本件更正処分及び本件通知処分はいずれも適法である。

トップに戻る

5 本件賦課決定処分について

 本件更正処分は上記4のとおり適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいてされた本件賦課決定処分は適法である。

トップに戻る

6 その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によってもこれを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る

トップに戻る