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(平21.12.7、裁決事例集No.78 193頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、居住者の相続人が、年の中途で死亡した居住者の所得税の確定申告に当たり、配偶者控除を適用して申告したところ、原処分庁が、当該居住者の配偶者は合計所得金額が38万円を超えるから配偶者控除の適用はないとする更正処分等を行ったため、請求人がその処分の全部の取消しを求めた事案であり、争点は、当該居住者の配偶者が、控除対象配偶者に該当するかどうかの判定における合計所得金額の計算期間は、その年の1月1日から居住者の死亡した時までか、それとも12月31日までかである。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 審査請求人(以下「請求人」という。)A、同B及び同C(以下、3名を併せて「請求人ら」という。)は、D(以下「本件被相続人」という。)の相続人であるが、本件被相続人に係る平成19年分の所得税について、確定申告書に次表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限内に申告した。

区分等
項目
確定申告 更正処分等 請求人らが新たに納付すべき金額等の内訳
A B C
総所得金額 まる1 ○○○○ ○○○○      
内訳 事業所得の金額 まる2 ○○○○ ○○○○
不動産所得の金額 まる3 ○○○○ ○○○○
所得控除の合計額 まる4 ○○○○ ○○○○
内訳 配偶者控除の額 まる5 480,000 0
その他の所得控除の額 まる6 ○○○○ ○○○○
課税総所得金額 まる7 ○○○○ ○○○○
納付すべき金額 まる8 ○○○○ ○○○○ ○○○○ ○○○○ ○○○○
過少申告加算税の額 まる9   ○○○○ ○○○○    

(注)「まる7」欄は、1,000円未満の端数を切り捨てた後の金額である。

ロ 原処分庁は、これに対し、平成20年11月26日付で上表の「更正処分等」欄のとおりの所得税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人らは、これらの処分を不服として、平成21年1月14日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年3月11日付で、棄却の異議決定をした。
ニ 請求人らは、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成21年4月2日に審査請求をした。
 なお、請求人らは、請求人Aを総代として選任し、その旨を平成21年4月28日に届け出た。

(3) 基礎事実

 以下の事実は、請求人らと原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果においてもその事実が認められる。
イ 本件被相続人は、平成19年10月○日に死亡した。
ロ 請求人Aは、本件被相続人の配偶者で、請求人B及び同Cは、本件被相続人の子である。
ハ 請求人Aは、本件被相続人の死亡の時まで本件被相続人と生計を一にしていた。
ニ 請求人Aは、昭和6年10月○日生まれであり、本件被相続人の死亡の時において満76歳であった。
ホ 請求人Aは、平成19年1月1日から本件被相続人の死亡の時まで所得はなかった。
ヘ 本件被相続人の相続財産には、貸家及び貸地が含まれていた。
 請求人らは、貸付不動産から不動産所得が生ずることを認識していた。
ト 平成20年7月14日に、本件被相続人の相続財産に係る遺産分割協議が成立した。

(4) 関係法令等の要旨

イ 所得税法第2条《定義》第1項第30号ロは、合計所得金額とは、同法第70条《純損失の繰越控除》及び同法第71条《雑損失の繰越控除》の規定を適用しないで計算した場合における同法第22条《課税標準》に規定する総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額である旨規定している。
ロ 所得税法第2条第1項第33号は、控除対象配偶者は、居住者の配偶者でその居住者と生計を一にするもののうち、合計所得金額が38万円以下である者をいう旨、また、同項第33号の2は、老人控除対象配偶者とは、控除対象配偶者のうち、年齢70歳以上の者をいう旨、それぞれ規定している。
ハ 所得税法第83条《配偶者控除》第1項は、居住者が控除対象配偶者を有する場合には、その居住者の総所得金額から38万円(その控除対象配偶者が老人控除対象配偶者である場合には48万円)を控除する旨規定している。
ニ 所得税法第85条《扶養親族等の判定の時期等》第3項は、居住者の老人控除対象配偶者等に該当するかどうかの判定は、その年の12月31日(居住者が年の中途において死亡した場合には、その死亡の時)の現況による旨規定している。
ホ 所得税基本通達(以下「基本通達」という。)85−1《年の中途において死亡した者等の親族等が扶養親族等に該当するかどうかの判定》は、年の中途において死亡した居住者の配偶者が、その居住者の控除対象配偶者に該当するかどうかの判定は、次による旨定めている。
(イ) 当該配偶者が居住者と生計を一にしていたかどうかは、その死亡の時の現況により判定する(基本通達85−1の(1))。
(ロ) 当該配偶者が控除対象配偶者に該当するかどうかは、その死亡の時の現況により見積もったその年の1月1日から12月31日までの当該配偶者の合計所得金額により判定する(基本通達85−1の(2))。
ヘ 民法第900条《法定相続分》第1号は、子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各2分の1とする旨規定している。

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2 主張

原処分庁 請求人
 本件更正処分は、次の理由により、適法である。
(1) 所得税法第85条第3項は、所得税法第2条第1項第33号の2に規定する老人控除対象配偶者に該当するか否かについて、居住者が年の中途で死亡した場合、死亡の時の現況で判定する旨規定している。
 他方、所得税法の規定上、合計所得金額は、暦年計算されたものをいい、年当初から死亡時までの所得金額をいうものではない。
 したがって、居住者が年の中途で死亡した場合、その死亡時の現況において配偶者の合計所得金額を算定するには、死亡時から12月31日までの所得金額は見積もりによらざるを得ない。
 基本通達85−1の(2)は、この旨を定めたものであり、所得税法第85条第3項の規定を逸脱するものではない。
(2) そして、本件被相続人が死亡した時の現況により請求人Aの平成19年分の合計所得金額を見積もったところ、38万円を超えており、請求人Aは本件被相続人の控除対象配偶者には該当しないから、配偶者控除を適用することはできない。
 本件更正処分は、次の理由により、違法であるから取り消されるべきである。
(1) 所得税法第85条第3項は、居住者が年の中途で死亡した場合、老人控除対象配偶者に該当するか否かは、その死亡の時の現況によって判定する旨規定している。
 したがって、老人控除対象配偶者に該当するか否かは、居住者が死亡の時まで配偶者を扶養していたか否かによって判断されるから、配偶者の合計所得金額の判定に当たっては、その計算期間を1月1日から居住者の死亡の日までの状況によるべきであり、居住者の死亡後に配偶者がどのような所得を得るであろうという見積額を考慮する必要はない。
(2) 「死亡の時の現況により見積もったその年の1月1日から12月31日までの当該親族等の合計所得金額により判定する。」とする基本通達85−1の(2)は、居住者の死亡日以後の所得もその判定に加えるように定めているが、所得税法第85条第3項の規定の範囲を超えて拡大解釈をしているから、違法である。

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3 判断

(1) 合計所得金額について

イ 所得税法第85条第3項は、居住者の配偶者が同法第2条第1項第33号に規定する控除対象配偶者に該当するかどうかの判定の要件の1つである当該配偶者の合計所得金額については、その年の12月31日の現況により判断するが、居住者が年の中途で死亡した場合は、その居住者の死亡の時の現況により判断する旨規定している。
ロ そして、所得税法は、合計所得金額を、上記1の(4)のイのとおり規定しているところ、これを構成する所得税法第23条から第35条までの各種所得金額は、いずれも「その年中の」、すなわち、1月1日から12月31日までの収入金額又は総収入金額を基礎に計算されることから、それらの合計である合計所得金額についても1月1日から12月31日までの期間で計算されることとなる。そして、このことは、配偶者控除を受けようとする居住者が年中に死亡していたかどうかによって異なるものではない。
 したがって、年の中途で死亡した居住者の配偶者が、その居住者の控除対象配偶者に該当するか否かの判定に係る合計所得金額の計算期間については、その年の1月1日から12月31日までとなると解される。そうすると、合計所得金額については、当該居住者の死亡の時の現況により見積もらざるを得ず、原処分庁の判断は相当である。
 したがって、基本通達85−1の(2)に定める取扱いも、所得税法第85条第3項の規定を拡大解釈するものではない。
ハ 請求人らは、居住者が年の中途において死亡した場合の配偶者控除の適用に係る当該合計所得金額の判定は、所得税法第85条第3項の規定により、その年の1月1日から居住者の死亡の日までとなる旨主張するが、当該合計所得金額が、その年の1月1日から12月31日までで算定されるものであることについては上記イ及びロのとおりであるから、これと異なる請求人らの主張はいずれも独自の見解であり、理由がない。

(2) 請求人Aの平成19年分の合計所得金額について

イ 相続開始から遺産分割までの間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産であって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得され、後にされた遺産分割の影響を受けることはないと解されている。
 したがって、本件被相続人の相続財産のうち賃貸不動産に係る相続開始後の賃料債権は、請求人らが各法定相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得することになる。
ロ 本件被相続人の平成19年1月1日から本件被相続人の相続開始までの不動産所得の金額は、上記1の(2)のイの表の「不動産所得の金額」欄のとおり○○○○円であり、これを同年1月1日から相続開始までの期間10か月で除し、2か月を乗じた金額○○○○円に、上記1の(4)のヘのとおり請求人Aの法定相続分2分の1を乗じた金額○○○○円になる。
 そうすると、請求人Aには、本件被相続人の死亡の時から不動産所得が生じることから、本件被相続人の死亡の時の現況で見積もった請求人Aの平成19年分の合計所得金額は、当審判所の計算においても、○○○○円と認められ、原処分庁の判断に誤りはない。

(3) 本件更正処分について

 本件被相続人の死亡時の現況で見積もった請求人Aの平成19年分の合計所得金額は、上記(2)のロのとおり、38万円を超えるから、同人は所得税法第2条第1項第33号の2の老人控除対象配偶者に該当するとは認められず、本件被相続人は同年分の確定申告において配偶者控除は適用できないとした本件更正処分は適法である。

(4) 本件賦課決定処分について

 本件更正処分は、上記(3)のとおり適法であるところ、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、原処分庁が同条第1項の規定に基づいて行った本件賦課決定処分は適法である。

(5) その他

 原処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所の調査によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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