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(平21.12.11、裁決事例集No.78 208頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、ゲームソフトの開発費及びゲームソフトのパッケージ・広告用のイラストの制作費としてE国に本店を置く外国法人に対して支払った金員について、原処分庁が、当該開発費及び当該イラスト制作費は所得税法第161条第7号ロに規定する著作権の譲渡の対価に当たるものであり国内源泉所得に該当するとして、源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、これらは開発委託費等であり著作権の譲渡の対価には該当しないとして、これらの処分の全部の取消しを求めた事案である。

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(2) 審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、請求人に対し、平成19年6月29日付で平成14年7月、平成15年3月、同年11月、平成16年7月、同年11月及び同年12月の各月分の源泉所得税について、納付すべき税額を別表1の「納税告知処分」欄のとおりとする各納税告知処分(以下「本件各納税告知処分」という。)及び不納付加算税の額を同表の「賦課決定処分」欄のとおりとする各賦課決定処分(以下、「本件各賦課決定処分」といい、本件各納税告知処分と併せて「本件各納税告知処分等」という。)をした。
ロ 請求人は、これらの処分を不服として、平成19年7月31日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年10月26日付で、いずれも棄却の異議決定をした。
ハ 請求人は、異議決定を経た後の本件各納税告知処分等に不服があるとして、平成19年11月19日に審査請求をした。
ニ なお、請求人は、平成17年○月○日に所在地をP市p町○−○からQ市q町○−○へ移転し、その後、平成19年○月○日にR市r町○−○へ、さらに平成21年○月○日に同所から肩書地へ移転した。

(3) 関係法令

 関係法令の要旨は別紙1のとおりである。

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(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成6年○月○日に設立された、家庭用ゲームソフトの企画及び開発等を行う内国法人である。
ロ 請求人の親会社であるF社は、請求人が制作した家庭用ゲームソフトの販売等を行う法人であるが、平成○年○月○日にG社に吸収合併された。
ハ ゲームソフトの開発委託先であるH社は、平成6年○月○日に設立された、E国を本店所在地とする外国法人である。
ニ 請求人は、平成14年3月15日付でH社との間で、H社が企画開発し、E国国内で発売したパソコン版ゲームソフト「J」(以下「本件原著作物」という。)を日本で発売するために必要なゲームソフトの試作開発委託業務に関する覚書(要旨は別紙2のとおり。以下「本件覚書」という。)を締結した。
ホ 請求人は、H社との間で家庭用ゲーム機用ゲームソフト「J」(仮称)(以下「本件ソフト」という。)の開発業務(以下「本件開発業務」という。)を委託するため、平成14年6月26日付で開発委託契約(要旨は別紙3のとおり。以下「本件開発委託契約」という。)を締結した。
 当該契約によれば、請求人がH社に対して本件開発業務の対価(以下「本件開発委託費」という。)として○○○○円を支払うこととされている。
 また、F社は、同日付でH社との間で、同社の著作物である本件原著作物に係る著作権(以下「本件原著作権」という。)の使用許諾に関して、著作権使用許諾契約(要旨は別紙4のとおり。以下「本件原著作権使用許諾契約」という。)を締結した。
ヘ F社は、請求人との間で、本件ソフトの企画開発に関し、平成14年7月1日付で企画開発契約(要旨は別紙5のとおり。以下「本件企画開発契約」という。)を締結した。
ト H社は、平成16年1月7日付で請求人に対し、本件ソフトの広告及びパッケージ用のイラスト(以下「本件各イラスト」という。)に係る見積書等(内容は別表2のとおり。)を発行した。
チ 請求人は、平成16年1月19日付でH社に本件各イラストの制作(以下「本件各イラスト制作業務」という。)を○○○○円(以下、「本件各イラスト制作費」といい、本件開発委託費と併せて「本件開発委託費等」という。)で発注している。
リ H社は、請求人に対し、本件開発委託費等を別表3の「請求年月日」欄記載のとおり請求し、請求人は別表4の「支払年月日」欄記載のとおり支払った。
ヌ H社は、別紙3(本件開発委託契約の要旨)の5の成功報酬に係る源泉所得税について、所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とE国との間の条約(以下「日○租税条約」という。)第12条第2項の規定の適用に基づく軽減を受けるために、平成16年11月18日に、租税条約の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律の施行に関する省令第2条《相手国居住者等配当等に係る所得税の軽減又は免除を受ける者の届出等》の規定に基づき「租税条約に関する届出書」を原処分庁に提出した。
ル 本件ソフトの開発には、請求人の従業員であるKが従事していたが、同人は平成17年10月20日に請求人を退職した。
 原処分庁所属の調査担当職員が、請求人に対して、本件ソフトに係る請求人からH社に対する具体的な作業指示の内容及びH社から納入された最終マスターROM等の内容等について明らかにするように求めたところ、請求人は、本件ソフトの開発に関連する書類は、退職したKが廃棄したため現存しておらず、また、同人がコンピューターに保存していたデータについても削除して保存されていないとして明らかにしていない。

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2 主張

(1) 原処分庁

 原処分は、次の理由により適法かつ正当に行われているから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件開発委託費について
 以下の理由により、本件ソフトの著作者はH社で、本件ソフトの著作権(以下「本件著作権」という。)はすべて同社が享有するのであるから、本件開発委託契約における当該著作権を請求人とH社が2分の1ずつ共有する旨の定めは、著作権の譲渡を定めたものと認められる。したがって、本件開発委託費は著作権の譲渡の対価に該当する。
(イ) 本件ソフトの開発に関する開発計画書、企画書及び最終仕様書等開発の基本となる書類などはいずれもH社が制作する契約となっており、これら開発計画書等に従ってH社が制作し、完成させた本件ソフトは、H社が主体となって創作したものと認められるから、本件著作権は、その創作者であるH社がいかなる方式の履行をも要せず享有することとなる。
(ロ) また、請求人が本件ソフトの開発過程において、H社に対し詳細な作業指示を与えていた事実も認められない。
(ハ) 請求人とH社は、著作権法第29条に基づく約束を行った事実は認められないため、請求人には著作権は帰属し得ない。
(ニ) 本件開発委託費の金額が人工計算により算出されたものであったとしても、それは、本件著作権の譲渡対価の額を構成する要素の一つであることにすぎず、本件開発委託費を開発委託の対価とする理由にはならない。
(ホ) 請求人は、平成16年10月ころ、原処分庁所属の担当職員から、本件開発委託費については源泉徴収の必要はない旨の指導を受けている旨主張するが、原処分庁所属の担当職員が本件開発委託費については源泉徴収の必要がない旨の指導をした事実は認められない。したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ 本件各イラスト制作費について
 本件各イラストは、著作権法第10条第1項第4号に掲げる美術の著作物に該当し、請求人の依頼により、H社が創作したものであるから、本件各イラストに係る著作権(以下「本件各イラスト著作権」という。)は、創作者であるH社がいかなる方式の履行をも要せず享有することとなる。そして、請求人が本件各イラストを自己の著作物として利用していることから、当該著作権がH社から請求人に譲渡されたと認められる。したがって、本件各イラスト制作費は著作権の譲渡の対価に該当する。

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(2) 請求人

 原処分庁が行った本件各納税告知処分等は、次の理由により違法であるから、原処分の全部の取消しを求める。
イ 本件開発委託費について
 以下の理由により、請求人は本件著作権を発生と同時に取得しているのであるから、本件開発委託費は本件著作権の譲渡の対価に該当しない。
(イ) 本件ソフトは、本件原著作物を家庭用ゲーム機用ゲームソフトとして日本向けにリメイクすることを目的に新たに創作された二次的著作物である。
(ロ) 請求人とH社は、本件開発委託契約において、本件開発委託費が請負の対価であるとした上で、本件著作権が、発生と同時に請求人とH社の共有となる旨を明確に定めている。
 また、本件開発委託費の金額の計算根拠は、人工計算であり、開発に従事する者の人的役務の提供によるものが大半を占める。そして、その金額及び支払条件は本件開発委託契約に係る契約書に明記されており、これに従って送金を行っている。このように、本件開発委託費の支払と本件著作権の帰属に直接的な因果関係はない。
(ハ) 請求人は、H社が制作した本件ソフトの試作品に対し、日本における趣味趣向の違いや国民性などの観点から詳細な指示を与えた上で完成まで導いており、その中には当然にアイデア提案や品質向上に向けた改善策の提示なども行っていることから、本件ソフトは、著作権法第2条第1項第12号に規定する共同著作物に該当する。
(ニ) 本件ソフトは、著作権法第2条第1項第10号の2に規定するプログラムであるとともに脚本、映像、音楽等が一体となってコンテンツを形成し、映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現されていることから、同条第3項に規定する映画の著作物と解釈される。そして、映画製作者である請求人に著作権が帰属することに違法性はない。
(ホ) 請求人は、平成16年10月ころ、本件開発委託契約に係る契約書を持参して原処分庁を訪問し、日○租税条約に関する届出書の提出について指導を受けている。この指導の際に、原処分庁は、本件開発委託契約の内容についても精査した上で「本件開発委託費については源泉徴収の必要はなし、成功報酬については源泉徴収の必要あり」と結論づけており、これにより会計処理を行っている。
ロ 本件各イラスト制作費について
 以下の理由により、請求人は本件各イラスト著作権を発生と同時に取得しているのであるから、本件各イラスト制作費は著作権の譲渡の対価に該当しない。
(イ) 請求人とH社は、本件各イラスト著作権の帰属について書面の形で契約を締結していないが、本件開発委託契約と同様の趣旨で合意していることから、請求人とH社の共有である。
(ロ) 本件各イラストは、請求人がその制作についてH社に詳細な指示を与えていることから、請求人とH社との共同著作物である。

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3 判断

(1) 本件各納税告知処分について

 本件は、本件開発委託費等が、国内源泉所得となる著作権の使用料又は譲渡の対価に該当し、源泉所得税の課税対象となるかについて争いがあることから審理したところ、以下のとおりである。
イ 法令解釈
(イ) 著作権法
A 著作権法の保護を受ける著作物とは、思想又は感情の創作的表現であって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいい(第2条第1項第1号)、「映画の著作物」には、映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生ずる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物を含むとされているが(第2条第3項)、ロールプレイングゲームソフトは「プログラムの著作物」であるとともに「映画の著作物」に当たると解される。
B 著作権法上の著作者とは、「著作物を創作する者」をいい(第2条第1項第2号)、著作者は著作権を原始的に取得することになるが(第17条)、この場合の「著作物を創作する者」とは、著作物の形成に当たって、その者の思想、感情を創作的に表現したと評価される程度の活動をする者のことをいうものと解されるから、当該著作物の形成に何らかの関与をしたとしても、その者の思想、感情を創作的に表現したと評価される程度の活動をしていない者は、創作した者ということはできないものと解される。
C 映画の著作物に係る著作権は、その著作者が映画製作者に対し、当該映画の著作物の製作に参加することを約しているときは、映画の製作者に帰属するが(第29条)、映画製作者は、「映画の著作物の製作に発意と責任を有する者」であり(第2条第1項第10号)、「映画の著作物の製作に発意と責任を有する者」とは、映画の著作物を製作する意思を有し、著作物の製作に関する法律上の権利義務が帰属する主体であって、そのことの反映として同著作物の製作に関する経済的な収入・支出の主体ともなる者であると解される。
D 共有著作権は、その共有者全員の合意によらなければ行使することはできないが(第65条第2項)、ここにいう権利の行使とは、複製・放送等の著作権の利用を指し、他人に利用を許諾する場合に限らず、自ら利用する場合もここにいう行使に該当し、他の共有者全員の合意が必要となると解される。ただし、各共有者は、正当な理由がない限り、その合意の成立を妨げることはできない(第65条第3項)。
(ロ) 所得税法第161条第7号ロ
A 所得税法第161条第7号ロは、国内源泉所得となる著作権(出版権及び著作隣接権その他これに準ずるものを含む。)の使用料又はその譲渡による対価について規定しているが、ここでいう著作権とは、所得税法等の租税法規において特に定義されていないことからすると、著作権法に規定する著作権(出版権及び著作隣接権を含む。)をいうものと解される。そして、著作権法は、二次的著作物も著作物としているから(著作権法第2条第1項第11号)、二次的著作物に係る著作権もここでいう著作権に含まれると解される。
 また、国内において業務を行う者から外国法人に支払われる著作権の使用料又は譲渡による対価で、当該業務に係るものは国内源泉所得に該当することとなる。
B 著作権の使用料とは、著作物の複製その他著作物の利用又は出版権の設定につき支払を受ける対価の一切をいい(所得税基本通達161-23)、著作権の譲渡による対価とは、著作権の全部又は一部が譲渡される場合の対価の額をいうものと解される。
 そして、その支払われる対価が国内源泉所得となる著作権の使用料又は譲渡による対価に当たるか否かの判断に当たっては、契約に基づいて支払われる金員が何の対価であるかを、当該金員の支払根拠となった契約における名目だけではなく、その目的や内容から契約意思を合理的に解釈し、その本体をなす合意を認定して判断すべきであるものと解される。
(ハ) 日○租税条約第12条
A 日○租税条約第12条第1項ないし第5項によれば、著作物の著作権の使用料又は譲渡の対価は、その所得源泉地においてその支払額の10%を限度として課税することができる。ここでいう「著作物の著作権」は本条約には定義がないが、日○租税条約第3条第2項により国内法と同意義を有し、「使用料」とは著作物の著作権の使用又は使用の権利の対価として受領するすべての種類の支払金をいい(第3項)、著作物の著作権の譲渡から生ずる収入についても同様(第5項)とされるから、著作権の使用料又は譲渡の対価の意味内容については、所得税法第161条第7号ロと異なるところはないと解される。
B そして、著作権の使用料又は譲渡の対価の支払者が日本の居住者等である場合には、日本の国内源泉所得とされるから(第4項及び第5項)、著作権の使用料又は譲渡の対価に係る所得源泉地については、いわゆる債務者主義により決定されるものと解される。
(ニ) 所得税法第162条
 所得税法第162条は、租税条約において国内源泉所得について同法第161条の規定と異なる定めがある場合には、その条約の適用を受ける者については、同条の規定にかかわらず、国内源泉所得は、その異なる定めがある限りにおいて、その条約の定めるところによる旨規定している。
 したがって、所得税法第161条第7号ロ及び日○租税条約第12条が規定する著作権の使用料又は譲渡による対価については、内国法人からE国法人に支払われる場合には、その対価は我が国の国内源泉所得として、所得税法第212条第1項により源泉所得税が課税されることになる。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件ソフトについて
A 本件ソフトの創作性について
(A) 本件原著作物は、H社が、平成13年○月○日に「J××××」のタイトルでE国において発売したパソコン用のE国語ゲームソフト(媒体としてCD-ROMに格納されたもの)であり、本件原著作権はH社が有している。
(B) 一方、本件ソフトは、F社が、平成16年○月○日に「J」のタイトルで日本において発売した家庭用ゲーム機用の日本語のゲームソフト(媒体としてDVD-ROMに格納されたもの)であり、ロールプレイングゲームである。
(C) 本件ソフトは、プレイヤーが、ディスプレイに表示された主人公などのキャラクターを、ゲーム機本体に接続されたコントローラを使って操作するもので、その操作に従って視覚的映像表現がディスプレイに実現され、また、音声、効果音や音楽などの聴覚的表現がスピーカーを通じて実現されるものである。
 本件原著作物で使用したグラフィックや音楽について本件ソフトで使用したものはなく、ストーリー、キャラクターや背景などのグラフィック、音楽などはすべて新たに制作したものである。また、本件原著作物と本件ソフトは、主人公の名前や舞台となる場所の名称こそ同じであるが、その設定はそれぞれ異なるものとなっている。
(D) 上記(A)ないし(C)によると、本件ソフトは、請求人が自ら主張するとおり、本件原著作物を基礎として本件開発業務により創作された本件原著作物に係る二次的著作物であると認められる。
B 本件ソフトの創作者について
(A) H社が実施した作業内容等
 a 作業内容
(a) 企画関係
 シナリオ制作、戦闘システム企画、ユーザーインターフェイス等企画、フィールドシステム企画
(b) プログラム関係
 プログラム制作
(c) デザイン関係
 キャラクターデザイン、背景デザイン、モンスターデザイン、エフェクトデザイン、ソース制作
(d) ムービー関係
 動画制作
(e) サウンド関係
 効果音制作、BGM制作
(f) テスト
 b 従事スタッフは、別表5の者である。
 c 従事期間は、平成14年3月から平成16年10月までであり、その間の従事人員は延べ1,053人月である。
(B) 請求人が実施した作業内容等
 a 別表6の「業務内容等」欄の業務を、同表の「外注先」欄の国内の外注先に委託した。
 b 本件ソフトの契約に係る稟議書及び本件開発委託費の支払に係る支払依頼書は、すべてKが起案した。
(C) 請求人の管理課マネージャーの答述によれば、次の事実が認められる。
 a 請求人は、本件ソフトの開発においてプロデューサー業務を行った。また、請求人は、新しく制作するゲームソフトを日本で発売できる商品にするために細かい指示をH社に行い、H社が作業をした。本件ソフトの開発において請求人で従事したのは従業員のKだけである。Kはプロデューサーの立場でH社のスタッフに制作の指示をしていた。Kはあくまで制作の指示をするのが仕事であるから、K自身が直接プログラミングをすることはなく、また、直接グラフィックやサウンドの制作を行うこともなかった。
 b なお、請求人は、H社が開発した本件原著作物をみて、これを日本でも発売できるのではないかとの考えから、開発方をH社に持ちかけた。
C 本件ソフトの販売関係について
 F社が、平成16年○月○日付で発表した本件ソフトの発売に関するプレスリリースによれば、次のことが認められる。
(A) F社は、H社との共同開発により、家庭用ゲーム機用の本件ソフトを平成16年○月○日に発売した。
(B) 本件原著作物は、オンラインゲームをはじめ、多種多様なゲームソフトで人気を博しているヒットコンテンツであり、また、本件ソフトは、このゲームの世界観をもとに、シナリオ監修、メディア展開などの広告戦略及び総合プロデュースをF社が、ソフト本体の制作をH社が手がけるという日○共同プロジェクトにより開発した全く新しいロールプレイングゲームである。
D 請求人の相談の有無について
 請求人が提出した、原処分庁への相談時に書き方の指導を受けたとする租税条約の届出書には、当該届出書に記載すべき箇所及びそこに記載すべき事項等がメモ書きされてはいるが、本件開発委託費について源泉徴収の有無を相談した事実、また、それについて回答を受けた事実は記載されていない。また、異議審理庁の調査において原処分庁の質疑応答の事績を確認しているが、本件開発委託費についての質疑は見当たらない。
(ロ) 本件各イラストについて
A 本件各イラストは、H社の社員であるLが描いたものである。また、H社が本件各イラスト制作業務において請求人に納入した各イラストは、パッケージビジュアル1点、ポスタービジュアル3点、SDイラスト23点、キャラクターイラスト3点、販促用イラスト7点の合計37点である。
B 本件各イラストのうち、パッケージビジュアルは、商品のパッケージ、商品宣伝用ポスター及び販売用ポスターに、ポスタービジュアルは、本件ソフトの解説書及び販売用ポスターに、SDイラストは、目覚まし時計やストラップなどのキャラクター商品に、キャラクターイラストは、サウンドトラックCDのジャケットに、販促用イラストは、文庫本の表紙に使用されている。しかし、本件ソフトそのものには本件各イラストは使用されていない。
C 請求人の管理課マネージャーの答述によれば、請求人とH社は、納入されたイラストの制作委託に関する契約書を交わしていないが、本件各イラスト著作権の帰属については、本件ソフトの開発委託契約の条項と同様の内容で請求人とH社が合意しており、H社も同じ認識であることが認められる。
ハ 本件への当てはめ
(イ) 本件開発委託費について
A まず、本件著作権を原始的に取得したのは請求人かH社かについて判断する。
 別紙3の3の本件開発委託契約に係る契約書の記載内容等からすると、本件開発業務は、開発計画書に従ってH社が行うこととされているところ、本件においては、上記ロの(イ)のBの(A)のaないしcのとおり、H社が同社のスタッフを平成14年3月から平成16年10月までの期間、本件開発業務に従事させ、本件ソフトのシナリオ、プログラム、グラフィック、ムービー、サウンドなどを制作していたことが認められる。
 そうすると、本件ソフトのシナリオ及びプログラムを具体的に表現し、また、キャラクターや背景のグラフィックなどを創作したのはH社と認められるから、本件著作権は、H社がその著作者として享有し原始的に取得したものとみるのが相当である。
 なお、本件開発業務における、請求人のH社に対する作業指示の内容は、上記1の(4)のルのとおり具体的に明らかにされていないところ、上記ロの(イ)のBの(B)のb及び同(C)のaによれば、請求人において本件ソフトの開発に従事したのは従業員のKだけであり、従事内容も本件ソフトを日本で発売できる商品にするためにH社に対して指示を与えることであったと認められるから、請求人が思想、感情を創作的に表現したということはできない。
B 次に、本件開発委託費が国内源泉所得となる著作権の使用料又は譲渡の対価に該当するか否かを、本件開発委託契約の目的、内容に照らし、その本体をなす合意に基づいて判断する。
(A) 本件開発委託契約の目的
 本件開発委託契約は、別紙3の2のとおり、H社が開発を委託された本件ソフトやその最終マスターROM等の納入、内容承認をもって完了する契約であるが、上記ロの(イ)のBの(C)のbによると、請求人は、H社が開発した本件原著作物をみて、これを日本でも発売できるのではないかとの考えから、開発方をH社に持ちかけたと認められるところ、上記1の(4)のホ及びヘのとおり、1H社がF社に対して、本件原著作物を利用した商品の制作・製造販売を許諾していること、2請求人がH社に対して、本件ソフトの開発を委託していること、3F社が請求人に対して、本件ソフトの企画開発を委託していること、さらには、4上記ロの(イ)のCのとおり、本件ソフトの開発後、開発した本件ソフトを複製して「日○共同開発E国生まれのヒットコンテンツを基に制作したオリジナルゲーム」としてF社が発売したことからすれば、これら3社間の契約関係は、F社及び請求人が、本件原著作物を基礎とした新たなゲームソフトを日本国内で販売するために、本件原著作権を有するH社に本件ソフトを開発させ、これを請求人において適法に複製・販売することにより、その利益を3社間で分配することを目的として締結されたものと認められる。
(B) 本件開発委託契約の内容
 本件開発委託契約では、別紙3の7の(1)のとおり、本件著作権等一切の権利は、発生と同時に請求人とH社が2分の1ずつ共有する旨記載されているものの、上記Aのとおり、本件著作権は、H社が享有し原始的に取得するのであるから、本件開発委託契約上、請求人が本件著作権の2分の1共有持分を保有するとの定めは、H社から請求人に対して本件著作権の2分の1共有持分の譲渡を定めたものであるとみるのが相当である。
 また、共有著作権は、その権利を行使するためには共有者全員の合意が必要であるとされており、たとえ請求人が本件著作権の共有持分をH社から取得したとしても、請求人が本件ソフトを日本国内で複製・販売するためには、その共有著作権の共有持分を保有するH社の合意が必要となることからすれば、本件開発委託契約の内容には、請求人における、本件著作権に係るH社の持分の使用許諾も含まれていると認められる。
 そして、別紙3の7の(2)のとおり、請求人はH社による本件著作権の共有持分の国内における権利行使を認めていないことからすれば、本件開発委託契約の内容は、H社から請求人に対する本件ソフトの日本国内における独占的利用権に近い権利の取得であると認められる。
 なお、別紙3の5のとおり、本件開発委託契約において、請求人が本件ソフトを商品化して日本国内で10万個を超えて生産した場合には、請求人は、1個につき660円から960円までの成功報酬をH社に支払うこととされていることは、上記認定に沿うものである。
(C) 本件開発委託契約の本体をなす合意と対価の性格
 上記(A)及び(B)のとおり、本件開発委託契約は、請求人が本件ソフトを日本国内で販売するために、H社に開発させてこれを請求人において適法に複製・販売することを目的として締結され、請求人の目的は、契約内容にH社が開発した本件著作権の2分の1共有持分の譲渡及び同著作権の同社持分の日本国内における使用許諾(10万個までの複製販売の許諾料を請求しないことを含む。)が盛り込まれることによって達成されるものと認められる。
 すなわち、本件開発委託契約の本体をなす合意は、H社から請求人に対する本件著作権の2分の1共有持分の譲渡及び同著作権の同社持分の日本国内における使用許諾(10万個までの複製販売の許諾料を請求しないことを含む。)であるといえるから、本件開発委託契約に基づく本件業務委託費は著作権の使用料又は譲渡の対価にほかならない。
 したがって、内国法人である請求人からH社に支払われた本件開発委託費は、国内源泉所得となる著作権の使用料又は譲渡の対価に該当するとみるのが相当である。
C 請求人の主張について
(A) 請求人は、本件ソフトは共同著作物に該当し、本件著作権は発生と同時に請求人とH社の共有に属することから、本件開発委託費は著作権の譲渡に該当しない旨主張する。
 しかしながら、上記Aのとおり、本件著作権はH社が享有し原始的に取得したものというべきであるから、本件著作権は、その発生と同時にいったんH社に帰属し、直ちに、本件開発委託契約に基づき、その2分の1の持分がH社から請求人に譲渡されたとみるのが相当であるから、この点に関する請求人の主張は採用できない。
(B) また、請求人は、本件開発委託契約において、本件開発委託費は請負の対価として支払う旨を明確に定めており、本件開発委託費は著作権の譲渡の対価ではない旨主張する。
 しかしながら、上記イの(ロ)のBのとおり、国内源泉所得となる著作権の使用料又は譲渡の対価に当たるか否かの判断に当たっては、契約に基づいて支払われる金員が何の対価であるかを、当該金員の支払根拠となった契約における名目だけではなく、その目的や内容から契約意思を合理的に解釈して判断すべきであるものと解されるところ、上記Bの(C)のとおり、本件開発委託費は、本件著作権の使用料又は譲渡の対価であると認められるから、この点に関する請求人の主張は採用できない。
(C) 請求人は、本件ソフトが、映画の著作物に該当すると解されることを前提に、H社が著作者で、請求人が映画製作者であるから、請求人に著作権が帰属することに違法性はない旨主張する。
 しかしながら、本件ソフトの開発においては、1H社が開発した本件原著作物をベースとして開発が行われていること、2H社が請求人からの発注を受けてその制作意思を有するに至ったものであること、3本件ソフトの開発作業に対しては、H社自身がその労務の大半を投下しており、請求人の役割は人的にも内容面でも補助的な役割にとどまっていること、4H社は、本件ソフトの販売数量に応じた成功報酬を受け得る一方、本件ソフトの開発が完了しなかった場合の損害賠償義務や、瑕疵が存在する場合の補修義務及び損害賠償義務を負担するものとされていることからすると、本件ソフトの開発に発意と責任を有し、その経済的な収入・支出の主体となる者はH社であると認められるから、本件ソフトの映画製作者はH社であるとみるのが相当である。したがって、請求人の主張には理由がない。
(D) 請求人は、平成16年10月ころ、本件開発委託契約に係る契約書を持参して原処分庁を訪問して指導を受けており、これに基づき会計処理を行っている旨主張しているが、上記1の(4)のヌ及び上記ロの(イ)のDからすると、請求人が租税条約の届出書の記載方法を確認したことは推認できるものの、本件開発委託費の源泉所得税の取扱いについて指導を受けたとは認められないから、請求人の主張には理由がない。
(ロ) 本件各イラスト制作費について
A まず、本件各イラスト著作権を原始的に取得したのは請求人かH社かについて判断する。
 本件各イラストは、創作的表現で描かれていると認められ、絵画その他の美術の著作物(著作権法第10条)に該当すると認められる。
 本件においては、上記ロの(ロ)のAのとおり、本件各イラストを具体的に描画したのはH社の従業員のLであり、同人が本件各イラストを創作したものと認められるから、本件各イラストの作成に創作的に寄与したのはH社であると認められ、本件各イラスト著作権は、H社がその著作者として原始的に取得したとみるのが相当である。
 なお、請求人の従業員であるKによるH社に対する指示は、ゲームソフトの制作の指示であるところ、当該指示をもって同人の思想、感情を創作的に表現したと評価するに足る証拠はないから、本件各イラスト著作権を請求人が原始的に取得したと認めることはできない。
B 次に、本件各イラスト制作費が国内源泉所得となる著作権の使用料又は譲渡の対価に当たるか否かについて判断する。
 上記ロの(ロ)のCによれば、本件各イラスト制作業務に関して請求人とH社との間には個別の契約書が存在せず、本件各イラスト著作権の帰属についての明文上の取り決めはない。また、上記1の(4)のトの本件各イラスト制作業務に関する見積書等をみても、本件各イラストを引き渡すことによって、本件各イラスト著作権がH社から請求人に移転するか否かは明らかではない。
 しかしながら、本件各イラスト制作業務は、本件開発業務とは別個の業務であるものの、1本件各イラストは、本件ソフトを日本国内で販売するために必須のものであると認められること、また、2上記ロの(ロ)のCのとおり、本件各イラスト著作権の帰属について、請求人とH社が、本件開発委託契約と同様に認識していると認められること、3請求人は、上記ロの(ロ)のBのとおり、本件各イラストを本件ソフトの販売に関してケースや解説書に実際に使用していること、4H社が、そのことについて異議等を特に唱えていないことからすると、H社は、請求人が本件各イラストを日本国内で複製して使用することを承認していると認められる。
 そうすると、本件各イラスト制作費は、著作権の使用の対価あるいは譲渡の対価のいずれになるかはともかく、内国法人である請求人からE国法人であるH社に支払われる使用料又は譲渡の対価に当たるから、国内源泉所得となる著作権の使用料又は譲渡の対価に該当するとみるのが相当である。
(ハ) 以上のとおり、本件開発委託費等は、所得税法第161条第7号ロ及び日○租税条約第12条に規定する著作権の使用料又は譲渡の対価に該当し、請求人からH社に対して支払われた本件開発委託費等は、国内源泉所得として所得税法第212条の規定に基づき所得税の源泉徴収及び納付をしなければならないから、本件各納税告知処分は適法である。

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(2) 本件各賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、本件各納税告知処分は適法であり、本件各納税告知処分に係る国税を法定納期限までに納付しなかったことについて、国税通則法第67条第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づき行われた本件各賦課決定処分は適法である。

(3) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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