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(平21.11.10、裁決事例集No.78 309頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、宗教法人である審査請求人(以下「請求人」という。)が、墓地の永代使用権の譲渡は法人税法第2条第13号に規定する収益事業に当たらないとしてこれに係る収入を益金の額に算入せずに法人税の申告をしていたところ、原処分庁が、請求人の行った一連の行為は、墓地の永代使用権の譲渡ではなく、土地を購入し、区画形質の変更を行った上で譲渡したものであるから、収益事業(不動産販売業)に該当するとして更正処分等をしたのに対して、請求人が、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 請求人は、平成20年11月11日に、平成16年4月1日から平成17年3月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税の更正処分及び無申告加算税の賦課決定処分について審査請求をした。
 この審査請求に至る経緯は、別表1記載のとおりである。

(3) 関係法令

 別紙1記載のとおりである。

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(4) 基礎事実

イ 請求人は、宗教法人法の規定に基づき設立された宗教法人であり、法人税法第2条第6号に規定する公益法人等である。
ロ 請求人は、平成11年10月○日付で、P市Q町r○−○外の開発行為を申請し、A県知事から平成13年3月○日付で開発行為を許可された(なお、平成14年6月○日付で工事完了予定年月日を変更するなどした開発行為の変更許可を受けている。)。
ハ 請求人は、宗教法人Bとの間で、平成12年12月14日付で買主を宗教法人B、売主を請求人、仲介人兼連帯保証人をC社として、大要別紙2のとおり記載された霊園売買契約書(以下「本件霊園売買契約書」といい、本件霊園売買契約書に係る契約を「本件霊園売買契約」という。)を取り交わした。
ニ 請求人は、C社との間で、契約当事者甲を宗教法人D(請求人)住職E霊園事業代表者F、乙をC社代表取締役Gとし、大要以下のとおり記載された平成12年12月14日付「E霊園事業確約書」と題する書面(以下「本件確約書」という。)を取り交わした。
(イ) 甲は、本件霊園開発事業の管理、運営一切を乙に委託する。
(ロ) 甲は、乙を本件霊園開発事業の会計代表者にする。
ホ 請求人は、Gとの間で、契約当事者甲を宗教法人D(請求人)代表者F、乙をGとし、大要別紙3のとおり記載された平成15年6月3日付「契約書」と題する書面(以下「本件業務協定」という。)を取り交わした。
ヘ 本件各土地の所有権は、別表2記載のとおり、同表の「所有権移転の日」欄記載の日に請求人に移転し、さらに、都市計画法第40条《公共施設の用に供する土地の帰属》第1項の規定により国に帰属するものとされた順号38の土地を除いて、平成16年2月○日に売買を原因として請求人から宗教法人Bに移転した。
ト P市長は、請求人に対し、平成16年2月○日付で本件霊園の経営を許可したが、請求人が同月○日付で本件霊園を廃止する旨の申請をしたため、同年3月○日付で本件霊園の廃止を許可した。
 また、平成16年3月○日付で本件霊園につき宗教法人Bによる経営許可申請がなされ、P市長は、同年4月○日付でこれを許可した。
チ 請求人は、宗教法人Bから受領した金員合計2,706,600,000円につき、別表3記載のとおり、一旦全額を本件特別会計に受け入れ、その後、最終的に一般会計に受け入れた600,000,000円について、収益事業から生じた所得以外の所得であるとして、本件事業年度の益金の額に算入しなかった。

(5) 争点

 本件霊園開発事業は、請求人の収益事業に当たるか否か。

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2 主張

(1) 原処分庁

 請求人は、1宗教法人Bとの間で本件霊園売買契約を締結し、2A県から本件霊園の開発許可を受け、3請求人自らあるいはGに委託して本件各土地を地権者から購入し、4開発施工を行った上で、5これを宗教法人Bに引き渡し、6宗教法人Bから売買代金として2,706,600,000円を受領したことが認められる。
 請求人の上記の一連の行為は、相当期間を要して多数の地権者から土地を購入し、一の事業計画に基づき本件各土地の区画形質の変更を行った上でこれを宗教法人Bに譲渡したものであり、この行為は法人税法第2条第13号及び法人税法施行令第5条第1項第2号に規定する収益事業(不動産販売業)に該当する。
 したがって、請求人は法人税を納める義務があり、当該事業から生じた所得には法人税が課される。
 なお、本件霊園開発事業は、宗教法人BからGが請け負ったものではなく、請求人がGに委託したものであり、また、請求人は宗教法人Bに対し、永代使用権ではなく本件各土地そのものを譲渡したものである。

(2) 請求人

 本件霊園開発事業において、請求人、宗教法人B及びC社による三者間の契約により、C社が宗教法人Bから2,706,600,000円で造成工事等を請け負い、宗教法人Bが土地を買収し、請求人がA県知事から開発行為の許可を得るとともに、墓地の販売権すなわち永代使用権を宗教法人Bに600,000,000円で譲渡したものであるから、永代使用権の対価として受領した600,000,000円は収益事業による所得に当たらない。
 原処分庁は、請求人が本件各土地を買収し本件霊園を開発した上でこれを宗教法人Bに2,706,600,000円で譲渡した旨主張するが、請求人と宗教法人Bとの間で取り交わされた平成12年12月14日付の代物弁済予約金銭消費貸借契約書(以下「本件代物弁済予約金銭消費貸借契約書」という。)に基づき宗教法人Bから拠出された資金によって、請求人名義で本件各土地を買収し、代物弁済の登記もしていることからすれば、本件各土地を取得したのは宗教法人Bであって、請求人が宗教法人Bに譲渡したのは永代使用権にすぎない。

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3 判断

(1) 法令解釈

 法人税法第4条第1項及び同法第7条は、公益法人等については、収益事業から生じた所得のみに法人税を課する旨規定し、また、同法第2条第13号及び法人税法施行令第5条第1項は、収益事業とは、同項第1号から第33号までに掲げる事業で、継続して事業場を設けて営まれるものをいう旨規定し、さらに、同項第2号として不動産販売業を規定している。
 これらの規定の趣旨は、公益法人等は、公益の目的のために設立され、営利を目的としていないため、普通法人のように、その全所得について包括的に法人税を課すことは必ずしも適当ではないが、その一方で、公益法人等が一般私企業と競合する事業を営む場合には、一般私企業と競合する事業との競合関係を調整し課税上の公平を維持する観点等から、当該事業から生じた所得に法人税を課すこととしたものと解される。
 そこで、公益法人等の行う事業が法人税法施行令第5条第1項各号に該当するか否かについては,当該事業が公益法人等以外の法人の一般的に行う事業と競合するものか否か等の観点を踏まえた上で,当該事業の目的、内容、態様等の諸事情を社会通念に照らして総合的に検討して判断するのが相当である。

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(2) 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、以下の各事実が認められる。

イ 平成13年3月○日付A県知事による開発行為許可書、平成14年6月○日付A県知事による開発行為変更許可書及び本件各土地の登記簿謄本によれば、請求人は、平成元年ころから本件各土地のうち別表2の順号30、42及び51から55までの各土地を買収し、霊園開発事業を進めていたものの、遅くとも平成12年ころには当該霊園開発事業の資金が不足したことから、請求人及び宗教法人Bとの間で、平成12年12月14日付の本件霊園売買契約書により、請求人が本件霊園開発事業の事業主体として、別表2記載の本件各土地を買収し(第4条4項)、本件霊園開発事業に関する開発行為許可の本申請の許可を取得し、墓地造成等の開発施工を行い、墓地経営許可を取得し、宗教法人Bに墓地の所有権を移転するとともに、墓地の経営権を引き渡すこと(第1条)、宗教法人Bは、これらの対価として2,706,600,000円を支払うこと(第2条、第4条及び第8条)を約したと認められる。
ロ また、本件確約書及び本件業務協定によれば、請求人は、本件霊園開発事業に当たり本件特別会計を設け、C社に対し、本件霊園開発事業の管理・運営一切及び本件霊園開発事業の会計代表者としての業務を委託し、さらに、本件特別会計の代表者をGとしたことが認められ、これに基づき、請求人又はC社において、請求人名義で本件各土地を買収し、当該土地の造成工事等の本件霊園開発事業を行っていたと認められる。
ハ そして、請求人は、本件霊園開発事業に関し、別表3記載のとおり、宗教法人Bから合計2,706,600,000円を受領し、本件特別会計で受け入れているところ、これは、平成12年12月14日付の本件霊園売買契約の締結日、平成13年3月○日付の本件霊園開発事業の開発行為許可日、工事中間時点を経て、平成16年1月○日付の本件霊園開発事業の工事完了の公告日、平成16年4月○日付の宗教法人Bに対する墓地の経営許可日の前後に宗教法人Bから各支払がなされていることから、本件霊園売買契約書第4条及び第8条の約定のとおりに各支払がなされたと認められる(なお、本件特別会計の経理処理は、別表4記載の各領収証の金額及び日付と一部異なるものがあるものの、請求人の本件特別会計に係る預金口座の入金状況等と合致することから、別表3記載のとおりに各支払がなされたものと認められる。)。
ニ また、宗教法人Bの僧侶Hの申述は、本件霊園売買契約書、本件各土地の登記内容その他上記イからハまでの各事実に合致し、信用性が高いと認められるところ、同申述によれば宗教法人Bと請求人が本件霊園売買契約を締結し、請求人が本件各土地を買収し、本件霊園の開発行為をし、宗教法人Bが本件霊園を2,706,600,000円で買い取ったと認められる。
ホ そうすると、本件霊園開発事業は、請求人が本件霊園開発事業の事業主体として、A県知事から本件霊園の開発行為の許可を取得し、請求人又は業務委託したC社において、請求人を買主として本件各土地を買収し、当該土地を墓地に造成した上で、本件霊園の経営について宗教法人Bに許可がなされたことにより、本件霊園を2,706,600,000円で宗教法人Bへ譲渡したものと認められる。

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(3) 収益事業に当たるか否かについて

 本件霊園開発事業は上記(2)ホのとおりであるところ、これらの行為は、住宅団地を造成し譲渡する行為や工業団地を造成し譲渡する行為などと同様に土地を買収してこれを造成し譲渡するものであるから、一般私企業との間で競合関係を有するものであり、法人税法施行令第5条第1項第2号に規定する不動産販売業に当たるものと解される。
 そして、本件霊園開発事業は、請求人が事業主体となり、継続して事業を行ったものと認められることからすれば、法人税法第2条第13号に規定する「継続して事業場を設けて営まれるもの」に当たるというべきである。
 そうすると、本件霊園開発事業は、収益事業に当たると解するのが相当である。

(4) 請求人の主張について

 請求人は、本件代物弁済予約金銭消費貸借契約書に基づき宗教法人Bから拠出された資金によって本件各土地が買収されており、代物弁済の登記もされていることからすれば、宗教法人Bが本件各土地を取得したのであって、請求人が譲渡したものは永代使用権にすぎない旨主張する。
 この点に関し、本件代物弁済予約金銭消費貸借契約書には、1宗教法人Bが請求人に1,002,900,000円を貸し渡したこと、2当該債務を担保するため、請求人が当該債務を弁済しないときは、その弁済に代えて、請求人所有の不動産の所有権を宗教法人Bに移転することを予約し、請求人は、宗教法人Bが当該代物弁済予約に基づく所有権移転請求権保全の仮登記を行うことを承諾した旨の記載があり、また、別表4の順号4のとおり、請求人が宗教法人Bに交付した1,040,074,550円につき、平成13年4月5日付領収証の但書欄には、「永代使用料譲渡代として」と記載されていることが認められる。
 しかしながら、請求人は、別表4の順号1から順号3までのとおり、平成12年12月14日から平成13年1月10日までの3回にわたり、宗教法人Bから合計1,002,925,450円を受け取ったとする各領収証を発行しているところ、当該各領収証の但書欄には、いずれも本件霊園売買契約の手付金の一部である旨が記載され、本件霊園売買契約書には手付金として1,002,925,450円を支払うと約定されている。また、Hの申述によれば、宗教法人Bは、本件霊園売買契約の締結に当たり、本件霊園開発事業の資金不足に陥った請求人に対し、宗教法人Bが手付金として前払いすることによって、請求人に本件各土地を買収させる一方で、宗教法人Bとしては、本件各土地のうち同代金の一部によって買収した土地について、その保全のため、所有権移転仮登記をするために本件代物弁済予約金銭消費貸借契約書を作成し、これに基づき、本件各土地の一部について所有権移転仮登記をしたものと認められ、さらに、別表4の順号4については、本件霊園売買契約書第8条(イ)に基づく支払と認められることから、請求人が譲渡したものは永代使用権とはいえない。
 したがって、請求人の主張は採用できない。

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(5) 原処分について

 本件霊園開発事業は収益事業に当たるところ、請求人は、宗教法人Bから受領した合計2,706,600,000円につき、一旦は全額本件特別会計に受け入れ、本件霊園開発事業に要した費用については本件特別会計から支出し、あるいは一般会計から支出後本件特別会計から繰り入れるなどし、最終的にその費用の全額を本件特別会計から支出し、その残余については、一般会計で受け入れたとする会計処理をしているので、当該一般会計で最終的に受け入れた金額が、請求人の利益となると認められる。
 そして、一般会計への受入れの際、別表5記載のとおり、収入金額と支出金額を相殺して収入金額を計上していることなどから、当審判所において、一般会計の収入金額及び支出金額を算定しなおすと、別表6記載のとおり、原処分庁認定額と同額となることから、本件霊園開発事業の利益は600,000,000円となる。

(6) 結論

 以上のとおり、原処分には、争点についてこれを取り消すべき理由はない。
 また、原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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