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(平21.10.16、裁決事例集No.78 340頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、機械装置に係る保守料の額を未払費用に計上するとともに損金の額に算入して法人税の申告をしたところ、原処分庁が、当該保守料の額の一部は損金の額に算入されないとして更正処分等を行ったのに対し、請求人が、債務として確定している未払給与があるから当該金額を損金の額に算入すべきであるとして、同処分等の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯及び基礎事実

イ 申告
 請求人は、原処分庁に対し、平成19年1月1日から平成19年12月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書に別表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告をした。
ロ 処分
 原処分庁は、平成20年12月24日付で、本件事業年度の法人税について、請求人が未払費用として損金の額に算入した機械装置に係る保守料の額の一部(保守契約期間のうち決算日後の期間分に対応する金額。以下「本件保守料」という。)は、本件事業年度に役務提供がされていないから本件事業年度の損金の額に算入されないとして、別表の「更正処分及び賦課決定処分」欄のとおり、更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
ハ 不服申立て
 請求人は、本件事業年度において、本件保守料が損金の額に算入されないことについて不服はないものの、決算月(12月)における給与計算期間の締切日後の期間(同月16日から31日までの期間)に係る未払給与(以下「期末未払給与」という。)の額と前事業年度の期末未払給与の額との差額(以下「本件期末未払給与差額」という。)が損金の額に算入されていないため、本件更正処分の所得金額及び納付すべき税額が過大に算定されていることから、上記ロの各処分を不服として、平成21年1月8日に審査請求をした。

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(3) 関係法令

イ 法人税法第22条《各事業年度の所得の金額の計算》第3項
 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする旨規定している。
 第1号 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額
 第2号 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額
 第3号 省略
ロ 法人税法第22条第4項
 第3項各号に掲げる額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準(以下「公正処理基準」という。)に従って計算されるものとする旨規定している。
ハ 法人税法第74条《確定申告》第1項
 内国法人は、各事業年度終了の日の翌日から2月以内に、税務署長に対し、確定した決算に基づき次に掲げる事項を記載した申告書を提出しなければならない旨規定している。
 第1号 当該事業年度の課税標準である所得の金額又は欠損金額
 第2号 前号に掲げる所得の金額につき前節(税額の計算)の規定を適用して計算した法人税の額
 第3号から第6号まで 省略

2 争点

 本件期末未払給与差額は本件事業年度の損金の額に算入することができるか否か。

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3 主張

請求人 原処分庁
 請求人は、給与の損金計上に関し、その支払日において損金の額に算入する方法(以下「本件処理方法」という。)を採用していた。
 請求人の給与計算の締切日は各月15日であり、支払日はその月の末日であるところ、決算月の締切日後の期末未払給与は債務が確定しているといえる。
 そうすると、請求人には、平成19年1月31日に支払った同月15日締切り分の給与のうちの期末未払給与4,766,914円があり、また、平成20年1月31日に支払った同月15日締切り分の給与のうちの期末未払給与5,933,484円があることから、本件期末未払給与差額1,166,570円は本件事業年度の損金の額に算入すべきである。
 請求人は、給与の損金計上に関し、昭和60年1月○日に請求人が設立された以降、継続して本件処理方法を採用し、期末未払給与について、給与に係る勘定科目である給与手当勘定及び賃金給料勘定に計上する必要性を認識せず、また、期末未払給与に係る金額の算定に要する事務処理の煩雑さから、本件処理方法を継続して採用していたものと思料される。
 そうすると、本件処理方法は、請求人の事業規模などを考慮すると、公正処理基準に該当しないとまでは認められない。
 そして、請求人は、本件事業年度においても、公正処理基準に該当しないとまでは認められない本件処理方法により決算を確定させ、確定申告書を提出しているのであるから、その後に至って、本件事業年度にさかのぼり、給与について本件処理方法から期末未払給与を計上する方法に変更することは認められず、本件期末未払給与差額は、本件事業年度の損金の額に算入することはできない。

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4 判断

(1) 認定事実

 請求人提出資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ 請求人の賃金規定
 平成8年12月1日から実施されている請求人の就業規則に基づく賃金規定には、賃金は毎月20日に締め切り、当月に支払う旨定められていたが、平成17年5月21日から変更され、毎月15日に締め切り、当月末日に支払う旨定められている。
 また、当該賃金規定によれば、基本給は、本人の年齢、学歴、技能、経験、職務遂行能力等を考慮して各人別に定めるとし、各種手当についてもその金額等が定められている。
ロ 本件処理方法の適用状況
 請求人は、従業員に対する給与の支払額について、少なくとも平成13年1月1日から平成13年12月31日までの事業年度以降、本件処理方法により損金の額に算入して毎期確定申告をし、本件事業年度においても同様の方法により確定申告をしている。
ハ 本件処理方法の採用理由
 請求人の代表取締役であるAは、当審判所に対し、請求人が本件処理方法を採用していた理由は、未払給与の額を計算する事務は大変であり、その事務の煩雑さがあったからである旨答述した。
ニ 期末未払給与に係る役務提供の事実
 本件期末未払給与差額の算定の基礎となる各期末未払給与に係る労働の役務提供は、各事業年度終了の日までにされている。

(2) 法令等解釈

 法人が確定申告をするに当たり、事業年度における仕入れや経費などは、それが当該事業年度において一定金額を支出すべき債務として確定しているものであれば、たとえ現実にはいまだ金員を支払っていなくても、これを同年度における損金として計上することが許されることは明らかである。
 しかし、一定金額を支出すべき債務として確定しているものであっても、当該法人において現実に支払った日の属する事業年度の経費として計上する経理慣行の存する場合は、それが公正処理基準に該当すると認められる限り、この経理慣行に従って現実に支払われた日の属する事業年度の損金として計上すべきであり、これをもって期間損益対応の原則に反するものとはいえないと解するのが相当である。

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(3) 法令等の適用

上記(1)の事実に基づいて上記(2)により判断すると、次のとおりである。
イ 請求人の経理慣行の内容
 請求人は、上記(1)のイないしハのとおり、給与の支払日を就業規則に基づく賃金規定で定め、期末における未払給与の額の計算事務が煩雑であるという理由により、少なくとも7年以上前の事業年度から、各事業年度内に発生した従業員の期末未払給与の額について当該各事業年度の損金の額に算入せず、現実に支払った日の属する事業年度の損金の額に算入して、法人税の確定申告をしてきたことが認められる。すなわち、請求人においては、事業年度内に債務として確定した給与の額であっても、同年度内にその支払日が到来しないものについては、現実に支払われた日の属する事業年度の損金の額に算入する本件処理方法を採用し、これを経理慣行としてきたものということができる。
ロ 期末未払給与の額の損金算入の時期
 法人税法第22条第4項に公正処理基準に従って計算されるものとするとあるのは、法人が採用した会計処理の方法に客観的、常識的にみて規範性があり、これが公正処理基準に該当すると認められるものであれば、法人の会計がそれに従っている限り、それを認めていこうとする態度を明らかにしたものであると解するのが相当であるが、上記イのとおり、請求人が多年にわたり採用してきた経理慣行に従って、期末未払給与の額を現実に支払った日の属する事業年度の損金の額に算入することは、客観的、常識的にみて規範性があると認められ、また、企業会計原則に定める重要性の乏しいものは未払費用等として処理しないことができるとするいわゆる重要性の原則に照らしてみても公正処理基準に反するものということはできない。
ハ まとめ
 請求人は、前記3の「請求人」欄のとおり、本件期末未払給与差額を損金の額に算入すべきであると主張するが、前記1の(3)のハのとおり、法人は、各事業年度終了の日の翌日から2か月以内に税務署長に対し、確定した決算に基づき当該事業年度の課税標準である所得の金額又は欠損金額及び所得の金額に対する法人税額を記載した申告書を提出しなければならないとされており、確定申告後に確定申告の基礎とされた決算における会計処理の方法を変更することは原則として許されないものというべきである。ところで、上記イ及びロによれば、請求人は、本件処理方法を経理慣行としており、本件処理方法は公正処理基準に反するものとはいえない。
 そうすると、請求人が、多年にわたって採用してきた公正処理基準に反しない経理慣行に従って損益計算をし、これに基づいて確定申告をした後に至って、本件事業年度にさかのぼって会計処理の方法を変更し、改めて損益計算をして本件期末未払給与差額を本件事業年度の損金の額に算入することは、認められず、請求人の主張には理由がない。

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(4) 本件更正処分の適法性

 上記(3)のハのとおり、本件期末未払給与差額を本件事業年度の損金の額に算入することは認められず、また、当審判所の調査によれば、本件保守料は翌事業年度に提供される役務の対価であり、本件事業年度の損金の額に算入することは認められないので、これらに基づき請求人の本件事業年度における所得金額及び納付すべき税額を算定すると、いずれも本件更正処分の金額と同額となるから、本件更正処分は適法である。

(5) その他

 過少申告加算税の賦課決定処分を含め、原処分のその他の部分については、当審判所の調査によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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