ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.78 >> (平21.11.6、裁決事例集No.78 349頁)

(平21.11.6、裁決事例集No.78 349頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が監査役に対する役員報酬として損金の額に算入した金額について、原処分庁が、常務取締役に対する報酬を監査役に対する報酬に仮装して経理したものであり、法人税法(平成18年法律第10号による改正前のもの。以下同じ。)第34条《過大な役員報酬等の損金不算入》第2項の規定により損金の額に算入されないものであるとして、法人税の更正処分及び重加算税の賦課決定処分並びに源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)の納税告知処分及び重加算税、不納付加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、事実認定を誤った違法な処分であるとして、これらの処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯等

 審査請求に至る経緯等は、別表1及び別表2のとおりであり、これらの審査請求について併合審理する。
 なお、別表1の法人税について、平成15年3月1日から平成16年2月29日まで、同年3月1日から平成17年2月28日まで、同年3月1日から平成18年2月28日まで及び同年3月1日から平成19年2月28日までの各事業年度を、それぞれ「平成16年2月期」などといい、これらを併せて「本件各事業年度」という。

(3) 関係法令

イ 法人税法第34条第2項は、内国法人が、事実を隠ぺいし、又は仮装して経理をすることによりその役員に対して支給する報酬の額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しないと規定している。
ロ 国税通則法第68条《重加算税》第1項は、過少申告加算税が課される場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨、また、同条第3項は、不納付加算税が課される場合において、納税者が事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づきその国税をその法定納期限までに納付しなかったときは、当該納税者から、不納付加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を徴収する旨規定している。

トップに戻る

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成4年3月○日に衣料品製造及び販売などを営むことを目的として設立された同族会社であり、平成20年2月現在、店舗数は○店、従業員数は○○名である。
ロ A(以下「代表者」という。)は設立時から請求人の代表取締役を務め、B(以下「常務」という。)は代表者の妻であり、設立時は請求人の取締役であったが、平成15年2月期から常務取締役を務めている。
ハ 請求人の監査役には、設立当初は常務の義兄であるCが就任していたが、同人の退任後、平成13年4月○日に代表者の父であるDが就任し、平成15年4月○日には代表者の義姉であるEも就任した(以下、D監査役及びE監査役両名を「両監査役」という。)。
ニ 請求人は、平成15年5月までは両監査役に対して役員報酬を支給していなかったが、平成15年6月以降平成20年5月までの間、D監査役に月額200,000円及びE監査役に月額600,000円の役員報酬(以下「本件監査役報酬額」という。)を支給したとして経理処理をした。
ホ 請求人は、常務に対する役員報酬として平成16年2月期に10,700,000円、平成17年2月期に11,900,000円、平成18年2月期及び平成19年2月期に各12,000,000円を支給したとして、当該役員報酬額を請求人の所得金額の計算上、損金の額に算入した。
ヘ 請求人は、両監査役に対する役員報酬として平成16年2月期に7,200,000円、平成17年2月期、平成18年2月期及び平成19年2月期に各9,600,000円を支給したとして、本件監査役報酬額を請求人の所得金額の計算上、損金の額に算入して法人税の確定申告書を提出し、平成15年6月分から平成20年5月分の源泉所得税について、本件監査役報酬額を両監査役に対する報酬として源泉所得税額を計算し納付した。
ト 請求人の関係帳簿書類には次の記載がある。
(イ) 請求人が提出した法人税確定申告書に添付された「役員報酬手当等及び人件費の内訳」には、E監査役については「常勤」とし、D監査役については平成19年2月期を「常勤」とし、それ以外の事業年度を「非常勤」とする記載がある。
(ロ) D監査役に係る賃金台帳の月別の「出勤日数」欄には、平成15年6月から平成16年12月まで「25.0日」の記載があり、平成17年1月からは「0.0日」の記載がある。
 E監査役に係る賃金台帳の同欄には、平成15年6月以降すべて「25.0日」の記載がある。
(ハ) 請求人の定時株主総会議事録には、D監査役又はE監査役が、監査役として決算関係書類を調査し、株主総会においてその報告を行った旨の記載がある。

(5) 争点

 本件監査役報酬額は、法人税法第34条第2項に規定する仮装して経理をすることにより役員に対して支給した報酬の額に該当するか否か。

トップに戻る

2 主張

 当事者の主張は、別紙のとおりである。

トップに戻る

3 判断

(1) 法令解釈

 法人税法は、役員報酬については、役員の通常の業務執行の対価であることから、原則として損金の額に算入する(同法第34条第1項)ことを前提とする一方、役員賞与については、利益獲得の功労に対する報償であり、利益金から与えられるものとの理解から損金の額には算入しない(同法第35条第1項)こととしているところ、このような役員報酬と役員賞与の区別を無視し、事実を隠ぺいし、又は仮装して経理することにより役員に支給する報酬の額は、役員報酬の支給について正当な手続を経ない、いわば隠れた利益の処分としての性格を有するものであると考えられることから、法人税法第34条第2項は、当該報酬の額については所得金額の計算上、損金の額に算入しないこととしたものと解される。
 そして、法人税法第34条第2項にいう「事実を隠ぺいし」、「仮装して」とは、国税通則法第68条に用いられている同文言と同様、それぞれ「特定の事実を隠匿しあるいは脱漏すること」、「特定の所得、財産あるいは取引上の名義を装う等事実をわい曲すること」をいうと解すべきである。

トップに戻る

(2) 認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 常務の原処分庁所属の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)に対する申述によれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人は、役員報酬及び従業員給与については口座振込の方法により支給しているが、両監査役の報酬については、本件支給額を請求人の総務担当者から常務に対して直接、現金で交付していた。
(ロ) 常務は、総務担当者から受領した現金(本件支給額)を、自己名義の郵便貯金口座、銀行預金口座又は代表者名義の銀行預金口座のいずれかに入金して管理し常務個人の諸支払に充てたが、自らの諸支払に充てた後の残金を上記預貯金口座に入金することもあった。
(ハ) 常務は、毎月、本件支給額を受領した後に、D監査役に50,000円、E監査役に100,000円(以下、これらの金員を「本件交付額」という。)を口座振込又は現金で交付することを両監査役に伝えていた。
(ニ) 常務は、本件支給額とともに請求人の総務担当者から受領した給与支給明細書を両監査役には交付していなかった。
ロ 上記イの(ロ)の常務名義の預貯金口座は、いずれも常務が管理しており、郵便貯金口座には、本件支給額の入金のほか、常務が利用したクレジットカードの決済や生命保険料の振替等の出金がある。
ハ D監査役名義のF銀行G支店普通預金口座には常務個人名義の振込みがあるが、上記イの(ハ)の内容とは異なり、振込日は毎月一定していないばかりか振込みのない月もあり、振込金額についても、50,000円の場合、100,000円の場合があり、振込人名義が代表者個人名義の場合もある。
ニ E監査役名義の郵便貯金口座にも常務個人名義の振込みがあるが、上記イの(ハ)の内容とは異なり、振込日は毎月一定しておらず、振込みのない月もあり、振込金額についても、100,000円から500,000円まで多岐にわたっている。
ホ D監査役の調査担当職員に対する申述によれば、次の事実が認められる。
(イ) D監査役は、請求人の決算関係書類の監査を行ったことはなく、株主総会においても常務が監査報告を行っていた。
(ロ) D監査役の仕事の内容は、G市内に買物等で来たついでに本社に寄り、請求人の近況を聞いたり代表者を激励したりするものであり、株主総会や取締役会に出席したことはなかった。
ヘ E監査役の調査担当職員に対する申述によれば、次の事実が認められる。
(イ) E監査役は、会計監査については全く従事しておらず、株主総会における監査報告についてもすべて代表者及び常務に任せていた。
(ロ) E監査役は、仕事のために本社に行ったことはなく、株主総会や取締役会に出席したこともなかった。
ト 請求人が当審判所に対し提出した金銭消費貸借契約書の内容は以下のとおりである。
(イ) 代表者とD監査役及び代表者とE監査役との間において、各別に平成20年6月1日付で金銭消費貸借契約を締結した。
(ロ) 当該契約は、D監査役が588,643円、E監査役が18,377,544円を代表者に貸し渡し、代表者がこれを受領し、平成20年12月以降毎月末日に両監査役の普通預金口座に一定金額を振込送金して弁済することを内容とする。

トップに戻る

(3) 法人税法第34条第2項の適用の有無

イ 本件監査役報酬額の帰属について
(イ) 上記(2)のイの(イ)及び(ロ)のとおり、常務は、請求人の総務担当者から本件支給額の全額を現金で受領した後、自己名義の預金口座等に入金していたが、入金前に受領した金員を自らの支払に費消したこと、また、当該口座に入金した後も、その預金から種々の自らの支払に支出していたことを自認しており、当審判所の調査においても、上記(2)のロのとおり、上記預金口座等から常務個人の支出のための出金がなされていることが認められることからすれば、本件支給額は、常務に対し支給され、常務の意思により管理し、自由に費消することが可能な状態に置かれていたものと認められる。
 さらに、上記(2)のホ及びヘのとおり、両監査役は、実際には監査業務に従事しておらず、常務が監査業務を行っている状況を併せ考慮すれば、本件支給額は、常務に対して支給されたものと認められるのであり、加えて、上記(2)のイの(イ)のとおり、この本件支給額が請求人から常務に対して定時に定額支給されていることからすれば、本件監査役報酬額は、常務に帰属する報酬であると認められる。
(ロ) 請求人は、監査役の設置は法人の存続に必要不可欠なものであり、監査役はその職に就任することにより負担する商法上の責任の対価としても当然に報酬を受領する権利があるから、本件監査役報酬額は両監査役に帰属するものであることを主張する。
 しかしながら、本件監査役報酬額が常務に帰属するという判断は、上記(イ)のとおりであり、請求人が主張する監査役設置の必要不可欠性や両監査役の請求人に対する報酬の請求・受給権の有無は、上記(イ)の判断に影響を及ぼすものではないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ハ) 請求人は、本件監査役報酬額は本件交付額と代表者が両監査役から借りた金員とに区分され、常務が管理し、費消した金員は、代表者が両監査役から借り入れた金員にすぎないと主張する。
 しかしながら、上記(2)のロのとおり、本件監査役報酬額は、区分されることなく全額常務の管理下に置かれており、また、月ごとに異なる両監査役に交付される金員以外の金員について、両監査役から代表者及び常務に対する金銭の交付がなされた事実は認められず、さらに、当時、代表者と両監査役との間で貸借の合意がなされたことを示す証拠もないことからすれば、本件においては、代表者と両監査役との間には金銭消費貸借契約が存在したものとは認められない。
 なお、請求人が提出する両監査役と代表者との間の金銭消費貸借契約書も、上記(2)のトの(イ)及び(ロ)のとおり、原処分調査後の平成20年6月1日付のものであり、その内容についても、本件監査役報酬額の支給の都度、本件支給額と本件交付額の差額を代表者が両監査役から借り入れたとする請求人の主張とも整合せず、本件監査役報酬額の支給当時からの合意の存在を立証し得るものではない。
(ニ) また、請求人は、本件監査役報酬額の一部は、本件交付額として実際に常務を通じて両監査役に支給されているとも主張するが、上記(2)のイの(ニ)、ハ及びニのとおり、1両監査役名義の預貯金口座への本件交付額の振込日が請求人の報酬支給日と連動せず一定していないこと、2振込金額も定額でないこと及び3両監査役に対する給与支給明細書は常務が所持し両監査役には交付されていないことからすると、本件交付額は役員報酬としての性質を持つ金員であるとは認められず、この点に関する請求人の主張にも理由がない。
ロ 事実の隠ぺい、仮装経理の有無について
 請求人は、本件各事業年度において、本件監査役報酬額を両監査役に対して支給したとして本件各事業年度の所得金額の計算上、損金の額に算入している。
 しかしながら、上記イの(イ)のとおり、本件監査役報酬額が常務に対する報酬であると認められることからすると、請求人は、常務に対する報酬を、両監査役に対する報酬に仮装して経理していたものと認められる。
ハ 形式的記載、誤記に関する請求人の主張について
 請求人は、原処分庁が虚偽記載であると認定した上記1の(4)のトの記載については、形式的な記載や誤記等によるものである旨主張する。
 しかしながら、上記(2)のホ及びヘのとおり、1両監査役は「常勤」ではなく「非常勤」であると認められること、2両監査役は監査役としての仕事のために出勤したことがないこと及び3両監査役は決算関係書類を調査したことがなく株主総会における監査報告を行ったこともないことからすれば、上記1の(4)のトの記載は、事実と異なる記載であり、請求人が主張するような単なる誤記等によるものであるとは認められず、請求人の上記主張には理由がない。

トップに戻る

(4) 法人税の更正処分について

 上記(3)のとおり、本件監査役報酬額は、法人税法第34条第2項に規定する「仮装して経理することによりその役員に対して支給する報酬の額」に該当し、請求人の所得金額の計算上、損金の額には算入されないこととなるから、原処分庁が行った本件各事業年度の法人税の各更正処分は適法である。

(5) 源泉所得税の納税告知処分について

 請求人は、本件監査役報酬額を両監査役に支給したと仮装して常務に対して支給していたのであり、本来、常務から徴収すべき源泉所得税の額を過少に、また、両監査役から徴収すべき源泉所得税の額を過大に計算して、その差額を少なく納付していた。
 したがって、常務に対して支給した本件監査役報酬額に対する源泉所得税の金額から本件監査役報酬額を両監査役に対し支給したものとして納付した源泉所得税の金額を控除した金額について原処分庁が行った平成15年6月分から平成20年5月分までの各月分の各納税告知処分は適法である。

(6) 重加算税の賦課決定処分について

 請求人は、本件監査役報酬額を所得金額の計算上、損金の額に算入して確定申告書を提出し、本件監査役報酬額を両監査役に対する報酬として源泉所得税額を計算して納付しており、このことは、国税通則法第68条第1項に規定する「事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」及び同条第3項に規定する「事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づきその国税をその法定納期限までに納付しなかったとき」に該当するから、法人税及び源泉所得税の重加算税の各賦課決定処分は同条第1項及び第3項に規定する賦課要件に該当し適法である。

(7) 不納付加算税の賦課決定処分について

 源泉所得税の納税告知処分は上記(5)のとおり適法であり、不納付加算税の賦課決定処分について、国税通則法第67条《不納付加算税》第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められないので、原処分庁が行った同条第1項の規定に基づく不納付加算税の各賦課決定処分は適法である。

(8) 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠書類等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る

トップに戻る