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(平21.9.18、裁決事例集No.78 500頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、1課税標準額及び課税仕入れに係る消費税額の計算に誤りがあったことにより、また、2課税標準額に対する消費税額から控除する、課税仕入れに係る消費税額(以下「控除対象仕入税額」という。)を、消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》第2項第1号に規定する方法(以下「個別対応方式」という。)によらず、同項第2号に規定する方法(以下「一括比例配分方式」という。)により計算していたことにより、納付すべき消費税額及び地方消費税額が過大になっているとして更正の請求をしたところ、原処分庁が、更正の請求において、控除対象仕入税額の計算方法を変更することはできないとして、課税標準額及び課税仕入れに係る消費税額の計算の誤りのみを是正する更正処分をしたことから、請求人がその全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 平成18年7月1日から平成19年6月30日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について、審査請求(平成21年2月27日請求)に至る経緯及び内容は、別表のとおりである。
 なお、以下、平成20年6月30日付でされた本件課税期間の消費税等の更正の請求を「本件更正の請求」といい、本件更正の請求に対して平成20年9月30日付でされた更正処分を「本件更正処分」という。

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(3) 関係法令

イ 消費税法第30条第2項は、事業者(同法第9条《小規模事業者に係る納税義務の免除》第1項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)が国内において課税仕入れを行った場合において、当該課税仕入れを行った日の属する課税期間における課税売上割合が100分の95に満たないときには、控除対象仕入税額は、同法第30条第1項の規定にかかわらず、同条第2項各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める方法により計算した金額とする旨規定している。
 そして、消費税法第30条第2項第1号は、当該課税期間中に国内において行った課税仕入れにつき、1課税資産の譲渡等にのみ要するもの、2課税資産の譲渡等以外の資産の譲渡等にのみ要するもの及び3課税資産の譲渡等と課税資産の譲渡等以外の資産の譲渡等に共通して要するものにその区分が明らかにされている場合には、課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れに係る消費税額に、課税資産の譲渡等と課税資産の譲渡等以外の資産の譲渡等に共通して要する課税仕入れに係る消費税額に課税売上割合を乗じて計算した金額を加算する方法(個別対応方式)による旨(以下、上記1から3までの区分を「用途区分」という。)、同項第2号は、同項第1号に掲げる場合以外の場合には、当該課税期間における課税仕入れに係る消費税額に課税売上割合を乗じて計算する方法(一括比例配分方式)による旨、各規定している。
 なお、以下、個別対応方式と一括比例配分方式を併せて「本件両方式」という。
ロ 消費税法第30条第4項は、同条第2項第1号に掲げる場合に該当する事業者は、同項の規定にかかわらず、当該課税期間中に国内において行った課税仕入れにつき、同号に定める方法に代え、同項第2号に定める方法により控除対象仕入税額を計算することができる旨規定している。
ハ 国税通則法(以下「通則法」という。)第23条《更正の請求》第1項第1号は、納税申告書を提出した者は、当該申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、当該申告書の提出により納付すべき税額が過大であるときには、当該申告書に係る国税の法定申告期限から1年以内に限り、税務署長に対し、その申告に係る課税標準等又は税額等につき更正をすべき旨の請求をすることができる旨規定している。

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(4) 基礎事実

イ 請求人は、本件課税期間の消費税等の確定申告に当たり、A税理士(以下「本件税理士」という。)に申告書の作成を依頼した。
ロ 本件税理士は、控除対象仕入税額を一括比例配分方式により計算して、別表の「確定申告」欄のとおり記載した、本件課税期間の消費税等の申告書を作成し、これを受けて、請求人は、法定申告期限までに当該申告書を原処分庁へ提出した(以下、この申告書を「本件確定申告書」という。)。
 なお、請求人は、本件課税期間について、消費税法第5条《納税義務者》第1項に規定する納税義務者であり、その課税売上割合は、95%未満であった。

(5) 争点

 本件更正の請求において、控除対象仕入税額の計算方法を一括比例配分方式から個別対応方式へ変更することができるか否か。

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2 主張

当事者の主張
請求人 原処分庁
 次のことから、本件更正の請求において、控除対象仕入税額の計算方法を一括比例配分方式から個別対応方式へ変更することができる。
(1) 消費税は、「事業者に負担を求めるのではなく、税額分は事業者の販売する物品やサービスの価格に上乗せされ、転嫁され、最終的には消費者に負担を求める税」として導入されたものであるところ、請求人は、本件更正処分後においても、なお還付金の額に相当する税額が過少であるため、消費税等相当額の負担を強いられている。
(2) 一括比例配分方式は、納税者の事務負担等に配慮して設けられた簡便法であって、個別対応方式こそが、消費税の本旨に沿う原則的な控除対象仕入税額の計算方法である。
(3) 請求人の本件課税期間の控除対象仕入税額は、本件税理士が注意義務を怠ったことなど、本件税理士の責めに帰すべき事由により、請求人に不利な計算方法により算定されている。
 請求人は、本件確定申告書において、一括比例配分方式を選択し控除対象仕入税額を計算しているところ、控除対象仕入税額の計算方法について、本件両方式のいずれを選択するかは、請求人の判断にゆだねられているから、請求人が一括比例配分方式を選択して控除対象仕入税額を算定し、本件課税期間の消費税等の確定申告をしている以上、一括比例配分方式による税負担が個別対応方式に比して過大であることが明らかとなった場合でも、そのことは「課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったこと」に該当せず、したがって、本件更正の請求において、控除対象仕入税額の計算方法を一括比例配分方式から個別対応方式へ変更することはできない。

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3 判断

(1) 消費税法第30条第4項は、同条第2項第1号に掲げる場合に該当する事業者は、同項の規定にかかわらず、同号の定める方法に代え、同項第2号に定める方法により控除対象仕入税額を計算することができる旨規定していることから、納税者(事業者)が、その課税期間中に行った課税仕入れについて、用途区分を明らかにしている場合には、本件両方式のいずれの計算方法により控除対象仕入税額を算定するかは、専ら確定申告時における納税者(事業者)の自由な選択にゆだねられているということができるのであって、納税者(事業者)が同条第4項の規定の適用を選択して一括比例配分方式により控除対象仕入税額を算定し確定申告をした場合には、個別対応方式による金額が一括比例配分方式による金額を超えるため、一括比例配分方式を選択しなかった場合に比して納付すべき税額が多額になったとしても、納税者(事業者)としては、そのことを理由に通則法第23条第1項第1号に基づく更正の請求をすることはできないと解される。

 なぜなら、通則法第23条第1項第1号は、更正の請求が認められる事由として、「申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったこと」を規定しているが、消費税法第30条第4項の規定の適用を選択し、一括比例配分方式により控除対象仕入税額を算定した旨を記載して確定申告をしている場合には、同条第2項の規定にかかわらず、一括比例配分方式により算定された金額をもって控除対象仕入税額とされるのであり、同条第4項の規定が適用される限りは、もはや個別対応方式により算定される金額がどうであるかを問題にする余地はないのであって、納税者が同項及び同条第2項第2号の規定に従って計算に誤りなく申告している以上、仮に個別対応方式により算定される金額が一括比例配分方式により算定される金額を超えているとしても、そのことは、通則法第23条第1項第1号にいう「国税に関する法律に従っていなかったこと」又は「当該計算に誤りがあったこと」のいずれにも該当しないというべきだからである。
 このように解しても、納税者としては、法が予定しているとおり、用途区分を明らかにしてさえいれば、本件両方式のいずれの計算方法を選択するのが税負担の面で有利であるかは容易に判明することであるから、必ずしも納税者に酷であるということはできないし、逆に、上記のように課税標準等の計算の方法について納税者の選択が認められている場合において、その選択の誤りを理由とする更正の請求を認めることは、いわば納税者の意思によって税の確定が左右されることにもなり妥当でないというべきである。
 以上によれば、納税者が消費税法第30条第4項の規定の適用を選択して一括比例配分方式により控除対象仕入税額を算定し確定申告をした場合には、更正の請求において、控除対象仕入税額の計算方法を一括比例配分方式から個別対応方式へ変更することはできないと解するのが相当である。

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(2) これを本件についてみると、当審判所の調査によれば、1本件確定申告書には、「付表2 課税売上割合・控除対象仕入税額等の計算表」が添付され、本件課税期間中に行った課税仕入れについて、一括比例配分方式により控除対象仕入税額を計算したことが明らかにされていること、2本件確定申告書は、本件税理士が控除対象仕入税額を一括比例配分方式により計算して作成した申告書に、請求人の代表取締役であるBが自ら押印して、提出されたものであることから、請求人は、消費税法第30条第4項の規定の適用を選択して一括比例配分方式により控除対象仕入税額を算定し確定申告をしたものと認められる。
 そうすると、請求人は、本件更正の請求において、控除対象仕入税額の計算方法を一括比例配分方式から個別対応方式へ変更することはできない。

(3) これに対して、請求人は、1請求人は、消費税の導入の趣旨に反して、消費税等相当額の負担を強いられている旨、2一括比例配分方式は簡便法であって、個別対応方式こそが原則的な控除対象仕入税額の計算方法である旨、3請求人の本件課税期間の控除対象仕入税額は、本件税理士の責めに帰すべき事由により、請求人に不利な計算方法により算定されている旨、各主張する。

 しかしながら、上記1の請求人の主張については、請求人が、用途区分を明らかにしてさえいれば、本件両方式のいずれの計算方法を選択するのが税負担の面で有利であるかは、法定申告期限までに容易に判明することである。
 また、上記2の請求人の主張については、本件更正の請求において、本件両方式のいずれの計算方法により控除対象仕入税額を算定すべきかは、いずれの計算方法が原則的な計算方法であるかによって決せられるものではなく、請求人がいずれの計算方法により控除対象仕入税額を算定して確定申告をしたかによって決せられるものである。
 さらに、上記3の請求人の主張については、消費税法は、申告納税制度を採用しており(消費税法第45条《課税資産の譲渡等についての確定申告》、通則法第16条《国税についての納付すべき税額の確定の方式》第1項第1号)、その申告は、納税者自身の判断と責任においてなされるべきものであるところ、当審判所の調査によれば、請求人は、本件課税期間の消費税等について、本件税理士に申告書の作成を依頼して税務代理を委任しており、請求人の意思と責任において本件税理士に委任したものである以上、受任者である本件税理士の行為は委任者である請求人の責任の範囲内の行為と認められる。
 したがって、請求人の主張にはいずれも理由がない。

(4) 本件更正処分

 当審判所の調査によれば、本件確定申告書に記載された納付すべき税額は、請求人の本件課税期間の課税標準額及び課税仕入れに係る消費税額の計算に誤りがあったことにより、過大であると認められる。
 そこで、上記の計算の誤りを是正し、一括比例配分方式により控除対象仕入税額を計算して、請求人の本件課税期間の消費税及び地方消費税の還付金の額に相当する税額をそれぞれ算定すると、○○○○円及び○○○○円となり、これらの金額は、本件更正処分のそれらの金額と同額となるから、本件更正処分は適法である。

(5) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によってもこれを不相当とする理由は認められない。

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