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(平21.11.13、裁決事例集No.78 509頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、養鶏業等を営んでいた同族会社であるE社(以下「本件滞納法人」という。)の滞納国税について、本件滞納法人の資本金の全額を出資する亡Fに対し、国税徴収法(以下「徴収法」という。)第37条《共同的な事業者の第二次納税義務》の規定による第二次納税義務の納付告知処分をした上で、当該第二次納税義務についての督促処分及び同条の重要財産に当たるとした各不動産についての差押処分をしたのに対し、亡Fが、当該各不動産は本件滞納法人の重要財産ではないなどとして、上記第二次納税義務の納付告知処分の全部の取消しを求めるとともに、上記第二次納税義務の納付告知処分が違法であるから上記督促処分及び上記各不動産の差押処分も違法であるとして、これらの処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 徴収の引継ぎについて
 原処分庁は、平成18年9月21日から平成19年1月25日までの間、本件滞納法人が納付すべき別表1の滞納国税(以下「本件滞納国税」という。)について、国税通則法(以下「通則法」という。)第43条《国税の徴収の所轄庁》第3項の規定に基づき、G税務署長から徴収の引継ぎを受けた。
ロ 告知処分について
 原処分庁は、平成20年5月30日付で、亡Fに対して、以下の第二次納税義務の納付告知処分を行った。
(イ) 本件滞納国税のうち別表3−1の国税について、別表2−1の各不動産(以下「本件不動産1」という。)を限度として徴収するための納付通知書による第二次納税義務の納付告知処分(別紙1の1のとおり。以下「本件告知処分1」という。)。
(ロ) 本件滞納国税のうち別表4−1の国税について、別表2−2の各不動産(以下「本件不動産2」という。)を限度として徴収するための納付通知書による第二次納税義務の納付告知処分(別紙1の4のとおり。以下「本件告知処分2」という。)。
(ハ) 本件滞納国税のうち別表5−1の国税について、別表2−3の各不動産(以下「本件不動産3」という。)を限度として徴収するための納付通知書による第二次納税義務の納付告知処分(別紙1の7のとおり。以下「本件告知処分3」という。)。
(ニ) 本件滞納国税のうち別表6−1の国税について、別表2−4の各不動産(以下、「本件不動産4」といい、本件不動産1、本件不動産2、本件不動産3と併せて「本件各不動産」という。)を限度として徴収するための納付通知書による第二次納税義務の納付告知処分(別紙1の10のとおり。以下、「本件告知処分4」といい、本件告知処分1、本件告知処分2、本件告知処分3と併せて「本件各告知処分」という。)。
ハ 督促処分について
 原処分庁は、平成20年7月8日付で、亡Fに対して、以下の督促処分を行った。
(イ) 本件告知処分1に係る国税について、第二次納税義務の納付催告書による督促処分(別紙1の2のとおり。以下「本件督促処分1」という。)。
(ロ) 本件告知処分2に係る国税について、第二次納税義務の納付催告書による督促処分(別紙1の5のとおり。以下「本件督促処分2」という。)。
(ハ) 本件告知処分3に係る国税について、第二次納税義務の納付催告書による督促処分(別紙1の8のとおり。以下「本件督促処分3」という。)。
(ニ) 本件告知処分4に係る国税について、第二次納税義務の納付催告書による督促処分(別紙1の11のとおり。以下「本件督促処分4」といい、本件督促処分1、本件督促処分2、本件督促処分3と併せて「本件各督促処分」という。)。
ニ 差押処分について
 原処分庁は、平成20年7月28日付で、亡Fが所有する不動産について、以下の差押処分をした。
(イ) 本件告知処分1に係る国税を徴収するための本件不動産1の差押処分(別紙1の3のとおり。以下「本件差押処分1」という。)。
(ロ) 本件告知処分2に係る国税を徴収するための本件不動産2の差押処分(別紙1の6のとおり。以下「本件差押処分2」という。)。
(ハ) 本件告知処分3に係る国税を徴収するための本件不動産3の差押処分(別紙1の9のとおり。以下「本件差押処分3」という。)。
(ニ) 本件告知処分4に係る国税を徴収するための本件不動産4の差押処分(別紙1の12のとおり。以下「本件差押処分4」といい、本件差押処分1、本件差押処分2、本件差押処分3と併せて「本件各差押処分」という。)。
ホ 不服申立てについて
(イ) 亡Fは、平成20年7月25日、本件各告知処分及び本件各督促処分に不服があるとして、また、同年8月27日、本件各差押処分に不服があるとして、それぞれ異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年10月21日付で、本件各告知処分及び本件各督促処分に係る異議申立てについて、また、同年11月26日付で、本件各差押処分に係る異議申立てについて、いずれも棄却の異議決定をした。
(ロ) 亡Fは、平成20年11月21日、異議決定を経た後の本件各告知処分及び本件各督促処分に不服があるとして、また、同年12月16日、異議決定を経た後の本件各差押処分に不服があるとして、それぞれ審査請求をした。そこで、これらの審査請求について併合して審理をする。
(ハ) 亡Fの相続人であるH、J、K、L及びMの5名は、平成21年5月○日、相続により、本件審査請求における審査請求人の地位を承継した(以下、審査請求人であるH、J、K、L及びMを合わせて「請求人ら」という。)。

(3) 関係法令等

イ 徴収法第32条《第二次納税義務の通則》第1項は、国税局長(徴収法第184条《国税局長が徴収する場合の読替規定》の規定による読み替え後のもの。以下同じ。)は、納税者の国税を第二次納税義務者から徴収しようとするときは、その者に対し、政令で定めるところにより、徴収しようとする金額、納付の期限その他必要な事項を記載した納付通知書により告知しなければならない旨規定し、また、同条第2項は、国税局長は、第二次納税義務者がその国税を第1項の納付の期限までに完納しないときは納付催告書によりその納付を督促しなければならない旨規定している。
ロ 徴収法第37条は、国税局長は、納税者が同族会社である場合その判定の基礎となった株主又は社員が納税者の事業の遂行に欠くことのできない重要な財産を有し、かつ、当該財産に関して生ずる所得が納税者の所得となっている場合において、その納税者がその供されている事業に係る国税を滞納し、その国税につき滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められるときは、当該財産を限度として、その滞納に係る国税の第二次納税義務を負う旨規定している。

(4) 基礎事実

イ 本件滞納法人は、平成3年7月○日、養鶏業等を目的とし、亡Fを代表取締役として資本金1000万円で設立された法人であり、資本金1000万円の全額を亡Fが出資する同族会社である。
ロ 亡Fは、平成5年6月22日、売買により本件不動産3を取得した。
ハ 亡Fは、本件不動産1のうち、各土地を平成8年7月5日売買により、建物を平成9年5月31日新築により、それぞれ取得した。
ニ 亡Fは、平成15年6月18日、売買により本件不動産2を取得した。
ホ 亡Fは、平成15年7月7日、売買により本件不動産4を取得した。
ヘ 本件滞納法人は、本件各告知処分に係る滞納国税の課税期間等の始期である平成14年9月1日から解散した平成16年8月31日までの間、養鶏業等を営んでいた。
ト 亡Fは、本件滞納法人に対し、本件各不動産を、養鶏場などの事業の用に供するため、無償で貸与していた。
チ 本件滞納法人は、本件不動産2及び4について、それぞれ亡Fが取得した日から平成16年8月31日まで、本件不動産3について、遅くとも平成10年ころから平成16年2月9日まで、いずれもその事業の用に供していた(なお、本件滞納法人が、本件不動産1を事業の用に供していた期間等については、後記のとおり争いがある。)。
リ 本件滞納法人は、平成16年8月31日に解散し、本件各告知処分をした平成20年5月30日時点及び現在においても、本件滞納法人から本件滞納国税を徴収することは困難である。

(5) 争点

 本件の争点は、次の3点である。
 争点1 本件各不動産は、本件滞納法人の事業の遂行に欠くことができない重要財産に当たるか。
 争点2 本件各不動産に関して生ずる所得が本件滞納法人の所得になっているといえるか。
 争点3 本件告知処分1に係る国税は、本件不動産1の供されている事業に係る国税に当たるか。

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2 主張

(1) 争点1について

原処分庁 請求人ら
 国税徴収法基本通達(以下「基本通達」という。)第37条関係の1は、重要財産について、一般的には、判断の対象となる財産がないものと仮定した場合に、その事業の遂行が不可能になるか又は不可能になるおそれがある状態になると認められる程度に、その事業の遂行に関係を有する財産をいう旨定めている。また、納税者が各種の事業を兼ねて経営しており、そのうちの一の事業に不可欠の重要財産を共同的な事業者から借り受けている場合においても、その財産が供されている事業に係る税金に関する限り、徴収法第37条の適用があると解されている。
 これを本件についてみると、本件滞納法人は、同族会社であるところ、その株主等である亡Fが所有する本件各不動産を無償で借り受け、養鶏場として使用していたものであり、これがないものとした場合には、本件滞納法人の養鶏事業の継続ができなくなるというわけではないものの、少なくともこれに代わるべき不動産を他から調達するか、あるいはこれまでよりも相当程度に事業規模を縮小しなければ、養鶏事業の遂行はできない状況にあったと認められる。
 したがって、本件各不動産は、本件滞納法人の事業の遂行に欠くことができない重要な財産である。
 本件滞納法人は、養鶏場を自ら経営し原料鶏卵を製造販売するという事業と、液卵を他の業者から仕入れこれを販売するという2種類の事業を経営しており、それぞれの事業の平成14年9月1日から平成15年8月31日までの事業年度(以下「平成15年8月期」という。)及び平成15年9月1日から平成16年8月31日までの事業年度(以下「平成16年8月期」という。)の損益は、いずれも液卵の事業が黒字であるのに対し、養鶏場の事業は赤字である。
 本件滞納法人の収入の約70%は、他の鶏卵販売業者から購入した液卵若しくは冷凍卵を販売することによって得た収入であり、本件各不動産を使用して養鶏場を経営することによって得た収入ではない。
 本件滞納法人が養鶏場を持っている主たる理由は、他の鶏卵販売業者から必要なだけの液卵若しくは冷凍卵の仕入れができない時の調整用である。
 したがって、本件滞納法人は、養鶏場がなくても事業の遂行に支障がないのであるから、本件各不動産は重要な財産に該当しない。

(2) 争点2について

原処分庁 請求人ら
 基本通達第37条関係の2は、財産に関して生ずる所得が納税者の所得となっている場合とは、同族会社の判定の基礎となった株主等の所有する財産をその同族会社が時価より低額で賃借しているため、その時価に相当する借賃の金額とその低額な借賃の金額との差額に相当するものが同族会社の実質的な所得となっている場合など重要財産から直接又は間接に生ずる所得が納税者の所得となっている場合等をいう旨定めている。
 これを本件についてみると、本件滞納法人は、同族会社の株主等である亡Fが所有する本件各不動産を無償で借り受けているのであるから、その賃料相当額が本件滞納会社の実質的な所得となっていると認められる。
 本件滞納法人の所得のほとんどは、液卵の売買によるものであって、本件各不動産に関して生ずる所得はほとんどない。
 したがって、本件各不動産に関して生ずる所得が本件滞納法人の所得になっているという事実は存在しない。

(3) 争点3について

原処分庁 請求人ら
 本件滞納法人は、平成14年10月から平成17年6月までの間、○○県○○市所在のN社に対して、本件不動産1で採取した原料鶏卵を納入している。
 したがって、本件滞納法人は、この間、本件不動産1を事業の用に供している。
 本件滞納法人は、近隣○○施設等とのトラブルにより、平成9年12月初旬に、本件不動産1から鶏を全部排除し、その後、本件滞納法人を解散した平成16年8月31日までの間、同不動産を事業の用に供していない。なお、本件不動産1のうち、番号12の土地は、養鶏場として使用していない。
 したがって、本件滞納法人は、本件告知処分1に係る滞納国税が発生した平成14年9月から平成16年8月までの間、本件不動産1を事業の用に供していない。

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3 判断

(1) 徴収法第37条の第二次納税義務について

 徴収法第37条は、上記1の(3)のロのとおり規定しており、同条第2号の第二次納税義務は、次の実体的要件を満たす場合に成立する。
イ 納税者(滞納者)の国税につき滞納処分を執行してもなお徴収すべき額に不足すると認められること。
ロ 納税者(滞納者)が同族会社である場合に、その判定の基礎となった株主が、納税者(滞納者)の事業の遂行上欠くことのできない重要な財産を有していること。
ハ 当該財産に関して生ずる所得が納税者(滞納者)の所得になっていること。
ニ 納税者(滞納者)が当該財産の供されている事業に係る国税を滞納していること。
 同条は、上記イないしニを満たす場合、実質的には、同族会社である納税者が、その事業の遂行上欠くことのできないような重要な財産を提供した株主等と共同事業を行っているとみることができるところ、このような場合には、当該事業によって生じた滞納国税を徴収しようとしても、当該納税者にはみるべき財産がないため、徴収すべき額に不足することがあることから、当該納税者に滞納処分を執行してもなお徴収すべき額に不足が生じるときは、株主等が提供した財産を当該納税者の責任財産とみて、補充的にその財産及び不足額の限度で当該株主等にも納税義務を負わせることによって、国税の徴収確保を図るために設けられた規定である。
 なお、上記1の(4)のリのとおり、本件滞納法人は、平成16年8月31日に解散し、本件滞納法人から本件滞納国税を徴収することが困難であるから、上記イの要件を満たすことが認められる。

(2) 争点1について

イ 認定事実
 請求人ら提出資料、N社の常務取締役らの原処分庁所属の調査担当者に対する申述及び本件滞納法人に対して調査を行った○○税務署の担当者の当審判所に対する答述によれば、以下の事実が認められる。
(イ) N社との取引に至る経緯
A 本件滞納法人の前身は、昭和40年5月に設立されたU社であり、同社は鶏卵の卸・小売等を行っていた。亡Fは、同社の取締役にはなっていなかったが、実質的に会社を切り盛りしていた。
B 同社は、昭和48年頃、自社の工場で原料鶏卵を割って液卵に加工したうえ、V社へ液卵を納入するようになった。
C 同社の実質的経営者であった亡Fは、原料鶏卵の安定的な供給源を確保するという意図から、養鶏場を経営し、原料鶏卵を生産するようになった。
D 昭和60年にU社が倒産してからは、他社がV社に液卵を販売していたが、昭和62、3年ころ、亡Fは、新たにW社を設立し、V社への液卵の販売を再開し、平成3年7月に本件滞納法人が設立した後は、取引名義を本件滞納法人に変更した。
(ロ) 本件滞納法人の事業内容について
A 本件滞納法人は、本件各不動産の敷地内の養鶏場で生産した原料鶏卵の販売及び液卵の販売を行っていたが、商業帳簿は作成していなかった。
B N社は、平成5年ころ、本件滞納法人から、V社に液卵を納入する枠を持っているので、液卵をV社に納入してほしいとの話をもちかけられ、本件滞納法人との取引を開始した。
C 本件滞納法人とN社との取引の概要は、次のとおりである。
(A) 本件滞納法人は、V社から、液卵の発注を受けると、N社に同量の液卵を発注する。
(B) 本件滞納法人は、上記(A)の液卵の重量に見合う原料鶏卵をN社の工場に納入する。
(C) N社は、本件滞納法人から発注された液卵を、X社に販売する。
(D) 本件滞納法人は、X社から液卵を仕入れて、V社に販売する。
 なお、N社は、新たに取引先を増やしたくないという思惑を有していたため、液卵を既に取引のあったX社に販売し、本件滞納法人は、X社から仕入れるという取引形態を採っていたが、液卵自体は、N社の工場からV社に直接納入されていた。
D N社は、本件滞納法人から原料鶏卵の加工を委託されていたわけではないので、本件滞納法人から納入される原料鶏卵と、X社に販売する液卵とが、同一の鶏卵であるとは限らないが、本件滞納法人から仕入れる原料鶏卵の重量に見合うだけの液卵をX社に販売するよう留意しており、亡Fに対しても、両者のバランスを取るよう依頼していた。
 もっとも、両者の重量が一致することはなかった。
(ハ) 本件滞納法人の平成15年8月期及び平成16年8月期における原料鶏卵の売上高の90%以上は、N社に対するものであった。
(ニ) N社が、平成17年8月、本件各不動産からの原料鶏卵の仕入れを打ち切ったこともあり、平成19年9月の時点でN社からV社に納入される液卵の数量は相当減少している。
ロ 法令解釈等
 上記(1)のロの「事業の遂行上欠くことのできない重要な財産」の範囲は、その事業の形態によりその財産が納税者の事業の遂行上果す役割いかんにより定まるので、これを一律に定めることはできないが、上記(1)の法律の趣旨に照らせば、その財産がないものとした場合において、その事業の遂行ができなくなるか又はできないおそれがある状態になると認められる程度に当該財産と事業が密接な関連性を有していれば、当該財産は、その事業の遂行に欠くことができない重要な財産に当たると解するのが相当である。
ハ 当てはめ
 これを本件についてみると、上記イの各事実によれば、本件滞納法人の事業は、もともと、自ら生産した原料鶏卵を自己の工場で液卵に加工してV社に販売するというものであったが、N社との取引を開始した後は、同社に原料鶏卵を卸す一方、同社から、原料鶏卵の重量に見合う液卵を、X社を介して仕入れ、V社に販売するようになったものであることが認められる。そうすると、原料鶏卵の生産と液卵の販売とは、別個独立の事業ではなく、相互に関連しており、鶏卵を取り扱う一体の事業であったというべきである。
 そして、本件各不動産が事業に供されていた期間はそれぞれ異なるものの、上記イの(ハ)のとおり、平成15年8月期及び平成16年8月期における原料鶏卵の売上げの90%以上は、N社に対するものであり、これらが本件各不動産から出荷されていることからすれば、本件各不動産がなければ、本件滞納法人は、上記事業を遂行できなくなるおそれがあったと認められるから、本件各不動産は、本件滞納法人の事業遂行上不可欠な重要財産に当たるというべきである。
ニ これに対し、請求人らは、原料鶏卵事業と液卵事業とは別個の事業であり、原料鶏卵事業は売上比も低く赤字であるから、原料鶏卵事業の用に供されていた本件各不動産は重要財産に当たらないと主張するが、上記認定に反し、採用できない。

(3) 争点2について

イ 法令解釈等
 上記(1)の法の趣旨・目的に照らせば、例えば、納税者の事業の収支計算では損失が生じていても、重要財産から直接又は間接に生ずる収入が納税者の収益に帰属しているときや、同族会社の判定の基礎となった株主又は社員の所有する財産をその同族会社が時価より低額な賃料で賃借しているため、時価相当の賃料額とその低額な賃料額との差額に相当するものが同族会社の実質的な所得となっているときなどは、上記(1)のハの「当該財産に関して生ずる所得が納税者(滞納者)の所得になっていること」という要件を満たすと解すべきである。
ロ 当てはめ
 これを本件についてみると、上記1の(4)のトのとおり、本件滞納法人は、亡Fから本件各不動産を無償で借り受けて養鶏場などの事業の用に供していたのであり、本件各不動産の賃料額に相当するものが、本件滞納法人の実質的な所得となっていると認められるから、重要財産である本件各不動産に関して生ずる所得が本件滞納法人の所得になっている場合に当たる。
 請求人らは、本件各不動産に関して生ずる所得がほとんどないと主張するが、仮に原料鶏卵の販売のみで見れば赤字であるとしても、上記結論を左右せず、請求人らの主張には理由がない。

(4) 争点3について

イ 法令解釈等
 上記(1)のニにいう「事業に係る国税」とは、重要財産に関して生ずる所得につき課される所得税及び法人税のみに限定されず、その事業の遂行に伴って当然にその事業者が負担すべき国税をいうものと解すべきであり、納税者が同族会社である場合には、事業遂行に伴って負担しなければならないすべての国税がこれに当たる。
 もっとも、徴収法第37条の第二次納税義務は、上記(1)のロのとおり、重要財産に着目し、当該財産を限度として、これを所有している者に第二次納税義務を負わせて滞納者の国税を徴収するものであるから、対象となる国税は、当該財産が事業の用に供されていた期間に対応する部分の国税の額に限定されると解するのが相当である。
ロ 認定事実
 当審判所の調査の結果によれば、以下の事実が認められる。
(イ) 本件滞納法人は、本件不動産1のうち、番号7ないし11の各土地及び同13の建物を第4農場と、同1ないし6の土地を第5農場と、それぞれ呼んでいた。
 なお、本件滞納法人は、本件不動産4のうち番号9ないし12の土地及び同13の建物を第1農場と、同1及び2の土地並びに同3の建物を第2農場と、同4ないし7の土地及び同8の建物を第3農場とそれぞれ呼び、第1ないし第5農場を併せて、S農場と総称していた。
(ロ) 本件滞納法人は、亡Fが本件不動産1の各土地を取得した平成8年7月ころから、第4農場及び第5農場で養鶏を始めた。
(ハ) P市は、本件不動産1の周辺住民からのハエが多いとの苦情を受け、現地を確認し、平成9年1月ころから、本件滞納法人に対する指導を行ったが、本件滞納法人は、鶏の死骸を近接する○○施設の傍の土地に投棄するなどした。
(ニ) V社は、「P市問題対策協議会」から、第4農場及び第5農場の改善を求める文書が送付されたのを受け、平成10年6月22日、本件滞納法人に対し、同年8月15日までに、第4及び第5農場における事業を一切中止しない限り、本件滞納法人との取引を一切中止する旨、文書で通告した。
(ホ) 本件滞納法人は、平成10年8月、第4及び第5農場における鶏の飼養を停止した。その後、本件滞納法人は、平成12年10月、第4及び第5農場における鶏の飼養を再開したが、同年12月、再度飼養を停止した。
(ヘ) 本件滞納法人は、平成15年8月、生鳥98,856羽を購入するなどして、第4及び第5農場における鶏の飼養を再開した。
(ト) 第4農場の東側に近接する○○施設を経営するY社は、平成15年8月及び同年12月、同○○施設周辺でハエが大量に発生したため、地域住民等とともに、P市役所に苦情を申し入れた。
 P市が調査したところ、本件滞納法人は、第4農場の鶏舎に鶏糞を放置し、あるいは、敷地内を掘削して鶏糞を投入するなどしていたことが判明した。
(チ) 平成15年12月25日、P市役所において、同市職員、Z県職員及びV社社員が、本件不動産1の敷地内でのハエ発生について、会議を行った。
(リ) 亡Fは、V社社員と連名で、平成16年4月22日、P市長に対し、第4農場の鶏合計80,000羽を同月30日までに搬出して、同農場を閉鎖することを約束する旨の文書を提出した。
(ヌ) 本件滞納法人は、平成16年4月、第4農場を閉鎖し、同年5月10日までに、第4農場から鶏をすべて搬出した。また、第5農場についても、平成17年6月までに、鶏をすべて搬出して閉鎖した。
ハ 当てはめ
(イ) 上記ロの各事実によれば、第4農場は、平成15年8月に養鶏を再開し、平成16年4月に閉鎖されるまで稼動していたのであるから、本件不動産1のうち、番号7ないし11の各土地及び同13の建物は、遅くとも平成15年9月1日から平成16年3月31日までの間、事業の用に供されていたと認められる。
(ロ) また、第5農場も、第4農場と同様、平成15年8月に養鶏を再開し、平成17年6月に閉鎖されるまで稼動していたのであるから、本件不動産1のうち、番号1ないし6の各土地についても、遅くとも平成15年9月1日から本件滞納法人が解散した平成16年8月31日までの間、事業の用に供されていたと認められる。
(ハ) ところで、請求人らは、本件不動産1のうち、番号12の土地は、養鶏場として使用していない旨主張する。
 しかし、同土地は、上記1の(4)のハのとおり、本件不動産1の番号1ないし11の各土地と同時期に購入されたものであり、第4農場の東側に近接していることが認められるところ、上記ロの(ト)のとおり、本件滞納法人は、平成15年当時、鶏舎内に鶏糞等を放置し、あるいは、敷地内を掘削して投棄するなどしていたため、ハエが大量発生し、第4農場の東側に位置する○○施設等から苦情が出たものであることなどに照らすと、本件不動産1のうち、番号12の土地については、少なくとも、第4農場が稼動していた期間、仮に養鶏場としては使用していないとしても鶏糞等の捨場等として事業の用に供されていたものと推認することができる。
 よって、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
(ニ) したがって、本件不動産1に係る各不動産は、それぞれ上記の期間、事業の用に供されていたと認めるのが相当である。
ニ 原処分庁の主張について
 原処分庁は、上記2の(3)のとおり、本件滞納法人が平成14年10月から平成17年6月までの間、N社に対して、本件不動産1で採取した原料鶏卵を納入しているから、この間、本件不動産1を事業の用に供していた旨主張するが、同主張を認めるに足る証拠は見当たらない。
 したがって、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。
ホ 請求人らの主張について
 一方、請求人らは、上記2の(3)のとおり、平成9年12月初旬に本件不動産1から鶏を全部排除し、その後、本件滞納法人を解散した平成16年8月31日までの間、同不動産を事業の用に供していない旨主張し、その証拠として、養鶏用飼料の請求書及び本件不動産1を使用場所とする電気料金の領収証を提出する。
 しかし、当審判所の調査の結果によれば、養鶏用飼料の仕入先が発行した請求書のうち、内訳に「S農場」と記載されているものには、第4農場も含まれていることが認められる。
 また、請求人らが提出した電気料金の領収証は、平成12年から平成16年の各8月分のみであり、年間を通じた電気料金は不明である。
 そうすると、これらの請求書及び領収証のみでは、上記ロ及びハの認定を覆すに足る証拠とはいえず、他に上記認定を覆すに足る証拠も見当たらない。
 したがって、この点に関する請求人らの主張には理由がない。

(5) 本件各告知処分の適否について

イ 本件告知処分1について
(イ) 上記(4)のハのとおり、本件不動産1のうち、番号1ないし6の各土地が事業の用に供されていた期間は、平成15年9月1日から平成16年8月31日までであり、同番号7ないし12の各土地及び番号13の建物が事業の用に供されていた期間は、平成15年9月1日から平成16年3月31日までである。
(ロ) ところで、原処分庁は、本件各告知処分をするに当たり、本件不動産1、本件不動産2、本件不動産3及び本件不動産4をそれぞれ1単位とする不動産で生産され、N社に納入された原料鶏卵の数量を基に、本件滞納国税の金額をあん分し、各単位不動産から徴収できる金額を限度として本件各告知処分をしている。
 しかし、上記(2)のハのとおり、本件滞納法人は、鶏卵を取り扱う一体の事業を営んでいたものであり、本件各不動産ごとに別個の事業を営んでいたわけではないから、原処分庁が行ったあん分計算は相当でなく、請求人らは、本件滞納国税のうち、本件各不動産が事業の用に供されていた期間に対応する滞納国税の全額について、本件各不動産を限度として徴収法第37条の第二次納税義務を負うと解すべきである。
(ハ) もっとも、上記(4)のイのとおり、重要財産が事業年度又は課税期間の中途において事業の用に供された場合、当該財産が実際に事業の用に供されていた期間に対応する国税の額に限り、第二次納税義務を負うと解するのが相当であり、この場合、当該財産が事業の用に供されていた期間に対応する国税の額は、当該期間における法人税の課税標準額又は消費税の額に応じてあん分計算をすることとされているが(国税徴収法施行令第12条第1項及び第3項)、本件では、上記(2)のイの(ロ)のAのとおり、本件滞納法人が商業帳簿を作成していなかったため、これらの実額を把握することができず、また、証拠上、本件各不動産が事業の用に供された日を特定することもできない。
 なお、上記(2)のイの(ロ)のDのとおり、本件滞納法人からN社への原料鶏卵の納入量と、V社への液卵の販売量とが必ずしも一致していなかったことからすると、原処分庁があん分計算の根拠とした原料鶏卵の納入数量を用いることにも合理性があるとは言い難い。
 そこで、本件においては、本件不動産1が、少なくとも上記(4)のハの期間事業の用に供されていたと認められること、本件滞納法人の行っていた事業が養鶏業等であり、月によって売上げが大きく変動していたと認めるに足る証拠がないことなどに照らし、本件不動産1が確実に事業の用に供されていたと認められる月数に応じて、あん分計算をする方法により、当該期間に対応する国税の額を算出するのが相当であると解する。
(ニ) 以上によれば、本件不動産1のうち、番号1ないし6の各不動産及び同7ないし13の各不動産が供されていた期間に対応する滞納国税の額は、それぞれ、別表3−2の(1)及び(2)の「徴収可能な限度額」欄のとおりとなる。
 そうすると、本件告知処分1のうち、別紙2記載の部分は、上記(1)のニの「当該財産の供されている事業に係る国税」に該当せず、第二次納税義務の要件を満たさないから、取り消すのが相当である。
ロ 本件告知処分2ないし4について
 本件不動産2ないし4が事業に供されていた期間に争いはなく、第二次納税義務の成立要件をいずれも満たしている。
 なお、原処分庁の行ったあん分計算が相当でないことは、上記イの(ロ)のとおりである。
 したがって、本件不動産2ないし4から徴収することができる国税の額は、事業の用に供されていた期間に対応する滞納国税の全額であり、別表4−2、5−2及び6−2の「徴収可能な限度額」欄のとおりとなるところ、これらはいずれも本件告知処分2(別表4−1)、3(別表5−1)及び4(別表6−1)の国税の金額を超えているから、本件告知処分2ないし4はいずれも適法である。

(6) 本件各督促処分及び本件各差押処分の適否について

イ 本件各督促処分の適否について
 督促は、滞納処分の前提となるものであり、督促を受けたときは、納税者は、一定の日までに督促に係る国税を完納しなければ滞納処分を受ける地位に立たされることから、不服申立ての対象となる処分に当たると解される。
 そして、督促処分に係る国税の金額の一部が、督促処分よりも前に納付等により消滅していた場合や、督促処分後の課税処分の取消し又は納付等によって消滅した場合であっても、当該国税が完納されない限り、納税者が滞納処分を受ける地位に立たされていることに何ら変わりはないから、督促処分に係る国税の金額の一部の消滅は、督促処分自体の効力には影響しないと解すべきである。
 そうすると、本件督促処分1については、上記(5)のイのとおり、その前提となる本件告知処分1の一部を取り消すことになるが、残余の国税が有効に存在しているから、本件督促処分1を取り消す理由はなく、同処分は適法である。
 なお、本件督促処分2ないし4が適法であることはいうまでもない。
ロ 本件各差押処分の適否について
 差押処分についても、その効果は、当該処分時において、当該処分に係る国税が完納となっていない限り存続すると解すべきところ、本件においては、本件告知処分1の金額の一部が取り消されたにすぎず、本件差押処分1を取り消す理由はないから、同処分は適法である。
 なお、本件差押処分2ないし4が適法であることはいうまでもない。
ハ 請求人らの主張について
 請求人らは、本件各告知処分が違法であるから本件各督促処分及び本件各差押処分も違法である旨主張するが、本件告知処分2ないし4には違法事由はないから、請求人らの主張は前提を欠き、また、本件告知処分1の一部の取消しが本件督促処分1並びに本件差押処分1に与える影響については上記イ及びロのとおりであるから、請求人らの主張には理由がない。

(7) その他

 原処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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