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(平21.11.10、裁決事例集No.78 536頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、宗教法人である審査請求人(以下「請求人」という。)の滞納国税を徴収するため、不動産の差押処分を行ったのに対し、請求人が、当該不動産は、宗教法人法第3条に規定する境内地であり、同法第83条の規定により差し押さえることのできない不動産であるとして、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、平成21年1月19日付で、別表1の請求人の滞納国税(以下「本件滞納国税」という。)を徴収するため、別表2の各土地(以下「本件各土地」という。)を差し押さえた。
ロ 請求人は、平成21年2月23日に差押処分(以下、本件各土地の差押処分を「本件差押処分」という。)に不服があるとして異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年3月4日付で棄却の異議決定をした。
ハ 請求人は、平成21年3月30日に異議決定を経た後の原処分に不服があるとして審査請求をした。

(3) 関係法令

 別紙記載のとおりである。

(4) 基礎事実

イ 請求人は、平成13年12月10日に本件各土地を取得し、その後当該土地上に「○○会館」と称する建物(以下「本件建物」という。)を建築し、主に葬儀式場及び法要会場等として使用している。
ロ A税務署長は、請求人が本件滞納国税を完納しなかったことから、平成20年8月8日付で、督促状を送付しその納付を督促した。
ハ 原処分庁は、通則法第43条第3項の規定に基づき、平成20年8月18日付でA税務署長から本件滞納国税について徴収の引継ぎを受けた。
ニ 原処分庁は、平成21年1月19日付で、本件差押処分を行った。
ホ 本件各土地は、本件建物の敷地又は駐車場であり本件建物と一体で使用されている。
ヘ B県知事は、平成14年4月2日付で本件各土地について、宗教法人である請求人が専らその本来の用に供する宗教法人法第3条に規定する境内地(境内駐車場)であることを証明し、また、本件建物についても、平成21年4月28日付で、同様に境内地(境内建物)であることを証明した。

(5) 争点

 本件差押処分は適法か否か。

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2 主張

(1) 原処分庁

 本件各土地は、宗教法人法第3条に規定する境内地であるとしても、徴収法第75条から同法第78条《条件付差押禁止財産》に規定する差押禁止財産のいずれにも該当しない。
 宗教法人法第83条は、礼拝の用に供する建物及びその敷地である旨の登記をした不動産について、その登記後に原因を生じた私法上の金銭債権に基づく差押えを禁止する規定であるところ、本件差押処分に係る国税は、私法上の金銭債権には当たらないから、同条の差押禁止の規定は適用されない。
 したがって、本件差押処分は適法である。

(2) 請求人

 本件建物は、B県知事も証明しているとおり、宗教法人である請求人が専らその本来の用に供する宗教法人法第3条に規定する境内地(境内建物)であり、請求人が宗教活動を行う上で要の施設であるところ、本件各土地は本件建物の敷地又は駐車場として一体で使用されている。
 なお、B県知事は本件各土地についても境内地(境内駐車場)であることを証明している。
 このように、本件各土地は、宗教法人法第83条に規定する宗教法人の所有に係る礼拝の用に供する建物の敷地であるから、差し押さえることができないものであるところ、本件各土地にした本件差押処分は違法である。

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3 判断

(1) 法令解釈

 徴収法第75条第1項第7号は、仏像、位牌その他礼拝又は祭祀に直接供するため欠くことができない物は差し押さえることができない旨規定しているが、これは、一般の信教を尊重し、もって精神生活の安寧を保護するところにあると解される。
 ところで、礼拝又は祭祀に直接供するため欠くことができない物とは、仏像、位牌、神体、仏具、神具等で現に信仰又は礼拝の対象となっているもの及びこれに必要なものと解されるところ、寺院の本堂、庫裏、神社の拝殿、社務所等は、礼拝又は祭祀に直接供するため欠くことができない物とは認められないから、徴収法第75条第1項第7号に規定する「その他礼拝又は祭祀に直接供するため欠くことができない物」には当たらないと解される。

(2) これを本件についてみると、本件各土地は、主に葬儀式場及び法要会場等として使用されている本件建物と一体として使用されていると認められるところ、たとえこれらが宗教法人法に規定する境内地に当たるとしても、仏像、位牌、神体、仏具、神具等で現に信仰又は礼拝の対象となっているものとは異なり、寺院の本堂、庫裏などと同様に、礼拝又は祭祀に直接供するため欠くことができない物とは認められないから、徴収法第75条第1項第7号に規定する「その他礼拝又は祭祀に直接供するため欠くことができない物」には当たらず、また、その他の差押禁止財産にも当たらない。
 なお、請求人は、本件各土地は、宗教法人法第83条に規定する宗教法人の所有に係るその礼拝の用に供する建物及びその敷地に当たるから差し押さえることができないなどとも主張するが、同法は私法上の金銭債権に関する規定であるところ、国税債権は私法上の金銭債権ではないから、同法の規定は、本件差押処分には適用されない。
 したがって、この点に関する請求人の主張は、採用できない。

(3) 以上のとおり、原処分には、争点についてこれを取り消すべき理由はない。
 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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