(平22.4.1、裁決事例集No.79)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、平成15年分の贈与税の申告書は請求人の意思に基づき提出されたものではないことなどから、贈与税の申告は無効であるとして、また、平成18年5月○日相続開始に係る相続税の期限後申告書については、請求人は関知していないことなどから、相続税の期限後申告も無効であるとして、贈与税及び相続税の更正の請求をしたところ、原処分庁が、更正の請求の期限を経過していることを理由にいずれも更正をすべき理由がない旨の通知処分を行ったことに対し、請求人が、違法を理由に原処分の全部の取消しを求めた事案であり、争点は、いずれも1申告の無効を理由に更正の請求ができるか否か、2各更正の請求は法定の期限内にされたものか否か、3申告書の提出を知ったことが相続税法第32条第2号に該当するか否か及び4審査請求において国税通則法第24条に基づき原処分庁に減額更正を求めることができるか否かである。

(2) 審査請求に至る経緯及び基礎事実

 次の事実については、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 贈与税の申告
 平成15年分の贈与税の法定申告期限内の平成16年2月27日に、請求人の実印による押印がされた請求人名義の平成15年分の贈与税の申告書(以下「本件贈与税申告書」という。)が、原処分庁に提出された。
 本件贈与税申告書には、請求人の父であるFから○○○○円の贈与を受けた旨の記載があり、当該贈与を受けた財産について、相続税法第21条の9《相続時精算課税の選択》第3項の規定により同法第21条の10《相続時精算課税に係る贈与税の課税価格》の規定に従って贈与税の課税価格が計算されている。
 なお、本件贈与税申告書の提出日には、請求人の実印による押印がされた相続時精算課税選択届出書等の相続税法第21条の9第2項に定める書類も提出されている。 
ロ 相続税の申告
(イ) 請求人(昭和○年○月○日生まれ)は、平成18年5月○日に死亡したF(以下「被相続人」といい、同人の死亡により開始した相続を、以下「本件相続」という。)の二女であり、被相続人の配偶者であるG、長女H、長男J及び次男Kとともに被相続人の共同相続人である。 
(ロ) 請求人は、平成18年7月24日に、L家庭裁判所M支部に相続放棄の申述をし、受理された。 
(ハ) 請求人は、本件相続に係る相続税の法定申告期限の平成19年3月○日までに、本件相続に係る相続税の申告書を提出しなかった。
(ニ) 平成20年11月17日に、相続税の修正申告書の用紙に次の印字等(「」内が印字部分である。)があり、相続時精算課税適用財産を課税価格に算入する旨記載され、請求人の実印による押印がされた本件相続に係る相続税の申告書(以下「本件期限後申告書」といい、本件贈与税申告書と併せて「本件各申告書」という。)が、原処分庁に提出された。 
 なお、本件期限後申告書の「作成税理士の事務所所在地・署名押印・電話番号」欄には、N税理士の氏名の印字、押印及び電話番号の記載がある。
A 氏名欄 「P野○子」
B 生年月日欄 「昭○」年「○」月「○」日(年齢「○」歳)
C 被相続人との続柄欄 「二女」
D 取得原因欄には、取得原因が相続、相続時精算課税に係る贈与である旨表示されている。
E 修正前の課税額欄の相続時精算課税適用財産の価額は「○○○○」円、修正申告額欄の相続時精算課税適用財産の価額は「○○○○」円である。
ハ 請求人は、平成21年2月6日に、平成15年分の贈与税の更正の請求(以下「本件贈与税の更正請求」という。)及び本件相続に係る相続税の更正の請求(以下「本件相続税の更正請求」という。)をした。 
ニ 原処分庁は、平成21年3月27日付で、上記ハの各更正の請求に対して、それぞれ更正をすべき理由がない旨の通知処分をした(以下、それぞれの通知処分を「本件贈与税に係る通知処分」及び「本件相続税に係る通知処分」という。)。 
ホ 請求人は、上記ニの各通知処分を不服として、平成21年4月8日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年6月5日付で、いずれも棄却の異議決定をした。 
ヘ 請求人は、異議決定を経た後の各通知処分に不服があるとして、平成21年6月24日にそれぞれ審査請求をした。そこで、これらの審査請求について併合審理をする。

(3) 関係法令

 関係法令は、別紙のとおりである。

2 本件贈与税に係る通知処分

(1) 主張

請求人 原処分庁
イ 本件贈与税申告書は、請求人が提出したものではなく、被相続人から請求人に贈与があったと思い込んだ長男Jが勝手に請求人名義で申告をしたものである。証拠として提出している書類からも請求人に利得がなく贈与の事実がないことは明白であり、請求人が自分で贈与税の申告をするはずがないから、本件贈与税申告書による贈与税の申告は無効である。
 したがって、更正の請求を認めるべきである。 
イ 通則法第23条の規定上、申告の無効を理由に、更正の請求をすることはできないと解される。
ロ 平成15年中に、請求人が贈与を受けた事実がないことは明らかであるから、本件贈与税申告書には、通則法第23条第1項第1号に規定する課税標準等の計算に誤りがあることとなり、本件贈与税の更正請求は認められるべきである。 
 また、通則法第23条第1項が更正の請求ができる期限を法定申告期限から1年としたのは、法定申告期限が自己の申告が過大であったことを知り得る日であるからであり、請求人の場合は、更正の請求ができる期限を本件贈与税申告書の存在と課税の意味を知った日から1年と解すべきである。
 請求人が本件贈与税申告書の存在と課税の意味を知ったのは平成21年1月中旬である。 
 したがって、本件贈与税の更正請求は、当該知った日から1年を経過していないこととなる。
ロ 贈与の事実がないことは、通則法第23条第1項に規定する更正の請求の事由に該当する。
 そして、通則法第23条第1項は、同項に規定する事由による更正の請求は法定申告期限から1年以内に限りすることができる旨規定している。
 したがって、本件贈与税の更正請求は、平成15年分の贈与税の法定申告期限の平成16年3月15日から1年以内という更正の請求のできる期限を明らかに超えた平成21年2月6日になされているから、仮に贈与の事実がなかったとしても、更正の請求ができる期限後にされたものであり不適法である。
ハ また、請求人が本件各申告書の存在と課税の意味を知ったことは、相続放棄していた相続が回復したことに準じるものであり、申告書提出当時には予想できなかった後発的な減額事由として相続税法第32条に規定する更正の請求の事由に該当する。そして、本件贈与税の更正請求は、上記「知った」日から4か月以内であるから、相続税法第32条に規定する更正の請求に係る期限内に行われている。 ハ 本件贈与税の更正請求については、相続税法第32条に規定する事由があるとは認められない。
ニ 通則法第24条によれば、税務署長は、実体的な真実を解明すべきであって、申告の誤りを認識したときは、税額の過大、過少にかかわらず真実の税額に更正する義務を負っている。
 通則法第24条の趣旨は、同法第23条の更正の請求が認められないとしても、申告に客観的に明白かつ重大な誤りがある場合は、税務署長が、その職責において是正する必要があるとするものである。
 したがって、原処分庁が、贈与はなかったと判断した場合には、通則法第24条により減額更正すべきである。
ニ 本件は、本件贈与税の更正請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分の取消しを求めるものであるから、仮に通則法第23条の規定に該当しない場合であっても、同法第24条により減額更正すべきであるとの請求人の主張は、本件贈与税に係る通知処分の取消しを求める理由としては失当である。

(2) 判断

イ 法令解釈
(イ) 更正の請求について
 贈与税及び相続税の更正の請求については、国税に共通の更正の請求の規定である通則法第23条第1項及び第2項と、贈与税及び相続税に特有の更正の請求の規定として相続税法第32条が規定されており、それ以外には規定はない。
 そして、通則法第23条第1項によれば、同項第1号から第3号までの場合には、納税申告書に係る国税の法定申告期限から1年以内に限り、更正の請求をすることができる旨規定しているが、その趣旨とするところは、納税者が申告した後に、その申告内容の過誤を是正する必要の生ずる場合があることは否定できないが、あらゆる場合に自由にこれを認めることは申告により自己の税額を確定させる申告納税制度の性格に照らして適当といえないのみならず、納税義務の具体的内容を不安定ならしめ、行政を混乱に陥れる弊害もあるので、その過誤の是正は法律が特に認める場合に限るとしたものと解される。
 このような趣旨にかんがみると、通則法第23条第1項に規定する更正の請求ができる事由及び期間は、同項及び同項各号に規定する事由及び期間に限定されるものと解すべきであり、同様の趣旨が及ぶ同条第2項各号及び相続税法第32条各号に規定する事由及び期間についても同様に解すべきである。
(ロ) 通則法第24条の更正について 
 通則法第24条の規定は、別紙の5のとおりであるが、当該規定は、税務署長に職権により課税標準等又は税額等を変更する権能を与えるものであり、納税申告書を提出した者がこの規定に基づき更正処分を求める申請権を有するものではないと解される。 
ロ 判断
(イ) 請求人は、本件贈与税申告書による贈与税の申告は無効であるから、贈与税の更正の請求を認めるべきである旨主張する。
A しかしながら、通則法第23条第1項各号に規定する更正の請求が認められる事由は、別紙の1のとおり、いずれも当該申告書に記載した、課税標準等若しくは税額等(第1号)、純損失等の金額(第2号)及び還付金の額に相当する税額(第3号)の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったこととされており、当該申告書及びその申告自体が無効であることは更正の請求の事由とされていない。
B また、通則法第23条第2項各号に規定する事由も、別紙の2のとおり、その申告の基礎となった事実に関する訴えについての判決等により当該基礎となった事実が申告と異なることとなったこと等であり、いずれも、その申告自体が無効であることは更正の請求の事由とされていない。
C さらに、相続税又は贈与税の申告書を提出した者に係る更正の請求の特則である相続税法第32条に規定する更正の請求が認められる事由も、別紙の11のとおり、同条各号のいずれかに該当する場合であって、かつ、その申告に係る課税価格及び相続税額又は贈与税額が過大となったときとされており、その申告自体が無効であることは、更正の請求の事由とされていない。
D したがって、請求人が主張する「申告の無効」はこれら更正の請求の事由には該当しないので、「申告の無効」を事由とした更正の請求は不適法であり、請求人の主張は採用することができない。
(ロ) また、請求人は、平成15年中に贈与を受けたことがないことをも理由として、通則法第23条第1項第1号に基づき、本件贈与税の更正請求をするところ、同項が更正の請求のできる期限を法定申告期限から1年とした趣旨によれば、請求人が自己の申告が過大であったことを知った平成21年1月中旬から1年内である本件贈与税の更正請求は認められるべきである旨主張する。
 しかしながら、通則法第23条第1項は、更正の請求ができる期限を「法定申告期限から1年以内」と規定しており、同期限について限定的に解釈すべきことは、上記イの(イ)のとおりであり、これと異なる解釈は採用することができず、上記1の(2)のハのとおり、平成21年2月6日に行われた本件贈与税の更正請求は、平成15年分の贈与税の法定申告期限から1年を超えた後になされたことは明らかであるから、不適法である。
 したがって、請求人のこの点の主張も採用することができない。 
(ハ) さらに、請求人は、請求人が平成21年1月中旬に本件各申告書の提出があったことを知ったことは、同日に相続放棄していた相続が回復したことに準じるものであり、相続税法第32条の更正の請求事由に該当する旨主張するところ、同主張内容によれば、請求人は、相続放棄の取消しその他の事由により相続人に異動が生じた場合について定める同条第2号に該当する旨の主張をしているものと解される。
 しかしながら、そもそも相続税法第32条第2号は別紙の11の(2)のとおり、条文の内容から明らかなように相続税に関し納税者が課税価格及び税額の変更を求め得る規定であって、本件のように特定の贈与税額が当該相続税の計算の基礎とされていたとしても当該贈与税に関し、その課税価格及び税額自体の変更を求め得る規定とは到底解せないから、本件贈与税の更正請求を認める理由とはなり得ず、請求人の主張は採用することができない。 
(ニ) 加えて、請求人は、本件贈与税の更正請求が認められないとしても、原処分庁が贈与を受けた事実がないと認識した場合には、通則法第24条に規定する更正をすべきである旨主張する。
 しかしながら、通則法第75条の規定によれば、不服申立ては、国税に関する法律に基づく処分に対してすることができる旨規定されているのであって、法令の根拠なく処分を求める趣旨の不服申立てをすることはできないと解される。
 本件においては、上記(イ)ないし(ハ)のとおり、本件贈与税の更正請求が認められない以上、原処分庁は、通則法第23条第4項により更正をすべき理由がない旨の通知処分をするほかはないが、同法第75条によれば、請求人が不服申立てできるのは、当該通知処分である。
 一方、通則法第24条は、更正の請求とは別に、税務署長に課税標準等又は税額等を変更する権能を与えるものであり、納税申告書を提出した者に同条に基づく更正処分を求める申請権を与えるものではない。
 そうすると、本件贈与税に係る通知処分に対する不服申立てとは別に審査請求において通則法第24条に基づいて更正処分を求める請求人の主張は、そもそも請求人にはこのような申請権がない上、国税に関する法令に基づく処分がないにもかかわらず、不服申立てをしていることにほかならず、同法第75条の規定に基づかない不適法なものであるから、採用することができない。 
(ホ) まとめ
 以上のとおり、本件贈与税に係る通知処分には取り消すべき違法はない。

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3 本件相続税に係る通知処分

(1) 主張

請求人 原処分庁
イ 本件期限後申告書については、請求人はその内容を知らず長男Jが勝手に提出したものであるから、本件期限後申告書による申告は無効である。
 また、本件期限後申告書の名前や年齢が請求人とは異なるなど明白かつ重大な誤りがあることからも申告は無効である。
 なお、請求人は、相続税の申告に関して、N税理士に税務手続の委任をしたことはない。 
 さらに、本件贈与税申告書による贈与税の申告は無効であり、その申告の内容を基礎とした本件期限後申告書による申告もまた無効であるというべきである。 
 よって、本件相続税の更正請求は認められるべきである。 
イ 本件相続税の更正請求には理由がない。
 上記2の(1)の「原処分庁」欄において主張したことに加え、本件期限後申告書の名前は請求人の氏名と一文字だけ異なるだけであり、印影は○○(請求人名字)となっており、生年月日及び年齢(相続開始日時点)は請求人と一致すること、被相続人に係る相続人にP野○子なる人物は存在しないこと、本件贈与税申告書に記載された相続時精算課税適用財産の価額が記載されていることなどから請求人の申告書であることは明らかであり、請求人の期限後申告書として有効なものである。
 なお、氏名欄の氏名の印字は、平成20年11月20日に、N税理士により請求人氏名に訂正されている。
ロ 上記2の(1)の「請求人」欄のロのとおり、通則法第23条第1項が更正の請求ができる期限を法定申告期限から1年とした趣旨によれば、請求人の場合は、更正の請求ができる期限を本件期限後申告書の存在と課税の意味を知った平成21年1月中旬から1年と解すべきである。
 したがって、本件相続税の更正請求は当該知った日から1年を経過しない期間にされている。
ロ 仮に本件贈与税申告書による贈与税の申告が無効であったとしても、そのことは、本件相続に係る相続税の申告においては、通則法第23条第1項に規定する更正の請求の事由となるにすぎず、本件相続税の更正請求は、同条同項に規定する更正の請求ができる期限(法定申告期限である平成19年3月○日から1年以内)を経過した後の平成21年2月6日にされているから不適法である。
ハ また、上記2の(1)の「請求人」欄のハのとおり、本件各申告書の提出があり、その課税の意味を知ったということは、相続放棄していた相続が回復したことに準じるものであり、相続税法第32条の更正の請求事由に該当するところ、本件相続税の更正請求は、上記「知った」日から4か月以内になされており、同条の規定による更正の請求ができる期限内にされている。 ハ 本件相続税の更正請求については、相続税法第32条に規定する事由があるとも認められない。
ニ 上記2の(1)の「請求人」欄のニのとおり、通則法第24条の趣旨によれば、同法第23条の更正の請求が認められないとしても、申告に客観的に明白かつ重大な誤りがある場合は、税務署長がその職責において是正する必要があるから、原処分庁は贈与はなかったと判断した場合には、同法第24条により減額更正すべきである。 ニ 本件は、本件相続税の更正請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分の取消しを求めるものであるから、仮に、通則法第23条の更正の請求の規定に該当しない場合であっても、同法第24条により減額更正すべきであるとの請求人の主張は、本件相続税に係る通知処分の取消しを求める理由としては失当である。

(2) 判断

イ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件相続に係る共同相続人には、P野○子という名前の人物は存在しない。
(ロ) 本件期限後申告書は、長男J及びKの本件相続に係る相続税の修正申告書と一体の書類として提出されたものである。
(ハ) 本件期限後申告書に記載された上記1の(2)のロの(ニ)のBの年齢の○歳は、上記1の(2)のロの(イ)の請求人の誕生日(昭和○年○月○日生まれ)から計算した本件相続の相続開始時点の請求人の年齢○歳と一致する。
(ニ) また、本件期限後申告書の相続時精算課税適用財産の価額欄には、上記1の(2)のロの(ニ)のEのとおり○○○○円の記載があるが、純資産価額に加算される取得財産の価額欄、債務及び葬式費用の金額欄並びに暦年課税分の贈与財産価額欄には、数値等の記載がない。
(ホ) 本件期限後申告書の氏名欄の印字の「野」は、二重線で抹消され、その上部に手書きで「○(請求人名字の一部)」が記入されている。
ロ 判断
(イ) 請求人は、本件期限後申告書による申告は無効であり、本件相続税の更正請求を認めるべきである旨主張する。
 しかしながら、上記2の(2)のロの(イ)で説示したとおり、その申告の無効は通則法第23条第1項及び第2項の各号並びに相続税法第32条各号に規定する更正の請求の事由には該当しないので、「申告の無効」を事由とした更正の請求は不適法である。
 なお、本件期限後申告書の氏名欄「P野○子」の記載は、上記1の(2)のロの(ニ)のAのとおり印字されたものであって署名ではなく、また、上記1の(2)のロの(ニ)のとおり同欄には請求人の実印による押印がなされていること、上記イの(ハ)のとおり、本件期限後申告書に記載された年齢も相続開始時における年齢として誤りはなく、上記イの事実からしても、本件期限後申告書が請求人の本件相続に係る相続税の期限後申告書として整合性を有するものであることからすると、上記1の(2)のロの(ニ)のとおり、本件期限後申告書に「P野○子」の印字があったこと等を考慮しても、そもそも本件期限後申告書にそれを無効とすべきような明白かつ重大な誤りがあることを認めるに足りない。
(ロ) また、請求人は、通則法第23条第1項が更正の請求ができる期限を法定申告期限から1年とした趣旨からすれば、請求人が本件期限後申告書の存在と課税の意味を知った平成21年1月中旬から1年以内である本件相続税の更正請求は認められるべきである旨主張する。
 この点について、請求人は、通則法第23条第1項各号に当たるとする具体的な事由を明確に主張しないところ、この点をおくとしても、上記2の(2)のロの(ロ)のとおり、「法定申告期限から1年以内」の解釈については厳格にすべきであるから、これと異なる解釈は採用することができず、上記1の(2)のロの(ハ)及び同ハのとおり、平成21年2月6日になされた本件相続税の更正請求は、同項所定の更正の請求ができる期限(法定申告期限である平成19年3月○日から1年以内)が経過した後になされており不適法となる。
 したがって、請求人のこの点の主張は採用することができない。
(ハ) さらに、請求人は、請求人が平成21年1月中旬に本件各申告書の提出があったこと等を知ったことは、同日に相続放棄していた相続が回復したことに準じるものであり、相続税法第32条の更正の請求事由に該当する旨主張するところ、同主張内容によれば、請求人は、相続放棄の取消しその他の事由により相続人に異動が生じた場合について定める同条第2号に該当する旨の主張をしているものと解される。
 しかしながら、本件各申告書の存在等を知ったことは、それによって本件相続に係る相続人の数に異動が生じるものではないから相続税法第32条第2号に規定する事由に該当せず、同号に規定する事由に準じて取り扱うことも、上記2の(2)のイの(イ)に照らし、許されないと解すべきである。
 ちなみに、別紙の10に示したとおり、請求人の場合のように、相続時精算課税適用者について、特定贈与者の相続の際には、相続又は遺贈による財産を取得しない場合があることは、そもそも相続税法の予定しているところである。
 なお、請求人が本件期限後申告書による申告について主張する事情を最大限善解しても、相続税法第32条の、第2号以外の各号に該当する事由は見当たらない。
 したがって、請求人のこの点の主張も採用することができない。
(ニ) 加えて、請求人は、更正の請求が認められないとしても、原処分庁は、請求人が贈与を受けた事実がないと判断した場合には、通則法第24条に規定する更正をすべきである旨主張する。
 しかしながら、当該主張が不適法なものであることは、上記2の(2)のロの(ニ)のとおりである。
 したがって、請求人のこの点の主張も採用することができない。
(ホ) まとめ
 以上のとおり、本件相続税に係る通知処分には取り消すべき違法はない。
 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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