(平22.1.7、裁決事例集No.79)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、消費税課税事業者選択届出書を提出しないまま消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の還付申告を行い、その後、同届出書を提出できなかったことについて「やむを得ない事情」があるとして特例承認申請をしたところ、原処分庁が、請求人のいう事情は「やむを得ない事情」に当たらないとして当該特例承認申請の却下通知処分を行うとともに、更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行ったことから、請求人がその全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成20年12月1日に、平成19年10月1日から平成20年9月30日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)に係る消費税等について、別表の「確定申告」欄のとおり記載した確定申告書(以下「本件還付申告書」という。)を原処分庁に提出した。
ロ 請求人は、本件課税期間の初日の前日までに課税事業者選択届出書を原処分庁に提出していない。
ハ 請求人は、平成20年12月25日に、「平成20年度『消費税課税事業者届出書』提出漏れに係る受理のお願い」と題する書面(以下、この書面を「本件申請書」という。)を原処分庁に提出した。
ニ 原処分庁は、本件申請書を消費税法施行令第20条の2第3項の規定に基づく承認の申請(以下「課税事業者選択届出特例承認申請」という。)に係る申請書として取り扱い、平成21年1月27日付で、課税事業者選択届出特例承認申請の却下通知処分(以下「本件却下通知処分」という。)をした。
ホ 請求人は、平成21年3月9日付で、本件却下通知処分を不服として異議申立てをした。
ヘ 原処分庁は、平成21年3月13日付で、別表の「更正処分等」欄記載のとおり、本件課税期間の消費税等に係る更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下、本件更正処分と併せて「本件更正処分等」という。)をした。
ト 請求人は、平成21年4月14日付で、本件更正処分等を不服として異議申立てをしたところ、異議審理庁は、本件却下通知処分及び本件更正処分等に係る異議申立てについて、いずれも同年6月2日付で棄却の異議決定をした。
チ 請求人は、平成21年6月22日に、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、審査請求をした。

(3) 関係法令等

 別紙記載のとおりである。

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(4) 基礎事実

イ 請求人は、資本金の額を1,000万円として平成18年5月○日に設立された法人であり、請求人が同年6月6日に原処分庁に提出した法人設立届出書の「事業年度」欄には「(自)10月1日、(至)9月30日」と記載されている。
ロ 請求人は、平成18年5月○日から平成18年9月30日までの課税期間(以下「設立第1期」という。)及び平成18年10月1日から平成19年9月30日までの課税期間(以下「設立第2期」という。)においては、資本金の額が1,000万円以上であり、いずれも基準期間がない法人であったため、消費税法第12条の2の規定に基づき、課税事業者として各課税期間の消費税等についての還付請求申告書を原処分庁に提出した。
ハ 請求人の本件課税期間の基準期間における課税売上高は、1,000万円以下であった。
ニ 本件申請書には、課税事業者選択届出書を提出しないまま本件還付申告書を提出したことにつき、「原因は当社の知識不足であり、『消費税課税事業者届出書』提出を行う手続き漏れであります。」と記載されている。

(5) 争点

イ 本件課税期間の初日の前日までに課税事業者選択届出書を提出できなかったことにつき、消費税法第9条第8項に規定する「やむを得ない事情」があるか否か。
ロ 本件却下通知処分に係る異議申立ての係属中に本件更正処分を行ったことは違法か否か。

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2 主張

(1) 争点イについて

イ 請求人
 次のとおり、請求人には、課税事業者選択届出書を提出できなかったことにつき、やむを得ない事情がある。
(イ) 請求人は、設立第1期及び設立第2期の消費税等の確定申告書を提出していたことから、請求人の知識不足により、本件課税期間についても課税事業者であると思い込んでいたため、課税事業者選択届出書を提出することができなかったものではあるものの、本件課税期間において事前に課税事業者選択届出書を提出しなければならないことについて原処分庁から当然指導がなされるべきであるにもかかわらず、その指導がなされなかったために提出することができなかったものであり、やむを得ない事情がある。
(ロ) そして、法人が前年に準じて継続的に申告の処理をするのは常識的であるところ、請求人は設立第1期及び設立第2期の申告手続を継続して本件課税期間の申告をしたのであり、資本金1,000万円以上の法人は設立第2期までは課税事業者として取り扱われるという規定の趣旨に照らし、請求人が課税事業者選択届出書を提出できなかった上記事情を酌んで、課税事業者として承認されるべきである。
ロ 原処分庁
 次のとおり、請求人には、課税事業者選択届出書の提出がなかったことにつき、やむを得ない事情はない。
(イ) 課税事業者選択届出書を本件課税期間の初日の前日までに提出できなかったのは、請求人の知識不足が原因と認められるところ、請求人の知識不足は消費税法第9条第8項に規定するやむを得ない事情に当たらない。
(ロ) 請求人は、課税事業者選択届出書の提出について、行政機関として指導を行うべきである旨主張するが、申告納税制度の下における税の申告等は、納税者自らの判断と責任においてなされるべきものであり、請求人の主張には理由がない。

(2) 争点ロについて

イ 原処分庁
 請求人は、本件課税期間においては免税事業者であると認められ、本件更正処分が行われた平成21年3月13日までに課税事業者選択届出特例承認申請に係る承認を受けた事実はないのであるから、本件更正処分が本件却下通知処分に係る異議申立ての係属中に行われたとしても、これを違法とする理由はない。
ロ 請求人
 請求人は、平成21年3月9日付で、A税務署長に対し異議申立てを行い、当該異議申立てが係属中であり、その結論も出ないうちに行われた本件更正処分は、国家権力の行使として行き過ぎであり、違法である。
 また、仮に、本件却下通知処分が取り消されないのであれば、請求人は免税事業者であることになるから、申告そのものが認められないはずであり、本件更正処分がされること自体が誤りである。

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3 判断

(1) 争点イについて

イ 消費税法第9条第8項に規定する「やむを得ない事情」とは、災害又はそれに準ずるような自己の責めに帰することのできない客観的事情があり、課税期間開始前に課税事業者選択届出書を提出できない場合をいうものと解するのが相当である。
ロ これを本件についてみると、請求人は、その知識不足から設立第1期及び設立第2期に引き続き本件課税期間についても課税事業者であると思い込んでおり、原処分庁から課税事業者選択届出書の提出について当然なされるべき指導がなかったために提出することができなかった旨主張するが、請求人の知識不足により課税事業者選択届出書を提出できなかったという事情は、災害又はそれに準ずるような自己の責めに帰することのできない客観的事情には当たらない。
 また、原処分庁から課税事業者選択届出書の提出について当然なされるべき指導がなされなかったという点についてみても、そもそも申告納税制度の下では、課税事業者選択届出書の提出は、請求人自らの判断と責任において行うべきものであるところ、請求人に対する積極的な指導がなかったからといって、それが災害又はそれに準ずるような自己の責めに帰することのできない客観的事情に当たるということはできないから、請求人に消費税法第9条第8項に規定する「やむを得ない事情」があったとは認められない。
ハ さらに、請求人は、設立第1期及び設立第2期の申告手続を継続して本件課税期間の申告をしたのであり、資本金1,000万円以上の法人は設立第2期までは課税事業者として取り扱われるという規定の趣旨に照らし、課税事業者として承認されるべきである旨主張するが、設立第1期及び設立第2期に継続して本件課税期間の申告をしたからといって、課税事業者選択届出書の提出がされておらず、上記ロのとおり、請求人の主張する事情が「やむを得ない事情」に当たらない以上、原則どおり消費税法第9条第1項が適用され、請求人は本件課税期間において免税事業者となるのであるから、請求人の主張は採用できない。

(2) 争点ロについて

イ 請求人は、本件却下通知処分に係る異議申立てが係属中であるにもかかわらず、本件更正処分を行ったことは違法である旨主張する。
 しかしながら、通則法第105条第1項は、国税に関する法律に基づく処分に対する不服申立ては、その目的となった処分の効力、処分の執行又は手続の続行を妨げない旨規定しており、国税に関する法律に基づく処分の取消しを求める不服申立てがあっても正当な権限に基づく取消しがない以上有効な行為としてその効力を否定することはできないとされているところ、これを本件についてみると、本件更正処分が行われた平成21年3月13日までに本件却下通知処分が取り消された事実はない上、上記(1)のとおり、これを取り消すべき理由もないのであるから、原処分庁が本件更正処分を行ったことに何ら違法はないというべきである。
ロ また、請求人は、本件却下通知処分が取り消されないのであれば、請求人は免税事業者であることになるから、申告そのものが認められないはずであり、本件更正処分がされること自体が誤りである旨主張する。
 しかしながら、通則法第24条は、納税申告書(還付金の還付を受けるための申告書を含む。以下同じ。)の提出があった場合において、その納税申告書に記載された課税標準等又は税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったときは、当該申告書に係る課税標準等又は税額等を更正する旨規定している。
 そして、免税事業者については、消費税法第30条第1項及び同法第52条第1項の規定の適用はなく、課税仕入れに係る消費税額を控除することはできないから、当該申告書に仕入れに係る消費税額の控除不足額の記載があっても、当該不足額に相当する消費税額の還付を受けることはできないところ、請求人が提出した本件還付申告書は、通則法第24条に規定する納税申告書に該当し、かつ、課税標準等又は税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったときに該当するものであるから、同条の規定に基づき、仕入れに係る消費税額の控除不足額がないものとしてされた本件更正処分は適法である。

(3) 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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