(平22.1.19、裁決事例集No.79)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について、原処分庁が無申告加算税の賦課決定処分を行ったことに対し、期限内申告書の提出をしなかったことについて国税通則法(以下「通則法」という。)第66条《無申告加算税》第1項ただし書にいう「正当な理由があると認められる場合」に該当するとして、同処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯等

 請求人は、平成19年1月1日から平成19年12月31日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税等に係る無申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)について、平成21年2月9日に審査請求をした。
 この審査請求に至る経緯等は、別表のとおりである。

(3) 関係法令の要旨

 通則法第66条第1項は、期限後申告書の提出があった場合には、当該納税者に対し、当該申告に基づき納付すべき税額に100分の15の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課する旨規定し、同項ただし書は、期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合は、無申告加算税を課さない旨規定している。

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(4) 基礎事実

イ 請求人は、平成19年1月○日に死亡した夫であるA(以下、Aを「被相続人」といい、被相続人の死亡により開始した相続を「本件相続」という。)の事業を承継して飲食業を営む個人事業者である。
ロ 本件相続の開始に伴い、請求人は、平成19年5月22日に原処分庁へ赴き、被相続人に係る平成19年分の所得税の確定申告書(以下「本件準確定申告書」という。)及び被相続人の個人事業の廃業の届出書(以下「本件廃業届出書」という。)を提出するとともに、請求人の個人事業の開業の届出書(以下「本件開業届出書」という。)及び平成19年分以後の所得税の青色申告承認申請書(以下「本件青色申請書」という。)を同日、それぞれ提出した。
ハ 請求人は、原処分庁から本件課税期間に係る消費税の確定申告の必要がある旨を記載した平成20年8月18日付の「来署依頼について」と題する書面の送付を受け、同年8月27日に原処分庁へ赴き、被相続人の本件課税期間に係る消費税等の確定申告書を同日に提出し、また、請求人の本件課税期間に係る消費税等の確定申告書(以下「本件申告書」という。)を法定申告期限後の同年9月8日に提出した。

2 争点

 法定申告期限までに本件申告書の提出をしなかったことについて、通則法第66条第1項ただし書にいう「正当な理由があると認められる場合」に該当するか否か。

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3 主張

 当事者の主張は、別紙のとおりである。

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4 判断

(1) 通則法第66条に規定する無申告加算税は、申告納税方式による国税に関して、申告納税制度の秩序を維持し適正な申告の実現を確保することを目的として、適正に法定申告期限までに申告をした者とこれを怠った者との間に生じる不公平を是正するとともに、納税申告書を提出しないことによる申告義務違反の発生を防止する行政上の措置であり、法定申告期限までに申告をしなかったという客観的事実があれば、期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合を除いて一律に課されるものである。
 そして、通則法第66条第1項ただし書にいう「正当な理由があると認められる場合」とは、災害、交通・通信の途絶など、期限内に申告ができなかったことについて、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、無申告加算税の趣旨に照らしても、なお、納税者に無申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である。
(2) これを本件についてみると、次のとおりである。
イ 請求人は、本件申告書を法定申告期限までに提出しなかったのは、消費税等について、課税事業者として初めて本件課税期間の申告をしたもので、消費税等に係る申告義務等については知らなかったためであり、このことは通則法第66条第1項ただし書にいう「正当な理由があると認められる場合」に該当する旨主張する。
 しかしながら、上記(1)のとおり、無申告加算税は、法定申告期限までに申告をしなかったという客観的事実があれば、期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合を除いて一律に課されるものであり、期限内申告書の提出がなかった理由について納税者が税法を知らなかったことや誤解していたことに基づく場合など納税者自らの責任によるものは、正当な理由には当たらない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ また、請求人は、平成19年5月22日に原処分庁へ赴き、担当職員から本件開業届出書などを提出するよう指導を受け、それぞれ提出したが、その際、請求人の本件課税期間に係る消費税等の申告に関する説明は全くなかったのであるから、このことは通則法第66条第1項ただし書にいう「正当な理由があると認められる場合」に該当する旨主張する。
 しかしながら、当審判所の調査によると、請求人は、本件準確定申告書を提出するために原処分庁へ赴き、その際、担当職員から被相続人の事業承継者について質問されたので、請求人が事業を引き継ぐ旨回答したところ、担当職員から本件廃業届出書、本件開業届出書及び本件青色申請書を提出するよう指導を受けたものの、請求人の方から消費税等については何も相談しなかったことが認められる。
 そして、申告納税制度の下では、納税者の責任と判断において法定申告期限までに確定申告書を提出することが義務付けられているところ、本件においては、担当職員の説明が個人事業の開業届出書等の提出に関する説明・指導にとどまり、消費税等の申告に関する説明には及ばなかったとしても、請求人が消費税等について何も聞かなかったことからすると、担当職員が請求人に対し消費税等の説明をしなかったことをもって、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情がある場合に当たるとすることはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ハ さらに、請求人は、原処分庁が事前に消費税等の申告書用紙を送付すべきであったのにこれを行わなかったのであるから、このことは通則法第66条第1項ただし書にいう「正当な理由があると認められる場合」に該当する旨主張する。
 しかしながら、消費税法第45条《課税資産の譲渡等についての確定申告》及び租税特別措置法(平成19年法律第6号による改正前のもの。)第86条の6《個人事業者に係る消費税の課税資産の譲渡等についての確定申告期限の特例》において、事業者が税額等を記載した申告書を法定の期限までに税務署長に提出しなければならない旨規定するとおり、消費税は、税務署長からの通知、案内等の有無にかかわりなく、法定申告期限までに確定申告書を提出することが義務付けられているのであり、原処分庁による申告書用紙の送付は、国民の納税義務の適正かつ円滑な履行を確保するため、行政上任意的に行われる納税者に対するサービスの一環にすぎず、消費税法その他の関係法令の規定に基づくものではないから、申告書用紙の送付がなかったことをもって、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情がある場合に当たるとすることはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ニ 以上のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がなく、また、他に請求人が本件申告書を法定申告期限までに提出できなかったことについて、通則法第66条第1項ただし書にいう「正当な理由があると認められる場合」に該当する事情も認められないから、原処分庁が通則法第66条第1項及び地方税法附則第9条の9《譲渡割に係る延滞税等の計算の特例》第1項の規定により行った本件賦課決定処分は適法である。
(3) 原処分のその他の部分について請求人は争わず、当審判所の調査等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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