(平22.2.22、裁決事例集No.79)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)が納付すべき滞納国税を徴収するため、請求人が持分を有する土地についての公売公告処分をしたのに対し、請求人が、当該滞納国税の一部の徴収権は時効により消滅しているから、時効消滅した滞納国税を徴収するための当該公売公告処分は違法であるとして、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、平成20年12月10日付で、請求人が納付すべき別表1の滞納国税(以下「本件各滞納国税」という。)を徴収するため、別表2記載の土地(以下「本件公売財産」という。)を含む計5筆の土地についての請求人の持分を差し押さえた(以下、この差押処分を「平成20年差押処分」という。)。
ロ 原処分庁は、平成21年○月○日付で、本件各滞納国税を徴収するため、本件公売財産について、公売公告処分(以下「本件公売公告処分」という。)を行った。
 なお、本件公売公告処分は、原処分庁が、本件公売財産について、請求人の持分以外の持分を有する者が納付すべき滞納国税を徴収するため、当該持分も差し押さえていたことから、当該滞納国税と本件各滞納国税を併せて徴収するために行ったものである。
ハ 請求人は、平成21年6月22日に、本件公売公告処分を不服として異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年8月7日付で、棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、平成21年9月7日に、異議決定を経た後の本件公売公告処分に不服があるとして、審査請求をした。

(3) 関係法令

 別紙記載のとおりである。

(4) 基礎事実

イ C税務署長は、本件各滞納国税のうち、別表1の順号1の国税について、請求人の父であるDに対し、平成6年5月6日付で督促状を送付し、その納付を督促した。
ロ 請求人は、平成7年8月○日にDが死亡したことから、法定相続分に応じてDの上記イに係る滞納国税の納税義務を承継した。
ハ C税務署長は、本件各滞納国税のうち別表1の順号2から16の国税について、それぞれ、別表1の「督促年月日」欄記載の日付で請求人に対し督促状を送付し、その納付を督促した。
ニ 原処分庁は、本件各滞納国税のうち別表1の順号1から16の国税について、通則法第43条第3項の規定に基づき、平成8年1月25日から平成12年9月25日までの間に、滞納が発生した都度、C税務署長から徴収の引継ぎを受けた。
ホ 原処分庁は、平成10年6月18日付で、本件各滞納国税のうち別表1の順号1から9の国税(以下「本件滞納国税A」という。)を徴収するため、差押書を請求人に送達することにより、別表3記載の土地についての請求人の持分を差し押さえ(以下、この差押処分を「平成10年差押処分」という。)、E法務局F出張所にその旨の登記を嘱託し、翌19日付でその旨の登記が経由された。
へ 原処分庁は、平成14年10月22日付で、本件各滞納国税のうち別表1の順号10から16の国税(以下「本件滞納国税B」という。)を徴収するため、上記ホの平成10年差押処分の執行機関である原処分庁に対して参加差押書を交付することにより、参加差押処分(以下「平成14年参加差押処分」という。)を行うとともに、同日、参加差押通知書を請求人に送付した。
ト G税務署長は、本件各滞納国税のうち別表1の順号17の国税については平成20年5月16日付で、順号18の国税については平成20年7月25日付で、それぞれ請求人に対し督促状を送付し、その納付を督促した。
チ 原処分庁は、通則法第43条第3項の規定に基づき、本件各滞納国税のうち別表1の順号17の国税については平成20年6月18日付で、順号18の国税については平成20年8月18日付で、それぞれG税務署長から徴収の引継ぎを受けた。
リ 原処分庁は、平成20年12月10日付で、本件各滞納国税を徴収するため、請求人に対して差押書を送達することにより、平成20年差押処分を行い、E法務局F出張所にその旨の登記を嘱託し、翌11日付でその旨の登記が経由された。
ヌ 原処分庁は、平成21年4月23日付で、本件公売財産についての請求人の持分と滞納処分により差し押さえていた同持分以外の持分を併せて公売する旨の本件公売公告処分を行い、この「公売公告兼見積価額公告」には、要旨次の事項が記載されている。
(イ) 公売の日時 平成21年○月○日から平成21年○月○日まで
(ロ) 公売の場所 H国税局
(ハ) 公売の方法 期間入札
(ニ) 開札の日時及び場所 平成21年○月○日午前10時00分 H国税局
(ホ) 売却決定の日時及び場所 平成21年○月○日午前9時00分 H国税局
(ヘ) 買受代金の納付期限 平成21年○月○日午後2時00分
(ト) 公売財産の表示、公売保証金及び見積価額 別表4のとおり

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(5) 争点

 本件滞納国税A及び本件滞納国税Bの徴収権は時効により消滅しているか否か。

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2 主張

(1) 原処分庁

イ 前記1(4)イ、ハ及びトの督促は、通則法第73条第1項第4号に掲げる時効の中断事由である「督促」に該当するから、本件各滞納国税の徴収権の消滅時効は、別表1の「督促年月日」欄記載の日付の各督促状がそれぞれD又は請求人に送達された時に中断し、各督促状が発せられた日から起算して10日を経過した日の翌日から再び進行を開始したこととなる。
ロ 前記1(4)ホの平成10年差押処分は、通則法第72条第3項において準用する民法第147条第2号に掲げる時効の中断事由である「差押え」に該当するから、本件滞納国税Aに係る徴収権の消滅時効は、差押えの効力が生じた平成10年6月19日に中断し、その時効中断の効力は継続している。
ハ 前記1(4)ヘの平成14年参加差押処分は、通則法第73条第1項第5号に掲げる時効の中断事由である「交付要求」に該当するから、本件滞納国税Bに係る徴収権の消滅時効は、参加差押書が原処分庁に交付された平成14年10月22日に中断し、その時効中断の効力は継続している。
ニ 前記1(4)リの平成20年差押処分は、通則法第72条第3項において準用する民法第147条第2号に掲げる時効の中断事由である「差押え」に該当するから、本件各滞納国税のうち別表1の順号17及び18の国税に係る徴収権の消滅時効は、差押えの効力が生じた平成20年12月11日に中断し、その中断の効力は継続している。
ホ そうすると、本件各滞納国税の徴収権は、時効中断の効力が継続しているため、いまだ時効消滅していない。

(2) 請求人

イ 通則法第72条第1項の規定により、国税の徴収権は、5年間行使しないことによって、時効により消滅し、また、同条第3項によれば、国税の徴収権の時効については、別段の定めがあるものを除き、民法の規定を準用するとされている。
 そして、民法第147条には、時効の中断事由として差押えが規定され、さらに、民法第157条には、中断した時効は、その「中断の事由が終了した時」から新たにその進行を始める旨規定されているところ、差押えがされれば、いくら放置しても時効が進行しないというのであれば、甚だしく不当な結果になる上、差押権者による一方的な意思でなされる差押えは、比較的短期間で完了することからすれば、差押えにより時効が中断した場合において、「中断の事由が終了した時」とは、差押処分の手続自体の終了時である差押登記がなされた時と解すべきである。
 同様に、参加差押えにより時効が中断した場合の「中断の事由が終了した時」とは、参加差押書が執行機関である原処分庁に送達された時と解すべきである。
ロ これを本件についてみると、本件滞納国税A及び本件滞納国税Bについては、それぞれ平成10年差押処分による差押登記がされた平成10年6月19日及び平成14年参加差押処分による参加差押書が執行機関である原処分庁に送達された平成14年10月22日をもって、それぞれ時効中断事由が終了し、それぞれの日の翌日から新たな時効が進行した結果、それから5年後の平成15年6月20日及び平成19年10月23日に徴収権の消滅時効が完成している。
 よって、本件公売公告処分は、その基因となる平成20年差押処分に係る本件各滞納国税の中に、既に存在しない滞納国税を含む違法な処分である。

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3 判断

(1) 法令解釈

イ 差押処分の意義等について
 滞納処分とは、国税が納期限までに完納されないときに、国税債権を強制的に実現するための一連の手続であって、滞納者の財産をもって国税に充てることを目的とするものであるところ、国税債権が金銭債権であることから、その目的を達成するためには、滞納者の財産を換価し、その換価代金を国税に充てることが必要である。そして、この換価を前提として、滞納者の財産を保全するため、滞納者の特定の財産について、処分を禁止するのが差押処分であり、当該処分は納税者の意思にかかわりなく強制的に行われるものである。
ロ 換価の時期について
 徴収法第89条は、差押財産は、徴収法第5章第3節の定めるところにより換価しなければならない旨規定し、徴収法第94条は、差押財産を換価するときは、これを公売に付さなければならない旨規定しているところ、差押財産を公売に付すべき時期について規定している法令はないから、公売公告処分の時期については、国税の徴収に当たる所轄庁の合理的な裁量にゆだねられているものと解される。
ハ 国税の徴収権の消滅時効とその中断事由について
 通則法第72条第1項は、国税の徴収権は、その国税の法定納期限から5年間行使しないことによって、時効により消滅する旨規定し、同条第3項は、国税の徴収権の時効については、同法第7章第2節に別段の定めがあるものを除き、民法の規定を準用する旨規定している。そして、通則法第72条第3項にいう別段の定めとして、同法第73条第1項の規定が置かれている。これらの規定によれば、国税の徴収権の時効は、通則法第73条第1項各号掲記の事由又は同法第72条第3項において準用する民法第147条各号掲記の事由があった時に中断し、通則法第73条第1項各号に定める期間を経過した時(同項各号掲記の事由による時効中断の場合)又は時効中断の事由が終了した時(民法第147条各号掲記の事由による時効中断の場合。同法第157条第1項)から更に進行することとなる。
 そして、差押えにより国税の徴収権の時効が中断された場合、当該差押処分の効力が存続している間は、時効中断事由としての差押えが継続しているのであるから、差押えによる国税の徴収権の時効の「中断の事由が終了した時」とは、当該差押処分に係る財産の換価手続が終了した時又は差押えが解除された時をいうものと解するのが相当である。
 また、通則法第73条第1項第5号が規定する「その交付要求がされている期間」を経過した時とは、交付要求が先行する強制換価手続における換価代金から交付要求に係る国税への交付を求めるものであることからすれば、当該交付要求に係る強制換価手続において、配当手続が完了した時又は当該交付要求が解除された時をいうものと解するのが相当である。

(2) これを本件についてみると、次のとおりである。

イ 本件各滞納国税の徴収権の時効は、別表1の「納期限」欄記載の日の翌日から、それぞれ進行した。
ロ 次に、前記1(4)イ、ハ及びトのとおり、別表1の「督促年月日」欄記載の日にそれぞれ督促状が発送されているところ、督促は、通則法第73条第1項第4号に規定する時効の中断事由であるから、上記督促状がD又は請求人に送達されたときに本件各滞納国税の徴収権の消滅時効がそれぞれ中断し、別表1の「督促年月日」欄記載の日から起算して10日を経過した日の翌日から新たに時効が進行したことになる。
ハ そして、前記1(4)ホのとおり、平成10年6月18日付で、平成10年差押処分がされているところ、差押えは、民法第147条第2号に規定する時効の中断事由であるから、通則法第72条第3項の規定により、平成10年差押処分によって本件滞納国税Aの徴収権の時効は中断し、原処分関係資料によれば、平成10年差押処分に係る財産の換価手続は終了しておらず、また、平成10年差押処分が解除された事実も認められないことからすれば、平成10年差押処分の時効中断の効力は継続しているというべきである。したがって、本件滞納国税Aの徴収権の消滅時効は完成していないと認められる。
ニ さらに、前記1(4)ヘのとおり、平成14年10月22日付で、平成14年参加差押処分がされているところ、交付要求の一方法である参加差押えは、通則法第73条第1項第5号に規定する国税の徴収権の時効中断事由であるから、平成14年参加差押処分によって本件滞納国税Bの徴収権の時効は中断し、原処分関係資料によれば、その後、平成14年参加差押処分により交付要求を受けた先行の滞納処分である平成10年差押処分に係る財産の換価代金についての配当手続が完了した事実は認められず、また、平成14年参加差押処分が解除された事実も認められないことからすれば、平成14年参加差押処分の時効中断の効力は継続しているというべきである。したがって、本件滞納国税Bの徴収権の消滅時効は完成していないと認められる。
ホ 以上によれば、徴収権の消滅時効が完成していないことに争いのない別表1の順号17及び18の国税を含む本件各滞納国税の徴収権は、いずれも時効消滅していないから、本件公売公告処分が時効消滅した滞納国税を徴収する違法なものということはできない。

(3) 請求人の主張について

 請求人は、差押えがされれば、いくら放置しても時効が進行しないというのであれば、甚だしく不当な結果になる上、差押権者による一方的な意思でなされる差押えは、比較的短期間で完了するのであるから、差押えによる時効中断の事由が終了した時を差押処分の手続自体の終了時である差押登記がされた時と解すべきであると主張する。
 しかしながら、上記(1)ロのとおり、差押財産の換価の時期については、原処分庁の合理的な裁量にゆだねられていると解される上、大量かつ反復的に生じる滞納国税の徴収に当たり、画一的に差押え及び換価を実施することが必ずしも望ましいとはいえないこと、差押財産が有する様々な要因等から、差押財産を直ちに換価することが困難な場合もあること、差押財産を公売に付しても公売が成立しない場合もあること、滞納者は財産の差押えを受けたことによって国税の納付が禁止されるわけではなく、財産の差押えを受けた場合であっても早期に完納することが求められることからすれば、差押処分の効力が存続している間は時効が進行しないことをもって、甚だしく不当な結果を滞納者に招来するものであるということはできず、これを根拠に差押えによる時効中断の事由が終了した時を差押処分の手続自体の終了時である差押登記がされた時と解する請求人の主張は採用できない。
 また、請求人は、交付要求の一方法である参加差押えによる徴収権の時効中断についても、参加差押書が先行する滞納処分の執行機関に送達された時に中断の事由が終了すると解すべきである旨主張する。
 しかしながら、先行する滞納処分手続から配当を受けることを目的とする参加差押えがされた場合の徴収権の時効中断について、請求人のように解すると、参加差押書を送達してから先行する滞納処分手続による換価・配当までの期間が5年を超えると、参加差押えに係る滞納国税の徴収権は時効消滅してしまうことになり、先行する滞納処分手続が解除されるまでは自ら換価手続ができない参加差押権者に徴収実務上著しい弊害が生じることになるし、交付要求がされている期間中は新たな徴収権の消滅時効が進行を始めないとする通則法第73条第1項第5号の明文規定に反してまで請求人のように解する理由は見当たらず、請求人の主張は採用できない。

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(4) 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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