(平22.4.21、裁決事例集No.79)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)の所得税について、原処分庁が、請求人が収入金額の一部を事業所得の金額の計算上総収入金額に算入しなかったことは隠ぺい又は仮装の行為があったとして、重加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、隠ぺい又は仮装の行為をした事実はないとして、その全部の取消しを求め、また、請求人が、平成19年分の収入は事業所得ではなく給与所得に該当するとして、更正の請求をしたところ、原処分庁が、更正をすべき理由がない旨の通知処分を行ったことから、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 平成20年11月28日付でされた平成15年分、平成16年分、平成17年分、平成18年分及び平成19年分(以下、これらを併せて「本件各年分」という。)の所得税の重加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)についての審査請求(平成21年4月23日請求)並びに平成19年分の所得税の更正の請求に対して平成21年4月28日付でされた更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)についての審査請求(同年9月2日請求)に至る経緯及び内容は別表1のとおりである。
ロ 当審判所は、上記イの各審査請求について、国税通則法(以下「通則法」という。)第104条《併合審理等》第1項の規定を適用して併合審理する。

(3) 関係法令

イ 所得税法第27条《事業所得》第1項は、事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得をいう旨規定している。
ロ 所得税法第28条《給与所得》第1項は、給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る所得をいう旨規定している。
ハ 通則法第68条《重加算税》第1項は、同法第65条《過少申告加算税》第1項の規定に該当する場合(同条第5項の規定の適用がある場合を除く。)において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠ぺいし、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠ぺいし、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。

(4) 基礎事実

イ 請求人は、平成13年2月1日、F社を退職し、同月から、G社のH製鉄所h地区の構内の作業場所で、F社の業務に従事し、F社から収入を得ていた。
ロ 請求人は、上記イの収入について、別表2の「確定申告額」欄記載の各金額を本件各年分の事業所得の金額の計算上総収入金額に算入し、別表1の「確定申告(法定申告期限内)」欄のとおり、それぞれ確定申告した。
ハ 請求人は、平成20年9月2日からJ税務署所属の調査担当職員の調査を受け、同年10月17日に本件各年分の修正申告書を提出しているところ(以下、この調査を「本件調査」といい、本件調査の担当者を「本件調査担当者」という。)、同年9月2日、本件調査担当者に対し、次の書類を提示した。
(イ) 平成19年8月から同年12月までの各月別のカレンダー5枚
 各カレンダーの日付の横には、その日の請求人が作業した内容が手書で記載されている。
(ロ) F社からの収入金額が記載された書類
 レポート用紙に平成19年1月から同年12月までの月別の収入金額及びその合計金額(年間の収入金額)が手書で記載され、F社の会社名及び所在地のゴム印及び会社印が押印されている(以下、これらの内容が記載された書類を「本件収入内訳書」という。)。
ニ 請求人は、平成20年10月17日、本件調査担当者の指摘に基づき、F社からの収入について、別表2の「修正申告額」欄記載の各金額を本件各年分の事業所得の金額の計算上総収入金額に算入し、別表1の「修正申告(平成20年10月17日)」欄のとおり、それぞれ修正申告した。
ホ 請求人は、平成21年2月25日、原処分庁に平成19年分の所得税の更正の請求書を提出し、更正の請求の理由の基礎となる事実を証明する書類として、要旨次の内容が記載された労働条件通知書及び身分証明書の各写しを提出した。
(イ) 労働条件通知書
 平成20年3月31日付で、通知者をF社、被通知者を請求人として作成された書類で、別表3の番号Dの内容が記載されている。
(ロ) 身分証明書
 発行日を平成15年4月1日とする「当社の従業員であることを証明する。」と記載された証明書であり、ちょう付された請求人の顔写真にF社の会社印により割り印がされ、証明者としてF社の代表取締役の氏名が記載され、代表取締役個人の印が押印されている。
ヘ 請求人は、平成21年7月16日、本件通知処分に係る異議申立ての審理担当者に対し、F社からの収入が給与所得に該当することを証明する書類として、「作業日誌」(記載すべきすべての項目が空欄のもの)、「作業指示書」(「施工日」欄に「平成20年12月16日」、「指示指名系統」欄に「K(請求人)」などが印字されているもの)及び「安全作業・KYシート兼報告書」(「作業日時」欄に「平成20年12月16日」などが記載されているが、「作業者」欄は空欄となっているもの)と題する書類の各写しを提出した。

(5) 争点

争点1 本件調査の手続に、本件各賦課決定処分を取り消すべき違法事由があるか否か。
争点2 F社からの収入は、事業所得又は給与所得のいずれに該当するか。
争点3 請求人の行為に隠ぺい又は仮装があるか否か。

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2 主張

(1) 争点1(本件調査の手続に、本件各賦課決定処分を取り消すべき違法事由があるか否か。)

原処分庁 請求人
 請求人が申述した事項を記載した聴取書の内容は、本件調査担当者が確認した各事実とおおむね一致していることから、請求人は真実を述べているものと認められ、当該聴取書を作成する際に本件調査担当者が、請求人に対し、署名押印を強要した事実はないから、本件調査の手続には、本件各賦課決定処分を取り消すべき違法事由はない。  本件賦課決定処分は、本件調査担当者が作成した請求人の聴取書を証拠として行われたものであるが、当該聴取書は、請求人の精神状態が不安定で正確な判断ができない状態のなかで作成されたものであり、本件調査担当者から、署名押印を強要され、言われるがままに署名押印させられたものであるから、本件調査の手続には違法があり、これは、本件賦課決定処分の取消事由に該当する。

(2) 争点2(F社からの収入は、事業所得又は給与所得のいずれに該当するか。)

請求人 原処分庁
 請求人は、次のとおり、F社に雇用されているにすぎず、F社からの収入は給与所得に該当する。  請求人は、次のとおり、F社との請負契約に基づきF社から報酬を得ているから、F社からの収入は事業所得に該当する。
イ 工事等請負基本契約書は存するが、これはF社の都合上作成したもので、実際は、F社から身分証明書を交付されていることからも明らかなように、F社に雇われて労力のみを提供している。 イ 請求人は、F社との間で、工事等請負基本契約を真正に締結している。
ロ 請求人は、F社から作業指示書により作業の指示を受けるなど、F社の指揮命令の下で仕事をしている。 ロ 請求人は、F社から工事等の指示を受けているものの、請求人本人が工事等に係る進ちょく状況の管理及び安全管理を行っている。
ハ 請求人は、労働条件通知書により勤務時間が定められ、日々の業務において、安全確認に係る定時連絡を義務付けられており、仕事を休む場合には事前に申し出なければならないなど、F社から時間的な拘束を受けている。 ハ 請求人は、作業の従事時間について必ずしも拘束されておらず、休みについても制限されておらず、他社の仕事を行うことが許されている。
ニ 請求人の報酬は、労働条件通知書に定められているとおり、日当計算による給料であり、残業や休日出勤があれば手当が付く。
 なお、請求人は、F社に毎月請求書を提出しているが、これは、F社の担当者の指示により、F社が用意した請求書に所定事項を記載して提出しているだけである。
ニ 請求人は、工事等請負基本契約に従い、毎月末日締切で、請求書によりF社に請負代金を請求している。
ホ 材料や用具等はF社が提供しており、用具等に係る修理費もF社が負担している。  

(3) 争点3(請求人の行為に隠ぺい又は仮装があるか否か。)

原処分庁 請求人
 請求人は、F社との取引において、作業日報として、当日の作業内容をカレンダーに記載していながら、平成19年7月以前分について、これを破棄して保存していなかったことが認められる。
 このように、請求人が、本件各年分の事業所得の収入金額を計算する際に、正確な収入金額の計算がおおむね可能となる当該カレンダーを破棄し、意図的に真実の作業日数及び日当よりも少ない日数及び金額によって収入金額を計算して申告したことは、隠ぺい又は仮装に当たる。
 請求人は、本件調査担当者の要請に基づきカレンダーを提示するなど、本件調査に対して協力し、誠実に対応している。
 また、請求人は、月々の給料から交際費等に必要なお金を差し引いた後のものを妻に渡していたため、F社から受け取った給料の明細書を破って捨てているが、証拠を隠すとかの考えは全くなかった。
 このように、請求人は、F社との取引について仮装したり、取引に係る書類を隠ぺいしたりした事実はないから、隠ぺい又は仮装はない。

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3 判断

(1) 争点1(本件調査の手続に、本件各賦課決定処分を取り消すべき違法事由があるか否か。)

イ 法令解釈
 所得税法第234条《当該職員の質問検査権》第1項に規定する質問検査による税務調査は、租税実体法によって成立した抽象的な納税義務を具体的に確定するための事実行為であって、課税処分とは本来別個のものである。
 したがって、調査手続の違法は、それが刑罰法令に触れたり、あるいは公序良俗に反する程度に至った場合等およそ税務調査を行ったとはいえないと評価されるほど違法性の程度が著しい場合を除いては、課税処分の取消事由にはならないものと解するのが相当である。
 そして、税務調査における質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、質問検査の必要性があり、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択、裁量にゆだねられていると解するのが相当である。
ロ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 平成20年9月2日
 本件調査担当者は、請求人に対し、業務の内容、報酬の受領方法、帳簿書類の作成の有無などについて、質問調査を行ったところ、その過程において、請求人は、上記1の(4)のハに記載したカレンダー5枚及び本件収入内訳書を提示し、これにより、請求人が平成19年分のF社からの収入を過少に申告していた事実が判明した。
 そして、請求人は、本件調査担当者に対し、本件収入内訳書について、「土曜日にF社の経理のTに電話して作成してもらいました。税務署から調査の連絡があり、本当のことを言った方が身のためだと思い準備しました。」と申述した。
 その後、本件調査担当者は、平成19年分の収入金額の計算方法及び過少に申告した理由などを聴き取った後、同日の質問調査の内容について、問答形式の聴取書を作成した。
 なお、上記聴取書の末尾には、「以上の通り相違有りません K(請求人)」と請求人が自書、押印している。
(ロ) 平成20年9月16日
 本件調査担当者は、上記(イ)の調査以降に判明した事実を踏まえ、請求人に対し、本件各年分において、請求人がF社からの収入金額を過少に申告した方法、理由及び過少に申告し始めた時期について質問調査を行った。
 その際、請求人は、本件調査担当者に対し、平成18年分については、日当の額を実際の日当の額よりも少ない金額である14,000円とし、作業した日数も実際の日数よりも少ない日数である12日(1か月当たり)として計算し、この方法で算出した年間の収入金額2,016,000円(14,000円×12日×12か月)から、労働災害保険料等に相当する金額○○○○円を差し引いて算出した金額○○○○円を同年分の確定申告書の事業所得の収入金額欄に記載した旨申述するなど、本件各年分の収入金額を過少に申告した方法を具体的に申述した。
 そして、本件調査担当者は、同日の質問調査の内容について、問答形式の聴取書を作成した。
 なお、上記聴取書の末尾には、「以上の通り相違ありません。K(請求人)」と請求人が自書、押印している。
ハ 判断
 請求人は、上記2の(1)の「請求人」欄のとおり主張する。
 しかしながら、上記ロの(イ)のとおり、平成20年9月2日の調査において、請求人は、当日の調査に備えて、真実の報酬額が記載された本件収入内訳書を自ら準備するなどし、本件調査に協力する姿勢の下で同日の調査に臨んだものと認められること、本件調査担当者は、当審判所に対し、同日に作成した聴取書について、「これから聴取書の内容を最初から読み聞かせますので、何か間違っているところがあれば言ってくださいと言って読み聞かせました。その後、K(請求人)さんに聴取書を渡して間違いがないか自分で読んでみてくださいと確認を求めました。K(請求人)さんが聴取書を読んで、(F社の)職員として働いていましたではなく、社員としてとの指摘があり、また、F社L支店について、F社M事務所との指摘があり訂正しました。その後、何か訂正することや付け加えることがありますかと確認したところ、『いいえ、特にありません。』と言われましたので、その旨を記載し、『では、最後の行に間違いない旨の記載と署名押印をお願いします。』と頼みました。」旨答述しているところ、本件調査担当者が作成した聴取書の内容を読み聞かせ、さらに、請求人に対し閲覧に供した後、請求人自らが2箇所の訂正を申し出たこと、本件調査担当者が聴取書の内容を読み聞かせている際の請求人の様子について、本件調査担当者は、「ときどきうなずいていました。」と答述していることからすれば、請求人は同日作成された聴取書の内容を十分理解していたことがうかがえるから、同日作成された聴取書が請求人の精神状態が不安定で正確な判断ができないような状態で作成されたものであるとは認められないし、当審判所の調査の結果によれば、本件調査担当者は、請求人が訂正を申し出た2箇所について、請求人の申出どおりに訂正したこと、そして、文字を挿入、削除した箇所に請求人が押印していることからすれば、請求人は自ら申し出た訂正の状況を見届けた上で、署名押印したものと認められるから、本件調査担当者による署名押印の強要があったとはいえない。
 また、上記ロの(ロ)のとおり、平成20年9月16日の調査において、請求人は、本件調査担当者に対し、平成18年分の収入金額を過少に申告した方法を具体的に説明しているところ、このような収入金額を過少に申告する方法及び労働災害保険料等の控除については、請求人自身が説明しなければ聴き取ることが困難な事項であることからすれば、同日に作成された聴取書が請求人の精神状態が不安定で正確な判断ができないような状態で作成されたものであるとは認められないし、本件調査担当者は、当審判所に対し、同日に作成した聴取書について、「これから聴取書の内容を最初から読み聞かせますので、何か間違っているところがあれば言ってくださいと言って読み聞かせました。何か訂正することや付け加えることがないか確認したところ、『いいえ、ありません。』と言われましたので、その旨を記載し、最後に、K(請求人)さんに間違いないか確認したところ、『はい』と言われたので、『では、最後の行に間違いない旨の記載と署名押印をお願いします。』と頼みました。」旨答述していることからすれば、同日の手続についても、同月2日とほぼ同様の手続を取った後、請求人が署名押印したものと認められるから、本件調査担当者による署名押印の強要があったとはいえない。
 以上のとおり、上記両日における聴取書の作成過程において、本件調査担当者が、質問検査の範囲、程度等について、合理的な裁量を逸脱してこれを行使した事実は認められず、本件調査の手続に本件各賦課決定処分を取り消すべき違法事由は認められないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(2) 争点2(F社からの収入は、事業所得又は給与所得のいずれに該当するか。)

イ 法令解釈
 業務の遂行ないし労務の提供から生ずる所得が所得税法上の事業所得と給与所得のいずれに該当するかを判断するに当たっては、租税負担の公平を図るため、所得を事業所得、給与所得等に分類し、その種類に応じた課税を定めている所得税法の趣旨、目的に照らし、当該業務ないし労務及び所得の態様等を考察しなければならず、その場合、判断の一応の基準として、両者を次のように区分するのが相当である。
 すなわち、事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ、反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいい、これに対し、給与所得とは、雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいうものと解される。
 そして、上記のような事業所得の趣旨からすれば、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約する請負契約又はこれに準ずる契約に基づく業務の遂行ないし労務の提供の対価は事業所得に該当するものといえ、業務に係る契約が請負契約又はこれに準ずる契約といえるか否かの判定に当たっては、1業務を遂行する者が自己の責任において、他の者を手配し、他の者が代替して業務を遂行することが認められているかどうか、2引渡しが終わっていない完成品が不可抗力のため滅失するなどした場合において、報酬の支払者に権利として報酬の請求ができないかどうか、3材料又は用具等を報酬の支払者から供与されていないかどうか、4作業の具体的な内容や方法について報酬の支払者から指揮監督を受けないかどうか、4報酬の支払者から作業時間を指定されるなど時間的な拘束を受けないかどうかなどの事項を総合勘案して判断するのが相当であると解される。
ロ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人とF社との契約の状況
A 労働条件通知書による基本的事項の合意
 上記1の(4)のホの(イ)のとおり、請求人とF社は、労働条件通知書を作成しているところ、当該書類は、契約期間、従事内容、賃金等の合意事項が記載され、F社が請求人に通知し、請求人が自署押印して承諾する形式のものである。
 そして、当審判所がF社において確認した労働条件通知書3通によれば、取り決められた内容は別表3の番号AからCまでのとおりである。
 上記3通の労働条件通知書及びF社の事業部長であるNの当審判所に対する答述によれば、請求人とF社は、毎年3月末に翌年度(4月1日から翌年の3月31日まで)の労働条件について合意し、F社が、その合意内容を請求人に通知していたものであり、別表3の番号AからDまでの労働条件通知書の取決事項がいずれも同様であることからすると、請求人がF社を退職した後の平成13年4月1日から平成20年3月31日までの期間を通じて、当事者間で1年ごとに労働条件を取り決め、労働条件通知書が作成されていたものと認められる。
B 請負基本契約の締結等
(A) 請負基本契約の締結
 請求人とF社は、平成15年4月1日、F社の発注する作業の請負に関する基本事項を定めることを目的として、請負基本契約(以下「本件請負基本契約」という。)を締結し、工事等請負基本契約書(以下「本件請負基本契約書」という。)を作成しているところ、Nの答述によれば、本件請負基本契約書を作成した理由は、F社において、当時、工事の際に事故があったので、請求人とF社との間で締結されていた契約について、労働基準法の遵守、火災等の災害の予防、損害賠償請求などの事項を明確にするというものであった。
(B) 本件請負基本契約書の内容
a 業務の代替性の可否に関する事項
 本件請負基本契約書の第8条(工事従事者の変更)は、F社は、請求人の従業員若しくは下請業者を含む第三者及びその従業員のうちで適当でないと認めた者があるとき又は人員につき増減を希望するときは、その理由を明示して変更を求めることができる旨定めているところ、このような定めが設けられていること自体、請求人が、請求人の従業員及び下請業者である第三者を請求人の自己の責任において手配ができること、これらの者が代替して請求人の業務を遂行することが認められているものといえる。
b 材料又は用具等の調達に関する事項
 本件請負基本契約書の第9条(工事材料等の支給又は貸与)第1項は、機械、器具、工事材料及び設備等は、原則として、すべて請求人が調達するものとするが、協議の上必要に応じて支給又は貸与することができる旨定めているところ、当審判所の調査の結果によれば、請求人は、ゴムライニング作業に係るゴム、接着剤及び揮発剤などの材料並びにカッター、定規、サンダー、プライヤー、刷毛及び投光機などの用具等については、すべてF社から無償で支給又は貸与を受けていることが認められる。
 この点について、Nの当審判所に対する答述によれば、請求人が使用するゴム等の材料の使用量は、F社の業務全般で使用するゴム等の材料の使用量と比べ、ごくわずかであることから、請求人が少量の材料を調達するよりもF社が一括して材料を仕入れる方が仕入価格が安価となり、F社が材料等を支給することでゴムライニング業務自体のコストを抑えることができるメリットがあることから、F社が材料を支給することにしたことが認められる。
 また、請求人がゴムライニング作業に使用する用具等は、ゴムを切るためのカッター及び定規、ゴムを引っ張ったり、押さえたりするプライヤー、ゴムに接着剤等を塗布する刷毛、作業箇所を照らす投光機などであるところ、請求人が業務を遂行するに当たり、特殊な用具等を使用することはなく、F社が所持している一般的な用具等で事足りるため、F社は、請求人にわざわざ用意させる必要性もないことから、F社の用具等を請求人に貸与していることが認められる。
c 不可抗力による損害の取決めに関する事項
 本件請負基本契約書の第19条(天災その他不可抗力による損害)は、天災その他不可抗力によって、契約の目的物等に損害が生じたときは、請求人が善良なる管理者の注意義務をもって損害発生の防止、軽減に努力したと認められる場合に限り、請求人の負担すべき額について考慮することができるが、その他の損害額はすべて請求人の負担とする旨定めているところ、上記定めからすれば、不可抗力により生じた損害に係る損害額は、原則、請求人の負担となり、請求人が善良なる管理者の注意義務をもって損害発生の防止、軽減に努力した場合にのみ、F社が請求人の負担すべき額を考慮することができるというものであるから、不可抗力により損害が生じた目的物等に係る報酬について、請求人からF社に請求することはできないものと認められる。
(ロ) 請求人の業務
A F社は、R社から、化学薬品の貯蔵タンク内に設置された電極を支えるためのホルダー(鉄製の四角の槽)にさび防止の目的で貼られているゴムを補修、補強するゴムライニング作業を受注していた。
B 上記(イ)のAのとおり、請求人の業務は、労働条件通知書によりコンベヤーベルト加工及びその他ゴム加工と取り決められているところ、Nは、当審判所に対し、請求人には、一人でできるゴムライニングの仕事をやってもらうこととし、緊急の場合に、F社の従業員が作業する現場の応援をしてもらうことがある旨答述し、請求人も同旨の答述をしていることからすれば、請求人の実際の業務は、ゴムライニング作業及び現場の応援作業であったものと認められる。
 そして、Nが、当審判所に対し、緊急の場合の応援作業に従事してもらう場合には、応援した仕事の内容、終了時間等を加味して、労働条件通知書に定める日当の額に上乗せして報酬を支払う旨答述しているところ、当審判所の調査の結果によれば、労働条件通知書に定める日当の額を上回る作業については、年間を通してごくわずかであることからすれば、請求人の業務は、ゴムライニング作業が主体であったものと認められる。
C 請求人のゴムライニング作業の従事状況について、Nは、当審判所に対し、「当社は、R社からの仕事を受注しています。仕様書、補修工事施工指示書を構内にあるR社に月に3、4回うちが取りに行き、課長がK(請求人)に写しを作業指示書といっしょに直接手渡します。緊急の場合には、仕様書でなくE票という仮注文書で対応することもあります。もともと、K(請求人)の作業は予備部品の作成であり、仕様書を見れば作業ができるK(請求人)にすればそんな難しくないものであり、K(請求人)自身が自分で判断して作業を進めるので、当社から指示したりすることはありません。」と答述しているところ、当審判所の調査の結果によれば、F社において、請求人を指導できるほどのゴムライニングの技術を持った従業員は在籍していないことが認められるから、請求人は、上記の仕様書(又は仮注文書(E票))及び補修工事施工指示書に基づき、請求人自身の判断で、作業の方法及び作業の進行の段取りを決定し、ゴムライニング作業の業務を遂行していたものと認められる。
(ハ) 作業時間の管理
 上記(イ)のAのとおり、請求人とF社は、労働条件通知書において、報酬は日当計算とすること、作業時間は始業時間を午前8時、終業時間を午後4時30分、休憩時間を60分とすることで合意したことが認められる。
 この点について、Nは、当審判所に対し、報酬を日当計算とした理由について、「ゴムライニングの製品は何十種類で、数も多く、個別の完成製品で報酬を決めることが困難であったので、やむなく日当計算にしていました。」、作業時間を決めた理由について、「基本的な契約であり、日当計算する以上、一応の時間を決める必要があるからです。当社は品質を保持し納期を守ってもらえればいいので、拘束しているつもりはありません。」、請求人が終業時間を過ぎてゴムライニング作業をした場合について、「手当のようなものは付きません。従業員は、1時間単位で付けます。」と各答述しているところ、その答述内容は、具体的かつ詳細であり、信用できるものである。
 このことからすれば、請求人とF社は、同社が請求人に依頼する業務の特殊性に応じて、報酬額の算定を日当計算で行うこととし、そのように算定する以上、請求人が従事する作業時間を定める必要があることから、F社の従業員の就業時間(当審判所の調査の結果によれば、F社の就業規則において、就業時間は、始業を午前8時、終業を午後4時30分とする旨定められている。)に合わせてこれを定めて、当事者間で合意したものと認められるから、労働条件通知書において始業時間及び終業時間が定められていることをもって、請求人が時間的な拘束を受けたものとは認められない。
 また、Nが、当審判所に対し、請求人の作業時間の管理に関して、「出勤簿もタイムカードもありません。10時頃に安全管理の点から電話連絡をもらいます。あとその日の作業終了後、作業日誌を提出してもらうくらいでした。」旨答述していることに加え、請求人が、当審判所に対し、終業が午後5時になった場合の手当関係について、「終業が30分延びていますが、これは、自分は自由な時間で調整できるからです。例えば、朝30分遅れて仕事を始めるとか、昼休憩を長くするとか自分で調整ができるので、30分については、手当をもらうことはありません。」旨答述していることからすれば、F社は、請求人の作業時間の管理をする体制を採っておらず、請求人自らがその日の作業時間を決定し、業務を遂行していたことが認められる。
(ニ) 労働条件通知書以外の請求人の提出書類
A 身分証明書
 F社は、請負契約を締結した下請業者がH製鉄所h地区の構内で作業をする場合、G社の保安課に当該下請業者を登録し、入門に係る証明書を申請してその交付を受けていた。
 そして、F社の下請業者が、H製鉄所h地区の構内へ入門するに際しては、当該証明書を所持することが義務付けられているところ、上記1の(4)のイのとおり、請求人は、H製鉄所h地区の構内で、F社の業務に従事していること、Nが、当審判所に対し、請求人がF社の身分証明書を所持していることについて、「K(請求人)は以前当社の従業員であり、退職後に下請けとなったので、本来はG社の下請けとしてG社に登録すべきところを、G社に登録を怠ったため、当社で作成したものです。」と答述していることからすれば、当該身分証明書は、請求人がF社の従業員であることを証明する目的で作成されたものではなく、請求人がH製鉄所h地区の構内に入門するための証明書として作成されたものと認められる。
B 作業日誌
 作業日誌は、日々の作業終了後、作業従事者が作業年月日、工事内容、作業の着完工時間等を記載し、F社に提出する書類である。
 そして、Nは、当審判所に対し、請求人に作業日誌を提出させる目的について、「K(請求人)には、K(請求人)に支払う金額の内訳を記載した明細書を毎月5日に渡していますが、その明細書を作成する際に従事日数が必要となるから、K(請求人)の作業日誌を提出させるのです。従業員のように勤務評価はしません。進ちょく状況もK(請求人)に任せています。作業日誌は当社の定型の様式を使っており、これしかないので、K(請求人)を含め他の外注先も従業員と同じものを使っています。」と答述していることからすれば、請求人の作業日誌は、F社が請求人の業務に係る毎月の報酬額を計算する基礎となる従事日数を把握することを目的として請求人に提出を依頼している書類であり、便宜上、従業員と同じ様式の作業日誌を使用していることが認められる。
C 作業指示書及び安全作業・KYシート兼報告書
 作業指示書及び安全作業・KYシート兼報告書は、日々の作業終了後、作業従事者(グループで作業を行った場合はその責任者)が1作業につき1枚を作成し、F社に提出する書類(様式はR社所定のもの)である。
 そして、作業指示書は、作業時間、安全のポイントの確認、作業に必要な資格の保持者名、安全遵守事項の確認など、作業に係る基本的な安全確認の項目に基づく安全確認の結果を記載する様式となっていること、安全作業・KYシート兼報告書は、作業手順に沿って考えられる危険及び具体的対策を記載する様式となっていることからすれば、これらの書類は、従業員あるいは下請業者を問わず、個々の作業従事者の安全管理の意識を統一的に保持し、安全作業の注意喚起を行うことを目的として作成される安全管理のための書類であると認められる。
ハ 判断
(イ) 1上記ロの(イ)のBの(B)のaのとおり、請求人は、業務の遂行に関して、自己の責任において代替者を手配でき、その者が請求人に代替して業務を遂行することができること、2上記ロの(イ)のBの(B)のcのとおり、請求人は、不可抗力により損害が生じた場合に、損害が生じた目的物等に係る報酬をF社に請求することができないこと、3上記ロの(ロ)のCで認定したとおり、請求人は、請求人自身の判断で、作業の方法及び作業の進行の段取りを決定しており、F社の指揮監督下にないこと、4上記ロの(ハ)のとおり、請求人は、業務の遂行に関して、F社から時間的な拘束を受けておらず、自ら業務の遂行に係る時間を決定することができることからすれば、請求人の業務は請負契約に基づくものと認められる。
 そして、請求人が平成13年2月1日にF社を退職した当時かつ本件請負基本契約を締結した当時のF社のG社構内詰所の所長であったSは、当審判所に対し、本件請負基本契約を締結する前後において、請求人の仕事の条件は変わっていない旨答述していることからすれば、請求人とF社との間では、請求人がF社の業務に従事し始めた平成13年2月から請負契約が成立していたものと認められる。
 なお、請求人の作業に係る材料及び用具等については、上記ロの(イ)のBの(B)のbのとおり、F社が請求人に無償で支給又は貸与しているものと認められるが、支給又は貸与することとした理由は合理的であり、支給又は貸与していたことは、請負契約の締結と矛盾するものではない。
 以上のとおり、請求人とF社との間では、請求人がF社の業務に従事し始めた平成13年2月から請負契約が締結され、請求人は、自己の計算と危険において独立して業務を遂行していたことは明らかであるから、当該業務に係るF社からの収入は事業所得に該当する。
(ロ) 請求人は、上記2の(2)の「請求人」欄のとおり主張し、当該主張を証明する書類として、上記1の(4)のホ及びへのとおり、原処分庁及び異議審理庁に対して、労働条件通知書、身分証明書、作業日誌、作業指示書及び安全作業・KYシート兼報告書の各写しを提出しているので、この点について検討する。
A 請求人はF社から業務に関して指揮命令及び時間的拘束を受けておらず、請求人とF社との間で請負契約が成立していると認められること、請求人がF社から材料及び用具等の支給又は貸与を受けていたことは、請負契約の締結と矛盾するものではないことは、上記(イ)で述べたとおりである。
B 請求人は、日々の業務において、1定時連絡を義務付けられていること、2仕事を休む場合には事前に申し出なければならないことをもって、雇用契約が締結されている旨主張するが、上記1については、上記ロの(ハ)のとおり、F社は安全管理の観点から定時連絡を求めているにすぎないことが認められ、また、上記2については、当審判所の調査の結果によれば、請求人が仕事を休む場合、請求人はF社に電話又は口頭による連絡を入れることになっているところ、請求人は、当審判所に対し、休む場合の事前の申出については、従業員は、「欠勤、休暇、遅刻、早退願(届)」の届出書をF社に提出するが、請求人においては、このような届出書の提出を要しない旨答述し、Nは、当審判所に対し、「従業員であれ、外注先であれ、社員や下請けとして人を使うわけですから、当日万一事故や非常事態が発生したときのために誰が従事しているかを知っておく必要があるからです。」と答述していることからすれば、F社は、安全管理上の措置として請求人に事前の申出を求めているにすぎず、雇用関係にある従業員のように服務管理上これを要請しているものとは認められないから、請求人が定時連絡及び休む場合の申出を要請されていることをもって、請求人とF社との間で雇用契約が締結されているとはいえない。
C 請求人は、F社に毎月提出している請求書をF社の担当者の指示により作成していることをもって、請負契約が名目上のものである旨主張するが、下記(3)のロの(ロ)のとおり、F社は、請求人が毎日提出する作業日誌を基に請求人の月額報酬額を算定することが可能であるが、当審判所の調査の結果によれば、経理処理上、外注費の支払には請求書が必要となるので、F社が請求書を用意して、その記載方法もF社の担当者が請求人に教示していたことが認められることに加え、Sが、当審判所に対し、F社で請求書を用意した理由について、「K(請求人)は技術屋で事務関係は得意でなかったので、請求書や領収書を用意するように言ったのですが、『会社を信頼していますから、お願いします。』というので会社で用意しました。」と答述していることを併せ考えると、F社が請求書を用意し、F社の担当者が請求人に請求書の記載方法を教示していることについて相応の理由が認められるから、請求人がF社の担当者の指示により請求書を作成していたことは、請負契約の締結と矛盾するものではない。
D 請求人が証拠として提出した各書類について、労働条件通知書は、上記ロの(イ)のAのとおり、請負に係る報酬等に関し、F社の事業年度ごとの当事者間の合意事項を表した書類にすぎず、身分証明書は、上記ロの(ニ)のAのとおり、請求人がH製鉄所h地区の構内へ入門する際の身分証明としてF社が作成して請求人に発行したものにすぎず、作業日誌は、上記ロの(ニ)のBのとおり、業務の性質上、F社が請求人の業務に係る報酬額を計算する基礎となる従事日数を把握するために、請求人に提出を求めているものにすぎず、作業指示書及び安全作業・KYシート兼報告書は、上記ロの(ニ)のCのとおり、F社が安全作業の注意喚起をするために、R社所定の様式により請求人に提出を求めているものにすぎないから、これらの各書類をもって、請求人のF社からの収入を給与所得であると認めることはできない。
E 請求人の主張及び提出書類については、以上のとおりであるから、これらの点に関する請求人の主張には理由がない。

(3) 争点3(請求人の行為に隠ぺい又は仮装があるか否か。)

イ 法令解釈
 通則法第68条第1項の規定は、上記1の(3)のハのとおりであり、ここでいう「事実を隠ぺいした」とは、課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実を隠ぺいしあるいは故意に脱漏したことをいい、また、「事実を仮装した」とは、所得、財産あるいは取引上の名義等に関し、あたかも、それが真実であるかのように装うなど、故意に事実をわい曲したことをいうと解するのが相当である。
ロ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人は、F社の業務に従事し始めた平成13年2月以降、日々の業務が終了した後、作業日誌を作成し、p市○○町に所在するF社の支店に提出していた。
(ロ) F社は、請求人から提出された作業日誌を基に、月末締めで請求人に対する外注費を記載した明細書(従事日及び各従事日の従事時間並びに日当、日当の月合計、引き去られる労働災害保険料及び協力会費の各金額が記載されたもので、以下「本件明細書」という。)を作成し、翌月5日ころに上記(イ)の支店で請求人に交付していた。
 F社は、平成13年2月分以降、このような方法で外注費の明細書を請求人に交付していた。
 なお、各月の外注費の額から引き去られる労働災害保険料は、F社を通して加入している労働保険料(労働保険の保険料の徴収等に関する法律第10条《労働保険料》第1項に規定する保険料)の請求人負担分が引き去られたものであり、協力会費は、R社の下請業者の情報交換等のための費用の請求人負担分が引き去られたものであり、いずれも毎月の報酬から引き去られることについて、請求人が了解しているものであった。
(ハ) 請求人は、F社から請け負った業務について、正確な収入金額を把握することができる取引を記録した帳簿書類を作成していなかった。
 また、上記1の(4)のハの(イ)のとおり、請求人は、業務に従事した日の作業内容をカレンダーに記載していたところ、労働条件通知書によりその年度の日当が定められていたものの、上記(2)のロの(ロ)のBのとおり、F社から緊急時に要請された応援作業の業務については、労働条件通知書で取り決めた日当によらないため、請求人が毎年の確定申告の際に該当年分のカレンダーを保存し当該カレンダーでその年分の従事日数を確認していたとしても、その年分の収入を計算することができないものと認められる。
ハ 判断
(イ) 上記ロの(ハ)のとおり、請求人はF社から請け負った業務に関して、帳簿書類を作成していなかったこと、仮に請求人が当日の業務を記載していたカレンダーを本件各年分についてすべて保存していたとしても、当該カレンダーでは、本件各年分の収入を計算することができないことからすれば、上記ロの(ロ)に記載した請求人が毎月F社から交付を受ける本件明細書は、請求人の各年分の収入を正確に把握することができる唯一の原始記録であるものと認められる。
 そうすると、請求人が、F社からの収入を適正に申告するに際しては、本件明細書を適切に保存することが必要となるが、この点に関して、請求人は、当審判所に対し、「毎月5日の作業終了後、○○町の事務所へ作業日誌を提出する際に経理のTから明細書をもらいます。明細書は家内に渡さないので、車のダッシュボードの中にしまっておきます。翌日作業場へ行って、明細書とカレンダーを突き合わせて従事日数等について間違いがないかを確認します。確認終了後、明細書は20日にもらう給料と突き合せるまで、いったん作業場の机の中にしまっておきます。そして、20日に○○町の事務所で給料を現金でもらうので、明細書を持って行って、車の中で給料と突き合わせ、自分の小遣い分を少し抜いて、残りを家内に渡します。明細書は、家へ帰るときにはまた車のダッシュボードに入れておき、翌日作業場へ持って行って机の中にしまいます。次の明細書をもらう翌月5日ころまでは取っておきます。新しい明細書をもらったら、先月もらった古い明細書は、作業場のごみ袋としているビニール袋に細かく破いて捨てます。そのビニール袋は一杯になったらG社が指定するごみ捨て場へ持って行って捨てます。」と原始記録である本件明細書を故意に破棄した旨答述し、本件調査時、本件各賦課決定処分についての異議申立てに係る調査時及び本件審査請求において、請求人が本件明細書を提示していないのであるから、本件明細書は、既に破棄され存在していないものと認められる。
 そして、当審判所の調査の結果によれば、請求人は、本件調査担当者に対し、F社からの報酬を過少申告した理由について、平成14年4月に中古の家を購入し、そのための購入費用や家の諸費用の支払のためにお金がかかるので、平成15年分から日当や日数を少なく計算して、申告額を少なくした旨申述していることからすれば、請求人は、平成15年以降、収入金額を正確に把握することができる唯一の原始記録である本件明細書を故意に破棄し、作業日数を実際の日数よりも少なくし、かつ、日当の額も実際の日当の額よりも少ない金額にするなどの方法により、F社からの収入について、課税標準の計算の基礎となるべき事実の一部を隠ぺいしたものと認めるのが相当である。
(ロ) 請求人は、上記2の(3)の「請求人」欄のとおり主張するが、上記(イ)で述べたとおり、請求人は、F社からの収入について、課税標準の計算の基礎となるべき事実の一部を隠ぺいしたものと認められるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(4) 本件通知処分

 上記(2)のハのとおり、F社からの収入は事業所得に該当すると認められ、請求人の主張にはいずれも理由がないから、更正の請求に対して更正をすべき理由がないとしてされた本件通知処分は適法である。

(5) 本件各賦課決定処分

 当審判所の調査の結果によると、本件各年分のF社からの収入金額は、別表2の「修正申告額」欄記載の各金額となるところ、上記(3)のハの(イ)のとおり、請求人が、課税標準の計算の基礎となるべき収入金額(当該各金額)に係る事実の一部を隠ぺいし、その隠ぺいしたところに基づき本件各年分の所得税の申告をしたことは、通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たしている。
 ところで、当審判所の調査の結果によると、請求人は、本件各年分の総収入金額の計算において、過少申告するに当たり、1実際の作業従事日数より少なくした日数に実際の日当の額より少なくした日当の額を乗じて収入金額を算出し、さらに、2当該金額から給与所得控除額に相当する金額を控除するなどして、過少に算出した金額をF社からの収入金額として本件各年分の確定申告をしたことが認められるところ、原処分庁は、本件各年分において、請求人が、別表2の「修正申告額」欄記載の各金額と上記1で算出した金額との差額を総収入金額の計算上除外したものと認定したことが認められる。
 しかしながら、上述したとおり、請求人は、本件各年分において、別表2の「修正申告額」欄記載の各金額に係る事実の一部を隠ぺいしたものと認められるから、請求人は、当該各金額と本件各年分の確定申告で事業所得の金額の計算上総収入金額に算入した収入金額との差額を、総収入金額の計算上除外したものと認めるのが相当である。
 そして、以上を前提として、本件各年分の加算税の基礎となる税額を算定すると、別表4の「審判所認定額」欄のとおりとなり、平成15年分の重加算税の額は○○○○円となり、この金額は同年分の重加算税の賦課決定処分の額と同額となり、また、平成16年分から平成19年分までの重加算税の額は、それぞれ○○○○円、○○○○円、○○○○円、○○○○円となり、いずれの額も上記各年分の重加算税の各賦課決定処分の額を上回るから、本件各賦課決定処分はいずれも適法である。
 なお、別表4の「審判所認定額」欄の「過少申告加算税」欄の「加算税の基礎となる税額8」欄のとおり、平成16年分から平成18年分までについては、いずれも過少申告加算税の基礎となる税額は算出されないが、別表4の「審判所認定額」欄の当該各年分の重加算税の額は、原処分庁が認定した別表4の「原処分庁認定額」欄の当該各年分のそれぞれの重加算税の額及び過少申告加算税の額の合計額をいずれも上回るから、原処分庁が行った当該各年分の過少申告加算税の各賦課決定処分の効力に影響はない。

(6) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所の調査の結果によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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