(平22.3.24、裁決事例集No.79)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、P市からE公営競技場の業務に従事する者として日々雇用される臨時職員(以下「従事員」という。)であった審査請求人(以下「請求人」という。)がE公営競技従事員会から受領した金員について、原処分庁が雇用契約に基づき支給されたものではないことから一時所得に該当するとして所得税の更正処分等を行ったのに対し、請求人が退職所得に該当するとしてこれらの処分の全部の取消しを求めた事案であり、争点は、上記金員が一時所得に該当するか否かである。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成18年分の所得税について、確定申告書に総所得金額を○○○○円(内訳、給与所得の金額○○○○円)及び還付金の額に相当する税額を○○○○円と記載して、平成19年1月29日に原処分庁に提出した。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成21年3月5日付で総所得金額を○○○○円(内訳、給与所得の金額○○○○円、一時所得の金額(所得税法第22条《課税標準》第2項第2号の規定による2分の1に相当する金額をいう。以下同じ。)○○○○円)、納付すべき税額を○○○○円とする更正処分及び過少申告加算税の額を○○○○円とする賦課決定処分をした。
ハ 請求人は、これらの処分を不服として、平成21年4月28日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年6月25日付で総所得金額を○○○○円(内訳、給与所得の金額○○○○円、一時所得の金額○○○○円)、納付すべき税額を○○○○円、過少申告加算税の額を○○○○円とする原処分の一部取消しの異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成21年7月16日に審査請求をした。

(3) 関係法令

 関係法令は、別紙のとおりである。

(4) 基礎事実

 次の事実については、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成18年4月27日にE公営競技従事員会(以下「従事員会」という。)から○○○○円(以下「本件金員」という。)を受領した。
ロ E公営競技従事員会規約(以下「従事員会規約」という。)によれば、従事員会は、P市競走事業従事員就業規則の規定によるE公営競技場の雇用予定者名簿(以下「雇用予定者名簿」という。)にE公営競技従事員として登載されている者を会員とし、会員の福祉の増進を目的として組織され、会員の福利厚生に関する事業、退会せん別金の給付に関する事業等を行うこととなっており、その会員は、従事員会が行う福利厚生事業への参加、退会せん別金の受給等の権利を有するとともに、従事員会の会費の納入義務を負っていた。
ハ 前記の会員の資格は、雇用予定者名簿に登載された日に取得し、雇用予定者名簿の記載が抹消されたときは、その翌日に喪失することとなっていた。

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2 主張及び判断

(1) 主張

原処分庁 請求人
 本件金員は、請求人の雇用主であったP市とは別の人格のない社団である従事員会から受ける一時金であり、雇用契約に基づき支給されたものではないことから、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得のいずれにも該当せず、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものに該当することから、一時所得に該当する。  本件金員は、次のとおり、退職所得に該当し、一時所得には該当しない。
イ 従事員会は、次のとおりP市とは別の団体ではなく、本件金員はP市が従事員会を介して支給したものである。
(イ) 従事員会は、E公営競技従業員労働組合とP市とが従事員の退職金支給に係る団体交渉を行った結果、退職金を自身の名で支給できないP市の提案により「共済制度の中で退職金を支給する」ことについて意見の一致をみたことにより、労使間で発足させることを合意した団体である。
(ロ) P市は、従事員会の管理・運営について、1会費の額を毎年決定し、2決定した会費を従事員の給与から徴収し、3従事員会に補助事業の完了実績報告をさせ、4従事員会規約の改正にはP市の承認を要し、5P市の人事政策である早期希望離職に応じた従事員に対する退職奨励金の支払事務を従事員会に行わせるなどの指示、指導をしていた。
(ハ) 退会せん別金に関する規約の改正については、退会せん別金が労働の対価としての性質を有していたことから、労働条件の一部としてP市とE公営競技従業員労働組合との団体交渉において決定されていた。
ロ 本件金員は、次のことから請求人が「退職により一時に受ける給与」に該当する。
(イ) 雇用主であるP市が全額を負担した労働の対価であること。
(ロ) 平成18年3月31日付で勤務関係が終了したことによって初めて生じた給付であること。
(ハ) 一時金として支払われたこと。

(2) 判断

イ 法令解釈
 一時所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいうとされている(所得税法第34条第1項)ところ、その特色は、臨時的、偶発的に発生する利得であることにあり、一般には担税力が低いと考えられることから、いわゆる長期保有資産の譲渡所得の場合と同様に、50万円を限度とする特別控除後の2分の1相当額を総合課税の対象とする方法で超過累進税率の適用緩和が図られている(同法第22条第2項第2号)。
 そして、役務の対価としての性質を有する所得を一時所得から除くこととしているのは、その所得が臨時的なものであっても、役務の対価としての性質を有する限り、偶発的に発生した所得ではないからと解される。
ロ 認定事実
 原処分関係資料、請求人提出資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ) 従事員会は、従事員会規約によって設立された団体であって、法律又はP市の条例に基づき設立された団体ではない。
(ロ) 従事員会の会員は、会費を負担するとともに、従事員会の総会における議決権を有していた。
(ハ) 従事員会には、1役員として会長、副会長、理事及び監事、2意思決定機関として総会及び理事会が置かれ、従事員会の基本的な事業計画、規約の改正、予算等については、総会における会員の多数決により決定されていた。
(ニ) 従事員会は、会費及びP市からの補助金を主な収入として総会で決定された事業計画及び予算に基づき、1観劇、旅行等のレクリエーションに係る福利厚生事業、2図書の貸出し等の教養事業、3退会せん別金の給付事業等を実施しており、会員の入退会を繰り返し団体として存続してきた。
(ホ) 前記(ニ)の退会せん別金は、会員が会員たる資格を喪失したときに支給され、その金額は、会員であった年数等に基づいて算出されることとされていた。
(ヘ) P市は、平成17年12月8日に、従事員会に対して平成17年度をもって従事員会への補助金の交付を打ち切ること及び早期希望離職者を募集することを通知するとともに、1平成18年3月31日現在の会員に対して退会せん別金を清算すること、2早期希望離職者には特別措置として退会せん別金に所定の額を加算すること、3退会せん別金の清算に要する金額及び早期希望離職者への加算額をP市が全額負担することを従事員会に提案した。
(ト) 従事員会は、平成17年12月25日の臨時総会において、前記(ヘ)のP市の提案を受け入れることを決議した。
(チ) 従事員会は、前記(ト)のとおり、P市の提案を受け入れたことに伴い、退会せん別金の清算として、会員が平成18年3月31日に従事員会を退会したならば支給することとなる金額(以下「退会せん別金相当額」という。)を会員全員に支給するとともに、早期希望離職者の募集に応じた会員に対し、特別措置として退会せん別金相当額に所定の額を加算して(以下、この加算される金額を「特別加算額」という。)支給することとした。
(リ) 請求人は、早期希望離職者の募集に応じた。
ハ これを本件についてみると、次のとおりである。
(イ) 従事員会について
 従事員会は、前記ロの(イ)ないし(ニ)のとおり、1従事員会規約によって設立された団体であって、法律又はP市の条例に基づき設立された団体ではなく、2代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が従事員会規約によって確定し、3団体としての組織を備え、4意思決定は総会による多数決の原則を採用し、5会員の変更にもかかわらず団体そのものが存続していることから、いわゆる人格のない社団に該当する。
(ロ) 本件金員について
A 当審判所の調査によれば、前記ロの(ヘ)のとおり、P市が従事員会への補助金を打ち切ることを決定したことに伴い、今後、従事員会が会の発足当時から行ってきた退会せん別金の給付に関する事業については、従事員会が定める給付水準を維持することができなくなったため、従事員会は、前記ロの(ト)及び(チ)のとおり、平成17年12月25日の臨時総会において、退会せん別金を清算すること、すなわち、退会せん別金の給付に関する事業を廃止することとし、それまでに有していた資金とP市からの補助金をもって、退会せん別金相当額を会員全員に支給するとともに、早期希望離職者の募集に応じた会員については、新たな特別加算額を支給することを決定したと認められる。
B 請求人は、前記ロの(リ)のとおり、早期希望離職者の募集に応じたことから、退会せん別金相当額及び特別加算額を本件金員として受領したと認められるところ、この金員は請求人が従事員会の会員の資格を有していたことから受領できたものであり、そこに何らの請求人から従事員会への労務の提供はなかったと認められる。
 また、本件金員は、前記ロの(チ)のとおり、請求人の平成18年3月31日までの在会年数、すなわち、請求人が平成18年3月31日まで雇用予定者名簿に登載されていた期間を基にその算定がなされているものの、本件金員が雇用主であるP市との日々の雇用契約に基づき受領したものではないことは、前記Aのことからも明らかである。
C そうすると、本件金員のうち、1退会せん別金相当額は、従事員会が退会せん別金の給付に関する事業を廃止することに伴い従事員会から一時に支払われた清算金である、2特別加算額は、早期希望離職者の募集に応じたことに伴い従事員会から一時に支払われた金員であると認められることから、本件金員は臨時的・偶発的な所得である。
 したがって、本件金員は、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得に該当し、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で、労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しない金員となることから、所得税法第34条第1項に規定する一時所得に該当する。
(ハ) 請求人は、本件金員が退職により一時に受ける給与すなわち退職所得に該当する旨主張する。
 しかしながら、本件金員が退職により一時に受ける給与に当たるというためには、それが、1退職すなわち勤務関係の終了という事実によって初めて給付されること、2従来の継続的な勤務に対する報償ないしその間の労務の対価の一部の後払の性質を有すること、3一時金として支払われること、との要件を備えることが必要であると解されるところ、本件金員は、前記(ロ)のAのとおり、従事員会が退会せん別金の給付に関する事業を廃止することに加え、請求人が早期希望離職者の募集に応じたことに伴い従事員会から支払われたものであること、また、前記(ロ)のBのとおり、請求人と従事員会との間には雇用関係がないことからすれば、勤務関係の終了という事実によって初めて給付されるものと認めることはできない。
 そうすると、本件金員は退職所得に該当する旨の請求人の主張には理由がない。

(3) 過少申告加算税の賦課決定処分を含め、原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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