(平22.6.24、裁決事例集No.79)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が譲渡した土地建物の譲渡所得について、原処分庁が、居住用財産の譲渡所得の特別控除の適用はないとして所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、これらの処分は違法であるとしてその全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 平成19年分の所得税について、審査請求(平成21年7月31日請求)に至る経緯及び内容は、別表1のとおりである。
 なお、以下、平成21年3月17日付でされた平成19年分の所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を、それぞれ「本件更正処分」及び「本件賦課決定処分」という。

(3) 関係法令

 租税特別措置法(以下「措置法」という。)第35条《居住用財産の譲渡所得の特別控除》第1項は、個人が、その居住の用に供している家屋の譲渡をした場合、当該家屋とともにするその敷地の用に供されている土地等の譲渡をした場合、当該家屋で当該個人の居住の用に供されなくなったものとともにするその敷地の用に供されている土地等の譲渡を、当該家屋が当該個人の居住の用に供されなくなった日から同日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までの間にした場合には、当該個人がその年の前年又は前々年において既にこの項の規定の適用を受けている場合を除き、これらの全部の資産の譲渡に対して、同法第31条《長期譲渡所得の課税の特例》第1項に規定する長期譲渡所得の金額から30,000,000円(長期譲渡所得の金額のうち同法第35条第1項の規定に該当する資産の譲渡に係る部分の金額が30,000,000円に満たない場合には当該資産の譲渡に係る部分の金額)を控除した金額について、同法第31条の規定を適用する旨規定している。
 以下、措置法第35条第1項に規定する30,000,000円を限度とする控除を「特別控除」といい、この居住用財産の譲渡所得の特別控除の特例を「本件特例」という。

(4) 基礎事実

イ 請求人の母であるDは、平成18年6月29日現在、別表2−1の各土地(以下「本件土地」という。)、別表2−2の各建物及び本件土地上に存する未登記の茶室を所有していた(以下、本件土地、上記各建物及び上記茶室を併せて「本件土地建物」という。)。
 なお、別表2−2の番号2の建物及び上記茶室は、Dが、平成17年12月○日に死亡した夫Eから相続により取得したものである。
ロ Dは、平成18年6月30日、別表2−1の番号1の雑種地について、別表3−1の番号1の雑種地及び番号5の雑種地に分筆する登記を経由した(以下、この分筆を「本件分筆」という。)。
 なお、以下、別表3−1の番号2及び番号5の各雑種地を「本件A土地」、別表3−2の番号1の居宅を「本件A建物」、本件A土地及び本件A建物を併せて「本件A土地建物」、別表3−1の番号1、番号3及び番号4の各雑種地を「本件B土地」、別表3−2の番号2の居宅及び上記イの未登記の茶室(別表4−2の番号2欄に記載したとおり、平成19年4月5日に家屋番号○番3の2の居宅の附属建物として登記されたもの)を併せて「本件B建物」、本件B土地及び本件B建物を併せて「本件B土地建物」という。
ハ 請求人は、平成18年7月1日、本件A土地建物をDから贈与により取得した(以下、この贈与を「本件贈与」という。)。
 請求人は、平成18年7月18日、本件A土地建物について、同月1日贈与を原因として所有権移転登記を経由した。
ニ 請求人及びDは、Fとの間で、平成18年7月19日、本件A土地建物及び本件B土地建物を65,000,000円で売買する旨の契約(以下「本件売買契約」という。)を締結し、同日付で不動産売買契約書を作成した。
 なお、請求人及びDは、同日、Fから手付金10,000,000円を受領し、各5,000,000円を取得した。
ホ 請求人は、平成19年3月12日、本件贈与に係る贈与税について、相続税法第21条の9《相続時精算課税の選択》第1項の規定に基づき、相続時精算課税制度を適用して平成18年分の贈与税の申告書を原処分庁に提出した。
ヘ 請求人は、本件A土地建物について、別表4−1及び別表4−2のとおり、各変更登記等を経由した後、平成19年4月19日、Fとの間で、本件A土地建物を○○○○円で売買する旨の不動産売買契約書を作成するとともに、同人から残額○○○○円(Fが負担することとなった本件土地建物の平成19年度の固定資産税相当額200,000円のうち本件A土地建物に係るものとして請求人が取得した94,000円を含む金額)を受け取り、本件A土地建物の引渡しを行った。
 また、Dは、本件B土地建物について、別表4−1及び別表4−2のとおり、各変更登記等を経由した後、平成19年4月19日、Fとの間で、本件B土地建物を○○○○円で売買する旨の不動産売買契約書を作成するとともに、同人から残額○○○○円(Fが負担することとなった本件土地建物の平成19年度の固定資産税相当額200,000円のうち本件B土地建物に係るものとしてDが取得した106,000円を含む金額)を受け取り、本件B土地建物の引渡しを行った。
 なお、本件土地建物の売買については、上記ニのとおり、既に不動産売買契約書が作成されていたが、再度、不動産売買契約書を作成した理由は、平成18年7月19日付の不動産売買契約書には、本件A土地建物及び本件B土地建物の各売買価額が記載されていなかったこと、不動産表示が本件分筆後の表示となっていなかったこと並びに別表4−2の番号2欄に記載した○番3の2の居宅に附属する未登記の茶室が表示されていなかったことから、これらを明確にするためであった。
ト 請求人は、平成20年3月10日、本件A土地建物の譲渡に係る譲渡所得の金額の計算において、本件特例を適用する旨記載した平成19年分の所得税の確定申告書を原処分庁に提出した。

(5) 争点

 本件A建物は、措置法第35条第1項に規定する個人がその居住の用に供している家屋に該当するか否か。

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2 主張

原処分庁 請求人
 本件贈与は、本件A土地建物を譲渡することが確定的になった後に行われており、本件贈与の時点では、請求人は、引っ越しまで一時的に本件A建物を使用する意図を有していたにすぎず、既に本件A建物を生活の拠点として継続して使用する意思を持っていなかったと認められ、本件A建物の所有期間である本件贈与から譲渡までの期間については、真に居住の意思を持って客観的にも生活の拠点として利用していると認められる期間はないから、本件A建物は、措置法第35条第1項に規定する個人が居住の用に供している家屋には該当しない。  請求人及びDは、平成18年1月には本件A建物及びその敷地に係る贈与の検討を開始し、同年5月下旬には贈与のための分筆を依頼し、同年7月1日に本件贈与により請求人が本件A土地建物を取得しているところ、請求人は、本件贈与を挟んで、10年以上にわたって本件A建物を生活の拠点としていた上、本件贈与により本件A土地建物の所有者になってからも、本件A建物に居住の意思を持って居住し、同月19日に本件A土地建物の譲渡に係る不動産売買契約を締結して以降、同年12月末まで現実に本件A建物に居住していた。
 措置法第35条第1項には、所有期間及び居住期間についての定めはないから、請求人が本件A建物の所有者になってからの居住期間が短かったとしても、本件A建物は、同項に規定する個人が居住の用に供している家屋に該当する。

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3 判断

(1) 争点について

イ 法令解釈
 措置法第35条第1項の規定は、居住用財産を譲渡した場合には、譲渡者は再び居住用代替資産を取得する蓋然性が高いこと、通常の家屋であれば特別控除の額の範囲内で取得できるであろうとの配慮から、居住用財産の譲渡者が所得税の負担なくして普通程度の居住用代替資産を取得することを可能にする趣旨に出たものであり、この趣旨からすれば、譲渡者が当該家屋をその所有者として居住の用に供していたことを特別控除を認めるための要件とするものと解される。
 また、措置法第35条第1項が特別控除について連年の適用を認めず、3年間に一度の適用を認めたにとどまることにかんがみると、同項の適用を受けるためには、自らが所有する家屋について、真に所有者として居住する意思を持って、客観的にもある程度の期間継続して生活の拠点としていたことを要すると解すべきであり、その判定に当たっては、住居移転の経緯、居住の期間及び居住の態様等について総合考慮してこれを決すべきである。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人は、平成8年にP市からQ市に帰り、空き家になっていた本件A建物に入居し、居住を開始した。
 請求人は、本件売買契約を締結した以降も本件A建物に居住し、平成18年12月末まで本件A建物に居住していた。
(ロ) 請求人は、自らの生家であるX家を継ぐ立場にあったことから、本件土地建物を将来一人で管理していくことはできないと請求人の父であるE及びDに話をしていた。
 Eは、平成17年11月から12月にかけて、不動産仲介業者であるG社のHを介して、自らが営むX診療所(Q市q町に所在する。)に隣接する土地を購入することを検討していたところ、その当時、請求人はHに対し、本件土地建物をいずれは手放すつもりであると伝えた。
(ハ) Hは、上記(ロ)の請求人の話を受け、平成18年1月、本件土地建物の隣に居住しているJに本件土地建物の売買に関する話を持ちかけた。
 Jは、本件土地建物の売買について、子のFに話したところ、Fは、本件土地が自宅の隣地であること、茶道を趣味としていたので茶室が建てられていることに興味を覚え、その後の交渉の中で、売買価額が65,000,000円程度なら借金をしてでも買いたいと考え、Jを介してHにその旨伝えた。
(ニ) 請求人及びDは、平成18年1月下旬、HからJが本件土地建物を一括して65,000,000円で購入する希望を持っている旨の話を聞いた。
 請求人及びDは、そのころ、平成17年12月○日に急逝したEの相続税の相談をしていたK税理士に対し、Hから聞いた本件土地建物の売買の話を持ち出したところ、K税理士は、請求人及びDに対し、請求人が本件A建物に10年も住んでいるので、請求人がDから本件A建物及びその敷地の贈与を受けた上で譲渡すれば、当該贈与に係る贈与税について相続時精算課税制度の適用が受けられ、当該譲渡に係る譲渡所得について本件特例の適用が受けられる旨助言した。
 請求人及びDは、K税理士に対し、本件土地の測量、分筆等の贈与に向けた手続の窓口になって欲しい旨依頼し、K税理士もこれを応諾した。
(ホ) K税理士は、平成18年3月末ころ、請求人がDから本件A建物及びその敷地の贈与を受けた場合の贈与税について検討するため、本件土地及び本件A建物の評価を行った。
 K税理士は、平成17年分の路線価等により本件土地の評価額を算定した上で、相続時精算課税に係る贈与税の控除の金額の上限額が25,000,000円であることから、請求人の受贈価額が25,000,000円を少し超えるよう検討を加え、本件土地の半分と請求人が居住している本件A建物を贈与することを請求人及びDに提案することとした。
(ヘ) 平成18年5月のゴールデンウィークのころ、請求人は、Jから、仲介の件で不快な思いをしたので、本件土地建物の売買の話をHに断った旨伝えられた。
 その際、Jは、請求人に対し、同人からもHに断ってもらいたい旨申し入れ、併せて、このことは他言しないようにと依頼した。
 その数日後、請求人は、Hの訪問を受けた際に、同人に対し、本件土地建物の売買の話はこれ以上進められない旨申し渡した。
(ト) K税理士は、平成18年5月16日、1本件土地建物をD一人の名義で譲渡した場合の所得税額、2Dが請求人に本件A建物及びその敷地について25,000,000円相当額の贈与をした後に請求人及びDが本件土地建物を譲渡した場合において、請求人が贈与について相続時精算課税制度を適用した場合の贈与税額及び譲渡について本件特例を適用した場合の所得税額並びにDの譲渡に係る所得税額、3Dが請求人に本件A建物及びその敷地について30,000,000円相当額の贈与をした後に請求人及びDが本件土地建物を譲渡した場合において、請求人が贈与について相続時精算課税制度を適用した場合の贈与税額及び譲渡について本件特例を適用した場合の所得税額並びにDの譲渡に係る所得税額を、それぞれ試算した。
 K税理士は、平成18年5月17日、請求人及びDに対し、上記各試算内容(各人の所得税額及び贈与税額)について説明するとともに、上記(ホ)の検討内容を提案したところ、請求人及びDは、この提案に基づき、本件A建物及びその敷地の贈与に際して必要となる本件土地の分筆については、請求人に贈与される土地と贈与後にDに残る土地の面積を等分になるように分筆することを決定し、その手続をK税理士に委任した。
 K税理士は、平成18年5月17日、本件土地の分筆について上記決定結果をHに伝え、併せて、分筆費用が少なくなるよう指示したところ、同月22日、Hから別表2−1の番号1の土地を別紙のとおり二分する案を示されたので、これに合意し、Hを介してL土地家屋調査士に本件土地の測量及び別表2−1の番号1の土地の分筆を依頼した。
(チ) L土地家屋調査士は、平成18年6月22日ころ、本件土地の測量を行い、同月24日、本件土地全体の地積測量図を作成し、同月26日、別表2−1の番号1の土地の地積測量図(本件分筆により別表3−1の番号1及び番号5の各土地に分筆される各土地の地積測量図)を作成した。
(リ) Jは、平成18年6月、Dに電話し、本件土地建物の売買の話をしたいと申し出て、同月中旬、D宅を訪れ、請求人及びDに対し、正式に本件土地建物の購入の申込みを行った。
 その際、Jは、請求人及びDに対し、仲介人を入れず直接本件土地建物の売買の話を進めたいという意向であること、購入するのはFであり本件土地建物を一括して購入すること、売買価額を65,000,000円とし、手付金を10,000,000円支払うつもりであることなどの諸条件を提示した。
(ヌ) 請求人は、Jから上記(リ)の諸条件を提示した購入の申込みを受けた直後、その内容を知り合いの不動産業者に相談したところ、当該不動産業者から、本件土地建物を一括して購入したいという申出であり、売買価額が65,000,000円という金額であれば路線価からみても良い話である旨助言されたので、請求人及びDは、本件土地建物を譲渡することを決断し、請求人は、Jに電話でその旨連絡した。
 なお、請求人がJに同人からの購入申込みを受諾する旨連絡した時期について、請求人は、当審判所に対し、「Jに返事をしたのは6月だったと思います。」と答述しているところ、K税理士が、当審判所に対し、「平成18年6月26日にはX診療所の生前贈与の評価と業務日誌に記録しているので、詳細を再計算したものだと思います。同月28日にX家を訪問しており、土地評価の関係を説明していると思います。その日の段階では売買価額が65,000,000円ということは聞いた上で、また、分筆面積も決まった結果を基に詳細を再計算したものです。」旨答述していることからすれば、請求人は、K税理士が詳細を再計算した同月26日までに、Jに同人からの購入申込みを受諾する旨連絡したものと認められる。
(ル) その後、F及びJは、平成18年7月に入って、本件土地建物の売買契約書の原案を作ってD宅を訪問し、売買契約の特約事項などについて請求人及びDと協議し、同月19日、請求人及びDとFとの間で、本件売買契約が締結された。
ハ 判断
(イ) 本件贈与に至る状況
 上記ロの(ロ)から(ニ)までのとおり、請求人及びDは、平成18年1月、Hを介して、本件土地建物の譲渡についてJとの交渉を開始したこと、請求人及びDは、平成18年1月下旬以降、K税理士から、当時、請求人が居住していた本件A建物及びその敷地をDから贈与を受ければ、当該贈与に係る贈与税について相続時精算課税制度の適用を受けることができ、さらに、本件土地建物を譲渡した後、請求人の譲渡所得について本件特例の適用を受けることができる旨助言されたことからすれば、請求人及びDは、本件土地建物を一括して譲渡することを前提として、Dが請求人に本件A建物及びその敷地を贈与することを検討し始めたことが認められる。
 その後、上記ロの(ヘ)のとおり、平成18年5月にHを介して行われたDとJとの間の本件土地建物の譲渡に係る交渉はいったん中断されたものの、請求人が本件A建物及びその敷地を受贈した後の譲渡について本件特例の適用を受けるには、本件A建物の敷地を明らかにする必要があったため、請求人及びDは、本件A建物及びその敷地の贈与のための手続、すなわち、本件土地を分筆するための手続を進めたことが認められる。
 そして、1上記ロの(ト)のとおり、請求人及びDは、K税理士から、贈与税額及び譲渡所得に係る所得税額の試算内容の説明を受けながら、相続時精算課税に係る贈与税の控除の金額の上限額が25,000,000円であるため、請求人の受贈価額が25,000,000円を少し超えるようにして、本件土地の半分と請求人が居住している本件A建物を贈与することとしてはどうかという提案を受け、本件土地の面積が等分になるように分筆することを決定したこと、2本件土地は、別紙のとおり、本件A建物及び本件B建物の各敷地に対応する形で分筆されず、別表3−2の番号2の家屋番号○番3の2の建物が分筆後の別表3−1の番号5の土地にはみだすという状況となり、本件贈与後にDに残る本件B土地も不整形地となり、後日、別表3−2の番号2の家屋番号○番3の2の建物の附属建物として登記される茶室が本件A土地と本件B土地にまたがるという状況になり、請求人及びDは、本件A土地建物及び本件B土地建物を別々に譲渡することが困難になったことにかんがみれば、本件分筆は、本件贈与により請求人及びDがそれぞれ所有することとなる本件A土地建物及び本件B土地建物を一括して譲渡することを前提として、請求人が本件A土地建物の譲渡について、本件特例を適用して譲渡所得の申告をすることを目的としてなされたものと認めるのが相当である。
(ロ) 個人がその居住の用に供している家屋に該当するか否か
 上記(イ)で述べた本件贈与に至る事実関係の下、上記ロの(リ)及び(ヌ)のとおり、請求人及びDは、Jから中断前と同じ価額で本件土地建物の購入申込みを受け、平成18年6月26日までに、Dが、請求人と協議の上、Fの購入申込みを受諾する旨回答していることからすれば、請求人及びDとFとの間では、同日の時点では、譲渡物件、譲渡価額及び手付金の額も決定しており、同日以降は、売買契約の締結に向けた細部の取決めをするだけの状況になったものと認められるから、本件土地建物はFに譲渡されることが予定されていたものといえる。
 そして、請求人は、そのことを承知した上で本件A土地建物の贈与を受けたものと認められるから、請求人がDから本件A土地建物の贈与を受けて所有者となった平成18年7月1日以降において、請求人は、本件A建物を、所有者として居住する意思を持って居住の用に供していたものとは認められない。
 したがって、本件A建物は、措置法第35条第1項に規定する個人がその居住の用に供している家屋に該当しない。
(ハ) 請求人の主張
 上記2の「請求人」欄のとおり、請求人は、10年以上にわたって本件A建物を生活の拠点としており、平成18年7月1日に本件A建物の所有者になってから、本件売買契約を締結して以降同年12月末までの期間、本件A建物に居住の意思を持って居住していたものであるところ、措置法第35条第1項には、所有期間及び居住期間についての定めはないから、本件A建物の所有者になってからの居住期間が短かったとしても、本件A建物は、同項に規定する個人が居住の用に供している家屋に該当する旨主張する。
 しかしながら、上記イのとおり、措置法第35条第1項に規定する個人がその居住の用に供している家屋に該当するためには、当該家屋を、所有者として居住する意思を持って、居住の用に供していたことを要するものと解されるから、本件贈与により請求人が本件A建物の所有者となる前の居住期間は、同項の適用を判断するに当たり考慮すべき事実とはならない。
 また、請求人が本件A建物の所有者となった平成18年7月1日以降、請求人が本件A建物を所有者として居住する意思を持って居住の用に供していたものとは認められないことは、上記(ロ)で述べたとおりである。
 なお、措置法第35条第1項に所有期間及び居住期間が定められていないから、これを考慮する必要はないという趣旨の請求人の主張については、同項にいう居住は、その家屋の所有者として、真に居住の意思を持って居住している場合をいうものであって、この要件に該当するか否かを判断するに当たり、当該家屋を所有者としてある程度の期間継続して生活の拠点としていたか否かは重要な判断要素というべきであるから、これを考慮しないとする請求人の主張は理由がない。
 以上のとおり、請求人が本件A建物に居住していた全期間について、本件A建物を措置法第35条第1項に規定する個人がその居住の用に供している家屋であると認めることはできないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(2) 本件更正処分について

 上記(1)のハの(ロ)のとおり、本件A建物は、措置法第35条第1項に規定する個人がその居住の用に供している家屋に該当せず、本件A土地建物の譲渡に本件特例を適用することはできない。
 これを前提に、当審判所が平成19年分の分離長期譲渡所得の金額を算定すると○○○○円となり、この金額は本件更正処分のそれと同額となるから、本件更正処分は適法である。

(3) 本件賦課決定処分について

 上記(2)のとおり、本件更正処分は適法であり、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件更正処分前の税額の計算の基礎とされなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてされた本件賦課決定処分は適法である。

(4) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によってもこれを不相当とする理由は認められない。

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