(平22.1.12、裁決事例集No.79)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、租税特別措置法(平成21年法律第13号による改正前のものをいい、以下「措置法」という。)第41条《住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除》第1項に規定する所得税額の特別控除(以下「住宅借入金等特別控除」という。)を適用して所得税の確定申告をしたところ、原処分庁が、請求人は取得した家屋の床面積の2分の1以上に相当する部分を専ら居住の用に供していないため、住宅借入金等特別控除を適用することはできないとして更正処分等を行ったことから、請求人が、取得した家屋のうち居住の用に供している部分を区分所有しており、その区分所有された部分の2分の1以上を居住の用に供しているとして、その全部の取消しを求めた事案であり、争点は、請求人は、取得した家屋のうち居住の用に供している部分を区分所有していると認められるか否かである。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成19年分の所得税について、住宅借入金等特別控除を適用し、確定申告書に別表の「確定申告」欄のとおりに記載して、法定申告期限までに申告した。
ロ 原処分庁は、平成20年11月28日付で別表の「更正処分等」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、これらの処分を不服として、平成21年1月15日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年3月13日付で棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成21年4月13日に審査請求をした。

(3) 関係法令等

 別紙のとおりである。

(4) 基礎事実

イ 請求人は、平成19年6月○日に新築したP市Q町○−○所在の家屋番号○番○の鉄筋コンクリート造陸屋根地下1階付き3階建の家屋(以下「本件家屋」という。)を取得し、同月○日付で本件家屋を一棟の建物とする旨の表示登記を、また、同月○日付で本件家屋の所有者を請求人とする保存登記をそれぞれ経由した。
ロ 本件家屋の床面積は1階部分137.69平方メートル、2階部分147.76平方メートル、3階部分147.76平方メートル、地下1階部分105.50平方メートルの合計538.71平方メートルである。
ハ 請求人は、1階、2階及び地下1階を賃貸の用(以下、当該賃貸用部分を「本件賃貸用部分」という。)、3階を請求人の居住の用(以下、当該居住用部分を「本件居住用部分」という。)にそれぞれ供している。

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2 主張

原処分庁 請求人
(1) 租税特別措置法施行令(以下「措置法施行令」という。)第26条第1項第2号にいう区分所有するとは、建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という。)に規定している区分所有と同一の意義を有する概念として使用されているとみるのが相当であり、区分所有法における区分所有の規定からすれば、一棟の建物につき区分所有が成立するためには、所有者において各部分を各別の建物とする意思が必須であり、その意思を客観的に認識し得るものとして区分建物の表示登記又は保存登記がなされることを要すると解すべきである。 (1) 区分所有法と措置法は、立法趣旨を異にするものであるから、措置法第41条第1項の適用に当たっては、取得した建物が、借入金、面積、使用割合の3条件についてその適否が判断されれば足り、区分所有権が登記されているか否かが問われるものではない。
(2) そうすると、本件家屋については、一棟の建物とする表示登記及び所有者を請求人とする保存登記をしているだけであるから、区分所有が成立しているとは認められない。 (2) 請求人は、本件居住用部分を居住の用に供しており、区分所有の意思も、建築着手段階から、利用目的を階層別に明確に区分することによりこれを示している。また、住宅ローンと事業ローンと全く区別した借入れをした事実からも、十分区分所有についての意思は確認できる。
 ただ、現段階において所有権を移転する予定も必要もないから、多額の経費をかけて区分所有権の登記をする意味がないため、その手続を留保しているにすぎない。
 したがって、本件家屋は、本件居住用部分と本件賃貸用部分が実質的に区分所有されているものというべきである。
(3) したがって、本件家屋の床面積538.71平方メートルに対して、本件居住用部分の床面積は147.76平方メートルであるから、措置法施行令第26条第1項に規定する「その家屋の床面積の2分の1以上に相当する部分が専ら居住の用に供されているもの」に該当しない。 (3) 上記(1)のとおり、請求人は本件居住用部分を区分所有しており、しかもすべて居住の用に供しているのであるから、措置法施行令第26条第1項に規定する「その家屋の床面積の2分の1以上に相当する部分が専ら居住の用に供されているもの」に該当する。

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3 判断

(1) 法令解釈

 措置法施行令第26条第1項第2号は、一棟の家屋で、その構造上区分された数個の部分を独立して住居その他の用途に供するものにつきその各部分を区分所有する場合には、その者の区分所有する部分の床面積が50平方メートル以上であるものにつき、措置法第41条第1項に規定する住宅の用に供する家屋に該当する旨規定している。

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(2) ところで、一般に、租税法規が一般私法において使用されているのと同一の用語を使用している場合には、特に租税法規が明文をもって他の法規と異なる意義をもって使用することを明らかにしている場合又は租税法規の体系上他の法規と異なる意義をもって使用されていると解すべき実質的理由がない限り、私法上使用されているのと同一の意義を有する概念として使用されているものと解するのが相当であるから、ここでいう区分所有とは、区分所有法が規定する区分所有と同様に解すべきである。
 そして、一棟の建物は一個の所有権の客体となるのが原則であって、一棟の建物につき区分所有が成立するためには、建物の各部分が独立の構造を有し、区分された数個の部分で、独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用に供することができるだけでは足らず、その各部分が所有権の客体として、取引上、別個の物とされることが必要であり、その前提として、所有者の各部分を各別の建物とする意思が必須の要件であるところ、右意思は客観的に外部から認識され得るものでなければ別個の物として取引の対象となり得ないから、一棟の建物が同一人の所有に属するときは、右意思を客観的に認識し得るものとして区分建物の表示登記又はその保存登記がなされることを要すると解すべく、右登記が経由されない限り同一人の所有に属する一棟の建物は一個の建物であると解するのが相当である。

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(3) 本件更正処分について

イ 本件家屋については、平成19年6月○日にこれを一棟の建物として表示登記が経由され、同月○日、一棟の建物として請求人のために所有権保存登記がなされたものであるから、本件家屋は一棟の建物として登記された一個の建物といわざるを得ず、本件居住用部分を区分所有したものと認めることはできない。
 そして、本件家屋は、地下1階地上3階建ての建物で、請求人はそのうち3階部分を居住の用に供していることから、その居住の用に供している部分の割合は上記1の(4)のロによれば約27%であり、本件家屋の床面積の2分の1以上でないことは明らかである。そうすると、請求人は、住宅借入金等特別控除の適用を受けることができる家屋を取得したことにはならないので、同控除の適用はできない。
ロ この点、請求人は、措置法第41条第1項の適用に当たっては、取得した建物が、借入金、面積、使用割合の3条件についてその適否が判断されれば足り、所有権が登記されているか否かが問われるものではない旨主張する。
 しかしながら、措置法第41条は、中低所得者層の計画的な持家取得を促進する観点から、居住者が住宅等の取得等をし、かつ、住宅借入金等を有するときは、一定の要件のもとで、特例として税額控除を認めるというものであるから、その解釈、適用は、税負担公平の原則から厳格になされるべきものであって、同条の適用は、請求人の区分所有の意思が客観的に認識できる場合に限定されるものと解するのが相当であり、請求人は、本件家屋全体を一棟の建物として登記していることから、本件居住用部分を区分所有したとは認められないと判断したものである。したがって、請求人の主張は採用できない。
ハ また、請求人は、本件家屋は、区分所有権を設定することのできる構造を十分満たした建物であり、利用目的を階層別に明確に区分することにより、建築着手段階から意思を示している旨主張する。
 しかしながら、本件家屋が区分所有権を設定することのできる構造を十分満たした建物であり、本件家屋を各部分に区分して利用していることは、本件家屋が区分所有権の客体となる構造及び利用上の独立性を有していることを意味しているにすぎず、このことから直ちに区分所有の意思が客観的に認識できることとはならないから、請求人の主張は採用できない。

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(4) 以上のとおり、請求人の平成19年分の所得税について住宅借入金等特別控除の適用は認められないから、住宅借入金等特別控除額を零円とした本件更正処分は適法である。

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(5) 本件賦課決定処分について

 上記(4)のとおり、本件更正処分は適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に従ってされた本件賦課決定処分は適法である。

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(6) 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によってもこれを不相当とする理由は認められない。

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