(平22.2.15、裁決事例集No.79)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、白蟻防除業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が損金の額に算入した損害保険料及びゴルフ会員権の譲渡損失について、原処分庁が、白蟻防除施工に係る当該損害保険料のうち保証期間の経過していない期間に係る金額については損金の額に算入することはできず、また、ゴルフ会員権に係る取引は預託金制ゴルフ会員権から株式制ゴルフ会員権への転換であるから譲渡とはみなされないとして法人税の更正処分等を行ったのに対し、請求人が、当該損害保険料は支払時にその全額を損金の額に算入することが認められるとして、また、ゴルフ会員権に係る取引については、譲渡とみなされないとしても、転換後の株式制ゴルフ会員権に係る評価損を損金の額に算入できるなどとして同処分等の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 請求人の審査請求に至る経緯等は、別表1のとおりであるが(以下、平成15年9月1日から平成16年8月31日まで、平成16年9月1日から平成17年8月31日まで、平成17年9月1日から平成18年8月31日まで及び平成18年9月1日から平成19年8月31日までの各事業年度を順次「平成16年8月期」、「平成17年8月期」、「平成18年8月期」及び「平成19年8月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。また、本件各事業年度の平成20年8月29日付の再更正処分及び各更正処分を「本件各更正処分」といい、平成17年8月期、平成18年8月期及び平成19年8月期の過少申告加算税の各賦課決定処分を「本件各賦課決定処分」という。)、請求人は、本件各更正処分及び本件各賦課決定処分を不服として、平成21年2月19日に審査請求をした。

(3) 関係法令等

 別紙1のとおり

(4) 基礎事実

 以下の事実については、請求人と原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、白蟻防除業を目的として昭和43年○月○日に設立された法人である。請求人は、顧客(白蟻防除施工契約者)に対し白蟻防除施工の作業終了後保証書を交付し、保証期間(5年間)内にヤマトシロアリによる損害が発生したときは、当該顧客に対して(損害賠償、再防除施工等の)保証を行うこととしている。
ロ 請求人は、上記イの保証に備えるため、J保険会社との間で、白蟻防除施工に係る賠償責任保険契約(以下「本件保険契約」という。)を締結し、本件保険契約に係る保険料(以下「本件保険料」という。)の全額を1回で支払い、その支払った日の属する事業年度の損金の額に算入した。
ハ また、請求人は平成2年7月○日、預託金制ゴルフ会員権1口を45,000,000円で取得した。その後、当該会員権は、平成19年8月期に株式制ゴルフ会員権に転換され、請求人は当該転換に伴い、24,000,000円の譲渡損失が発生したとして当該金額を損金の額に算入した。
ニ 原処分庁は、1上記ロの本件保険料について、本件各事業年度の損金の額に算入できる金額は、保証期間(5年間)に係る月数(60か月)のうち、本件各事業年度に係る月数分だけであるから、本件各事業年度の翌事業年度以降に係る月数分(本件保険料を60か月で除した金額に、翌事業年度以降の月数を乗じた金額)は前払費用として本件各事業年度の損金の額に算入されない、また、2上記ハの譲渡損失については、転換の前後において資産の同一性が維持されており、譲渡とはみなされないから、転換による譲渡損失の計上は認められないとする更正処分をした。

(5) 争点

 本件の争点は、次の2点である。
争点1 本件保険料は、その支払時に全額を損金の額に算入することができるか否か。
争点2 転換後の株式制ゴルフ会員権に係る評価損を損金の額に算入することができるか否か(その前提として、転換の前後において資産の同一性が維持されているのか。)。

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2 主張

 別紙2のとおり

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3 判断

(1) 争点1について

イ 法令解釈
 法人税法(平成21年法律第13号による改正前のもの。以下同じ。)第22条第3項第1号及び第2号は、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入すべき金額として、別段の定めがあるものを除き、1当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額及び2当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額を規定しており、この場合における1の売上原価等は、当該事業年度の売上に個別的に対応する費用であり、2の販売費、一般管理費等は、当該事業年度の期間に対応する費用をいい、これらは、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとされている。
 そして、法人が、一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出する費用のうち、当該事業年度終了の日においてまだ提供を受けていない役務に対応するものについては、たとえ費用として支払があったとしても、これらは、期間対応により役務提供を受けた事業年度において費用に計上されることから、法人税法施行令(平成21年政令第105号による改正前のもの。以下同じ。)第14条第2項に規定する前払費用として当該事業年度の損金の額に算入すべき金額から除かれる。
 なお、法人税基本通達2−2−14において、法人が、前払費用の額で、その支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときは、これを認めることとされているところ、当該通達は、企業会計上の重要性の原則に基づく経理処理と同様の立場に立つものであり、当審判所においても相当であると認められる。
ロ 認定事実
 原処分関係資料、請求人提出資料及び関係人の答述によれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件保険契約には、白蟻防除業者のための白蟻防除業者特別約款(以下「特別約款」という。)が適用される。特別約款によれば、本件保険契約は、顧客に対する保証期間(起算日は防除施工完了日)中に発生した損害をてん補するものであるとされている。
(ロ) 請求人は、平成8年7月1日、平成16年7月1日、平成17年7月1日及び平成18年7月1日にJ保険会社との間で、白蟻防除施工に係る本件保険契約について特約を締結した(以下、当該各特約に係る各契約書を併せて「本件各特約書」という。)。
 本件各特約書によれば、請求人は防除施工契約者に対して発行したすべての保証書に関し本件保険契約を付することとされている。また、本件各特約書に係る特約の有効期間は、いずれも締結日の午後4時から1年後の午後4時までとされており、解除の意思表示をしない限り1年ごとの自動更新とされている。
(ハ) 請求人は、毎年、J保険会社から、保険期間をいずれも1年間とする賠償責任保険証券及び賠償責任保険証券明細書を受領している。
(ニ) 本件保険契約に係る保証期間については、上記(イ)及び(ロ)のとおり、特別約款等により請求人の顧客に対する保証期間とされているところ、上記1の(4)のイのとおり、請求人は顧客に対して保証期間を白蟻防除施工の作業終了後5年間としているから、請求人の施工が終了した白蟻防除施工ごとに5年間となる。
(ホ) 請求人は、J保険会社の代理店であるK社からの請求書に基づき保証期間(5年間)に係る本件保険料を支払い、当該金額を本件各事業年度の損金の額に算入した(別表2の1欄の「損金計上額」記載の各金額)。
(ヘ) 請求人の白蟻防除施工日と損害があった日との間に1年以上の隔たりのあるものについて保険金を請求した事実は次のとおりであり、本件保険契約の保証は実際に1年以上に及んでいる。

防除施工契約者 施工日 損害があった日 保険金請求日
L 平成16年7月31日 平成19年11月26日 平成20年3月17日
M 平成17年4月18日 平成19年11月20日 平成20年1月21日
N 平成17年5月12日 平成19年12月5日 平成21年1月21日

(ト) J保険会社の生産物賠償責任保険(以下、当該保険に係る契約を「生産物保険契約」という。)の対象は、被保険者が製造又は販売した生産物に基因して保険期間中(1年)に日本国内で発生した事故とされている。
ハ 当てはめ
(イ) 請求人は、本件保険料について、1本件保険契約と生産物保険契約は同一性を有しており、生産物保険契約の保険料は支払時に全額を損金の額に算入することが認められている、また、2本件保険料は白蟻防除施行に係る売上高に対応する原価であるとして、本件保険料も支払時に全額を損金の額に算入することが認められるべきである旨主張し、原処分庁は、1本件保険契約は白蟻防除施行後5年間の保証期間に係るものであり、本件各事業年度終了の日においていまだ役務の提供を受けていない役務に対応するものは前払費用に該当する、2本件保険料は売上高に対応する原価ではなく販売又は営業活動に係る費用であるとして、支払時に本件保険料の全額を損金の額に算入することはできない旨主張する。
(ロ) 本件保険料が支払時に全額損金の額に算入されるか否かについての当審判所の判断は、次のとおりである。
A 本件保険料は、白蟻防除施工に関連して発生するものであるが、請求人の白蟻防除施工に必要な材料費や労務費等のように当該施工を完了するために直接要する原価としての性質を有するものではなく、請求人が白蟻防除施工完了後、請求人自ら負担することとなる損害賠償責任をてん補するため自己を被保険者として支払うものであるから、請求人における販売又は営業活動に係る費用として、販売費、一般管理費等に該当するものと認められる。
B また、上記ロの(ニ)のとおり、本件保険契約は、請求人が顧客に交付する保証書の保証期間(5年間)と同一の期間にわたり発生した損害をてん補するものであり、白蟻防除施工の作業終了後5年間保証されるものである。
 そうすると、本件保険料のうち本件各事業年度の翌事業年度以降の保証期間に係るものについては、請求人は、本件各事業年度終了の日までに本件保険契約に係る役務提供(保険サービス)を受けているとはいえないから、本件各事業年度において損金の額に算入することはできず、上記イの前払費用として期間対応により保険サービスを受ける事業年度において費用に計上されることになる。
C なお、請求人の主張に係る生産物保険契約の保険料は保証期間を1年間とするものであり、仮に本件保険料に前払費用に該当する部分があったとしても法人税基本通達2−2−14に定める短期の前払費用に該当する場合には、支払時にその全額を損金の額に算入することが認められるものと解される。しかしながら、本件保険料は5年間の保証期間に対する役務提供の対価として支払われたものであり、上記の生産物保険契約の保険料と異なり同通達に定める短期の前払費用には該当しない。
 したがって、請求人の上記(イ)の主張はいずれも採用できないから、本件保険料は、支払時にその全額を損金の額に算入することはできない。

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(2) 争点2について

イ 法令解釈
(イ) 法人税法第33条第1項は、原則として、資産の評価損は、各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入しない旨規定し、同条第2項は、金銭債権を除く資産につき災害による著しい損傷その他の政令で定める事実が生じたことにより、当該資産の価額がその帳簿価額を下回ることとなった場合に、当該法人が当該資産の評価換えをして損金経理によりその帳簿価額を減額したときは、その減額した部分の金額のうち、その評価換えの直前の当該資産の帳簿価額とその評価換えをした日の属する事業年度終了の時における当該資産の価額との差額に達するまでの金額は、同条第1項の規定にかかわらず損金の額に算入する旨規定している。
(ロ) また、法人税法施行令第68条第1項第2号ロは、法人税法第33条第2項の「政令で定める事実」として、上場有価証券等以外の有価証券については、「有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化したことにより、その有価証券の価額が著しく低下したこと」とする旨規定しているところ、当該規定の判断基準については法人税基本通達9−1−9及び同通達9−1−11に具体的に定められている。
(ハ) 法人税基本通達9−1−9の(2)は、「有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化したこと」について、当該事業年度終了の日における当該有価証券の発行法人の1株当たりの純資産価額が当該有価証券を取得した時の当該発行法人の1株当たりの純資産価額に比しておおむね50%以上下回る場合である旨定め、また、同通達9−1−11は、「有価証券の価額が著しく低下したこと」について同通達9−1−7を準用し、当該有価証券の当該事業年度終了の時における価額がその時の帳簿価額のおおむね50%相当額を下回ることとなり、かつ、近い将来その価額の回復が見込まれないことをいうものとする旨定めている。
(ニ) そして、上記(イ)のとおり、法人税法が資産の評価損の損金算入を原則として認めていないことからすれば、その例外である資産の評価損の損金算入を認める場合を規定する法人税法第33条第2項及び同法施行令第68条の取扱いについては、これを限定的に解すべきであり、また、評価損の損金計上を認める場合の例示として災害による著しい損傷を挙げていることからすると、政令で定める事実については、これと同程度ないしはそれに準ずる程度の資産価値の減少が生じていることを要すると解される。
 そうすると、法人税基本通達9−1−9及び同通達9−1−11が、有価証券を発行する法人の資産状態の著しい悪化や有価証券の価額の著しい低下の判断基準として50%基準を採用していることは、評価損の損金算入要件の具体的判断基準として合理性を有しており、この取扱いは当審判所においても相当であると認められる。
ロ 認定事実
 原処分関係資料、請求人提出資料及び関係人の答述によれば、次の事実が認められる。
(イ) V社は、Wゴルフクラブの経営等を目的として、昭和59年○月○日に設立された法人であり、P市Q町○○番地所在のゴルフ場及びその付属施設(以下「本件ゴルフ場」という。)を所有及び管理している。
(ロ) 請求人は、平成2年7月○日、V社からWゴルフクラブの預託金制ゴルフ会員権1口を45,000,000円で取得した。その内訳は、預託金が42,000,000円(以下「本件預託金」という。)、入会金が3,000,000円であった。
 そして、平成8年○月○日、同会員権1口が2口に分割された(以下、分割後の会員権2口を「本件預託金会員権」という。)。
(ハ) その後、V社は、本件預託金会員権に係る預託金返還問題を回避するため、グループ企業のX社から、預託金制ゴルフ会員権を株式制ゴルフ会員権に転換する一連のスキームの提案を受けた。
 当該提案を受け、V社は、Wゴルフクラブの会員に対し、Wゴルフクラブを新たに経営する会社を設立し、Wゴルフクラブを株式制のゴルフクラブに改革することを説明した。
 平成18年○月○日、Wゴルフクラブを新たに経営する会社としてY社が設立された。
 同社は、同年○月○日から、V社よりWゴルフクラブの運営の委託を受け、運営を開始した。
(ニ) Y社は、平成18年○月○日付で、本件預託金会員権の株式制ゴルフ会員権への転換手続及び当該転換に伴う新株式発行手続を同時に行うために、会員に対し、預託金会員権変更契約書(以下「本件変更契約書」といい、同契約書において締結された契約を「本件変更契約」という。)、株式申込証、委任状(弁護士T宛)、譲渡代金受取方法及び配当金受取方法指定書並びに株式平日B会員権売買契約書の様式を送付し、当該様式に署名押印した上で、預託金証書とともにY社に返送するよう依頼し、請求人はこれに同意した。
(ホ) 本件変更契約書には、次の条項があり、本件預託金会員権を株式制ゴルフ会員権に転換(以下「本件転換」という。)するため(以下、転換後のWゴルフクラブの株式制ゴルフ会員権を「本件株式会員権」といい、本件預託金会員権と併せて「本件会員権」という。)、Y社が発行する甲種優先株式(以下「本件株式」という。)を、割り当てられた会員が引き受けることを条件とすることとされている。
A 会員及びY社との間において、会員は、V社の預託金会員であり、Y社は、V社からWゴルフクラブの運営を受託した会社で、本件株式を発行し、Wゴルフクラブの株式会員を募集する会社であることを確認する(第1条)。
B 会員は、Y社に対し、本件預託金会員権(額面金額21,000,000円×2口)を、平成18年○月○日限り、代金21,000,000円で譲渡する(第2条第1項)。
C Y社は、会員に対し、上記Bの譲渡代金を分割して、下記EないしGのとおり支払う(第2条第3項)。
D 会員は、上記Bの譲渡代金のうち、16,000,000円を本件株式8株(株式正会員権3株6,000,000円×2口(以下、株式正会員権2口を併せて「本件株式正会員権」という。)及び株式平日B会員権1株2,000,000円×2口(以下、株式平日B会員権2口を併せて「本件株式平日B会員権」という。)を引き受ける資金に充当することに予め同意する(第3条第1項)。
E Y社は、会員の指示に従い上記Dの株式引受代金相当額を平成18年○月○日に、別途会員が指定する代理人の口座に振り込むものとする(第3条第2項)。
F Y社は、上記Dの株式引受代金相当額を平成18年○月○日に、株式申込証拠金として代理人から、Y社の指定する取扱金融機関に払込みすることを、予め了承する(第3条第3項)。
G Y社は、預託金買取代金から株式引受代金相当額を差引いた差額金5,000,000円につき、本件株式引受手続完了後、速やかに会員が指定する口座に振り込むものとする(第3条第4項)。
H Y社は、上記DないしGの手続完了後、速やかに株券を会員に交付する(第4条)。
(ヘ) 上記(ホ)のBの譲渡価額は、本件預託金会員権の預託金の額面金額の50%である。当該価額は、他社の預託金問題の解決事例にならって額面金額の50%と決定したものであり、会員権相場を参考にしたものでもなく、また、時価純資産価額を算出して決定したものでもない。
(ト) Y社は、平成18年○月○日に増資を行っている。株式引受人である請求人は、同日に増資資金の払込みを行い同社の株主となった。なお、株式会員への転換に同意した会員については、Wゴルフクラブの会員資格は継続しているので、ゴルフ会員権の名義変更は行っていない。
(チ) Y社は、V社の預託金制ゴルフ会員権を取得したことにより、同社に対する預託金返還請求権を有してはいるが、Wゴルフクラブの法人会員とはなっていない。
(リ) Y社の平成18年6月から平成19年8月までの「優先株式優先時の優先株式1株当たり」の純資産価額の変動状況等は、次表「1株当たり純資産価額」欄の記載のとおりである。

(単位:千円)
  平成18年6月 平成18年12月 平成19年3月 平成19年7月 平成19年8月
増資額 ○○○○ ○○○○ - ○○○○ -
当期純損益 - - ○○○○ - -
純資産価額 ○○○○ ○○○○ ○○○○ ○○○○ ○○○○
発行済株式数 普通株式 2,000株 2,000株 2,000株 2,000株 2,000株
甲種優先株式 - 3,006株 3,006株 3,006株 3,006株
乙種優先株式 - 1,173株 1,173株 1,223株 1,223株
合計 2,000株 6,179株 6,179株 6,229株 6,229株
1株当たり純資産価額 総株数単純平均1株当たり ○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○
優先株式優先時の優先株式1株当たり - ○○○ ○○○ ○○○ ○○○
優先株式優先時の
普通株式1株当たり
○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○

(注)平成19年3月決算において、特別損失として預託金債権買取額に係る貸倒引当金を繰り入れたことにより、当期純損失を計上した。

(ヌ) Y社の発行する株式は、法人税法施行令第68条第1項第2号イに掲げる金融商品取引所に上場されている有価証券等(上場有価証券等)には当たらない。
(ル) Wゴルフクラブの2001年(平成13年)改訂版の会則上、正会員は、個人及び法人共に記名本人とし、理事会の承認を得て預り保証金及び入会金の払込みを完了した者とされている。また、2006年(平成18年)改訂版の会則上、正会員は、個人及び法人共に記名本人とし、理事会の承認を得て入会金の払込みを完了し、Y社の発行する株式を取得した株式会員若しくは既にV社に保証金の払込みを完了した預託金会員とされている。
(ヲ) 本件会員権に係る請求人の本件転換前後の帳簿価額は、次のとおりである。
A 本件転換前 ゴルフ会員権45,000,000円(入会金を含む)
B 本件転換後 投資有価証券16,000,000円
 請求人は、本件転換により取得した本件株式の価額16,000,000円(本件株式正会員権6株12,000,000円及び本件株式平日B会員権2株4,000,000円)を帳簿価額とするとともに、本件転換に伴い本件預託金会員権の譲渡があったとして、上記Aの帳簿価額45,000,000円から転換により取得した本件株式の価額16,000,000円と返還により受領した5,000,000円を控除した差額24,000,000円(1株当たり3,000,000円)を譲渡損失として平成19年8月期の損金の額に算入した。
C 請求人は、転換により取得した本件株式平日B会員権2株を4,000,000円でU社に譲渡した。
D この結果、請求人が平成19年8月期において有する本件株式会員権は本件株式正会員権6株(請求人の帳簿価額は12,000,000円)のみとなった。
(ワ) 原処分庁は、本件転換において本件預託金会員権の譲渡の事実は認められないとして、請求人が本件預託金会員権の譲渡損失として平成19年8月期において損金の額に算入した上記(ヲ)のBの金額24,000,000円を本件更正処分において所得金額に加算するとともに、平成19年8月期において譲渡した上記(ヲ)のCの株式平日B会員権2株に係る譲渡損失6,000,000円(1株当たり3,000,000円×2株)を所得金額から減算した。
ハ 本件転換前後における本件会員権の同一性について
 請求人が損金の額に算入することができると主張する本件株式正会員権に係る評価損(以下「本件評価損」という。)は、上記ロの(ヲ)の本件株式正会員権の帳簿価額を基に計上されるが、本件転換前後における本件会員権の帳簿価額の異同について、まず、本件会員権の同一性の有無から検討する。
(イ) ゴルフ会員権の法的性質
 預託金制ゴルフ会員権の法的性質は、優先的施設利用権、預託金返還請求権、年会費支払義務等の債権的法律関係を内容とする会員のゴルフ場経営会社に対する契約上の地位であり、このような包括的権利の一部を構成する預託金返還請求権は、据置期間経過後に退会を条件として初めて預託金の返還を受けることができるとされるのが一般で、施設利用権を有する間は顕在化しない、潜在的・部分的な権利である。これに対し、株式制ゴルフ会員権は、優先的施設利用権と株式が一体となった権利であり、株主がすなわち会員になるが、会員は、株主である期間中、株主としての地位に加えて、ゴルフ場の優先的施設利用権等を有する。
 そして、ゴルフ会員権は、ゴルフ場経営会社と会員との間のゴルフ場の利用をめぐる継続的な契約関係によって構成されるものであるから、当該契約関係が正常に継続している間は、包括的な権利義務関係の中の個別の一つを取り出して独立の権利の対象として他に移転するようなことは、上記ゴルフ会員権の法的性質に照らし、一個の法的地位を崩壊させる結果をもたらすことから許されず、かかる事態が発生すれば、当該ゴルフ会員権は同一性を維持することはできないことを意味する。
(ロ) 本件転換前後における本件会員権の同一性
 これを本件についてみると、本件転換においては、本件ゴルフ場に対する優先的施設利用権は請求人に残したまま(上記ロの(ト))、本件預託金の返還請求権(以下「本件預託金返還請求権」という。)についてのみY社に移転し(上記ロの(ホ)のB及び(チ))、その代金を同社に対する株式払込金として請求人に本件株式が発行され(上記ロの(ホ)のDないしH)、これにより預託金制から株式制のゴルフ会員権に転換されており、請求人の本件ゴルフ場に対する優先的施設利用権を行使する地位は、引き続き本件株式を所有することによって担保されていると認められる(上記ロの(ト)及び(ル))。
 また、本件預託金会員権のY社への譲渡及びY社の新株発行に対する払込みが同一の本件変更契約書によって合意され(上記ロの(ニ))、Y社からの譲渡代金の受領及び当該譲渡代金を株式払込金に充てることが同一の書面で弁護士に委任されていることからすれば、本件預託金返還請求権と本件株式は、法律上の権利義務の包括的集合体としての本件会員権の中においては、同じ意味を有するものと認められる。
 以上によれば、本件会員権は、優先的施設利用権との一体性を保ちつつ預託金制から株式制に性質が変容したものと認められ、本件転換の前後において、本件会員権の同一性はいまだ維持されているものということができる。
ニ 本件転換時における本件会員権の税務上の処理について
 次に、本件会員権の帳簿価額について、預託金債権という金銭債権の面及び株式としての取得価額という面から、本件転換時において帳簿価額の切り下げを行うべきか否かについて検討する。
(イ) 法人税法は、金銭債権について貸倒れ等の事情が生じたときに貸倒れ損として損失の計上を認めているが、当該貸倒損失が計上できる場合については法的に金銭債権の一部が切り捨てられた場合等に限られている。
 本件預託金会員権は、V社に対して本件預託金の返還を請求する法的権利をその内容とする金銭債権たる性質を潜在的に有することから、本件預託金返還請求権について当該債権の金額を減少させるには、当該債権の切捨て等法的貸倒れの状態が生じていなければならない。
 しかしながら、当審判所の調査において、預託金返還債務を有するV社において債務免除益等の計上の事実は認められず、また、当該返還請求権についてV社と会員との間で切捨て等の合意があったという事実もなく、本件預託金返還請求権は、そのままY社に移転していたものと認められる。
 そして、本件会員権は、上記ハの(ロ)のとおり、本件転換の前後でゴルフ会員権としての資産の同一性をなお維持しているところ、上記のとおり、本件預託金会員権についてその取得価額を減少させるべき事由は生じていないことから、本件転換時に、本件預託金返還請求権の一部の返還部分(5,000,000円)を除いては、本件株式会員権の取得価額を減額する理由はない。
(ロ) また、Y社が、本件預託金返還請求権に付した価額を本件預託金の額面金額の50%とした理由については、会員権相場等を基に決定したものではないことからすれば(上記ロの(ヘ))、本件転換のような一連のスキームにより取得した本件株式に対して付与された株式の1株当たり2,000,000円という価額も、会員から預託金債権を回収し株式制ゴルフ会員権に転換することを目的として付された名目的な価額にすぎず、当該価額には特に法的又は経済的理由の裏づけはないものと認められる。
 したがって、本件転換は、当事者の任意の時期に、任意の金額で転換したというほかなく、額面金額42,000,000円の本件預託金が、1株2,000,000円の本件株式8株に転換されたことをもって、本件会員権の帳簿価額45,000,000円(入会金を含む。)のうち返還金5,000,000円を除く40,000,000円について、直ちに16,000,000円に切り下げる理由はない。
(ハ) 以上によれば、本件転換によって、本件会員権の帳簿価額を切り下げることはできないと認められる。
ホ 本件株式正会員権の期末における本件評価損の計上の可否について
 上記ニのとおり、本件株式会員権の帳簿価額は、本件転換によって切り下げることはできず、本件預託金会員権の帳簿価額を引き継ぐこととするのが相当であるが、このことを前提に、平成19年8月期末に本件評価損の計上ができるか否かについて検討する。
(イ) 株式会員制のゴルフ会員権については、その性質は株式であることから、法人税法第33条第2項及び同法施行令第68条第1項第2号に掲げる要件を満たす場合には、当該株式について評価損を計上することができる。
(ロ) 本件株式は、上場有価証券以外の有価証券と認められることから(上記ロの(ヌ))、当該有価証券について評価損の損金算入が認められるためには、上記イの(イ)ないし(ハ)のとおり、1当該事業年度終了の日における当該有価証券の発行法人の1株当たりの純資産価額が当該有価証券を取得した時の当該発行法人の1株当たりの純資産価額に比しておおむね50%以上下回ること、2当該有価証券の当該事業年度終了の時における価額がその時の帳簿価額のおおむね50%相当額を下回り、かつ、近い将来その価額の回復が見込まれないこと及び3損金経理によりその帳簿価額を減額していることのすべての要件を満たすことが必要である。
(ハ) そこで、上記(ロ)の1の「当該事業年度終了の日における当該有価証券の発行法人の1株当たりの純資産価額が当該有価証券を取得した時の当該発行法人の1株当たりの純資産価額に比しておおむね50%以上下回ること」の要件についてみると、請求人がY社の株主となった、すなわち本件株式を取得したのは、平成18年○月○日であると認められ(上記ロの(ト))、この時のY社の本件株式1株当たりの帳簿価額に基づいた純資産価額は、○○○○円(優先株式優先時の優先株式1株当たりの純資産価額)であると認められる(上記ロの(リ))。また、請求人が、本件評価損が生じていると主張する平成19年8月期の事業年度終了の日(平成19年8月31日)におけるY社の本件株式1株当たりの帳簿価額に基づいた純資産価額は、○○○○円であると認められる(上記ロの(リ))。そうすると、Y社の平成19年8月期の事業年度終了の日の1株当たりの純資産価額が本件株式取得時の1株当たりの純資産価額に比しておおむね50%以上下回っている事実は認められない。
 なお、本件株式1株当たりの純資産価額を算定するに当たっては、Y社の有する資産及び負債を帳簿価額ではなく時価評価に直したところで算定するのが相当であることから、同社の保有する預託金債権については貸借対照表価額(会員から預託金額面金額の50%で取得した金額の総額)ではなく額面金額の総額で、また、預託金債権に係る貸倒引当金については税務上損金と認められる金額を負債に計上した上で判定すべきこととなるが、その場合であってもY社の資産状況の著しい悪化の事実は認められない。
(ニ) したがって、有価証券の評価損の計上に係る上記(ロ)の1の要件を満たしていないことは明らかであるから、他の要件(上記(ロ)の2及び3)を満たしているかどうかを判断するまでもなく、本件株式、すなわち本件株式正会員権について本件評価損を平成19年8月期の損金の額に算入することは認められない。

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(3) 本件各更正処分について

イ 上記(1)のハの(ロ)のCのとおり、本件保険料は、その支出時にその全額を損金の額に算入することはできないから、本件保険料のうち前払費用に該当する部分は、本件各事業年度の損金とはならず、また、前払費用に該当する部分については、その提供を受けた当該各事業年度の損金の額に算入するのが相当である。
 そして、本件保険料は5年間の保証期間に係るものであるから、本件保険料を保証期間の月数(60か月)で除した金額(以下、この金額を「1月当たりの金額」という。)に、本件各事業年度の翌事業年度以降に役務の提供を受ける月数を乗じた金額が前払費用として本件各事業年度において損金の額に算入されず、他方、当該前払費用については、1月当たりの金額に本件各事業年度において役務の提供を受けた月数を乗じた金額が損金の額に算入されることになる。そして、その算定の結果は、別表2の2欄の「1のうち前払費用となる金額」及び3欄の「損金認容額」のとおりであるところ、当該金額は原処分と同額となるから、原処分は相当であると認められる。
 また、上記(2)のホの(ニ)のとおり、本件株式正会員権について本件評価損を平成19年8月期の損金の額に算入することは認められない。
ロ 以上の結果、本件各事業年度の所得金額、納付すべき税額及び翌期へ繰り越す欠損金額は、本件各更正処分と同額となるから、本件各更正処分はいずれも適法である。

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(4) 本件各賦課決定処分について

 上記(3)のとおり、本件各更正処分はいずれも適法であり、また、同更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、同更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないことから、同条第1項及び2項の規定に基づいて行った本件各賦課決定処分はいずれも適法である。

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(5) その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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