(平22.6.9、裁決事例集No.79)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人D(以下「請求人D」という。)及び同E(以下「請求人E」といい、この2名を併せて「請求人ら」という。)が、相続により取得した建物の周囲にある植込み等(以下「緑化設備」という。)の一部を相続税の課税対象に含めずに、相続税の修正申告をしたところ、原処分庁が、緑化設備の全部が相続税の課税対象であるとして更正処分等をしたのに対し、請求人らが、緑化設備の一部は、不特定多数の者の通行の用に供されている私道と一体として機能しているから、零円と評価すべきであるとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人らは、平成17年10月○日に死亡したF(以下「本件被相続人」という。)の共同相続人であり、この相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税について、申告書に別表1の「申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
ロ 次いで、請求人らは、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき、平成21年4月14日、別表1の「修正申告」欄のとおり記載した修正申告書(以下「本件修正申告書」という。)を提出した。
ハ 原処分庁は、これに対し、平成21年5月29日付で、別表1の「賦課決定処分」欄のとおり、過少申告加算税の各賦課決定処分をした。
ニ さらに、原処分庁は、平成21年5月29日付で、請求人らに対し、別表1の「更正処分等」欄のとおりとする各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい、本件各更正処分と併せて「本件各更正処分等」という。)をした。
ホ 請求人らは、平成21年7月17日、本件各更正処分等を不服として異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年10月13日付でいずれも棄却の異議決定をした。
ヘ 請求人Dは平成21年11月6日に、請求人Eは同月12日に、異議決定を経た後の本件各更正処分等に不服があるとして審査請求をした。
 なお、請求人らは、平成21年11月18日、請求人Dを総代として選任し、その旨を届け出た。

(3) 基礎事実

イ 本件相続に係る相続人は、本件被相続人の養子である請求人D及び長女である請求人Eの2名である。
ロ 本件被相続人は、P市p町○−○所在の鉄筋コンクリート造りの3階建共同住宅(以下「本件建物」という。)を所有していた。
ハ 本件建物の敷地の東側及び南側は、不特定多数の者の通行の用に供されている私道(以下「本件私道」という。)に面しており、本件建物の敷地の周囲(別紙において「緑化設備A」、「緑化設備B」及び「緑化設備C」と表示した部分)には、花壇、植木及び照明灯などで構成された緑化設備(構築物)が設けられている(以下、順に「本件緑化設備A」、「本件緑化設備B」及び「本件緑化設備C」といい、本件緑化設備Aと本件緑化設備Bとを併せて「本件緑化設備AB」という。)。
ニ 請求人Eは、本件相続により、本件建物、その敷地、本件緑化設備AB及び本件緑化設備Cを取得した。
ホ 請求人らは、本件緑化設備ABの評価額は零円であり、本件緑化設備Cの評価額は○○○○円であるとして、本件修正申告書を提出したところ、原処分庁は、本件緑化設備ABの評価額は、財産評価基本通達(平成18年5月18日付課評2−7による改正前のものをいい、以下「評価基本通達」という。)97《評価の方式》により計算すると、○○○○円となるとして、本件各更正処分等をした。

トップに戻る

2 争点

 本件緑化設備ABの評価額は幾らか。

トップに戻る

3 主張

(1) 原処分庁

 本件緑化設備ABは、構築物として、評価基本通達97の定めを適用して評価すべきであり、その評価額は、別表2のとおり、○○○○円である。
 請求人らが主張するとおり、本件緑化設備ABが付近の美観に役立ち、設置している照明灯が安全と防犯の役割を果たしているとしても、それは不特定多数の者のためというよりは、賃貸物件である本件建物の居住者のためであり、評価基本通達の定めによらないことが正当と是認される特別の事情があるとは認められない。

(2) 請求人ら

 本件緑化設備ABは、不特定多数の者の通行の用に供されている本件私道に面して設置しており、本件建物の賃借人の住居への目隠しはもとより、本件私道を利用する者が花壇や緑の植栽で和むよう、また、付近の美観の役に立つよう配置し、安全と防犯のためにも役立つように照明灯を設置したものである。
 本件緑化設備ABは、いわば公共道路の植込み及び街路灯と同じ役割を担っており、本件私道と一体として機能しているから、その公共的な利用状況をもって零円と評価すべきである。

トップに戻る

4 判断

(1) 法令解釈等

イ 相続税法第22条《評価の原則》は、相続により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価による旨規定しているが、すべての財産の客観的交換価値は、必ずしも一義的に確定されるものではないから、課税実務上は、財産評価の一般的基準が評価基本通達によって定められ、原則として、これに定められた画一的な評価方法によって、当該財産の評価をすることとされている。
 当審判所も、かかる取扱いは、税負担の公平、効率的な租税行政の実現等の観点からみて合理的であると解する。
 もっとも、評価基本通達の定めを画一的に適用すると、明らかに当該財産の客観的交換価値と乖離することになるなど、評価基本通達により難い特別の事情がある場合には、他の合理的な評価方法によることが許されると解すべきである。
ロ そして、構築物の評価については、評価基本通達97において、その構築物の再建築価額から、取得の時期から課税時期までの期間に応ずる償却費の額の合計額又は減価の額を控除した金額の100分の70に相当する金額によって評価する旨定め、この場合の償却方法は定率法によるものとし、その耐用年数は減価償却資産の耐用年数等に関する省令に規定する耐用年数による旨定められている。

(2) 当てはめ

 これを本件についてみると、本件緑化設備ABは、構築物に該当すると認められるから、上記(1)のロの評価基本通達97の定めにより評価すべきである。
 これに対し、請求人らは、本件緑化設備ABは、公共道路の植込み及び街路灯と同じ役割を担っており、本件私道と一体として機能しているから、その公共的な利用状況をもって、その評価額は零円である旨主張する。
 しかし、当審判所の調査によれば、本件緑化設備Aは高さ30cm前後のリブ付コンクリートブロックにより本件私道とは区分されており、また、本件緑化設備Bは本件私道に面しておらず、いずれも本件建物の敷地内に設けられた構築物であって、本件私道そのものではないから、「私道が不特定多数の者の通行の用に供されているときは、その私道の価額は評価しない」との評価基本通達24《私道の用に供されている宅地の評価》の定めは適用されない。
 なお、このような私道の価額を評価しないのは、その私道の廃止又は変更が制限されるなど、一定の利用制限を余儀なくされることから、換価性が著しく低く経済的価額を評価するまでに至らないことによるものと解されるが、本件緑化設備ABは、経済的価額を評価するまでに至らないものとは認められないから、本件緑化設備ABの評価について、評価基本通達により難い特別の事情があるともいえない。
 したがって、本件緑化設備ABの評価額を零円とすべきであるとの請求人らの主張は採用できない。

(3) 本件各更正処分について

 本件緑化設備ABの評価額を評価基本通達97の定めにより計算すると○○○○円となり、これに基づき請求人らの本件相続に係る相続税の課税価格及び納付すべき税額を算出すると、それぞれ別表1の「更正処分等」欄の金額と同額となるから、本件各更正処分はいずれも適法である。

(4) 本件各賦課決定処分について

 本件各更正処分は、上記(3)のとおり適法であり、また、本件各更正処分により納付すべき税額の基礎となった事実が本件各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づき行われた本件各賦課決定処分はいずれも適法である。

(5) その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る

トップに戻る