(平22.4.22、裁決事例集No.79)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、土地の所有権移転登記を受けるに当たり、前年度の固定資産課税台帳に登録された価格に基づいて登録免許税を納付したが、当該土地に地目の変更があったため、当年度の固定資産課税台帳に登録された価格によるべきであるから、納付した登録免許税に過誤納があったとして還付通知の請求をしたところ、原処分庁が還付通知をすべき理由がない旨の通知処分を行ったのに対し、請求人が、同処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 登記申請
 請求人は、平成21年1月26日に、P市q町○番2の土地(以下「本件土地1」という。)及び同所同番3の土地(以下「本件土地2」といい、本件土地1と併せて「本件各土地」という。)について、原因を売買、登録免許税の課税標準の額を11,162,880円及び登録免許税の額を○○○○円と記載して、その税額に相当する金額の収入印紙をちょう付した登記申請書(以下、当該申請書による登記の申請を「本件申請」という。)を原処分庁に提出することにより当該登録免許税を納付し、所有権移転登記を受けた。
ロ 還付通知の請求及び還付通知をすべき理由がない旨の通知処分
 請求人は、平成21年5月8日付で、原処分庁に対し、登録免許税法第31条《過誤納金の還付等》第2項の規定に基づき、本件各土地の地目が宅地から雑種地に変更されたことを理由として、本件申請に係る登録免許税の課税標準の額(以下「本件課税標準額」という。)は9,339,732円、登録免許税の額は○○○○円が正当額であるとした還付通知請求書を提出したところ、原処分庁は、同月15日付で、還付通知をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
ハ 不服申立て
 請求人は、本件通知処分を不服として、平成21年7月13日に審査請求をした。

(3) 関係法令

イ 登録免許税法
(イ) 第10条《不動産等の価額》
第1項は、不動産の登記の場合における課税標準たる不動産の価額は、当該登記の時における不動産の価額による旨規定している。
(ロ) 第31条
A 第1項第3号は、登記等を受けた者が、過大に登録免許税を納付して登記等を受けたときは、登記機関はその登録免許税に係る納税地の所轄税務署長に対し、当該過大に納付した登録免許税の額を通知しなければならない旨規定している。
B 第2項は、登記等を受けた者は、当該登記等の申請書に記載した登録免許税の課税標準又は税額の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、登録免許税の過誤納があるときは、当該登記等を受けた日から1年を経過する日までに、その旨を登記機関に申し出て、第1項の通知をすべき旨の請求をすることができる旨規定している。
ロ 登録免許税法附則
 第7条《不動産登記に係る不動産価額の特例》は、不動産の登記の場合における登録免許税法第10条第1項の課税標準たる不動産の価額は、当分の間、当該登記の申請の日の属する年の前年12月31日現在又は当該申請の日の属する年の1月1日現在において地方税法第341条第9号(固定資産税に関する用語の意義)に掲げる固定資産課税台帳に登録された当該不動産の価格(以下「台帳価格」という。)を基礎として政令で定める価額によることができる旨規定している。
ハ 台帳価格を基礎とした不動産の価額
 登録免許税法施行令附則第3項は、上記ロの政令で定める価額を台帳価格のある不動産については、次の各号に掲げる当該不動産の登記の申請の日の属する日の区分に応じ、当該各号に掲げる金額に相当する価額とする旨規定している。
(イ) 第1号
 登記の申請の日がその年の1月1日から3月31日までの期間内であるものは、その年の前年12月31日現在における台帳価格に100分の100を乗じて計算した金額
(ロ) 第2号
 登記の申請の日がその年の4月1日から12月31日までの期間内であるものは、その年の1月1日現在における台帳価格に100分の100を乗じて計算した金額
ニ 台帳価格を不動産の価額とすることが適当でない特別の事情
 登録免許税法施行令附則第4項は、登記の目的となる不動産について増築、改築、損壊、地目の変換その他これらに類する特別の事情があるため、登記官が台帳価格から計算した金額に相当する価額を課税標準の額とすることを適当でないと認めるときは、当該台帳価格から計算した金額を基礎とし、当該事情を考慮して当該登記官が認定した価額を不動産の課税標準の額とする旨規定している。

(4) 基礎事実

イ 固定資産課税台帳記載事項証明書
 上記(2)のロの還付通知請求書に添付された、平成20年度及び平成21年度の本件各土地に係る各固定資産課税台帳記載事項証明書の記載内容は、次のとおりである。
(イ) 平成20年度
 登記地目は雑種地、現況地目は宅地であり、台帳価格は本件土地1が○○○○円、本件土地2が○○○○円と記載され、その合計額は11,162,880円である。
(ロ) 平成21年度
 登記地目及び現況地目はいずれも雑種地であり、台帳価格は本件土地1が○○○○円、本件土地2が○○○○円と記載され、その合計額は9,339,732円である。
ロ 売買契約書
 請求人が平成20年11月20日付で本件各土地の前所有者であるCと取り交わした売買契約書には、要旨次のとおり記載されている。
(イ) 売買価格
 売主(C)は、本件各土地を13,500,000円にて請求人に売り渡し、請求人はこれを買い受ける。
(ロ) 特約事項
 売主(C)の責任と費用負担において、本件各土地上に存する土木資材、プレハブ小屋2棟、広告看板及び無断駐車の車の撤去等を、残金決済日までに完了する。

トップに戻る

2 争点

 本件課税標準額を平成20年度の台帳価格によることが相当であるか否か。

トップに戻る

3 主張

請求人 原処分庁
 本件課税標準額とした平成20年度の台帳価格は、宅地として評価されており、本件各土地の登記の時における現況地目(雑種地)と異なる台帳価格であることから、このことは登録免許税法施行令附則第4項に規定する「特別の事情」に該当し、本件課税標準額は、登記の時における現況と一致する平成21年度の台帳価格によるべきである。  登録免許税法第10条第1項において、登録免許税の課税標準は、登記の時における不動産の価額によることとされ、登録免許税法附則第7条では、その価額は台帳価格によることができる旨規定されている。そして、本件課税標準額については、本件申請が平成21年1月26日であることから、登録免許税法施行令附則第3項第1号により、平成20年度の台帳価格によることとなる。
 なお、登録免許税法施行令附則第4項に規定する、台帳価格を課税標準の額とすることが適当でない「特別の事情」とは、固定資産課税台帳に不動産の価格が登録された後に、地目の変更等により表示の変更登記がされるなど、当該不動産の現況と固定資産課税台帳の表示が異なっていることが明白に認められる場合であり、本件各土地はこれに当たらない。

トップに戻る

4 判断

(1) 法令解釈

イ 登録免許税の課税標準
(イ) 登録免許税法第10条第1項の不動産の価額
登録免許税の課税標準については、登録免許税法第10条第1項で、当該登記の時における当該不動産の価額である旨規定され、当該登記の時における不動産の価額とは、当該登記の時における当該不動産の客観的交換価値、すなわち時価と解されている。
(ロ) 登録免許税法附則第7条の台帳価格
 上記(イ)の不動産の価額について、登録免許税法附則第7条は、前記1の(3)のロのとおり、課税標準たる不動産の価額を当分の間、台帳価格によることができると規定しているが、これは、登録免許税が、国税通則法第15条《納税義務の成立及びその納付すべき税額の確定》第3項第5号に規定される納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する自動確定方式による国税で、流通税的な性格を有し、このような性格を持つ登録免許税において、登記官が、課税標準たる不動産の登記の時における時価をその都度判断することは容易ではなく、登記の迅速処理という点から問題が生じるため、登記事務の迅速化等を考慮して規定したものと解される。
(ハ) 登録免許税法第10条(不動産の価額)と同法附則第7条(台帳価格)の関係
 上記(イ)及び(ロ)からすると、自動確定方式を採用し、簡易迅速な税額確定が求められる登録免許税法においては、台帳価格という課税基準を一律に適用することにより、課税の公平が担保されることから、登録免許税法第10条第1項の不動産の価額は、基本的に台帳価格によるべきであるが、台帳価格が、何らかの理由により、同項の不動産の価額(時価)を表していない場合、具体的には台帳価格が当該時価を上回っている場合には、登記申請人は他の方法により求めた不動産の価額(時価)を採用できると解するのが相当である。すなわち、台帳価格によることが妥当ではない特段の事情がない限り、台帳価格を登録免許税法第10条第1項の不動産の価額として適用すべきと解される。
ロ 登録免許税法施行令附則第4項の特別の事情
 登録免許税法施行令附則第4項に規定する「台帳価格を課税標準の額とすることが適当でない特別の事情」とは、登記の目的となる不動産に台帳価格が付された後に、当該不動産自体に、同項に列挙する事由その他これらに類する事情により質的又は量的な形状の変化が生じ、その結果、台帳価格が当該不動産の適正な時価を示しているということができず、これを登録免許税の課税標準たる不動産の価額とすることが適当でなくなった場合をいうものと解される。

(2) 認定事実

 当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 本件各土地の状況
 請求人の当審判所に対する答述によれば、本件各土地は、平成12年以降、土木建築業者の資材置場、駐車場及びユニットのプレハブ敷地であったが、本件各土地の売買契約締結後、前記1の(4)のロの(ロ)の特約事項により、引渡日である平成21年1月26日には売主がそれらを撤去し、更地にしていたと認められる。
ロ 台帳価格に関する審査の申出
 本件各土地の前所有者であるCから、本件各土地の平成20年度の台帳価格について、地方税法第432条《固定資産課税台帳に登録された価格に関する審査の申出》第1項に規定する審査の申出は行われていない。
ハ 台帳価格の見直し
 P市は、本件各土地の固定資産課税台帳の現況地目を、本件申請の日(平成21年1月26日)後の請求人の申出により、平成21年度から見直し、宅地から雑種地に変更した。

(3) 本件への法令の当てはめ

イ 本件課税標準額
 本件課税標準額は、登録免許税法施行令附則第3項第1号の規定により、本件申請の日(平成21年1月26日)の属する年の前年12月31日現在における台帳価格、すなわち平成20年度の台帳価格に100分の100を乗じた金額となるところ、本件各土地の台帳価格については、上記(2)のロのとおり、本件各土地の前所有者が平成20年度の台帳価格について地方税法第432条第1項の審査の申出を行った事実は認められず、また、同ハのとおり、平成20年度の固定資産課税台帳の現況地目が宅地であったものが、本件申請の日以後の請求人の申出により、平成21年度は雑種地となり、前記1の(4)のイのとおり、宅地の評価額から雑種地の評価額に修正されているが、この事実に基づいて、平成20年度の台帳価格がさかのぼって修正されるものではないことから、本件課税標準額は、前記1の(4)のイの(イ)の平成20年度の台帳価格の合計額11,162,880円に100分の100を乗じた金額となる。
ロ 登録免許税法施行令附則第4項の特別の事情の有無
 本件各土地について、上記(2)のイによれば、土木資材等の撤去等は行われているものの、平成20年度の固定資産税の賦課期日(平成20年1月1日)以前から本件申請の日まで本件各土地自体の状況に変化は認められず、本件各土地に台帳価格が付された後に、本件各土地に質的又は量的な形状の変化が生じたものとは認められないことから、本件課税標準額を台帳価格とすることが適当でなくなったとはいえず、上記(1)のロの特別の事情は認められない。
ハ 台帳価格によることが妥当ではない特段の事情の有無
 本件各土地の売買価格は、前記1の(4)のロの(イ)のとおり、13,500,000円であり、同イの(イ)の本件各土地の平成20年度の台帳価格11,162,880円を上回っていることからしても、客観的交換価値である時価が台帳価格を下回っているような事実は認められず、上記(1)のイの(ハ)の台帳価格によることが妥当ではない特段の事情は認められない。
ニ 請求人の主張の当否
 請求人は、前記3の請求人欄のとおり、平成20年度の台帳価格は、宅地として評価されており、登記の時における現況(雑種地)と異なる台帳価格であるから、このことは登録免許税法施行令附則第4項に規定する特別の事情に該当する旨主張する。
 しかしながら、本件各土地については、上記ロのとおり、平成20年度の台帳価格が付された後に、質的又は量的な形状の変化が生じて、本件課税標準額を台帳価格とすることが適当でなくなった事情はなく、平成21年度に固定資産課税台帳の現況地目が雑種地に変更されたとしても、これをもって登録免許税法施行令附則第4項の特別の事情があるということはできない。
 なお、仮に本件各土地の取得前の状況も雑種地で、平成20年度の固定資産課税台帳の現況地目を雑種地とするべきであったとしても、上記イのとおり、この事実に基づいて平成20年度の台帳価格がさかのぼって修正されるものではなく、また、上記ハのとおり、本件各土地の登記時の時価が平成20年度の台帳価格を下回っているような事実もないことから、台帳価格によることが妥当ではない特段の事情も認められない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。

(4) 本件通知処分の適法性

 以上のとおり、請求人の主張には理由がなく、また、本件申請に係る本件課税標準額は平成20年度の台帳価格により適法に計算され、登録免許税額の計算についても誤りは認められず、過誤納の事実はないから、還付通知をすべき理由がないとしてされた本件通知処分は適法である。

(5) その他

 原処分のその他の部分については、当審判所の調査によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る