(平22.5.17、裁決事例集No.79)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、不動産の賃貸及び管理業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が行った消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の確定申告について、原処分庁が、消費税法第30条第2項第1号に規定する方法(以下「個別対応方式」という。)による仕入れに係る消費税額の計算において、課税仕入れの用途区分に誤りがあるとして更正処分等を行ったことに対し、請求人が、同項第2号に規定する方法(以下「一括比例配分方式」という。)を選択し直して消費税額を計算することが認められるべきであり、これによらず個別対応方式によって行った同更正処分等は違法であるとして、その一部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成19年7月1日から平成20年6月30日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税等について、別表の「確定申告」欄のとおり記載した確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)を法定申告期限までに提出した。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成21年1月27日付で別表の「更正処分等」欄のとおり、更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、本件更正処分と併せて「本件更正処分等」という。)をした。
ハ 請求人は、平成21年3月27日にこれらの処分を不服として異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年6月25日付で異議申立てをいずれも棄却する異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成21年7月24日に審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨

 関係法令の要旨は別紙1のとおりである。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、不動産の売買、賃貸及び管理等を目的として、昭和61年1月○日に設立された法人である。
ロ 請求人は、平成19年7月30日に居住用賃貸に供することを目的とし、別紙2の物件目録記載の建物(以下、この建物を「本件建物」という。)を、A社から118,497,654円で取得した。
ハ 請求人は、本件確定申告書における仕入れに係る消費税額の計算において、居住用賃貸に供することを目的として購入した本件建物の課税仕入れの用途区分を、課税資産の譲渡等以外の資産の譲渡等にのみ要するものに区分すべきところ、誤って課税資産の譲渡等にのみ要するものと区分した。
ニ 請求人の本件課税期間に係る課税標準額は○○○○円で、同課税標準額に対する消費税額は○○○○円である。
ホ 請求人は、本件確定申告書に、本件課税期間の課税売上割合は○○%、仕入れに係る消費税額の計算方法として個別対応方式を選択する、課税仕入れ等の消費税額の合計額のうち課税資産の譲渡等にのみ要するものの金額が○○○○円、課税売上げと非課税売上げに共通して要するものの金額が842,798円、個別対応方式により控除する課税仕入れ等の消費税額が○○○○円であると記載して申告した。
ヘ 原処分庁は、請求人の仕入れに係る消費税額の計算において、本件建物に係る消費税相当額4,514,196円を、課税仕入れ等の消費税額の合計額のうち課税資産の譲渡等にのみ要するものの金額○○○○円から差し引いた上で、本件確定申告書において請求人が選択した個別対応方式により、控除する課税仕入れ等の消費税額○○○○円を算出し、本件更正処分等を行った。

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2 争点

 本件の争点は、仕入れに係る消費税額の計算方法につき個別対応方式を選択した事業者が、課税仕入れの用途区分が誤っているとして同方式により控除対象仕入税額を再計算して行われた更正処分につき、錯誤を理由として一括比例配分方式に選択を変更して控除対象仕入税額の再計算を行うべきとして、その違法性を主張できるかどうかである。

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3 主張

 争点に係る当事者の主張は、次のとおりである。

(1) 請求人

イ 本件更正処分等の適法性については、法に規定がない限り、更正のみを切り離して判断すべきではなく、確定申告、修正申告、更正の請求、更正及び決定という制度相互の関係等、法が定める制度全体から総合的に判断すべきである。課税標準等又は税額等の計算に関する課税上の選択権を行使する過程において誤りがあった場合については、明確な救済方法が法に規定されていないことから、先例によって判断すべきであり、課税上の選択権の行使に関する各先例も、申告手続における制度全体を考慮し、総合的に判断していると解される。
 この点、最高裁平成2年6月5日第3小法廷判決(以下「平成2年最高裁判決」という。)は、課税標準等又は税額等の計算に関する課税上の選択権を行使する過程で計算に誤りがあった場合は、改めて選択をし直して課税標準等又は税額等を計算することを認めているものと解釈できることから、一括比例配分方式によらず個別対応方式によって行った本件更正処分等は違法である。
ロ 請求人は、納付税額が少なくなる方法を選択するという内心の意思を実行する過程において、単純な計算誤りにより仕入れに係る消費税額の計算方法の選択を誤ったもので、法令の誤解により同計算方法の選択を誤ったものではない。これは、平成2年最高裁判決の判示事項と矛盾するものではなく、錯誤に当たることから一括比例配分方式による消費税額の計算が認められるべきである。

(2) 原処分庁

イ 申告納税制度の下では、個別対応方式と一括比例配分方式の選択は、確定申告時に限って認められると解すべきであるから、請求人が本件確定申告書において選択した個別対応方式に従って行った本件更正処分等は適法である。
ロ また、請求人は、課税標準等又は税額等の計算を誤ったのではなく、仕入れに係る消費税額の計算の前提となる法令解釈を誤った結果、個別対応方式を選択したもので、これは、平成2年最高裁判決が認めた錯誤には当たらない。

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4 判断

(1) 本件更正処分について

イ 法定の手続によらない意思表示の過誤の是正が認められるかについて
 請求人は、課税上の選択権を行使する過程において誤りがあった場合には、法が定める救済方法以外にも先例による救済が認められるべきであり、本件で、請求人が錯誤に基づいてした個別対応方式の選択の是正が認められるべきであるにもかかわらず、原処分庁が当初の請求人の選択のまま個別対応方式により本件更正処分を行ったことは違法である旨主張するので、以下この点について、判断する。
 この点、消費税法は、消費税の納付について国税通則法(以下「通則法」という。)第16条に規定する申告納税方式を採用しているが(消費税法第45条)、申告納税方式においては、納税者が確定申告書を提出した後において、申告書に記載した納付すべき税額に不足がある場合等には、確定申告書に記載した課税標準等又は税額等を修正する旨の申告書を提出することができ(通則法第19条第1項)、逆に、確定申告書に記載した課税標準等又は税額等に計算誤り等があったことにより納付すべき税額が過大である場合等には、法定申告期限から1年以内に限って確定申告書に記載した内容の更正の請求をすることができるとされている(通則法第23条第1項)。
 このように、通則法が、申告納税方式による国税の確定申告書に記載された課税標準等又は税額等の過誤是正につき特別の規定を設けているのは、課税標準等又は税額等の決定について、最もその事情に通じていると思われる納税者の自主的申告に基づくものとし、その過誤の是正は法律が特に認めた場合に限るとすることが、租税債務をできるだけ速やかに確定し、その効力が争われることによる不安定さを避けようとする国家財政上の要請に応じようとしたためであると考えられる。
 したがって、納税者は、その自主的判断によって提出した申告納税方式による国税の確定申告書に記載した課税標準等又は税額等の是正については、まず、修正申告又は更正の請求の手続を通じて行うべきことが予定されているというべきである。そして、納税者が確定申告、修正申告又は更正の請求で選択した方式によりその後の更正処分に係る課税標準額等又は税額等が計算されたのであれば、納税者はその計算方式が変更されるべきであるということを理由として処分の違法性を主張することはできないというべきである。
ロ 認定事実
 請求人から提出された証拠資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、以下の事実が認められる。
(イ) 請求人の関与税理士であるB税理士が、本件確定申告書を作成するに当たり、会計データを基に本件課税期間の納付すべき消費税等の額を計算したところ、個別対応方式を選択した場合には○○○○円の消費税等の額の還付となる旨、一括比例配分方式を選択した場合には645,600円の消費税等の額の納付となる旨示されたため、請求人代表者及びB税理士は、個別対応方式を選択する方が納付すべき消費税等の額を少なくでき有利だと判断し、個別対応方式を選択して納付すべき消費税等の額の算出を行い、本件確定申告書を原処分庁に提出した。
(ロ) 請求人は、平成20年10月9日、請求人の事務所において原処分庁所属の調査担当職員(以下「原処分庁調査担当者」という。)の調査を受け、本件確定申告書の仕入れに係る消費税額の計算について、本件建物の課税仕入れの用途区分が誤っている旨を指摘されるとともに、同用途区分を課税資産の譲渡等以外の資産の譲渡等にのみ要するものに区分し直した上で修正申告書を提出するようしょうようされた。
(ハ) 原処分庁調査担当者の指摘を受け、B税理士が、本件建物の課税仕入れの用途区分を課税資産の譲渡等以外の資産の譲渡等にのみ要するものに区分し直した上で、本件課税期間に係る請求人の納付すべき消費税等の額を再計算したところ、一括比例配分方式を選択した場合には645,600円、個別対応方式を選択した場合には○○○○円となり、一括比例配分方式を選択する方が税額面で有利であることが判明した。そこで、B税理士は、平成20年10月23日に原処分庁調査担当者に対して、平成2年最高裁判決の存在を示唆し、仕入れに係る消費税額の計算方法について、当初の個別対応方式から一括比例配分方式に選択し直した上で消費税額を計算し、修正申告書を提出したい旨申述した。
(ニ) その後、平成20年12月18日、原処分庁調査担当者がB税理士事務所に臨場し、本件確定申告書において個別対応方式が選択されているから、修正申告も個別対応方式により行うようしょうようしたところ、請求人代表者及びB税理士は、個別対応方式による修正申告は行わない旨申述し、修正申告書を提出しなかった。
ハ 以上の事実関係を前提として検討すると、次のとおりである。
 上記ロの各認定事実の経緯からすると、請求人が仕入れに係る消費税額の計算で個別対応方式を選択する過程において過誤又は勘違いがあったという事情は認められるものの、仮に当該事情が錯誤に当たるとしても、上記イのとおり、納税者が自主的判断によって提出した申告納税方式による消費税の確定申告書に記載した課税標準額等又は税額等の是正については、まず、修正申告又は更正の請求の手続を通じて行うべきことが予定されているところ、請求人は、当該事由に基づいて一括比例配分方式に選択を変更して控除対象仕入税額を計算したところで修正申告も更正の請求も行っていない。
 そうすると、原処分庁が本件確定申告書において請求人が選択した個別対応方式によって控除対象仕入税額を再計算した本件更正処分を違法とする理由はない。
ニ 請求人の主張について
 請求人は、平成2年最高裁判決によれば、錯誤により仕入れに係る消費税額の計算方法の選択を誤った場合には、その選択の方法を変更することが認められるべきであるから、変更を認めずに行った本件更正処分等は違法である旨主張する。
 しかしながら、請求人が援用する平成2年最高裁判決は、歯科医師の所得税の確定申告における事業所得金額につき、確定申告書に添付された書類上も明らかな計算違いに基づき、概算経費の方が実額経費よりも有利であると判断して概算経費を選択して行った確定申告につき、自らの修正申告によりその意思表示を変更したことを認めた事案であって、本件とは事案を異にする。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
ホ 以上のとおり、原処分庁が個別対応方式により仕入れに係る消費税額を計算して本件更正処分を行った点に違法性は認められない。

(2) 本件賦課決定処分について

 本件更正処分は、上記(1)のとおり適法であり、これにより納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、本件更正処分前の税額の計算の基礎とされなかったことについて、通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項並びに地方税法附則第9条の9《譲渡割に係る延滞税等の計算の特例》第1項の規定に基づいてなされた本件賦課決定処分は適法である。

(3) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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